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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


あなたの想い、お作りします。


 ひとつ編んでは父のため〜ふたつ編んでは母のため〜。
 みっつ編んではあなたの…。

 季節は初冬。冬の贈り物といえば?

 そう、あったか〜い手編みのマフラーです!

 人知れず心を寄せるあの人へ、振り向いてはくれないあの人へ、
 日頃の感謝の気持ちを伝えたいあの人へ。

 あなたの『想い』、形にしてみませんか?

 当店が責任を持って、あなたの『想い』、形にする術をお教えします。
 さあみんなでレッツ編み物!!


 ご注意:『想い』を埋め込んだマフラーが、どんな風に仕上がるか…
      それはお客様の意思によって変わります。
      少しまどろっこしい告白の手段に使用するのもよし、
      憎いあんちくしょうへのお礼参り…げほんごほん。
      使用目的は何でも可。
      ただし化け物は生み出さぬよう、細心の注意を払ってください。



                雑貨屋『ワールズエンド』店長ルーリィ





「…何、これ?」
 神聖都学園の女教師、響カスミは、職員室前に張られた張り紙の前で立ち尽くしていた。
…いつの間に張られてたのかしら、こんなもの。
「…一見まともな宣伝のように思えるけど…この注意事項が気になるわね。
なんだかにおうのよ…あぁ〜また怪奇現象なの?もういやっ!」
 カスミは思わず嫌な想像をし、頭を抱えた。
「こんなの…あんまり関わりたくないけどっ!出来ることならさっさと破って捨てたいのよ。
でも何か祟りでもあったら……」
 ゾッと青ざめた顔で手を組むカスミ。
関わり合いになるのも嫌だが、余計な火の粉が降りかかるのも嫌らしい。
全く持って難儀な性格だ。
「でも、このまま放っておくのもまずいわよね…。
そう、私は教務で忙しいから!誰か様子を見てきてくれない?
私は忙しいのよ、ごめんなさいね!」
   



                        ★



 その日の放課後。使われていない教室で、その会合は開かれた。
前の黒板にはでかでかと大きなかな釘文字で、『編み物教室inワールズエンド』と書かれていた。
その黒板の前に立つのは、長い金髪を揺らし、笑顔を浮かべている一人の少女。
「ようこそいらっしゃい、皆さん!あなたたの参加、心より歓迎致しますっ」
 色とりどりの毛糸玉が入った籠を抱え、目の前に立つ五人によく透る大きな声で言った。
「私の名前はルーリィ、雑貨屋の店長です。
今回はちょっと思い立って、こうして空き教室を借りて、編み物教室を開いてみました。
私は編み物のプロではないので、十分なことはできないかもしれませんが…、
でもその分、想いをこめることについてはアドバイスできると思います。
といっても、皆さんのほうがそれには長けているかもしれませんけどね?」
 だって、『想い』の持ち主は貴方方なんだもの。
ルーリィはそう言って、持っていたカゴを教卓の上に置いた。
そして目の前の五人に向かって言う。
「さあ、どこでも好きなところへ座って頂戴」
 彼女がパチン、と指を鳴らすと、五人の目の前に良くある教室の椅子が現れた。
そしてルーリィは自分の目の前にも椅子を出すと、ちょこんとそれに座る。
「さて、まずは自己紹介かしら。彼女からどうぞ?」
 出された椅子は、いびつな円を描いていた。
ルーリィは、自分のすぐ右隣に座った女性に顔を向けた。
「ええ…初めまして、我宝ヶ峰・久遠(がほうがみね・くおん)と申します」
 久遠と名乗った女性は、穏やかな笑みを浮かべてそういった。
綺麗な黒髪を持つ彼女は、常に目を伏せていた。
だが周囲の様子は分かるようで、まっすぐ前を向いている。
「久遠さん?もしかして、目がお悪いのかしら」
 ルーリィは首をかしげてそういった。
「ええ、少し…事情がありまして。でも特に不自由はないので、ご安心を」
 そう言って、ルーリィのほうを向く久遠。
確かに不自由はなさそうだ。
 ルーリィはそれならば、と頷いて、久遠の横に座っている女性に声をかけた。
「さあ、どうぞ?あなたのお名前は?」
「ああ。ルーナという、宜しく頼む」
 中性的な美しさを持った彼女は、かすかな笑みを浮かべてそう言った。
透ける様な銀色の髪を持ち、その瞳は青く輝いている。
「ルーナさん?素敵なお名前。新月、だったかしら?」
「その通りだ。ルーリィ殿は博識だな」
「え?そんなことないのよ。ちょっとどこかで聞いたことがあっただけ」
 あはは、と照れ笑いを浮かべて、頭の後ろを掻いた。
ルーナはそんな彼女を優しく見つめたあと、ふ、と笑って背を椅子にもたれた。
どうやら自分の番は終わり、という意思表示らしい。
「えっと…じゃあ次は、あなたね?」
 同じような調子で、デルフェス、シオンと続き、ルーリィの左隣まで来たところで、違う声があがった。
「あのう、ルーリィさん?」
「はぁい?えーっと…」
「月夢優名です。ちょっとお聞きしたいんですが」
「何かしら?」
 ルーリィは首を傾げて彼女を見た。
唯一の学生である彼女は、
「この教室、参加費とかいらないんでしょうか?
張り紙には書いてなかったもので」
「ああ…そのことね?」
 ルーリィはくすり、と笑って答えた。
「要らないわ、お金をとるほどのことでもないもの。
だから皆さん、気楽にやってね?」
 だから敬語もいらないわよ、そんな堅苦しく考えないでね。
そういいながら、彼女は教卓に置いたカゴの中に手を突っ込んだ。
そして中から、薄い冊子のようなものを五冊取り出す。
その取り出した冊子を五人に回すように配り始めた。
当然起こるのは、疑問の声。
「ルーリィ様、これは一体?」
 そう言って不思議そうに冊子を手に取ったのはデルフェス。
「あはは…実は私もそんなに上手くないのよね、編み物。
だからこれを教材代わりね?あ、ちなみにそこの本屋で買ってきた、普通のテキストだから。
それは心配しないでね」
 別に怪しいものじゃないわよ。
苦笑しながら、彼女らに向かってそう言った。
「これは詐欺では…」
「あらでも、お金をとらないので詐欺ではないのでは?」
 そういいながら顔を見合わせているシオンとデルフェス。
「まあまあ。多分貴方方の中でも編み物が得意な方もいるでしょうし、皆さん教えあいながら編みましょう!」
 ルーリィはパァンと手を叩き、にっこりと笑顔を浮かべて言った。
「さあ皆さん。気持ちのこもった、良い物を作ってね」
 


