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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


世界征服倶楽部の四菱を殺害しようとするギルフォード


 そもそも、世界征服倶楽部とは、この異界だけの存在であり、
 類似した組織は数あるだろうが、以下のような構成に縁るのは、
 おそらくはこの組織だけ――
「そもそも四次元が縦と横と奥行きそして時間によって成立してるんだったら、こんな馬鹿馬鹿しい不確定さも生まれず、また、五次元を否定する事が我が身の欠損を謡う事になり」
「……あの、結局どういう」
 ビシィッ!「痛ぁっ!?」
 今の音、彼女の細い指が素早く、眉間を叩いた音である。デコピンだ。
「……人の倫理の途中に口を挟むと、命を落とすと習わなかったかしら? ティース・ベルハイム」
「な、習ってですよそんな事!」
 強いられた敬語を使いながら――そんな事は、数多の魔術所にも記載されてなかったと、冷や汗かいて脳を回転させるのはティース・ベルハイム、ピンク色の髪と黒ブチの眼鏡がやたら目立つ少年、
 魔法使い見習いが、彼である。
 魔法使い、オカルトの類が(そもそも魔法をオカルトに分類する事態好まれる傾向では無いが)さして珍しくない世界では同じ性質の職業。才能がある為か、次々と魔法を習得していってるようで。ただし新しい魔法の場合効果が安定せず、本人の意図しない効果が現れる事も度々。
 そして、世界征服倶楽部での役割は、力。正確には魔力であって。
 それを研究材料の一環として、強引無理矢理に勧誘したのが女、
「貴方の、いえ、この学園の教育者のレベルには絶望するわ。そう、生まれた時から」
 自分以外の知識を全てゴミと断絶する、少女、鍵屋智子、
 職業はマッドサイエンティストである。
 ティースと同じく年齢は14歳、そして同じく、神聖都学園所属。だが、二人そろって制服は違う、鍵屋の場合黄色のリボンが目立つセーラーに、既存の科学者とは反意の存在とばかり、白衣ならぬ黒衣を羽織った。まぁティースの場合、トレーナーの上に白いジャケットに白いズボンなのだから、そもそも制服では無いのだが。
 そんな黒の少女が、白の少年に対し、唐突に言った。
「タイムマシン」
「え? ……何を急」ビシッ!「ったぁ! な、なんでいちいちでこぴんするんですかぁ」
 涙目になってでこを抑えるが、それを労わる訳も無い鍵屋、
「貴方の物分りの無い脳を刺激してあげたのよ、感謝しなさい」「感謝ったって……」
「ともかく、次元の定理はほぼ解けたから、タイムマシンの開発を始めるわ」
「へぇタイムマシンを作る、って、……それは流石にむ」ビシ!ビシィッ!ビシィィッ!「痛っ、痛ぁ!」
「……私は何かしら? ティース・ベルハイム」
「か、鍵屋さん、ですけど」
「そう、世界で一番の天才。だが、あいつらは私を認めなかった、それこそが己の無知を発すると知らず。だからこそギャフンと言わせてやる必要がある、あの分からず屋に」
 補足すると、生まれて三日で特殊相対性理論をそらじていた程の鍵屋なのに、学会からは追放されている。まず第一に彼女、態度が悪い、そこらのヤンキーより悪い。だがそれよりも科学者として問題なの、
 彼女は、作文が下手である。というか説明が下手である。
 学会で超常現象と科学の統一論を発表した時もそうだったのだ、理解不能な内容と、思考の早さについていけない口。科学者の多くが論文という物で己の身にたてるのに対して、彼女は劣っていた。
 ならばどうするか、口で言えないなら、物で示せばいい。
 科学の理論が語れないなら、それを利用した発明品を作ればいい。その答えがタイムマシン、だと。
 この人の無茶苦茶振りは、今に始まった話じゃないが、
「……可能、なんですか?」
 すると不適に微笑むのだ、「パラレルワールドという概念、別の可能性によって増え続ける時間軸、いえ、時間軸だけじゃない、あらゆる構成」
 相変わらず、訳のわからない呪文。だが、最後の言葉だけはなんとか解った。
「おそらくは世界、異なる時間を辿った世界が幾つもあるわ」
 タイムマシーンは、○年前という異界を作り出すマシーン――
 鍵屋智子は、世界征服倶楽部の知の担当であり、そして、
 最後の一人は、
 世界征服倶楽部の扉が開く、
 財力、という構成、は、
「遅れたわね四菱桜、大事な事を」
 鍵屋智子を絶句させる姿だった。

