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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜分岐点〜


 塾に行く途中のバスに揺られながら、イヤホンから聞こえるのは流行の音楽。
 これもそろそろ聞き飽きた。
 新しい曲も出ているから買いに行きたいけど、そしたらお小遣いが心配になってくる。
「うーん……どうしよっかな」
 塾や習い事何かより、少ない小遣いの中からどうするかの方がずっと重要だ。
 彼女、安藤・未央(あんどう・みお)はそんなどこにでもいるような悩みを持った今時の13歳の子の一人だった。
 前借りでも頼もうかと思ったけど直ぐにやめる。
「ムリに決まってるしね」
 いまは二人とも生まれたばかりの妹にかかりきりでそれどころじゃないのだ。
 いつもミルクとかおむつとかそう言うので大変だと言っているし、この間病院代が大変だともこっそりと聞いてもいる。
 隠しているみたいだけどそう言うのは解る物なのだ。
「……いいんだけどね」
 別に構って貰いたいとか寂しいとか言う歳でもない。
 逆にベッタリなんてされてたらうっとうしいに決まってる。
 塾だって……。
「あっ」
 着信メロディに車内の視線が集まり、未央は慌てて通話ボタンを押す。
「は、はーい」
『あ、未央〜? これから遊びに行かない? カラオケで盛り上がってて〜』
 電話越しに聞こえる派手な音楽と楽しそうな笑い声に、未央も行きたくてうずうずしてくる。
 きっと塾何かより楽しいのは確実だ。
 この日ぐらいはいいだろう。
「うん、未央も行くっ」
『じゃあ今から〜』
 待ち合わせ場所を決め、未央は次のバス停を待ってバスを降りた。


 悪友達と散々遊んでから、家に帰るころにはすっかり日付を越えていた。
「あー、楽しかった」
 ちょっとぐらい怒られるかも知れないと思ったが、明日早いとか言って寝てしまえばいい。
 こっそり部屋に戻れば、妹にかかりきりで気付かないなんて事も、あり得るかもしれない。
 まあ塾をさぼったのがばれれば、流石に注意はされるだろうけれど……どうせ忙しいのだし、勉強がどうのとかを持ち出せば強くは出られないだろう。
 携帯をに手を伸ばし、ほんの一瞬迷う。
 何時も塾から帰る時間はとっくに過ぎてしまっているのだから、小言のメールが入っているのは確実だと思ったのだ。
「うーん……ま、仕方ないよね」
 それでもメールチェックぐらいはしておきたいと携帯を取りだす。
「うあ、やっぱり……」
 何件か着ているメールは家からの物ばかり。
「見なきゃよかった……」
 溜息を付いてから履歴がある時刻からパタリと途絶えているのに気付いた。
 一定の間隔でかけられていた電話がある時刻からパタリと途絶えている。
「………?」
 途中で寝てしまったのだろうか?
 何か気になりはしたが、直ぐにまあいいかと思い直し友人達へのメールを返そうとした時だった。
「……っ!」
 画面に映る影。
 慌てて振り返った未央は、見た事もない真っ黒な服を着た男と目が合う。
「やっ、誰っ!?」
 もってた鞄で男の手を払いのけて走り出す。
「ま、まてっ!」
 もちろん、待つ訳無い。
 未央はその場から全速力で逃げ出した。
 家も近くなり、ようやく走るペースを落とす。
「……危なかったぁ」
 もし、携帯を見ていなかったら……。
「でも、なんだったんだろ?」
 きっと変質者か何かだ。
 人攫いだったりしたら……考えかけた事を慌ててなかった事にする。
 考える必要なんて無い、どうせ未央には関係ない事なのだから。


