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<東京怪談・PCゲームノベル>


チャーリー・トリオ


 ――プロローグ

 ゴッドファーザーであるマフィア三人兄弟の大ボスは頭を抱えていた。
 目の前には三人のジャイアンこと体力バカ、ラリーこと小金持ち、ロビンこと弱虫の異名を取るアホ兄弟がくだらないいがみ合いをしていた。この三人を一つの場所に集めると、大抵ロビンいじめがはじまる。それからラリーはジャイアンに金をかつあげされる。
 レッド・マフィアは今非常にまずい状態だった。跡取り息子が決まらない上、そのゴタゴタが響いて組織としての結託が弱くなっているのだ。このときを狙った敵対組織達が、総攻撃をかけてくる可能性も高い。
 このゴタゴタを手っ取り早く解消させる為に、ゴットファーザーは三人のうち秀でた者を跡取りにすると発表した。
 今は親子喧嘩をしている場合でも、兄弟喧嘩をしている場合でもないのだ。

 ジャイアンサイド。
 如月・麗子はマニキュアのベースコートを塗っていた。ジャイアンはビルから外をチラチラ見て、怪訝そうな顔をする。金を払った用心棒は、どうにものんびりと構えすぎているような気がしていた。
「俺はゴッドファーザーになれるんだろうな」
「やだ、麗子さんがなれるって言ったらなれるわよ。だってあっちは」
 麗子は逡巡して西の方角を見やった。

 ラリーサイド。
 深町・加門は四人の組員と手合わせをしていた。突っ込んできた一人を片手を添えて軽く避け、左右からの二人を後ろへ下がって回避する。そして後ろへ回っていた最後の一人の膝を後ろ足で蹴り、振り向きざまに殴りつけた。
 大金を叩いて雇った賞金稼ぎは、子分を痛めつけるばかりで有益なことはしてくれない。
 まるで相手にならない訓練を見ていたラリーが不安そうに言う。
「俺はゴットファーザーになれるんだろうな」
「バカくせえ、俺はあの女にゃ山ほど貸しがあるからな」
 加門は鼻で笑った。

 ロビンサイド。
 ロビンは瓶底メガネをかけた、いかにも弱々しい男だった。
「ねえ、僕だってゴッドファーザーになりたいよぉ」
 泣き出しそうな声で言う。
 無償で用心棒を買って出てくれた用心棒は、とても頼りなさそうな男だった。
 
 
 ――エピソード

 ロビンと、彼の親友らしいジャス・ラックシータスは、空港に現れた背の高い黒ずくめの男をじいと見つめていた。
 彼は日向・龍也と名乗った。するどい双眸をした男で、瓶底メガネをあげるロビンを胡散臭そうに眺めている。
「え、本当に、用心棒になってくれるんですか」
 ロビンは龍也の視線に怯えながら聞いた。
 龍也はしちめんどくさそうな顔をして、乱暴に頭をかいた。
「ああ、後払いで言い値払えるんならな」
「そりゃあ、兄さん達に勝てば、組織はぼくのものだから、いくらでも払えるけど……」
「なら決定だ。その代わり、おまえもそれなりに鍛えてもらうけどな」
 龍也はそう言って歩き出した。
 ジャスは背の高い白人で、髪の毛を立てている。ジャスは龍也とロビンのを見比べて、首をかしげた。
「あの人、信用できるかなあ」
「でもジャス、強そうだから平気だよ」
 ロビンは早くも強そうな用心棒に心が軽くなったようだ。
 しかしジャスは、いかにも容姿端麗で少しぶっきらぼうな龍也が、少し引っかかるようだ。
「まあ僕は、ロビンがいいって言うんならいいんだけどね」
 三人は龍也が停めていた車に乗り込もうとした。そのとき、向かいの道路を銃火器を持った男達が走り抜けた。ドドドドドと爆音がして、車が銃撃される。
「なんだあいつら、お前知り合いか」
 龍也は慌てることもなく、車体についた傷だけ確認すると、二人を乗せて車を出した。
「たぶん、ぼくの命を狙ってる、マフィアだと思う」
「ふうん……。しょうがねえな、まずテメーからやる気をみせてもらおうか。そいつらのところに突っ込むぞ」
「え……ええーっ」
 ロビンがすくみあがる。
「そんなに君一人で行ってきてよ」
「はあ? お前なあ、自分で動かない奴の為に誰が動くか」
 走り去った車を追って、龍也は雑居ビルの前に車を停めた。
「しけたビルだな」
 彼はロビンの首根っこを掴んで車を降り、ジャスを置いたままビルの中へ入って行った。
 
