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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


閉じ込められたエクソシスト☆

「わぁ! 助けてぇっ!」
 バンバンと分厚い結界を叩きながら体操着姿の少年は叫んでいた。
 名前は柊・秋杜、12歳。歳のわりにはちびっこさんで、下級生に見えなくもなかった。
 彼はすでに半泣き状態だ。完全にパニック状態に陥っていて、できる筈の除霊もできずに蹲っている。
 正確に言えば、自分の学校の体育館倉庫に住み着いた幽霊数体に憑依されかかっているといった方が正しいのかもしれない。実力が無いわけではないのだが…如何せん「押しが弱く」気が優しい気質が災いしているようで、幽霊に手が出せないようだった。
『ギャアッ! グオオッ!』
「あっち行ってくださぁ〜い」
 こんな時、霊媒体質気味なのが恨めしい。
 相手は数体がかりで自分を押さえつけ、体育館倉庫内を大暴れしているのに自分は手をこまねいているのだ。
 きっと理由があるに違いない。そう思って手を出さないようにしているのだが、相手のほうからしてみれば、良い鴨が葱背負って現れただけだったのだ。
「ここから出してぇ! …じゃなかった、出さないで!!」
 もう、完全に自分の口走っていることがわかっていないようで、矛盾したことを言っている。自分は出たいのだが、ここで結界が外れてしまったらこの幽霊達は秋杜のクラスメイトや学校の先生たちを襲い始めるだろう。それだけはどうしても嫌なのだが、自分が乗っ取られそうになるのも嫌だった。まあ、それは普通であろう。
「先生ぇ〜…」
 最悪なことに、怒り出した他の幽霊達が倉庫中を暴れまわっているのだ。さっき、必死でドアを閉めたから外に出て行くことはない…筈、多分。きっと。
 幽霊という奴は死んだ時に自分が死んだとわからないから、死んだその場所から出て行くことはあまりない。しかし、自分は『まだ生きているんだ!』と言った妄執の為に、実際その場でドアが開いていたら生きていた時の常識通りにそこから出て行ってしまう。ドアは開いていたら出て行けるだろうと。
 反対にドアが閉まっていると、ドアは閉まっているから出れないはずと思い込んで出ていかない。無論、幽霊はドアがあっても無くても、壁でもすり抜けて好きなとこ行けばいいのだが、何故かドアが閉まっていると出て行かないのだ。
(結界の外にいる幽霊さん…どうしよう…)
 泣きべそをかきながら、秋杜は必死で考えた。
 あまり幽霊がそう簡単に気がつくはずないのだが、もしも、ドアが無かろうと出て行けると気がついてしまった場合に結界に入れることができなかった幽霊が出て行ってしまう恐れがあった。
(どうしよう…ものすごく…怒ってるみたい…)
 自分にしてみれば、そこの生徒が機材を取りに言ったわけだから、悪いことでもなんでもない。それでも、住み心地の良い暗くてじめじめしている倉庫を『荒らされたら』幽霊は起こって当然だった。
(ぼ…僕、なんにも…悪いことしてないのに…そうだ、歌でも歌って頑張ろう)
 そう思い直して秋杜は歌い始める。
「たとーえば どんな風に〜 悲しみを越えてきたのぉ〜…………」
(あうっ……)
 こんなとこまでアニメソングな秋杜なのだった。励ますようなアニメソングの最初の部分は、お約束と言って良いほど『悲しい』とか、『苦しい』とかの単語が多い。
 まさしくそんな状況にいる自分が悲しくて、秋杜は泣き始めた。
(もうだめです…おとうさん…ごめんなさい……)
 ガックリと項垂れて抵抗を放棄しようとした瞬間、懐かしくも元気な声が聞こえてきた。地獄でなんたらとは雅にこのことで、その存在は天使としか思えなかった。
