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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


   ◆◇ 輝石の檻 ◇◆


 薄紅色の石の嵌った、銀の指輪。
 濃紺のケースのなか、澄ました顔で鎮座している。
 テーブルの上のそれと、ソファに腰を下ろした青年を見比べて、草間は煙草を取り出した。
「と、好いですか?」
 一応、青年に断りを入れたものの、右手はすでにライターを握っている。
 青年はにっこり微笑んで頷いた。人懐こい、柔らかい笑みだった。
「取り敢えずは、これを見て下さい」
 草間は咥え煙草で、差し出された指輪を摘み上げた。
 手に取ると、意外に重い。台座の銀は絡み付く蔦の丁寧な細工が施されていて、渋い風合いに燻されている。きっとお高い品だろう。
「綺麗ですね」
 コーヒーを運んで来た零が、うっとりと呟く。
「そちらのお嬢さんと、同じくらいの年の妹にあげようと思って」
「妹さんに、ですか……」
 妹に贈るのに指輪はどうかと思いながら、草間は灰皿に煙草を押し付けた。
「石の部分だけ、好く見てくれませんか?」
 云われるままに、指輪を目に近付ける。
 透明な、藤色掛かったピンク色。石の名前は、わからない。とろりとした、甘い甘い色合いだ。
 ――零には、どんなものが似合うかね。
 先ほどの零の様子を思い出しながら、しげしげと石を見詰める。
 ふと、石のなかに僅かな濁りを感じた。
「お兄さん……」
 先に異変に気付いた零が、草間の腕に触れる。
「なかに、なにかいます」
 零の言葉通り、薄紅色の石のなかで、なにかがもがいている。薄暗い蔭が、ゆらゆらと揺れている。
 それがなんなのか、草間には判別出来ない。だが、特別誰かに害を与えるものではない気もするし、逆に、ひどく不吉なもののようにも思える。
 どちらにしても、薄紅の可憐な石に、幻妖なるモノが封じられているのは確かだった。
「折角妹のために手に入れたのに、これでは妹に渡せません。調べて、『処理』をお願いしたい」
 空っぽになった指輪ケースを、青年は指先で示す。
「こんな変なもん呑み込んでいる指輪を、それでも妹さんに贈るつもりですか?」
「ええ。中身さえ引き剥がせれば、問題はないでしょう」
 草間の問いに、青年は返すのはやはり微笑。
 指輪をケースに戻し、代わりに冷めたコーヒーカップを引き寄せて、草間は深い溜め息を吐いた。
 なんだか、指輪のなかの異物も重いが、目の前の青年も微妙に重い。
 そう考えながらも、依頼は受けるつもりになっていた。
 なにはともあれ、生活費。誰だって食わなきゃ、生きていけない。
「お引き受け、しましょう」

       ◆◇ ◆◇◆ ◇◆

「ピンク・オパールかしら? それにしては、透明ね。私も同じような石を持っているけれど」
 件の指輪をひかりに翳し、草間興信所の貧乏閑なし事務員シュライン・エマが呟く。
「俺に石の名前なんてわからねえよ」
「そんなこと、誰も武彦さんに期待していないわよ。ねえ、零ちゃん」
 シュラインの言葉に、零が素直過ぎるほど素直にこっくり頷く。
 そっぽを向いて、草間が煙草のフィルターを噛み潰した。
「とても、綺麗ですよね」
 珍しく、零が指輪に執着を見せる。おやおや、と、シュラインと草間は視線を交わす。
 その時、けたたましい呼び鈴が部屋に響き渡った。
「こんにちは」
 続くのは、呼び鈴の騒がしさとは裏腹に、涼やかな声。
 長い髪を揺らしてなかを窺うのは、興信所では御馴染みの顔だった。
「ちょっとお仕事、煮詰まっちゃって……ネタ探しに来たんですが、なにか面白いこと、ありました?」
 少し遠慮がちな細い声で、雨柳凪砂はさらさら囁く。
 24才になったはずだがその容姿にはまだあどけなさが残り、そっと支えてやりたいほど頼りない。
「丁度好かった。ねえ、手伝ってくれない?」
 こう云うとき、リードを取るのはやさぐれ所長ではなく、男前な事務員である。
 紅いエナメルの指にあっと云う間に引っ張り込まれ、凪砂は指輪を覗き込む羽目になる。
「……奇妙な匂いがしますね」
「どんな?」
「なんて云うんでしょう……寂しい気持ちになります。なんとなく、抗いがたい、当たり前の寂しさ」
「なんだ? そりゃ」
「ごめんなさい。あたしにも、なんだか好くわからなくって。こんな想い、昔も感じたことがあった気がするんですけど……思い出せません」
 困ったように、凪砂が小首を傾げる。
 頤に指を当て、思案げな顔をしていたシュラインが、いきなり立ち上がった。
「見ているだけじゃ、なにもならないってことね」
 椅子に掛けてあったレザーコートを取り上げ、肩に羽織る。
「こうしていても、仕方ないでしょう。取り敢えず、あたしと凪砂ちゃんで、この指輪、プロに鑑定して貰いに行きましょう」
 わたわたと真っ白なダッフルコートを取り上げる凪砂を手招きし、のんべんだらりとソファに座り込んだ所長を睨み付ける。
「武彦さん、あなたは、もう一度依頼人にお話を聞いてきて頂戴。これじゃあ、なんのことだかさっぱりわからないじゃないの。怪奇探偵失格!」
 ぴしゃりと云い捨てて、凪砂をお供にドアの外へ。
「……上等だ。希むところだ。合格になってたまるか、畜生」
 零が、無言で愚兄に同情の眼差しを注いだ。