 彼女の右腕が、無くなっている。

 四菱桜、世界的企業四菱の令嬢。その世界で一番の富の子は、同時に、世界で一番の護られ手である。彼女の監視の為だけに衛星が準備され、常備百人近くの黒服が彼女をガードし、
 だが、右腕が落ちている。
 四菱の安全神話が崩れ落ちる。
「桜ちゃんっ!」
 行動したのはティースだった、必死の形相で桜を抱え、直ぐに治癒の呪文を唱える。腕の欠損の復元はまだ無理だ、でも血だけは止めようとして、
「何があったの、桜」
 鍵屋智子、
 冷静に、己を冷静に保ちながら、ティースの腕の中の桜に声をかけて、
 震えてる、桜、おびえてる、桜、
 でも語る――
「ギルフォードである、智子ちゃん」
 、
「ギルフォードが、桜の、腕……あ」
 尊大な口調も、今は子猫のやうに弱弱しい、それでも、なんとか告げた原因、
 鍵屋智子は頭を抱える。
「ギルフォード、最悪の男。……予想はしてたけどね」
 鍵屋智子の頭の回転は速い、ギルフォードが四菱を狙う理由。
 世界で最も暗殺できない少女を、殺す楽しみが彼にはある。彼は、困難な程、それを達成しようと――
 だとすれば腕を落としたという事は、
「最後の砦は、私達という事」
 財力という、世界征服には必要不可欠の要素、黙って失う訳にはいかないし、
 許せないという感情もクッキーの欠片程はある。

 そして、その時、ギルフォード、

「おーもしかラッキー」
 黒服達の死体に、腰掛けながら、
「まだまだ楽しめそう? ツイてんじゃん俺」
 切り取った桜の腕を、自分の義手と変えて遊んでいる。


◇◆◇


 優しさが、罪になる事がある。
 それは子供を甘やかして育て、社会での生き方を教えず放つような元より本人がどうであるかどうかも含む行いとは違う、もっと単純な行いであり、つまり、
 優しさゆえに見逃して、
 そして、それが罪になる。
 自分の罪名、人を、
 死なせた。


