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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

隠岐智恵美編

●数週間前
 それはただの偶然であった。
 その日たまたま足の向いた方向がそちらだっただけの事である。
 隠岐智恵美(おき・ちえみ)にはさしたる意図があった訳では無かったが、彼女にとって嬉しい発見がそこにはあった。
「あらあら、こんな所に古本屋さんがあったのですね。それも雰囲気からして落ち着いたいい感じのお店が……。」
 そう言って智恵美が嬉しそうに入って行ったのは、裏通りにある古びた古書店『文月堂』であった。
 中に入った智恵美は魔術関係の書物がないか店員の銀髪に赤い目をしたの少女に問う。
 そしてその銀髪の少女が智恵美に頼まれた本を探している間に、店の中を見回している内にその置いてある本の傾向や種類が自分の好みにあってる事に気がつく。
 そうこうしている内に少女から声が掛かり本を受け取った智恵美であったが、その日はこれからの予定もあった事もありその店を後にした。

●紗霧が声を掛けた日
 そしてその数週間後、文月堂に主の様に毎日居続ける智恵美の姿があった。
「あらあら、この本は探していた本の続きですね。早速読んでみましょう。」
 そう言っておもむろに智恵美はそのままその本の立ち読みを始めてしまう。
 毎日の様に智恵美は文月堂にやってきては、自らが面白そうだと思った本や興味を持った本に次々に手をつけて行く。
 そうした日々が、数日続いた頃初めて智恵美が文月堂に来た時にも店員をやっていた銀髪の少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)がずっと言おうと思っていた事を口に上らせる。
「あの……いつも来てくれるのは嬉しいんですけど、もう何も買わないのですか?いつも色々探しているようですけど見つからないんでしたら探すのを手伝いましょうか?」
 紗霧のその言葉に今まで読んでいた小説から視線を声をかけた紗霧の方に動かし智恵美は答える。
「あ、いいんですよ、私は一度読めば大体満足できるので。」
 煙に巻くように笑顔で智恵美は紗霧にそう答えると再び、本に視線を戻す。
 智恵美にそう答えられてしまい、紗霧は何もいう事が出来ずに引っ込む事しかできなくなってしまった。

●紗霧が本を散らかした日
 そしてそんな日々がまた数日続いたある日の事であった。
 すでにそれが当たり前の事であるかのような面持ちで、智恵美が文月堂で立ち読みをしていた。
 紗霧がその日は本の整理などをしてせわしなく動いていた。
 そして丁度両手一杯に本を抱え歩いていた紗霧は床に置いてあった踏み台に足を引っ掛けてしまう。
 本を持っていたためにそのままバランスを崩して、紗霧は本をその場にばらまけて、自身は智恵美の方に倒れこんでしまう。
 智恵美は紗霧の事を本を読んだままの直立姿勢で支える形になる。
「……あ、ありがとうございます。」
 紗霧は自分が智恵美に支えてもらったと思い思わず御礼を言うが、当の智恵美は紗霧の事など全く意に介さずただただ黙々と手にした本を読んでいた。
 その智恵美の様子にどうしていいのかわからずに紗霧は恥ずかしさに顔を赤くして、自分が散らかしてしまった本を片付けに行った。

●紗霧がお茶をこぼした日
 すでに智恵美の立ち読みはいつもの事となっていた。
 そんな智恵美の様子をもう慣れた様子で紗霧は見ていた。
「いつもの人、今日も来てるの?」
 そう言って奥から出てきたのは黒髪で茶色い瞳を持った紗霧よりは少しばかり大人びた雰囲気を持つ活発そうな女性であった。
「あ、お姉ちゃん。うん今日も来てるよ、いつものように本を一回だけ見てるの。」
 紗霧は智恵美の方を見る。
「そっか、まぁどうしても欲しいって本が見つかるまで待つしかないかもね。」
 紗霧から姉と呼ばれた女性、佐伯隆美(さえき・たかみ)は苦笑して答える。
「そういえばお茶を入れようと思うんだけど、紗霧も飲む?」
「あ、うん、飲む。……それであの人にも一応声掛けた方が良いのかなぁ?ずっとああだと疲れるだろうし。」
「そうね一応声はかけいてみましょうか。」
 隆美が智恵美に声を掛けるが、智恵美は本に夢中になっているためか全く返事をしなかった。
 その智恵美の様子に少し呆れたようなため息を一つついて見つめた隆美であったが、気を取り直して紗霧に話しかける。
「あそこまで、立ち読みで集中できるのも凄いわね。一種の才能かしら……?まぁ、仕方ないから私と紗霧の分を淹れてくるわね。」
「あ、そうだ冷蔵庫の中にアップルパイがあったと思ったから一緒に持ってきてよ。一緒に食べよ?」
「はいはい、全くいつの間に買って来たんだか。」
 そんな返事を返しながら隆美は再び奥へと下がって行った。

