コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


∞新たな道

 長谷神社。
 ここは、天空剣道場としても使われている。
 いまは、瞑想中のエルハンドしかいない。彼は神ではあるが修行者である。そして、自己鍛錬を欠かさなかった。そして、剣をとり、素振り、形の稽古を行っている。
 道場の入り口が開き、礼をする長髪の男が現れる。
「裕介か?」
 そう、神は言った。
「失礼します」
 田中裕介は、靴を脱いで下駄箱に其れをしまう。
「師匠、大事な話があります」
「ふむ」
 エルハンドは剣を収め、裕介の話を聞くことにした。




「え? 裕ちゃんが辞めるって!?」
 長谷茜は驚いていた。
 霊木から道場の会話を聞いた様だ。
「盗み聞きは良くないけど……じっさい筒抜けになるね……」
 茜はからかうでっかい弟が居なくなることが少し悲しいらしい。
 しかし、俯いてから
「いいか、それが裕ちゃんの選んだ道なら……」


「俺は母を越えようと思い、また、義明君や茜を見守りたい故に門を叩きました。しかし、今では彼らも成長し、支える相手が居ます。俺の役目はひとまず終わりました」
 と、裕介は辞める理由を言う。
「そうか。止めはせん」
 少し、残念そうな顔をするが、彼を引き留める気はない。
「それと、義明君や他の覚醒者を見るに、強い力だけでは必ず強いと言うことがわかりましたのです」
 彼は真剣に訳を話し続ける。
「お前の気持ちはわかった。しかしこれからはどうするのだ? 大鎌を制御するには……」
「それは、師匠の父に闇や悪という属性を制御できるよう志願したいと思います」
「そうか、ただ、宗家はかなり気まぐれだ。どうなるかわからないぞ?」
「……それは、覚悟の上です」
 場が緊張している。
 沈黙が続いていた。
 裕介の真剣さをエルハンドはとても理解している。
 自分の役目を終えた。ならば新しい道を目指しても良い。さらに、エルハンドの属性は陽に値するために、裕介本来得意とする大鎌の制御をするには対極の陰に長けたものから、制御法を教わる事が必要なのだ。
 この沈黙と緊張は、お互い重要な事を考えている事によるものである。

裕介は決意を。
エルハンドは師として最後の彼に与えるべき手助けを。

 エルハンドが沈黙を破った。
「私からも、宗家の方に連絡を入れよう。エルヴァーンの方がネガティブエナジーを使うことには長けているのだが、闇ではなく影である。幻、偽りなのだ。闇の力も充分使えるが……弟子はとらない男だからな」
 エルハンドが微笑んで答えた。
「ありがとうございます」
 深々と礼をする。
「その前に……久しぶりに腕が落ちていないか、稽古をするか?」
「はい、師匠」
 お互い、木刀を持って、形から手合わせ、真剣による実戦を1時間程度行った。


「基礎は出来ているな。ただ、新しいところでもその基礎は必要だからな、常に稽古は怠るな」
「はい、わかりました」
 二人で道場を掃除しながら、師弟関係は終わっていなかった。
「此処を辞めても、お前は弟子であり、またあの二人にとって大事な友だ。其れを忘れるな」
「はい」
 掃除も終わり、普段着に着替えた時、
「ふたりともー! ご飯あるよー」
 茜の声が聞こえる。
「飲むか? 茜の我が儘も付き合ってやれ」
「はい」



 長谷家での夕食はエルハンドと裕介、茜だけだった。父親は仕事で出かけているらしい。
「田中裕介の新たな道。門出を祝い、乾杯」
「乾杯」
 別れではないが、少しさびしいためか静かである。
「はい、裕ちゃんお酒」
「ありがとう…… おっと……」
 茜にお酌をして貰ってその酒をゆっくり飲む裕介。
「遊びに来てよね……からかうから」
「あのな、ここに遊びに来てからかわれるのは複雑なんだぞ……」
 苦笑しながらも、茜の頭をなでる。
「ふふふ」
 兄か弟の様にみえる裕介に自分の頭を撫でて貰うのは嬉しい茜。しかし、彼女はこれが最後なのだろうなと、思ったのか、少し目頭が熱くなっていた。
 静かに夕食が終わった。


 長谷神社から帰る裕介を見送るエルハンド。
「既に、向こうには連絡した。あちらは先ほど言った様に気まぐれだからどうなるかわからんぞ?」
「はい」
 茜は寂しくなって泣きそうと言うことで此処にいない。
「今まで、稽古お疲れ様。そして、あの二人を支えてくれてありがとう」
 エルハンドは右手を差し出した。
「師匠、今までありがとうございます」
 裕介は其れに答えるように握手する。
 お互い、決意の表れで力がこもっていた。

「では、失礼します」
 深々と礼をする、裕介。
 道を切り開くのは己の意志。
 田中裕介は踵を返し、長谷神社を後にした。

寒い風が吹く冬の東京。
「人は、常に何かを求めている。其れの手助けが出来るのは良いことだな……。弟子が居なくなったのは淋しいが」
 エルハンドはそう呟き、泣いているのであろう可愛い“妹”を慰めるため中に入っていった。


 それから、裕介は蓮の間や長谷神社に来なくなったが、出会えば今までの様に親しい仲であることは変わらない。あいかわらず、茜や愉快な仲間にからかわれることもある、ごく普通の生活だった。
 しかし、大きく変わったのは確かである。
裕介が本当に強くなる方法の1つは、あの大鎌を完全制御する事なのだ。
 

 これからは自分の“強さ”を求める道を歩き始める。
 其れを祝うことが正しいだろう。


End?

■登場人物
【1098 田中・祐介 18 男 孤児院のお手伝い兼何でも屋】

【NPC エルハンド・ダークライツ ? 男 正当神格保持者・剣聖・大魔技】
【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高校生・巫女(長谷家継承者)】

■ライター通信
滝照直樹です。
良き別れとして、描写してみました。
 これからも、茜やエルハンドたちはいつもの様に接するでしょう。
 これからは、裕介さんは長い修行(?)が待っているかも知れません。

 では、新たな道を……。

 滝照直樹拝