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<東京怪談・PCゲームノベル>


カレイドスコープ・エディション T−side



 傘を差して歩く日向龍也は、ふいにそちらに視線を向ける。
(……取り壊す予定の遊園地か)
 静かだ。雨が降っているせいか、余計に不気味だった。
「ん?」
 目を凝らし、一瞬、自分の眼を疑ってしまう。
 閉鎖された遊園地のはずなのに、その中を傘も差さずに歩く二人組がいたのだ。
 ボブカットの少女と、まだ子供と言うべき年齢の少年だ。
 なんとはなしに気になってしまう龍也。仕事も終わったし、少しくらい寄り道をしても大丈夫だろう。
 足の向きを、龍也は変えた。



 雨の降る、閉鎖された遊園地の中を朱理とリックは歩いていた。
 朱理はぶすっとしたままついて来るリックに、振り向かずに問う。
「そんなに大切なんだ、あの店長」
「はあ? んなわけねーだろ!」
 思い切り否定したのに。なのに――。
 朱理は小さく笑って、
「……うん。わかった」
 そう呟く。その言葉に含まれた、何か暖かいものにリックは戸惑うしかなかった。
(やっぱ、変な女)
 瞬間、朱理が振り向いて強く手を振った。リックに当たりそうだった何かが、朱理の放った火の塊に弾かれたのだ。
 思わず身を引くリックに、朱理が静かに訊く。
「リック、大丈夫?」
「え? あ、うん」
 庇われたことに気づいたリックが、慌てて頷く。
「お見事。炎を出すだけという一芸者ではないようだ。先ほどの店で君が放った『火』を返しただけなんだけど、弾くことはないだろう?
 それに……よくここがわかったね」
 いつの間にここまで距離を詰められていたのかわからなかった。寒気を感じるリックを背後にして、朱理が男を睨みつける。
 店に現れた双子の片割れの男だ。間違いない。
「正太郎と、あの店長さんを、どこにやった……?」
「ああ、贄のことか。ここだよ、あの少年は」
 少年という言葉に、朱理が顔色を変えた。リックが前に出ようとするのを、朱理が体を張って止める。
 男はゆっくりと朱理たちに近づいてくる。そして、見下ろした。
「少女はここにはいない。私の半身が持っている。少年は君の友達だったのかな? うん……とても強い能力を持っていて、力が満ち足りる」
「……おまえ、正太郎に何をしてる?」
 低い朱理の声にリックは知らず、冷汗を流した。
 男は笑った。
「我々の為の栄養になってもらっているんだ。この万華鏡の中に閉じ込めて、生命力をもらっていてね」
 軽く振ってみせた青い万華鏡。あれも見覚えがあった。
 愕然とするリックは、脳裏に赤い万華鏡が思い出された。では、あの赤いほうには……。
「ふふふ……幸せだろうね。じわじわ弱っていっても、それに気づきもしない。死ぬまでね」
 ぎしり、と歯軋りをした朱理に、リックの反応が遅れた。
 男の言葉に怒りを感じていたし、朱理がやたらと静かなので気づかなかったのだ。
「正太郎を返せ……!」
 低い声を出す朱理は、リックと喋っていた時の雰囲気が微塵もない。暗い怒りに満ちた瞳をしていた。
 男は余裕で小さく笑う。
 朱理はリックに向けてしっしっ、と手を振った。
「邪魔だからあっち行ってて。危ないヤツみたいだから」
「なっ! なに言ってんだてめー!」
「……あんたはあんまり戦闘に向いてないみたいだしさ」
「おまえなんて人間じゃないかっ!」
「そういや、リックは背中に羽があったっけ。まあいいじゃん。人間だろうがなんだろうがさ、リックが無事にあの店長さんに会えるようにしたいんだよ、あたい」
 小さく笑った朱理が掌を見つめていた。
「雨、やんだね。うん……天はあたいたちに味方してるよ」
 リックは絶句した。何を根拠にそんなことを言うんだ、こいつは。
「さっさと行って、リック」
 朱理は軽く手を振る。
 唐突に地面から巨大な炎の刃が、空に向けて一閃された。巨大な刀を振り上げたかのような光景に、リックが一歩後退する。
 男は驚いて軽く跳躍し、それを避けた。朱理の炎は跡形もなく消えてしまっている。
「ちぇ。避けられたか」
「怖いな。いきなりかい」
 男は朱理と全く同じ動作をしてみせた。すると、今度は空中に現れた炎の刃が彼らに向けて振りおろされたように見えた。リックが慌てて朱理を引っ張って上空に逃げる。
 羽を動かして、重そうに上空に逃げるリックを、朱理は不思議そうに見遣った。それに気づいてリックは悪態をつく。
「さっきのお返しだ! 借りは作らねー主義だからな! つーか、朱ねえは自分のこともちったあ考えろッ!」
「あかねえ?」
「そう呼ぶことにしたんだよ! なんだよ文句あんのかッッ!」

