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調査コードネーム：おなかの虫が騒ぐので
執筆ライター ：階アトリ
調査組織名 ：草間興信所
募集予定人数 ：1〜6人
------＜オープニング＞--------------------------------------
天高く馬肥ゆる、食欲の秋である。
「とにかく、おなかが空くんです」
言って、依頼人は菓子箱を開けた。
「いくら食べても、足りないんです」
依頼人は、制服を着た女子高生。新製品のチョコレート菓子の箱が、その手にはよく似合う。何の不自然もない光景のはずだった。興信所に来てものの10分で、彼女が平らげた量を見ていなければ。
新しく開けた箱の中身が、瞬く間に消えてゆくのを、草間・武彦（くさま・たけひこ）は目を丸くして見ていた。
依頼人と彼の間にある応接机一杯に、菓子の空箱や袋が散らかっている。
「単に秋だから、というわけではなさそう、だな」
「当たり前でしょう！」
どん、と依頼人は拳で机を叩いた。片手でそうする間にも、もう片方の手は休まずチョコレートを口に運んでいる。
「おかげで学校にも行けやしないんです！」
依頼人はここ数日、異様な食欲に悩まされているのだという。最初は、いつもより頻繁におなかが空くな、程度のものだったのが、今では見ての通り、常に何か食べていないと、倒れそうなほどの空腹に襲われるそうだ。
「病院には？」
「行ったけど何もわからなかったから、ここに来たんでしょ！」
それはそうだ、と草間は息を吐いた。
制服から覗く脚は、すらりと細い。食べている量も異常だが、非常識的なカロリー摂取を続けているというのに体重の増加はないというのも異常だ。痩せの大食い、で済ませられるレベルではなかった。
「どう考えても、おかしいんだもの。ここなら、不思議な事件を扱ってるって聞いたから……」
依頼人は、すがる目で草間を見ている。
「一つ言っておくが、うちは怪奇専門じゃない」
草間はちらりと壁の張り紙を見た。『怪奇ノ類 禁止！！』と書いてある。噂が噂を呼び、その方面で有名になってしまった今、この張り紙も空しい限りだ。
「だが、本気で困ってるようだし、話は聞いてやろう」
切羽詰ってやって来た人間を無下に追い返せる程、草間は冷淡ではない。そのせいで、怪奇探偵のレッテルが剥がれないのだということを、本人も少しは自覚している。
「噂を聞いて来たってことは、何か心当たりがあるんだろ？ 怪奇事件だっていう、な」
頷いて、依頼人は口を開いた。
「ちょっと前に、渋谷のゲーセンで……飲むだけで絶対ヤセるって噂の、薬を買ったんです」
***
あちこちで色とりどりの光が明滅し、雑音の溢れる場所、ゲームセンター。
「今日の売上はー。ニィ、四ィ、六、と。あはは、ボロいわ！」
ゲームの筐体に凭れて、札を数えている少女が居る。その手の中にあるのは、全て一万円札だ。十万の束が、見る見る内に複数出来上がってゆく。制服姿の女子高生が握っているにしては、いささか高額だろう。
「何買おっかなー。コートとブーツは絶対でしょ。ちょっと美味しいものも食べに行きたいしー」
笑いが止まらない顔で札束を仕舞った少女の足元に、真っ白い狐が心配げにまとわりついている。
「いいの？ あんなに売っちゃって」
鼻先を上げ、狐が口を利いた。少女が唇を尖らせる。
「何よ。欲しいって言ってる奴らに売ってやって、何が悪いの」
「でもさぁ。アレ、卵でしょ？」
「……痩身薬、と言いなさい」
「痩身薬ったって、痩せるのは、卵から孵った餓鬼虫が、おなかの中に寄生して、宿主が食べた物の栄養分を横取りするからで……ムガッ」
少女に鼻面を握られて、白狐は黙った。
「いーい？ シロウ。生活がかかってるのよ。商売にはイメージが重要なの。そんなキモいもんだってバレたら、誰も買わなくなるでしょう？」
「そ、それを黙って売ってるのが問題だと思うんだけど……」
モガモガと、狐が呟いたが、少女は鼻で笑うだけだ。
「安全性なら、絶対に問題ないわ。ほんとなら呪殺に使う虫だけど、ちゃんと力を弱める処置をしてあるんだから。余分なカロリーだけ吸収するように、ね」
ポケットから、少女は小さなピルケースを取り出した。100円ショップでよく売っているような、半透明のプラスチック製のもので、中には小指の先ほどの大きさの白い粒が一つだけ、入っている。
ケースの蓋にはシールが貼ってあった。シールには女の子特有の丸っこい字で、『注意☆一人一粒。絶対、それ以上飲んじゃダメだょ☆』と書いてある。
