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□■□■ わたしをさがして。<<後編>> ■□■□
夕華が立ちはだかる。
男は、後退りをした。
「そうね――」
白衣を着た男はまだ年若く、大学を卒業したばかりといった風体だった。新任教師なのだろう、その顔は恐怖に引き攣っている。見えているのだ、夕華が、幽霊が。
「うん。好きな人、いた。思い出した」
ぽつん。
抑揚をなくした声で、悲しげに彼女は呟いた。
「私、先生が好きだったよ。先生も私のこと好きって言ってくれた。なのに先生――」
「ち、違うッ僕は悪くない、ぞ」
「結婚するって、だから終わりって。嫌だって、私は言ったよね。そしたら先生は私の首を絞めて――ふらふらした私を、その窓から」
パァンッ。
彼女が指差すと、窓が割れた。
男はさらに顔を引き攣らせ、泣き顔をしてみせる。
「自殺だって言ってたね、先生。お前は自殺するんだ。勝手に此処から落ちるんだ。僕は悪くない、お前が僕に殺させた。お前は自殺だ――」
「た、たすけっ……助けて、ッ」
「私は――悪く、なかったのに」
ざわり。
空気が変わる。長く黒い彼女の髪が大きく広がった。黒目がちだったそれが赤く光る、夜の気配が毒されていく。彼女はゆっくりとその気性を荒くしていく。
壁の時計は十二時に指し掛かっていた。彼女の四十九日は終わりかけているのか、あるいは、憎しみに囚われているのか。止めなければ。止めて、送り出さなければ――
「返して――私の身体、返してよ先生!!」
■□■□■
「ッ駄目――止めなさい、夕華ちゃん!!」
シュライン・エマは叫び、咄嗟に夕華に手を伸ばす。幽体ではあったが触れる事は出来た、月の力かそれとも――悪霊化したことにより肥大化された精神力によるものか。だが幽霊の力とは物理的なそれではない、身体を押さえた所で意味は無い。シオン・レ・ハイが、長い脚で一足飛びに教師に駆け寄った。割れた窓からそよぐ風は冷たい、そして、シオンの指先も。その冷たい指を男の首に伸ばし押す――窓の桟に腰を引っ掛ける形で、男は宙吊りになった。
「ッ、ひ、たすけぇえッ」
「死んで償いますか? ああ、それでは足りないかもしれませんが。もう少し苦しんだ方が良いでしょうね――爪でも剥ぎましょうか。それから指の骨を全部折って。苦しませて苦しませて。ねえ夕華さん?」
「ぅ、あ?」
ざわりと立っていた夕華の髪が不意に静まる。動揺している――まだ、憎しみにすべてを支配されている状態ではない。男を連れて行こうという決意はまだ鈍いものなのだろう、もがく男を首だけで支えながらシオンはニコリと夕華に笑い掛けた。それから男を一瞥する――まったく、違う表情で。それは氷のように冷たい視線だった。
その隙にシュラインは手近な机に置かれてあった瓶を掴む。透明なガラス瓶の蓋を開け、中の液体を夕華の周りに撒いた――実験に使用するのだろう、生理食塩水である。清めの塩ほどではないだろうが、それでも霊体を多少拘束する力にはなった。彼女の身体が傾ぐ、シュラインはそれを受け止める。
「ッこ、ろして――殺して、やるぅッ私、私は、わたしは、ワタシはッ」
「夕華ちゃん! やめなさい、落ち着くの! どうにもならないと判っているのでしょう!?」
「好きだって言ったのに愛してるって言ったのに抱き締めてくれたのにっ」
「夕華ちゃん!!」
「――Shut the fuck up everyone!」
耳の奥にキィンとする大音響のそれは、校内放送だった。
マイクのボリュームは最高だと推測出来るその音に、一瞬全員の動きが止まる。
半開きだったドアが乱暴に開けられ、ジュジュ・ミュージーが飛び込んだ。
■□■□■
外に居た面々も異常に気付き、上階を見上げていた。
「ッ、くそ――玄関に回ってちゃ時間がねぇッ」
「待って下さい、私が鍵を開けますから!」
「いや、あんたは先に上に行ってくれ」
悔しげに毒づいた草摩色の言葉に壁に体当たりして中に入ろうとした彼瀬蔵人を、幾島壮司が止めた。見れば、壮司はサングラスを外し――片方だけ金色の左目に、蔵人を映している。直感でその意味を悟った蔵人は窓の桟に足を掛け、一気に跳躍して窓に辿り着いた。
