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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


[ 弱者の強さ(前編) ]


 その日草間興信所のドアを叩いたのは、月刊アトラス編集部編集長である碇麗香。
 入ってくるなりソファーに腰を下ろすとその美脚を組み、出されたお茶に口を付け……一息吐くとここの主である草間武彦の話など聞かず話し始めた。
「社員のことは社内でどうにかすることだろ? うちに持ちかけられてきても困る」
 言いながら武彦は煙草に火を点ける。此処最近の金欠を示している、味は今一だが一番安価で買える煙草だ。
「確かにそれはあるわ。けれど今みんな出払っているし、あの子に少し危険な仕事を任せたのは確かだから…ここまで、判るかしら」
 言われて武彦はただ頷く。
「あの子、慌てると周りが見えなくなっちゃうから今何処にいるかなんて予想はつかない。それでも、探して欲しいの」
「ずっとコレの繰り返しをするつもりで?」
 言いながら煙草の煙を吐く武彦は、もうかれこれ同じやり取りを二時間続けていることに疲れを感じていた。
「えぇ勿論。あなたが首を縦に振るまで」
「よほど暇なのか……社員想いなのか」
 小さく呟いた武彦の声が麗香に届いたかは判らない。ただ彼女はもう一度武彦を見、組んでいた脚をようやく下ろす。
「探してくれないのならば、うちの雑誌に此処の記事載せるわよ?」
 ガタッ!!
 瞬間武彦は椅子から立ち上がり、顔色を変えた。
「そ、それは止めてくれ!! これ以上怪奇依頼を持ってこられてたまるかっ」
「ならば……桂の捜索、お願いできるかしら? あの子が開けた穴がまだ僅かに残っているわ。出来るだけ早くうちまでいらっしゃい」
 そう言う麗香を傍目に武彦は慌てて電話帳を探す。勿論早々にこの依頼を解決してくれる人物を探すため。
「それじゃあ先に帰るわね」
 ソファーから立ち上がった麗香に武彦が少し顔を上げた。
「ところで、桂に頼んだ仕事って? 一応知っておけば探しやすいし、それ次第ではお前たちの調査を半分肩代わりも当然だと思うんだが」
 言われてドアの前に立った麗香は、武彦には背を向けたまま少しばかり天井を仰ぐ。そしてため息を一つ。
「此処最近この辺りで通り魔が増えてるのは知ってるかしら?」
「あぁ、無差別に老若男女問わず襲われてるってアレだろ? 酷いので重症負う様な犯行だとか」
 武彦の言葉に麗香はそのまま首を横に振る。
「あれね、無差別でなく共通点があるのよ」
 そう言うと、麗香は僅かにヒール部分を武彦から逸らす。その横顔とはいえないが、僅かに見える顔が強張っていた。
「共通点?」
「全ての事件が重症程度で済んでいるのは、能力者が狙われてるからなの。一応……あなたたちも気をつけてね」
 それを最後にドアが閉まる。後に残ったのは武彦と、奥で何かガタガタ作業を続ける草間零のみ。
「結局……ある種怪奇事件の延長線なんだろうなぁ」
 そして武彦は小さく項垂れた。