 その頃、シオン・レ・ハイはいつものように空腹だった。長いコートをずるずる引き摺らんばかりに、縋り付いたのは草間興信所の扉。
「こんにちは〜私、もう腹ヘリヘリハラです〜」
 へろへろと、情けなく呻く。
 部屋の中には、ふてくされてソファに沈み込む武彦の姿があった。
 横目でちろ、とシオンを見て、ぐれぐれに煙草の煙を細く吐き出す。
「なんだ、おまえか」
「そんな云い方はひどいです〜なにか食べさせてくださぁい。零さ〜ん、シュラインさ〜ん」
「零は買い物だ。シュラインは……」
 云い差して、草間は口を噤む。
 手許には、依頼人が残していった彼の店の名刺。
 どう頑張ったとしても、心霊塗れの依頼に草間の腰は重い。
 なら、代打を送ってみたとて、なんの罪があろうか。むしろやる気がある人間の方が数倍マシだろう。
 ひとりで勝手に話を纏め、草間はにんまり、一回り年上のうだつの上がらない男に笑い掛ける。
「この店、行ってみな。草間の使いだって云えば、奢ってくれるぜ。そうそう、ついでにこんな話も詳しく訊いて来てくれないか……」
 腹へり中年に、否やはない。


 シュラインと凪砂が向かったアンティークショップ・レンは、千客万来と真逆を行く店だ。
 だけど、求めるものには必ず開かれる、当たり前でいて難しい性質を持っている。
「珍しい品を持ってきたね」
 ひとめ指輪を見て、店主の碧摩蓮が口笛を吹く。
「そんなに有名な代物なんですか?」
 シュラインが訊ねると、蓮は斜に、シュラインから一歩下がっている凪砂を見遣る。
「好事家を名乗るなら、知っていてもおかしくない呪物だよ」
「……すみません」
 凪砂は俯いて赤くなる。彼女の『好事家』タイトルが曖昧であることは、誰でも知っていることだ。彼女が幻妖に惹かれつつも一歩踏み込む勇気がないことも、蓮は見抜いている。
 凪砂が、自分のなかのフェンリルに親しみながらも、決して表に晒すことが出来ない、そんなふがいなさと同じ根から生まれた弱さを、蓮は時折、ちくりと刺してみせる。
 忘れちゃいけないと、揶揄してみせる。
「まあ、あやかしに嵌るか否かは、本人の意思以外なにものでもないけどね。所詮、ヤクザ稼業だ」
 素っ気無く云って、また蓮は指輪を覗き込む。
「それで、これはどんな呪物なんでしょう」
 さり気なく慰めるように凪砂の肩に触れて、シュラインが訊ねた。
「『天使の揺り籠』さ」
 閃かせた薄紅の石の影が、ぼんやりと壁に映る。
 靄のように、薄暗い闇。闇に溶け込むには冷たさが足りない、影と呼ぶしかない薄ら闇。
「『揺り籠』……?」
「随分、綺麗な名前ですわね」
「まあねえ」
 曖昧に頷いて、蓮は指輪の台座を撫でる。
「ほら、ここを見てごらん」
 云われるままに、覗き込むと蔦の飾りに隠され騙し絵のように、流麗な文字。
 いまでは、かなりメジャーになったワンフレーズ。
「『Memento Mori』」
 容易く、シュラインは読み取る。
「『死を、想え』……?」
 蓮は、応じるように重い口調で、呟く。
「これは、死者の揺り籠さ」


