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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 諏訪海月はぼんやりと座って小さく欠伸をする。
(依頼の後とは思えないほど、平和だ……)
 窓際に座っている三人の高校生など、楽しそうに会話していた。
 一人は小柄な少女で、食べる事に夢中になっている。その横は整った顔の少女で、小さく微笑みながら向かい側の少年と会話をしていた。その向かい側の少年はというと、どう見ても金髪碧眼の外人だ。
(……でこぼこ……)
 全員制服が違うことから考えても、同じ高校の友人というわけでもないようだ。ということは、中学の時の同級生だろうか? どうもその考えもしっくりこない。
 食べ終わったあとのゴミを片付けていると、彼の耳に声が入った。
「あなたって人はまたぁー!」
「痛い痛い! 奈々子さん痛いよっ」
「ちょ、落ち着いてよ奈々子っ」
「これが落ち着いてられますか! 心霊写真を見て落ち着けるなんて、よっぽど心が広いんですね、朱理は!」
 海月がぴくりと反応して顔をあげた。
(心霊写真?)
 振り向いて声の出所を探した。奥の窓際だ。先ほど見た三人の高校生がわあわあと言い合っている。
(さっきは仲が良さそうに見えたんだが……)
 そう思いつつ、海月は近づいて声をかけてみることにした。
「突然声をかけてすまない。ところでそれは心霊写真か?」
 すると、三人が一斉にこちらを振り向いた。
「誰ですか、あなた」
 明らかに警戒を声に滲ませて睨みつけてくるのは、ストレートの髪をした美少女だ。
 海月はニッと笑ってみせる。
「名前は諏訪海月。万屋をやってる。困ったことがあるなら相談にのるが?」
「実は困ってるんです!」
 早速そう言ってきたのは、三人組唯一の少年だった。気弱そうな顔をしている。
「変な写真を、むぐっ!」
「あなたはどうしてそうペラペラと!」
 少年の口を押さえているのは美少女だ。だが、彼女の横に陣取っている小柄な少女が気さくに続けた。
「いやあ、実は今回の心霊写真がワケわかんなくてさ〜」
「朱理ッ!」
「いいじゃんべつに。困ってるの助けてくれるって言うんだしさあ。奈々子はピリピリしすぎだよ」
「初対面の人に相談するなんて、あなたたちはどこかおかしいです!」
 どキッパリ。
 清々しいほど彼女は言ってのけた。海月はこそこそと金髪の少年に耳打ちする。
「なあ、あの子っていつもあんな風に怒ってるのか……?」
「そ、そうなんですよ……。いつも怒られてて……」
「ああそうなのか」
 へぇ、と呟き、朱理と呼ばれた少女と奈々子と呼ばれた少女を見る。どうも朱理という小柄な少女も、いつも奈々子に説教を食らわされているようだった。
 気を取り直して、海月は少年の横に座る。
「陰陽師の能力もあるからな……まあ見せてみろ」
「はいどうぞ」
 笑顔で差し出した少年に、奈々子が怒りで眉を吊り上げた。
「薬師寺さん!」
「いいじゃん、ケチケチしなくても。正太郎の写真なんだし、正太郎がどうしようがあいつの勝手なんだからさあ」
「朱理ぃ〜っ!」
 朱理の首を締めだすので、金髪の少年……正太郎という名らしい彼が止めに入る。
「やめてよ二人とも! せっかく諏訪さんがなんとかしてくれるっていうのに!」
 それを聞いて海月がえっ、と正太郎を見遣った。
(俺、そんなこと言ったか……?)
 疑問符を浮かべている海月の心中など知らず、朱理まで続けた。
「そうだよ! せっかくお祓いしてくれるってのに!」
(は?)
