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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


矛盾書庫・zenonarchive
 ●ハジメニ……
 その書き込みは突然出現した。
 怪異に大なりと小なりと関係する全ての掲示板に書き込まれた書き込み。
 幾つかの情報を纏めるかのように書き表されたそれを見た者達の反応はいくつかに分かれる事になる。全くその話を知らない者は嘲笑し、一つでも話を聞いた事のある者は他にもそのような話があったのかと感心し、何人かはその場所に行く事を望み、多数の者達はそんな場所があるのかと恐怖し、数多くの者はある筈が無い場所だと冷めた目つきでながめ、残った数人はその場所に姿を消していった女性と言う存在に興味を抱いた。
 また。後日、この書き込みが半秒のずれも無く掲示板に表示されるようになされていたと聞き、殆どの者が怪しく思い――書き込まれた三日後、同じように半秒のずれも無く書き込みが消去されたと聞き、等しく恐怖した。

>>

891:投稿者:どこかの魔法使い :04/11/30 18:18:18 ID???

   出口を探そうとしても見つけ出す事が出来ない。

   その書庫には何も書かれていない本ばかりが納められている。

   何故か、自分しか知らないはずの事が書かれた本が見つかる。

   納められている本は傷もつかないし、火をつけても全く燃える事はない。

   自分が見つけた本を他の人に渡そうとすると、その本はいつの間にか消えている。

   小説を読んでいると、いつの間にかその小説の登場人物が自分の思ったことと同じ事をし始める。

   自分が前から知っているような事が書かれた本はすぐに見つかるが、
   知らない事が書かれた本はいくら探しても見つける事が出来ない。

   



   この中に、女性が一人、紛れ込んだ。

   過去の事件の大切な思い出を、この建物の力を借りて思い出そう……としているらしい。

   一日・二日ならば問題は無いが、入ったきり一週間が経過している。

   建物にとらわれた恐れもある。彼女を誰か連れ出して欲しい――

   女性容姿:小奇麗なスーツに身を包んだ、凛とした雰囲気を持ったロングヘアーの女性。

   K・M

>>

 この書き込みが現れる少し前。街燈の灯りが挿さない場所では、影が影として判別できないほど暗い路地裏に、一人の男が、闇よりもなお濃く夜よりもなお深い宵闇の色をしたローブを身に纏った男が歩いていた。
 「かの書庫は人がつくりし物にあらず。」
 青年の呟きが路地裏に木霊する。
 「書庫のモノタチはすべてヒトに魅入ってしまったセイの成れの果て――」
 街燈の照らさない場所でも、その姿は闇に飲まれず、なお黒く存在し続ける。
 「全ての事を知りながらも、自分の事を『ある』としてくれる物の前で無ければ、その姿を現す事はできない……」
 ローブの裾をはためかせながら、青年は行き止まりの筈の路地へと入っていく。
 「さて……今回の役者達は、彼女とどのように接するのでしょうね………。」
 路地に、呟きだけが残った。



 ●書庫ニ漂ウ影
 ―パラ…―

 書庫に響く本の項をめくる音。
 その音の源にいるのは暗い・暗い影をその全身に背負い―いや、むせ返るほど濃密で、そしてどこまでも希薄なその気配を纏ったその人物はもはや影そのもの。
 名は無く。『影』とだけその人物は自分の事を名乗る。
 
 ―ギイ―

 影が書庫の中に現れてより二日。軋んだ音をたてながら入り口の扉が動いた。
 「……。」
 しっかりしたスーツに身を包んだ一人の女性は、入り口で足を止めて宙に眼をさまよわせる。
 「……? 誰……?? 」
 辺りに漂うソレ。酷く薄い本の匂いとは全く別の何かの匂い。
 「………。」
 訳が分からない、とでも言うように首を振りながら彼女は奥へと歩いていった。



 しばらくして、影の元にまでその声は聞こえてきた。
 「……違う、これは違う……。」
 酷く陰鬱な声。
 影が何となくそちらを見ると、先ほど入ってきた女性が虚ろな表情を浮かべながら本棚の書を片端から読み勧めて行く様子が見える。
 一冊に眼を通しながら次の一冊へと手をかけ、読み終えた物は床に落としていく。全てが同じ速度の動きは、まるで彼女が機械になったかのよう。
 「……違う……。」
 「…………ふむ。」
 その動きに興味が沸き、影は自分の意識を彼女の影に移して移動をする。
 現れた自分に気がつかずに黙々と同じ行動を続ける女性。その後姿に何気ない素振りで話しかける。
 「こんにちは、何を探していらっしゃるのですか? 」
 「…………過去。」
 緩慢な動きで虚ろな表情をを自分に向け、一言だけ言うと女性はまた書籍へと没頭していく。
 「過去、ですか? 」
 「覚えていなければいけない事。忘れてはいけない事。絶対にすぐに思い出せるようにしていなければいけない事……。貴方は覚えていない? 私の知りたい事。思い出したいこと。」
 熱に浮かされたように。歌を謳うかのように紡がれる言葉。それを耳にして、影はただ首を振る事しか出来なかった。



