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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


東京怪奇紀行:始発列車から見える霊

◆あるネットでの書き込み
題名:霊が見たい人〜 発言者:レイ
 僕の名前はレイ。霊が見えるからレイ。ちょっと安直だね(笑)
普通霊感がないと霊は見えないよね。これがこっちの世界の常識。でもさ、普段見たことがない人ほど実は見たいんだよね、霊をさ。怖いもの見たさ、だよね。だから、僕からとっておきのお薦めを教えるよ。ここなら必ず誰にでも霊が見える。
 新宿始発の電車に乗るんだ。何線かは内緒。1番前の車両に乗るんだよ。そして5分後ぐらいに真っ正面の窓を見てみると‥‥わかるよ。運転手さんが見てる、あのおっきな窓から見るんだ。これ、絶対!
 朝、早起きできないなら前の日から遊んでるといいよ。新宿は真夜中だって人を退屈させない街だからね。

◆挑戦してみましょう
 この日、早起きした四方神・結(しもがみ・ゆい)は始発電車を待って新宿駅にいた。自宅からここまでタクシーを使ったので思わぬ出費となってしまっている。今月は生活費を切りつめなくてはならない。頑張れば単身赴任している父に助けを求めなくてもやって行けそうだ。
「でも‥‥これがハズレだったら困るなぁ‥‥」
 都営大江戸線の閑散としたホームで溜め息の様に呟いた言葉は、白い息と共に朝の空気に溶ける。静寂を破ってアナウンスが流れた。そろそろ時間であった。

 いつも渋滞ばかりしている新宿通りも、さすがにこの時間は稀に走っている車を見る程度だ。点滅する東口の信号が照らす道路にいかにも高級車っぽい外観の外国車が停車した。助手席から降りてきたのは、これも豪華な美女だった。身につけている物も勿論高価そうであったが、それだけではない。中身‥‥というか、内面からにじみ出る『覇気』の様な物が彼女を強く美しく装わせている。
「ほんとにいいの? こんなところで」
 スモークガラスが電動で下がり、運転席の若い男が心配そうに美女を見上げる。
「いいのよ。ここに用があるんだから。ありがとう」
 外国映画の様に運転席の男の頬に軽いキスをすると、美女は駅へと向かう階段へと歩き出す。その業界では彼女の源氏名を知らぬ者はいないとも言われる美姫、葛生・摩耶(くずう・まや)であった。

 まだ薄明かりにたゆたう新宿。それをセレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)はホテルの窓から愛おしそうに見つめていた。もうそろそろ部屋をでなくてはならない。あと数分もしないうちに部下が迎えにくるだろう。テーブルの上には片づけられた地図が数冊積んである。実際に始発電車に乗らなくても、詳細な地図があればあの書き込みにあった場所は特定出来る。そして、それが本当の事なら行けばセレスティには霊がいるかどうか、どうしてそこにいるのかわかる。その程度の『力』は持っていると自負していた。
「ただ、電車に乗っている人が必ず見る‥‥と言う事は強い念を持ってそこにいる霊だと予想されます。やはり事故に遭って亡くなった方なのでしょうか」
 死してなお苦しみ続ける霊を不憫だと思う。自分が行く事で何か出来るのなら、こうして眠らずに夜明けを迎えてしまうのも意味があることかもしれない。
「どうぞ」
 控えめなノックに低い声で答える。時間であった。

◆更に挑戦してみましょう
 小田急線のホームで2人はばったり出会った。
「摩耶さん」
「‥‥あら、結ちゃん。奇遇ねこんな場所で」
 摩耶は暖かそうな素材の服で完全防備している結を楽しそうに見る。おまけに帽子と伊達メガネまでしているではないか。摩耶はといえば、この寒い朝の気温にも負けず薄手のコートの中は露出の高い装いだ。
「もしかして、結いちゃんもあの書き込み見ちゃったの?」
「え? もしかして摩耶さんも?」
 2人は顔を見合わせて笑いあう。夜の世界に生きる美姫と、昼間の世界に生きる高校生。接点がなさそうに見える2人だが、結は摩耶の『生きる力』に強い憧れを抱き、摩耶は結の『一途な思い』を大切に思っていた。
「じゃ、一緒に乗りましょう。一番前の車両」
「おっけぇ」
 長いプラットホームを改札口から最も奥となる先頭車両に向かって2人は歩き出した。