「一匹おなかに飼うだけなら、一生仲良くやっていけるわよ。たかだか二万で太らない体が手に入るなんて、安いもんでしょ」
ゲーム機の出すちらつく光を頬に映しながら、少女は笑った。
「ま、用法用量を守らないバカのことは、知らないけどね」
------＜集え！ 調査隊＞------------------------------
依頼人が話を終えた時点で、事務所にたまたま揃ったのは三人だった。
「と、いうわけで、よろしく頼む」
その三人へのバトンタッチを超速攻で宣言すると、草間は自分の事務机に引っ込んだ。
妙齢の美女、制服の少年、金髪の青年。年齢性別職業、全てにおいて何の共通点もない三人だというところが、非常に草間興信所らしい。
「もちろん、協力させてもらうわ。下手すれば人命に関わるものね､武彦さん」
草間の机にケーキとコーヒーを置きながら、妙齢の美女、シュライン・エマは言った。
「よっし、俺も頼まれてやろうじねーの！」
草間に代わってソファに座った制服の少年、葉室・穂積（はむろ・ほづみ）はやる気満々である。
「今日はただ、シュライン嬢にデザートをお持ちしただけなんですが。タイミングが良いというか悪いというか……まあ、これも何かの縁ですね。頼まれましょう」
軽く肩をすくめ、金髪の青年、モーリス・ラジアルが穂積の隣に掛ける。脚を組む仕草が嫌味なく似合うのは、美形の特権だろう。
「じゃ、まずはお茶でもしながら詳しいお話を伺いましょうか」
応接机の上にも手際よく皿とカップを並べてから、シュラインもソファに座った。
ケーキはモーリスが持ってきたチョコレートケーキである。
「どうぞ。この店のは、チョコレートが濃厚で美味しいですよ」
モーリスに勧められ、依頼人は緊張した面持ちでフォークを取った。モーリスの視線を気にしている様子で、さっきまでのようにガツガツいかないのは、現金な乙女心故か。
「本当、美味しいです。こういうの、前は太るのが気になって食べられなかったんですよね……」
「でも今は、食べても食べても太らないんだろ？ いいんじゃないの、おれも最近よく食べるしさ」
よく食べる、と言ったのを実証するように、大胆にケーキを崩して頬張った穂積を、依頼人が睨みつけた。
「そりゃ、最初は嬉しかったわよ。でも、限度があるの！」
限度がある。確かにそうだ。三人の視線が屑篭に集まった。そこには、依頼人が持ち込んだお菓子の残骸が山盛りになっている。
「渋谷のゲーセンで買ったクスリかぁ」
空になった皿を置いて、穂積はふと何か思い出したようだ。
「そういえば、ウチのクラスの女子もそんな話しをしてたっけ。そいつはヤバそうだから買わなかったって言ってたけど」
「あら。その薬って、高校生の間では噂になるほど有名なのかしら？」
「どうだろ。女子の間では評判だったのかな」
シュラインの問いに、穂積は首を傾げた。かわりに、依頼人が答える。
「すごく良く効くからって、口コミやメールで、どんどん広まってたみたいです。女の子なら皆、知ってるんじゃないかな」
「では、相当の人数がその薬を飲んでいる可能性がありますね」
モーリスの危惧は、頷いた依頼人によってすぐに肯定された。
「はい。クラスメイトの子も何人か飲んでました。それで、大丈夫みたいだったし、噂通りほんとに痩せてたし……、だから私も買ったんですけど」
「当然、販売も製造も無許可の薬、よね。どんなものなの？」
シュラインの前に、依頼人は小さなピルケースを出した。中身は空だ。
「これに、真珠みたいな粒が一つ、入ってました」
「ふーん。これ、一人一粒って書いてあるけど、それ以上飲んだらなんでダメなの？ 一つなんてケチ臭いことしないで、沢山飲んだほうが効きそうじゃん」
横から覗き込み、ラベルの注意書きを読んで穂積が首を傾げる。
「一人に一つしか売ってくれないのよ。それに、二万もするし」
「え、二万円もすんの！？ じゃあダメだ」
依頼人と穂積の会話に、モーリスが苦笑した。
「それ以前に、過ぎたるは及ばざるが如し、ですよ。用量を守らなければ、薬も毒になりかねませんからね」
気まずげに、依頼人が首をすくめた。
「あの。実は私……一つ飲んだらすごく効いたから、バイト代はたいて、友達に頼んでもう一つ買ってきてもらって……」
おずおずと広げた掌の上には、同じピルケースがもう一つ。
「二つ、飲んだの？」
目を丸くしたシュラインに向かって、依頼人は申し訳なさそうに頷いた。
