|
K―2マシングランプリ
●不可解な招待状
------------------------------------------------------------
K―2マシングランプリ
出場者募集
◇日 時 2004年12月24日(金) 午前0時
◇会 場 魔界ホール・オブ・ペイン サーキット会場
◇参加資格 1、魔界の住人、吸血鬼、オーク等の人種で体の健康な者
2、魔か、それに準ずる力を使用できる者(人種問わず、体の健康な者)
年齢不問
◇定 員 男女各50名(先着順)
◇申込方法 電話(tel03-■○△△-○○○△)にて受付します。
平成13年12月23日(木)までにお申し込み下さい。
◇競技方法 2005年スペックの"パンデモニウムRVX−05"を使用。
------------------------------------------------------------
「えー、なになに? 1000年に一度あるかないかと噂される、ソロモン72協議会主宰K―2マシングランプリが開催されます〜。賞品は多数。今年こそは貴方の魔力で風になろう。……なんだ…これは?」
思わずチラシから顔を上げて、草間武彦が言った。
「見てのとおりだ」
素っ気無く塔乃院が返す。
何処かしら不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。
「俺は興味が無くてな。賞品は多数あるらしいし、力を試したい奴には丁度良いだろう」
ぶつぶつと文句を言いながら、武彦にその紙を渡した。能力者ではあるが、普通の刑事と言って憚らない塔乃院は苦い顔をしている。どうやら、『普通ではない』と言われているような気がしてならないのだろう。
この大会は1000年に一度、魔界のレース用マシンを使ってするものらしい。出場者は魔界の実力者から、人間界の各能力の達人までいるという。
「人づてに聞いた話だが…これで、次の魔界の後継者を選出しているようだな」
「へぇ、だから吸血鬼がどうのとか書いてあるんだな」
武彦は納得したように頷く。
「そうなんじゃないか? 俺には詳しくはわからんが…夜に属する種族だしな…。人間界の金が欲しいなら要求すれば良いだろうし、物が欲しいならそれを持って帰ってくればいい」
「金か…俺にそのマシンが動かせるなら行くかな」
「武彦…やめておけ」
「は?」
「後悔するぞ…きっと。それにお前、魔法も使えないだろうが…」
「何! …そうか、魔法が使えないといけないんだったな…じゃぁ、俺は見学に行こう」
にべもなく言い捨てられて、しょげる武彦がいた。だが、未知のマシンには興味があるようだ。塔乃院はちらっと、近くにいた調査員達を見る。
「もしもよかったら、行ってみるか?」
少々、難しい顔をして、塔乃院はそう言った。
●魔界へ
「面白いな。俺は参加しようかな…商品が気になる」
雪ノ下・正風は好奇心にかられて、いくことを即決した。オカルト作家の自分としては、魔界の後継者が誕生する瞬間を是非見ておきたい。無論、それだけではなかった。
こんなラストイベントの時に、大掛かりなレースがあるなどラッキーだ。男ならば一度は参加してみるべきだろう。正風は血色ばんだような表情で武彦を見る。
そんな相手の様子に、武彦はやはり男はレースみたいな闘争心に燃えるものが好きなのだな〜と実感していた。
一方、塔乃院のほうと言えば、憐れな生贄を見るような憂いに満ちた目で調査員達を見ている。
(あら…珍しいわね)
塔乃院の嫌な顔といい、稀に見る同情の目といい、シュライン・エマはそんな彼を見るのは初めてだった。と言っても、普段はあまり話す相手ではない。だが、殆どのことには我関せずといった態度でいるのが普通な塔乃院にしては、とても珍しい様子だ。
(もしかして…チラシ貰った事以外にも理由あったり…?)
屠殺場に連れて行かれる猫達を見るような視線を感じてシュラインは小首を傾げた。
「だけど、その会場名って、何だか痛そう」
そう言ってシュラインは笑った。
The hole of pain. ――激痛の回廊。
きっと、灰色の壁とかで囲まれた恐ろしい所のなだろう。だが、ゴシック調の綺麗な封筒に蝋の印が押され、とてもクラシカルな感じもする。益々わからなくなって、シュラインは考え込んだ。その表情もすぐに変えて、隣に立っている武彦に笑いかける。
「でも、イヴの日に魔界でレース観戦だなんて。ある意味皮肉気で洒落てるかも…なぁんて…ね?」
「そうだなぁ…聖夜で魔界だからな。まあ、これだけの人数がいれば何も問題は無いだろう」
「魔界でレースですか。あちらでもそういうものが流行っているのですかね」
セレスティ・カーニンガムは長い睫を臥せ気味にして、何やら考えていた。
「セレスティ様…まさか魔界相手に商売する気ですか?」
主人が何かを考えているような様子を見てモーリス・ラジアルはクスクスと笑う。
「いえいえ、乗り物好きなモーリスが居ますのでね、気になっただけです」
「乗るとか言い出すかと…」
「私は応援する側ですよ。一人でバイクに乗れる訳ではないですからね、楽しく応援させて頂きます」
興味は有るけど心配を掛けるわけにはいきませんと言って、セレスティは肩を竦めた。さすがに一財閥の総帥が危険度の高いレースに登場するわけにはいかない。
納得しつつ、モーリスは頷いた。
「車を運転するのは好きです。そう言えば空飛ぶバイクだそうですね。大変興味がありますよ」
殊のほか楽しそうにモーリスは言う。