                        ★




「…着てはもらえぬセーターを…って切ない歌詞よね、あれは」
 はぁ、と目を伏せたまま、久遠はため息を漏らした。
それに気がついたルーリィが、とてとてと近寄ってくる。
「久遠さん、どうかした?何だかとても寂しそうだけど」
 そう言って、眉を潜めて心配そうに久遠の顔を覗き込む。
久遠はルーリィの存在に気がついて、はっと顔をあげた。
「あら…ルーリィちゃん。ごめんなさい、『想いを編みこむ』会なのに、ため息は禁物よね?」
 ルーリィは久遠の言葉に、あはは、と笑って首を横に振った。
「そんなことないわよ。何も笑いながら編まなきゃダメってこともないわ。
それに想いが強ければ強いほど、切なくもなるものよね」
 うんうん、と同感したのか強く頷くルーリィ。
そしてぱちん、と指を鳴らして椅子を呼び出し、いそいそとそれに腰掛ける。
「よければ切ない『想い』、聞かせてくれない?恋人さんかしら。
…あ、でも言いたくなければ言わないていいのよ?」
 久遠は伏せた目をほんの少し和らげ、ゆっくり首を振った。
「いいえ、大丈夫よ。…でも恋人じゃないけど」
「そうなの?じゃあ片想い相手ってところかしら」
 ルーリィはどこかわくわくした様子で尋ねた。
また20歳にも満たない少女だ、やはり色恋沙汰の話は好きなのだろう。
 久遠はルーリィのそんな様子を肌で感じ取り、口元だけでくすりと笑った。
「ふふ、残念ながら違うの。ルーリィちゃんのご期待には添えないわね」
「あら、そうなの」
 じゃあどんな関係かしら、とルーリィは不思議そうな顔で尋ねた。
「ええ…」
 久遠は言いかけ、少し首を折って俯く。
「これが、妹なのよね」
「………妹?」
 ルーリィは思いがけない答えに、少々目を丸くする。
だがハッと気がついたように硬直し、
「まさか…生き別れとか?」
「いいえ、そういうわけでもないわ。私の血を分けた、大事な大事な妹なの」
 妹のことを思い出してか、はぁ、とため息を漏らす。
「私がこんっっなに想ってるのに、あの子ったら…反発しちゃうのよね」
 何故かしら、と頬に手を当てて首を傾げる。
「へ、へえ…そうなの…」
 ルーリィはひくひくと苦笑を浮かべながら、頭の中で思った。
(もしや…シスターコンプレックスってやつかしら)
 しかし、ぶんぶんと首を振って思い直す。
(でも、姉妹仲が良いってのはいいことよね!
あ、でも妹さんは反発してるって………うーん…あ、そうね)
「それはきっと照れてるんだわ!」
 そうに決まってる、と何故か断言した口調でびしっと言う。
久遠はその言葉を聞き、顔を上げた。
そして口元を上げ、クスッと微笑む。
「やっぱりそう思う?」
「ええ、そうとしか考えられないわ!」
(…多分ね)
 ボソッと呟いたルーリィの言葉は聞こえなかったのか、久遠はやっぱりそうよねえ、などと呟く。
「でもね、毎年マフラーを編んで、プレゼントしてるんだけど、全然使ってくれないのよ」
「ふぅん、妹さんってよっぽどの照れ屋なのね」
 会ったこともない妹像を植えつけられ、ルーリィは納得したように頷いた。
「でもね、そろそろ私も使って欲しいから…この教室は丁度良かったのよね」
「そう?なら良かったわ。やっぱり編んでいるのは妹さんへの愛情かしら?」
「ふふ、それもあるけど…」
 そう言って、久遠は口元を歪ませて、ニヤリと笑った。
「毎年毎年贈り続けているマフラーを、つけてもらえなかった恨みとか…。
マフラーたちの、放置され続けている怨念とか…そういうものをね…」
 ふふふふ、とある種不気味な笑みを浮かべながら、久遠は手を動かした。
ルーリィは嫌な予感を感じながら、久遠の手元の編みかけのそれに目を落とす。
そして予想通りの『それ』を見て、ひきつった笑みを浮かべた。
「…何だか…夜な夜なすすり泣きでもしそうな感じね…」
 かろうじてそれだけ言って、彼女は心の中でまだ見ぬ久遠の妹に、祈りをささげた。
(…どうか危ないことにならないうちに、久遠さんの気持ち、受け取ってあげてね…。
とりあえず。…………お大事に)







