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宿命の対決 ドリルガール対ブラックドリルガール#4
美しい天使の姿のドリルガール。エンジェルフォームは無敵に思える。
周りの人々はその美しさに見惚れているぐらいだ。
全てを跳ね返す鎧(実は空間障壁だが)、細剣のようなドリル〜螺旋剣〜を持っている
「こうでなくては……つまらない!」
クローンであるブラックドリルガールは襲いかかる。
――私は……私は!
全ての量産クローンを片付けたらせんではあるが、
「残り2分……いけるの?」
エンジェルフォームはそう長くは持たない。
あまりにも所持者のらせんに負担をかける。覚醒して3分が限界なのだ
「たのしみ〜♪」
エターナルレディは物陰に隠れながらも、特殊カメラでこの戦いをしっかり録っていた。
愉しむかのように、蝶々の羽は小さいがパタパタ動いていた。
空中戦で黒と銀の光がぶつかり合う時間はほんの僅かだった。
すでに、銀野らせんは体力も精神力も限界だったのだ。
エンジェルフォームが解け、疲労困憊のらせん。
「もらった!」
ブラックドリルガールの強烈な蹴りが彼女に命中し、道路に激突しそのまま十数メートル地面を削って転がっていく。
「や、やっぱり……無理があった……ね……。エンジェルフォーム」
目の前には黒いクローン。
そこで、銀野らせんは意識を失った。
らせんは夢を見ている。
業火の都市の中で一人暴れる少女。
――知ってる。あの子だ。
其れよりも、自分と同じ遺伝子を持つ存在、ブラックドリルガールだ。
らせんが既に死んでおり、まるで何か目標を失ったためか、都市を破壊している。
何回か戦ったり遭遇したりしたことで分かったのだが、あの少女は銀野らせんのクローンなのだ。
TIに狙われていると不安が確信になり、戦いの中でも彼女の事を心配していた。
色々な事が頭をよぎる。
様々な出来事で出会って口論し、またはお互い戦う日々だった。本当に自分に似ている“本質”。
黒い“らせん”の目は戦い以外のことしか考えてられない。虚空の瞳に宿る憎悪の焔。
しかし、悲しみの涙を流していた。
自由になりたい……と。泣いていた。
私は一体何のために? と、叫んでいた。
――ブラックドリルガール……。
らせんも、涙を流していた。
黒野らせんは“本物”が囚われている部屋に向かった。
「まったく、此処は相変わらず薬臭い」
其れもそのはず、TI社の地下研究室。遺伝子融合獣人や急成長クローンを創り出す魔の領域。
ドアを開けると、“本物”が居る。
彼女は涙を流しているが眠っていた。
拘束具で身動きが取れず、目隠しされており、電極など付けられている。
しかし、黒野らせんにそんなことは興味がない。
「お、貴様が居るから……貴様が!」
両手で銀野らせんの首を絞める。
「うっ!」
息が出来ない事で目覚めるらせん。
「ブラックドリルガール……」
「貴様が……貴様が……」
尚も、力を込めて絞める黒いらせん。
「あなた、あたしに勝った後……どうするの?」
と、苦しみながらも訊く銀野らせん。
そこで、少し緩んだ。
「わ、わた、わたしは……」
黒野らせんは悩んだ。
しかし、
「うわあああ!」
思いっきり首を締め上げる!
