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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


調査コードネーム:Merry Merry ☆ Christmas!
執筆ライター  :階アトリ
調査組織名   :界鏡現象〜異界〜
募集予定人数  :1人〜

------<オープニング>--------------------------------------

 八束ケミカル本社ビル屋上。
 冬の足音も近付いてきて、寒風吹きすさぶ季節となっては、サボりの社員すらやって来ない場所であった。
 その片隅に、小さな稲荷社がある。
 社の主、稲荷ノ・椿(いなりの・つばき)は、今日もやはり飲んでいた。
「あんな、神社で『アレ』をやったらアカンちゅう法律はないやろ?」
「そらまあ、ありませんわなあ」
 力説する椿に、八束・山星(はちづか・やまぼし)が頷く。
「な? そやろ? やから、やろうや」
 盃の底に残った白い酒をちびりと舐めて、椿はにんやりと笑った。このバカ稲荷は、一旦やると言ったらやるまで聞かない。
「……ええですけど」
 椿の盃に徳利を傾けてやりながら、山星は溜息を吐く。
「義兄上、クリスマスって何なんか、わかっとるんですか?」
「そら、皆で肴囲んで酒飲んで騒ぐお祭りやろー?」
 正解ではないが、現代日本においてはあながち不正解とも言えない答えが返ってきた。酒飲んで、のところに妙な力がこもっているのが気になるが。
 秋祭りも終わり、年始までは神社にこれといった行事はない――山星には、椿の考えが手に取るようにわかった。
「要は、正月まで待たれへん、と?」
「そうや。悪いか。理由なんぞなんでもええから、ワシは宴会やりたいんや! 派手ーに、どんちゃん騒ぎがしたいんじゃ!!」
 力説してから、椿はぎゅーっと盃を呷る。
「下戸と膝つき合わせて飲んどっても、ちーともオモロないわい」
 ぷは、と酒気交じりの息を吐き、椿は唇を尖らせた。
 酒の入った徳利の隣に、ペットボトルが一本立っている。中身は乳酸飲料。白く濁った色合いは椿の飲んでいる酒に似ているが、もちろん、アルコール濃度は0である。
「……すんませんな」
 肩を竦めて、山星は自分の盃にペットボトルを傾けた。


 そんなこんなで、話はなんとなくまとまってしまった。
 以下、各方面に出された告知である。


『クリスマスパーティーを開催します。
 
 日時:2004年 12月 22日  17:00〜 日付変更時までには解散予定
 
 場所:八束ケミカル本社ビル屋上(防寒対策を忘れずに)
 
 内容:立食式パーティーです。ケーキつき。
    アルコール、ソフトドリンク完備。
    特設ステージあり。飛び入りで一芸披露、大歓迎。

 参加費など:飲食費無料。
       各自、交換用のプレゼントのみ用意ください。(上限5000円)
    
