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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


 『竹薮の怪』


 インターネットカフェ。
 瀬名雫は、いつものように自分が管理しているサイト『ゴーストネットOFF』の掲示板をチェックし始めた。
 新しい書き込みがある。


FROM:匿名

こんにちは。
『松竹梅』なんて縁起のいいモノだって思われてるけど、竹って、物凄く禍々しいといわれてる植物だって知ってた?
……まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。

郊外にある竹林で、夜な夜な「どこじゃぁ、どこじゃぁ」って声が聞こえるんだって。その声の主は何かを探しているみたいなんだよね。
その竹薮には、周囲からは分からないけど、ひっそりと小さな庵みたいなのが建ってるらしくて、どうやらそこの主人が声の主みたい。

それで、もしその人とバッタリ会っちゃったりすると、「さらったのはお前か?」って聞かれるんだって。そしたら、「違う」と言いたくても声が出なくなって、ついぼんやりと頷いてしまうとか。そして、その後は……
何だか気持ち悪い話だよね。


 雫は、それをチェックすると、軽く溜息をついた。
「ふ〜ん……さらうって、なにをさらうんだろう?頷いた後は……やっぱり殺されちゃったりするのかな?」
 可愛らしく小首を傾げながら、さらりと物騒なことを言う彼女。
「郊外かぁ……行ってみたいけどお小遣いを考えるとなぁ……また誰かに頼んじゃお☆」


 ■ ■ ■


 季節は、秋から冬へとバトンを渡そうとしている。
 色づいた葉も、少しずつ舞い落ちて来る頃。
 幾島壮司は、今日も徹夜で問題集と格闘していた。大学入試センター試験の出願は済ませ、あとは当日まで、とにかく努力するしかない。もう、期日まで一ヶ月強。流石に四浪はしたくなかった。しかし、既に三浪もしていると、段々だれてくるのも事実。
「ううん……気分転換に、散歩でもしてくるか……」
 彼は大きく伸びをすると、ジャケットを羽織り、表へと出た。

 暫く、都心部をぶらぶらとする。
 休日の昼間ともなると、周囲にも人が多い。壮司はあまり人込みが好きではなかった。もっと人の少ない場所を選ぶべきだったかと後悔する。これでは、気分転換も何もあったものではない。疲れるだけだ。
(あ、そうだ)
 彼の頭の中に、ひとつの場所が浮かぶ。それは、インターネットカフェ。以前、グレイ・リトル・マンの能力をコピーした時に得をしたので、時折通っていた。幸い、ここからさほど遠くない。何か面白い事件があるかもしれない、とも思う。
 彼は、ジャケットを翻すと、人の隙間を縫うようにして歩き始めた。

 目的地に着くと、受付で会員証を見せ、沢山ディスプレイが並ぶ間を進んだ。そこに、可愛らしい声が響く。この店の名物少女、瀬名雫だ。壮司は、彼女の姿が見える範囲の席に、何食わぬ顔で腰掛けた。
「ねぇ、これ、頼めないかなぁ?」
 彼女の近くには、二人の人物がいた。銀の髪を持ち、透き通るような白い肌に、同じく白い着物を纏った人物。一見すると女性のような美貌の持ち主だが、壮司の『左眼』の解析能力により、男性だということが分かる。もう一人には、見覚えがあった。色白で彫りの深い顔立ちをした、赤い長髪の美女。以前、『あやかし荘』で起こった事件で、パートナーを組むことになった人物に間違いない。確か、堂本葉月といったはずだ。最も、あの件の折、グレイ・リトル・マンの能力を発動させておいたから、向こうはこちらの外見を覚えてはいないだろうが。
「うーんと、変な話だね。竹薮、か……」
 それを聞き、壮司はマウスを動かすと、雫の管理しているサイトを見てみた。掲示板のログを追っていくと、書き込みのまだ新しい方に竹林に関する記事が載っていた。恐らく、これのことだろう。
「まぁ、面白そうだし、引き受けてもいいけど……場所が特定できないね。暫く時間をもらわないと」
「あぁ、僕、場所分かりますよぉ」
 言葉を濁した葉月に対し、銀髪の男性が穏やかに口を開いた。
「え?何で?」
「それはぁ、僕がぁ、千里眼の持ち主だからですぅ」
「ああ、そうなんだ。なら話が早いね。琥珀ちゃん、明日って時間あいてる?」
「ええ、僕はぁ、暇ですよぉ」
 その後、目的地と、待ち合わせ場所の相談内容を、壮司は頭に叩き込んだ。
(得はなさそうだが面白そうではあるな……)


