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<東京怪談・PCゲームノベル>


【女の子だって叫びたい!】力の限り不満を叫ぶ?

 鬱憤を、叫ぶ。
 叫ぶ?
 叫ぶって――、
「……一体、何処で?」
 叫ぶ事と言うので、まず浮かぶのは。
 論文の事、友人の事……

 つい先日、専攻の論文で褒められもしたけれど……まだ甘いところがあると、何気にきつい言葉のエルボーをくれた教授。
 借りようと思ってた専門書が、まだ貸し出し中で調べたい事が終わらない事。
 買おうと思っていた本も、品切れ中で、何だかもう以下同文。

 ……こうして思うと、何気に叫びたい事は溜まっているようにも思う。
 ただ、叫べる場所がわからない。
 叫ぶとしてもどう言う言葉だ?

 それに――

(友人のことにしてみたって……なあ?)

 論文の事とは打って変わって。
 どう言う言葉も思い浮かばない。

 ただ、自分では一緒に居ると変な気がする。

"友人"

 ――トモダチ、とも言う境界。

 トモダチ。
 一緒に居ると一番に楽しい遊び仲間。
 居心地が良くて遊んでるとすぐに時間が過ぎるような気がするよ。

 けど。
 それだけじゃない、気がするんだ……―――

 なあ、どうやって鬱憤を叫ぶんだ?
 言葉にしようもないほどの、何かを――俺は、叫べる事が出来るんだろうか?





 果たして何処で――?
 その、疑問は直ぐに解消した。
 と言うよりも、解りやすかったのは黒猫が居たからかもしれない。

 黒猫。
 金の瞳なら、まだ居そうだが銀の瞳の黒猫。
 そうして、その猫は人の姿に身を変える事も出来る……以前一度、藤棚であった事があるから知っている。
 あの時は確か……同じような色彩の少女が居た筈だが……

「何の、用だ?」
「何か、探してるんじゃないかと思ってね」
 叫ぶところを探してるんじゃなかったかい?

 鈴夏のことを言っているのだと、すぐに藤井・葛は気付き――何処かを聞こうとした。
 が。
 くるりと踵を返して、まるで「付いておいで」と言わんばかりに、そのまま駆け出して。

 仕方なく、本当に仕方なく、葛は後を付いて行った。
 場所だけ教えてくれれば良いものを、この猫は何故か連れて行きたがる傾向があるようだ。

(…と言うか)

 この方向は。
 ――間違えていなければ、確か……庭園への入り口ではなかったか?

「なあ」
「何だい?」
「間違えが無ければ、これはアンタが住んでいるところへ進む道だと思うんだけど?」
「……良く覚えていたね、正解だよ」
「……なら、最初から言えば良いだろう?」
「言ったとしても、いつもの場所でもないからねえ……まあ防音を考えて、と言うか」
「はい?」

 ……良く解らなくなってきたが、一応親切のつもりであるようだ。
 なら、快く受けておくべきなのだろう。
 悪い事ではないはずだ……多分。

「しかし、君に叫びたいことがあると言うのは意外だったかも知れない」
「そうかな?」
「ああ、少しばかり……不思議だなあと思ってしまってね」

 正確な足取りで、猫は歩む。
 軽快な足音を響かせて。

 そして、葛はその後姿に、人の姿を取る時の後姿を見た。
 後ろに居るので見えないだろうと苦笑を浮かべながら、葛は。

「……まあ意外ではあるだろうけれど。俺だって時には叫びたい事だってあるんだよ」
 と、言葉を落とした。

 その時。
 まるで葛の言葉に反応したように、入り口ともなる白い門が、緩やかに開いた。






 時折。
 時折だけれど、思うことがある。
 例えば、今ある先の一歩。
 此処から先、踏み出したら、どうなるんだろう?