「うぅ!」
らせんは、分かった。
夢で見た彼女。
まさにその通りしかなかった。
戦いと孤独。目標を失ったときの焦り。
自分でどうするか考えることを否定されて“本当の自分”が引き出せない悲しさ。
しかし、本物のらせんは、このまま死んでしまうことを拒む。
拘束具で動けないながらも、なんとか抗う。
「そこまでよ〜」
この緊張を気の抜ける女性の声が打ち破った。
「エターナルレディ……何のようだ?」
本物から手を離し、黒い“らせん”が訊いた。
「お姉さん、いいこと思いついちゃったの〜♪」
「ふん、貴様のことだ。覗き見をしていたのだな?」
「ご名答〜♪ 賢くなったわね〜。撫で撫でしてあげる〜」
「気安く触るな!」
頭を撫でようとするエターナルレディの腕を払いのける。
本物のらせんは、咳き込み苦しんでいるが、二人のやりとりをしっかり見ている。
お気楽不真面目なエターナルレディはニコニコ笑いながら、
「こっちのらせんちゃんの代わりに本物として暮らしてみるの。面白そうでしょ」
「……」
入れ替え。
銀野らせんとして生きると言うことだ。
戦いしかできない彼女でも一応の一般常識などは教えられている。
つまり、いつも偽物でなく、いつもオリジナルと比べられる事がない。
「……良い話だ」
「でしょ〜? 不思議にだーれも気付かないし〜」
多少例外は有ろうと、黒野らせんが銀野らせんと殆ど区別が付かないようだ。
「双子?」でも通るかも知れないほど似ているからだ。
肌が違う事をカバーすれば何とでもなる。TI社なら其れぐらいは朝飯前だろう。
「決まりね?」
レディがうんうん頷いて、黒野らせんも頷く。
「まって!」
本物のらせんが叫んだ。
「どうしたの? もうあなたは用済みになるのよ? 何か遺言でも言いたいのかしら?」
「遺言? 巫山戯ないで! 諦めないわ! 何とでも言いなさい!」
「元気ねぇ。お姉さん好きよそう言うところ」
レディは、銀野らせんをからかう。
黒野らせんは、一瞥して、
「難しい手続きは、レディ、貴様に任す」
「は〜い」
「まって! ブラックドリルガール!」
銀野らせんが叫ぶ。
「誰かに指図される生き方でいいの?」
その言葉に、黒野らせんの歩みが止まった。
しかし、彼女は本物に背を向けたままだ。
「友達作って、楽しく過ごして、そして恋をして…そんな自分自身の思うように生きてみたいと思わないの?…あたしには分かる。だって、あなたはもう一人のあたしだから!」
――泣いているんだもん。あたしは、同情しかできないけど、可哀想だよ
本物は心で泣いている黒野らせんに叫ぶ。
「……」
レディは、流石ねぇとお気楽に見物している。
黒野らせんは、そのまま……部屋をでて行ってしまった。
「ざんねんでしたー♪」
笑いながら、レディは言う。
「あなたはこの中で処分されるまで眠ってなさいねぇ。後釜は黒野らせんちゃんに。心配しないでね♪」
「諦めない……って言ったはずよ?」
「奇跡はそう簡単に起きないわよ〜。魔法のドリルちゃんも今じゃ召喚も出来ないからね♪」
手を振って、レディも去っていった。
真っ暗になる部屋。
「ブラックドリルガール……気付いて……本当の自分に……」
らせんは泣いた。
自室のベッドで蹲る黒野らせん。
戦いで、そして今のやりとりで心身共に疲れていた。
「あいつが言ったこと……レディのそれより……」
何かが引っかかる。
心の、いや、魂の中で何かが目覚めようとしている。
「暖かい……何故だ?」
そのまま、彼女はまどろみの中にはいった。
「こまったわねぇ」
ドリルの研究が実はうまく行っていない報告を受けるレディ。
「まぁ、元々神秘系の研究はつい最近だものねぇ。ゆっくり〜ゆっくり〜」
と、戸籍情報の取り替え手続きを行うのであった。
二人のらせんは夢を見る。
楽しく普通の女の子として過ごす、銀野らせんを羨ましく眺める黒野らせん。
しかし黒野らせんは見えない檻に囚われていた。
らせんは様々な友だちと遊んで、(いつか出来るだろう)恋人と笑い合う。
黒いらせんは檻の中で眺めているだけしかできない。
――私は前からこうだったのか?
銀野らせんはふと、向こうに黒野らせんを見つける。
孤独の中で、独りぼっち。
見えないはずの檻が見えていた。
“束縛”という檻。
いや、これは、“自由と束縛の境界線”だ。
銀野らせんはにっこり微笑んで
――おいで、もう一人の“あたし”。
彼女はそう言った。
黒野らせんは……。
二人の思いが交錯する。
その時に、奇蹟はおきるのだろうか?
二つのドリルは沈黙したままであった。
To Be Continued
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