「……」
その言葉に塔乃院は眉を顰めたが、辛うじて何かを言うのを止め、終始無言で通す。
「主人が一度乗った事があると言っておられましたので、どの様な物なのかと…どうしたんですか?」
「あ…いや、なんでもない」
モーリスに問い掛けられて、塔乃院は首を振った。先ほど淹れてもらったコーヒーを眺め、ごくわずかな溜息を吐く。
「OH、ミーは武彦のかっこいい姿が見たいデースネ」
ジュジュ・ミュージーは豊かな胸を揺らして飛び上がらんばかりに喜んだ。ヒスパニック系の顔は美しいが、みなりはだらしなく、どことなく熟れた感じが否めない。
「あ〜、ドロシィちゃんも魔界に行きたいの。零ちゃんと遊ぶー」
ジュジュが行くとなると、ドロシィ・夢霧の方もいきたいと言いはじめた。どうやら、鈴鹿に行くのとあまり変わらない感じで受け止めているらしい。それもそうだろう、現代っ子としては見慣れない魔界よりも、鈴鹿のほうが連想しやすいものだ。
一方、アリステア・ラグモンド神父は『岡埜のこごめ大福』を頬張りつつ、シュラインの入れてくれたお茶を飲んでいた。
「ん〜…美味しいです〜」
ほわほわとした雰囲気を漂わせながら、幸せそうに食べるアリステアを横目に、ユリウス・アレッサンドロ枢機卿はじと目で見る。
「よくそんなもの食べれますねぇ〜」
「え? この大福は美味しいんですよ。ユリウス様もいかがですか?」
「いえ、結構です。私、餡子は嫌いなんです」
ユリウスは難しい顔をして肩を竦めた。
「面白そうですね〜。私も参加したいと思います〜」
お花でもこの部屋に咲かせてしまいそうな、おっとりとした笑顔でアリステアは爆弾にも等しい言葉を言った。その瞬間、その場にいた殆どの人間が凍りつく。
「な、な、な、な、な、な…なんですと!」
「え? なんですか、ユリウス様。大きな声なんか出して…準ずる力を使用できる者で、人種問わず、体の健康な者なら私も該当すると思うんですが」
「そ、そ、そ、そうですけどっ!」
お茶も入れられないほど料理の腕は壊滅的で、放っておくと怪我をしかねないアリステアを知っているユリウスとしては、料理よりも複雑な運転ができるとは思えなかった。おまけに『超』がつくほどの天然さんだ。どう見たって、神父と保父以外の職業は出来そうに見えない。この際、主夫というのも該当しそうだが、料理が出来ないので不可。
それができればきっと良いお婿さんになるのにと、シュラインは密やかに思っていた。
「ナイフも使えない人が乗るものじゃぁ〜ありませんよっ! あなたに何かあったら、さすがに聖下になんと言ったらいいんですかっ!!」
「そんな〜…料理と運転は違いますよ? 大丈夫ですよ」
行く気満々なアリステアの様子に、藤原・浩司神父は楽しげにしていた。自分にとって息子ほどの歳のアリステアを優しい目で見ている。
「ルールはどうなっているんですかな?」
藤原神父の声にユリウスは顔を上げた。
「へ? あぁ…普通のF1レースと同じですよ。所定のコースを走ってタイムを競いますけどもね。マシンは『持ち込み不可』だそうです…このチラシを見る限りは」
「ほう…そうですか! では、わしの出番ですなっ♪」
「は?」
「持ち込み禁止ということは、改造はOKということですな?」
「えぇ…まぁ、これにはエンジニアも募集と……」
ユリウスはチラシの下の方に書いてある項目を見て言った。
「では、わしも参加させていただきますぞっ」
「え〜〜〜〜〜〜っ??」
「アリステア神父が参加するなら、わしはエンジニアとして参加することにします。呪具製作技術がここで役に立つというわけだな、うん。な〜に、わしに任せておけ!」
藤原神父はガハハハッっと笑うと、呪具製作ようの道具を手入れするために興信所を出て行く。
「え〜〜、藤原さんと一緒なんですかぁ…」
しょぼぼーんとしながらユリウスは言った。どうやら参加するつもりだったらしい。呪具で抑えた能力を発揮したアリステアに、藤原神父が加われば、まさに鬼に金棒だ。
強敵が現れたとなると、正風の方は俄然燃えてきたらしい。
「ふむ…F1…か…」
それを見ていた不動・修羅は心密やかに内なる願いを叶えることを誓った。F1ファンとしてはどうしてもやっておきたいことがある。それは今は秘密だが、きっと会場を湧かせることに違いない。
「魔界のレースか…後継者なんかには興味ないが、俺の走りがどこまで通用するか確かめてみるか」
聖・武威は考え深げに言った。
しかし、心の中では滾るものが彼を支配している。レーシング界の二つ名は『サーキットの野獣』。そんな彼の前では、どんなレースも真剣勝負だ。男なら、命がけで戦う義務がある。
「世紀の瞬間ですね。俺…今、猛烈に感動していますっ!」
そんな聖を見て、里見・勇介は拳を握って言った。
「俺は観戦させてもらいます♪」
爽やか青年の里見は興奮を隠し切れない様子だ。
「じゃぁ、お弁当を用意して皆で出かけましょう」
シュラインは嬉しそうに言って台所に向かう。ひょいとキッチンを覗くと、冷蔵庫の前でペンギンのヴァイスがうろうろしていた。その後ではかわうそ?がコーラ片手にポテチを食べている。
「あら、ヴァイスくん。何やってるの?」
「もけっ? シュライン姐ちゃん、おやつくれもけ〜」
|Д゚) ヴァイス、さっきからうろうろしてる。
「あらあら、ごめんなさいね。今、アイスをあげるわね」
そういうとシュラインはヴァイスのために冷凍室からアイスを取って渡す。
「ありがとーもけ♪」
「いえいえ」
|Д゚) さっきから集まって、何の話してる?
