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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜もう一つの出会い〜


 図書館の幽霊。
 そんな話は何処にでもありそうな噂にしか過ぎなかった。
 数の合わない本。
 減っている物もあれば、いつの間にか増えている物もある。
 後者は多少数は減るだろうが、理由そのものは予想出来そうな物だった。
 誰かが持って行ってしまっただとか、またはその持っていった本を別の図書館に戻したなんて事も……考えられない事もない。
 職場の同僚達や、他の図書館と連絡を取り合う際には問題にはなっていた事だ。
 鍵もかけられていたままだし、見張りを立ててもそれらしい人影も見かけない。
 設置された監視カメラすらその姿を映す事はなかったのに、確かに本は移動しているのである。
 何度か警察に話はした物の、持ち出された物が本である事と……内容も呪術関係の物ばかりで、常識と法を重んじる警官には不幸にも、ただの悪戯程度しか扱われずにうやむやにされかけていた事件だった。
 いつの間にか幽霊だなどと言われては居たが……汐耶は人一倍本が好きでもあったし、怪奇現象だなどと言われてもこの目で確かめなければ納得出来なかったのである。
 そんな時だった。
 以前汐耶がが封印した本を預けていた人の書庫から、その本が持ち出されたと聞いたのは。
 依頼主曰く。
 図書館の幽霊の仕業かも知れないと。
「解りました、その依頼お受けします」
 その呪術書は怪奇に関わらない人には重要だと感じなかったかも知れないが……汐耶もその依頼主も知っているのだ。
 そこに書かれている事が人目に触れていいものではないと。
 だからこそ、汐耶はその本を封印したのだから。


 そうして事件を調べ初め……たどり着いたのがこの場所。
 居場所は時折変えているようで、追っている間も点々としていたがようやく追いつく事が出来た。
 ホテルの一室。
 術か何かを使ったのだろう。ホテルの従業員にもこの部屋は無いものと思いこまされていたようだった。
 結界を封印し、扉を開く。
「………」
 中から聞こえるのは小さく咳き込む声だけ。
 声の正体を見てこれは予想外だったと目を瞬かせる。
 驚いた。
 『本』を持っていった少女は、汐耶が予想していたよりもずっと幼かった。
 部屋に来るまでにはってあった結界は、この部屋付近にだけ張られた小規模なものであったが……触れたりするだけで効果を及ぼしたりする物で、かけた術者からは結界がどうなっているか解るようにもなっている。
 もし捜し物の本に汐耶の封印がかけられていなければ、捜すのにもっと時間がかかった筈だろう。
 封印していなければ気付いて逃げられていたかも知れない。
 術その物はかなり良く出来ていたものだから、もっと年上だとばかり思っていたのだ。
「………」
 黒髪の少女はぺたりと床に座り込み、本の山に埋もれている。
 汐耶が近づいているのにも気付かない様で、熱心に本を読みながら思いついたようにメモをとっては本に目線を戻すのを繰り返していた。
 この様子では汐耶が直ぐ近くに居る事すら気が付いていないだろう。
 本に夢中になる気持ちが解るが、このままでいい訳も行かない。
「何してるんですか?」
 彼女が読んでいる『本』は、危険な呪術が幾つも書き記されている世に出してはならない物なのだから。
「―――っ! げほっ、ごほっ!?」
「大丈夫?」
 驚いたためだろう、咳き込み始めた少女の背中を撫でながら落ち着くのを待ってから話く。
「ど、どうやって……ここに?」
「それもちゃんと説明しますから、私にも事情を聞かせて貰える?」
「……は、話?」
 突然の事でどうしたらいいか解りかねているようだが、それでも手にはしっかりと本を握ったままである事には感心する。
「………」
 何かしら迷っているようだからと、汐耶は問を替えて尋ね直す。
「まずは名前から?」
 何かこうした理由があるのだろうから、ゆっくり話をする事にしよう。