 しばらくして、隆美が珈琲とアップルパイを二人分持って戻ってくる。
「あ、やっぱり珈琲になっちゃったんだ、お姉ちゃんは珈琲が好きだからそうかな?って後から気がついたんだけど。」
「紗霧は紅茶の方が良かったんだ、淹れてる途中でそうかな?って思ったんだけど、まぁいいかって珈琲にしちゃった。」
 二人のそんな会話を横で聞きつつ、智恵美は今まで読んでいた本を読み終わった為に、次に読もうと近くに置いてあった次の本を手に取ろうとする。
 そしてそこで、隆美がもって来たアップルパイの香りが智恵美の鼻をついた。
 香りに気がついた瞬間、今まで何にも動じなかった智恵美が読もうとした本を明らかに動揺した様子で取り落とす。
「あ、今日はこれから予定があったので、これで失礼しますね。」
 挨拶もどこか余所余所しく取ってつけたような感じで挨拶をすると智恵美は慌てて文月堂
 そしてそのまま何かにおいたてられるかのように智恵美は文月堂をそそくさと出て行った。
 丁度、紗霧が珈琲を隆美が受け取ったところであったがその智恵美の様子を見て思わず珈琲をこぼしてしまう。
「なんだったのかなって、あつつつつっ!!」
 紗霧はこぼした珈琲で濡れた服を気にしながら奥に下がって行く。
「まったくあの娘ったらそそっかしいんだから……。それにしても、あの人急にどうしたのかしら?」
 まさか自分が持ってきたアップルパイの所為だとは思いもよらずに隆美は智恵美の出て行った先を見つめるのであった。

●カレーライスぱにっく?
 智恵美が文月堂に通い始め、すでに何日が過ぎただろう。
 もうすでに紗霧も智恵美が何かを買うということは諦めていた。
「次はどの本にしましょう?こちらの本にしようかしら?それともこっちにしようかしら?」
 智恵美が次に読む本を探している頃、もうすでに時間も夜になり、閉店も間直となった頃、奥の方から隆美から声が掛かる。
「紗霧ー、そろそろ閉店にしていいわよ。そろそろ夕食だし。」
「判ったー、でもまだあのおばさんがお店にいるからもうちょっと待ってー。」
 紗霧はそう答えると、本を選んでいる最中の智恵美に声を掛ける。
「あの、すみません、今日は閉店なので……。」
「あらそうなの?それは残念ね……。」
 そこまで智恵美が言った所で、奥からカレーの良い香りが漂ってくる。
 智恵美はそのカレーの香りに惹かれる様そちらの方へとふらふら歩いて行く。
「あ、お客さんそっちは……。」
 慌てて追いかけようとする紗霧であったが、先に閉店をしないとまずいと考え直し、慌てて閉店作業を済ますと智恵美を追いかけて行った。
 そして店の奥で紗霧を待っていたのは、諦めた表情で三人分のカレーを用意している隆美と嬉しそうに待っている智恵美の姿であった。

 智恵美の文月堂通いはその後、数日間続いたという。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 隠岐・智恵美
整理番号:2390 性別:女 年齢:46
職業:教会のシスター

≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋


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■         ライター通信          ■
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 今回はご依頼ありがとうございました、藤杜錬です。
 智恵美さんらしさがうまく出せていたら良いのですが。
 紅の玉との感じでの調整がうまく行ったか少し不安ではありますが。
 今回は全体的に状況描写を大目にして見ました、こういう方がらしさを出せるかと思いましたので。
 それではありがとうございました。


2004.11.24.
Written by Ren Fujimori