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<東京怪談・PCゲームノベル>


茜の心を癒す人 後編

 まだ止まない雨の中、親子は会った。
 然るべき運命が近づいているのだろう。
「茜……気分はどうだ?」
「決まったよ……お父さん」
「そうか、なら良いのじゃ」
 父親は安堵の溜息をつく。

 突然平八郎はあなたに振り向く。
「娘が世話になった。しかしお主は娘をどう思っているのだ?」
 と、訊いてきた。

 今までの短い間に彼女との日々をどう大事にしていたかを訊いているのだろう。


 あなたは、どうする? 


1.
 雨が降る。
 運命の日が来た。
「……大事なときだからメイド服だけは勘弁して」
「うう、はい」
 と、茜の言うことに渋々従い普通の服を着る祐子。
「ほら、メイド服じゃなくても可愛い」
「でも、こっちがいいです」
 拗ねている祐子。
「……大丈夫なんですか?」
「……分からない。でも……行かなきゃ」
 茜は、全て整えたあと窓をみる。
「呼んでいる」
 窓から外を眺める目は、真剣そのものだった。

 電車で神社に向かう。
 お互い無口だった。
 その時間は長かった。
 祐子はこれから何が起こるのか分からない。しかし、“茜に対する感情が何か?”という考えが占めている。神社に近づくにつれ、答えが分かりかけてきている。
「茜……」
 神社の前に平八郎が立っていた。
「お父さん」
「良いのか?……」
「うん」
「……そうか、なら良いのだが」
 重苦しい沈黙の中、儀式が始められることとなった。


2.
「茜さん」
「何?」
 儀式用の服に着替えた茜に祐子が声をかける。
「茜さん……」
 しどろもどろになっているようだが、勇気を出して、
「好きです……あの人よりもこの世界の誰よりも……。だから頑張って!」
 両手で、茜の手を握る祐子。
「う、うん。あ、ありがとう」
――ヒョッとして……ま、まさかね……
 茜の顔は引きつっていた。
「どうしたのですか?」
 と、祐子は不安(?)顔の茜を優しく抱きしめる。
「何があっても私がついています。だから安心して……」
 暫くその時間がつづく。
 祐子は、
「貴女は私にとって特別な人です」
 と、言う。
「う、そ、それは嬉しいけど……」
 茜が何か言いかけるときに、
「始めるぞ」
「あ、はい、お父さん」
 儀式の詠唱が終わると、周りは一変した。
 
 
 木漏れ日溢れる森の中、祐子は独りで居た。
「ここ? どこ?」
 迷子になった気分で悲しい。
 予言書はあるが、魔剣はいない。良く見ると身体が半透明である。
 次第に感覚で此処は“霊木の精神世界”と分かる。
「茜さんを……探さなきゃ」
 予言書の1ページをちぎり、紙飛行機のように飛ばし、追跡する。
 見付かった。
 この先は何かの障壁で、先に進むことが出来ない。
 茜が、霊木と精神戦闘をしていることは見て分かった。
「茜さん!」
 彼女が叫ぶも声は届かない。
 茜も同じように半透明の肉体であった。幽体であろう。しかし、如何にも茜は命の灯火が消えようとしていた。
「だめぇ!」
 一気に予言書の「解呪」項目に位置するページを破り障壁にぶち当てる。
 障壁が消えたと同時に、彼女はかけだした。
――行かしはしません。
 霊木の強力な精神波に祐子は吹き飛ばされる。
「あ、茜さん……」
 護りたい人が、特別な人が、居なくなるのはイヤ……。
 彼女は泣いた。
 そこで気付いた。
 まだ、茜と一緒にいたい。ずっと側にいたい、そして護りたいと……。
 其れが恋ではなく、茜を愛していると言うこと。
 無くなった記憶の空白の中、芽生えた情。其れを与えてくれた大切な人が今にも消えていく。
「あ、あかねさん……あ、」
 茜の姿がかき消えると同時に、祐子の意識も失った。


3.
 茜は起きる。自分の部屋だと分かった。
「失格か……」
 溜息をついた。
「まだ不安定だったようだな。なに。これを機に修練に励むがいい」
「はい、お父さん」
「それから、あの女性はどうするのじゃ?」
「可哀想だけど、記憶を消してあげて」
 茜は窓を眺めて言う。
「そうか、霊木も其れが一番の気がかりだったからな。既に霊木がそうしているだろう」
 平八郎は、部屋から去っていった。
 晴れている空。
 しかし、茜は次にこそ、と修練に励む決意をする。
 弱い心は誰にでも有る。お互いに補い生きていく相手というのは少ない。
 ただ、受け止めることが出来るかどうかも……更に少ない。
「悲しい感情だよね……」
 茜は小さくゴメンと呟いた。


「あれ? 此処は何処ですか?」
 祐子は目覚めた。
 見たことのない天井。
 何か大事なことが有ったが、何なのか分からない。
「あ、おうちに帰らないと……」
 とは言っても、起きあがることが出来ない祐子。
「起きたか」
 初老の男と医者がやってきた。
「あの? ここはどこですか?」
「病院だよ。この方が自宅で貴女が行き倒れていたのを運んでくれたんだ」
 と、医者が言う。
「あ、ありがとうございます」
 何かかけている心の中で、どうすれば良いか分からない祐子。
「かなり体力は消耗しているから、暫く此処にいるといい。」
 と、医者が言う。
「すみません」
 
 数日後、祐子の体力は全快し、病院を去る。
 何かに抵抗があるような……。
 懐かしいようで悲しく……。
 そんな、曖昧な記憶と想いを胸に、彼女は……
「ありがとうございます」
 深々とお辞儀をして去っていく。
 途中で、本当の家の主が、待っていた。
「全く何処行っていた?」
 溜息一つついて言う。
「……うわあん」
 祐子は、理由も分からず泣いた。
「どうした? いきなり泣くな」
 戸惑いを隠せない男。

 空の雨は止んでも、彼女の心の中は雨だった。


End

■登場人物紹介

【3670 内藤・祐子 22 女 迷子の預言者、というかめいどのあくま】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】
【NPC 長谷・平八郎 65 男 長谷神社宮司】

■ライター通信
 残念でした。今までの記憶がなくなり何だったのか分からずに終わりました。
 記憶が失っている訳ですが、何か悲しい出来事があったと言うことは忘れていませんし、何かに憧れる等のことも忘れてはないです。“茜との日々と彼女に対しての感情”が消されました。つまり、霊木が危惧している要素はすっぱり消されたわけです。
 3話構成の『茜の心を癒す人』に全参加して下さりありがとうございます。

滝照直樹拝