「死者の揺り籠ぉ?」
 なんとも不吉な単語に、シオンは飲み掛けのコーヒーを吹き出しそうになった。
「そりゃあなんとも、物騒な……」
「まあ、そう云われれば、そうかも知れませんね」
 言葉に似合わぬ穏やかさで、嵐、と名乗った依頼人の青年は微笑んだ。
 場所は、古い一軒家を改装したブックカフェ。レトロな雰囲気と少し重い空気は、どちらかと云えばひとり客専門、と云った風情だ。実際に、この店は、壁と窓に向かったカウンター席のみ。カップルが陣取るようなテーブル席は、ひとつもない。
 この店の店主である青年とシオンが座っているのもまた、店の奥まったカウンター席だった。並んで座るかたちになって、少しばかり話がしづらい。
 当然奢りとして確保したサーモンとクリームチーズのべーグルサンドに手を伸ばし、シオンはまた話を再開する。
「で、なにが死者で、なにが天使で、なにが揺り籠なのか、私にはさっぱりわかりません。大混乱ですぅ」
「死者の魂を捕獲する呪物なのですよ、あれは」
 染みの形を確かめるように壁を見詰めながら、青年はカフェラテで唇を湿らせる。
「死んだ瞬間に、あの呪物を発動すると、死者の魂を結晶化して捕まえることが出来る。勿論、死人です。生きてはいません。要は、魂のミイラのようなもの。でも、あの石はなかなか美しいものでしょう?」
「綺麗なものは綺麗でしょう。でも、綺麗じゃないなあ、と感じるなら、それは綺麗じゃないものなんじゃないですかぁ?」
 もぐもぐ口を動かしながら、緊張感なくシオンは云う。
 シオンのなかの世界はくっきりと分かれている。別に苦労なしなのではなく、経過した時間がシオンをそんな生き物にした。年輪の分だけ、子供になる。それを、シオンは自分に赦した。
 好きなものは好きだし、可愛いものは可愛い。大切なものは大切で、おかげでしっぺ返しの大貧乏。でも、それを後悔したことはない。
「愛してるなら、愛してる。愛は世界を救っちゃうんですよ!? 上等じゃないですか。で、このサンドイッチ美味しいですね」
 ベーグルサンドを呑み込んで、にっこりにこにこ、シオンは笑う。
「困ってしまいますね」
 青年は苦笑を返す。
「綺麗だけど、綺麗じゃない。そう云うものを妹に贈りたくて、僕はあの指輪を手に入れたのに。僕は、妹が好きです。愛しています。でも、僕にないものを持っている彼女が、同時に憎くて堪らない。綺麗なだけのものは、あげられないんです。なにかの呪いを、彼女には贈りたい」
「いま、なにか贈らなきゃならないんですか?」
 今度は付け合せのポテトに手を伸ばし、オカマちっくに斜め45度、シオンが首を傾げる。あどけない少女がしたなら可愛らしいだろうが、四十路のオヤジの仕草としては不気味な所業。
「ぐしゃぐしゃしているなら、いま、プレゼントなんて云わなくても好いじゃないですか。どおせ、先は長いんです、いまの日本の平均寿命は八十歳、イッちゃってます!」
「……そうかも知れませんね。あなたを見ていると、それも有りかも知れない」
 だけど、と青年は小さく、カップに呟きを落とす。
 ――だけど、それまで待っていられるほど、僕は、彼女に無関心ではいられないんですよ、と。


