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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


 『竹薮の怪』


 インターネットカフェ。
 瀬名雫は、いつものように自分が管理しているサイト『ゴーストネットOFF』の掲示板をチェックし始めた。
 新しい書き込みがある。


FROM:匿名

こんにちは。
『松竹梅』なんて縁起のいいモノだって思われてるけど、竹って、物凄く禍々しいといわれてる植物だって知ってた?
……まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。

郊外にある竹林で、夜な夜な「どこじゃぁ、どこじゃぁ」って声が聞こえるんだって。その声の主は何かを探しているみたいなんだよね。
その竹薮には、周囲からは分からないけど、ひっそりと小さな庵みたいなのが建ってるらしくて、どうやらそこの主人が声の主みたい。

それで、もしその人とバッタリ会っちゃったりすると、「さらったのはお前か?」って聞かれるんだって。そしたら、「違う」と言いたくても声が出なくなって、ついぼんやりと頷いてしまうとか。そして、その後は……
何だか気持ち悪い話だよね。


 雫は、それをチェックすると、軽く溜息をついた。
「ふ〜ん……さらうって、なにをさらうんだろう?頷いた後は……やっぱり殺されちゃったりするのかな?」
 可愛らしく小首を傾げながら、さらりと物騒なことを言う彼女。
「郊外かぁ……行ってみたいけどお小遣いを考えるとなぁ……また誰かに頼んじゃお☆」


 ■ ■ ■


「中々いいですねぇ……」
 白神琥珀は、銀杏並木を歩きながら、独り呟いた。
 黄色く色づいたハート型の葉が、ひらひらと舞い落ちてくる。地面は、まるで絨毯を敷き詰めたかのようになっていた。一足進めるたびに、湿った感触と、乾いた音が、交互にする。昨日、雨が降っていた所為だろう。
 都心に程近いことと、休日の昼間ということで、周囲には、カップルや家族連れなどの姿も多く見受けられた。琥珀のように、一人でのんびりと散歩を楽しんでいる者もいる。
 すれ違う人々が、目線をこちらに向けてくるのが気配で分かる。白い着物姿が珍しいのかもしれないが、その歩くたびにさらさらと揺れる白銀の長い髪、透き通るような白い肌、一見すると女性と見紛う程の美貌に惹きつけられるのだろう。天上界より降りてきた仙人、という出自も、彼の放つ気配を眩しく見せるのかもしれない。
 だが当の琥珀は、特に気にもせず、周囲の景色を楽しみながら、穏やかに歩き続ける。
 その時。
 何かが『見え』た。
 その予感に引き寄せられるように、彼は足を進めた。

 街中を人の合間を縫うように歩いていくと、やがてひとつの建物に行き当たった。『インターネットカフェ』と看板が掲げられている。琥珀は、小さく頷くと、中へと入った。
「いらっしゃいませ」
 受付に立つ店員が、こちらに向かって微笑む。琥珀も微笑み返すと、その若い女性は、頬を赤らめた。琥珀は、このような場所にあまり縁がなかったので、どうしていいのか分からず、少し戸惑う。すると、店員が声をかけてきた。
「当店へのご来店は初めてでいらっしゃいますか?」
「あ、はい」
「では、会員登録をして頂きます。こちらの用紙に、必要事項をご記入下さい」
 琥珀は言われるがまま、手続きを済ませた。プラスチック製のカードを受け取ると、沢山ディスプレイが並ぶ間を進んで行く。すると、茶色い髪をした小柄な少女と、色白で彫りの深い顔立ちをした、赤い長髪の女性が談笑しているところに出くわした。
(この人たちですね)
 琥珀の直感が、彼女たちが先ほど『見えた』ものと深い関わりがあることを告げている。
「あのぅ、初めましてぇ。僕はぁ、白神琥珀と言います」
 彼は、臆することなく、二人に声をかけた。彼女たちは、こちらを振り返ると、一瞬きょとんとした表情を見せたが、こういうシチュエーションに慣れているのか、すぐに笑顔になると、自己紹介を始めた。少女は瀬名雫、女性は堂本葉月、とそれぞれ名乗る。
「ちょうど良かったぁ」
 雫が、両手を合わせて、嬉しそうな声を上げた。
「ねぇ、これ、頼めないかなぁ?」
 そう言われ、モニタを覗き込むと、ブラウザに掲示板が表示されていた。匿名で書き込まれた記事を、彼女は指先で示す。そこには、郊外にあるという竹林の話が記されていた。
「うーんと、変な話だね。竹薮、か……」
 葉月がそれに目を通してから、口を開く。
「まぁ、面白そうだし、引き受けてもいいけど……場所が特定できないね。暫く時間をもらわないと」
「あぁ、僕、場所分かりますよぉ」
 言葉を濁した葉月に対し、琥珀は穏やかに口を開いた。
「え?何で?」
「それはぁ、僕がぁ、千里眼の持ち主だからですぅ」
「ああ、そうなんだ。なら話が早いね。琥珀ちゃん、明日って時間あいてる?」
 会って間もないというのに、既に『ちゃん』付けで呼ばれている。どうやら彼女はかなりフランクな性格のようだ。だが、琥珀はそれを気にするほど心は狭くない。
「ええ、僕はぁ、暇ですよぉ」
 そう答えてから、目的地の大まかな場所を伝える。それを聞いた葉月が、少し考えてから待ち合わせ場所を決めた。琥珀は特に異論はなかったので、笑顔で頷く。
「じゃあ、また明日ね!」
 葉月と約束を済ませると、琥珀はその場を離れ、せっかくなので、店内をもう少し見回ってみることにした。