 社員・関係者以外の参加者様も広く募集中。ふるって御参加ください』
 

 
------<いざ、開宴>------------------------------


 当日。
 人の集まり具合がとても心配された「神社の真ん前でクリスマス」という企画だったが、有り難くも意外なことに盛況となった。
 屋上には沢山の人が集まっている。そのほとんどは社員だが、一般客もちらほら混じっているようだ。
 会場全体の雰囲気にあわせ、稲荷神社の周囲にもクリスマスらしい飾り付けが施されている。
 空から夕日の色が消えると、鎮守の森の木々に施された電飾が灯った。赤い鳥居の上にはリースが掛けられ、社の賽銭箱の両脇には星を飾ったツリーが置かれ、クリスマスムードを(少々強引に)盛り上げている。
 ビュッフェテーブルにはオードブル類が並び、暖かい料理を出す模擬店からは食欲をそそる湯気が漂ってくる。バーテンダーの居るカウンターまでついた、それはほどんどバーだろうと言いたくなるようなドリンクコーナーも準備万端だ。
「皆々様、本日はお寒い中、お運びありがとうございます」
 開宴の時間を迎えて、中央に据えられた円形舞台の上に今夜のホストである山星が立つ。和服、袴に、真っ赤なサンタ帽子という微妙なコーディネートだ。
「今年ももうすぐ終わり、ちゅうことで、一年間の慰労の意味も込めて、この場を儲けさせて頂きました。えー、細かいことは考えんと、飲んで食べて、楽しんで帰っていただけましたれば、幸いです。ほな」
 一礼すると、山星はシャンパングラスを掲げた。
 会場の全員の手に手に、同じグラスが行き渡っている。中身は当然、大人にはシャンパン、アルコールが苦手な人や子供にはノンアルコールだ。
「乾杯」
 かんぱーい。山星の音頭に続く唱和の後、グラスを合わせあう涼しい音があちらこちらから響く。歓談の時間の始まりだった。
「暗くなってみると、思うほど違和感はないのね。鳥居が見えるのが不思議な感じだけど。ねえ、武彦さん」
 周囲を見回してから、シュライン・エマは同行者を振り向いた。
「ふーん。結構、良い酒を出すじゃないか」
 草間・武彦(くさま・たけひこ)はというと、シャンパングラスを干して舌鼓を打っている。飲食の料金が只だから、とシュラインに誘われてやってきた彼としては、会場の様子などにはあまり興味がないらしい。
「いいなあ、お兄さん。私もそっちが飲んでみたかったのに……」
 同じくシュラインに誘われて来た草間・零(くさま・れい)は、自分のグラスで弾ける甘い炭酸飲料に、少しつまらなそうに唇を尖らせている。実年齢はどうあれ、未成年にしか見えないため、シャンパンは渡してもらえなかったのだ。
「よし。折角だ、まずは思う存分タダ酒を頂いて来るとするか」
 つまみになりそうなオードブルをいくらか皿に取り、草間は酒瓶の並んだカウンターへと爪先を向ける。飲む気満々の彼に、シュラインはドリンク剤の瓶を差し出した。飲み食いの前に胃粘膜を保護するタイプの胃薬である。
「……飲み過ぎないようにね」
 にっこりと釘を刺すシュラインに送り出されて、草間はドリンクコーナーへと向かった。
 ちょうど最初の一杯を飲み終える頃合なのか、カウンターの周辺は若干人口密度が上がっている。
「きゃっ」
 暖かい飲み物を持った手許に気を取られていた羽雄東・彩芽(はゆさき・あやめ)は、草間と正面からぶつかった。
「す、す、すみません! あの、あの。熱いの、か、かかりませんでしたか?」
 カップの中身がかなり減っているのを見て、彩芽はあたふたと、ポケットからハンカチを探り出す。
 いや、と草間は頭を振った。
「こっちは何ともない。お嬢さんこそ大丈夫なのか?」
「は、はい。すみませんでした」
 幸いにも、零れたお茶のほとんどは下に落ちたようだ。会釈して、 彩芽はそそくさとその場から離れた。
「ふぅ……こんなに人が多いと、やっぱり緊張しますね」
 いくらか料理も取り、すみっこのテーブル席に落ち着いて、彩芽は呟きを漏らした。
 沢山の人間が行き交う会場の中で、一人でいるのは心細い。家族の誰かについてきてもらえばよかった――ちらりと思ってしまったことを振り払うように、ふるふると頭を振る。
 人と接するのが苦手。そんな弱点を克服しようと、彼女は日々努力している。今日ここにやってきたのも、その一環だった。
 少しでも外に出て、自分の勇気を試してみたい。楽しむ勇気を持ちたい。
 そう思って来たのだから、頑張らなければ。ひっそりと、しかし強く、彩芽が拳を握った時。
「こんばんは。相席、よろしいですか?」
