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【狭間の幻夢】魔人の章―鳥―
●再会・やる気・下準備☆●
「開拓阻止、ねぇ…」
話を聞いていた嘉神・しえるが、終わると同時にぽつりとそう呟いた。
もしかして断られるのだろうか。
話をしていた鳴ではなく、見守っている神翔の方が情けない表情になる。
隣で話に参加せず呑気に茶を啜っていた護羽の後ろ頭をさりげなく張り倒したい気分になりつつも、しえるは考え込むように手を当ててから―――口を開く。
「…ま、何かやる時には何処かで誰かの都合が犠牲になるものだし、今回はソレが業者の番だってことにしましょ」
ね、楽しそうに笑いながらウィンクするしえるに、神翔がぱっと顔を輝かせる。
「じゃあ…!」
「当然、オッケーよ。見捨てるなんて女が廃るもの」
神翔の声に微笑みながら返すしえるに、神翔が『やったー!』と万歳三唱などしつつ鳴に抱きついて喜んでいる。
鳴は『離れろ暑苦しい!』ともがいているようだが、助けなくても大丈夫だろう。…多分。
「うんうん、さっすが僕のしえるや」
「誰がいつあなたのモノになったのよ」
満足げに頷きながら余計なことを言う護羽の後ろ頭に一発張り手を食らわしてから、しえるはようやく落ち着いたらしい2人に顔を向け、微笑んでみせる。
「…それじゃ、任されたからには徹底的にやるわよ、かー君、ナルっち♪
……ついでにエセ関西人も」
そう言って再度ウィンクしつつぐっと立てた親指が妙に頼もしい。
「僕はついでかい!!」
「当たり前でしょ」
不満そうに声を上げる護羽に冷ややかに返しながら、しえるは鳴と神翔に視線を向ける。
しかし魔人の2人と言えば、不思議そうに首を傾げていた。
「かー君?」
「ナルっちとは…まさか…」
「もしかしなくても自分等のことやろ?」
ちょっと凹んだのか机にのの字を描きつつもさらっと言う護羽に、魔人の2人が苦笑する。
鳴はどちらかと言うと沈んだ様子だったが、神翔の方は随分と楽しそうだ。
「なんかかわいーあだ名ーv」
「……なんだかナルシストみたいだな…」
全く正反対のリアクションにしえるが思わず笑う。
護羽も楽しそうににやついた後、正面で微妙な表情を浮かべる鳴の肩を叩いた。
「これはしえるのクセみたいなモンやから気にしとったらキリないで?
こういうんは慣れや慣れ。
…っちゅーか僕なんて『エセ関西人』やしね」
「…」
そこはかとなく哀愁漂う護羽の言葉に微妙な表情を浮かべた鳴は、それ以上何も言うでもなく口を閉じる。
「じゃ、まずは作戦決行の前に下準備ね」
とりあえず話が一段落したと判断したしえるは、神翔に向き直ってにこりと微笑み、ゆっくりと口を開いた。
「――――――かー君、この家ってパソコン置いてある?」
***
そして数分後。
所変わって神翔の部屋。
外装に反して意外と近代的なその家の中、神翔の部屋にはパソコンを中心としたゲームやらなにやらの最新機器が所狭しと置かれていた。
…本当、随分と世間スレしたあやかしである。
その中のパソコンの前で、しえるが座って何かをやっていた。
「しえるさん、パソコン使って何やるの?」
マウスをクリックして何かのページを開いていくしえるの座る椅子の背に寄りかかって後ろから覗き込みながら問いかけてくる神翔に、しえるはくすりと小さく微笑んで振り返る。
「ネットの情報掲示板に書き込みよ」
「ほえ、なんて書くの?」
しえるの言葉に首を傾げる神翔の頭をなんとなく撫でながら、しえるは話し始める。
「以前も工事失敗したとか、会社がつぶれたとか、祟りがあるとか」
「そうするとどーなんの?」
「噂ってどんどん膨れ上がるものでしょ?