 翌日。
 葉月と琥珀は、待ち合わせ場所に集まると、電車に乗るため、駅の構内へと戻る。
(うーん……誰か後をつけて来ているようですねぇ)
 常人では分からないだろうが、琥珀には、それが伝わってくる。だが、悪意などは感じられなかったので、彼は尾行してくる人物を、暫く放置してみることに決めた。
 新宿から、何本か電車を乗り継ぐこと約二時間。その間も、気配はずっとしている。流石に、同じ車両にはならないように注意しているようだ。
 やがて、目的の駅へと辿り着く。そこからは、暫く歩きになった。
(目的地は一緒みたいですし、そろそろいいかも……三人になった方が楽しいですしね)
 琥珀はそう思い立つと、足を止め、後ろを振り返った。
「あの〜!僕たちの後をつけて来てる人〜!そろそろ、いいんじゃないですかぁ〜!!」
 まだ遠方にいた人影は、堂々と呼びかけられたことで流石に観念したのか、肩を小さく竦めると、こちらに向かい、歩み寄って来た。
「あなたもぉ、竹薮が目的ですよねぇ?僕はぁ、白神琥珀。彼女はぁ、堂本葉月さん。あなたのお名前はぁ?」
 にこやかに微笑む琥珀に対し、モスグリーンのジャケットに、サングラスを掛けた黒髪の青年は、諦めたかのように溜息をつきながら、幾島壮司と名乗る。その名前に、何故か葉月が反応した。
「イクシマソウシ?あれ?聞いたことあるなぁ……初めましてだよね?あたしの知ってるのは……誰だっただろ?芸能人かな?」
 首を捻る彼女に、壮司は「まぁ、似たような名前はどこでもあるさ」と言葉を濁し、三人になった一行は、問題の竹薮へと向かった。辺りはもう既に暗い。『夜な夜な声が聞こえる』というのなら、そろそろ始まってもいい頃だろう。
「どうしましょうかぁ?このまま、声が聞こえるまで待ちますかぁ?」
 琥珀の問いに、しかし壮司は首を振った。
「いや、俺は庵の方が気になる。そっちを探す方面で行きたい」
 葉月は、二人の意見を聞いてから、少し考え、頷いた。
「そうだね。どっちにしても、庵を探す途中で、問題の人物にも会っちゃうかもしれないし」
 意見が決まると、三人は、竹林の中へと分け入った。

「こっちだ」
「こっちですねぇ」
 壮司と琥珀が同時に声を上げる。その反応の素早さからして、どうやら、壮司も琥珀と似たような能力を持っているらしい。
 葉月は、体に纏わりつく葉を鬱陶しそうに払いながら、黙って二人のあとについてくる。
 その時。
「どこじゃぁ、どこじゃぁ」
 左手のほうから声が聞こえ始めた。だが、琥珀の感じた範囲ではまだ距離は遠い。庵は、右手。
「こっちに行こう」
 三人は、庵のほうへと歩みを進め始めた。
 だが。
「どうやらぁ、庵にもぉ、人がいるみたいですねぇ」
「ああ」
 間違いなく、声を上げている人物とは、別の存在がいる。
「それなら、どうしようか?」
 葉月が囁いたその時。
(……あれ?)
 遠方にいたはずの影が消えた。そして、唐突に目の前にぼろぼろの着物を纏った、痩せぎすの老婆が姿を現す。
「うわっ!」
 葉月が、驚きのあまり声を上げた。
 老婆は、こちらをじろりと睨むと、低い声で言葉を発する。
「皿割ったのは、お前か?」