    ■□■

「連れて来たぞ」
 武彦の声に机に向かっていた麗香が顔を上げる。編集部には珍しく麗香一人の姿しか見受けられなかった。昼休みということもあり人払いをしたのかもしれない。
「四人ね、来てくれて有難う」
 言うと麗香は作業の手を止め椅子から立ち上がり、武彦の後ろに立つ四人に目を向ける。
 右からシュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、神納・水晶(かのう・みなあき)、古田・緋赤(ふるた・ひあか)――皆武彦から依頼を受け編集部前で合流、集まったところで桂の捜索と背後の事件を知らされている。
 麗香は小さく頷くと、編集部の隅に並ぶロッカーを指差した。
「早速だけど穴は桂のロッカーの中。穴が消えるまでのリミットは長くて三十分、短くて後十分と言うところね。頼むわよ」
 そして麗香は踵を返す。残された五人はそっとロッカーに目を向けた。開け放たれているロッカーの突き当たり、そこには確かに黒い穴がある。
「と、言う事だが。どうする?」
「……桂さん、通り魔に襲われて無ければ良いですね」
 武彦の声が終わる頃そっと呟くはシオンの声。それにシュラインが同意の言葉を返す。
「そうね……。でも状況からは、桂くんが通り魔に襲われかかり逃げている可能性が高いって事よね?」
 頭を悩ませる、全ては推測でしかない現状況。しかし先の二人の緊張感とは違うものを持つのが残りの二人だった。
「能力者ばかりが狙われる……その点に興味沸くね。ぁ、勿論桂を探すのも手伝うケド」
 先に声にするは四人からいつの間にか一歩離れ壁際に立つ水晶。一斉に向く視線に笑って後を付け足した。しかしその声に乗るよう緋赤も言う。
「いやぁ、あたしの場合うちの会長が通り魔事件について興味持っててね。それ調べるついでなんだけど、桂の捜査も手伝うし良いでしょ?」
「あー、もう捜査に付き合うなら何でもいいから。これからどうするか誰か決めろ」
 四人それぞれの言葉を聴き、武彦は頭を掻き毟りながら近くにあった椅子に腰掛け隅へと移動した。そんな彼を見てシュラインが一歩前に出る。
「穴が閉じるまでの時間は限られてるけれど、入る前に少し話をまとめましょ。回避できるようなトラブルでの時間ロスも省きたいからね」
「ではメモ、とりますね」
 言いながらシオンがペンと手帳を出す。
「あ、調査で不都合あればあたしに言ってね。うちの会長に頼めば大抵のことは協力できるから」
 いつの間にか椅子に座っていた緋赤が口を挟む。水晶は壁に背を預け腕を組んだままやり取りを観察している様子だった。
 ゆっくりしてはいられないが、シュラインとシオンも手短な椅子を引っ張ってくると腰掛け話を始める。
「まず、桂くんの捜査に重点を置いてるのは私とシオン、そっちの二人は事件重点で良いのよね?」
 言いながら二人を見ると、水晶は「そーだよ」と返し、緋赤は頷く。
「ただ、現時点で通り魔に関しての情報があれば、皆さんが持っているに越したことはないでしょうね」
 手帳から目を離したシオンが武彦を見ながら言った。視線に気づき顔を上げた武彦は、一瞬顔を顰めた後口を開く。
「……知ってるのは能力者が襲われ最悪重症、此処一ヶ月半径五十km圏内で二十件前後の被害。しかし皆口々に言う犯人の特徴が違うらしい事くらいか」
 言うと同時、後は御自由にと彼は目を閉じた。
「……通り魔は一人じゃないって事かしら?」
 手を口元へと持って行き悩む格好のシュラインに、武彦は「さぁな」とだけ相槌を打つ。
「それならあたしの方で資料集めとこうか?」
 名乗り出たのは既に携帯電話を片手に待機している緋赤。シュラインとシオンの頷きを確認すると、緋赤は早速短縮ダイヤルで誰かと話しだし早々に電話を切り言った。
「他に何かある? 一応警察側が掴んでる情報と、病院側の資料やカルテは送るよう伝えておいたけど」
 緋赤の言葉にシュラインは首を横に振り「十分よ」と微笑む。しかしこうしてまだ通り魔についての話が終わらぬ頃、佇んでいた水晶が徐にロッカーの方へと歩きその中を覗き込んだ。
 そこには今水晶の身長と同じ程度の穴が開いている。しかし初めて見た時はもう少し大きさがあった気がし、首を傾げた。覗き込んだ先にはただ闇が広がり、重々しいような禍々しいような空気が流れて見える。そっと手を突っ込んでみると生暖かい空気が纏わりつき、思わずその手を引いた。瞬間、穴は一回り小さくなり、水晶の身長以下となる。
「……なんか穴、小さくなってきたみたいけどヤバイんじゃない?」
「――!?」
 その声に武彦を除いた三人が一気に椅子から立ち上がり水晶の方を見た。完全になくなるまではまだ時間は有りそうなものの、穴は確かにゆっくりと縮小している。しかし元よりそこにあるべき物ではない空間の歪ともいう穴。それが桂が通り抜けた後数日間残っているだけでもありがたいのだろう。
「俺、行っちゃうよ?」
 皆を振り返り水晶がその穴に足を突っ込むが、その行動は遥か遠くから聞こえる声に静止させられた。
「ちょっと待ちなさい!!」
 言いながら麗香がヒールを鳴らし足早に近づいてくる。
「桂から聞いたのだけど、その向こうはありとあらゆる場所が交差する場所らしいわ。進んだ先に必ずしも出口があるとは限らない……ただ道自体は消えることなく残り、桂が通った穴は全てこの穴と同じ速度で縮小しているはずよ」
 全て言い終わる頃に麗香は脚を止め、武彦の襟を掴むとその耳に何か囁いた。同時に武彦の顔色が変わる。
「……俺行くよ」
 その一部始終を見守ると水晶は足を突っ込み中へと消えていく。
「ぁ、ちょっ……」
 その声に振り返りシュラインは声にしたが、既に水晶の姿はない。穴という闇の中にさえ、あの銀髪は見つけられなかった。
「えっと、私も先に入って彼を引き止めておきますね」
 言いながらシオンがロッカーへと向かう。既にシオンが入るには大分屈まないと入れないほどに穴は小さくなっていた。同時にシオンは緋赤を見たが、彼女は即座に頭を振る。
「あたしは最後、あんたらの背中を守るよ。シュラインは?」
 そう言われシュラインは緋赤から武彦へと視線を移す。彼は麗香の背中を未だ見続けたまま、やがてゆっくりと皆に顔を向けた。その表情は非常に浮かないものだった。
「とっとと……行こう」
「……そうね、人命救助要素もあるんだから、頑張りましょ」
 言うとシュラインは緋赤の方を向き頷いた。
「それじゃ二人とも先行って。あたし腕には自信あるから信用して背中預けて頂戴ね」
「えぇ、任せたわよ」
 片目を瞑って笑って見せた緋赤にシュラインは声をかけ、まずは武彦が屈み、その後にシュラインが続く。
 その姿が完全に消えた頃、穴は緋赤の腰くらいまで急激に縮小して見せた。舌打ちと同時、緋赤はスライディングの形で穴の中へと入り込む。