◇◆◇


 超常能力者一條美咲の何が最悪かとなれば、流浪する所にある。
 それはけして美咲に限った話では無い、異界にはごまんと、速度の遅い台風よろしく、通り道イコール破壊の爪跡が存在し。S三下等、最もその顕著な例であろう。それから考えれば、一條美咲はまだマシな方か――
 彼女の周辺2メートルは、治癒の空間である。
 と言っても彼女が生命力を分けるのでは無い、有機物が持つ自然治癒力を、半径2メートル内で劇的に高めるのだ。折れた腕の場合、骨が継ぎ、皮膚を戻す、生きる意志が強いならギブス要らずの入院要らずだ。
 だが、やはり、最悪なのは、
 彼女の《もう一つ》の能力が、その黒い着物と、足元まで伸びた長い髪に、そんな不可思議で畏怖な造形な容姿に、余りに相応しく強力だから、息継ぎなしで説明すれば、
 彼女は森羅万象を理解し分解し構築する力。
 つまりはパズル、チョコレートアイスクリームはチョコレートとアイスクリームで、分解して、他所の苺を持ってきてストロベリーアイスクリームに仕立てるような。
 人の肉体を理解して、それから心臓を取り去るような、そんな、荒唐無稽の。
 だが敵意の無い者には害を為さない。だから、「あら、あらあらあら」
 その女性の笑顔に対しては、一條美咲は、興味は無かった。手入れ等出来ぬはずの黒髪なのに、艶やかに美しい美咲の頭髪。
 髪の美しさは笑顔の者とて負けていない、少なくとも、
 五十一の年齢とは思えない、そもそも、
 容姿、娘のやう。
 髪は、長身に沿った神々しい迄に銀、女神の銀、着物に(色は同じ黒の系統だ、五十一歳の場合、蝶の紋様をトーンにしているが)良く映える。だが何よりも魅力はその顔、白き肌は心まで映しそうな、潤む大きな瞳は宝石に例えたく。
 だが、五十一歳だ、五十一歳なのだが、性格は見た目よりも若々しいというより娘の気質、
 だから初対面の相手に対して、彼女は、「噂は聞いておりまわすわ、一條美咲さん」
 白神久遠、
「久遠ちゃんとお呼びください♪」
 そう明るくお願いを、こんな場所で、この場所で、
 ――能力により世界を理解してしまったゆえに
 だが、異界の存在ゆえに、井の中の蛙がこれが井戸と知らないように、異界の宿命だけを負ってしまった彼女は、青の子が作り出した異界に沿って、殺しを求めて、流浪しする。
 即ち今、一條美咲と白神久遠が語る、この場所こそ、殺戮の前奏が奏でられている事に。
「……あら?」
「………」
 果たしてそれは正しかった、今、世界征服倶楽部のある、神聖都学園の入り口の彼女達の上を、
 巨大な拳が飛んでいく。
 それは久遠の反応が遅れたのをいい事に、そして、基本的に万物への興味は一條美咲には無いゆえに、
 滞りなく、神聖徒学園部室棟の、特別設置された世界征服倶楽部のラボへ突き刺さり、閃光と爆発による全くの死を、
 作り出す、はずだった。


◇◆◇


 誤算として、ギルフォードが今だけが楽しければいいという、典型的な若者タイプであった事が数えられるか。未来は見ないし過去も振り返らない、刹那主義ここに極まれり。
 だが、だからといって、データーベースの中から考慮を得たか、
 その護り手の名前を――
 部室という名前は消え去り、瓦礫という名前がある。だが、鍵屋智子達は死体と呼ばれず、つまりは生きている事であり、
 瓦礫を見れたのは、瓦礫から離れたから。馬鹿みたいな拳が、部室が突き抜けた瞬間、壁という壁が爆ぜて、天井が落下物となり、等しく三人を押しつぶそうとした瞬間、
 それは疾風としてやってきて、疾風の速度、
 マッハ5。
 、
 それだけの、速度に、助けられたのだから、普通は身肉に摩擦が生じて燃え尽きるのだろうけど、そこはティース・ベルハイムの咄嗟判断、便利な魔法でどうにかなって。
 三人を助けたマッハ5は、三人を下ろす。そして、片腕の無くなった四菱桜を見て、表情を変える。
 悲しみと、怒りに染まる。
 悲しみは、小さな子から腕が欠損して、少女が必死にその事実に耐えている事である。そして怒りは、こんな事をした、加害者への感情と、
 他ならぬ自分に対し――嗚呼、
 許せない、己の、優しさという愚行。
「久しぶりじゃねぇか!」
 忘れられない声が聞こえた、鼓膜だけじゃない、それよりもっと奥に響く彼の声、
「久しぶり、久しぶりだよなぁ、久しぶりだよなあぁぁっ!」
 テンションが高く、無理矢理ろれつを回転させてるやうな。それは、久しぶりと言っている。
 旧友の再会と歌えるなら、どれだけ良いのだろう。二人は、そんな間柄じゃ無い、
 一人の男は、そう、ギルフォードという男は、
 今しがた遠くから、義手をロケットのように飛ばした男は、だから今無くなっている部分に、
 四菱桜の腕を人形みたいに付けた振りをしてる男は、
「アッ!イッ!ンッ! ……ダアアアアァァァウンちゃあん!」
 アイン・ダーウンと、
 四菱桜が思わずその場に顔を抱えて屈みこむくらい、表情を限界まで崩しながら叫ぶギルフォードに対して、小麦色の肌、東南アジア系、髪がくるくるの、アイン・ダーウン、
 そんな風に姿形は三年前と変わらない、だけど、心はあの時より、
 罪人を見逃した一瞬の隙に、被害者を殺されたあの時より、
 心は、
「殺しはしません、ただ、」
 銃を、取り出す、
 感情を込めず、淡々と、ごく普通に以下のセリフを言った。
「貴方の四肢を、撃ち取ります」
 ごく普通に、ごく普通じゃない事を、アインは、アインは、
 何度か、極悪に対して、やって来た。
 狂ってしまったのだろうか。