「あ、待てよちょっとッ」
「うら」
「でぇっ!?」
べしッ、と色の後頭部を壮司が叩く。衝撃で色のコンタクトが外れ、地面に落ちた。その首根っこを捕まえ、壮司が蔵人と同じように窓の桟に脚を掛ける。
だがそう言った無理な跳躍は、蔵人が死神でしかも実体で無いから出来ることだ。落ちる、色が思わず眼を閉じると、壮司は校舎の壁に自分の腕を突っ込んだ。写し取った能力、通り抜けたそれを支点に、再び跳躍を重ねる――二人の身体が不安定に浮かび、そして、二階に到達した。
■□■□■
「ッおら!」
ジュジュの登場とほぼ同時に二階に辿り着いた壮司は、窓からの突入ざまシオンによって身体を半分外に出していた男の後頭部に強かな蹴りを入れていた。シオンが慌てて避ければ壮司は室内に降り立ち、ぶら下げていた色を些か乱暴に床に放り出す。
「――聞こえてたぜこの下衆野郎、さっさとあの子の名前を吐きな!」
「ッひぃ、たすけて、助けてッ」
「質問に答えろってんだよ、ああッ!?」
「ちょーっと待つネ、ソーシ? それはあんまり賢くないネ」
「あ?」
ひょこ、と顔を出したジュジュが、男の胸倉を掴んでいた壮司の腕に手を乗せた。んふ、とコケットな笑みを浮かべた彼女は、一瞬後にその笑みを消して男を見る。とろん、としたいつもの眼差しだが、少しだけ細められて険しいように見える。心底軽蔑しきった様子が、僅かに覗けた。
「ミーもその子に声掛けられてたネ。一応先に忍び込んで、ちょーどこの校舎に居て――特別教室棟だったから放送室があって助かったYo、もうこの男は悪魔憑き」
言われて壮司は男を見る。左目で解析をすれば、確かにその身体からは異質の気配が滲み出していた。デーモン、テレホンセックス――ジュジュの使役する、悪魔。それに憑かれていると言うことは、男が既にジュジュの支配下にあるも同然ということだった。
「っつ〜……しかし、さっきの放送は耳に来ましたよ、ジュジュさぁん……」
「硬いこと言わないNeシオン、あんなの使ったことなかったから判らなかったんだYo〜……適当にいじったら、音量マックスだったみたいネ。さて――吐いてもらうYo、あの子の死体の場所。っと、その前にまずは名前から?」
「成見由佳、だよ」
ぽつ、と答えたのは色だった。
シュラインと蔵人に宥められながら床に膝を付いている彼女をじっと見詰め、彼は銀色の眼を見開いていた。空気に触れて乾くのか、僅かに充血しているが――彼はその眼を逸らすことなく、少女を見詰めている。死者の記憶を見る銀の眼差し。何が見えているのか、何が映されているのか。
「色くん?」
「蔵人さん、見付けられる?」
「少し――待って、下さい」
蔵人は懐から死者名簿になっている黒い帳面を取り出し、彼女の名前を探す。そしてそれを見付けた瞬間に表情を強張らせ、へなへなと腰を抜かす男に視線を向けた。表情は無く、ただ、僅かな軽蔑が込められている。シュラインが彼を見上げれば、視線に気付いたのか――蔵人は、少し言いよどむようにしながら、帳面の内容を読み上げる。
「成見由佳、享年十七歳。死因は――凍死、です」
「え? ちょっと待って――それはおかしいわ。彼女は首を絞められて、そこの窓から落とされたの。窒息か全身打撲、内臓破裂なんかになるはずよ」
「そう、由佳は、死んでなかったんだよ」
色が呟く。
シオンは一瞬寒気を覚え、振り向いた。彼の後ろには巨大な冷蔵庫がある。実験に使う用具をしまってでもいるのだろう、または実験に使ったものを。学園の設備は充実していて、普通は大学の研究室にあるようなものでも、設置がなされていた。巨大な冷蔵庫も然りである。
このタイプのものは温度調節が可能で、卵の孵化を促す際には人肌程度にも出来、冷蔵庫として使用することも出来る。もちろんもっと温度を下げれば――冷凍庫にも、なる。だが寒気は漏れてきた冷気ゆえではない、確実に。
