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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


家族ごっこ

1.
「これ・・・このドールハウスなんだけどね」

そう言って、アンティークショップ・レンの店主・碧摩蓮(へきまれん)は大きなドールハウスを取り出した。
精巧な作りのドールハウス。
中には細々とした家具が綺麗に配置されており、とても手の込んだ物だとうかがえる。
「あたしんとこにくる物が曰く付きな物だってのは承知の通りだろうけどね。今回のコレはちょっと厄介でね」
蓮はそう言うと軽くため息をついた。
「それを気にいってお客が触ると、全員その中に吸い込まれちまうのさ。で、吐き出されたお客が言ってたんだけど、中には8歳くらいの女の子がいてこう言うんだってさ。『ママたちはどこ?』・・・ってね」
キセルをふかした蓮は一旦言葉を切り、こう言った。

「で、お願いなんだけどね。
 あんたたち、このドールハウスの中で家族ごっこをやってもらえないかね?」


2.午後4時
今回碧摩蓮より依頼された人々と少しの打ち合わせをした後、それぞれドールハウスへと手を置いた。
手を触れると、蓮の言うようにあっという間にドールハウスに吸い込まれた。
気がつくとシュライン・エマは見慣れぬキッチンに立っていた。
手にはドールハウスに触れる前に持っていたウサギのぬいぐるみ。

まずは例の少女に会ってみない事には始まらないわね。

エマはそう考えるとぬいぐるみをキッチンに置き、家の中を歩き出した。
キッチンは丁度家の真ん中辺りに配置されているらしい。
カウンター越しにダイニングが見え、その奥には扉がある。
おそらくリビングに続いているのだろう。
家の中は思ったよりも明るい。
どうやら電気が配線されているようだ。

しかし何故捜してるのかしら?
入れる予定の家族を作らずにいたとか、モデルの家があってそこの娘さんしか作らなかったとか。
もしくは、霊が迷い込んだとか・・・?
とにかく、手がかりが欲しいわよね。

自然と置いてある物に目が行くが、飾りといえば食器や額縁の絵ばかり。
本の類が全くといっていいほど無い。
少し見回った辺りで、玄関から声が聞こえてきた。
「・・・ママは? ママも帰ってくる?」
「ママは、多分お家の中にいるはずですよ?」
聞きなれた声と、もう1つは小さな女の子の声。
エマは、パタパタと玄関へと向かった。

「おかえりなさいませ・・・ご、ご主人様」

玄関に居たのはメイド役の初瀬日和(はつせひより)だった。
その先にはシオン・レ・ハイと少女。
エマは、今日の役どころを思い出した。

「あら、パパ。おかえりなさい」

すんなりとシオンを『パパ』と呼び、エマは少女の『ママ』になった。
「ママ・・ずっと、ずっと居たんだね!」
満面の笑みの少女はそういうと、エマに抱きついた。
なんの違和感も無く、少女に家族として受け入れられたようだ。
・・・と。

「ミーのシスター! やっと見つけたヨ! そして、ユーがミーの可愛い姪っ子ネ〜?」

ママの妹役・ジュジュ・ミュージーがどこからとも無く現れ、エマもろとも少女を抱きしめた。
「ジュジュさん! ちょ、ちょっと!!」
「感動の再会ですね〜」
慌てるエマに、なぜか本気で感動するシオン。

「あの、ご、ご主人様も、奥様も玄関先ではなんですから中にお入りください」

日和がそう言わなければ、きっとその不思議な光景は続いていただろう・・・。


3.午後5時
「お茶はいかがですか?」
にっこりと笑い、日和がソファーに座った一同に紅茶を渡した。
「お嬢様はオレンジジュースです」
「うわぁ、ありがとう!」
ニコニコとジュースに口をつける少女はどこにでも居る普通の少女に見える。
「ミーは実は記憶喪失になってしまったのデス。やっとシスターのことだけ思い出してここに来たのネ」
ジュジュはわざと悲しげにそういうと、少女へと言った。
「だからユーの名前、思い出せないのヨ。教えてくれる?」

なるほど、それならば少女の名前を容易に聞き出すことが出来るわね。

ジュジュの言葉に、エマは納得した。
名前を知っているはずの親から名前を聞かれるのはかなり違和感があるから、どう訊こうかと思っていたのだ。
そして、少女は軽く縦に首を振ると自己紹介をした。