  闇が ゆっくりと体を包んでゆく――…‥

 そして目を開けた時、緋赤の前には四人が集まり一斉に彼女を見る。
 緋赤は視線を受けながら立ち上がると、明るく声に出して見せた。
「お待たせ、もう入り口閉まったから先進むしかないね」
「俺先頭で行くよ。もう待てないからね」
 言うや否や水晶は先を急ごうと一歩進む。結局順番は入った順に水晶、シオン、武彦、シュライン、緋赤と続いていた。しかしそんな先頭の声をシュラインが制止させる。
「少し待ってくれないかしら、すぐ終わるから」
 言いながらシュラインは化粧ポーチから一本の口紅を取り出した。
「それは?」
 後ろから興味深そうに緋赤が問い、シュラインはしゃがみ込むと同時に応え口紅の中身を半分ほど出す。
「見ての通りの口紅だけど、これをね……」
 言いながら口紅で数字の1を、そしてその横に白王社のロゴを器用に描き立ち上がった。その意図にシオンが笑みを浮かべた。要するにそれは道標なのだ。自分たちは勿論のこと、この様に書けばもし桂が見つけたとき関係者が通ったと認識するだろうと。シュラインは手にしていた口紅をポケットに入れると先頭の水晶に声をかける。
「さ、もういいわよ」
 しかしそのたった一言が終わる前、水晶はもう先を歩いていた。

