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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ゲーム昏睡病 〜求む、勇者パーティ〜



「あら? これは初めての人、よね」
 投稿者の名前はかなり覚えやすいので、これ以前に見たことはなかった。
 その掲示板への書き込みとは……。


 件名:こういう事って現実に起こりうるものなんでしょうか?
 投稿者:ナナ

 突然の書き込み、申し訳ありません。
 正直に言いますけど、こういう場所を頼るのは……その、実際にそういうことが起こっているからであって、意見を色々と聞きたいというのもあったものですから。
 実は私には親しくしている友人が二人ほどおります。
 そのうちの一人が突然私の家に来て、「ゲームをさせてくれ」と言い出しました。
 私はゲームなどあまりやらないのですが、パソコンはあったのでその友人に貸したところ……。
 彼女はあろうことかゲームをしていた最中……私が目を離した瞬間に眠ったまま起きなくなってしまったのです。
 なんだかこういうお話はよく聞きますから、そんなバカなと半信半疑なのも確かですが、友人は何をしても起きません。
 ゲームという仮想空間の中に精神が取り込まれたというオカルトちっくな話は聞きますけど、正直対応に困っています。
 試しに私もそのゲームをやってみたのですが、画面に友人らしきキャラが出てきていたので驚きました。
 気持ち悪いくらい性格も一緒で、これは間違いなく友人本人であると私は確信しました。
 このゲームはCD−Rにやいてあるもので、特殊なパスワードがないとプレイできないようになっています。
 どうやら私は友人の続きでプレイしている状態なので、ゲームの中には取り込まれなかった様子……。それだけは有難かったですけど。
 私にも多少霊感があるので、このCD−Rに何か妙なものは感じています。
 けれど、私はそういう専門家ではありません。
 なんとか友人を助け出したいと思っています。
 所持しているパスワードの数は限られていますけど、なんとかして欲しいのです!
 ほんとにこの友人ときたらマイペースで、どれほど怪しくてもなんとも思わずに拾ったりもらってきたりするんです!
 信じられません! いかにも怪しいゲームを「もらった」と笑いながら言うんですから!
 ゲームをしていて気づいたのですが、友人が画面上から姿を消してしまいました。
 どうやら、自由にゲームのフィールド上を移動しているらしく、こちらが入れない場所に勝手に入ってしまったようです! もう本当に信じられない!
 ……こういうことって、本当に起こりうるものなんでしょうか? いえ……もう起きてるんですけどね。


 書き込みを一通り読み終えた雫は「ふうん」と微妙な表情を浮かべた。
 この手の噂はよく聞く。しかし文面から見ても、どうも面白半分で書いたとは思えなかった。
(まあ、あたしは興味ないけど、興味ある人はレスしてあげるんじゃないかな……)

***

 クミノは小さく嘆息してキーボードを打つ。それは今回の事件の顛末だ。
「……と、そういうオチ」
 CD−ROMを霊的に解いて、高見沢朱理の魂を引っ張り出せば良かったのだが……。
 そういう技術がないために、余計に手間をくった。
 一旦手を止めて、それからクミノは今回のことを思い出していた……。



 掲示板に書き込みをしたナナという人物から届いた郵便物を眺める。
 一枚のCD−ROMと、写真と、手紙。
 目を細めてパソコンへと向かった。

 意識が覚醒したクミノはむ、と顔をしかめる。ベッドの上だ。
(この世界を作り出した者の癖を把握すれば、発見するのも早いと踏んだんだが……)
 それほど深刻な世界ではないようだ。
 普通のゲームの世界とそう変わらない。昏睡状態らしい高見沢朱理の魂があるとするなら、何かしら変化がみられると思ったのだが。
「……あまりに普通すぎて、逆に不気味だ」
 一歩踏み出して眉間に皺を寄せる。床が硬い。それに、ベッドもやたらと角ばっている。
「あ、起きたんだ」
 真横の壁から顔をすいっと覗かせた少女に、クミノは正直驚いてしまって硬直した。

 半透明の高見沢朱理はクミノに説明をしていく。
 なぜ自分がここにこうしているのかなど、だ。
「どうでもいいですけど、高見沢さん」
「ん?」
「なぜ半透明なんです?」
 自分の肉体はここではきちんと在る。だからこそ、壁をすり抜ける朱理はおかしかった。
「普通は魔王を倒したらゲームクリアで元の世界に脱出できるって思うでしょ」
「……そうですね」
 淡々と返すクミノなど気にせず、朱理は溜息をつきながら続けた。
「だと思って魔王のとこまで行ったんだけど、いなかったんだな〜、これが」
「最終ボスが?」
「で、そこでいきなりこの世界は停止。あんたとあっちの女の子がここに入り込んできた途端に世界が崩れ始めて、新しく世界をこう……なんていうかな、作り出すっていうか」
「…………再構築」
 妙だ、と思う。そういうプログラムなのだろうか。周囲の様子からしても、ここは普通のゲームのような……。
(普通……?)
 いや、魂を取り込む時点でそれは間違っている。何かの目的があって魂が必要になった。これはもしかして。
(実験……)
 不特定の、パスワードを持つ者の魂を取り込んで何をさせようとしているのか。
 これはゲームというより『実験』のような遊びだ。ゲームという枠なら、確かに餌につられて参加する者も多いだろう。
「最短ルートを、妙なジィさんに聞いてさ。ここの地下のカジノで鍵をもらったらあれよあれよという間に魔王の城まで行けたんだよね」
「その老人は今の、この再構築した世界には」
「いないね」
 だと思った。一種のナビゲーターとして用意されていたものだろう。
 朱理は肩をすくめる。
「しかも、簡単にもらえた鍵だったのに、今は違うみたい」
「?」
「あたいの身体は、魔王の城にあるんだ」