 石橋を叩いて渡る――何て言うのは、しないけれど。
 解らないのは、この先。
 今ある一歩を踏み込めずに居ると言う事だ。




「だからさ、鈴夏。其処はちょっと違うと思うんだよね……」
「ええ!? で、でもね? あの人たちを撒く為には、此処くらいしか場所が無くて……」
「いや、その時点で、もう違うか……」
 叫ぶ場所が此処、と言うのは解り難いと思う。
 ほくとは、その言葉を言えないまま、視界を遮った二つの影を見た。
「鈴夏、お客さんみたいだね」
「え? あ……本当だ! 猫さんが連れてきてくれたんですか?」
「ふたりとも、此処に入ったままだったからね」
 微笑を浮かべながら告げる猫に、鈴夏は困ったように首を傾げた。
 赤い瞳が、葛の姿を捉え、
「初めまして。張り紙見てくださったんですね♪」
 自分たちの場所へと引き込むように、やんわりと手に、触れた。
 場所が解り難かった事を、鈴夏に告げるべきだと思ったが、敢えてそれはオブラートに包む事にし、
「うん……と言うか場所が書いてなかったからどうしたもんかと思ったんだけど……取り敢えず」
 触れた手に応える様に、葛も鈴夏の手へと触れる。
 ゆっくりと歩き出す、その先に門と同じ、白い、見事なテーブルがあり。
 …どうやら、二人の少女はお茶会の真っ最中だったようだ。
「取り敢えずでも嬉しいですよ? そうですね、まずは……お茶でもどうでしょう?」
「いいね」
 そのまま、椅子へと座ると葛は息をついた。
 先ほどまで一緒に来ていた筈の猫ももう居らず、居るのは本当に女性ばかり。

(しかし……)

 奇妙な場所だ、と思う。
 藤棚を見たときは、こう言う……何と言うのだろう、防音効果満点に見えるサンルームがある、など思いも寄らなくて。

「奇妙な、場所だな」
「本当に」
 あっさりとした同意の言葉に葛は目を丸くする、が、すぐにほくとの言葉が入り。
「場所が奇妙なのは慣れてっから」
「……成る程」
 鈴夏から差し出されたお茶を、飲みながら頷くと「さて」と息を整えた。
「取り敢えず、叫ぼうとしてる事から先に言うとだな」
「うん?」
「はい?」
 ほくと、鈴夏のふたりが身を乗り出し、何を言ってくれるのかと瞳を輝かせる。
 身近に居る、とある人物を思い出し、葛は微笑を浮かべたが、ぼそりと。
「鈴夏さんって恋愛、したことある?」
「……………………ゑ?」
 ……
 …………
 ……………………
 …………………………………………かなりの、沈黙が流れた。
 ほくとは鈴夏が起きてるかを確かめる為、目の前で手を振り、葛は葛で、「何か不味い質問でもあったか……?」と考え。

「ええと、生憎ながらそう言うのは……ないですねえ」
「そうなんだ? けど、嬉しいな。俺もないんだよ」
 あっさりと、葛は言い放ち、「だからかな」と言葉を置いた。
「どうにもね、俺にはよく解らないんだよ」
「「と、言うと?」」
 ずずいっと、身を乗り出してきた二人に驚きを隠すこともせず、頬へ手を、二度、三度。
 痒くも無いのに、触れてしまった所為か、嫌に、頬が気になる。

 ―――否。

 気になるのは、頬にかかる、髪だ。
 自分で触れても気持ちが良いと感じる手入れの良い、髪が、さらさらと音を立てるのが奇妙で。
 そして、何処か、楽しい。

「い、いや、其処まで二人とも身を乗り出さずとも良いんだが……何て言えばいいのかな……」

 トモダチ……だけれどね。
 まず、その言葉を置くことを忘れずに、葛は話し始めた。

「今、その人とは、良く遊んで居てね。無論、楽しいから一緒に居るわけだし、でなければ男女の別なく友人である筈も無い……そうなんだけれど、何処か……一緒に居ると、可笑しいんだ。
ああ、可笑しいとは言っても、笑える顔だとかそう言うんでもなくて……此処がね」