 暫しの沈黙。
 竹薮が、さわさわと音を立てた。

「はぁ?」
 沈黙を破り、思わず疑問の言葉を発した葉月に、老婆は何故か満足げに頷くと、葉月の腕をがっしりと掴んだ。そして、そのまま引っ張っていく。
「そうかそうか……やっぱりお前か、古伊万里の皿を割ったのは」
「違う、違うって!離してよ!」
 だが、老婆はその言葉に耳も傾けない。
 そこで、琥珀がポンと手を打った。
「なるほどぉ……さらった……皿割った……聞き間違いですねぇ」
「感心してる場合かよ!あいつ、連れてかれちまうぜ」
 老婆と葉月の姿は、どんどん見えなくなっていく。
「とりあえずぅ」
「行くしかねぇか」
 二人は、慌てて後を追った。

 やがて、古ぼけた小さな庵が見えてくる。
 その中には、先ほどの老婆と連れ去られた葉月、そして、老婆と同様、ぼろぼろの着物を着た、小柄な老人がいた。
「爺さま、皿割ったやつを見つけたで」
「そうか婆さま、皿割ったやつを見つけたか」
 周囲を見回すと、小さな囲炉裏、台所、敷きっぱなしの布団などが見受けられた。
 その他には、所狭しと焼き物が沢山並べてある。
「古伊万里、古備前、高麗青磁……どれもかなりの年代ものだ」
「幾島さんはぁ、骨董とかぁ、詳しいんですかぁ?」
「いや、俺の『左眼』で分析したんだ」
「へぇ、便利ですねぇ」
 琥珀と壮司が話していると、葉月が恨めしそうな声を出した。
「ちょっと、あたしをほったらかしにしないで欲しいんだけど」
「ああ、すみません〜」
「悪ぃ」
 琥珀と壮司は、とりあえず謝る。
「爺さま、皿割ったやつはどうするだか?」
「婆さま、皿割ったやつはどうするだかな?」
「爺さま、皿割ったやつはあれをさせるしかないだ」
「婆さま、皿割ったやつはあれをさせるしかないだな」
 その間に、老婆と老人は、何かを相談しあった後、にやり、と黄色い歯を見せて笑った。

「何?これ?全然噂と違うじゃん!」
 葉月が口を尖らせながら言う。手にはたきを持ち、辺りの埃を払っている。
「なんで俺がこんなこと……」
 壮司は床を雑巾がけしていた。
「でもぉ、こういうのも和やかでいいですよぉ」
 琥珀は、手に持った竹箒で、庵の周囲を掃いていた。
 何故だか分からないが、三人とも、強制労働させられる羽目になったのだ。
 老婆と老人は、茶をすすりながら、それを満足そうに眺めている。
 やがて。
 東の空が明るくなって来た。
「爺さま、そろそろ時間だな」
「婆さま、そろそろ時間だ」
 そういうと、二人は立ち上がり、壮司たちを呼び寄せた。怪訝な表情で、作業の手を休め、近寄る三人。
「爺さま、あんたから話しておくれ」
「分かった婆さま、儂から話すことにするで」
 そこで、老人は、こちらへと向かい、静かに頭を下げた。
「お三方、すまんかったな。あんたたちの所為ではないと、分かっとった……でも、ここに来るお方は、みんなわしらを怖がって、嫌がって働いてくれんかった。だから、信用できんかった……あんた方ならきっと、かぐやを探せると思うで、頼みたい」
「『かぐや』とはぁ……?」
 琥珀が口を挟む。
「その前に」
 壮司が、それを遮った。
「あんたたちは、人を殺したりはしてねぇな?これは、確かだな?」
「儂らはそんなことせんで、なぁ婆さま?」
「おお、爺ざま、決してそんなことはせん」
「所詮、噂は噂か……」
「ああ、もう時間がないぞ婆さま」
「そうだな爺さま」
 徐々に、二人の姿が薄くなっていく。
 庵の輪郭も、ぼやけてきた。
「かぐやを……儂らのかぐやを……」
 そして。
 日の出とともに、辺りのものの一切が消えた。
 残ったのは、竹薮にぽっかりと空いた空間。
 そこで、壮司が何か考え込むように、指先を顎に当てる仕草をした。
「この下に……」
「何か埋まってますねぇ」
 彼の言葉を引き継ぎ、琥珀が言う。
 早速、二人は地面を掘り返してみた。中から出てきたのは、古伊万里の大皿、中皿、小皿。
「小皿だけが半分欠けて、ないな」
「もしかしてぇ、『かぐや』とはぁ、このぉ、小皿のことじゃないでしょうかぁ?」
 話し合っている二人の肩を、葉月がポン、と叩く。
「あんたたち二人の能力があれば、見つけるの、簡単だよね?」
 言われた壮司と琥珀は、静かに頷いた。