 声がかかった。早速チャンスだ。
「もちろん、どうぞ!」
 精一杯の笑顔で、彩芽は面を上げた。涼やかな少女の声が返ってくる。
「ありがとうございます、失礼します。……あっ。お久しぶりです、彩芽さん」
「……? まあ! お久しぶりです!」
 名前を呼ばれ、彩芽は目を瞬いたが、ややあって顔を輝かせた。
 お皿と飲み物を持ってそこに立っていたのが、知り合いである海原・みなも(うなばら・みなも)だと気付くのに少し時間がかかった原因は、衣装にある。
 まず、みなもは赤に白のホワホワのついたサンタ服を着ていた。それだけでなく、その下はお馬さんの全身タイツ。サンタ帽からは、馬耳とたてがみがはみ出ている。独創的な仮装だが、キリスト生誕は厩舎だということで、クリスマス的には外していない、と言えなくもないだろう。
「可愛らしいお召し物ですね。暖かそうですし」
「ありがとうございます。お姉様にお借りして来たんです。でも、ここ、思ったより暖かくて。少し暑いです」
「そういえば、風があまりないですよね。私も、マフラー要らないくらいかも……」
 席についたみなもと、カナッペなどつまみながら談笑し、彩芽はふと自分のマフラーに目を落とした。
「あら……」
 裾近くの部分に茶色い染みを見つけて、小さく声を上げる。紅茶の色だ。さっき草間とぶつかった時は気付かなかったが、被っていたらしい。
「それ、今飲んでいらっしゃる紅茶ですか? だったら、無糖の炭酸水を含ませた布で、上から叩くと良いんですよ」
 お気に入りなのに、と落ち込みかけたところを、みなもの明るい言葉に救われる。
「そうなのですか? 家に帰ってから、やってみます」
 自然に笑顔になれたことに、彩芽は自分で少し驚いた。来て良かった。マフラーが助かるかもしれないということよりも、彩芽にはみなもとの会話が嬉しい。
「あ。何か新しいお料理が出てきたみたいですよ。取ってきますね!」
 みなもが席を立った。
 中央のテーブルで、七面鳥の丸焼きが湯気を立てている。切り分けられるのを待って、軽く人だかりができていた。お皿を持って、みなももそこに混じる。パリパリに焼けた皮にナイフが入ると、スパイスの良い香りが漂ってきた。
 みなもをはじめ、誰もが期待に目を細める。それを見計らったように、物陰から黒い影が飛び出してきた。
「悪い子はいねがー!!」
 蓑に桶に鬼面のナマハゲがテーブルに走り寄ってきて、うがー、と両腕を上げる。悲鳴が上がり、人の輪が外に散った。至近距離でナマハゲを見た給仕の女性に至っては、その場から逃げ出してしまっている。
「げっ。すまん、脅かしすぎたか!?」
 あまりの驚かれように、あわてて面を外したのは、菱・賢(ひし・まさる)。突然の襲撃を狙って、ナマハゲ姿で会場に潜んでいたらしい彼に、周囲の注目が集まった。
 ローストターキー……。手に手に皿を持った全ての目が、そう言っている。
「菱賢、責任持って、切らせて頂きますっ」
 逃げた給仕さんの代わりに、賢はナイフを取った。
 高校生にして、僧侶の彼が、クリスマス行事に顔を出したのは久々のことだった。食事と、素敵な出会いを求め、気合を入れて望んだというのに、最初の仕事が七面鳥のカット作業とは。
 とほほ、と肩を落としつつ、賢は差し出される皿に次々と肉を乗せていった。大皿が、たちまちのうちに鳥の骨だけを残して空になってゆく。
「あっ、それ、俺の……」
 人もいなくなり、これは自分でもらってやろうと思っていた最後の一切れを、ひょいと横から取られて、賢は思わず声を上げた。
「何よ?」
 皿を片手に、黒髪の少女が唇を尖らせる。これが、伊吹・孝子(いぶき・たかこ)でなかったら、中々素敵な出会いであったかもしれないのだが。
「……って! こんなとこに何しに来てやがる、てめぇ!」
「なっ、何よ! タダだって言うから飲み食いしに来ただけよ、悪い!?」
 相手を認めるなり、賢と孝子は眉を逆立てて睨み合った。お互いに良い思い出を持っていないのである。
「妙なことしやがったら叩き出してやるからな!」
「利益もないのに、ムダに他人を困らせて喜ぶほどヒマじゃないわよ!」
 覚悟しろ、と熱血丸出しで人差し指を突きつける賢からプイと目を逸らし、孝子は会場の人込みの中に戻った。白狐のシロウが、そわそわと、その足元にまとわりつく。
「孝子、孝子、いい匂いだな。俺もそのトリ欲しいなー」
「一切れしかないのよ?」
 にべもなく言って、孝子は一口で頬張ってしまった。半分こしようとか、少し分けてやろうとか、そういう心遣いはゼロである。切なげに、シロウは鼻を鳴らした。