 と、言いながら、葛は自分の胸を軽く叩く。
 どうにも出来なくて、何故か戸惑う。
 それに、友人から見られている時、確かに何かを感じている自分に気付く。
 この気持ちは何だろう?
 嫌な気持ちと言うわけでもなく、かといって、快いと言うには余りにも遠く……本当にどうして良いか解らない程に、困難で。

「どうしたもんだろう、……こんな自分でも叫んでみたらすっきりするかな? すっきりすると二人は思う?」
「そうですねえ……」
 うーん、と唸るような声を出す鈴夏に、ほくとが、大いに頷いた。
「そう言う気持ちは叫んだ方がいい! もう、スパッと勢い良く!!」
「大丈夫かな?」
「あたしが保証するっ」
 意外と、話すだけでもスッキリするし。
 けど、モヤモヤしてるものを抱えているなら、絶対叫んじゃった方が楽。

 快活な笑顔を浮かべながら、話すほくとに、葛も親しみを感じつつ緩く、頷いた。
 傍では、鈴夏が、まだ、「うーん、うーん」と唸っている。
 …どうにも、まだ判断がつきかねてるらしい。
 慎重と言うべきか、どう言うべきなのかは、悩むが、此処まで真剣に悩んでくれる子と言うのも、珍しい、かも知れない。

「じゃあさ」
「ん?」
「どんな言葉を叫べば良いもんだと思う? 叫びたいけれど、上手い言葉が中々思いつかない」
「んー……確かに、それは言えるかも」

 解らない、と叫ぶのは簡単だが、結局「何が」解らないのかが説明出来ないので、自分自身どう言葉にしたものか案が出ない。
「もう少し、解るまで待って」と言うのが一番無難なのだろうか、それも何処か違うような気がして、こそばゆい。

「全く……どうしたもんかな……」

 トントンとテーブルを叩きながら、冷めてしまったお茶を口にする。

 不愉快で無いから戸惑い。
 どう、踏み出して良いのか解らず。

 叫ぶ言葉も、どれを言葉にしていいかしっくり、来ない。

ああ、だけども。

 葛自身のままで、一歩を踏み出して良いのだと言うのなら。
 その歩みが、ゆっくりでも構わないと誰もが言ってくれるなら。

(……覚悟しろ、が一番近いかもしれないな)

 この言葉なら、友人も苦笑を浮かべるかもしれない。
 テーブルを叩くのを止めた葛を見、ほくとが問い掛ける。

「何か、思いついた?」
「ああ。…けど、今は秘密」
「あれれ?」
「ちょっとばかり叫ぶと、不思議な、言葉かもしれないからね」

 けど、スッキリしたよ。
 葛は微笑うと、まだまだ唸り続ける鈴夏に「もう、考えこまなくても大丈夫」と告げた。


 さわさわと、気持ち良く、葛に応えるように庭園の木々が揺れている。




―End―

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■   登場人物                  ■
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【1312 / 藤井・葛  / 女 / 22 / 学生】

【NPC / 弓弦・鈴夏 / 女 / 16 / 】
【NPC / 真鶴・ほくと / 女 / 17 / 】&猫

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■        庭 園 通 信          ■
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こんにちは、いつもお世話になっております。
ライターの秋月 奏です。
葛さんには、今回、こちらのゲームノベルにご参加下さり、
誠にありがとうございましたv

さて、葛さんのは少しばかり、異界ピンにて猫と逢った事がある、と
言いますか、猫と接点があったこと、また猫の要望もあり、
猫に迎えに行かせてしまいましたが如何でしたでしょうか?
少しでも、何か気持ちにすっきり出来る事があればいいなあと
想いながら、書かせていただいたのですが……
何か、不思議だな、と思うその気持ちに、何時か葛さんが
気付く事があれば良いなとも。(^^)

少しでも楽しんでいただけて、お気に召した部分がありましたら、
幸いですv

それでは、今回はこの辺で。
また何処かでお逢いできることを祈りつつ……