◇◆◇


 時は秒単位で遡り、白神久遠が巨大な拳の軌道を追って、走り出した瞬間、
「久遠は、考えました」
 唐突に、本当唐突に、白神久遠は語りだしました。
「何故世界はこうなってしまったのか」
 二歩目から五歩目の間の言葉、一條美咲との距離は既に大分。
 つまり、彼女に聞かせるというより、己に言い聞かせる為か――声を空気の振動と解釈して、その部分だけを傍に持ってくる事が出来る――彼女の能力を知っての、事か。
 とりあえず、流浪する一條美咲には届く。
「殺しあう事を、日常として受け入れて、殺しあう事を、疑問と思わない」
 それは三年前に起こった異変、「この世界は、どうしてしまったのか」
 十七歩目、十八歩目、その時閃光が起こり、瓦礫が製造された事を音に知る。紛う事無き、今の世界の日常、
 だが、かつてはそれが日常で無かった、そのかつての日を、
「知らなければなりません、その為の術として、この学園の生徒さんがタイムマシンを作ると聞きました」
 もう既に遠くなってしまった一條美咲、彼女も、殺戮に惹かれて歩き出す。白神久遠が足早に現場へ向かう後姿、それを辿るように追っていく。
 その間も能力、世界を近くの音と遠くの音に分解して、遠くの音を自分の傍らに持ってきて、
 言葉を聞く。半径2メートル内の腐った草を回復させながら。
 茶色に枯れた草が青くなる間、「戻るべきは三年前です、三年前から、この世界は変わってしまった。見なければなりません、久遠も、そして他の皆様もっ」
 ――だから、阻止しなければならない
「阻止しなければなりません! この狂った日常をッ!」
 白神久遠は走る、走る、一條美咲を置き去りにして。早く、走る、走る、早く、
 後姿を見る、美咲、
 あの人は、なんでそんなに必死なのか、と、少し思う。
 そういう事は解らないのだ、心の中は、けして。