「あぁ…魔界のレースに参加するって言う話でね」
|Д゚) へえへえへえで、3へえ。
「もしかして、K―2マシングランプリもけ?」
「えぇ、そうよ。ヴァイスくん知ってるの?」
「勿論もけ。ボクは前々回の優勝者もけよ」
「え? うそっ!」
|Д゚) 本当なり。
「そうだったのね……」
|Д゚) 前回はこっちに出てきたから、出場できなかったそうなり〜
「そっか…動物くんたちでも出場できるって…どう言う構造になってるんだろう…」
がっくりと項垂れて呟くシュラインだった。
不意に気になって応接室兼事務所の方を見れば、皆がワイワイと楽しそうに話しこんでいる。男の人たちは、機械とか早いものが大好きだから、話が止まらなくなっているのだろう。
そんな姿が可愛いような気もするが、これからはじまるだろうレースがどんなものか、シュラインにはわからない。
ちょっと考えてから、シュラインはお弁当のメニューを考えるために料理の本を引っ張り出した。
●Ring ring ring
「アハ〜ン☆…お兄さん、ミーと遊びませ〜んかァ?」
『は?』
ジュジュの声にK―2マシングランプリ事務局の男は驚いたようだった。ジュジュのデーモン――『テレホン・セックス』は、電話回線から受話器を取った人の脳へ入りその人を操るのだ。魔界の男でさえ、その力に抗う事は出来ない。さすがに魔界に電話があるのが不思議だったが、この際、それはどうでもいいことだった。
ジュジュの願いはただ一つ。いや、二つ。
草間のカッコいい姿を見たいのと、賞金の金だけだ。申し込み日時が三年前なのを訝り、裏社会や高峰研究所の情報網を使って、その電話番号が正しいものかどうかを調べた。
ジュジュは受付が三年前である事を訂正させ、平成十六年になるようにしようとしているだ。
『は……はい。どんな…遊び…でしょうかぁ〜』
相手はジュジュのデーモンに憑依されたようだ。
「ユーの脳みそファッキンしてあげるヨ。受け付けは平成十六年だよォ〜。間違えちゃイケネナイネ☆ これで、皆が楽しく遊べるDeath」
『はい〜、そうですよね〜。じゃぁ、訂正しておきますよお』
「優勝者の予想を教えてくれたら、もっとショッキンな刺激もあげるデ〜ス☆」
『えっとォ〜…優勝候補はぁ……』
ふらふらとしながら事務局の男は情報をぺらぺらと喋ってしまう。ジュジュはそれをメモに走り書きしていった。
「じゃあ、バイバァーイ☆」
『はいー、誠にありがとうございましたァ〜☆』
かなり感化されてしまった事務局の男は、電話を切ってからも呆然と一日を過ごしたようだった。
●クリスマス苦しみます?
その日、シュラインは大忙しだった。
いくつもの依頼をこなした後の調査報告書をまとめ、請求書を書く。月末の年末前ときては忙しい限りだ。そして数日の間には大掃除をしてしまわねばならない。おせちを作らなければ、きっと武彦は正月の間に飢えてしまうだろう。色々と算段をして、シュラインはお弁当十三人と二匹分のお弁当を用意していた。向うで何か縁日みたいなものがあるなら、それを少し買えばいいし、今回は割りに少なめに作っていた。
銀行の帰りに買い物によってからゆっくり作り始め、午後8時には作り終える。一時間程、掃除と書類の整理をしていれば、次々に調査員達はやってきた。
一番乗りは里見・勇介。次にやってきたのはセレスティとモーリスだ。そして、九時半をまわる頃には全員が揃い、魔界からの使者を待つばかりとなった。
時計の鳴らす十時の鐘の音ともに魔界への扉が開き、雪降る夜空から黒い何かがやってきた。
「ん? あれは…」
モーリスが空を見上げると、黒い何かがゆっくりと地面へと降り立つっている。遠くで酔っ払いが「UFOだ、べーエルダ星からの使者がやって来たー!」とかなんとか喚いていたが、遅い時間のクリスマスシーズンの裏路地で騒いでいても、誰も家から出てくるものなどいない。滑稽極まりないその男を無視してモーリスは黒いものに近付いていった。
降り立った黒いものは飛行機の形状によく似てはいたが、それよりももっと小さく、大型バイクと乗用車の間ぐらいの大きさだろうか。
「あぁ、前に乗せていただいた異空間移動用のバイクですよ」
デンマーク産のシャンパン色のミンクコートに身を包んだセレスティがゆっくりと杖をついて歩いてくる。流石に雪まで降ってくると、都会とは言え寒い。
体がさほど丈夫ではないセレスティのことを考えると、風邪などひかないかどうかと心配になった。
「へえ…こんなのに乗ってレースですか…スピードが出そうですね」
「異空間を移動できるぐらいですからね」
「それはそうですねぇ」
寒さから逃れるように、ブロードテールコートの前合わせをモーリスはぴったりと閉じる。
近くで二人の様子を見ていたヴァイスは、その言葉を聞いて何か言いたそうな表情をしたようだった。
「何ですか?」
「それに乗ってレースはしないもき」
「え?これじゃないんですか?」
「似て非なるものもきよ」
「じゃぁ、一体どんな乗り物なんですか?」