 部屋にあったティーパックとポットのお湯でお茶を入れ、ここに来た事の顛末を話して聞かせる。
 逃げなかったのは逃げても無駄だと思ったと言うよりも……汐耶がどうやってここに来たかの方に興味があったらしい。 
「封印……本に読めない頁があったのもその所為ですか?」
「そうよ、危険なものだから」
 かけた封印の効力で本が無事である事は解っては居たが、どこかに持ち運ばれているかとなるとある程度距離を近づかなければ解らない。
 他の図書館も周り、色々な話を聞く内に少しずつ全容がつかめてきた。
 過去に幽霊の噂が立ち始めた頃……正確にはその噂が立つようになった切っ掛けはちゃんとあったのだ。
「上手く隠れていたようだけど、見られてたのよ」
「え……」
「この写真」
 それは図書館の中ではなく、偶然外から取られた写真。
 長い黒髪の少女の姿が朧気にだが、確かに写し取られていたのだ。
 受け取った写真を見ながらポツリと呟く。
「内部のカメラは全部ごまかしたのですが……」
「外の事までは盲点だったみたいね」
 小さな姿は知らない人が見れば幽霊だと思って、そんな噂が立つのも無理はないがそれだけじゃない。
「この写真が取られるより前に、もう一つ切っ掛けがあったのよ」
「………」
「同じ図書館で、通っていた一人の女の子が亡くなったと言う話が出ていたけど本当は……」
 死んでなんて居なかったとしたら。
 こうして、目の前にいる少女が彼女だとしたら。
「まだ、名前も聞いていなかったけど……」
「………」
「斑目・瑪瑙ちゃんでいいのよね」
 昔通っていた図書館にちゃんと記録が残っていたのだ。
「………今は、ただのメノウです」
 胸に抱えたままの本をしっかりと抱き締め首を振るメノウにそうと頷く。
「解ったわ、メノウちゃん」
「……はい」
 確信に近づいていているのが解って口ごもるメノウに、聞きたい事を真っ直ぐに視線を会わせて問い掛ける。
「いままでどうしてたか、聞いても良い?」
「………」
案の定だんまりを決め込むメノウにどうしたものかと少し考えてから、試しにと聞いてたのは。
「その本、面白かった?」
「……! はいっ」
 途端に喜々として目を輝かせ、読めた部分で解った事を話し始める。
 とても、楽しそうに。
「前々から考えていた理論が……似たような術のいい所だけを抜粋して、負担を少なくして効果を高めようとしてたのですけれど。どうしても上手くいかなくて……」
「そうなの」
「はい、でもこの本を読んで大分解ってきました。同じような系統の物ですから同一の部分はそのままで良いとして、細かい属性の違いや術式の差異をしっかりと抑えて別の物で補わないとならなかったんです。それがなんなのか解らなかったのですが……ようやく解りかけて来ました」
「良かったわね」
「はい……こほっ」
 喉を押さえて小さく咳き込んでから飲み物をとろうと手を伸ばして、はたと動きが止まる。
「ここへはどなたかと一緒に」
「……一人よ」
 理由には直ぐに気付いた。
「結界は……?」
「………封印、したわね」
 何かから逃げている途中のようだと感じたが……何から?
 慌てたように時計を見てから、床に散らばった本や紙の束をまとめ始める。
「そろそろ戻ります、いま……視られているので」
「戻るって何処に? 誰かに視られてるの?」
 念のためと、確かめたのだ。
 彼女の家では……いや、戸籍ですらも死んだ事になっているのだから。
 今から帰った所で、娘が生きていた事を純粋に喜ぶかどうかは解らないような人達がそこにいた。
 話を聞きこうと電話をかけた時に、怪訝そうな声をされ……三分もしないうちに仕事だからと電話を切られてしまったのである。
 まるで終わった事にはもう関わりたくないとでも言いたげに。
「ごめんなさい、それは……でも帰る場所があの家ではない事だけは、確かです」
「……そう」
「もう行きますね、話を聞いてくださってありがとうございました」
 荷物を一纏めにしてから、呪の書かれた紙をばらまき何かを唱え始めるメノウ。
 汐耶は少し考えてから。
「もし良かったら家に……」
「……えっ?」
 驚いたように顔を上げる。
 ほんの少し遅かった事に気付いたのはたった『今』だ。
 視界一面に舞う紙の向こうにあるメノウの姿は半ば消えかけている。
 転移の術なのだと理解したのはメノウの姿が消え、紙の大半が床に落ちてから。
「………」
 本も、彼女が大事そうに抱えていた紙の束も消えてはいたが……彼女は確かにそこにいたのだ。
 静かになった部屋の中、ポツリと呟く。
「………この紙、どうするのかしら?」
 最後に使った術で部屋中に巻いた紙がまだ残っているのだ。 
 その一枚を拾い上げ、苦笑する。
「言えなかったわね」
 家の事もそうだが………。
「本も……持っていったままなのだけど」
 どうしようかと溜息を一つ。
 大分遠くに移動したようだが……かけてある封印のおかげで多少は解るのだ。
 あの様子では、まだしばらくは『図書館の幽霊』の噂は途切れる事もないだろう。
「次あったら、今度はちゃんと本を借りるように言わないとね。それから……」
 もう一度言う事にしよう。
 『家に来ない?』と。


 それからまた色々な出来事があって、汐耶の家でメノウが一緒に暮らすようになるのはまだ先の話。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】

→他の出会い方をしていたら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

IF依頼、ありがとうございます。
他の出会いかたと言う事でこのような形になりましたが、
もしもの世界楽しんでいただけたら幸いです。