特に情報掲示板は沢山の人が覗くもの。…さて、どうなるかしらね?」
くす、と楽しそうに笑うしえるになるほど!と手を打ちながら神翔が笑い返す。
「それじゃあデタラメな情報いっぱい流しちゃえ〜!」
「勿論よ!」
ノリノリで拳を振り上げる神翔に同じように返すと、しえるは開いたページの掲示板に意気揚々と書き込むのだった。
曰く。
―――――――『●●県××市、△◇にある山は今まで幾度となく工事が失敗、もしくは工事に携わった会社が倒産になったらしい。
それゆえにその山だけはずっと手付かずのままで、開拓の手は一切加わっていないとか。
更にその山――――どうやら、妖怪に祟られているという噂もあるそうだ。』
●天使の裁き●
翌日。
しえるはこの家に一泊することにした。
着替えは―――まぁ、昼の間にあやかしに作って貰った(サイズは護羽の目測でと言うことだったが、妙にサイズピッタリでしえるが気持ち悪がっていた)ので問題なく。
―――朝になって外の空気を吸いに出たしえるは、外に立っていた鳴を発見した。
朝もやの中静かに佇むその姿、僅かに上げられた腕の上に、三つ目で一本足の鳥が止まっている。
どうやらこの山に住むあやかしのうちの一匹らしい。
変わった姿の鳥を感心したように見るしえるの視線に気づいたのか、鳴がゆっくりと振り返る。
「――――しえるか」
「えぇ、おはよう、ナルっち、あやかしさん」
「…あぁ」
「ケー!」
しえるが微笑みながら朝の挨拶を告げると、鳴はまだその呼び方になれないのか少し戸惑い気味に返し、腕に止まっていたあやかしは奇妙な雄たけびを返した。
「ナルっちも朝の空気を吸いにきたの?」
しえるの問いかけに、鳴はゆるく首を振る。
「…いや、少し違う。
確かに朝に外に出るのは日課だが、このシグナルバードから山の様子を伝えて貰っているのが常だからな」
「シグナルバード?」
「この鳥のことだ」
そういいながら持ち上げた鳴の腕の先にいる鳥が、興味深げにしえるに視線を向けた。
それに答えるように、しえるも鳥をよく観察してみる。
真っ黒なカラスのような、しかししえるの頭より確実に大きなその体躯。
大きな体は、比較的太目の足で意外とバランスよく立っているようだ。
顔にある並んだ三つの目は、それぞれ緑・黄・赤の色。
特に真ん中にある目は、チカチカと瞬きするように時々点滅を繰り返す。
―――――さながら、信号。
「…なるほど、だからシグナルバード、ね…」
「まぁ本来は違うあやかし同士のハーフだから、名前は神翔がつけたモノなのだがな」
コイツも嫌がっていないようだからそのまま呼んでいる、と言う鳴に、しえるはふぅんと返事を返した。
薄っすらと朝日が差し込む。
鳴はシグナルバードと二言三言会話した後、手をゆっくりと上に上げる。
それを合図にしたかのように、シグナルバードはバサバサと大きな翼をはためかせて森の中へ消えて行った。
それを見送る鳴の背に、しえるは疑問に感じていたことを口に出す。
「―――――ココって、人間が迷い込んだりしないの?」
「…何?」
しえるの質問に訝しげに返す鳴に方を竦めると、再度口を開く。
「だってこうやって開拓業者が来るってことは、人の出入りは自由なんでしょ?