「行って見ればわかるもき。一筋縄じゃいかないから注意するもきよ」
そういうと、ヴァイスはにたぁ〜りと笑った。
「へぇ…それは気になりますね」
「会場に行けば見れるもき。だから、今は秘密もきよ〜」
皆が近くに集まってきた頃を見はかって、ヴァイスは先頭の機体のキャノピーを開けた。
「おおっ! すげー! これに似てるけど違うっていうことは、もっと凄い機体に違いないさ!」
「それは凄い…どんなレースになるんでしょうねぇ」
正風は期待に満ちた表情で言う。里見も興奮しているらしい、楽しげに言うと運転席を覗く。不動は感慨深げに機体を見つめていた。
これに乗って走れば、きっといいレースになるに違いない。ますます自分の為し得ようとしていることの大きさに胸を打たれていた。そしてその隣で無言のまま機体を見つめる聖。
「これに武彦は乗るデ〜スか?」
「すっごーい! ドロシィちゃんは感動なのっ! 武彦もこれに乗るの? ねー、乗るのォ?」
「わぁ〜〜〜〜、かっこいいですねぇ」
寒いのに春の空気を漂わせ、アリステア神父は憧憬の眼差しを機体に向けた。藤原神父も楽しげに見つめている。
「そこにいるとキャノピーが閉められないもき〜」
「あぁ、すまない…」
「早く乗って移動するもきよ。全自動だから、乗るだけで連れてってくれるもき」
「そうか! じゃあ、俺達もさっそく乗ることにするよ」
言うや、里見は隣の機体のキャノピーを開ける。そして、皆も乗り込み始めた。
(そういえば、吸血鬼も参加するみたいですけど…ヒルデガルドさんも会場にいるのでしょうか…)
セレスティは吸血鬼一族の美姫のことを思い出して、ふと微笑む。聖夜に魔界で吸血鬼の姫と逢うというのも中々に乙だと――そう感じた自分に苦笑するばかりだった。
●会場内にて
三十分ほど乗って着いた先は会場の外だった。
喩えて云うならば、巨大な陸上競技場のようなと言えばいいのだろうか。サーキット場にしてはコロッセオじみた造りのそこは立体サーキット場だったのだ。透明なチューブが入り組んだ様はジェットコースターのレールが上空に乗っかっているようにも見える。
「おやぁ? 灰色の壁に覆われているのかと思ってたんですけれど、意外に綺麗な所ですね〜」
ほえほえ〜っとアリステアは言った。
辺りは近代的な建物が立ち並び、道路や会場内で屋台やショップが建ち並んでいた。その反対側はクラシックな造りになっていて、優雅な衣装の人物達が音楽ホールでいうところのボックス席に該当する場所へと向かっていく。
「あ…」
「どうしました?」
「あれ…ヒルデガルドさんでは?…」
セレスティの声に一同が振り向くと、そこには白髪の美女がいた。闇色のコートとドレスを纏い、総レースのヴェールで顔を隠した女性は確かにヒルデガルド・ゼメルヴァイスだ。細いウエストをコルセットで更に締め、僅かに見える豊満な胸は陶器のように白い。細い首に幾重もの真珠のネックレスを下げていた。吸血鬼の姫には相応しい衣装だと感じる。
こちらの視線に気がついたのか、ヒルデガルドはこちらの方に歩いてきた。その度に柔らかな薄物のスカートが揺れる。
「おや、久しいな…」
「こんばんは、ヒルデガルドさん」
ユリウスは笑って手を振った。
その表情を見て、ふと笑みを浮かべ、彼女は歩いてくる。
「良い夜だな…聖夜だが。元気そうで何よりだ…先日は世話になった、礼を言う」
「いえ、お気になさらず」
「今日は大勢で参られたようだが」
「えぇ、皆さんは初めてのようですから、私は引率です。でも、皆さんは勇気がありますよ。初参加で初出場なんですから」
「ほう…。…そうか…それは楽しみだ」
ヒルデガルドはにこやかな笑顔を向けた。
「綺麗な人ですね〜〜」
アリステアは感心したように言って微笑んだ。
「そうか? それは嬉しいな。私の周りは怖がって誰も近付きはしないよ。今宵は良い殿方が多いと見ゆる」
ヒルデガルドはアリステアの頬を指先で撫でた。サテンの手袋のくすぐったい感覚にアリステアは意味もわからずに笑う。
実際、このメンバーは標準以上の容姿の人間ばかりだ。
「良い男ですか〜、嬉しいですね。ありがとう御座います」
「あぁ、良い男だ。可愛いな…」
満足そうに笑うと、ヒルデガルドはモーリスの方を見た。悪戯な視線にモーリスは「おや?」といったような表情をする。
「お前はミスター・カーニンガムの連れか?」
「はい、そうですよ」
「そうか…お前の主人はレースに出るのか?」
「いいえ、出るのは私ですが…何か?」
「ほうほう。…それは…大変だな」
「え?」
「まぁ、期待しているよ」
「勝ったら女神は微笑んでくれるんでしょうかね?」
「そうだな、勝ったら微笑む以上のことはしてやっても良いが…。まぁ…敢闘賞でも微笑んでやろう…では」
ニッと笑って去っていくヒルデガルドの姿を一同は見つめていた。
「勝てたらって、やっぱ…皆、凄腕ばっかりなのかもな」
正風の言葉に皆は考えた。それ聞いたシュラインは、塔乃院に『可能ならせめて武彦さんだけでも守ってね』とこっそり言い添えていた。
