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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

宮小路皇騎編

「たしかこの辺りの通りだったな……。」
 宮小路皇騎(みやこうじ・こうき)は手に持った小さな箱を気にしながら、周りを確認しながら呟く。
「たしかここを曲がって……、ああ、あったあった。」
 そう言って見つけたのはかなり古い看板を掲げた古本屋、文月堂であった。
 皇騎は店の看板を再度確かめるとゆっくりと店の中に入って行った。
「こんにちは、今日は先日のお礼に……。」
 店の中に入った皇騎がそう挨拶を言い書けたところで、言葉を止める。
 皇騎の視線の先には、おそらく店番なのだろう一人の少女がカウンターの中でコクリコクリとうたた寝をしている姿が目に映った。。
「やれやれ、これじゃ全然店番になってないですよね、お客さんが来たらどうする気なんでしょう?」
 皇騎は自分の事は自分が客だと言う事はしっかり棚に上げながら、苦笑しながらもそんな事を呟いて少女の事を見つめる。
「それにしても、この子は寝てるし、隆美さんはいないし困ったな……、この時期だからすぐに悪くなるということはないだろうけど。」
 先ほどから手に持っている小さな箱を見ながら困ったように皇騎は天井を見つめる。
 その小箱は皇騎が先ほど自らが並んで買ってきた、とても人気のあるケーキショップのケーキで丁度、皇騎が最後にぎりぎりで買えたいわば苦労の結晶であった。
「せっかくここまで来たんだし、この子が起きるか隆美さんが帰ってくるまで待たせてもらいますか……。」
 ケーキの小箱をカウンターの隅において、何かしばらく時間をつぶせる本でも探そうかと思って立ち上がったところで皇騎は寝ている少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)の幸せそうな寝顔がふと視線に入る。
「あれ……、この子は……。」
 陰陽師の一族の出であり、自らも優れた術者である皇騎はその幸せそうに寝ている紗霧の寝顔の奥にある紗霧の本性に気がつく。
 そして少し前に噂で聞いた『とある話』を思い出していた。
「そういえば、秋篠宮の一門が何か最近抱え込んだ、という話を聞いた事があるが……、そう言えばここはあそこの……。」
 その噂とは、関東にある秋篠宮神社に協力している者達が『吸血鬼の少女を引き取った』という者であった。
「ふむ……、そうかこの子がそうなんだな、でも私が口出すべき事でもないし、隆美さん達が認めているなら構わないんだろう、それにこの子は吸血鬼といっても力は殆ど残っていないみたいだし。」
 自分を納得させるかのように呟いた皇騎は彼女にそっと自分の着ている上着を掛けてあげて、ゆっくりと店内を探し始める。
 店の中を一回りしてきて戻ってきた皇騎の気配に気がついたのか、紗霧はそっと目を覚ます。
 「ん……あれ?この上着って……?」
 まだどこか眠気が取れていないのだろう、紗霧は眠そうな瞳をこすりながらぼんやりと自分に掛けられた見た事が無い自分に掛けられている上着を見つめる。
「ああ、起こしてしまいましたか?あまりに気持ち良さそうに寝ていたんで、起こしちゃまずいかな?と思って声をかけなかったんですが。」
 皇騎のその言葉で紗霧は店番の途中で、ついついうたた寝してしまった事に気がつき真っ赤になって俯いてしまう。

……
………
…………

 そしてなんとなくお互いに気まずい時間が流れるが、その場の空気を打破しようと皇騎が紗霧に話しかける。
「あ……お目覚めですか?」
「うん……、お兄さんはどなたですか?」
 まだどこか寝ぼけているのか紗霧はどこかちぐはぐな質問をしてしまう。
 その少しちぐはぐな質問と紗霧の様子に思わず笑みを浮かべながら、皇騎は今日の用件、数日前に隆美にお世話なったお礼をしに来た事を話す。
「あ、そうだったんですかお姉ちゃんならまだしばらく帰らないと……。」
 紗霧はそこまで言ってふと時計を見ると、慌てた様に言い直す。
「あ、こんなに寝ちゃってたの?あ、お姉ちゃんならもうすぐ帰ってくると思います。」
「それじゃもう少し待たせてもらおうかな?かまわないよね?」
「はい私は全然構いませんよ。ええっと……。」
「私は宮小路皇騎、君の名前は?」
「紗霧です、佐伯紗霧、皇騎さんってなんだかどこかの貴族さんみたいな名前ですね。」
「貴族みたいか、そんな風に言われたのは初めてだな。」
 その皇騎の言葉に紗霧はさも意外といった表情をする。
 紗霧のそんな様子を見て、皇騎は自分の考えが間違っていなかった事を確信する。
『やっぱりこの子はきっと大丈夫だ、噂というものはやはり一人歩きするものなんだな。』
 そんな事を考えていた皇騎だったが、紗霧の呼ぶ声で現実に引き戻される。
「まだお姉ちゃんは帰って来ないみたいだし、何か飲み物でも入れてきましょうか?」
「あ、もし良ければお願いできるかな?何か暖かいものだと嬉しいな。」
「はい、それじゃお茶でも煎れてきますね。ちょっと待っててください。」
 紗霧はそう言って立ち上がり、お茶を入れるために奥に下がって行った。