だったらココに迷い込んだ人とあやかし達が遭遇しちゃうこともあるのかな…って。
それに、この家も凄く目立つし。
貴方達が見つかると、それはそれで別の騒ぎが起きそうだし」
「別の騒ぎ?」
不思議そうに首を傾げる鳴にくすりと笑うと、しえるは彼を指差して口を開く。
「―――だって、世間は美形を放っておかないのよ?」
「……は?」
思いがけない言葉に思わず間抜けな声を上げた鳴にぷっと吹き出すと、しえるはまた口を開いた。
「そういうわけで、出来れば話、聞かせてもらえないかしら?」
まぁ、言いたくなければ言わなくていいけど、と言って微笑むしえるに少し考え込むように顎に手を当てた鳴は―――ゆっくりと指を鳴らし、それから右手を挙げる。
「…見ろ」
そう言って指差した先は――――鳴と神翔の家がある筈の、場所。
「見ろって、そこにあるのは貴方達の家じゃ…」
その動きに合わせるように振り返りながら呟いたしえるが―――目を見開いて、固まった。
――――なぜなら。
そこにある筈の家の代わりに―――――切り立った崖が、聳え立っていたからだ。
「…家は、どこに言ったの…?」
思わず呆然として呟くしえるに、鳴が静かに呟く。
「家は此処にある。先ほどから微塵も動いていない」
「だけど、家は見えないじゃない…」
「…」
しかし鳴は表情を動かすことはなく―――静かに、また指を鳴らした。
――――――瞬間。
崖がブレたかと思うと―――唐突に、家が出現したのだ。
「!!」
「……これが、我々の家が見えない仕掛けだ」
驚いて目を見開くしえるを他所に、鳴は話を続ける。
「勿論我々とてそのことを考えていないわけではない。
前もって統治者にこの山全体を覆う結界を構築して貰っている」
「結界を?」
「そうだ。
その結界は、この山に迷い込んだ者には一時的にあやかしの姿と声が『感じられなくなる』ようになる術が付与されている。
この結界に入り込んだ人間は、基本的にあやかしの姿をすぐに見ることは出来ないのだ。
…お前のような人間には効きが悪いようだが、このように我々の力を付与することによって一時的にその効果を発揮することもできる」
「……そんな仕掛けになってたの…」
鳴の話に感嘆の声を挙げるしえる。
しかし鳴は少々の間を空けてから、ぽつりと呟いた。
「…ただ、長時間滞在されると結界に施された術に慣れてしまい、あやかしの声や姿が見えるようになってしまうのが難点なのだ。
大抵の人間は術の効力が効いている間にあやかしがそれとなく誘導して山から抜け出させてやるのだが…今回の業者達は完全に居座っているからな。
今頃はあやかし達の姿や声が聞こえ初めて戸惑いまくっていることだろうし。
しえる、お前の言う作戦を仕掛けるならばこの辺りが一番最適なのだろうな」
飄々とした顔でそう言ってゆったりと袖を正す鳴を見て、しえるは思わず苦笑する。
「…ナルっちってば、実は結構性格悪いのねぇ」
***
――――そして、昼。
この山に住むあやかしのアルケニーに縫って貰った服を着たしえると、元の姿のままの鳴、そしてついでに護羽が一緒に歩いていた。
目指すは業者達がいるであろう
「なんやしえる、何時の間にそんなん頼んでたん?」
「ふふ、交渉に使うためにちょっとね。
神秘性UPしたでしょ?」
ゆったりとした衣装の裾を翻してくるりと回りながら笑うと、護羽が確かに、と楽しそうに笑って返す。
何故か肩の周辺でふわふわと浮くように靡いている細長い羽衣のような布の材料がしえる的に気になるところだが、深く考えたら負けなのだろう、きっと。
さくさくと草を踏みしめて歩いていると――――ふと、崖の下に立ち並んだ機材が目に入った。
そこで一旦歩みを止めたしえるは、後方を歩く2人を見て―――にこりと微笑む。
「それじゃあナルっち、エセ関西人、交渉に向かいましょうか」
―――――――そう言うと同時に、しえるの背から純白で半透明の三対の翼が出現した。
***
ざわざわと騒がしくなっている崖の下。
集まった人々は、なにやら大きく揉めていた。
「…もう俺たちはこんな山の開拓なんて御免だ!!」
作業員のリーダー格らしき男が、スーツを着た男に詰め寄って叫ぶ。
その言葉に頷く作業員達の目の下は、深い隈で縁取られていた。
「い、いきなりやぶからぼうになんだね…」
「この山は絶対に可笑しい!
あちこちから変な声はするし、変な生き物にも見えない動く何かの姿を見たって言う作業員だって沢山いる!
それに昨日情報掲示板を覗いたヤツが、この山に関する変な噂を見つけたんだ!!