 たまには、あれくらい優しくされてみたい……。そんなことを思う、シロウの視線の先には、初瀬・日和(はつせ・ひより)が居る。
「テーブルの上に乗っちゃ駄目よ」
 膝の上で頭を撫でられて、銀色の獣がキュウと小さく鳴いた。日和の飼っている霊獣、イヅナの末葉(うらは)である。末葉は日和の言うことを良く聞くが、子狐めいた外見に違わず、少々落ち着きに欠けるのが珠に傷だった。
「白露(しらつゆ)を見習って、いい子にしてね?」
 椅子に座った日和の足下で、行儀良く四足を揃えているもう一匹のイヅナが、ケン、と誇らしげに鳴く。末葉と毛色は同じだが、こちらは体が大きく、精悍な雰囲気だ。
「ったく、白露の奴。一体誰が飼い主だと思ってんだよ」
 その光景を向かいで見ながら、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)はぼそりと呟く。
 屋上で開かれるという、ちょっと妙な感じのクリスマスパーティーに、行きたいと言い出したのは日和だった。白露も行きたがったのは、間違いなく、日和が一緒だからだと、悠宇は確信している。日和が一緒だと、本来の飼い主である悠宇を無視する勢いで、白露は彼女になつきまくるのだ。現に今も、日和に手ずからチキンをもらいながら、嬉しそうに尻尾を振っている。
「いいけどな、別に……」
 末葉にもチキンをせがまれる日和を眺め、悠宇は目を細めた。今日の日和の服装は白で統一されている。細身の黒いコートをはじめ、全体を黒でまとめてきた悠宇と、偶然だが対になっているような雰囲気だった。白いコートは薄く薔薇色を帯びた頬を際立てているし、白いファーの耳当ても黒髪によく似合う。
「ね、悠宇くん。何かお料理、取って来ようか?」
「俺が行くよ」
 チキンやサンドイッチを二人と二匹で数種類平らげた後だったが、まだまだ胃袋には余裕がある。日和を制して、悠宇は立ち上がった。
 少し席から離れてから、ちらと振り返ると、夜景を背に日和が手を振ってくる。なにやら照れ臭くなって、悠宇は慌てて前を向いた。
 模擬店には、パスタやピザを出す洋風のものの他、ぐっと和風におでん屋台などもあるようだ。暖かい湯気に惹かれて、悠宇はそちらに向かった。
 そろそろ、ほろ酔い加減の人もちらほら居るようだ。前に居る女性の手許が危うい……?と思っていたら、屋台の小父さんから受け取ったばかりの皿を、悠宇の目の前でひっくり返した。おでんの大根、卵、コンニャクが落下する――と思いきや。
「ハッ!」
 ロングコートを靡かせ、マイお箸を手に疾風のように現われたシオン・レ・ハイが、三種のおでんを全て空中キャッチした。湯気をたてるおでんの乗った皿を片手に、シュタ、ときれいに片膝をついたシオンに、周囲から拍手が上がる。
「食べ物を粗末にはできません……!」
 電光石火の早業は、ひとえに、彼が日頃から培っている貧乏精神故に発揮されたものである。
「これ、私が頂いておきますね」
 おでんの元の持ち主である女性にスマートに断わりを入れてから、シオンはその場を去った。翻る、彼のコートの材質はカシミア(買わされた)。衣食住、の衣部分にかける金銭と、食部分にかける金銭のバランスが、気の毒なほど悪い男……。
 大根を箸で崩し、そのやわらかさと煮汁の染み具合に、シオンはほんのり幸せそうだ。あーん、と口をあけたところで、ふと、下方からの視線に気付き、シオンは箸を止めてそちらを見た。
「こんにちはなのー!」
 ぺこり。元気な挨拶と共に、藤井・蘭(ふじい・らん)はシオンに向かってお辞儀をした。グレーのコートの背中で、クマのリュックもぴょこりと跳ねる。
「こんにちは。……あの、私の顔、何かついてます?」
 きらきらと、シオンを見上げる蘭の瞳は、何やら期待に輝いている。
「みじかくて白くないけど、おヒゲなのー」
「はあ、確かにこれはおヒゲですが……」
 じゃあ長くて白いと何なのだ、と顎を撫でながら一瞬考え、シオンはポンと手を打った。
「ひょっとして、サンタさんを探していらっしゃる?」
「いらっしゃるのー! あさってになったら、おヒゲ、白くてながくなる?」
 きらきら。純粋な期待に輝く瞳に射抜かれて、シオンは唸った。
「残念ながら、私はサンタさんでは……」
 考えた末、シオンは手近なテーブルから割り箸を取った。
「でも、このおでんを差し上げます」
「わーい! ありがとうなのー! マンガのおでんみたいなのー♪」
 割り箸におでんの卵とコンニャクを刺したものを手渡されて、なにはともあれ蘭は大喜びである。