 つん、と指先で、一気に不気味な様相を呈してきた指輪をシュラインは突付く。
『死者が死んだ瞬間のこころが穏やかであれば穏やかであるだけ、揺り籠が抱え込む結晶は澄んだものになる。逆は、当然濁るって寸法さ。この影は、おそらくこの魂の持ち主の悲しみや苦しさ、そんなものが凝ったんじゃないかい』
 草間興信所のソファセット。草間、シュライン、凪砂は真ん中に指輪を据え、なんとも釈然としない気持ちで座り込んでいた。
「贈りものにしては、随分陰気な代物だな」
 草間が、重く呟く。
「でも、とても綺麗ね。死んで、こんな綺麗なものになれるんなら、死ぬのもそれほど悪くないんじゃないかしら」
 心底そう思っているかのように、シュラインは微笑む。石ころよりもよっぽど、生きている彼女は艶やかで強くて美しい。全てを受け入れて、全てを呑み込む。シュラインは強い生き物だと、そんな笑みひとつで見せ付けられる。
 そんなシュラインを見るのは、凪砂には少しばかり辛い。
 子供っぽい自分が、情けなくなる。
「馬鹿なこと、云うなよ。揺り籠の呪いに毒されたのか?」
 草間が、ぶっきらぼうに吐き捨てる。
 ふ、と目元だけで、シュラインが笑う。
「さて、どうするかね」
「どうしましょうかしらね。由来がわかっても、影をどうして好いのかさっぱり」
「あのッ」
 反射的に、凪砂が叫ぶ。
 きょとんとした草間とシュラインの目に怖気づいて、それでも、勢いのままに言葉を押し出す。
「あたしに、なんとかできるかも知れません」
 云った瞬間に、後悔した。このふたりの前で、フェンリルの能力を使うことになる。
 でも、発した言葉は、どんどん坂道を転がっていく。
「本当に?」
「どうやって?」
 サラウンドになった声に、凪砂は無理無理力強く頷く。
 後には引けなくなってしまった。


 フェンリルは、影に関わる幻妖だ。
 なら、石のなかに封じ込まれた影も引き摺りだせるのではないか。
 指先で首輪を緩めて、凪砂が確信なく考えたこと。
 左手の上に乗せた指輪に、右手を添える。眸を閉じて、指先に神経を集中する。
 ざわり、と身体のなかに住むフェンリルの息遣いを感じる。想像のなかのフェンリルの毛並みは柔らかい。頬杖をしたくなる。だけど、それでもこの子の存在を誰かに知られるのは怖い。矛盾している。
 石のなかに、こころを忍ばせる。思索の指を差し込んで、かたちのない影に触れる。
 指先から伝わる気持ちは、ひどく切ない。
 初めに感じた、やるせなさ。以前、どこで感じたか、凪砂ははっきりと思い出した。
 あれは、父母の葬儀のとき。もうどうしようもなく失われたものを哀しむ気持ちと、この石の感情は好く似ている。
 どちらも、死を前にした取り返しの付かなさだ。
 ――死者から、死した後の苦しみを取り除くことは、果たして意味があることだろうか。
 凪砂は、ぼんやりと想う。
 肉親を失った凪砂にとって、死は絶対的なものだ。
 残されたものにとって、死は褪せることがあっても、癒すことは不可能な喪失。同じように、死者にとってもまた、死は全き終結であるかも知れない。
 それを揺らすことに、なんの意味があるだろうか?
 凪砂の惑いを置き去りに、閉じた眸の奥で、フェンリルがぱっくり口を開ける。
 赤頭巾に出てくる狼のような真っ赤な口で、幻妖も躊躇いも喰い尽くそうとする―――。
 その時。


 巨大なブザーの音が空気を切り裂いた。


「きゃあああッ」
 意識が剥がれて、フェンリルが凪砂の制止を振り払う。
 フェンリルは、嬉々として目の前のご馳走を貪る。
 すなわち――魂の結晶である輝石、そのものを。
 跡形もなく、指輪の石が掻き消えた。
「うわあああ」
「きゃあああ」
 草間とシュラインの悲鳴が、凪砂の悲鳴に重なる。
 三重奏。
 石を喰われた指輪は哀れ、台座だけが凪砂の手に残る。
「……なにか、ワタシやりましたか?」
 扉の影に、しょぼくれた中年の姿。
 シオンはぽかんとした顔で、部屋のなかの狂乱を見渡した。