この山は絶対に祟られている!これ以上やり続けることはできない!!」
「な、なんだと!?」
驚いて声を上げるスーツの男。
慌てて作業員達の顔を見渡すが、誰も彼もが本気らしい。
困って後ずさったスーツの男の頭上から―――声が投げかけられた。
「――――――その作業員達の言う通り」
『!!』
何時の間にか頭上に影が出来ていた。
その場にいた全員が、その声に驚いて上を見上げる。
「……貴方達に警告してあげる。
この神聖なる山にこれ以上踏み込むことは許しません」
――――――そこには、白い翼で羽ばたき、風にその茶色の髪を靡かせる、女性が空に浮かんでいた。
**
ざわざわとざわめき出す人混みから離れた場所、崖の上の草むらの中に潜む護羽と鳴。
「なんや上手く行ってるみたいやなぁ」
「そうだな。今日は風の調子もいいから声を上手く運んでくれる」
空を飛んで会話を続けるしえるを見ながら、護羽と鳴は呑気に会話をしていた。
…いや、実際鳴は風を操ってしえるの声が響きやすくしているのだが。
「……ところで」
「んあ?」
風を操りながら、ぽつりと鳴が口を開く。
「――お前が此処にいる意味はあったか?
確かお前、しえるに『じゃあ護羽は適当になんかやっててよ』って言われていた筈だが…」
―――――――――間。
「………鳴やん酷いわ…」
「少なくとも人のことを『鳴やん』などと呼ぶ相手に優しくする理由はないな」
きっぱり切り捨てられてかえって沈む護羽をよそに、鳴は無言で風を操るのだった。
**
一方交渉の方だが。
「…どうしても貴方は諦めてくれないの?」
「当たり前だ!
我々だって必死に金をかけてここの開拓を決めたんだぞ!?
そんな…そんなニセモノの翼なんぞ見せ付けておって、ふざけるにも程がある!!」
…どうやら、先ほどからスーツの男としえるの会話は平行線を辿っているらしい。
作業員達は早々に…むしろ喜びすら交えてしえるの開拓を止めろという言葉に従った。
…が、スーツの男は別らしい。
今日の昼辿り着いた男にはあやかし達のことなどまったく知らないわけで、しかもそういうものは完全否定派らしい。
「どうせどこからか吊ってるんだろう!?
貴様のような女なぞに負けてたまるか!!!」
大声を上げながら叫ぶ男に内心呆れつつも、しえるは再度口を開く。
「……どうしても、諦める気はないのね?」
静かな声音に嫌な予感を感じた作業員達が一斉にスーツの男から離れる。
しかしスーツの男はそれにすら気づかないらしく、小太りの体をぶるんぶるん震わせながら声をあげた。
「当たり前だ!!
こんなことで諦められるわけないだろう!!!!」
「―――――――そう」
男の言葉に、しえるがすっと目を細める。
そこでようやく何かを感じ取ったのか一歩後ずさった男だったが、やはりまだ怯む様子はない。
「そ、そうだ!!
お前もいい加減諦めて帰――――」
「…なら、仕方ないわね」
しえるが諦めたと思ったのだろう。意気揚々と声を張り上げようとするスーツの男を遮って、しえるが静かに囁いた。
すっと差し出した手。
「…蒼凰」
シュンッ、と言う空を切るような音と共に、しえるの手に一振りの剣が現れた。
それを静かに手に取ったしえるは、静かに顔をスーツの男に向ける。
「な、なんだその目は!?
大体その剣も大方ホログラムか何かなんだろう!?
私は騙されんぞ!?」
しえるを指差して叫ぶスーツの男。
しかししえるはその言葉に答えることはなく、ゆっくりと剣を空に掲げる。
「…悪いけど、実力行使で行かせて貰うわよ」
しえるがそう言うと同時に、空が曇りだす。
黒い雲がこの山の上にだけ集まりだし、ゴロゴロと唸るような音が空から聞こえ出してきた。
「…な、何をする気だ…!?」
怯えて声を上げ、しえるを睨みながら唸るように声を出すスーツの男。
空には暗雲が立ち込め、空を覆いつくしている。
しえるは掲げた剣を見つめていた視線を下げ、ゆっくりと口を開く。
「―――――天使からの『天罰』を、プレゼントしてあげる!!!」
ガッ!!
ドシャ―――――ンッ!!!!!!