しかしそんな中、不動と聖の瞳の光だけが違っている事に誰もが気がつかなかった。無論、闘志を燃やしての事だ。最速の名を賭けて、今、熱い戦いが始まる。
●はじめに言葉ありき
一同は控え室に荷物を置くと、マシンを見に行く事にした。
さあ、どんな機体が待っているのか。心なしか鼓動が早くなるのを抑えて一同はピットに向かった。レギュレーションとコースを念入りに確認しながら、ユリウスに話し掛ける。
「K−2の『K』って何の意味だ?」
「え〜? 後でわかりますよ〜」
「魔界のレースに何で枢機卿が来てるんだ? 魔族狩りでもするのか?」
「いやいや、そんな剣呑な〜」
にっこりと笑ってユリウスは誤魔化した。
「どん機体なんでしょうね。レース前に少しだけ、バイクに乗せて頂けると嬉しいんですが…前は楽しむ、という状況ではありませんでしたしね」
「え?」
声を掛けられた塔乃院は思わず硬直した。
「軽くドライブでも、と思いまして」
「うっ……ま、まぁ…機体を見てからにしろ」
「??」
不思議そうにセレスティは塔乃院の顔を見上げていたが、塔乃院は皆をこっちだと言って連れて行く。そこにはさっきの機体と何ら変わりは無い黒い乗り物が置いてあった。
「これがそうなんですか…どんな構造になってるのかな♪」
里見はワクワクしているようで、機体の中を覗こうとしていた。期待が高まる中、整備スタッフがキャノピーを開けた。
皆が我先にと中を覗く。魔界製の軽く強いカーボンに守られた操縦席には最新のメーターがついている。今まで乗ってきた物との違いはないように見えた。
「どこが違うんだ?」
聖が覗きながら言ったその瞬間、隣で見ていた里見とドロシィが叫んだ。
「「あッ!」」
「え? 何デ〜スカ?」
ジュジュは何があったかわからなかったのか、皆と一緒になって里見達が見たものを覗こうと顔緒を近づけ…………
「「「「「「「「「「「「え!ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」
叫んだ。
「ぬわんじゃこりゃ〜〜〜〜〜!!」
「ちょ…ちょっと…これってアリなの??」
「えー、これって冗談デスカ〜?」
「これならドロシィちゃんも乗りたい〜」
「う、うそだ…」
「わあ、いいですね」
「わ、私は…てっきりバイクだと…」
「私もそう思ってましたよ、セレスティ様」
「こ、これか……くぅっ」
「これで走るんですか? わぁぁぁ♪(ぽわわん)」
「うーぬ、改造しきれれるのか?」
「じょ、冗談だと言ってくれ……」
口々に言う皆の隣で、知らなかった武彦は凍りつき、ユリウスは笑い出し、塔乃院は難しい顔をし、かわうそ?とヴァイスは我関せずでアイスを食べていた。
「俺がセレスティに頼まれて、YESと言えない訳がわかっただろう?」
「こ、これは…ちょっと」
如何なセレスティの願いとて、さすがにちょっと勘弁して欲しいと塔乃院は言った。
「そ…そうか。『K−2』って…キコキコのKのことだったのか…」
走る前から聖は燃え尽きてしまっている。それもそうだろう。最新のボディーと機器類を積んだマシーンの原動力が――足漕ぎだとは誰が想像できただろうか。
「レクチャーを受けるまでもないのか…」
ちょっぴり落ち込む正風たちの隣で、喜んでいるのはドロシィとアリステアだけだった。
嗚呼、冬の夜空に散った最速に賭ける男のロマン。
熱い戦い。迸る勇気。幻の歓声は遠く彼方に消え、切なく甘いソウルペインだけが心に残る。
かっこいい草間は何処か遠くのものと思い、涙を飲んで――諦めるわけが無かった。
こうなったら俄然、燃えるジュジュだ。足で漕いでようが、キャノピーを閉めてしまえばそんな姿は見えない。
(武彦には、是非とも勝ってもらうDEATHヨ☆)
別な意味で戦う女がここにいた。優勝候補者に賭けて大枚を稼ぎ、賞品もいただく。そして颯爽と走り抜ける武彦を見るのだ。
だがしかし、ここに最大の難関が待ち受けていることを、ジュジュは知らなかった。
●戦え、K―2マシングランプリ
落ち込む一同を尻目に、セレスティは塔乃院やヒルデガルドと一緒にボックス席で寛いでいた。暖房が入ったその場所は冬でも暖かく、オープンカフェのような雰囲気だ。
「なかなかに良い席ですね」
そんなことを言いながら、持参したティーセットで紅茶を飲んでいた。
「ヒルデガルドさんは知っていたんですね…」
「当然だろう、ミスター?」
「貴女も悪い女(ひと)だ」
それを聞いてもヒルデガルドはにこりと笑うだけだ。
「セレスティ…それでも、お前は部下をレースに出場させるんだな」
「折角ですから♪」
「…………」
見目麗しい笑顔で言われ、塔乃院は深い溜息を付いた。
一方、機体の整備が終わったモーリスは状況を楽しんでいた。バイクでも車でも無いなら、遊びのようなものだ。少々、汗はかくかもしれないが問題は無い。さっさと終わらせて、セレスティや塔乃院のいるティーパーティーに混ざりたいとモーリスは思っていた。