 家の明かりは消えていた。
「やった、もう寝ちゃったみたい」
 それでもそっと物音を立てないように塀を乗り越え、トンと身軽に屋根へと飛び移る。
「……っと」
 不安定な足場をそろそろと伝って自分の部屋の窓へと手をかけた。
 子うんな事もあろうかと思って、窓はあらかじめ開けて置いたのである。
 音を立てないように窓を開いて枠に腰掛けて靴を脱ぎ、ようやく絨毯の柔らかい感触を踏んでホッとする。
「あー、疲れたっ」
 鞄を放って大きくのびをしてか、未央は部屋の電気を付け………ぞっとした。
「………え?」
 絨毯も、箪笥も、クローゼットも何もかも……メチャクチャに踏み荒らされている。
「なっ、なに……!?」
 親が帰ってこなくて怒った? そんな訳はない、混乱しそうになる頭で必死に考え、ドキドキとっぱなしの心臓を抑えもう一度部屋を見渡す。
 もし怒ったのなら……もっと別の方法をとるはずだ。
 それにこの部屋の絨毯には、誰かが土足で踏み荒らした様な後が残っていて……。
「…………っ!」
 開け放されたドア。
 足跡は他の部屋へと続いているようだった。
「………なに?」
 ドキドキと早くなる心臓。
 真っ暗な廊下を歩き、階段を下りる。
 寝ている?
 部屋があんな風になってたのに?
 そんな事、あるはず無い……絶対におかしい。
「おかあさ………っ!」
 出たのは掠れたような声。
 そっと震える手で三人の部屋のドアを開くと、鼻を突く嫌な臭いが一杯に広がっている。
 生臭くて吐きそうだった。
 錆びた鉄のような、もっと酷い臭い。
 汚物を吐き、まき散らしたような鼻に突き刺さるような臭い。
「……うっ、げほっ、ごほ……っ!」
 口元を抑え、吐き気を堪え、壁に手を伸ばしスイッチを捜す。
「………!?」
 明かりを付けた未央は、見なければ良かったと……ただそれだけを思った。
「……………っ!」
 三つの、物。
 人、だった物。
「…………なっ、なに……?」
 どうしてこんな?
 ほんの数分前までは何時も通りだったはずだ。
 塾をさぼって、ちょっと遊んで……それで怒られる筈で。
 なのに今、怒るはずの親は一つの山のように固まって動かない。
 生まれたばかりの妹と。
 妹を抱いたままのお母さんと。
 二人を抱きかかえているお父さん。
 濁った目や、色のない肌はまるで人形みたいだと思った。
 悪い夢。
 そう……思いたかった。
 なんだっていい。
 こんな事、信じられる訳がない。
「………っ」
 後ずさった未央に何かがあたる。
 背の高い……。
「……! お父さ……!!!」

 ドッ!

 振り返りかけた未央の腹部に当たる何か。
「…………?」
 経っていたのは、知らない誰か。
「……だ……れ?」
 腹部に広がる熱にぐっと喉が詰まる。
「………あ?」
 焼けるような痛みの元は腹部に突き立てられた何か……ナイフのようなもの。
「……っ!」
 喉に逆流してくる生臭い血の臭い。
 足下がふらつき、何かを掴もうと伸ばした未央の手は何処にも触れる事はなかった。
 壁へと押しつけられ、腹からナイフが引き抜かれる。
「―――っ!」
 開きかけた口を手で押さえられ悲鳴すら上げられない。
 熱い。
 痛い。
 涙が頬を伝い、流れ落ちていく。
 溢れだす血に、目の前が白くなっていった。
 霞み始めた目で見たのは、部屋の明かりを受けて血に濡れた銀色のナイフ。
 何かでべとべとしていた。
 血だ、未央の血。
 相手が何かを話している。
 内容なんて、解りもしなかった。
「…………」
 ただ呆然としている未央に、目の前の相手がナイフをぐっと握り……もう一度突き立てる。
 更にもう一度。
 なま暖かい物があふれ出してくる。
 足下から崩れ落ち、ズルズルと壁にもたれたまま床へと座り込んだ。
 遠ざかる足音。
 よく解らない会話。
 そこで、意識は途絶えて消えた。



 昨夜未明。
 そんな出だしと共に流れるニュース。
 台本を読み上げるニュースキャスターの口調は淀みないもので、内容を読み上げる女性やそれを見る人達にとっても数多く起きる恐ろしい事件の一つ……そうの程度の物だった事だろう。
 一家四人の惨殺事件。
 両親と娘二人、それぞれ数カ所ずつの刺し傷が残されていた。
 誰一人助からなかったそうである。
 両親も13歳の娘も、生まれたばかりの赤ん坊も全員。
 荒らされた部屋から、強盗が目的の殺人として捜査が進められている。
 犯行の手口や残された証拠、付近の目撃情報等、荒々しい手口から犯行は外国人グループの物だろうと推測されていると伝えた。
 怖いですねなんてコメンテーターの一人が感想を述べる。
 背後の画面に名前や年齢と共に流れる顔写真が、より一層事件の陰惨さを増していた。
 同時に全てはまだ捜査中であり、知人や関係者、付近の目撃者への情報提供を求むと締めくくり……何事も無かったように新しい話題へと取って代わられた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
     →安藤・未央(あんどう・みお)13歳/中学生

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

『誘拐も改造されていなかったら』を書かせていただきました。
もしもの世界、楽しんでいただけたら幸いです。

発注ありがとうございました。