◇◆◇


 苦戦は、どちらか、様々に変化する義手を持つ男か、それともマッハ5の速度のサイボーグか、
 アイン・ダーウンだった。
 劣勢なのはアイン・ダーウンだった。「うっひゃおぉ、激ヤバピンチ? 俺様超優勢ぇ」
「ギル、フォードッ!」
 瓦礫から素早く義手を拾った男に、素早く銃弾を放つけど、銃弾の速度はマッハ5には及ばない。だから義手を使われて、
 義手は超硬度の刀に変化して、回転する弾丸を真っ二つに割り、二股の槍のように弾道を変えて、後ろに引きながらその隙間でかわして、
 ずっと、それの繰り返し、踊るように、楽しみながら、
 銃弾が通用しないなら、音速の五倍を何故使わない?
 、
 使えない、
 アイン・ダーウンは、今は命を賭けられない。何よりも優先すべきは加害者より、
 四菱桜を守護する事。
 おそらく、腕を落とされた時は耐えていた恐怖が、つまり鍵屋智子に危機を伝えにいくまで我慢していた感情が今は爆発している。爆発しながらも、動作は静か。鍵屋智子とティース・ベルハイムに。
 だから音速の五倍は今は使わない、もしその一撃が外れたら、彼の目標が本来の《四菱抹殺》に変化する。だから、撃つだけの、射撃の腕が一流でも、
 ギルフォードには分が悪すぎる。
「思い出すよなぁアイン・ダーウン、いやぁちゃんと覚えてるぜ、俺と、お前の、楽しい戦い」
「楽しい、ですって」
 戦いに無駄口を挟む理由、
 あの日を楽しいというギルのふざけた態度、「楽しかった、楽しかったよなぁ、お・ま・え・は」
 お前はあの日、弱い物いじめでストレス解消した俺を、俺をぉ、
「俺を完膚なきまでぶちのめしたじゃん! 歯が折れて口ん中ジャリジャリ言ってよぉ! ひゃあっは、ダセェ、超ダセェ、笑える程にダセェよ俺っ!」
 例えるならピエロの爆笑、感情の上に感情を重ねたような、彼の姿、そして、
「ギルフォ」その時アインに隙が生まれた。
 マッハ5を発動させない侭、彼の喉元に、
 鋏を、義手を変化させた鋏を突き立てる。
 柔らかい肉に刃があたる。「だが、お前はそれ以上にカッチョ悪ぃ」
 、
「だってよぉ、あの状況で、あの、状況で、アインちゃんはぁ何をしまちたかぁ?」
「……貴方はっ、貴方はぁっ!」
「アインちゃんは――」
 俺を、見逃してくれまちた。
 素敵な愛に答えて、俺は弱い物いじめを止めて、
 弱い物を殺しました、と。

「最低、だ」
 そう言って銃を構えるより早く、
「サンキューラブユー、死ね」
 鋏が、動く。

 硬質音がする。

「……あ?」
 はてな、と思ったギルフォードの隻眼に映る光景、
 続いてのシーン、

 義手が、落ちた。

 これには流石に言葉は無く、呆然によって立ち尽くすギルフォードの、
 体が、後ろに飛ぶ。「あぁっ!?」驚きと一緒に仰向けになって、六秒、やはり呆然として、「――なんだよおい」つまらない気分だ、「なんなんだよおいコラァッ!」
 理不尽に対しての理不尽な怒りの前に、
 理不尽じゃない、理由が立っていた。「あんた、おい、まさかさぁ」
 有名人、
「ギルフォードさん、でしたわね」
 お互いに。
「私の名前は、白神久遠です、けど」
 にこりと笑いながらも、彼女は、
 こう言う風に有名である。、
 退悪組織白神――総本家当主
 各退魔師からお館様と呼ばれる存在――
 かつては、そうだった。
 今は、ある事件で組織から失踪、放浪して、放浪して、
 今ここに立つ、

「久遠ちゃんと、呼ばなくて結構です」
 唐突に現れた彼女は、既に完了した、四菱桜の守護の為の行動、
「去りなさい」
 結界、完了。

「いきなり出てきて、あんた」
 何かを言おうとした瞬間、ギルフォードの後頭部に衝撃が起こった。激痛と眩暈が混濁されて、ギルは、嘔吐した。
 嘔吐した。「おうぉぉぉ!?」
 なんだ、一体何が起こった、のたうりまわりながらも足元に落ちた義手を拾いながら、そう考えて周りを見る、
 居ない、
 アイン・ダーウンが居ない、
 そうか、そうだ、そうなのだ、
 四菱桜は白神久遠の結界によって保護されているなら、
 奴は野放し、「誰だか知りませんが、感謝します」
「久遠ちゃんと呼んでください♪」
 銃声が聞こえる、立ち上がったギルフォードはそちらを向く、そして、義手を巨大な盾にして防ぐ。
 すると無防備な脳天に上空からアインの爪先。体がくの字に折れた所、
 久遠、
 無名の古刀――そんなナマクラがと判断しながら、先程までの盾を矛に変えて、
 その矛は盾で無く、結界に阻まれる。
 すると恙無く久遠は懐に潜り込み、刀を、
 ギルフォードを、昆虫採集のように貫いた。だが、彼の口からは血が漏れない、
 急所は外しているから、「そういえば、貴方のお名前は」
「アイン・ダーウンです」
 体が刀で固定されてるせいで、義手が結界に当たって邪魔で、
 背後のアインに向けられたのは首だけ、
 その時にはもう、彼は銃を構えている、そして、
 音速の五倍でありながら規則正しい精密射撃――
 四肢の付け根に埋め込むように銃口を、
 、