「気になるんだけど、その薬ってどんな見た目だったのかしら？」
「えーと。柔らかいカプセルみたいな感じで、真ん中に芯みたいなのがあって。あ、そうそう！ イクラの粒をちょっと大きくして白くしたみたいな！」
イクラ、がよほどぴったりだったのか、依頼人はポンと手を打った。腕を組み、シュラインは唸る。
「それって、要するに、卵……？」
「効果が継続的ですし、彼女の胃のあたりの妙な気配から見ても、薬の正体はどうやら……」
モーリスが、シュラインの言を継いだ。皆まで言わず苦笑しているのは、シュラインと同じことを考えているからであろう。
「……まるで、マリア・カラスね」
「マリア・カラス？」
「お腹にサナダ虫を飼って、ダイエットに成功した人よ」
呟きを聞きとがめた穂積に、シュラインは耳打ちした。依頼人の心の健康の為にも、聞かせないほうが良いと判断したからである。
「あ。なんかソレ、映画で見たような気がする」
穂積も薬の正体を察したらしく、うへえ、と顔を顰めた。
「どうでしょう。彼女のほうは私の治療でどうにかなりそうですが……薬の売り手を放っておく訳には行きませんね」
「そうね。違法とは言え､着眼点としては悪くなさそうなんだけど、安全面のケアを怠りすぎだと思うわ」
「そうだそうだ！ 大体、二万って！ そんなん自給七百円の所で一日３時間働いて十日近く掛かるじゃん！ アコギだ、許せない！」
抱いている感情はまちまちのようだが、とりあえずは、売り手を捕まえようということで三人の意見は一致した。
「薬を売ってたのは、私と同じくらいの女の子で。偽名かもしれないけど……伊吹・孝子（いぶき・たかこ）って名乗ってました」
売り手の詳細を依頼人から聞いて、モーリス、シュラインは顔を見合わせた。知っている名前だ。
------＜in ゲームセンター＞------------------------------
モーリスに依頼人の治療を任せた後、シュラインは資料集めを始めた。
ネット上や街で囁かれる噂を集めて判明しただけでも、薬を飲んだ者は数十名。余程手広く商売していたらしい。
食べても太らなくなった、肥満だったのが標準になった、など良い評判の方が確かに多いのだが、痩せすぎて困る、胸が小さくなってしまった、など、苦情も何件かあった。
また、依頼人のように、効果を期待して一人一粒の用量を破り、異常な食欲に悩まされる者がこの先他に出ないとも限らない。
「本当、着眼点としては悪くなかったのよね｡ただ､一匹しか身体に居られない仕組みにするとか……それに、注意書きも抽象的だし。そのあたりの詰めが甘いわね」
集めた資料を書類に纏め、ファイルに詰めてシュラインは渋谷に出た。
依頼人から聞いたゲームセンターは数箇所。孝子はそのどこかに居るだろうということだった。
携帯を見ると、先に事務所を出た穂積から、発見したというメールが届いている。シュラインはその場所へ向かった。
さまざまなゲーム機の出す音に、人の声と足音。ゲームセンターは雑多な音の坩堝だ。
カツカツ、コツ。店の奥から、床を通じて聞き覚えのある足音が聞こえてくる。苛々と地団太を踏む音だった。
やがて、足音の主の声がした。両替機の前からだ。
「もう一回！ 今度はあれ！」
見覚えのある少女――孝子が、両替機に一万円札を突っ込みながら大型のプライズマシンを指さしている。足元で、白い狐が心配げに、せわしなくうろうろしていた。
穂積は孝子の隣で、少々げんなりした顔をしている。「足止めさせるついでに、悪どく儲けた金を散財させてやる」と息巻いていた彼は、どうやら孝子を上手く乗せることに成功したようだが、ゲームセンターで数万円も消費するのは大変だと、今になって気付いたらしい。
息を吸い、シュラインは雑音に負けないように声をかけた。
「はい、そこまで。葉室くん、足止めお疲れ様」
シュラインの姿を認め、孝子が目を見開いた。
「げっ！ シュライン・エマ！」
「あら。随分なご挨拶ね、孝子ちゃん」
あからさまに嫌そうな顔で、身構えて引いた孝子に、シュラインは苦笑しながらファイルを開いた。
「あのね。痩せ薬で随分と儲けてるみたいだけど、薬だって言うからには製造にも販売にも許可が要るの、知ってる？ あなた、何もしてないでしょう。まず、そこで薬事法を違反してるのね。トラブルも何件か起こってるし、今すぐ販売を止めなさい」
「……何よ。随分調べてきたみたいだけど、私が売ったって証拠でもあるの？」