 どれほど代わり映えの無いこの道を歩いているのか……景色も無く左右からは圧迫感、挙句漂う重苦しい空気に時折息が詰まりそうになる。足音さえ響かぬ道、薄闇という中影すら生まれぬこの場所。危険という危険は何も無いものの、逆にそれが恐ろしくもなる。
「……なんかたくさん穴あるケド?」
 やがて先頭を歩く水晶が声にすると一同は辺りを見渡した。何時からなのだろうか、辺りには無数の穴が開いている。壁は勿論、何も見えなかったはずの天井にさえぽっかりと青空が映し出されたような穴。大きさも大小さまざまで、今尚消えようとする穴もあった。
 あまりの光景にシュラインはすばやく口紅を出し番号とロゴを描く。いずれまた此処に戻ってこなくてはいけない機会があるかもしれない。その前のほうでシオンも手帳に印をつける。
「しかしこれは……随分突然ですね」
「うっわ、向こうに人歩いてるよ! でもこっちには気づいてない?」
「ちょっと!? 危ないから不用意に穴を覗き込まない方が……」
 皆それぞれが穴に気を取られ、一気に五人の立つ間隔が空いた。
 瞬間
「――っ!?」
 ぽっかりと、地が消える。それは突然に――…‥

    □■□

「痛ーっ! な、んなの!?」
 思い切り背中から落下、頭を打ちはしなかったがあまりにも突然のことに緋赤は開いた口が塞がらない。
「ちょ、みんなは何処よっ!?」
 今まで居た場所と全く同じだと思う。薄暗く狭い道、しかし辺りに四人の姿は見えない。何の冗談かと、自分ひとりがいつの間にか置いていかれたようにも思える状況。しかしそこに一つの変化を見つけしゃがみ込んだ。
「……確かこの辺にあったはずなのに」
 緋赤が探すのは今さっきシュラインが地に書いていたはずの番号とロゴ。前を見ても後ろを見ても見つからず、それが示す答えはつまり此処は先ほどまで居た場所では無いということだった。
「みんなの背中守るどころじゃなくなったけど……途中から別行動望んでたし、まぁしょうがないってことで」
 前向きに考えると緋赤は一先ず歩き出す。どちらにしても自分の身は自分で守れる。そう、薄闇を一人颯爽と歩くこと数分。ぽっかりと開いた一つの穴を見つける。
「外……かな?」
 穴から見る向こうの景色は工事現場だろうか……所々崩れた壁や天井の見える場所。辺りに人の姿は無い様で、一旦緋赤は外へ出ることにした。
「よっと……ん?」
 穴から飛び出すと同時、携帯電話がメールを受信した。時刻を見るとホンの五分前のこと。現在時刻も編集部を出てからさほど進んでいない。恐らくあの空間では電波の通りや時間の流れというものが無かったのだろう。
 受信画面を開くとメールが何通にも渡り届いていた。どれもこれも受信量めいいっぱいの情報量。頼んでいた警察資料と病院資料がメールで全て届けられていた。確かに今この場所が把握できない以上、資料を取りに帰ることも出来ないかもしれない。緋赤はその一通目を開封すると下へとゆっくりスクロールする。
 まずは警察資料が二通。
「ん、なになに……」
 最初は事件の概要。武彦の言ったとおり一ヶ月前から始まったこの事件は、半径五十km圏内で昨日までにそれらしき事件は二十三件。被害者は三十一人。厳密には警察への報告がそれだけであり、裏まではどうかわからない……と付け足されている。
 被害者は全て能力者(中には現在確認中の能力者も存在)男性十五人、女性十六人と性別に関係は無いようだった。名前の一覧にも特に共通点は見つけられない。年齢もバラバラ、誕生日、血液型、出身地、職業も特別共通は見つけられない。
「やっぱり、能力者以外は無差別なの……?」
 この中で死亡者はゼロ、軽傷二十六人、重傷五人。重傷の内四人は重症患者扱いとされ、怪我以外が重要視されている。
 現場状況も場所により様々で共通点は特になし。しかし重症の四人だけは共通点があった。それは現場が血に染まっていたと言うことだ。後は病院資料を読んでくれと付け足されたところでメールは終わっていた。
「ちょっと情報多すぎ……えっと」