 翌日。
 葉月と、琥珀と呼ばれた男性が集まったのを遠目で見ながら、壮司は慎重に後をつける。
 新宿から、何本か電車を乗り継ぐこと約二時間。その間も、同じ車両にならないように注意した。
 やがて、目的の駅へと辿り着く。そこからは、暫く歩きになった。二人を見失わない程度に、距離を置く。ところが、急に琥珀が足を止め、こちらを振り返ると、大きな声で呼びかけて来た。
「あの〜!僕たちの後をつけて来てる人〜!そろそろ、いいんじゃないですかぁ〜!!」
(やっぱバレてたか……)
 インターネットカフェで、『千里眼』の持ち主だと聞いた時から、こんな予感はしていた。わざわざ気づかれないように後をつけても、労力の無駄だったようだ。
(仕方ねぇな)
 壮司は肩を小さく竦めると、二人に向かい、歩み寄った。
「あなたもぉ、竹薮が目的ですよねぇ?僕はぁ、白神琥珀。彼女はぁ、堂本葉月さん。あなたのお名前はぁ?」
 にこやかに微笑む琥珀に対し、諦めて自分の名を名乗る。その言葉に、葉月の方が反応した。
「イクシマソウシ?あれ?聞いたことあるなぁ……初めましてだよね?あたしの知ってるのは……誰だっただろ?芸能人かな?」
 首を捻る彼女に、壮司は「まぁ、似たような名前はどこでもあるさ」と適当にはぐらかし、三人になった一行は、問題の竹薮へと向かった。辺りはもう既に暗い。『夜な夜な声が聞こえる』というのなら、そろそろ始まってもいい頃だろう。ちなみに、今日は既にアルバイト先の居酒屋には休むことを伝えてある。
「どうしましょうかぁ?このまま、声が聞こえるまで待ちますかぁ?」
 琥珀の問いに、しかし壮司は首を振った。
「いや、俺は庵の方が気になる。そっちを探す方面で行きたい」
 葉月は、二人の意見を聞いてから、少し考え、頷いた。
「そうだね。どっちにしても、庵を探す途中で、問題の人物にも会っちゃうかもしれないし」
 意見が決まると、三人は、竹林の中へと分け入った。

「こっちだ」
「こっちですねぇ」
 壮司と琥珀が同時に声を上げる。能力の一部が被っているようなので、それは仕方がないことだろう。
 葉月は、体に纏わりつく葉を鬱陶しそうに払いながら、黙って二人のあとについてくる。
 その時。
「どこじゃぁ、どこじゃぁ」
 左手のほうから声が聞こえ始めた。だが、壮司の解析によれば、まだ距離は遠い。庵は、右手。
「こっちに行こう」
 三人は、庵のほうへと歩みを進め始めた。
 だが。
「どうやらぁ、庵にもぉ、人がいるみたいですねぇ」
「ああ」
 間違いなく、声を上げている人物とは、別の存在がいる。
「それなら、どうしようか?」
 葉月が囁いたその時。
(何っ!?)
 遠方にいたはずの影が消えた。そして、唐突に目の前にぼろぼろの着物を纏った、痩せぎすの老婆が姿を現す。
「うわっ!」
 葉月が、驚きのあまり声を上げた。
 老婆は、こちらをじろりと睨むと、低い声で言葉を発する。
「皿割ったのは、お前か?」