 メインの石が消えうせた指輪は、細工の巧みさが逆に間抜けだ。
「どうしましょうかねえ」
 空っぽの指輪を覗き穴に、シオンは呟く。
 数分前に繰り返した問答がひとり増え、問題は更に深刻化。
「どうしましょう……ごめんなさいッ! ごめんなさいッ!」
 もう何度目かわからない言葉を、べったり膝に付くほど頭を下げて凪砂が繰り返す。
「仕方ないわ……ここのブザーが悪いのよ。絶対に、付け直す」
 シュラインが、物憂げに呟く。
「まあ、仕方ないわな……」
 草間は、煙草がすでに何本目か。
 四者四様。
「依頼人さんには、なんて説明しましょうかねえ?」
 青年の姿を思い浮かべ、呑み込みきれない依頼が潰れたことを密かに喜びつつ、シオンは誰ともなく訊ねる。
「……誤魔化す」
 思い詰めたように、草間が呟く。
 指先で吸殻を弄りながら、ふと、シュラインに視線を走らせる。
「シュライン」
「……なに?」
 不吉な予感に、シュラインが顔を顰める。
「お前、同じ大きさのピンクなんとか、持っているとか云っていたよな?」
「ピンクオパールよ……」
 予想通りの結果に、小さく、聴こえない方が好いような気持ちでシュラインは答えた。


 まろやかな輝きの石が、指輪の中心を彩る。
 ためつうすがめつして、青年は感情の見えない笑顔を浮かべる。
「随分、綺麗になりましたね」
「ええ、まあ……」
 歯切れ悪く、草間が応える。
 シュラインは無言で、コーヒーをテーブルに置いた。
「ありがとうございます」
 礼を云い、彼が部屋を出て行っても、ふたり、無言でコーヒーを啜る。
「ただいま帰りました」
 買い物袋を提げ、零が事務所に入って来る。
「さっき、すれ違った人に、頂いたのですが」
 そう云う彼女の手には、依頼人が持ち帰ったはずの指輪。
「下さるって仰ったんですが、宜しかったのでしょうか」
 結局、全部青年にはバレバレだったらしい。
 がしゃがしゃと、草間は髪の毛を掻き毟る。
 シュラインは、口許に手を当てる。噛み潰したのは、溜め息か笑みか。
「好いわ。あげる。ね、好いわよね、武彦さん」
「お前が、そう云うならな。零、大切にしろよ」
「ありがとうございます。お兄さん、シュラインさん」
 うっすらと頬を上気させて、零がぺこりと頭を下げながら、ふと、零は付け加えた。
「あのひと、とても優しそうでした。この指輪はきみの方が似合うだろうから、あげる。僕は僕の一番好きなひとに、一番似合うものをもっと時間を掛けて探してみるよ。あの、長髪のひとにそう、伝えておいて。そんな風に、云ってました」
「長髪……シオンか。あいつ、なにを口走ったんだ」
 信用度ゼロの台詞を、草間は吐いた。
「あ、ちょっと待って」
 零と指輪を見比べていたシュラインは首筋に手を当て、自分が付けていたシルバーチェーンを外す。指輪を通して、零の首に回して見せた。
「指輪よりも、ペンダントの方が好いわ。掃除のときも付けていられるもの。ね、武彦さん?」
 苦虫を噛み潰したような顔の草間に、笑い掛ける。
「好いのか、おまえのオパールだろうが」
「好いのよ」
 笑って、シュラインは付け加えた。
「もっと好いものを、武彦さん、買ってくれるんでしょう?」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3356 / シオン・レ・ハイ / 男性 / 42歳 / びんぼーにん(食住)+α】

【1847 / 雨柳・凪砂 / 女性 / 24歳 / 好事家】

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC2001 / 新見・嵐 / 男性 / 29歳 / ブックカフェ店主】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、新米ライターのカツラギカヤです。今回はご発注、ありがとうございました。これが初めての複数のお客様からの発注ですので、全てが初体験……お見苦しいところも、あるやも知れません……。
雨柳さんは少し迷いがある柔らかい女性、シュラインさんは逆に強くて華麗な美女、そしてシオンさんは、能天気だけど芯のある男性では、と思いこんな物語に仕上げました。少しでも、気に入って頂ければ幸いです。
今回、細かなところで微妙に、各PC様への分析が足りなかったかも、と感じたところがあります。不都合がなければ、好いのですが……。
繰り返しになりますが、今回はありがとうございました。また、宜しくお願いします。