 正直何処に重点を置いて考えるべきか悩む程資料は多い。しかし会長が興味を持っていることで、桂捜索の約束もあり急いで続きのメールを読むことにする。因みに緋赤が目の前にしているのはタイトルに『病院資料』と書かれた八通ほどの未開封メールだ。その『1』を開封。
 軽傷者に関しては擦り傷切り傷から軽い捻挫程度まで。突然背後や横から襲われ、犯人の顔を見る間も無く逃げられたケースが多いらしい。時刻は昼夜問わず、一度襲われたきりで次は特にない。偶然通りかかりたまたま襲われた……というケースに当たる。
 重傷者はその結果が酷いケースに当たる。と言っても一人しかいないわけだが骨をほぼ粉砕されていた。
 しかし問題は重症者だった。共に負っている怪我の位置は全く違うものの、その四人に限っては血が極端に失われ貧血状態にまで陥っていたらしい。因みに現場に残された血液量とは全く一致しない。加えて首に何かに噛み付かれたような二つの傷跡が共通しているとのこと。
 重症を負った男女四人は現在も入院中なものの、謎の高熱にも侵され新種のウイルスでも投与されているのではないのかと病院内では検査が進められている。入院患者への面会は容体が安定していれば可能。しかし、ウイルスの危険性を考慮し特別な形となる。
「なんだか……かなり複雑な事件なんじゃない?」
 呟きながら一人一人の症状が書かれたメールを次々と開封していく。やがて全てを読み終えた頃、画面を凝視していた目を上げると辺りがぼやけて見えた。
「んんーっと、一休み」
 言いながら緋赤は辺りの景色を眺める。一体何処の町なのだろうか、見覚えのない景色の遠くには緑が多い。
「一先ず中に戻るべきかな。みんなも通り魔も中の可能性あるしね」
 何時からか下ろしていた腰を上げると緋赤は振り返る。穴はそのままそこにある。編集部で見たときよりも大きなもの。もしかしたら最近作られたのだろうかとも思う。
「……その場合この近くに居る?」
 思わず呟くが頭を振ると再び穴の中へと侵入。
「さてっ……と?」
 気を取り直し再びこの重苦しい空間を回ろうと思ったものの、先ほどとは体に纏わり付く空気が違うことに気づく。
「誰か……居るね? 出て来なよ」
「――――」
 果たしてそれが『誰か』で正しいのかはわからない。ただこの冷たい空気はただ事ではない。
 思わず手を銃へと添える。姿さえ見えていないわけのわからない相手にそれを使う気は……ないのだけれど。
 いざとなれば我流のケンカ殺法で何とかなればと思いながら、じわじわと間合いを詰めていく。遠い闇がやがて近づくにつれ薄闇となる。そこに、赤く光る眼を見た。
「――っ!?」
 反射的に身を翻す。しかし何かが肩を掠め上着がはらりと音を立てた。
 皮膚までは到達しなかったものの、触れたそこは一体何を使えばこうなるのか、綺麗に切れている。
「これが、通り魔って奴!?」
 考えるよりも早く、体が瞬時に何かが振りぬけて行ったほうを振り向く。
 それは丁度、緋赤が出入りした穴から外へと出て行ったところだった。一瞬陽の光にさらされたそれは少し小柄な人にも見えた。しかし薄闇と同化する程の黒い姿。あれは一体何だったのか……。
「……まだ誰か居る?」
 冷たい空気は消え去り、辺りは又同じ重みを取り戻す。しかしそれとは違う息苦しさ、否――…‥
「人、か!?」
 倒れ蹲るそれは確かに人だった。
 慌て掛けよるとしゃがみ込む。荒い呼吸が聞こえる。意識はあるようだった。
「お、い……?」
 恐る恐るその体に触れると、手には僅かに生温くぬるっとした感触が伝わる。
「不味いな……やっぱり今さっきのが」
「――そこに居んのは古田?」
 顔を上げると少し先に桂と同じく蹲るような水晶の姿がある。
「ちょっ、……あんたまで、どうしたの? あ、でも血は止まってる?」
「それよりも、早く他の三人と合流しないといろいろ厄介そう」
 言いながら水晶は体を起こす。
「確かに。こっちの情報もみんなに知らせたいし」
 二人顔を見合わせ頷くと、桂を抱え一先ず穴から外へと出ようとした。
「……お二人とも此処に!?」
 その穴から突然シオンの姿が現れ、思わず安堵の胸を撫で下ろす。
「今シュラインさんも一緒で、草間さんは犯人を追っています。一先ず……外に出ましょう」