 その様子を見ていた龍也は驚愕し、長身の男を眺めた。あっちは明らかに人外の者で、あの空を必死に飛んでいるのも人外。人間には違いない少女とて、普通の人間とは言い難い感じだ。
(なんだ……?)
 状況がよくわからず、とりあえず眺めているだけだった龍也は、整理する。
 あの小僧と女子高生は知り合いらしい。男は悪いヤツっぽい。男は女子高生の友達を人質にとっているらしい。
 こっそりと覗いていた龍也は、空を飛んでいた二人組が攻撃をまともに受けて吹っ飛ぶのを見た。
(ありゃねえだろ)
 あんな年端もいかない子供相手に、容赦なく。
 龍也は雨がやんでいることに気づかなかったため、傘をずっと差していた。それを放り投げて落ちてくる少女と少年を受け止めに飛び出す。

 受け止められてリックは「へ?」と声を洩らした。
「おい、無事か? 坊主」
「ぼっ……!?」
「そっちのお嬢ちゃんは?」
「どーも」
 現れた男は二人を降ろし、それから親指を朱理たちを攻撃した男に向けた。
「あいつは敵だろ?」
 問いかけに少女は頷く。
「安心しろ。俺は味方だ」
「……友達が、万華鏡に閉じ込められてて……」
「万華鏡?」
「閉じ込めて、生命力を奪ってるんだってさ」
 朱理の言葉に、彼は不愉快そうに眉根を寄せた。
「……なるほど。どーりで気に入らねえ」
 見ず知らずの者に事情を話した朱理を、リックが責めるように睨んだ。だが、朱理は静かに言う。
「あたいたちより、こっちのお兄さんのほうが強いみたいだし……。助けてくれるみたいだから」
「だからって……!」
「正太郎の命がかかってるんだよ、リック!」
 初めて朱理が声を荒げた。びくっとして、リックは悔しそうに唇を噛んだ。
 二人を眺めていた彼は小さく笑う。
「そこで休憩してな。なあに、お兄さんに任せなさい」