「ちょっとーッ! 学校に遊びに来たと思ったら…この情けない恰好は一体なんなのかしら!」
「レーナお姉ちゃん!!」
「なんで幽霊大暴走中なのよ。結界張って動けなくなってるってどういうこと?」
 高校生ぐらいの姿をした幽霊が、秋杜に近付くと呆れたようにそう言った。
「だ…だって、外に出てっちゃたら…学校の皆が…」
「なんだって、こんな『いかにも幽霊います』みたいな場所に来るのよ。人が来なきゃ、暴れたりしないでしょうに」
「だって…」
 レーナの言葉に秋杜は鼻をすんと鳴らしてから答えた。
「だって…倉庫にある機材…持ってきてって」
「秋杜ちゃん、力あるんだからこれくらいどうにかできるでしょう!?」
「レーナお姉ちゃん…僕…除霊とかは…無理……ですぅ」
 言った瞬間、涙が零れてきて秋杜はひーんとか細い声を上げて泣き出した。
「あーもー、泣いちゃダメよぉ! 仕方ないわねぇ」
「おね…ちゃ…」
「ちょっと体貸しなさい! どうにかしてあげるから」
「ふぇぇん…」
 レーナはまたまた泣き始める秋杜を無視して近付くと、だんご状態になっている霊どもをぶっ飛ばして乗り移った。すると、秋杜の顔つき場別人のようになり、いつもの大人しそうな表情は消える。
「ギャ? ギャアッ!」
 雰囲気が変わり、自分たちの苦手なオーラを纏った秋杜に狼狽して幽霊達はざわめき始める。秋杜ではなく、秋杜の体を乗っ取ったレーナはニッと笑った。
『さぁさぁさぁ! 天の国へ還りなさい! 容赦なんかしてあげないんだから』
「グアァッ!! キィァーッ!」
 さっきまで自分達が虐めていた少年は、全く違う何かになってしまったような感じがしているののだろう、幽霊達は散り々々になって逃げようとしていた。そんなことは許すはずも無く。レーナはじりじりと追い詰めていった。
「ギャ…ギャ〜……」
 どうやら懇願しているようだが、人間の言葉も忘れてしまったような幽霊の話し謎聞けるはずもない。レーナは無視して近付いた。
「よくも、秋杜ちゃんを泣かせたわね…許さないわよ!」
 そう言うとレーナは団子になった霊に近付いていく。五芒星を切ると聖句を詠唱した。
「その人は幸福である。悪しき者のはかりごとに歩まず、罪人の道に立たず、嘲る者の座にすわらぬ者は。むしろ、このような人は、神の掟を喜び、昼も夜も、そのおきてを口ずさむ。このような人は、流れのほとりに植えられた木が時に至って実を結び、その葉もしぼまないようにその為すところは全て栄える」
 還る場所を知った幽霊達は恐れて後退った。
「ギャッ!」
 眩い神の光が目の前で輝く。焼かれるような苦悩の声を上げて幽霊は悲鳴を上げた。
「逝きなさい!」
 神の言葉は炎となって焼き尽くし、幽霊達をホのうの監獄へと送っていった。
「ふぅ…」
 辺りには静寂が戻り、レーナは溜息をついた。
『さて、片付いたわよ…秋杜ちゃ…あれ? ちょっと、寝てるの!! なんなのよー!』
 どうやら、レーナに体を乗っ取られた時に気絶したか、泣き疲れて寝てしまったらしい。機材を持って来て欲しいといわれているということは、遅くなったら先生たちがここに来てしまうかもしれない可能性があった。
「うっそー! 最悪…。ちょっと秋杜ちゃん! 起きなさいよ! ………わーん、返事が無いーっ!」
 秋杜の姿をした秋杜ではないレーナが、他人から見れば秋杜としか見えないのに、起きてくれだのいう姿は独り言を言っているようにしか見えない。かなり怪しい姿だった。
 しかも、何を持っていったら良いのかわからない。
「やだぁ……」
 レーナは何処に隠れようか、保健室にでも閉じこもろうかと悩み込んでいた。

 ■END■