 
 ビルの中は騒然としていた。
 柄の悪い男が数名、どやどやと押し寄せてくる。龍也はロビンをその中に放り投げた。ロビンは着地すると同時に、あわあわと龍也の足元へ戻ってくる。
「ったく、どうしようもねえな……」
 行動は素早かった。魔術を使うまでもない。瞬きをしたその瞬間に、強面の男達が龍也になぎ倒される。右足で二人の頭を同時に壁へ叩きつけ、頭を低くして一人の男の足を持ち上げる。転げた男の頭に足を乗せ今度は左側の男達を左手で一気に殴った。
 龍也は頭をかいてから、階段を上った。そこには大仰な椅子に座ったボスらしき男がいて、龍也を見て顔をこわばらせた。それから、龍也の腰に捕まっているロビンをみつけ片眉をあげる。 後ろから瀕死状態の部下が現れ、龍也はにべもなく殴り倒した。
「こんなとこでタマ賭ける必要もねえだろ。兵隊まとめて退いちゃくれねえかな?」
 ボスは後退りながら、素早く拳銃を構えた。しかし龍也が鋭く睨んだだけで魔力がかかり彼の手元の拳銃は弾け飛んだ。
「退いちゃぁくれねえかな?」
 ボスは苦い顔をして、ぷいと顔を背けうなずいた。
 
 
 車の中で待っていたジャスの元へ帰ると、ロビンはジャスに泣きつきジャスは慌てた顔で言った。
「あのねロビン、僕の仲間の加門と麗子がねラリーとジャイアンの用心棒らしくてね。今電話をしたらわかったんだけど、赤坂のパブで二人とももめてるらしいんだ。そこに行けば、ジャイアンもラリーもいるよ」
 それを聞いた龍也はにやりと笑った。
「赤坂だな」
 龍也が運転席から振り返る。ジャスは目をぱちくりと瞬かせてから、大きくこくりとうなずいた。
「うん」
 車は軽快なエンジン音を立てて出発し、ジャスの言う赤坂のパブへ一路向かった。
 ロビンはビクビクと首をすくめている。しかし車は走っているので、嫌でもそのパブへはすぐに着いてしまった。
 ベージュの色の壁にネオンが光っている。龍也はロビンの首根っこを掴んでずんずんと中へ入っていく。
「ジャスー、ぼくもう嫌だよぉ」
 ロビンが泣くも龍也が立ち止まる気配はない。
 ジャスも仕方なしにとぼとぼ龍也の後ろを歩いている。
 中ではラリーとジャイアンが睨みあってより、隣で深町・加門と如月・麗子が睨み合っていた。後者の二人は賞金稼ぎでありジャスの友人である。
「カモン! 麗子っ」
 ジャスの闖入に二人は目を丸くして龍也達を見た。龍也はさっきと同じように、ロビンをジャイアンとラリーの間に放り込む。
「……お前、やれることやってみろ」
 龍也が冷たく言う。ロビンはその恐ろしい双眸に恐れをなして立ち上がり、ジャイアントラリーを弱々しく睨んだ。それからごくりと唾を飲み込んで、震える声で言った。
「ぼくがゴットファーザーになるんだ。お前等になんか……」
 と言いかけたところで、もちろんジャイアンにゴツンと殴られる。もちろんラリーに顔の肉を引っぱられる。そしてまたもちろん、ロビンはうわあーんと大きな声で泣きながらジャスに助けを求める。
 そのジャスはロビンのことなどまるで気にならない様子で、旧友との再会を喜んでいた。
 呆れ顔で見ていた龍也がジャイアンの後頭部を後ろから思い切り殴りつけた。ジャイアンは振り上げた拳をそのままに、意識を失ってロビンの上に倒れこんだ。それからラリーの首根っこを掴み、龍也はぽんと放り投げた。投げられたラリーは宙を舞って赤い壁に打ち付けられ、ずるりと万有引力によって床に落ちた。
 加門と麗子は顔を見合わせ、そしてジャスを見た。
「……僕を見られても困るんだけどさ……。でもなんていうのかな、逆らわない方がいいと思うよ」
 ……。加門と麗子は再び龍也を見つめ、ジャスを眺め、そして放置することに決めたらしかった。
「ちぇ、結局給料なしかよ」
「骨折損ね」
 二人はジャスに手を振って、溜め息と共にパブから出て行った。
「ちっとはやる気ぃぐらいみせろよ」
 龍也の強さとかっこよさに、ロビンは調子付いて言った。
「僕がゴットファーザーだ」
「ゴットファーザーが下僕ってのもいいかもしんねえな。役立たずのクズでも」
 龍也がぼんやりと口にしたのを耳にしたジャスは、背中に冷たいものが走るのを感じていた。
 
 
 ――エピローグ
 
 ……龍也の報酬金額は、とてもではないが薬の売買をしないレッド・マフィアには払いきれない金額だった。
 そういうわけで……。
「おい、洗濯物干しとけ」
「……え、あ、はい」
 ロビンは三角巾にエプロン姿である。
 強い用心棒(主人)を見つけたらしいロビンに、ジャスが二度と近寄らなかったのは言うまでもない。
 自分までも下僕にされてはたまらないと思ったのだろう。
「おい、お前サンドバックやれ」
「ええええっ、か、かんべんしてください!」
 ロビンは龍也の元から逃げ出した……逃げ切れたかどうかは定かではない。
 
 ――end
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2953/日向・龍也(ひゅうが・タツヤ)/男性/27/何でも屋:魔術師】

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■         ライター通信          ■
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 hunting dogs15弾 チャーリー・トリオにご参加ありがとうございました。
 プレイング軽視の方向にありましたことをお詫び申し上げます。
 因みにチャーリーは愚か者という意味があるそうです。
 楽しんでいただければ幸いです。
 
 ご意見ご感想お気軽にお寄せ下さい。
 
 文ふやか