シオンの様子に気付いた壮司もまた、冷蔵庫を見た。凍死。生物準備室。白衣の男は、おそらく、生物教師なのだろう。ここは彼のテリトリーだ――蔵人の言葉を思い出す。自殺者は、よく知った場所で死ぬ。よく知った場所? ならば、死体を、隠すには。犯罪者の心理も同様ならば。
色は眼を見開いたままに居る。その姿を、ジュジュがとろんっとした眼で見詰めていた。沈黙の中、男の嗚咽だけが流れている。
「よく考えりゃ、二階から落ちたぐらいじゃ死なない――ん、だ。首絞められて、由佳は落ちた。首を押されたから、自然に頭が下になって、強く打った。でも死んでなかった。意識失って、脳出血ぐらいしてたけど、いくつか骨も折れたけど、死んでなかった。でも意識の無い様子見て、そいつは由佳が死んだと思って――」
「ッ……まさ、か」
「由佳の身体を運んだんだ。日中は茂みに隠しておいてから、夜になってこの部屋に移動した。由佳はそれでもまだ生きてた。意識は朦朧としてて眼も開けられなくて声も出せなかったけど、生きてた。でも、そいつは――」
「もう良い、ネ。それ以上見なくて良いYo」
そっと、ジュジュは色の眼を手で覆った。同時に彼の膝が崩れ、へたり込む。
シオンは、冷蔵庫を開けた。
温度設定は零下だった。白い煙のような冷気が、彼の身体を覆う。僅かに含まれるのは有機的で生臭い鉄のニオイ。冷気の霧が晴れる。
シュラインは口元を押さえ、眼を背けた。そして夕華の、由佳の身体をぎゅっと抱き締める。強く抱き締めるその身体からは、力が抜けていた。ただ茫然としていた――本当は、忘れていたのだろう。記憶が薄れていると言っていた。もしかしたら、忘れたかったのだろう。残酷で痛すぎるそんなことなど、忘れて、ただ純粋に――この世の呪縛から解放されたくて。
ただそれだけだったのに、結局生きていたことを思い出させられて、こんなに、壊れて。
震えることも忘れてしまった身体をどれだけ強く抱いても、体温も移らない。
「……痛かった、わね」
「ぅ――あ」
「辛かったわね。ごめんなさい――」
「あ、あぁあ、あぁぁあぁぁあああッ」
「何も、出来ない」
蔵人がその背に手を当てる。シオンが、ただ痛ましげな表情で見守る。
シュラインは彼女を抱き締める。由佳は、叫ぶ。泣くように叫ぶ、猛るように叫ぶ。こだましないそれは、彼女の力が弱っている事を示していた。月の時間が終わろうとしているのか、それとも、悪霊化が阻止されたことによるものか。堪らずシオンは顔を背ける、ぱたぱたと床に水滴が落ちた。開け放された冷蔵庫は逃げる冷気を補おうとしてか、強く音を立てて稼動する。低く、音が響いていた。
「……仕事はover、だけど――ここで終わらすわけにはいかない、ネ」
ジュジュがぽつりと呟く。シュラインは抱き締めていた由佳の身体を蔵人に預け、仕事柄いつも持ち歩いている録音機をセットした。その様子にジュジュがこくりと頷き、指示をする――デーモンに、それに憑かれた男に。
「自分のやったことを吐きな。だらだらしてるとぶっ殺す」
「僕は――彼女を、成見由佳を、殺しました」
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かち、とレコーダーの音が切れ、男の身体からデーモンの気配が消える。自白は記録され、死体も見付かった。男はこれで社会的な裁きを受けるのだろう。それでも――壮司は舌打ちし、へたり込む男の胸倉を掴む。無理矢理に立たせたその身体に、腕を、突き入れた。胸骨を乱暴に掴む――ストックされた能力の一つ、『骨抜き』だった。
「ッ、ぎ、ぃ――ぉあぁッ!!」
「覚えとけよその痛み、しっかり脳髄に刻み付けときやがれ」
「ソーシ、やりすぎは――」
「やりすぎ? はっ……『やらなすぎ』ってモンだぜ。一生後悔して生きろよ、刑務所から出たらもう良いなんて思ってんじゃねぇ。捕まってお終いなんて甘っちょろいこと考えやがったら」
「ひぎぃぃいいッ」
ぐ、と壮司は骨を握る手を僅かに動かした。生まれる激痛に男の表情が歪む、ぼろぼろと涙と鼻水がその顔を汚していた。それでも、まだ、足りない。まだ。出来るならば。それがタブーでも。
シオンが無言で彼の腕を掴む。ふる、と首を横に振られ、壮司は手を抜き取った。