その隣でアリステア神父と藤原神父コンビは楽しげに整備している。アリステアの方はノリノリで、レースを今か今かと待ち望んでいた。藤原神父は呪具を製作する技術をフルに使い、機体を仕上げていく。神聖なる銀やセフィロトの印呪をこっそりと機体に掘り込む。中々に装飾のきいた美しいボディーに仕上がっていった。
「なにぶん場所が場所ですので、妨害は必ずあるでしょうから、封印具をピアスと指輪とクルス以外ははずして、開放率50%で参りましょう」
「おおっ、本気モードだな」
「いいえ〜、そんなことは無いですよ。完全解放なんて出来ませんし。触れている間は多少の傷なら自動的に再生されますから心配は無いと思いますけど」
「アリステア神父の力に耐え切れるように強化しておいたし、ブースターによるスピードアップはお約束だな」
「わぁ〜〜、そんなに改造したんですか」
わくわくと楽しげに言うアリステア神父に藤原神父は頷き返す。
「ついでに聖水の水鉄砲、呪具による神聖結界発動装置も設置しておいたが……アリステアはどうせあまり戦いたがらないじゃろうから、ボタンとかの操作はわし担当でな」
ウィンクなどして藤原神父は笑った。
「ユリウス猊下も出場するようだからの。念のため、ウォーハンマーも積んで行っとくかの」
「そんな接戦になるほどのスピードは出るんでしょうかね??」
「さぁな〜。まあ、アリステアの力制御の修業にも丁度良かろうて」
いかにも全開で行けといわんばかりの藤原神父の言葉に、アリステア神父の方も素直に頷いていた。
「正々堂々と、スポーツマンシップに乗っ取ってですね〜♪」
まるで運動会に出場するかのような様子だ。
そんなみんなの様子を、武彦・シュライン・ジュジュ・ドロシィ・里見・零の6人が観戦席で見ている。会場では日頃来ない場所でもあることもあり、シュラインはユリウスにマナーとかを聞いて大人しくしていた。危険そうな事や席位置を確認し、その席から離れた所に席を陣取ることにしようかと思っていたのだが、ヒルデガルドたちのいるボックス席が一番安全だろうという事で移動を決定した。
ドロシィと零が屋台で「名物魔界焼き」なるあやしいお好み焼きを勝ってくるのを待って席を移動する。その間を縫って、ジュジュはレースの予想で他の客と賭けをしていた。
ドロシィはファンタジーが大好きらしく盛んに写真を取り捲るた。学校でオカルト研究会に所属しているようで、あたり一面異能者しかいないので彼女は興奮していた。大いに盛り上がり、魔物たちとツーショットを零に撮ってもらっていたのだ。
見るからに魔界人らしい異形の姿や、人間と変わらない者などがいてドロシィは興奮冷め遣らぬようで、ずっと喋りっぱなしでいる。
ジュジュは武彦をレースに出場させようとしていたのだが、その現場を塔乃院に見つかってしまった。塔乃院に「その悪魔の魂ごと食うぞ」と脅され、ジュジュはあえなく断念する事となった。
魔界の人間が興奮しているだろうから、下手にうろついて刺激しないよう武彦達とかたまっているのがベストだとシュラインは思っていた。
席ではサーキット形状等を見て選手達の乗物も興味深げに観察する。
「新しい出場者が現れたんだって〜よォ」
「マジっすかァ! ファッキーン〜〜〜、アーンビリ〜バボバボーだぜい。人間だろう?」
「そうだぜ、同志。全くもって超マジ、ショックだよなあ」
「自殺願望者って感じィ?」
「ってーかヨ。神父がいるってよ」
「何ィ! 食え、食っちまえ!」
「俺、見たぜ。整備のじじいはどーでもいいけどよ〜。ドライバーの二人は美味そうだったぜ」
「何?? 俺、食イタイ」
「俺もー、俺もー! 何か柔らかそうだったぜ」
「うおッ、本当かよ! 神父って節制してるから血が綺麗で美味いんだよな〜。あー、喉を潤したい……」
「「…………」」
周囲の詳しそうな魔界の見学者達の会話を耳に入れて、選手達やマシンの特性等の把握をしようと思っていたらそんな声が聞こえてきた。武彦とシュラインは凍りつく。
(さ…さすが会話が魔界…)
「アリステアとユリウスは甘いものばっかり食べてるから、きっと血の方はどろどろのはずもき」
魔界人の会話を聞いてヴァイスはさらりと言ってのけた。
「まったく…こんなことだから一般人は困るもきね」
呆れたように言うと、ヴァイスはそいつらを無視して歩き始める。
「武彦、シュライン姐ちゃん行くもきよ。こんなところにいたら本当に食われるもき」
「そ、そうね…」
「あぁ、行くか」
こっそりと二人はその場を離れた。
●キコキコマシーン猛レース
皆が着席し、レーサー達が配置に着いた時は夜の一時を過ぎていた。
新規参入者の登場のためとアナウンスがあったので、観客達が騒ぎ出す事は無かったが、それでも秘した興奮は隠せないようで、あちこちで小競り合いがあったという。
巨大なサーキットホールに一列に並んだ機体に乗り込み、皆は戦いの時を待っている。
ピッピッ……
秒読みの音が響く。
バサッ!