                        ★


「あら、もうこんな時間」
 ルーリィはふと気がついて、顔を横に向けた。
窓の外から見える空は、既に闇が広がっていた。
「ごめんなさい、あんまり楽しくて時間を忘れちゃった。皆さん、出来上がった?」
 そう言ってルーリィは、五人の顔を見渡す。
各々の手には、各々の想いを込められた作品が乗せられていた。
「うん、ちゃんと出来たみたい。皆さんの『想い』、とっても暖かかったわ」
 お疲れ様、と五人に向かって笑みを向ける。
「皆さんの想い、届くといいわね」










 そして人気がなくなった教室で。
ルーリィは一人で後片付けをしていた。
教室の後ろに追いやっていた机を元に戻しながら、忘れ物がないかチェックをしながら。
そしてそこに、カタン、と音が響いた。
ルーリィがパッと振り返ると、戸口のところに大きなシェパード犬がちょこんと座っていた。
その毛並みは銀色に光っている。
 ルーリィは犬を見て、驚いて声をあげた。
「銀埜!どうしたの、遅かったじゃない」
 助手を頼んでたのに、と思わず頬を膨らませる。
銀埜と呼ばれたそのシェパード犬は、申し訳なさそうにうつむき、耳を垂らした。
「…申し訳ありません、門のところで…その」
「?どうしたのよ、一体」
 ルーリィは眉を潜めて、銀埜に駆け寄った。
そしてしゃがんで、彼と同じ目線になり、ん?と首を傾げて促す。
「怒らないから言ってみなさい。どうしたの?」
 銀埜はしぶしぶながら口を開いた。
「……門のところで、学生たちに捕まえられまして」
「ははあ。また可愛がられちゃったの?どうせ撫でられて嬉しかったんでしょ」
 事情を察して、にやりと笑みを浮かべる。
銀埜は慌てて首を振った。
「いえ、そういうことはありません。早く手伝いに行こうと必死だったのですが。
…どうやら犬好きのものがいたらしく…」
「あはは、良いわよもう。思った以上にすんなり終ったしね」
 気にしちゃダメよ、とルーリィは暖かい毛皮を撫でた。
「…さいですか。ルーリィ、会のほうはどうでしたか?」
「うん、中々良かったわよ。思った以上に暖かい『想い』ばっかりでね。
ふふ、良い材料になりそう」
 ルーリィはそういって立ち上がった。
銀埜は呆れたように言う。
「…また何かの実験に使うおつもりですか?」
「何よ、良いじゃない。銀埜だって知ってるでしょう?」
 そう言って、ルーリィはくすっと笑う。

 「ヒトの『想い』っていうのは、得られそうでいて滅多に得られない、格別の材料なんだから」










 おわり。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2181 / 鹿沼・デルフェス / 女性 / 463歳 / アンティークショップ・レンの店員】
【2803 / 月夢・優名 / 女性 / 17歳 / 神聖都学園高等部2年生】
【3356 / シオン・レ・ハイ / 男性 / 42歳 / びんぼーにん(食住)+α】
【3890 / ノワ・ルーナ / 女性 / 662歳 / 花籠屋】
【4276 / 我宝ヶ峰・久遠 / 女性 / 24歳 / チェンバロ奏者】



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■         ライター通信          ■
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初めまして、ライターの瀬戸太一です。
今回は当依頼に参加して頂き、誠に有り難う御座います。
今回の作品では、各々に個別の部分を設けさせていただきました。
個別の部分の場所はPCさんによって違いますが、
大体同じぐらいの分量にしたつもりです。
宜しければ、他のPCさんの納品作品も読んでみて下さいませ。

ステキなプレイングばかりでしたので、
主にプレイングの内容を反映させてみたいと思い、心理描写の部分が大目です。
気に入っていただけると光栄です。
そして、あまり編んでいる部分の描写がなくて申し訳ありませんでした;

ご意見、ご感想等ありましたら、どうぞお気軽に送ってやって下さいませ。
お返事は多少遅くなるときもありますが、1週間以内には書かせて頂きます^^

それでは、またどこかでお会いできることを祈って。