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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜田中君の恋人〜


 並んで歩く姿が幸せそうな二人は、周りの誰に『どんな関係かと尋ねたのなら』ほとんどの人からは恋人と言う答えが返って来る事だろう。
 少数では先輩と後輩かもしれない。
 事実二人は高校時代から付きあっていた恋人であったし、いまはデートの最中でもあった。
「祐介君、これって素敵だと思わない?」
 恋人が手をこまねくのに応えこんどはなんだろうと一緒になってのぞき込む。
 大和撫子風の美人に手を引かれてては、男なら誰もがきっと幸せだと感じるだろう状況だろうが……裕介の反応は少しだけ違う物が混ざっていたりする。
「そうですか、良かったですね……」
 等と苦笑しつつの反応。
 あまり洋服に興味がないとは言っても、この反応は少し冷たいと言えるのは……彼女、静修院樟葉の素敵だという品物を見るまでの話だ。
 目線の先にはロングのメイド服がドンッと飾られている。
 そしてそのメイド服を見る樟葉の目はこれ以上ないと言う程にキラキラと輝いていた。
 何というか、眩しいくらいに。
「素敵よねぇ」
「……はい」
「ストイックで清楚なフォルム、伝統的でシンプルなデザイン。本当に優れた物は煌びやかである必要なんか無いの、機能美の中にある美しさ……解る?」
「はい、凄いですね」
 色々な意味で。
 更に延々と続きそうな勢いだった。
 少しばかり趣味が変わっていると言うだけの話である。
 服が好きで、その道を調べたり学んだりしている内に何故かコスプレが好きになって……色々な服の中でも一番樟葉の心を引き寄せてやまないのがメイド服だそうだ。
 普通の状態でならまだ話はわかるの、ただこうして服飾関係の店やメイド服を見て回ってるいるとだんだんヒートアップしてくるのである。
 彼女の店の手伝いをしている以上自然と服飾は詳しくなってくるし、裕介も色々と学んでいるのに……それでも彼女はかなり吹っ飛んでいるのだ。
「この素材にこの長さ、いつもながらここの店は絶妙よね。これなら回った時に浮き上がる時にフワッと浮き上がって靴下がきれいに見えるもの。合わせるとしたら丈の短い縁にレースが付いたタイプかしら? ほんの少しだけ見えるのが最高の萌えよね」
 言っている事は解るのに、内容が解らない。
 萌えっていったい?
「あっ、そろそろこんな時間だけど御飯は?」
「本当、夢中になってたから。会計すませてくるわね」
 時計を見て幾つか小物を買い込んでからレジへとむかう。
 このやりとりもいつもの事だ。
 夢中になっている樟葉を裕介がリードする。
「すっかり夢中になっちゃったわね」
「いいえ」
 ジッと目を見て笑ってくれるこの瞬間が好きだった。
 夢中になれる物に目を輝かせている彼女も好きだけれど、そこから裕介に視線を移して笑いかけてくれるこの瞬間が。
「そろそろ行きましょうか」
「ええ」
 店を出て、数歩と歩かない内にハタと気づく。
 街のどこからか感じる、異質な気配。
「……祐介君」
「はい」
 意図を察し頷く。
 気配を探り幾らもしないうちに、少し先を走ってビルの隙間に滑り込む女性の姿。
「あの子、憑かれてる」
「追いかけましょう」
「ええ」
 言うが早いか走り出す樟葉の後に続いて走り出す。
 女性を追い、ビルの隙間に同じく走っていく二人を特に誰も気にとめる事はなかった。
 人とは、見ようとしない物は視えない生き物なのだから。
 建物の隙間の狭い空間で聞こえる女性の悲鳴。
「裕介君っ!」
「はい」
 何をどうと言わずとも、この辺りの行動は既に手慣れた物だった。
 裕介が先陣を切り、樟葉が結界を張って援護する。
 高校時代から続いているのは恋人という関係だけではなく、今のような裏絡みの……霊関係による事件では退魔の相棒でもあるのだ。
 気配に引き寄せられて集まってきた雑霊を蹴散らしつつ女性の元へと走る。
 相手は生き霊の類でストーカーか何かの行き過ぎたパターンだろう。
 かといって油断なんて物はしないし、逆に完全に払う訳にはいかない分気を付けなければならない。
 動きを止め、ダメージを与えて正気に返って貰う。
「大丈夫ですか?」
 悪霊の間に割って入りいく手を阻む。