 暫しの沈黙。
 竹薮が、さわさわと音を立てた。

「はぁ?」
 沈黙を破り、思わず疑問の言葉を発した葉月に、老婆は何故か満足げに頷くと、葉月の腕をがっしりと掴んだ。そして、そのまま引っ張っていく。
「そうかそうか……やっぱりお前か、古伊万里の皿を割ったのは」
「違う、違うって!離してよ!」
 だが、老婆はその言葉に耳も傾けない。
 そこで、琥珀がポンと手を打った。
「なるほどぉ……さらった……皿割った……聞き間違いですねぇ」
「感心してる場合かよ!あいつ、連れてかれちまうぜ」
 老婆と葉月の姿は、どんどん見えなくなっていく。
「とりあえずぅ」
「行くしかねぇか」
 壮司としては、あまりあのような人物とは関わりたくなかったのだが、葉月が連れて行かれてしまった以上、無視するわけにもいかない。
 二人は、後を追った。

 やがて、古ぼけた、小さな庵が見えてくる。
 その中には、先ほどの老婆と連れ去られた葉月、そして、老婆と同様、ぼろぼろの着物を着た、小柄な老人がいた。
「爺さま、皿割ったやつを見つけたで」
「そうか婆さま、皿割ったやつを見つけたか」
 周囲を見回すと、小さな囲炉裏、台所、敷きっぱなしの布団などが見受けられた。
 その他には、所狭しと焼き物が沢山並べてある。
「古伊万里、古備前、高麗青磁……どれもかなりの年代ものだ」
 壮司がざっと見たところ、全て市場に出れば、かなりの高値で取引されるような代物だった。
「幾島さんはぁ、骨董とかぁ、詳しいんですかぁ?」
「いや、俺の『左眼』で分析したんだ」
「へぇ、便利ですねぇ」
 琥珀と壮司が話していると、葉月が恨めしそうな声を出した。
「ちょっと、あたしをほったらかしにしないで欲しいんだけど」
「ああ、すみません〜」
「悪ぃ」
 琥珀と壮司は、とりあえず謝る。
「爺さま、皿割ったやつはどうするだか?」
「婆さま、皿割ったやつはどうするだかな?」
「爺さま、皿割ったやつはあれをさせるしかないだ」
「婆さま、皿割ったやつはあれをさせるしかないだな」
 その間に、老婆と老人は、何かを相談しあった後、にやり、と黄色い歯を見せて笑った。

「何?これ?全然噂と違うじゃん!」
 葉月が口を尖らせながら言う。手にはたきを持ち、辺りの埃を払っている。
「なんで俺がこんなこと……」
 壮司は床を雑巾がけしていた。
「でもぉ、こういうのも和やかでいいですよぉ」
 琥珀は、手に持った竹箒で、庵の周囲を掃いていた。
 何故だか分からないが、三人とも、強制労働させられる羽目になったのだ。
 老婆と老人は、茶をすすりながら、それを満足そうに眺めている。
 やがて。
 東の空が明るくなって来た。
「爺さま、そろそろ時間だな」
「婆さま、そろそろ時間だ」
 そういうと、二人は立ち上がり、壮司たちを呼び寄せた。怪訝な表情で、作業の手を休め、近寄る三人。
「爺さま、あんたから話しておくれ」
「分かった婆さま、儂から話すことにするで」
 そこで、老人は、こちらへと向かい、静かに頭を下げた。
「お三方、すまんかったな。あんたたちの所為ではないと、分かっとった……でも、ここに来るお方は、みんなわしらを怖がって、嫌がって働いてくれんかった。だから、信用できんかった……あんた方ならきっと、かぐやを探せると思うで、頼みたい」
「『かぐや』とはぁ……?」
 琥珀が口を挟む。
「その前に」
 壮司が、それを遮った。
「あんたたちは、人を殺したりはしてねぇな?これは、確かだな?」
「儂らはそんなことせんで、なぁ婆さま?」
「おお、爺ざま、決してそんなことはせん」
「所詮、噂は噂か……」
「ああ、もう時間がないぞ婆さま」
「そうだな爺さま」
 徐々に、二人の姿が薄くなっていく。
 庵の輪郭も、ぼやけてきた。
「かぐやを……儂らのかぐやを……」
 そして。
 日の出とともに、辺りのものの一切が消えた。
 残ったのは、竹薮にぽっかりと空いた空間。
(ん……?)
「この下に……」
「何か埋まってますねぇ」
 壮司の言葉を引き継ぎ、琥珀が言う。
 早速、二人は地面を掘り返してみた。中から出てきたのは、古伊万里の大皿、中皿、小皿。
「小皿だけが半分欠けて、ないな」
「もしかしてぇ、『かぐや』とはぁ、このぉ、小皿のことじゃないでしょうかぁ?」
 話し合っている二人の肩を、葉月がポン、と叩く。
「あんたたち二人の能力があれば、見つけるの、簡単だよね?」
 言われた壮司と琥珀は、静かに頷いた。

