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<東京怪談・PCゲームノベル>


【女の子だって叫びたい!】力の限り不満を叫ぶ?

「好きです」
 ……言葉にすると、たった、四文字。
 けれど、物凄く重い、四文字。
 普通に友人や、両親には言える言葉。
 友情と感謝と……そんなあたたかな気持ちを込めて、心の限りに。

 なのに、どうして―――

 ―――大好きな人には、一番に伝え難いんだろう?





 言いたいの。
 伝えたい言葉は山と言うほどあるのに――、いつも、いつも。

 姿を見かけても言える言葉は、ただ、空回るばかり。
 言いたい言葉の10の内、言えるのは3つか4つくらい。
 それが、哀しい。

 柏木アトリは、そんな事を考えながら目の前にある紅茶が、すっかり冷めてしまったのを感じ、慌てて、口につけた。
 すっかり、温かみを無くした紅茶の味が何処か今の気持ちとリンクしているようで、ふと、考えていた言葉を口にする。

「言葉って、難しい……」
「どうして?」
「え? だって……」

 胸に湧き上がる気持ちさえ、上手く言えない。
 今にも溢れて、抑えられなくなりそうなのに姿を見るだけで、ただ、幸せで。
 それ以上は言葉になる事さえなくて。

(どうしてなのかしら………)

 何時も何時も思うことは同じ。
 止まってしまう考えさえも。

 何処か押し潰されそうで立っていられなくなりそうで……ちょっぴり、怖い。

 どうして好きな人には、皆に言える言葉さえ、上手く言えなくなるのかしら?

「……ごめんなさいね」

 理由は、解らないわ。

 アトリはそのまま、言葉を言う事も無く、再び、考え込む。

 こうして、考えている時だけ想いは想いのままである様な気がしたから。




 そんな時だ、アトリが「叫びませんか?」と言うチラシを目にしたのは。

 叫ぶ、と言うのは何処か自分には出来ない事のような気がしたものの……この様な事でもなければ、何時までも何時までも抜け出せない様な気がしていた。

 想いが想いでだけあると言うのなら、これほどまで悩むまい。

 ただ、言葉が想いから発せられるものであるだけ。
 想いが、言葉以上に雄弁であるだけに、悩む。

 素直に口にしても、きっと、何処か違うように想ってしまうのは――きっと。

 アトリが、いつも見ている人物が想いは想いのままに、行動は行動のままに、示せる人物だからに他ならない。
 それに対して、私は……と、考え、落ち込んでしまうほどに前を見ている人。

 何時しか落ち込んでいきそうな自分に気づき、アトリは、いけないいけないと、軽く頬を叩きながらも、

(……お話するだけでもしてみたらすっきりするかしら?)

 今一度、そのチラシを見る。
 大学ではない、高等部内、とある部室の名と、本人の連絡先が、その紙には書かれていた。
 そうして、そのチラシには、以前逢った事のある人物の名も書かれていて……ほんの少しだけ懐かしい気持ちを手に、アトリは連絡を取るべく、自分の部屋へと急ぎ、帰っていった。





「ああ、鈴夏。ほら、あの人が柏木さん。以前ね、神社へ花見に来てくれた事があって」
「へえ……お綺麗な方ですねえ…和服が似合いそうな♪」
「うん、実際に花見に来てくれた時、和服を着てきてくれて…目の保養だったなあ…」

 後日。
 連絡を取った後、場所が良く解らないだろうからと、ほくとと鈴夏の二人は、校門の前でアトリを待つことにした。

 歩いていたアトリも、二人の視線に気付いたのか、小走りに駆け寄る。

「ごめんなさい、待たせちゃいましたか?」
「いいえ、それ程は」
「うん、それ程は待ってない。それに色々な人が見れて楽しかったから」
「……それは暗に美大の人は風変わりな人が多いと?」