「で、どういうこと〜?」
 目を覚ましてここに来た海原みあおがクミノに対して問う。
「簡潔に言うと、スタート地点に飛ばされるはずの我々を、高見沢さんが見つけてここまで引っ張ってきた」
「へえ〜」
「私たちがここに入り込む際に、この世界が一度崩れて急激に再構築を開始したと聞いた」
「ふむふむ」
「私たちを無理やり引っ張ったことで、エラーが出た。そのせいで高見沢さんは体が固定されて動けなくなったらしい……。もしかしたら、このゲームは……」
 目の前でスロットルの絵が並ぶのを見てみあおは「よくわかんないな〜」とぼやいた。
「高見沢さんは魔王の城まで行ったらしい」
「どうやって?」
「このカジノと関係がある。持てる最高金額まで稼ぐと、鍵がもらえる」
 ガシャン、とレバーを押すクミノ。
「色々……考えていた。このゲームの作者の癖とか……。
 しかしおかしいことが一つある」
「おかしい?」
「高見沢さんが行った時、魔王の玉座には誰も座っていなかった」
「……」
「勇者はプレイヤーの分身になるはず。魔王がいなければ勇者は存在する意味がない……」

 すっかりカジノを楽しんで金貨を稼ぐと、店で盛大に祝ってくれた。そして黒い鍵をもらう。
「わ〜っ! やった〜!」
 みあおが受け取ってはしゃいだ。頭上で妙な文字が出る。
「……『億万長者の称号』を得た。……な、なにあれ〜!」
 爆笑するみあおとは違い、クミノは手招きしている朱理に気づく。
「魔王軍がそろそろ来るから、鍵をしっかり持っててね」
「魔王軍?」
 首を傾げるみあお。朱理は説明した。
「魔王軍に捕まって、魔王の城まで一直線」
「……もしかして、それは一度魔王と戦って、死亡寸前までいくイベントでは……」
 クミノが呟いていると、上の階から慌しい気配がしてきた。

 すんなり捕まって牢に閉じ込められているクミノとみあおだったが、鍵を使って牢を抜け出した。カジノでもらった鍵は、牢の鍵だったのだ。
「わ〜、いかにも魔王の城って感じだね」
「こっちこっち。あたいの身体は最上階にあるから」
 朱理がするりと牢を抜けて、手招きする。始めて間もないゲームなのに、すでにラスボスとの戦いがそこまで迫っていた。
「最上階ってまさか……」
 みあおが恐る恐る呟く。
 最上階の扉を開けて、やっぱりとクミノとみあおは同時に思う。
 奥の玉座に座っているのは朱理だ。あちらは透けていないうえに、眠っている。
「やはり……魔王は高見沢さんだったか……」
「予感的中だね〜」
「このゲームには勇者がいない。勇者がいなければ魔王がいても仕方ない。魔王がいなければ勇者はいらない……。高見沢さんは魔王役として吸い込まれた……勇者より先に必要なのは魔王だからな」
「なに考えてたんだろうね、このゲームの作者って」
「最初に必要なのは魔王。次は勇者。私たちは勇者役としてここに取り込まれたんだろうな」
「あ、そうか! ナナがパスワードの数は決まってるって書き込みしてたっけ」
 通常、勇者のパーティーは四人だ。
「ああ〜、あたいの身体が……」
 朱理は自分の身体に触れることもできないようだ。
「クミノ……みあおたちが勇者ってことは、倒さなきゃいけないのかな……」
「眠っている魔王相手に戦ってもしょうがないと思う。私たちは勇者じゃない」
「へ?」
「最初からプレイしてない」
「あ、そうか!」
「高見沢さんが魔王になり、ゲームの下準備は完成。
 高見沢さんをあそこから引き摺り下ろせば何か変わるかもしれない」
「まあやってみようよ。これもある意味、魔王を倒すってことだし」
 玉座に駆け寄ったクミノとみあおは朱理の腕を掴み、一斉に引っ張る。
 イスから完全に離れた途端、心配そうに見ていた半透明の朱理が消えうせ、眠っていた朱理がぱかっと瞼を開けた。
 すると突然周囲の映像がぼろぼろと崩れだした。怨念のような声が低く響き、悲鳴をあげる。
「やはりだ! 魔王が居て初めてこのゲームは成立する仕組み……。魔王が玉座にいなければ……」
 このゲームが、ゲームであるという存在意義がなくなる!
 みあおが慌ててハーピーの姿に変身し、二人を抱えあげる。ちょうど足元の床が崩れる直前だった。



 回想していたクミノは壊れたCD−ROMを見遣る。意識が覚醒した後に取り出すと、パキンと真っ二つに折れてしまった。
「……悪趣味なゲーム」
 創られた世界に実際に生きている人間の魂を取り込むなど。
 魔王がいることで成り立つゲーム。だが魔王となった者には救いのないゲームだ。
 呟いたクミノは静かに瞼を閉じる。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【1166/ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
【1415/海原・みあお(うなばら・みあお)/女/13/小学生】


NPC
【瀬名・雫(せな・しずく)/女/14/女子中学生兼ホームページ管理人】

【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】


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■         ライター通信          ■
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 ご依頼ありがとうございました。新人もどきライターのともやいずみです。
 今回、初挑戦のウェブゲームにご参加くださりありがとうございました。
 ササキビさんのプレイングがうまく反映できたかかなり心配です〜。今回は一番のしっかり者さん、解析役として書かせていただきました。
 初ということで、かなり至らない点はあるとは思いますが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。