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<東京怪談・PCゲームノベル>


シークレットオーダー 2


 ぼんやりと景色を眺め、見る景色は何時もと変わらぬ見慣れた屋上からの物。
 壁にもたれながら夜の冷えた空気を吸っていても、全くと言っていい程に頭がスッキリしない。
 あれから数日。
 悠に、5日は経っていた。
 あの部屋から啓斗が抜け出し、家に帰ってから。
 結果は……。
 何も聞き出せないままの時よりも、ずっと考えなければならない事が増えてしまったのである。
 どうして目の前で泣いてしまったのか?
 どうしてああまで油断してしまったのか?
 どうして……。
 よりによって、あの男……夜倉木有悟の目の前で。
「……くそっ!」
 思い切り壁を殴りつければ当然感じるのはジンと感じる手の痺れ。
 拳と壁がぶつかる低い音。
 痛みを感じるよりも、思考の全てはいま考えている事へと持っていかれてしまう。
 こんな事では行けないと首を振り、考える。
 この数日間ずっと考えていた事なのだから、今すぐ答えは出ないとしても……考えるのをやめるなんて事は出来なかった。
 他に聞くなんて事、出来るはずがない。
 自分の問題なのだから。
 もし誰かに話すと考えたとしても、何があったのかを相談しなければならないと思った時点で選択肢からは外れてしまう。
 あんな事、誰かに言える訳無いのだから。
「………なんでっ!」
 何度も繰り返した言葉。
 だからこそ答えが返ってこないのはよく知っている。
 誰に問う訳でもない疑問。
 言える訳がない問い掛け。
 これではいつまで立っても堂々巡りだ。
「………」
 どうすればいい。
 その答えはもう……出ている。
 正しいかなんて関係ない。
 答えは、すてに出ているのだ。
 聞けばいい。
 もう一度……悩む理由を作り出したあの相手に。
 『何故』こんな事をしたのかと。
 解ってはいるのだが……どうしても行く気にならないのだ。
 アトラス編集部も同じく。
 きっと居るだろうと……行けばいいとは解っているのに、どうしても足がすくむ。
 言葉にらならい何かが、ずっと頭の中で渦巻いているのだ。
 答えの出せない不安も、こんな事じゃ駄目だと思うたびに重くなってくる気がする。
 考えない方が良いのだろうか?
 なかった事にして、忘れてしまえば……。
「……駄目だっ!」
 実行してしまえば、逃げる事になってしまう。
 こんな考えをしてしまう自分に苛立った啓斗は、もたれ掛かっていた壁から大きく一歩を踏み出す。
 後でいまの自分を振り返った時に『ああしてれば良かった』なんて後悔するのだけは絶対に御免だ。
「……よしっ!」
 今度こそ、絶対に逃げたりしない。
 誰にもなにも言わないまま、啓斗は屋上を後にした。