 零距離を越えた、マイナス壱距離の射撃は、
 義手を含めたギルフォードの四肢を、正しく切断してみせた。

 それは、優しさだろうか、
 アインが、冷酷なのだろうか、
 どちらにしろ、刀を引き抜く久遠、
 どちらにしろ、銃を納めるアイン、
 すると足の無いギルはその場に転がって、嗚呼、
 四菱殺害の計画は途絶えた、


◇◆◇

 はずだったのに、
 優しさが、
 再び、罪になるというのか。

◇◆◇


「甘い、よな」
 小さな声で、しかも足元の所為で、
 二人は気づくのが遅れてしまって、ああそうだ、ギルフォードの義手、
 単独で行動する。
 、
 そして、
 結界を突き破る威力が、未だ顔をあげない四菱の元へ、
 音速の五倍でも、新たな結界でも間に合わない――


◇◆◇


 一條美咲の、
 一條美咲の何が最悪か、それは世界を理解してしまう事。人の思いは知れなくても、パズルのようにその構成を察知してしまう事。
 知りすぎる不幸。サンタという名の嘘のように。
 だが、けど、今、彼女は目前をいまいち理解できてない、どういう光景かは解る、死んでいるのだ、人が一人死んでいるのだ。
 腕が欠損した少女は死んでいない、そう、死んでいない、
 守られた、
 四菱桜を守った物は、
 アイン・ダーウンの、高速で無く、
 白神久遠の、結界で無く、
 一條美咲の、理解能力で無く、
 そして、
 鍵屋智子の頭脳で無く、
 ――ティース・ハイム、
 、
 魔力、じゃない。

 彼の心臓。

 単純に、かばったのです。唯四菱の前に出て、
 守り、ました。
 もう動きません、死んでいます、心臓がえぐられています。その事実が衝撃過ぎて、《何時の間にか》、義手だけになったギルフォードは彼方へ去っていました。
 四菱桜を守ろうとした、
 タイムマシンを守ろうとした、
 だが、彼は守れなかった、二人。
 名も知らぬ男の子だけど、それがどれだけの悲しみかは、片腕でティースにすがりすすり泣く桜の少女の姿から解る。
 鍵屋智子は、ただ、見下ろしている。躯を、
 死体のある風景、一條美咲、構成は解る。
 だが、そこにある気持ちは、解らない。そもそも他人への興味を失ってしまった――
 ならば何故、眺めているのか。
 地面が砕ける音がした。
 そして、血の滲む音も、美咲は理解した。アインだ、アイン・ダーウンが、声を殺している。ともすれば今にも泣きそうな、
「俺は、」
 、
「俺は、……俺は、俺はぁっ!」
 また、
 守れなかった。
 狂ったつもりだったのに、壊れたつもりだったのに、四肢を潰すだけでは駄目だったのだ、殺す、べきだった。殺さなければ、殺さなければ、
 ――これ以上狂わなければ、この世界には生きていけぬというのか、そう
「俺は」
 異界の宿命に取り付かれそうになった時、
「正しくありません」
 不意、
「殺す事は、正しくありません」
 久遠が、「久遠、さん」「……久遠ちゃんと、呼んでください」
 そう言って僅か笑うのだけど、表情は悲しそうに。
「考えているのです、何故この世界はこうなってしまったか、気づいてませんか? 誰もが殺す事に疑問を抱かない、今を」
「……そうだと、しても、そうだとしても!」
 アイン、咆哮する、「俺がギルフォードを殺さなかったから! この子供は死んだじゃないですかっ! 俺は守れなかった、助けなきゃいけないのに、なのに、なのにっ!」
 ――、
「息子も、恋人を殺されました」
 ……え
 ………、……え?
 何を、急に、語りだす、(一條美咲は見ている、世界を、世界を)何を、不意に、思い出す、(一條美咲は見ている、世界を、世界を)、
「そしてそれからおかしくなったんです、無理矢理私の当主の座を奪って」
 そして私を監視した、実の母を、
 だからそれから抜け出した、白神久遠は、
 五十一歳にしては若すぎる容姿だけど、それでも、母親の彼女は、
 この狂った異界を知る為に。おかしい事、間違ってる事、
 殺しあいが当然なんて、「誓ってください」
 アインを、みつめ、
「誓いなさい、誓ってください。気が狂おうと、海に溺れようと、大地に引きずり込まれようと、鎮守しなきゃいけません。貴方は、いえ、誰であろうと」
 誰かが、誰かを殺す、
 その事を悲しいと思ったならば――
「……出来たら、出来るのでしたら、殺さないで欲しいんです」
 そう言った、白神久遠の顔は、
 悲しい笑みだ。
 ただ、みつめるアイン・ダーウン、暫く続きそうな時に、
 動いた人物――
 鍵屋、智子。
 長く見下ろしていたティースの死体、屈んで、身を近くして、すぐ傍の四菱桜の「智子ちゃん」という声も聞こえないようで、
 近くなった距離、手を伸ばせば、手が、顔に届く、だから、
 彼の額を、指で弾く。
 ――、
「ねぇ」