「永草直子(ながくさなおこ)! 直ちゃんでいいよ♪」

「永草・・・直子チャンね。OK。では、家の中案内してくれる?」
「うん!」
元気よく立ち上がり、直子はジュジュと手を繋いで先を歩き出した。
「あ、私も行くわ」
エマは、直子とジュジュの後を追いかけた。
まだ回っていない部屋はいっぱいある。
「私も行きます〜!」
それに続いて日和もジュジュたちに追いついた。

先ほどキッチン近辺を見たときの印象とかわらない部屋がたくさんある。
だが、直子の身元がわかりそうなものは見当たらない。
「ここがね、私の部屋なの」
そういって開けた部屋には、小さなベッドとテーブルセットがぽつんと置かれていた。
当たり前だが生活の匂いというものが全くしない部屋。

何も手がかりになりそうなものは無かった・・・。


4.午後6時
一通り、家の中を回ってジュジュとエマ、そして日和と直子はリビングへと戻ってきた。
エレガントに腰をかけたソファーで、シオンが逆さまに持った新聞紙を一生懸命読んでいた。
「それじゃ、そろそろ夕飯の支度でもしましょうか。直ちゃん手伝ってくれる?」
「はーい。ママ!」
部屋に入るなり、エマはそういって直子を連れてキッチンへと入っていった。
「シスター! ちょっと話があるデス」
ジュジュがエマを追ってキッチンへと入ってきた。
「なにか?」
エマが振り返り、ジュジュの言葉を待った。
ジュジュは直子に聞こえないように、エマにこそこそと告げた。
「蓮サンに確認したんだけど、電気はきてるけど水道やガスはさすがに通ってないって。食材持ち込んできたからそれでサンドウィッチ作って欲しいのヨ」
「ドールハウスだもの、当然といえば当然よね。わかったわ。食材ありがたく使わせていただくわね」
エマがそう微笑み、直子とともにキッチンへと向き合った。
「ミー、ちょっと電話してくるヨ」
そういってジュジュがキッチンを出て行くのを見送ったエマは、大切なことを思い出した。
「ねぇ、ママね。直ちゃんにプレゼントが有ったの忘れていたわ」
そういうと、エマは置いておいたウサギのぬいぐるみを直子に渡した。
「うわぁ、可愛い! ママ、ありがとう〜! お部屋に持って行ってもいい?」
「えぇ。可愛がってあげてね」
パタパタと走って行こうとした直子が途中、シオンに呼ばれリビングへと走っていく。
エマはサンドウィッチを作り始めた。

その後、戻ってきたジュジュとご機嫌の直子も手伝って、サンドウィッチは大量に出来上がったのだった・・・。


5.午後7時
「できましたよ〜」と、エマはサンドウィッチの山を大皿に乗せてリビングへと向かった。
ダイニングテーブルは4脚しか椅子が無いので、リビングで食べた方がよいと判断した。
ジュジュがもう1つのサンドウィッチの山を持ってきた。
「水道工事中で水が出ないので外からもって来たのヨ」
「こんなにいっぱい食べれるんですか?」
二つのサンドウィッチの山を目の前に、日和がエマとジュジュにそう聞いた。
「それは大丈夫。いつもお腹空かせている人がそこに1人・・・」
とエマが指差した方向には既に目をキラキラ輝かせているシオンの姿があった。
「お、おいしそうですね〜・・・」
「あ! ミーの分は取っちゃダメ!!」
ジュジュの持ってきたサンドウィッチの山に手を出そうとしたシオンは、ジュジュにペチッと手を叩かれた。
「このお皿はミーの分ね。シスターが持ってきたお皿がユーたちの分。OK?」
「1人で全部食べるんですか!?」
日和の驚いた声にジュジュは口の端に笑みを浮かべ「大人の事情ヨ」とだけ言った。
「ママ、食べてもいい? 私、お腹すいちゃった!」
「あ、そうだったわね。じゃあ頂きましょうか」
大人たちの会話に、直子が待ちきれず言った。
手を合わせ「いただきま〜す」と言うと、パクパクと食べ始めた。

直子は、サンドウィッチが本物だというのにパクパクと消化していく。
「サンドウィッチ食べたの久しぶり♪」
「・・・ユーはそんなにサンドウィッチ食べてなかったの?」
「うん。だって、パパもママもずっと帰ってこなかったし、いつもは・・・」
直子の言葉が止まった。
「どうしたの?」
エマがそう訊くが、直子は固まったままだ。