その旗の振る姿が見えた瞬間、並んだ機体は加速していった。
「これが俺のマシン…行くぜ相棒!!」
正風は叫ぶと猛烈ダッショをかける。仙術気功拳法を使う気法拳士の正風は気功を使い、疲れを最大限に抑える術を使った。同時に気を送り込んでいく。
この機体は魔力などを原動力に変え、重いぺダルを軽くする仕組みになっているのだった。力が大きければ、それに比例して走りやすくなっていく。
正風向きの競技と言えた。しかし、他の参加者も負けてはいない。
モナコマイスターと讃えられ、音速の貴公子と呼ばれたF1パイロットを降霊してレースに参戦する不動は最大の強敵だった。
ワールドチャンピオン3回(88年,90年,91年)。出走回数161回、優勝41回。生涯得点614点、ポールポジション65回〔歴代 1位〕、ファステストラップ19回を記録しサンマリノのイモラサーキットに散った人類史上最高のドライバー。
世界のセナだ。
(俺が勝ちたいんじゃない。音速の貴公子のサーキットでやり残した思いを遂げさせてやりたいだけだ…)
心の中で不動は呟いた。
不動はファンとして、あの勇姿をもう一度見たいと思って参戦したのだ。このマシンは足漕ぎだと言うところが『超』最大の難点だが、この際、文句は言えまい。
(俺は今、音速の男と一体なんだ!!!!!!)
そう言う思いだけで不動は走っているのだった。
しかし、足のほうだけはどうにもならないので、韋駄天を足だけに降臨させ、その脚力で走っているのだった。
(僕たちはいつも限界で闘っている。マシンも人間もだ。 それがモータースポーツでありF1なんだ)
そんな走ることに純粋だった男の魂を胸に、ひたすら不動は漕ぎつづけた。
「うォォォォォォォッ!!!!」
聖は魔術結社「アヴァロンの園」の生き残りと契約して貸与された魔法銃『ラウズブラスター』を機体に組み込んでいた。何かあったら分離できるように、手元辺りに直結してもらっている。
「くおおおおっ!」
自分の漕ぐ力にラウズブラスターの力を乗せて、聖はガンガン漕いでいった。ぶつかってくる機体にはすかさず銃を抜いて魔法カードを読み込ませ、相手を打ち抜いていく。
やられた相手は火も使っていないのに、爆音を上げて炎上していった。
(お、俺は…何もしていないぞ?)
さすがに眉間に皺を寄せたが、それでも聖が走りを辞めることは無い。
一方、アリステアはキーコキーコと暢気に漕いでいた。
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜、楽しいですね〜〜〜〜♪」(ぽわわん☆)
50%解放した巨大な癒しの能力を使って疲労回復をし、その力を転用して漕いでいるのだ。力が巨大すぎて、本人の漕ぐ力はそれほど多く使っていなかった。
「「「「「「「「「「「「やい、そこの神父! 俺様(たち)に食われろ!」」」」」」」」」」」
「え? 嫌ですよ〜〜〜」
追いかけてきた小悪魔がアリステアの機体に自分の機体をぶつけてくる。そいつは他の仲間を使ってアリステアを攻撃しようとしているのだった。
「食らえ!!」
その瞬間、ボタンを制御していた藤原神父が聖水鉄砲は発射する。その刹那、小悪魔軍団は悲鳴を上げた。
「「「「「「「「「「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」」」」」」」」」」」
「おやおや、大丈夫ですか?」
「「「「「「「「「「「てめぇ、憶えとけよォ!!」」」」」」」」」」
「いやですってばぁ〜」
きこきこきこきこ。
それでもアリステアは走るのをやめなかった。
そして、ぶつかって巨大なチューブ状の立体サーキット内を転がるそのマシンに吸引されるかのように、里見はふらふらっと小悪魔たちの機体に近付いていってしまっている。
「あ、あれ?」
憑依というべきか、融合合体というべきか。里見はその機体と合体し、マシンが壁に激突する前にマシンを人型のロボットに変形させてしまった。
「ブレイブセーット! 高速勇者マッハレオ〜〜〜〜〜〜ン!」
そして、マシンパイロットを手に掴んでジャンプし、コースの外に着地する。
「大丈夫ですか? 私は宇宙から平和を守るために来た勇者です」
「は? てめぇ、何言ってやがる。お前、幽霊じゃんか」
「いえいえ、そんな者ではありません。俺は高速勇者マッハレオン。あなた方、弱い者の味方です」
「ばっきゃーろー! 弱かねーよ!」
「お怪我をなさっています。俺が代わりに走りましょう」
「な、何っ?」
「では。……とーぅ!!!」
マッハレオンこと里見・勇介は、ジャンプすると人型ロボットきこきこマシーンに乗り込む。
「加速、加速、加速〜〜〜〜〜〜ゥ!!! ハイパー・ブレイブ・ダァ〜〜〜〜〜ッシュ!!!」
強烈なマッハレオンのキック力に、マシーンが一気に加速した。猛然と走り出したマッハレオンの足元にはタイヤが何故かついていて、ローラースケートのように走っているのだ。
実況中継中の魔界テレビ局レポーターは大喜びでカメラを向ける。
『おおっとォ! いきなり登場か、マッハレオーン! リタイヤ組の支持を受けて今、猛然と走る走る走るゥ! 形状は違うがモーマンタイ! タイヤついてりゃなんでもOK! 今宵もヴァイオレンスジャンキーどもには嬉しいハプニングがやってきたァ!!!!』
その放送を聞いて、正風は俄然やる気を出してきた。
「俺だって負けてねーよ! オラオラオラァ!!」
「くッ! やって……やるぜぇっ!!」
聖も走りに対する熱い情熱を燃やして必死で漕いだ。こうなったら、普通のマシーンだろうが、そうでなかろうが関係無い。走っているのだから、自分は全力を出さねばならないのだ。
「レオ〜ン號、號、號ゥゥゥゥゥゥッ!!!