 僅かばかりに頬を膨らませるアトリに、「そう言う事じゃなくて、服装とかの違いとか……」と、ほくとは慌てて言うが、アトリの表情が笑みを浮かべているのに気付いたのだろう、すぐに、笑顔へと変わり、
「やっぱ、いいね。大学も……高校とは違う雰囲気があって」
 と、呟いた。
「そうでしょう? 高校とが違う課程が学べて……好きなものが勉強できて幸せで……って、このまま立ち話も、何でしょうし……右、左、どちらの方向へ歩きますか?」
「ええと……右へ曲がって道なりを真っ直ぐ……」
 アトリの問いに鈴夏が答え、「じゃあ、着くまでお話しながら歩きましょう」と歩き出す。
 かさかさと歩く度に道端へ落ちた紅葉が音を立て、冷たさを少しずつ運んでくる風が、今が最後と緩やかに温かく、吹いた。

「もうじき、秋も終わりですね……」
「寂しいですか?」
 鈴夏の言葉にアトリは首を振る。
 寂しいわけではない、ただ、過ぎる季節が時に名残惜しい事もある。
 まだ、そのまま。
 もう暫く其の侭でいて欲しいと思ってしまうのを、止められなくて……次に来る季節が少しでも遅れれば良いとさえ――思う。
「いいえ、そう言う事ではなくて――季節は巡るから美しいのだけれど。……でもね、秋の終わりはどう言う訳かいつも季節の終わりを惜しんでしまうの……冬に、なるからかしらね?」
 冬が来るからでしょうか…と言う、鈴夏をフォローするように、ほくとはポツリと呟く。
「秋は物思う秋とも言うし」
「あら……真鶴さんも色々な事を思うでしょう?」
「まあ、それなりには……多分ね」
「ふふ……」

 笑いながら、アトリは、不意に心に浮かんだ疑問符を打ち消した。
 秋が終るのは寂しい。
 そう思うのと同じように、今の季節、人を想うと言う事は無いだろうかと。

(そう言う事ではないと思いたいけれど……)

 何故、こうも、あの人を想う時は嬉しさと切なさと、そしてほんの少しの哀しみが同居するのだろう?
 まるで遠い場所からやって来た美術品を想うかのようだ。
 何時、異国へ戻ってしまうか解らない、威厳ある美術品―――

 叫びたい。
 叫べるのならば。

 力の限りに、すっきりと想いが口に出来るなら。






 ――ねえ、想いは何処から来るのでしょう?