「あなたたち……陰陽師を祓い屋か何かと勘違いしてません?」
 ジト目で正太郎と朱理を見る奈々子の言葉に、海月は内心同意した。その通り。陰陽師は悪霊祓いが本業というわけではない。
「ええーっ? 諏訪さん、お祓いできないんですか?」
「そうなの?」
 二人に一斉に見つめられ、海月が彼らを交互に見遣った。
「とりあえず検証してからな……」
「そうですね」
 正太郎はあっさりと同意し、姿勢を正した。
「ボク、薬師寺正太郎と言います」
 力のない笑みを浮かべて彼は自己紹介をする。海月の向かい側に座る美少女が渋々と口を開いた。
「一ノ瀬奈々子です」
「あたいは高見沢朱理! よろしく!」
 三者三様の自己紹介であった。性格がわかりやすい。
 やっと落ち着いて、海月は写真を見遣る。そして半眼になって正太郎をうかがう。
「これ、おまえが撮ったのか?」
「え? そうです。写真を撮るとそういうのよく撮っちゃうんです」
 困って笑う正太郎をフーンと眺めて、海月は嘆息した。よくもまあ、これほどハッキリと幽霊を撮れるものだ。
 写真は崖を写したものだ。そこを這うように登っている白いコレが、霊だろう。
「どこで写したんだ、これ」
「ああそれですか……」
 ふいに黙ってしまう正太郎に、海月が怪訝そうにする。ややあってから、彼は口を開く。
「えっと……適当なんですけど」
「適当?」
「これ、って決めて撮ってないので……」
「……そうなのか」
 海月は写真と睨めっこをするように見つめた。朱理がずいっと覗き込んでくるのに気づかなかったため、ごん! と頭をぶつけてしまう。
「〜っ」
「あ、ごめんごめん」
 朱理は全く悪びれもせずに謝り、写真の一部を指差す。
「この上のほうにあるのって、ガードレールっぽくない?」
「そう言われれば……」
 奈々子まで近づいて写真を覗き込んできた。海月はなるほどと呟く。
「崖なのは確かだしな。転落した人の霊かもしれないってことか……」
「この下のほうの白いツブツブはなんでしょうか」
 正太郎の指したところは、確かに白い粒が飛び散っている。全員が疑問符を浮かべた。
 海月は写真をしばらく眺めてから、「海?」と言う。正太郎が合点がいったように頷いた。
「ああなるほど。これは飛沫のツブツブですか」
 納得する正太郎だったが、真っ青になる。奈々子も理解して青ざめた。
「へー。じゃあこの人、海で亡くなった人なのかー」
 朱理だけは平然と見て言う。海月は「らしいな」と相槌を打っていたが、目を細めて写真を食い入るように見つめた。
「ん? とすると、これはどこから撮ったんだ……?」
「え」
 ぎくりとしたように正太郎は反応し、ためらいつつ口を開く。
「実はボク、念写の能力があって……。たまたまシャッター押したらこれが……」
「念写? ここまではっきり撮れるってことは、霊感が強……」
 ぶんぶん、と首を横に振って正太郎が否定する。否定したところで、その写真が全てを物語っていた。
(霊感がかなり強いのは確かだろうが……。こいつ、もしかして幽霊が苦手なのか……?)
 朱理が小さく鼻を動かしていることに気づき、海月が軽く首を傾げた。
「どうした?」
「諏訪さんから潮のニオイがする」
「ああ、依頼の帰りに海沿いの道を通ってきたからだろ」
 そこまで言ってから「ん?」と海月が写真を再度見遣る。
 ガードレールのところには足が見える。この写真自体が遠い場所から撮ったものらしく、あまりはっきりとは見えないが……。
「……これ……俺か?」
「え? 諏訪さんてロッククライマーか何か?」
 朱理の言葉に彼は呆れる。
「そんなわけないだろ……。崖登ってるのは霊で、こっちの靴しか見えないのが俺」
「あ、ほんとだー。靴が写ってる」
 朱理がチラっと海月の靴に視線を遣った。同一のものだと確認したらしく、「へー」とまた感心したように言う。
 海月は渋い表情をした。
「……じゃあ何か? 俺のすぐ近くにこんなのが居たってことか……?」
 正直気持ち悪い。
 海か……、と眺めていた足元でこんなことが起こっていたなどと、誰が想像がつくだろう。
「だいたい霊の気配なん……」
 ハッとして海月は正太郎と奈々子を見遣った。正太郎はがたがたと震えて口元まで引きつっている。
 そうか。
(海は霊が多い。それで気配がわからなくなってた……?)