 そしてアトラス編集部。
 大分明かりの落ち居てる編集部を見てもう仕事は終わってしまったのかと一瞬焦ったが、まだ辛うじて明かりは点いている。
 なら誰かまだ残っていると言う事だ。
 もしここに夜倉木がいなくても残っている人に話を聞けばいい。
 連絡先ぐらいは知っているだろう。
 携帯番号でもメールでもなんでもいい。
「………」
 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回すと……鍵は開いていた。
 意を決し、思い切り扉を開く。
「夜倉木!」
 明かりの点いている場所に向け、もう一度声を張り上げ……。
「夜倉木は!?」
「……なんで」
 声をかけた啓斗も、振り向きかけ相手も、双方の動きがぴたりと止まる。
 少し奥に行った通路に並んでいる席の一つ、そこに座っていたのは間違えようもなく夜倉木だった。
「………」
「………」
 まさか、本当に残ってるのが夜倉木なんて。
 ほんの少し驚きはした物の……直ぐにやるべき事を思い出す。
「……どうして」
「どうしてだって!? それは、俺の台詞だ!」
 驚く夜倉木に駆け寄って腕を掴み、廊下へと引っ張り出してまくし立てるように問いただす。
「何故ここに……?」
「そんな事っ、決まってる! そうじゃなく、聞きたいのは俺だ」
「決まってるって……?」
「……何であんたが残ってたんだよ。って、だから……」
 これも気になった事ではあったが違うのだ、聞きたいのはこんな事じゃない。
「まだ仕事が残ってますから……」
「俺だって、俺だってあの時の事……話に来たんだ」
「………」
「話せよ、夜倉木!」
 今度は負けたりする物か。
 そんな意志を込めて真っ直ぐに睨み付けるのに、突然落ちる沈黙。
「………」
「………っ!」
 ……ここに来る前に感じた言葉にならない不安が思考を占め、声すら震えそうに感じながらも沈黙をうち消すように言葉を紡ぐ。
「何で、あんな事したんだよ………」
 やり場のない感情から、強く……手が痺れる程に拳を握りしめる。
 全く返ってこない言葉とそらされた視線に、どうしても啓斗の思考は悪い方へと向かってしまう。
「………」
 あの時の事が全部嘘だとしたら。
 ただの嫌がらせで、何の意味もなくて……それどころか、嫌っているからした事かもしれない。
 あの言葉も、行動も、言葉も……何もかも全部。
「―――っ!」
 考えただけで胃の中を何か冷たい物が落ちていくようだった。
「……俺が嫌いなら、はっきりそう言えばいいだろ?」
「そうじゃない、違います」
「だったら……っ!」
 ようやく返ってきた言葉に啓斗が問いつめる物の、返ってきたのはやはり沈黙だった。
「………」
「……―――っ!」
 このままじゃ埒が明かない。
「前だって……いまだって、結局はぐらかすつもりなんだろ? だったら!!」
 胸ぐらに掴みかかり、思い切り睨み付ける。
「だったら俺は……あんたが答えるまで何度だって来てやる!」
「…………!」
「覚悟してろよ、俺はっ、ずっと付きまとってやるんだからな!!!」
 言い放ち……息を付く。
 あの時の事は、ちゃんと覚えているのだ。
 『………願いは?』と問われた啓斗が言った事に、夜倉木はしっかりと頷いたのだから。
 そう『契約』したのだから 
「………」
 言葉を待つために一瞬沈黙し、啓斗が見たのは……今まで見た表情とはどれも違う、驚いたような表情。
「ずっと……ですか?」
「……っ!」
 ずるい、と思った。
 こんな時に……そんな顔をするなんて。
 ぐっと言葉に詰まりそうになるのをなんとか堪え、かわりに手を離す。
「ちゃんと、言ったからな」
「……聞こえましたよ、はっきりと」
「………」
 信じられないような物を見た気がして、目を疑った。
 暗いから見間違えたのだろうか?
 ほんの少しだけ、笑ったような気がしただなんて。
「……啓斗」
「………え?」
 歩き出した夜倉木に、慌てて啓斗も歩き出す。
「どっ、どこに!?」
「今日はもう帰るんです、それから……家に帰って残った書類を……そうだ、この間そのままにしてあった書類の埋め合わせはして貰いましょうか」
「なっ!?」
 確かに、あの書類は片づける事は出来なかったが……それ所ではなかったのだ。
「どうします?」
 なんて答えるかなんて……相手にとって解っていたとしても、答えは一つしかないのだ。
「……行く!」
「なら、先に車に行ってて下さい」
「………ん」
 キーを渡そうと下手が不意に止まる。
「……? 夜倉木?」
「手……どうかしたんですか?」
「ああ……」
 ここに来る前に壁を殴った時に出来た傷だ。
「手当てを……」
「あ、後でいいっ!」
 鍵を奪い取り、廊下を走って階段を下りる。
「そうですか、なら後で」
「……ん」
 何か腑に落ちない物を感じつつも啓斗は車へと向かった。


 戸締まりをしながら、夜倉木は堪えていた笑いがフツフツとこみ上げてくる。
 もう二度と自分に会いに来るとは思っていなかったのだ。
 あんな事を言われるとは、もっと思わなかったから……。
 予想外の行動に……本当に驚いたのだ。
「これから、どうするか?」
 それを考えるのすら面白そうだ。
 この数日間考えていた事は、今だけは置いておこう。
 鍵をかけ、靴音は暗い廊下へと消えていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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依頼ありがとうございました。
タイトルが2だったり、
何をオーダーしたのかはまだ謎のままです。
だからタイトルがシークレットだと言うことで。

楽しんでいただけたら幸いです。