 西新宿の住宅街をセレスティは車で移動していた。重そうな灰色の雲が朝の空一面を覆っている。すぐに雨が降りだすだろう事はセレスティにはわかっていた。空気に混じる水達が教えてくれる。
「そこを左に‥‥」
「はい」
 セレスティの指示通りに車は進む。なんとなく何かの気配を感じていた。これが例の霊かもしれない。狭い道を進むにつれてセレスティが感じる気配はどんどん強まっていく。これが書き込みにあったものではなかったしても、無駄足にはならないだろう。どうやらコレは放置しておいてはいけない類のモノの様だった。
「ちょっと急いでください」
 セレスティはハンドルを握る部下に静かに言った。

◆怒りと悲しみ
 電車は始発の割には結構混んでいた。座席もほぼ埋まっている。
「あ、私達急行に乗っちゃったけど、それでよかったのかしら?」
 結がふと気が付いてそう言った。
「いいんじゃない? もし駄目なら明日は各駅停車に乗ってみれば良い事でしょ」
「そっか。そうですね」
 同じ線路を走っているのだからたいしたことではない。せいぜい時間と距離が多少ずれるだけの事だろう。摩耶は結を促してガラス越しに見える運転席の窓を見た。小さな子供のようで少し気恥ずかしい。今日は結が一緒にいてくれてよかったと思う。線路は緩やかなカーブを描き、それに従って列車もしなうように走っていく。普段見る車窓からの風景とは違う景色は目新しく楽しい。
「そろそろかしら?」
 それだけでサラリーマンのボーナスが吹っ飛びそうな腕時計をちらっと見て、摩耶は時間を確認する。
「‥‥下がってください、摩耶さん」
「え?」
 厳しく硬い結の声に摩耶は顔をあげる。じっと前を見据えた結の表情は真剣そのものだった。
「下がって。早く!」
 気配があった。それも強い感情を伴う気配だ。激しい怒り、深い悲しみ。それが真っ正面から迫ってくる。乗客達のほとんどは座席に座って眠っていた。こちらを注視している者はいない。
「う‥‥」
 目に見えない圧力が摩耶を1歩退かせる。その瞬間、雲の様な霧の様なモノが運転席の車窓を飛び越して車内に入り込んできた。それをはっきりと摩耶は見た。これが霊というものなのだろうか。けれど考える前にその白い霧は形を変える。
「結いちゃん!」
 霧は結を取り巻きすっとその身体の中に吸い込まれていくのだ。がっくりと結は膝をついた。
「いいの。だ、大丈夫。これでこのまま次で降ります」
 顔をあげた結の表情は苦しそうだった。傍目には列車に乗っていて気分を悪くしたとしか見えないだろう。霊が入り込んだのか結が取り込んだのか、摩耶にはわからない。けれど結が決めて行った事なら摩耶にはもう手出しできない。
「わかった。代々木上原まであとちょっとだから」
 摩耶の言葉に結は無言でうなづいた。その身体をギュッと摩耶は抱きしめた。戦っているのは結だ。けれど決して1人ではない。そう伝えたかった。

 電車を降りるとホームにはセレスティが待っていた。
「霊は身体の中ですね」
「‥‥はい」
 セレスティは簡素なベンチに結とともに座る。その両手を握り静かに目を閉じた。水の匂いがした‥‥と摩耶は思った。水道水ではない。雨の匂い、微かな海の香り、そんなイメージを沸き立たせる匂いだ。苦しそうだった結は少しずつ表情がやわらいでいた。閉じていた目がゆっくりと開かれる。
「水があの人を癒しているの。あの人の血と涙を洗い流している‥‥」
「そして、あなたの優しさが霊の悲しみを包んでいる。だから私の力を受け入れてくれているのです」
 セレスティの優しい低い声がさざ波の様に辺りに広がる。これが『力』なのだと摩耶は思う。見えなくても聞こえなくても、そこに優しく強い『力』があることはわかる。感じる事が出来る。
「あ‥‥今消えたね」
 摩耶にもその喪失感はわかった。無言で結がうなづく。更に悪しきモノになりかけていた霊は浄化され消えていった。
「もう霊を見る人はいなくなってしまうでしょうね」
 セレスティはゆっくり立ち上がるとそう言った。

 そして、霊が見える始発列車の噂はいつしか消えてしまった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 職業】
【3941/四方神・結(しもがみ・ゆい)/女性/高校生退魔師】
【1883/セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/水の先読み】
【1979/葛生・摩耶(くずう・まや)/女性/都会の冒険家】
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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。東京怪談ゴーストネットのノベルをお届けいたします。ちょっと危ない目にも遭ってしまいましたが、書きながら『まぁ大事には至らないだろうなぁ』なんて考えておりました。皆さん心がお強くていらっしゃるので安心です。またまた東京を舞台に紀行(ツアー)を企画させて頂きます。機会がありましたら、またご一緒させて頂けると嬉しいです。

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