―――――――耳を劈くような轟音と共に、スーツの男の目の前に、特大の雷が落とされた。
ぶすぶすと煙を上げる地面。
大きく抉られた地面には、真っ黒な焦げ後も残っている。
「…あわ、あわわ…」
「まさか、この期に及んでこの雷もニセモノだー、なんて言い出したりしないわよね?」
口から泡を出しかねない勢いで蒼白になった顔で口をぱくぱくさせる男の目の前に着地して、しえるはふわりと柔らかく微笑む。
「―――――――この山の開拓を止めなさい。これが、最後の警告よ?」
おわかり?
そう言って微笑むしえるに、スーツの男はぎこちなく顔を上下に揺らすのだった。
●あやかしの山●
「――――――で、結局護羽さんはなーんもしないで終わったわけだ?」
「…神翔、それ言わん約束や…」
けらけらと笑いながら毒を吐く神翔の声と視線に、護羽がしくしくと泣きながらそう返した。
結局あの後業者は逃げるように機材を片付けてその場を去った。
…家に戻ってきたとき、シグナルバードと楽しそうにじゃれている神翔を見て思いっきり毒気を抜かれたのはちょっとしたご愛嬌。
「にしてもしえるさんも凄いよねー。
最終警告に雷ズドーン!なんてさ」
「雷は『神鳴り』の意とも言われているから、ある意味効果的な行動ではあったがな」
楽しそうに茶を啜りながらそういう神翔に、鳴が冷静に付け足す。
「まぁ、これに懲りたらあの業者もこの山には二度と手を出してきたりはしないでしょうし。
掲示板に新しいスレッド立てておいたから、きっと今頃大騒ぎになってるわよー?
『山に妖怪が出たー』、って」
正直妖怪扱いされるのは心外だけど、ここの子達を考えればそう言う内容にするのが一番だからね、とウィンクして笑うしえるに、護羽もつられて笑う。
「…とにもかくにも、だ。
お前のお陰でこちらは山の心配をする必要はなくなった。礼を言う」
そう言って深々と頭を下げる鳴に、しえるはくすりと笑って顔の前で手を振る。
「別にたいしたことはしていないわよ。
皆が平和に過ごせればそれに越したことはないわ」
こくりと茶を一口飲んでそう言うと、護羽が口を開いた。
「ま、そーゆーこったな。
しえるがそう言っとるんやし、それでえぇんちゃう?」
「しかし…」
「鳴は悩みすぎなのー。
しえるさんがそれでいいって言ってるんだからそれでいーじゃん!」
まだ食い下がろうとする鳴の背中から抱きついて、神翔がにぱっと笑う。
それにようやく諦めたらしい鳴を見て、しえるが微笑んで立ち上がる。
「…それじゃ、私はそろそろ帰ろうかな。
結局一泊しちゃったし、流石に2日も世話になるわけにはいかないでしょ?」
そう言うしえるに合わせて、護羽も一緒に立ち上がる。
「ほな僕も仕事も終わったことやし、そろそろ帰ろか」
「それじゃあ、一緒に帰りましょうか」
「おう」
んーっ、と伸びをしながら疲れたように言う護羽にふっと笑うしえる。
それに合わせて神翔と鳴は立ち上がると、しえるに向かって歩み寄る。
「…それと、これは私達からの礼代わりだ」
鳴がそう言いながら袖に突っ込んだ手に何かを掴んでしえるに差し出した。
―――――――それは、人の顔を軽く超えるほどの大きな面積を持つ、澄んだ深緑色の八手の葉。
「これは…?」
しえるが葉を受け取ってまじまじと見つめながら問いかけると、神翔が笑いながら口を開く。
「この山の『通行手形』代わりだよ。
今回はちょっと特殊だったけど、この山の子達は入ってきた人たちを警戒するように言ってあるからさ。
幾らなんでも来るたびに警戒されたらイヤでしょ?