    ■□■

「事件を…まとめるわよ」
 病院ロビーの一角、四人はソファーに座り顔を上げた。
「桂さんは大事に至らず軽傷。風邪のせいで熱はありますが、すぐ退院できるとの事ですね」
「あたしの方はメール資料を紙で貰ってきたよ。ついでに渡しておくから良ければ使って」
 言いながら緋赤は数枚の紙が束となった資料を配る。
「俺は通り魔と思われる奴と接触したよ。まぁ逃がしちゃったケド……代わりに相手の能力が断定できた。あんまいい事じゃないけどね」
 水晶の台詞に三人の目が集まった。
「推測だけど、吸血によって能力のコピーをするみたい。実際俺首噛まれて能力盗まれたから」
「えっ!?」
 なんでもないように言う水晶にシュラインが思わず声を上げた。
「あぁ大丈夫、俺の能力はそのままだし、吸血の際何か体内に入れられたけど排除したから。ただ抵抗できないとアレはどうにもなんないね」
「なんだか、吸血鬼と蚊を足して割ったような能力ですね」
 メモを取りながらシオンが苦笑いを浮かべる。
「で、桂を救出したは良いけど肝心の依頼主はどうなの?」
「それが……さっき麗香さんに連絡したら武彦さんに通り魔確保のお願いをしていたみたいでね」
 緋赤の疑問にはシュラインが答えを出す。それは穴に入る少し前に耳打ちしていたあの状況。
「桂くんを見つけても事件解決しなければどうのって言ったらしくて……」
 その言葉のお陰で武彦は今数十km先の町を走り回っているはずだった。
「……あたしは一回戻るよ。ただこの事件から身を引くつもりは無いから、何かあれば又会うかもね」
 言うと緋赤は立ち上がり皆に背を向けた。それに続き水晶も立ち上がる。やがてシオンにシュラインもロビーを離れていく。

 しかし桂の救出、それはまだこの事件の序章でしかなかった。
 この事件は次第に全国区へと拡大を見せていく。

 [続..]

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
 [3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α]
 [3620/ 神納・水晶  /男性/24歳/フリーター]
 [4047/ 古田・緋赤  /女性/19歳/古田グループ会長専属の何でも屋]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、新人ライター李月です。このたびはご参加ありがとうございました。
 結果的に無事桂を救出となりました。調査の仕方によって得た情報や体験が全く違っています。
 お時間が許す限り、他のも見ていただければ各地で起こっていた出来事の全貌が見えてくるかと思います。
 しかしながらまとまり無く長くてすみませんでした。少しでもお気に召していただけてれば幸いです。
 加えまして何か不都合などありましたらレターにてお知らせください。
【古田・緋赤さま】
 初めまして、プレイングありがとうございました! 元気な女性は大好きなので楽しく書かせていただきましたっ。
 しかし突然こんなに長いものですみません…自らも自己記録を更新..。
 口調や行動など、大丈夫だったでしょうか? 何か不都合ありましたらどうぞ。
 補足ですが桂の年齢が18歳のため、呼び捨てにしておきました。大丈夫ですかね..。
 結末を知るまでは…とのことでしたが、お気に召していただけてればまた後編でお会いできること楽しみにしています。

 現在別グループも動いているため、後編は早ければ11月29日PM23:30以降、
遅くても12月2日同時刻には開く予定です。
 今回ご参加の方で、既に窓が閉まっていた場合ご連絡頂ければ開けますのでお申し付けください。
 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