------<宴もたけなわ>------------------------------


 そろそろ皆の腹がくちてきた頃合。中央の特設ステージでは、一芸披露大会が始まっている。拍手が起きたりブーイングが起きたり、屋上は益々賑やかだ。
「やっぱり、ええなあ、祭は」
 賽銭箱の脇に腰掛けてパーティーの様子を眺めながら、椿稲荷は満足げに目を細めた。
「それに、異国の祭は、飾りがハイカラでええなあ」
 日和に貰ったミニリースとミニツリーを抱えて、椿はすっかりご満悦だ。
「ええと、クリスマスというのはですね、イエス・キリストの誕生を祝う日で……」
「? そやから、お祭やろ?」
 日和はと言うと、よくわかっていない様子の椿と向き合って、クリスマスとは何かを説明するのに一生懸命なのだが、いまひとつ通じていない。
「目出度いお誕生の祝いやったら、どんだけ派手にやってもええもんやわなあ」
「あの、ですから……イエス様は、人々に愛を説いた異教の先人で……」
「ほうかほうか」
 聞いているのかいないのか、椿は盃を傾けるのに忙しい。
「まあ、こうやってわいわい楽しんでると、争いとか嫌な事忘れられていいよな。それもまた、愛を説いた誰かさんは許してくれる気がするよ。宗派の違いを超えて」
 日和を慰めるように、後で見ていた悠宇が言った。
「左様左様」
 椿はやはり、わかっているのかいないのか。いつもの神酒徳利の他、今日はありったけ運んできたカクテルやワインや日本酒が賽銭箱の周囲に並んでいる。
 ワインはともかく、カクテルや酎ハイは、見た目も味もジュースとさほど変わらない。喋り疲れた日和が、何気なくグラスの中の一つに手を出してしまったのも仕方がなかった。
「日和!」
 悠宇が慌てて止めたが遅く、日和は酎ハイを半分ほど空にしている。
「……悠宇くん……どうしよう、眠い……」
「おい!? こんなとこで寝るなって!」
 しばらくしてアルコールの回った日和に、すがりつかれて嬉しいやら困るやら。そこへ毛布が差し出された。悠宇が顔を上げると、シュラインだ。
「良かったら使って。少し寝かせてあげなさい。お水かお茶を飲ませてあげるのを忘れないでね」
 防寒用の毛布まで用意していたあたり、流石に大人の女はソツがなかった。
「お。エマ殿か。久しいのォ」
 ひらひらと手を振る椿には神威のしの字もなく、霊験は相変わらず怪しかったが、シュラインは賽銭箱に硬貨を投げ込んだ。鈴を鳴らし、手を合わせて祈るは、もちろん興信所の商売繁盛である。
「こんばんは。シュラインさんもいらしてたんですね」
 次に現われたのはみなもだった。重そうな酒瓶を抱えてるのを見て、椿の目が輝く。
「ご挨拶に上がりました。お酒と、こっちはお揚げさんなんですけど……」
 ぺこりと会釈し、みなもは酒瓶とタッパーを出した。
「一応、奉納の品なので、後で召し上がってくださいね?」
 椿の顔を見て、みなもが釘をさしたのは正解だっただろう。そうでなければ、椿はすぐにでも酒瓶の封を切っていたに違いなかった。
「あ! 今度こそサンタさんなのー!」
 サンタ服姿のみなもを見つけて、蘭が駆けて来た。
「でも、きれーな女の人で、お馬さんなの……」
 白いおヒゲのおじいさんじゃなかった……としゅんとする蘭に、みなもは困ったように笑いながら、しゃがんで視線を合わせた。
「私はサンタさんじゃありませんが、本物のサンタさんは、いい子にしてたらちゃんとお家にいらっしゃいますよ。こっそりいらっしゃいますから、ひょっとして会えないかもしれませんけど、会えても会えなくても、サンタさんはイブの夜、皆に必ず何か下さるんです。それが見えるものか、それとも見えないものなのかは、貰ってみるまではわかりませんけどね」