左目でぎろりと睨み、吐き捨てるように呟く。
「どこに居ようが見つけ出して生命維持ギリギリまで骨を抜き取って生き地獄を見せてやる」
ストックされた能力、GLMの発動だった。恐怖に気を失った男からは、壮司の姿かたちの記憶が抜けているだろう。どんな姿か判らない、そんな圧倒的な相手が常に自分を見張っている錯覚に苦しんで、男は生きるのだろう。死んでしまった由佳とは違って、生きていくのだろう。
壮司は未だへたり込む色の顔に自分のサングラスを被せ、見えるものを消してやった。
「……由佳さん」
ぽんぽん、と由佳の背を撫でて宥めていた蔵人が、不意に声を掛けた。
「探し物は見つかりましたし、彼も裁きを受けるでしょう。穏やかに、逝けますか?」
「ぅ……う、う」
「お名前が判ったお陰で、正確な死亡日も判りました。四十九日まではもう少し間があるようです。ゆっくり考えて下さっても構いません――ですが、お別れの時間なども考えてください」
「お、わか……れぇ?」
「ええ。家族やお友達に、会いに行きましょう? 思い出せたのでしょう、全部――」
蔵人の優しい声音に、由佳は頷いた。
死神の手を借りて、彼女は塩の結界からその身体を出す。深々と頭を下げ、無理に、笑って見せるその表情は――涙に濡れて痛ましい。
「ゆ、か」
「――?」
色が、彼女を呼んだ。
「良い名前、だよ。思い出せて、良かったな」
「……ありがと」
「ッなんも――出来な、かったけどっ」
「色くん」
「え?」
「サングラス、似合わないね」
由佳はからかうように言う、色が笑う。由佳も笑う、壮司もジュジュもシュラインもシオンも蔵人も――笑った。笑って、彼女の姿が消える。同時に蔵人も、消えた。
ふっと、シュラインが耳を澄ます。
「シュラインさん? どうしました?」
「ん――サイレンが、聞こえるの。パトカーかしら、こっちに向かってる――どうして」
「あー、それはミーですYo〜。自白語らせてる間に、メールでポリスメンを呼んで置きましたぁ。Time is money、時間は有効活用ですNe?」
「ってことは、事情聴取受けるでしょうね、私達……色くんは明日も学校だから、ここは大人に任せて逃げておく?」
「そうだな、行くぞ色」
「ッで、首根っこ掴むな……つーか俺のコンタクト! 弁償してくれんだよな、壮司さん!?」
「知らん!」
「と言うか壮司さんは二十歳過ぎた大人ですから、私達と一緒に事情聴取受けましょうねー。一蓮托生ですよ。じゃあ色くん、気を付けて帰ってくださいね?」
「ッし、シオンさッ首根っこ掴んで上げるなよッ絞まる、頚動脈頚動脈!!」
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「と言うわけで次号の特集は神聖都学園で起こった教師による生徒殺害事件について。女生徒の幽霊目撃談なんかが無いか集めてきてくれる? さんした君」
ドアを開けると同時に聞こえた碇のそんな声に、シオンとジュジュは顔を見合わせた。何の話をしているのか一発で判り、苦笑する。書類を押し付けられた三下は、現れた二人に涙眼で笑みを向けた。手伝ってくれると思っているのだろうが、そうは行かない。
「ヘイ、レイカ〜? その事件を調べても、もう何にも出てきませんYo〜?」
「あら、どうしてかしら?」
眼鏡を上げながら訊ねる彼女に、シオンは苦笑を向ける。さて、どこまで話したものか。下手に関与したことを言ってしまえば取材にと根掘り葉掘り聞かれてしまうだろう、だが無駄骨調査で三下を追い詰めるのも気が引ける。ここは適当に誤魔化して――と思ったところで、ジュジュがあっけらかんと答えた。
「だって解決したのはミー達ですから〜? Right, Cion?」
「あらあら、それは――」
「……め、眼鏡の煌きが眼に痛いです碇さんッ……」
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「あん? 何やってんだ、雫」
何か面白い依頼でもないかとG・OFFに向かった壮司は、難しい顔で画面を睨む雫を見付けて声を掛ける。うー、と大きな眼で彼を見上げ、雫はぼやいた。