 何処までも、何処までも、彼は動かない。

 成す術は無い、鍵屋智子は泣いた。あぁと、おぉと、或いは声という概念も忘れ、泣き、鳴いた。それはとても獣に似て、だが恐怖の対象では鳴く、限りなく哀れみを誘うような。実際それに呼応する四菱、そして周囲、
 一條美咲の能力、感情のような物は、うまく理解出来ない。
 感情の起伏による脳に巡る物質みたいな物は認識できても、またその物資を取り除く事は出来ても、
 心、というのは、
 三年前の彼女だったら、なんでも興味を持つ彼女だったら、
 こう唱えたか。
(どうして、この世界は殺しあう)
 ねぇ、彼女が、
 四菱桜の腕を、パズルのピースみたいに、もう一度繋いだのは、
 なんとなく、なのだろうか。

 優しさ、なのだろうか。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 2525/アイン・ダーウン/男性/18歳/フリーター
 3634/白神・久遠/48歳/女性/白神家現当主
 4258/一條・美咲/16歳/女性/女子高生

◇◆ ライター通信 ◆◇
 まいどおおきにでご参加おおきにつまりはダブルでおおきにー、エイひとです。今回は色々すっ飛ばして皆様にメッセージ送信!
 とりあえず全体的には、ティースの事について触れてる方が居なかったので、彼が犠牲者となりました。この状況で二人生存、おそらくは、どうなのでしょう。(何
 アイン・ダーウンのPL様、ギルっちとの因縁は楽しかったです、四肢を打ち落とすという事やので、今後彼は恐怖! 右腕だけの男として異界を圧倒します、……あと、プレイングは落ち着いてくださいませ;
 白神久遠のPL様、タイムマシンに触れていただきほっとしました。殺さないでくださいという願いは、今も変わらず優しいというからどうかなぁと……。というか何気に白神家が異界に影響を。(基本的にはWRの管轄外ですが
 一條美咲のPL様、行動が二つ、つまり傍観と、そして何より四菱桜の腕を戻す事だったので、それをきちりとプレイングやったのでそんな感じで書かせていただきました。でっから大丈夫ですよー;
 んでは短めですがこれにて、ちなみに今日の晩飯は赤目芋とダイコンと牛蒡の根菜味噌汁でした。
[異界更新]
 世界征服倶楽部のティース死亡。財力と頭脳は残って、近日タイムマシン完成予定。ギルフォード、アインとの因縁の決着付けず右腕だけで逃亡。四菱桜の腕は戻る。