「? ちょっと、難しいのー。でも、わかったのー! 僕、いい子にするのー!」
 みなもに頭を撫でてもらって、蘭は嬉しそうに笑っている。椿は腕組みして頷いた。
「そやな。心の持ちよう、っちゅうんは大切や。金運しかり。幸運なんぞは心意気一つで引き寄せられるモンやからな」
「……それは、似てるようでちょっと違うんじゃないかと私は思うわ、椿さん」
 横から、シュラインが冷静にツッコミを入れる。椿の名を聞いて、蘭が目を瞬いた。
「つばき? つばきって、あのお花のつばき? 僕は蘭って言うのー!」
「ん? ほうか、坊(ぼん)は花の化身の子ォなんやな。ええ名前貰っとるなぁ」
 緑の髪に、銀の瞳。蘭は、オリヅルランの化身である。椿が、同じように花の名を持っているのが気になるらしく、興味津々の目で見上げている。
「ワシ自身は、植物とそないな縁があるわけとちゃうんやけど、たまたま生まれた時に狂い咲きがあった、ちゅうんでな。親がつけたんや。名付けに関しては、父者も母者もホンマに……直感ちゅうか出たとこ勝負っちゅうか……要するにええ加減でなあ」
「でも、椿のお花はきれいなのー。いいお名前ね?」
「そやなー」
 何か古いことを思い出しているのか、椿はふと遠い目をする。
「一緒に飲むか、坊」
「お酒は飲めないけど、オレンジジュースなら飲めるのー」
「ほうか」
 リクエスト通りジュースを貰って、蘭は上機嫌だ。
 会場中央の舞台の上では、一芸披露大会が着々と進行していた。挨拶に引き続き、山星が司会を務めている。
「はい、ほな次のお方。えー、9番。シオン・レ・ハイ殿。どうぞー」
 山星の紹介で、シオンが舞台に上がった。長身の男の一礼にあわせ、ぱちぱち、舞台下より拍手。
「手品、やります」
 シオンはコートのポケットからミカンを一つ取り出した。
「まずは念動力でこのミカンを浮かせます。ハッッ!」
 片手に乗せたミカンに、もう片方の手を上から被せ、念を込める仕草。そして被せた手をゆっくりと上げると、それと共にミカンが、掌の上に浮き上がる。
 驚くでもない、微妙などよめきが上がった。ミカンの後ろに、シオンの手の親指が刺さっているのが丸見えだった……。
「では、次はこの新聞紙に水を入れます」
 くじけず、シオンは新聞紙を取り出し、漏斗状に丸め、その中にコップの水を注いだ。水は漏れず、最後には新聞紙の筒から乾いた紙ふぶきが……というネタだったと思われるのだが。
「シオン殿、ダダ漏れです、ダダ漏れですから!」
「…………」
 だばー、と、間髪入れず新聞紙の底から水が漏れたのを見て、流石に司会が途中で止めた。 
「では、これならどうでしょう! 瞬間移動!!」
 拳を作り、シオンは社の前の椿に目を止めた。 
「そちらの方、ちょっとそれをお貸しください」
「ん? これか」
 神酒徳利を下げて、椿が舞台に上がってきた。
「今からこれを消します!」
 椿から徳利を受け取ると、シオンはハンカチをかけて三つ数えた。どうやったのか、果たして、見事に徳利はシオンの手から消えており、今度こそ拍手が起こる。
「おー。見事見事! けど、ワシの酒は?」
 拍手しつつ、椿はきょろきょろと周囲を見回し、意外なところに徳利が立っているのを見つけた。
 舞台下、テーブルの上。がつがつと飲み食いしている、ナマハゲ姿の賢の目の前である。
「あ。ワシの酒」
 賢は徳利を取り、ぐいとあおった。手近にあったから飲んだというだけで、酒だとはわかっていない。
「あ。あ。あ。あれ、ええ酒やのに。あないな飲み方、勿体無い……」
 椿の嘆きをよそに、水を飲むのと同じ勢いで、賢の喉が上下する。ややあって、空になった徳利を置くと、賢は酒気を帯びた息を吐いた。
「ん……? なんだこりゃ?」