……
………
…………

「きゃぁぁぁ!」
 紗霧が奥に下がって行った後、しばらくして彼女の悲鳴が急に奥の部屋から聞こえてくる。
 その声を聞いた皇騎は、自分でも気がつかぬ内にカウンターを飛び越え叫び声の聞こえた方へとすぐに駆け出していた。
 声の聞こえた部屋までやってきた皇騎は息を整える間もなく声を掛ける。
「紗霧さん、どうしたんですか?」
 言葉を発してからすぐに皇騎は事態を今までの経験から何となく察していた。
 紗霧が手に持っている本、多分彼女は動かそうとしただけか何かだったのだろうが、何かのきっかけからその本に封じられていた『何か』の封印が解けてしまった事に。
 皇騎は着ているジャケットのポケットからすばやく、符を取り出して印を切る。
「ここで騒動を起こす訳にはいかないですからね……、だからこれで。」
 印を切り、呼び出した物は不動明王が左手に持つという羂索であった。
 悪しき心を縛り善き心を奮い立たせるという羂索を皇騎はぎゅっと握り締める。
 改めて皇騎がその『何か』を見るとそれは悪意を持った茶色の影であった。
 その影が紗霧のそばを通る度に彼女の服が鋭利に切り裂かれていく。
「きゃぁぁ!!」
 紗霧は悲鳴を上げながら持っていた本を取り落とし、ただただうずくまって身を守る事しか出来なかった。
 皇騎はその影が紗霧に飛びかかろうとした瞬間に狙いすまし、手に持った羂索を投げつける。
 羂索はまるでその悪意に惹きつけられるかの様にその影が紗霧に攻撃を加えるぎりぎり直前にその影を捉え絡めとる。
 皇騎が絡めとったその影を引き倒すとそこには怨念の籠った様な瞳で周りを見つめる鎌鼬の姿があった。
「大丈夫ですか?紗霧さん。」
 羂索に絡めとられて動けない鎌鼬を確認すると、うずくまっている紗霧にそっと手を伸ばす。
「あ、ありがとう……。」
 涙目で上目遣いでそっと助けてくれた皇騎の手を取る。
 そして皇騎の手をとって立ち上がろうとした紗霧だったが、鎌鼬によって切り裂かれた服が立ち上がった拍子にはらりと捲れ、胸につけている黒いレースの下着が皇騎の視線に飛び込んできた。
 皇騎は赤くなって慌てて視線をそらしたのを見て、紗霧は今の状態にようやく気がつく。
「きゃぁ!!見ないでっ!」
 思わず悲鳴を上げて紗霧はもう片方の腕で慌てて切れ目を隠す。
 紗霧が立ち上がったのを確認すると、皇騎は紗霧の方を見ないように手早く絡めとった鎌鼬を本に再封印し、紗霧に声を掛ける。
「それじゃ私は店の方に先に戻ってます、その本はもう封印したから大丈夫ですよ。あとこの本は私が買わせていただきますよ、責任をもって。」
 どこかうわずった声で紗霧にそう話し掛けると皇騎はその本を手に取ると店の方に戻って行った。
「……参ったなぁ、まさかああいう事になるとは思わなかった…。」
 皇騎は店のカウンターに頬杖をつきながら、先ほどの事を思い出して、紗霧が戻ってきたらどういう顔をしていいのやらと思わず考え込んでしまう。
 しばらくして紗霧がさっきまでとは違う、白いワンピースに着替えて戻ってくると、つい照れ隠しの笑顔を浮かべてしまう。
「おかえりなさい、その服もさっきの服と同じでよく似合ってますよ。さっきまでの色も良いですけど、白い服というのも肌の色とあってい手にあってますよ。あ、さっきも言いましたが、この本危ないですし、私が買って行きますよ。」
 そう言って傍らにおいてあった本をカウンターに戻った紗霧に見せる。
「あ、お買い上げありがとうございます。」
 紗霧がそう言ったところで、お店の扉が音をあげて開き、そこに入ってきた人影を見て紗霧が嬉しそうの声を上げる。
「おかえりなさい、お姉ちゃん。」
 ………と。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 宮小路・皇騎
整理番号:0461 性別:男 年齢:20
職業:大学生(財閥御曹司・陰陽師)

≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうもこん○○わ、ライターの藤杜錬です。
前回に続き、ゲーノベ『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加いただきありがとうございます。
前回とは違い今回は紗霧との交流を中心に書かせていただきました。
紗霧とのちょっとしたハプニングなどがありましたがいかがだったでしょうか?
前回同様、今回も楽しんでいただけたら幸いです。
それではこれから寒くなっていきますが、風邪などめされぬ様ご自愛ください。

2004.11.07
Written by Ren Fujimori