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<東京怪談・PCゲームノベル>


それは月の雫にも似た


 違いは幾つか。
 楓と彬と言う名前。
 年の差が14歳と19歳で五つある事。
 他にも髪と瞳の色等沢山ある。

 逆に……同じ所もあるのだ。
 どうしても今すぐに変える事の出来ない『同じ』部分。
 陵と言う苗字と……この体に流れる血。
 苗字を変える事は時間をかければ可能かも知れない。
 それでも楓と彬の二人は家族で、血の繋がった実の兄妹なのだ。
 血のつながりの中にも確かな絆はあるはずなのに、その絆が今は逆に願いを叶える事が出来なくなる程に大きな壁になって立ちはだかっている。

 この感情は、持ってはいけないものなのかも知れない。
 苗字が同じで血も繋がっていて、実の兄だったとしても、楓が実の兄の彬に抱いている感情は………紛れもなく恋愛感情なのだ。
 愛しいという感情。
 家族だからではなく、兄だからでもなく。
 一人の男の人としての好き。
 兄だなんて思う事は出来なかった。
 いけない事なのだと思うのに言えない言葉が堪って行くたびに苦しくて堪らなくなる。
 言ってしまえば楽になるだろうか?
 もしも受け入れて貰える事が出来たら……それだけで幸せなのに。
 望んだのはたった一つ。
 その一つの感情を……閉じこめておく事は出来なかったのだ。

「私……兄さまが好き」
「……楓」
「好きなの、ダメって……解ってるけど、一人の男の人として……好き」
「………」

 知っていた。
 楓が彬に対してどんな感情を抱いているかを気付いていて尚、兄妹であろうとしていたのだから。
 受け入れてはいけないのだ。
 楓は大切な家族で、妹で……それ以上であってはならないはず。
 これからを考えるのであれば、駄目だと言わなければならない。
 一時の気の迷いなのだと……これから先、もっと良い相手が見つかるだろうと言わなければならないのに、言葉にならなかった。
 もっと好きになるかも知れない相手が出来て、楓となんの壁もない幸せな恋をして……。
 そう考え他だけで、どうしようもなく耐え難い気持ちになる。
 こうなるだろうと前から解っていて、それでも何もしなかったのはずっと待っていたのかもしれない、変化が訪れる事を……心の何処かで望んでいたのだ。
 泣き出す直前の顔が愛しい。
 必死になって言葉を待っている楓に今感じているのは、きっと同じ感情。
 妹に向けるものとは……別の愛情なのだ。
 愛しくて、堪らない。

「間違ってるって、解ってるの。でも……」
「……楓」
「もう、言わないから……ごめんなさい」
 後ずさりかけた楓の手を握り、引き留める。
 どうしてこんな事をしたかなんて、自分でも理解出来なかった。
 気付いたら咄嗟に手が動いて、楓を引き留めていたのだから。
 驚いたように目を見開くと、パッと目に貯めていた涙が散った。
 この言葉を告げるのに、一体どれほどの勇気を必要としたのだろう。
 微かに震える手は容易く指が回る程に細くて、微かに震えていた。
 ずっと兄としてではなく楓に触れたかったのだと……いまさら気付くなんて。
「あに様……?」
 手をしっかりと握り治し、僅かに視線をそらしたまま考える。
 どうすればいいのだろう。
 答えを出すのは自分だけだ、他の誰にも聞けはしないのだから。
「……俺は、俺も、楓の事が」
 愛しくて堪らないのだと……これ以上言ってしまっても良いのだろうか?
 ためらいがちに口ごもった彬は手を握り返されて見つめ返した。
「……あに様」
 強く抱き締められ感じる体温にかっと頬が熱くなる。
 ずっと先の事を考えるのなら……いいや、今は、今だけは……どうか見逃して欲しい。
 楓が望んだ言葉を伝えた事も。
 彬がこれからしようとしている事にも。
「楓、いこう」
「……?」
 そっと手を引き、歩き出す。
 勇気のいる事だったが……先に言葉をくれた楓はもっと不安だったはずだ。
 緊張しているのだろう、今も握った手は貸すかに震えている。
 どうか……笑って欲しい。
「出かけようか」
「………えっ」
「誰にも見られないような、遠くに」
「……うん」
 せめて今だけでも。