 そこでやっと気付いたようだが、もう遅い。あっという間に、酔っ払いの出来上がりだった。
「悪ィ子はいねがー!」
 ダン、と音を立てて跳躍し、賢はステージの上に降り立った。
「一番、菱賢。脱ぎます」
 言うが早いか、ナマハゲの蓑を脱ぎ捨てている。続いて、首にかけていた面を放り出し、下に来ていたパーカーを脱いでTシャツ姿に。次に、腰につけた蓑に手がかかる。
「おー! ええ脱ぎっぷりやな!」
 椿はヤンヤの拍手。蓑が外され、これ以上はヤバい!と止めに入った司会は、極端な下戸であることが災いし、賢の酒臭さにあてられてノックアウト。シオンはというと、シルクハットから出すはずだったウサギが逃げてしまい、あたふたと探し回っている。
「……ある意味面白い出し物だけど。……収拾、つくのかしら……」
 社の前から舞台を見物していたシュラインが、心配げに呟いた。
「あ、あたし、ちょっと行ってきます」
 みなもは近くのテーブルから、家族へのお土産を少しタッパーに貰っていた最中だったが、あまりに混沌とした様子を見かねて走った。途中で氷水の入った水差しを取り、舞台に上がる。
「11番。海原・みなも、水芸、やります!」
 注ぎ口から落とした水に指を浸し、みなもはその指を一閃する。水が生き物のように動いて、賢の顔に飛んだ。
「冷てっ。……? 俺、何で脱いでるんだ??」
 正気づいた賢がはたと動きを止める。
「おや? 次の方が。私の出番はお終いですか……」
 手品道具を纏めて舞台を降りたシオンは、あんたもがんばったよ、と暖かい拍手に迎えられた。
「ありがとうございました。折角やから、水芸のほう、もう少しお願いします」
 我に返った山星に促されて、みなもは水を操ってサンタやトナカイを作って見せる。最後に大きく「Merry Christmas」と文字を作った。照明を浴びて、イルミネーションのように水が煌く。
「お粗末さまでしたっ」
 頬を染めて会釈したみなもに、また拍手。
「……楽しそう……」
 舞台を見上げ、彩芽は呟いた。楽しむ勇気を。そうは思っても、舞台にまで上がるほどの度胸は、まだ彼女にはなかった。
「じゃあ、お姉さんも一緒に行くのー!」
「え!?」
 小さな手に袖を握られて、彩芽は慌てた。舞台に向かってその袖を引きながら、蘭は無邪気に笑っている。
「『楽しそう』は、してみると『楽しい』になるのー!」
「……だそうよ」
 逆の手で蘭に引っ張られているシュラインが、彩芽に微苦笑を向けた。
「ほな、そろそろラストで。12番、藤井・蘭殿、シュライン・エマ殿、羽雄東・彩芽殿」
 舞台に上がり、マイクを渡されて、蘭が元気に片手を上げる。
「皆でクリスマスのお歌を歌うのー!」
 そして、蘭は屋上の木々に向かって、手招くような仕草をした。電飾を施され、チカチカと瞬く梢が、低く高く、ざわめき始める。
 葉擦れの音が徐々に音程を合わせはじめ、やがて明らかなメロディになった。清しこの夜、だ。
 木々と一緒に、蘭とシュラインも歌い出した。
「あ……」
 彩芽も、この歌なら知っている。しかし、舞台の下には、こちらを見ている目、目、目。
「だ、駄目……」
 緊張するなという方が無理だ。でも、歌うのは無理でも。
 考えて、彩芽はポケットからカードの束を出した。
 手に馴染んだタロット。やわらかな手さばきで、彩芽はカードを切った。黒琴呪臨(カタロト)――カードの特徴に合わせた効果を対象に反映させる能力を、彩芽は発動させる。
 出たカードは「星」の正位置。占いでのカードの意味は、「希望」や「未来」だが、今夜は、恐らく単純に。
「ねえ、ちょっと上見て! すごい星!」
 誰かが歓声を上げ、皆が空を見た。
 澄んだ空気に、降って来そうな星空。いつの間にか、舞台の上下かかわりなく、誰もが合唱に加わっていた。