 頭の中に地図が浮かぶ。
 それを、慎重にトレースしていく。
 ある一点。
 光。
「こっちだ!」
「こっちですよぉ」
 壮司と琥珀の声が重なる。
 三人は、周囲を掻き分けながら進んだ。

 一本の竹が、光っている。
 正確には、周囲に生い茂る葉に遮られ、日光がその一本だけに当たっている。その根元には、水が湧き出し、小さな池のようなものが出来ていた。
 その中には、半分に割れた古伊万里の小皿。
「光る竹に守られて……まるで、かぐや姫だね」
 葉月が笑った。
「でも、どうして、ずっと見つけられなかったんだろう?」
「水と土……構成要素が違うから、とかじゃねぇかな?」
「それに、あの人たちはぁ、夜にしか行動できないみたいですからぁ……というより、実際はあの場所に埋まってるわけですし、離れていたらぁ、見つけられないんじゃないでしょうかぁ?」
 壮司と琥珀がそれぞれに意見を述べる。
「それを言ったら、何で離れた場所にこの皿だけあるのかも不思議だしね……結局、謎は謎のままってことかな」
 葉月はそう言うと、小皿の片割れを水の中から拾い上げた。
「さぁ、戻してあげよう」

 三人は、元の場所に戻ると、欠片を合わせ、三枚を慎重に地面に埋め直す。
「さっきは気づかなかったが、古伊万里、古備前、高麗青磁……まだまだ埋まってるな。庵にあったのと同じやつだ」
「つまり、宝の山ってわけだね」
 壮司の言葉に、葉月が微笑む。
「でもぉ、そっとしといてあげましょうよぉ」
 琥珀が言う。それに、異論を唱える者はいなかった。


 帰り道。
 葉月が壮司に囁いて来た。
「あたしの記憶、消したでしょ?」
 壮司は答えない。
「似たような名前はあっても、『左眼』の解析能力を持ったイクシマソウシなんて、滅多にいないからね。前にあやかし荘で一緒になった人に間違いないはず……あ、もう記憶消さなくていいからね。あたしはあんたのこと覚えておきたいし、確かにあたしはおせっかいだけど、人と関わるのが好きじゃない人と無理矢理関わろうとは思わない。それに」
 葉月はそこで一旦言葉を切る。
「今回のこと、記事に出来ないでしょ?しちゃったら、掘り出し物目当ての、欲張りなやつらが沢山集まってくる。あの人たちも、静かに暮らせない」
 壮司は、口の端を微かに上げて笑うと、肩を竦めた。
「それじゃ、俺は先に帰るな」
「バイバイ」
「さようなら〜」
 二人の声に見送られながら、振り向かずに手を振る。
(また徹夜だよ……)
 煌く朝日が、目にしみた。

 その後、竹薮から声が聞こえることはなくなったという。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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■PC
【3950/幾島・壮司(いくしま・そうし)/男性/21歳/浪人生兼観定屋】
【4056/白神琥珀(しらがみ・こはく)/男性/285歳/放浪人】

※発注順

■NPC
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】

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■         ライター通信          ■
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■幾島・壮司さま

こんにちは。またの発注ありがとうございます!鴇家楽士です。
お楽しみ頂けたでしょうか?

今回は、納期ギリギリになってしまい、申し訳ありませんでした。そして、再びNPCの葉月とチームを組んで頂きました。
葉月に関しては、現在、NPC全身図が公開されています。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/npc_view.cgi?GMID=TK01&NPCID=NPC1800
ご覧になっていただけると「ああ、こんな感じなんだな」と雰囲気が掴めるのではないかと思います。

それでは、読んで下さってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。