 突然割り込んできた龍也を、男は不審そうに見る。
「代打で俺が相手になる」
「誰が相手でも構わないけれど」
 小さく笑う男を、龍也は睨みつけた。
(あいつの能力がいまいちわかんねえな……。さっき見た限りでも……)
 静かに立っている男に、龍也は言う。
「攻撃してこないのか?」
「なぜかね?」
「邪魔とか思わねえのか?」
「邪魔は邪魔だがね。特に君たちに何かしようとは思ってないよ。贄が居ればそれでいいからね」
「……悪趣味だな」
 胸糞悪くなる。
 片手に持つ万華鏡を、男は見せびらかすように振ってみせた。
「君はいらないよ……。強力すぎて、こちらが侵食されそうだ……。それに、贄はここに居る者だけで十分なんでね」
「人間にチョッカイ出すのもどうかと思うぜ?」
 龍也の言葉に男はムッとした。だが、反論する気はないようだ。薄く笑った。
「好きに攻撃してみては? もっとも……私は、私の半身が生きている限り死にはしないがね」
 ふ、と龍也が息を吐き出す。
「俺はお前みたいな感じの奴は嫌いでね」
 唐突に龍也の姿が移動した。男は目で追いきれなかったらしく、驚愕して目の前の龍也を見つめていた。
「黙ってろ――」
 行動は速い。龍也は男の舌を掴み、力任せに引いた。
 血は飛び散りはしなかったが、男はよろめいて後退する。龍也は引き抜いた舌を放り捨てた。
「さて、反撃の隙なんて与えないぜ?」
 殴りつけようと拳を振り上げた瞬間、男がにたりと笑んだのが見えたために止める。
「気をつけておにーさん! そいつ、相手の力を奪うみたいなんだ!」
 少女の声に、そうだろうかと龍也は訝しむ。奪うのは確かだろう。少女と同じ動作で発動する攻撃なのだから……同じ動作?
 いや、違う。
 龍也は先ほどの戦闘を思い出す。同じではない。まるで……そう、鏡に映したかのように、『真逆の動作』だった!
 右利きらしい少女は右腕を振り上げた。だが男は左腕を振り上げた。
 これは単なる一致ではない。意図的にされた行為。
「……おまえ、まさか」
 コイツは半身が居る限りと言った。半身……? それは。
「鏡の表と裏……」
 呟いた龍也に、彼は笑う。
(チィ……! じゃあ半身にも攻撃を与えないといけないってわけかよ!)
 だがここで指を咥えて待っているほど龍也は甘くない。拳を振り上げる。それを真似するように男が左腕を振り上げた。
(とにかくこいつをぶちのめして、それからだ!)
 どれほどの攻撃を浴びせれば倒せるかなどわからない。だが、やらないよりはマシだ!
 と。
 男が持っていた万華鏡がぱぁん! と弾け散る。驚愕する男が、戸惑い、視線を彷徨させた。
 好機だ!
 龍也は拳を振り下ろした。渾身の力を込めて、連打する。
 抵抗すらせずに攻撃を受けていた男の体に亀裂が走り、徐々にそれが広がっていった。それはまるで、鏡が割れる前兆のような。
「……どうやら、おまえの半身に何かあったようだな」
 龍也の一言に男は目を見開き、屈辱に顔を歪める。その表情こそが、龍也の言葉を肯定していた。
「ヴヴ……ヴヴヴ……」
 喋れない彼は、涙を流す。手を伸ばした。求めるように。……何を――?
 しにたくない。
 と、口が動いた。
 龍也は最後の一撃を腹部にめり込ませた。
 甲高い音をたてて男の全身が、鏡のように砕け散り、そのまま地面に溶ける様に消えてしまう。そこに現れたのは金髪の少年だった。驚く龍也だったが、少女が小さく「正太郎!」と叫んだのが聞こえる。
 駆け寄ってきた少女は、気絶しているらしい友人の無事を確かめ、嬉しそうに微笑む。一緒に安堵して笑っている少年に、少女は何度も頷いていた。
(……おっと。これ以上いたら野暮ってもんか)
 龍也はそっとその場から離れた。放り投げた傘を拾い、もう一度振り向く。
 気絶しているらしい友人の頬を叩く少女の姿が見えた。それを、どうしていいかわからず眺めている幼い少年も。
「…………」
 ふ、と笑って龍也はそこから去る。
 遠く離れた時、微かに彼らの会話が聞こえた。
「あれ? あのおにーさんいないや」
「あ。ほんとだ! なんだよあいつ! なんにも言わずに!」
「いいじゃん。名前を告げずに去っていくなんて、かっこいいし」
「……朱ねえはさ、もうちっと常識持ったほうがいいと思うぜー、俺」
 それを聞いて、それから空を見上げて苦笑してしまった。
 なんておあつらえ向きに虹なんて出てんだよ?
「めでたしって、ことか?」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2953/日向・龍也(ひゅうが・タツヤ)/男/27/何でも屋:魔術師】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【リック(りっく)/男/12/魔女の使い魔】

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■         ライター通信          ■
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 この度はご参加くださり、ありがとうございます。ライターのともやいずみです。
 日向様はとってもかっこよく、強い方ということで、最強の助っ人として登場していただきました!
 本当にかっこいい方で書かせていただいて本当にありがとうございました!

 楽しく書かせていただき、大感謝です!
 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。