 目をすう、と細める。
 ある一点から幽かに届く光。
 『見え』た。
「こっちだ!」
「こっちですよぉ」
 壮司と琥珀の声が重なる。
 三人は、周囲を掻き分けながら進んだ。

 一本の竹が、光っている。
 正確には、周囲に生い茂る葉に遮られ、日光がその一本だけに当たっている。その根元には、水が湧き出し、小さな池のようなものが出来ていた。
 その中には、半分に割れた古伊万里の小皿。
「光る竹に守られて……まるで、かぐや姫だね」
 葉月が笑った。
「でも、どうして、ずっと見つけられなかったんだろう?」
「水と土……構成要素が違うから、とかじゃねぇかな?」
「それに、あの人たちはぁ、夜にしか行動できないみたいですからぁ……というより、実際はあの場所に埋まってるわけですし、離れていたらぁ、見つけられないんじゃないでしょうかぁ?」
 壮司と琥珀がそれぞれに意見を述べる。
「それを言ったら、何で離れた場所にこの皿だけあるのかも不思議だしね……結局、謎は謎のままってことかな」
 葉月はそう言うと、小皿の片割れを水の中から拾い上げた。
「さぁ、戻してあげよう」

 三人は、元の場所に戻ると、欠片を合わせ、三枚を慎重に地面に埋め直す。
「さっきは気づかなかったが、古伊万里、古備前、高麗青磁……まだまだ埋まってるな。庵にあったのと同じやつだ」
「つまり、宝の山ってわけだね」
 壮司の言葉に、葉月が微笑む。
「でもぉ、そっとしといてあげましょうよぉ」
 琥珀が言う。それに、異論を唱える者はいなかった。


 帰り道。
 葉月が壮司に近寄り、何か囁いている。
 何やら事情がありそうだったので、琥珀はやや二人から距離を置いた。そして、周囲に目を向けてみる。畑や、収穫の終わった田圃などの光景が、朝日に照らされながら穏やかに広がっていた。
 やがて、話が終わったのか、葉月が壮司から離れる。彼は肩を竦め「それじゃ、俺は先に帰るな」と言った。
「バイバイ」
「さようなら〜」
 二人の上げた声に、壮司は振り向かずに手を振ると、足早に去っていく。彼の背中は、少しずつ小さくなっていった。
「今回のこと、記事に出来ないなぁ。しちゃったら、掘り出し物目当ての、欲張りなやつらが沢山集まってくる。あの人たちも、静かに暮らせない」
「そうですねぇ」
 フリーライターだという葉月の言葉に、琥珀は頷いた。やはり、彼らのことは、そっとして置いてあげたいと思う。
「ああ、何かお腹すいた……あ、ここ来る途中に、蕎麦屋があったじゃん?あそこ寄ってかない?」
「あ、いいですねぇ。是非」
「あたし、あんみつも食べたいなぁ……あるかな?」
「あるといいですねぇ」
 そんな言葉を交わしながら、二人はのんびりと歩いて行く。

 その後、竹薮から声が聞こえることはなくなったという。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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■PC
【3950/幾島・壮司(いくしま・そうし)/男性/21歳/浪人生兼観定屋】
【4056/白神・琥珀(しらがみ・こはく)/男性/285歳/放浪人】

※発注順

■NPC
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】

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■         ライター通信          ■
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■白神・琥珀さま

こちらでは初めまして(笑)。鴇家楽士です。
お楽しみ頂けたでしょうか?

納期ギリギリになってしまい、申し訳ありませんでした。本来ならば、幾島・壮司さまのものと同時納品するべきだったのですが、それも叶わず……本当にすみません。

今回、参考に出来る過去の納品物が無かったため、口調でかなり悩みました……間延びさせすぎてしまったかもしれません……(汗)
それから、特殊能力の『千里眼』なのですが、どこまで『見える(分かる)』のかが分からなかったので、そこもかなり迷いました。あんな感じで大丈夫でしたでしょうか?

それでは、読んで下さってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。