 庭園へと辿り着き、椅子へと腰かけた時、アトリが口にした最初の言葉はこれだった。

「何処からって……ええと……」
「解んないなあ……けど、誰かが居てこそじゃない?」

 うんうん唸る鈴夏を他所にほくとは「だってね」と言葉を続ける。

「まず、あたし一人だったら腹が立つことなんて何もない。けど、それ以上もそれ以下も無いね。一人なんだもん…一人だけで、ずっとずっと」

 それは寂しい事。誰であろうとも、きっと同じ。
 思う事があるのだろう、ほくとはそのまま、唇をきゅっと結ぶと困った顔をしながら笑う。

 先ほどの「それなりには」と言っていた、ほくとの意外な表情を見た気がして、アトリは、
「ですね、一人だけなら、自分だけなら誰しもが此れほどに考えない……。 ええと、ですね私には、大好きな人が居て……」
 と、話を切り出した。
 結局、いつも自分が出してしまう結論になりはしないかと、慎重に、言葉を選んで。
「へえ♪」
「きっと、素敵な方なんでしょうね」
「それは、もう……夢に見る度に、泣きたくなるくらい……ううん、実際に舞台とか観に行った後に、夢は見るんだけれど…その」
 ああ、駄目だ。
 どうにも上手い具合に言葉にならない。
 それよりも墓穴を掘った気持ちにさえなってしまうのは何故だろう?
 …いいや、確実に墓穴は掘っているのだろうけれど……でも、でも……
「え、えっと……柏木さん、別に何も悪い事言ってないよ?」
「はい、真鶴さんの仰る通りで……」
「……え?」
 きょとん、とした二人の顔にアトリは驚きを隠せない。
 夢に見るくらい好き――この言葉はからかわれる、墓穴を掘っている一言だと思っただけに二人の反応は以外だった。
「羨ましい事だと思うよ、夢にまで逢えるほど大好きな人が居るなら」
「本当に♪ 私が夢に見るのは、爺やくらいの顔しか思いつきません……」
「まあ…それは、何と言っていいか……」
「い、良いんです! ほら、いつかはそう言う人も現れるかもですし♪ それよりも、まずは柏木さんのお話をお聞きしたいです……」
 って、私が余計な一言を言ったんですね、と笑顔のまま鈴夏は話の続きを促した。
「あ、はい……そうですね……大好きな人が居て、何時も何時も姿を見かける時に言いたい言葉があるんです。だけど……どうしても、上手くは……ううん、言葉にならないんです」
 何時も何時も、本当にどうしてかしら?
 言葉にならない想い。
 好きですと言えたらと思う私。
 如何すればいいのか解らなくて、ただ切なくて――発する言葉が難しいのかもしれないと思うしかなくて。
「……言う時期じゃないのかもしれないよ」
「「え?」」
 アトリと鈴夏、二人の言葉が綺麗に、重なる。
「言うのには力不足って言うと変だけど……だから、出ないのは言葉に力を貯めてる時期なんじゃないなって。うん」
「………」
 思いもよらない言葉、再び、である。
 どうして、こうも思いがけない言葉が出てくるのだろう?
 そうして。
 その言葉一つに頷きたくなるのだろう?
 ほくとが、ゆっくり、だが軽く、アトリの肩を叩く。
「答えが出ない事が、もどかしい時もあるかも知れないけどね」
「………ええ」
 叩かれた肩の横、僅かに顔を上げる。
 顔をあげると、いつもより澄んだ青い空が見えた。
 秋晴れ、の空。
 秋の空は変わりやすいと言うけれど、晴れ間はとても美しく、また好きな色の一つだが……想いに飲み込まれかけていて、空の色さえ良くは見ていなかった。

(久しぶりに……空を見たかも知れない)

「あの…叫びたい言葉、変えてもいいかしら?」
「勿論。どう言うのにするの?」
「本当はね、好きって叫んで自分の想いを言いたかったんだけど……」

 でもそれは、まだホンの少し先。
 何時の日か面と向かって言える日が来るように力を貯めているのであれば、尚更、今言うのは勿体無い。

 だから。
 自分の中にある言葉や何かに気付かせてくれた人に感謝を込めて。

「ふたりに、"ありがとう"って、大きな声で言いたいの……可笑しい?」
「可笑しくはないけど……」
「じゃあ、決まり。……本当に、ありがとう」

 大きな声で言うより先に、呟いた言葉に鈴夏もほくとも微笑う。
 楽しそうな笑い声に何時しかアトリも、心の其処から穏やかな気持ちのまま、微笑んでいた。



―End―

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■   登場人物                  ■
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【2528 / 柏木・アトリ  / 女 / 20 / 和紙細工師・美大生】

【NPC / 弓弦・鈴夏 / 女 / 16 / 】
【NPC / 真鶴・ほくと / 女 / 17 / 】

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■        庭 園 通 信          ■
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こんにちは、いつもお世話になっております。
ライターの秋月 奏です。
アトリさんには、今回、こちらのゲームノベルにご参加下さり、
誠にありがとうございましたv
そして、納期をぎりぎり一杯まで使ってしまい本当に申し訳ありません!

ですが、悩むアトリさんが本当に可愛く、色々と会話の部分考えるのも
楽しくて(^^)
本当に素敵なプレイングを、いつも有難うございます♪

少しでも楽しんでいただけて、お気に召した部分がありましたら、
幸いですv

それでは、今回はこの辺で。
また何処かでお逢いできることを祈りつつ……