「俺が……勝つ!」
不動の方も負けてはいない。さすが音速の男。死して尚、走りを求めるか。
「もけっ!もけけけけけけけけけけけけけけけ、もけ〜〜〜〜〜〜っ!」
『お〜〜〜〜っとォ! 前々回優勝者のヴァイス選手! 今回も登場かァ? あんたも好きね〜☆』
「もけっ!もけーッ!」
「どけ、ナマモノッ!」
「ラウズブラスター・ハイパー・オンッ!! カードで加速度アップ!」
「あははははっ♪ 皆で一並びですねぇ〜」
「わっ! ユリウスさん、貴方は邪魔です」
「ヒドイですねぇ、モーリスさん」
「甘いもの神父、どけもき〜〜〜!」
「それを言ったら、私も甘いもの神父ですう」
「だったら、アリステアも退けもきよ!」
「じゃぁ…………ユリウス様。はい、シュークリームっ♪」
キャノピーを開けると、アリステアはシュークリームをポイポイと投げた。それにつられてユリウスはコースを外れていった。
「あぁぁぁぁっ! シュークリーム〜〜〜〜ッ♪ あああああッ!!!!!」
「作戦成功です☆」(ぽわわん)
「お前が本当に悪魔もき〜!」
『天使の笑顔に悪魔の所業。今宵のレースに相応しいぜ! なんてBADな神父なんだ! アイラビューだぜ、ビューティフル神父ゥ!』
放送席も宴会たけなわ。大盛り上がりだ。その放送を聞いてアリステアは「何で?」と小首を傾げていた。
「ほォォォォゥ〜〜〜〜〜〜、おあたたたたたたたた、おわったァ!」
ゴール寸前一直線。
「「「「「「見えたァ〜〜〜〜!」」」」」」
『ゴールッ!』
バサリと旗が振られる音がする。
次第に機体は速度を落とし、皆はピット前で自然に止まった。
「はぁ…はぁ。なんて…ハード…なん…だ…」
聖はぐったりしながら背もたれに寄りかかる。
「あー、楽しかったです♪」
「くッ。こんなの…ありかよ。…あ、足が…痛ぇ」
「筋肉痛ですね…それ」
モーリスは何事も無かったかのように言って笑った。
「うご…動けな…い…」
「き、筋肉がぁ…」
「日頃の鍛え方が悪いもきよ」
「人外に言われたく…ねー…よ」
仕方なくモーリスとアリステアはキャノピーを開けて立ち上がり、外に出て立ち上がれない皆を助け起こす。
『おおう。勝者たちが、今、顔を見せています! イエーイ! てめえの神にハレルヤだぜ、チクショウ。最高だ、ビューティフル神父ゥ!』
「ありがとうございますっ♪」
『超ナイスだ、ひゃっはァ!』
そう言うなり、コメンテーターたちは昇天してしまった。天上から燦々と光が射してきてホールを照らす。次々に感動した観客が天国に向かって昇天していった。
「え?」
「なにこれ?」
武彦とシュラインは目を瞬かせてその光景を見つめた。
きらめく光に包まれて、化け物たちが天国へと登る。綺麗に浄化された魂たちは神の元にいくらしい。
「わぁ、綺麗ですねえ」(ぽわわん☆)
自分が原因だとは知らずに、アリステアは暢気に感動していた。
ボックス席の方では、その光景をヒルデガルドたちも見ていた。彼女は光が見えても何ともないようだった。どちらかと言うと、楽しそうに笑って見ていた。
不動の体から音速の男が離れる。
その男の魂は不動と対峙していた。
(ありがとう)
「いや…見たかったんだ」
(そうか…ナイスな走りだったよ)
「走ったのは貴方だ」
(いいや…君の人生という走りに乗って走っただけさ。この世で最も最高のレーサーは走らない者だよ。確実に生きて最後まで走りとおす。F1レーサーは路上で死ぬからね。最後まで走れない…)
「そうか…」
(一番早いランナーが勝つとは限らない。最後まで、君の最高の走りを見せてくれ…)
そう言うと、音速の貴公子は天へと還っていった。
何体もの魔界人や霊が昇天していくのを皆は何時までも見つめる。それは天に昇っていく雪のようにも見えた。
■END■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0391 /雪ノ下・正風/男/22歳/オカルト作家
0585/ジュジュ・ミュージー/女/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
0592/ドロシィ・夢霧/女/13歳/聖クリスチナ学園中等部学生(1年生)
1883 /セレスティ・カーニンガム/男/725歳/ 財閥総帥・占い師・水霊使い
2318 /モーリス・ラジアル/男/527歳/ガードナー・医師・調和者
2352/里見・勇介/男/20歳/幽者
2592/不動・修羅/男/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師
3002/アリステア・ラグモンド/男/21歳/神父(癒しの御手)
4214/藤原・浩司/男/56歳/教会主任司祭・呪具技師
4464/聖・武威/男/24歳/レーサー/よろず屋
(PC整理番号順)
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは、朧月幻尉で御座います。
皆様、今年もあと僅かになりましたがいかがお過ごしでしょうか?
K―2マシングランプリにご参加いただき、誠にありがとう御座います。
『K−2の意味は何ですか?』と、質問される事が多かったのですが、実はそういう意味だったのです。
そして、次に多かった質問は『どんな乗り物ですか?』…でした。
これにもお答えすることが出来ませんでしたが、文中に思う存分書かせていただいております。
す、すみません…恰好良い武彦さんは見たいんですけども。
流石にオフィシャルのNPCをここでK−2に乗せて弄るのは勇気が無くって(><)
申し訳ありません〜〜〜〜!(土下座割腹ひでぶーっ)
今年最後の締めくくりとして、主要NPCの大半を出させていただきました。
それではまたお会いできます事を願って
朧月幻尉 拝
|
|
|