書類には、数枚に渡って孝子の罪状と被害報告とが書き連ねてある。しかし売買の現場を押さえられたわけではないからか、あくまで孝子は強気だ。
「あーっ。さっき認めたくせに、シラ切るつもりかよ！」
穂積が指さして声を上げたが、孝子はプイと横を向いて知らん顔だ。
「確かに証拠品はないけれど、これだけの情報を提供すれば、警察だって黙ってないわよ？」
シュラインは呆れ顔でファイルを突きつけたが、孝子は罪を認めるどころか、じりじりと出入り口の方へと引いて、逃げる隙を覗っている。その背中が、品の良いスーツの胸元にぶつかった。
「ちょっと、どこ見て歩いてんのよ！」
威勢良く噛み付いた孝子だが、ぶつかった相手が誰であるか知って息を呑む。
「げっ！！ モーリス・ラジアル！」
「お久し振りですね。覚えていて頂けて光栄ですよ」
見惚れてしかるべきの笑顔を、モーリスはその顔に浮かべていたが、孝子にとってはいっそそれが恐ろしいらしい。ものすごい勢いで逃げようとしたのだが、モーリスがその手首を捕えるほうが早かった。
「！ 何よ、放しなさいよ！！」
「相変わらずのようですね。降参するなら今の内ですよ？」
孝子はもがいたが、眼前に白い粒を差し出されてギクリと動きを止めた。半透明で、中に白い芯がある――そう、ちょうど、イクラを白くしたような。モーリスの笑みが、少し意地の悪いものに変わった。
「依頼人の胃から摘出したものを、あるべき形に戻してみました。……おや、一目でこれが何かおわかりですか。それはそうですよね？ あなたが作って、売っていた物なんですから」
「し、知らないって言って……！」
尚も否定する孝子の顎を、モーリスはごく自然な動作で指で掬い、ヒョイと上向かせた。そして何をするかと思えば。
「あら」
意表を突かれたというか、彼らしいというか。モーリスの行動に、シュラインは思わず声を漏らしていた。
しかし、孝子のほうがもっと驚いただろう。いきなり顔を寄せられ、キスされたのだから。
ぎゃあ、と悲鳴をあげたのは、孝子の白狐だ。
「てててててめえ、お、表に、でで出ろ！ お、おおお俺だってしたことねーのに！！」
モーリスに向かって、狐は尻尾を逆立てて赤い口を開いたが、孝子は唇を奪われたことを気にするどころではない様子だ。
「何てことするのよ！ の、飲んじゃったじゃないの！」
必死の形相でモーリスを突き放し、孝子は喉元を掻き毟った。微笑して、モーリスは空の掌を広げる。
「自分で飲むのはお嫌なようだ。それを他人に売るなんて、感心しませんね」
「うるさい！ だ、誰が好き好んで腹に虫なんか飼うもんですか！！」
わめいた後、はっとした顔で孝子は口を覆った。白い粒が虫の卵だとは、製造販売者のみが知る事実のはずだ。語るに落ちるとはこのことである。
シュラインが前に進み出た。
「気持ち悪いって問題だけじゃなくて、痩せすぎて困ってる子もいるの。虫を追い出す方法、作ったあんたは知ってるんでしょう？」
「……それは」
「知らずに薬を飲んだ子たちが、これからも虫を飼いつづけるかどうか、自分で選べるようにしたいのよ。出来ない事だと思えば最初から捜して頼んだりはしないわ」
書類をちらつかせつつも、先ほどと打って変わって、シュラインの声は優しい。
「…………わかったわよ」
不承不承のむくれ顔ながらも、孝子が頷く。
「すげー。飴と鞭だ……」
大人のやり口を見せ付けられた気分なのか、ぽつりと穂積が呟いた。
-----＜事件解決＞------------------------------
半日ほど絶食すること。
餓鬼虫を腹から追い出す方法は、拍子抜けするほど簡単だった。
「要するに、胃袋に入ってきたものを横取りすることしかできない寄生虫だったということですね」
言って、モーリスはカップを口に運んだ。
報酬の受け取りのために、興信所には三人が揃っている。応接机には、コーヒーと、タルトの乗った皿が人数分。今回もモーリス差し入れだった。
「食うもんがなくなると、すぐに飢え死にかあ。儚いモンなんだなあ、コイツ」
もう自分の分を平らげてしまった穂積は、ソファの背にもたれ、なにやら薬瓶を蛍光灯にすかしている。瓶の中には、例の白い粒がぎっちり詰まっていた。孝子に出させた在庫品である。
「どうしようか？ 殺虫剤でもかける？ ちょっと可哀相な気もすっけど」
「そうしましょう。残しておいてもロクなことはなさそうだし」
パソコンの前で忙しくキーボードを操作しながら、シュラインが賢に同意した。
「よし、と。これでいいでしょ。私も一休みして、お茶を頂くわ」