「白い・・・ベッドの上で・・・」

直子の目から、ポロポロと大粒の涙があふれ出た。


6.午後8時
泣き出した直子に、シオンはワタワタと何を思ったか直子の額に軽くキスをした。
「涙が止まる『おじまない』です」
「それを言うなら『おまじない』じゃ・・・?」
ジュジュがシオンにそう言うと、シオンはハッと恥ずかしそうに手のひらに乃の字を書いてみた。
「はしゃぎすぎて疲れたんですよ。今日は早めにお休みした方がいいかもしれませんね」
日和が直子にブランケットをふわりと掛けると、そう進言した。
「いや! また皆いなくなっちゃう! どこにも行かないで!!」
直子はそういうとシオンの服をしっかりと握った。
「そうだわ! お布団をここに敷いて、みんなで一緒に寝ましょうか」
エマはそういって、直子の肩を叩いた。
実際エマ達が寝るかはおいておいて、少女を落着かせるほうが先決だ。
「絵本持ってくるといいヨ。ミーが読んであげる」
ジュジュがそういって優しく笑いかける。
「私、チェロを弾きましょうか。直ちゃんの好きな曲弾きますから、教えてくださいね」
「じゃあ私もマラカスで演奏のお供を・・・」
そう言ったシオンを日和は丁寧に断った。

ワイワイとにぎやかなリビング。
それは家族そのままの姿であり、けれど・・・。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
小さな声で、直子はそう呟いた。

「私のパパやママじゃないのに、こんなところに呼んでしまって・・・ごめんなさい・・・」


7.目覚めの時

「おや、戻ってきたんだね」

蓮の声で、エマは自分がドールハウスの外に吐き出されたことに気がついた。
「どうして、戻って来てしまったのかしら?」
エマがそう呟くと、日和も心なしか悲しそうに俯いた。
ドールハウスに触ってみるが、先ほどのようにドールハウスに吸い込まれはしなかった。
「泣いてましたよね。直ちゃん」
シュンとする2人に、シオンも落胆の表情を隠せないで居る。
「あぁ、そうそう。ジュジュの電話で調べといたよ。『永草直子』って子の事」
唐突に、蓮がそういうとジュジュは少々過剰に驚いた。
「オー、サンクス!! 蓮サンなかなか探偵向きな情報収集の上手さネ」
「よしとくれよ。あたしはただの骨董商さ」
ふふっと笑うと蓮は真面目な顔をして話し出した。

「あのドールハウスは元々その子の持ち物でね。誕生日の日に事故にあって、それから意識不明で入院中らしい。どうもね、その誕生日の日に買ってもらったのがそのドールハウスで、どこを間違ったのか市場に流出しちまったらしい」

そこで一旦蓮は言葉を区切った。
「で? どうするんだい?」

「もちろん届けましょう。少し時間が遅いけど今からでもいいわよね?」
「はい! 直ちゃん、きっとお母さんたちのところに行きたかったんですよね」
エマがそう言うと、日和はにっこりと笑った。
「・・・私の所持金、1500円ですけど売ってくれますか?」
シオンはそう言うと、蓮に哀願の瞳を向けた。
「タダで持ってお行き。持ち主あっての持ち物だからね」
「戻れる家族があるのなら、それに越したことは無いネ」
ジュジュは、一瞬憂いの表情を見せたがまたいつもの表情に戻った。

糸口が見えてきたのなら、後は行動あるのみよね。
今度は、本当のママのお手伝いできるといいわね・・・。

――― それから永草直子の意識が戻ったというのは、まだ少し先の話・・・。

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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

 3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α

 0585 / ジュジュ・ミュージー / 女 / 21 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)

 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生


■□     ライター通信      □■
シュライン・エマ様

この度は『家族ごっこ』へのご参加ありがとうございました。
皆様の優しいプレイングにより、少々センチメンタル(?)なお話となりました。
今回はいつもと比べましてプレイングが反映されて無い部分も多々あると思います。
私の力量不足です。申し訳ありません。
26歳で8歳の子のママ役・・・若いママです。
エマ様なら厳しくても優しいママになるでしょうね。(^^)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。