 走る速度を速めて生き霊を追い越しただけだが……女性には突然現れたように視えたかも知れない、それほどに驚いているのに気付き声をかける
「は、はい……」
「それは良かった。もう大丈夫ですよから、少し下がっててください」
 無事を確認しつつ樟葉の方に逃げるよう促す。
「こっちです」
「あっ、はいっ」
 逃げやすいように道を造ってくれているからこそ、裕介は目の前の事に専念出来る。
 気を操り、直接叩き込む。
 粗っぽい手だの上に大鎌よりは威力が劣るがしかたない、まさかこの狭い場所であれを振り回す訳には行かない。
「大変そうね」
「そう思うなら……っと、手伝ってください」
「もちろん、もう安全な所に逃がしたから……」
「……! 樟葉さんっ」
 生き霊が影を扱い移動するとは……。
 線のように細く伸びた影が裕介の手から逃れ、樟葉に届きそうになったのに気付き慌てて声をかける。
「……っ!」
 紙一重で交わしたのを視覚で捉え、すかさず裕介が生き霊を押さえ込む。
「樟葉さん!」
「裕介君そのままで……!」
 構えた手に握られている符を放ち力を発動させて追い払った。
 ザッと霧散するのを見た樟葉がハッと息を飲む。
「………? どうしたんです?」
「裕介君どうしよう、私」
「え、まさか?」
 完全に除霊してしまったのだろうか?
 だとしたら生き霊の元である男の本体が危うい事になるのだと気づき、同じく緊張する裕介。
 あの場では咄嗟の事だから。
 直ぐにどうなってるか確かめた方が良いのかも知れない。
 そんなはず……。
 どう言おうか考え始めた裕介に樟葉が一言。
「冗談よ」
「………はい?」
「ちゃんと霊体が保てないように調整したもの、いまごろは熱ぐらいはでてるかも知れないけど。ビックリした?」
「………」
 からかわれたのだと解り、がくりと肩を落とす。
「ビックリしましたよ……」
「さっきの人ももう大丈夫よね」
「そうですね」
 ホッとして苦笑を返しつつ、樟葉の腕で目を止めて腕を引く。
「服、破けてしまいましたね……」
「ああ、本当……困ったわね」
 交わしたと思っていたが、ほんの少しだけかすめていたらしい。
 服の破れた場所を見ながら、さして困っていない表情でそんな言葉を返される。
「そのままでいる訳にはいかないから、これ着てください」
「ありがとう、裕介君」
 この後服を買いに行くつもりではあるけれど、どこかの店に行くまでの間もこのままにしておく積もりは毛頭無い。
 渡した上着を羽織ってから路地から抜け出す。
「替えの服は俺に選ばせてください」
「裕介君が?」
「ぜひ」
「私の目は厳しいわよ」
「喜んで貰えるよう頑張ります」
 選ぶ方も、選ばれる方も色々とこだわりが生まれるものだ。
 どんな服が似合うか……?
こんな服が着たいだとか。
 真剣に服を見つめながら、色々な事を想像して一喜一憂する樟葉の気持ちは良く解る。
 少しでいいから、裕介もそれを感じてみたかったのだ。
 服を見ていた時のキラキラとした目が少し羨ましかったのかも知れない、夢中になれる事があるのはとても羨ましい事なのだから。
「ねぇ、どうせならメイド服を」
「それ着て歩くのだけは勘弁してくださいね」
「………冗談よ」
 残念そうな口調に本気だったのだと悟りちょっとドキドキする。
似合わない事はないだろうが……どう考えても絶対に浮く。
「本当に?」
「もちろんよ、残念だなんて思ってないわ」
「ならいいんですけど……」
「メイド服着てても、上から何かはおればなんて思ってないから」
「………俺に選ばせてくださいね」
 考えてみればさっきの服からそう離れていない場所なのだから、未練が出てきてもおかしくない。
 選ばせてくださいと言って本当に良かった。
「どんな服か楽しみ」
「頑張って似合う服選びますから、それ着てデートの続きにしましょう」
「そうね、素敵」
 服を見立てるのも楽しい事なのだと実感しつつ、二人は夜の街へと紛れていった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1098/田中裕介/男性/18歳/孤児院のお手伝い兼何でも屋】

→もし付き合っていた先輩が死ななかったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

IF依頼、ありがとうございます。
もしもの世界、楽しんでいただけたでしょうか?