 愕然とする海月だった。
「す、すすすす、すわ、諏訪さんっ、が、写ってるみたいなので、その写真あげます」
 にこ、と引きつった笑みを浮かべる正太郎。
 海月は少し驚いたように目を見開くが、すぐに元の表情に戻って首を緩く横に振る。
「いや、遠慮する」
「滅多に見れないオモシロ写真だし、もらっておきなよ諏訪さん」
「……あのなぁ」
 満面笑顔の朱理に海月は脱力した。
「諏訪さん、これって地縛霊か何か……ですかね」
 なるべく写真から距離をとって言う正太郎に、海月は「どうだろうな」とぼやいた。
「陰陽道には『祓い』はありましたよね」
 真剣に考えていた奈々子の言葉に頷き、海月はテーブルの上に写真を置いた。
「写真そのものに強い念は感じる。よほど強い思いを持ったまま死んだらしい……」
「ぎゃーっ!」
 耳を両手で塞ぎ、正太郎はがたがたと震えて頭を抱えた。あまりの悲鳴に海月でさえ驚いていた。
「すみません、諏訪さん。薬師寺さんは怪談や怖い話がとても苦手なんです……」
「ああ……そうなのか……」
 奈々子の言葉に、やっぱり、と思わずにはいられなかった。
 こちらに背中を向けて小刻みに震えている様子からも、正太郎は筋金入りの怖がりなのだろう。
「強い念かぁ……なぁんか見た感じからしても、しつこそうだね。よく取り憑かれなかったね、諏訪さん」
「取り憑くつもりだったが、俺がそこから去ったってのが答えじゃないか……? 実際、俺はすぐに帰ってきたし……」
「お、追いかけてきてないですよね?」
 奈々子の言葉に、思わず四人が窓から外を覗いてしまう。
 ここは二階だ。
 窓から外を見て……それから席に座り直す。
「い、いないですね。良かった……」
「なあんだ、つまんないの」
「あなたね、取り憑かれたらどうするんですか!」
 叱る奈々子の前で、朱理は海月を見遣る。どうやら彼女は自分に何か根拠のない信頼を抱いているらしかった。
「万一取り憑かれても、俺が撫物でなんとかしてやる」
「ナデモノ?」
 朱理は首を傾げた。
 撫物というのは陰陽道で使われるものだ。紙で作った人形に、邪気や怨念を移すのである。
 海月はテーブルの上の写真を取り、それから小さく苦笑する。
「この写真は任せてくれ。お祓いして処分しておく」
 立ち上がってそこから去ろうとした海月の背中に、正太郎が声をかけてきた。
「あ、諏訪さん、ボクたち大抵ここに居るので、暇な時にまた来てくださいね!」
 海月は手をひらひらと振って、そのまま階段を降りていってしまう。どうやらそれが、返事の代わりらしかった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3604/諏訪・海月(すわ・かげつ)/男/20/ハッカー&万屋、トランスのメンバー】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 この度はありがとうございました。ライターのともやいずみです。
 諏訪様が年上のPCさんということもあり、三人にとってはかなり頼れるお兄さん的な存在になってしまいました……。特に、正太郎にとっては。
 これからも三人の良き相談できるお兄さんでいてください、と祈ります!

 今回はご依頼ありがとうございました! 楽しく書かせていただき、大感謝です!
 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。