この通行手形は俺達の術力が付与してあって、これを持ってるとイコール俺達の知り合いでお友達、ってことになるわけ。
それに、急な用事がある場合はこれに念じれば一瞬で喰魔山にこれるような仕掛けになってるんだ。
山の子達も気を張らなくて済むし、様子が見たければいつでも来れるし、一石二鳥でしょ?」
ね?と笑いながら言う神翔に、しえるは再度まじまじと八手の葉を見た。
ひっくり返してみれば、何故か葉脈の形が『通行手形』と言う字によく似た形に歪んでいる。
…とてもじゃないが、そんな凄い力を持っているようには見えないのだが…。
「八手は別名『天狗の葉の団扇』と言うそうだ。
……私達によく合っているだろう?」
ふっと笑いながら冗談を言う鳴に、しえるも思わず小さく笑う。
なるほど、この葉は有翼人である自分達と天狗をかけたちょっとした茶目っ気の産物なわけだ。
しえるが笑ったのを確認して、護羽がしえるの手をとって歩き出す。
「ではな」
「んじゃ、縁があったらまた会おーね!!」
「えぇ、今度はお菓子持参で遊びに来るわね♪」
そう言って軽く頭を下げる鳴とぶんぶんと腕を振る神翔に手を振り返すと、しえるは護羽に引かれるまま歩き出す。
暫く歩けば、神翔と鳴の姿はあっさり見えなくなった。
**
外に出ると、護羽がしえるの手を離した。
どうしたのかと護羽を見るしえるに微笑み返すと、護羽は何故か再度手を差し出す。
「…自分で飛ぶか、僕に引っ張られて帰るか、どっちにする?」
――――――なんと変な質問だろう。
思わずぷっと噴出したしえるに、護羽もお茶らけたようにウィンクで返す。
暫くくすくすと笑ったしえるだったが――――そっと、護羽の手を掴んだ。
「――――久しぶりに、ジャンプして帰ってみたい気分かしらね」
その言葉に一瞬驚いたように眼を見開く護羽だったが、すぐにふっと微笑んで手を握り返す。
「―――りょーかい」
そう言うと同時に、護羽は軽く地面を蹴った。
それに合わせて、しえるも軽く地面を蹴り上げる。
ふわりと――――久しい浮遊感が体に訪れた。
「…私、またあの山に遊びに行くわ。
今度は、お菓子を持って」
「さよか」
「暇だったら、また会えるでしょ?」
「―――せやな、丁度タイミングがあったら、是非しえるの持ってきた菓子食いたいなぁ」
おどけるように言う護羽に、しえるはくすりと笑う。
「そうね。タイミングが合ったら――――また、会いましょう?」
護羽に会えるとは限らないけど。
ただ、なんとなく、そう言い合って。
守らなければいけないわけではないけれど、ささやかな約束を。
―――――再度顔を見合わせてぷっと噴出した二人は、笑いながらもう一度地を蹴った。
<結果>
悪戯(?):成功!
記憶:残留。
報酬:通行手形(笑)―(喰魔山に自由に出入り出来るようになり、且つ用がある時は念じれば一瞬で喰魔山一口へ辿り着くことができます)
終。
●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】
【2617/嘉神・しえる/女/22歳/外国語教室講師/光】
【NPC/護羽/男/?/狭間の看視者/無】
【NPC/神翔/両性/?/喰魔山管理役/地】
【NPC/鳴/男/?/喰魔山管理役/風】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第三弾「魔人の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
しかし、今回も残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでした。…残念!(をい)
また、今回は参加者様の性別は男女比較的バランスよくなりました。なんか嬉しいです(をい)
今回、ついに無事全看視者個別指定入りました!ばんざーい!!!(をい)なんだか無性に嬉しいです。いや、ホントに(笑)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)
NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)
・しえる様・
ご参加どうも有難う御座いました。また、護羽をご指名下さって有難うございます。
しえる様の行動は毎回ツボをつくものばかりなので、楽しくやらせていただきましたv(をい)
鳴と神翔にあらたなあだ名が…!と思わずほくそ笑んだり(ぇ)その質問待ってましたー!な人間が迷い込んだり〜のネタ(笑)など、楽しく書きましたv
家の中では神翔、外では鳴との絡みが比較的大目になっております。…期待に沿えているかどうか微妙ですが、楽しかったですv(をい)
最後は護羽と一緒にご帰宅です(笑)
友情…っぽいような微妙な雰囲気ですが、なんだかんだやってても結局は仲良しなんですよ、って言うことが伝われば嬉しいです(笑)
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。
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