 一番遠くまでいける切符を買い、電車に乗り込む。
「どこまで行くの?」
「いける所まで」
 窓の外を流れる景色が瞬く間に知らない物へと変わっていくのが嬉しい、一緒にならならんで座っていられる事はもっと嬉しいと感じる。
 隣に一緒に座っていられるのなら、どこに行くのか解らなくても構わなかった。
 周りからは例え兄妹が一緒に見えるようにしか見えなかったとしても、今こうして一緒にいられればそれでいい……どれだけの間だこうしていられるか解らないのだから、気にしない事に決めた。
 今は二人で居る時間だけを大切にしたい。
「………」
 そっと手を伸ばす。
 手を握れたらどんなに嬉しいだろうと思っての事で、触れかけてからここで握って良かったのかと不安になった。
「………いいよ」
「……うん」
 考えていた事か伝わっていたのだろう。
 そっと握り返された手に楓はほっと息を付いた。
 伝わる体温がとても心地よい。
 それだけで満たされるようだった。
 ずっと……こうしていたい。
 電車に揺られながら、終点の駅に着くまでずっと何も喋らずに景色を見ていた。



 終点の駅で人混みに紛れて降り、手を引かれるままに歩く間に誰も居なくなっていく。
 それでもまだちらほらと人気はあったが、観光地でもあるこの場所なら人は多いけれど他人を気にする人は返って少ない。
「何かかってくるから、待ってて」
「……うん」
 小さく頷いた楓が椅子に座って待ち、彬が何か買いに行こうと歩き出したのを袖を掴んで止めてしまう。
「………楓?」
「あっ、ごめんなさい」
 このままどこかへ行ってしまいそうでとても怖い。
 遠くに、見えなくなるぐらいに遠くに行ってしまって……そこで夢から覚めてしまうのではないかと思えてならなかったのだ。
「……飲み物を買ってくるだけだから」
 そっと手を離すとスルリと抜けていく袖。
「………あ」
「直ぐに戻ってくるよ」
 思わずあに様と呼びそうになり、口を塞ぐ。
 雑記からも時折そう呼びそうになって居て、どうしたらいいか和からなかっし、聞くことも出来ずに困っていたのだ。
 引き留めようとしたように思えたかも知れない、それもあったのも事実だが……そうでないのも本当。
 それを上手く言えない間に行ってしまった。
 後で説明しようか、それとも言わなくても良いことなのだろうか?
 考えながらも近くの自動販売機で飲み物を買っている姿を眺め、ずっと触れ合えたままであればいいのになんて……そんな事を考えてしまう。
 最初は言えただけでも幸せだったのに、今は離れて行ってしまう事が不安で堪らないのだ。
 なんて贅沢な事だろう。
 我が儘な事を行っていると解っているのに、好きという気持ちの方が大きくてどうしようもない。
「行こう、楓」
「うん……」
 戻ってきた彬が暖かい缶ジュースを渡し、その手で楓の手を引いていってくれる。
 優しい声にほっとした。
 これからどうなるのだろうと考え出すと不安で仕方ないけれど、いまはこの繋いだ手を感じていたい。
 好きだと告げて尚、感じていられるこの手の温かさを信じていたくて握る手に力を入れる。
 答えるように握り返された手に、楓はとても嬉しくなった。


 景色が良く見える高台のベンチに並んで座る。
 軽く寄りかかりながら、ずっと考えていたことを、聞いておきたいことを尋ねてみる。
 とても優しい人だからこそ、気持ちを告げることで彬も悩んでいるに違いない。
「悩ませてごめんなさい、私……」
「……いいんだよ、楓」
 笑いかけられ、嬉しさと不安が混ざり合った様な気分になった。
 不安はぬぐえないまま、今はそれで構わない。
 不安を感じているのなら、それも何とか出来るぐらいに行動すればいいのだ。
「行こう、私行きたい所があるの」
「楓?」
 今度は楓が手を引いて歩き出す。
 端から見れば家族でも妹でもなんだって良い。
 好きという気持ちを伝えることが出来て、否定されなかっただけでも大きな進展なのだ。
 これからはどうするかは、きっと楓次第。
 ならば何でもして見せよう。
 今はほんの一滴にも満たない朧気な関係でも……何度も繰り返し告げて、雫を落とすように、心の中を満たしてみせる。
「好き、大好き……」
 落ちたのは小さな雫。
 広がったのは、静かな波紋。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1712 / 陵・彬 / 男 / 19 / 大学生】
【1737 / 陵・楓 / 女 / 14 / 中学生】

→もしも二人が付きあうことになったのなら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。


初めまして。
このような形になりましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
IF依頼への発注、ありがとうございました。