パシン、とエンターキーを押して、シュラインは立ち上がる。スクリーンセーバーに切り替わる前に、ディスプレイには何かの掲示板が表示されていた。背景画像といいタイトルといい、オカルトチックな話題のかわされる場所のようだった。
「なあなあ、さっきから何やってたの？」
「ネット掲示板にね、新しい噂を流したの。『虫を薬として売る少女』ってタイトルで」
穂積に答えながら、シュラインもソファに着いた。
「あのコも懲りたとは思うんだけど、二度と同じ手で儲けようとしないように、一応ね。知り合いの女子高生にも噂を広めるように頼んだし。葉室くんも協力してくれると嬉しいわ」
「うん、オッケー。明日女子にちょっと話しとく。そうだよな、虫だってわかってたら、誰も買わねーよな」
「……そうでもないかもしれませんよ」
モーリスがカップをテーブルに戻した。形の良い唇には、苦笑が浮かんでいる。
「一匹除去した時に、依頼人に虫を見せて差し上げたんですけどね。それでも、もう一匹は残しておいて欲しいとお願いされたくらいですから」
「ウエ。そうなの？ 女子ってスゲエ……わっかんねー……」
本気で嫌そうな顔をする穂積に、モーリスは肩を竦めて見せた。
「女性の、美容にかける執念は凄いですからね」
薬瓶を弄びながら、穂積は「ワカンネー」を繰り返している。まだまだ成長期、食べたものは全て、日々の活動エネルギーと上に伸びる分に消費されるお年頃。そんな彼にとっては、虫を飲んでまで痩せたいなどとは、理解しがたい心情であろう。
「まあ、私も女性だから、そういう気持ちもわからなくはないわ」
コーヒーを一口飲んで、シュラインは溜息を吐いた。皿の上でキラキラと光っている苺のタルトに、すかさず穂積の視線が走る。
「じゃあさ、俺がそれもらってやるよ。すっげえ美容に悪そうじゃん？」
穂積の手を避けて皿を引き、シュラインはにっこり笑った。
「結構よ。美味しいものを美味しく食べることだって、良い美容法なんだから」
ＥＮＤ
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登場人物（この物語に登場した人物の一覧）
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【4188／葉室・穂積（はむろ・ほづみ）／17歳／男性／高校生】
【0086／シュライン・エマ（しゅらいん・えま／26歳／女性／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【2318／モーリス・ラジアル（もーりす・らじある）／527歳／男性／ガードナー・医師・調和者】
登場ＮＰＣ（全て http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1080 より）
【NPC1761／伊吹・孝子（いぶき・たかこ）／17歳／女／邪法使い】
【NPC1722／シロウ（しろう）／350歳／男／邪法使いの下僕】
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ライター通信
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はじめまして、もしくはコンニチハ。担当させて頂きましたライター、階アトリです。
毎回の事ながら期限当日納品、申し訳ありません。
今回は最初から犯人は出しているし、一本道気味のストーリーでした。
しかし皆様それぞれ個性的なプレイングで、一本道にはまったくならず。
出来上がってみれば各ＰＣ様ごとに、かなりの雰囲気の違いがある作品になっていました。
それぞれのＰＣ様のキャラクターに、ちゃんとあっていればよいのですが……。
＞シュライン・エマさま
いつもお世話になっております。
作中でも触れさせて頂きましたが、今回はまさしくマリア・カラスのサナダ虫が元ネタです。
食べても食べても太らない……乙女の夢だなあ、虫でさえなければ。などと思いまして。
ＮＰＣの伊吹について、シュラインさんはバカ娘を暖かく見守って下さっているような雰囲気だなと思い、そういうイメージで書かせて頂きました。
今回も楽しませて頂いてしまいました。
では、御参加真にありがとうございました。
またお会いできる機会がありましたら、幸いです。
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