 ●五人ノ前ノ二人

 ―カツ…カツ…カツ……―

 書庫に足音が響く。

 ―カツ…カツ……―

 音はどこまでも反響していき、自らの力の無さに絶望するかのように、無間を前にただ消え去っていく。

 ―パサ…― 

 音に新たな音が混じった。
 「……今のは……? 」
 セレスティは足を止めるると、新たに加わった足音の方向を見やる。
 目の前に広がる、本棚だけが続いていく空間。この場所に足を踏み入れた時は、まったく人の気配が感じられなかったはず。ならば、今の音源は――。
 「十中八九、あの書き込みの女性ですね……。」
 自分の隠された力をセレスティ・カーニンガムは使おうと相手に意識を向け―――突然、背後に現れた気配にそれを中断させられた。
 「何か、お探しですか? 」
 セレスティが振り返ると、穏やかな……だけれどもどこか怪しい微笑みを浮かべた青年―・影がそこに立っていた。
 「あぁ、なるほど。『彼女』に用があるわけですね。良かったら案内しますよ。
 「案内、ですか? 」
 唐突に現れた影に対し、セレスティが怪しむように言う。
 「えぇ、少々歩きますし。良かったらお連れしますよ。そして――。」
 何かを見透かすような眼を影は浮かべる。
 「よろしければ、出口までお送りいたしますよ。必要ではありませんか? 」
 実際、後ろを振り返ってみれば、もはや入り口からはかなりの距離を進んできている。
 建物に伝わる経歴や見取り図が全くつかめなかった為、セレスティは入り口付近のみを探索するつもりだった。しかし、まるで同じような風景の連続によって狂わされてしまった距離感だけ、入り口からは離れてしまったかのようだった。
 「…………確かに、必要かもしれませんね……。」
 何の為にこのような事を目の前の相手が言い出したのか、そんな事は見当もつかない。どうやって相手が自分を運ぶつもりなのかもまた同じである。
 そしてまた、目の前の相手が害意を及ぼす相手では無い、と言う事の保証もまた存在しない。
 もっとも、最後の考えは現れた瞬間に自分を襲ってこなかったのだから、杞憂でしかない問いだろうが。
 「いかが致しますか? 」
 人を安心させるような微笑。影の浮かべた表情を見て、セレスティは頷いた。
 「お願い致します。」
 「承りました。では……」
 影の足元から、黒い『影』が伸び、セレスティを覆った。



 ●栞
 「さて、それでは……。」
 セレスティが礼を言って書庫の前から立ち去っていくのを見送り、改めて影は書庫に立った。
 去っていった彼は先ほどの女性に用があった様だったが、自分としてはそちらにあまり興味は無い。それよりも――
 「この並ぶ本を外へと持ち出したらどうなるか……そちらに興味がありますね………? 」
 入り口のすぐ横にある棚に並んだ本を見ながら呟く彼の耳に、ある物音が届く。

 ―パサッ―

 何か本を落すかのようなそれは間違いなく、先ほどからいる女性のたてる音。
 「……? それほど移動はしていませんでしたが……。」
 妙に近い場所から聞こえるそれに影は首をかしげた。
 まるで、自分が思った距離しかこの空間に存在しないかのような、そんなあり得ない感覚。
 「妙な場所ですね……本当に。」
 苦笑を浮かべながら影は一冊の本を取り、書庫から出た。



 外に出ると、ちょうど五人の人々が書庫の中へと入っていくところだった。
 「さて、本は……? 」
 何気なく入っていく彼らを眺めながら、自分の手に眼を落とす。
 一冊の本が残されていたはずのそこには、一枚の紙切れがあった。
 「……あの場所だけでしか存在しないのですか……。」

 ――御代は、貴方の幸福です――

 そうとだけ書かれた紙を見て、影はおもわず苦笑を浮かべた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い
 3873 / ―・影 / 男性 / 999歳 / 詳細不明


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■         ライター通信          ■
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藍乃字です。
大変、お待たせいたしました!
新人にあるまじき遅刻、本当に申し訳ありません。
今後、このようなことが無いように気をつけさせていただきます。

本当に、申し訳ありませんでした。

本文の解説を少しばかりさせていただきます。
一読して頂けると分かるかもしれませんが、今作は草間興信所で出された『矛盾書庫』のリンクシナリオ、となっています。
もっとも、リンク部分は薄くこちらの『zenonarchive』ではその設定が明かされる……と言った形にさせていただきました。
草間興信所でのリプレイも一読して頂けると幸いです。

また機会がありましたら、その時はよろしくお願い致します。

では。