「シュラインさんから高等部での自殺者が無いか調べてって頼まれてたんだけど、全然該当者が出なくて困ってるの〜……うー、この前出たのは他殺だったしなー、どれだろうなぁーっ」
「あー……それ、キャンセルのメールが来ると思うわ」
「え? なんで? もしかして壮司さん、なんか知ってたりする?」
きらきら、途端に雫の眼が好奇心を湛えたものに変わって、壮司は思わず後退りした。まずい、この眼に捕まっては確実に夜まで尋問が続く。正直、あの事件の事は吹聴して周りたくない――由佳に悪いし、何より、自分でも思い出したくない事件だ。
だが雫ははっしと壮司の上着を掴んでいた。逃がすつもりは無いらしい、傍目には可愛らしい微笑を向けられ、彼は溜息を吐いた。サングラスを軽く上げ、降参を見せ掛け――
「さいならッ!」
「あ、逃げたぁッ! 待ってよネタ元ー!!」
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蔵人は墓に花を手向けていた。
滅多に訪れない墓地で、訪れたとしても精々が自宅の墓である。なのに今彼は、見も知らない墓に花を手向けていた。他にもたくさんの仏花が供えられている所からして、ごく最近に人死にがあったのだろう。御影石には、『成見家代々之墓』と記されている。
成見。さて、誰だったか。ぼんやりと考えていたところで、話し声が近付いてくるのに気付く。この墓に用なのかもしれない、だとしたら退いてしまおう。道に入り、墓地を出ようとすると――少年と女性の二人連れが、向こうに見えた。
シュラインと色である。
「良いの、学校サボッちゃって」
「だって昼休みにケータイでジュジュさんに呼ばれてさぁ、気が付いたら校門で花受け取ってたんだって。供えておいて下さいね〜、って……絶対なんかされたよ」
「ああ、その可能性は充分にあるかもしれないわね。彼女あれでちょっとエキセントリックに能力使っちゃうから……電話が掛かってきたら、メールで聞くようにした方が良いわ」
「なるほど、シュラインさんあったまいー!」
「からかわないの。ほら、ちゃんとお花持って? 私のも持たせるわよ」
見覚えがあるな、と、蔵人は通り過ぎ様に軽く会釈をする。
二人も気付いて、頭を下げた。
ひらりと菊の花弁がひとひら落ちる。
「……おや?」
何故だか彼の頬に一筋、涙が零れた。
■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■
0086 / シュライン・エマ / 二十六歳 / 女性 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3356 / シオン・レ・ハイ / 四十二歳 / 男性 / びんぼーにん(食住)+α
3950 / 幾島壮司 / 二十一歳 / 男性 / 浪人生兼観定屋
4321 / 彼瀬蔵人 / 二十八歳 / 男性 / 合気道家・死神
2675 / 草摩色 / 十五歳 / 男性 / 中学生
0585 / ジュジュ・ミュージー / 二十一歳 / 女性 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
■□■□■ ライター戯言 ■□■□■
こんにちは、ライターの哉色です。まったりと後編をお届け致します……少々描写に残酷・グロテスクが混じってしまい申し訳ございません。ともあれ事件解決して頂きまして、お疲れさまでございました。前編同様プレイングを完全に組み込めなかったところもありますが、どうかご容赦下さいませ;
エンディングではそれぞれ発注を頂いた窓にちなんだ場所に行って頂きました。学園から頂いた方々は、お墓参りと。
長々とした話になってしまい、途中暗かったりグロかったりと微妙な感じでしたが、少しでもお楽しみ頂けておりますれば幸いです。それでは失礼致します。
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