------<これにてお開き>------------------------------

 食べるものも飲むものも粗方なくなって、最後にクジ引きによるプレゼント交換の運びとなった。
 綺麗な包み紙の、何やら平たいラッピングを受け取ったのは彩芽だった。開けてみると、 
「まあ。お杓文字です」
 しゃもじに手拭にお茶漬け各種のセット。冬の夜食にぴったり似合う。
「しゃもじ、その柔らかな曲線が好きなの。色気があって」
 と彩芽に笑いかけたのは、シュラインだった。
 リボンのかかった細長い箱を受け取ったのは、みなもである。開けてみると、
「綺麗! でも、これって、高価なのでは?」
 蓋の部分に細かな模様の細工された、銀色の懐中時計だった。もちろん、螺子を回せばきちんと動く。みなもは歓声を上げたが同時に心配そうだ。
「気に入って頂けたのなら嬉しいのですが……。アンティークのお店で安く譲って頂いたものなので、お気になさらないでくださいね」
 と、彩芽がにっこり笑った。
 柔らかな、青い不織布でラッピングされた四角い包みを受け取ったのは、賢だった。開けてみると、
「お。塩だ」
 深層水で作った、天然塩1kgだった。高級料亭でだってなかなか使えないような、お料理に美味しい、体に優しい、ミネラルたっぷりの品である。
 メリークリスマス、とみなもからのカードがついていた。良い塩は祓いの力も強いが、是非ともこれは食べて消費しようと、賢は思った。
 若者向けカジュアルウェアショップの袋を受け取ったのは、日和だった。開けてみると、マフラーが出てきたのだが。
「な、長い……」
 超ロングマフラーだった。
「これから寒くなる。恋人がいる奴は一緒に巻いてくれ。いない奴は、一人でな」
 と、賢に言われて、日和は思わず、ちらりと悠宇を見た。友達以上恋人未満の二人は、揃って真っ赤になる。
「お、俺のは誰からかなっ」
 真っ赤になりながら、悠宇が自分の持っている包みに手をかけた。
 英字新聞など使って可愛らしくラッピングされた箱の中身は、手作りのフルーツケーキと紅茶の葉だった。
「あ。それ、私の……。美味しくできてると思うから、おうちで白露と一緒に、食べてね」
 真っ赤になったまま、日和が言った。見ていられないほどの微笑ましさである。
 雑貨店の店名の入った袋を受け取ったのは、シオンだった。開けてみると、
「おお。サンタさん!」
 煙突を覗き込むサンタクロースのモチーフが入った、ウォーターボールだった。揺らすと、球の中に雪が舞い散る。
「もうちょっとひねっても良かったんだけど……」
 あまりヘンなものを選んで日和にあたってもどうかと思って諦めた。正直に呟いた、実は悪戯好きの悠宇だった。
 可愛い兎のイラスト入りの袋の袋を受け取ったのは、蘭だった。開けてみると、
「うさぎさんなのー!」
 マフラー、手袋、帽子のセット+肩たたき券。うさぎの耳のついた帽子を蘭が被ると、とてもよく似合った。
 最後に袋から出てきたカードには、「明けましてメリークスリマス」の後、本年も残り少なくなり、寒い日々が続いておりますが風邪などお召しになりませんように………と体を気遣うメッセージが書かれている。微妙なウサギのイラストつきだ。ラストのサインはシオン・レ・ハイ。
「公園で編みました。子供は風の子とは言いますが、暖かくなさってください」
 カードの表面はブロマイドになっていて、バイトでサンタ衣装を着たシオンが写っている。
「サンタさんなのー! サンタさんからのプレゼントなのー!」
 普通の大人が受け取っていたら「要らない」と言われるところだったかもしれないが、蘭は大喜びだった。
 緑に白い花柄の包みに、柊の葉っぱのついた包みを受け取ったのは、シュラインだ。開けてみると、
「これ、指編みね」
 毛糸でできたマフラーだった。手作りの味があるそれを首に巻くと、ふわふわでとても暖かい。
「おうちでね、持ち主さんと一緒に編んだのー!」
 うさ耳帽子の蘭が、駆け寄ってきてにっこり笑った。
 あちこちで皆が包みを開けて、いいものだったり下らないものだったり、悲喜こもごもな声が上がっている。
「『あなたの気に入らない人間を不幸にしてあげます券¥5000分』って、何なんだよ、怖えよ!」
 怪しいチケットを手に、草間は嫌そうな顔をしていた。しかも手書きときては、捨てるのもなんだか怖い。
「誰だよ、こんなの出したのは!」
 その贈り主の孝子はというと、交換プレゼントの他にシュラインからマフラーを貰って、シロウと共にぬくぬくと家路についていた。
「私からもあるわよ」
 嘆く草間に、シュラインが大きな包みを差し出した。
「事務所のデスク、出入り口の正面で寒いでしょう? ちょっと早いけど、今日持ってきちゃった。椅子用お座布団と、膝掛けよ。零ちゃんにはカーディガンね」
「私にも? ありがとうございます!」
 もう一つの包みを受け取って、零が歓声を上げた。
 プレゼント交換の騒ぎが収まった頃、山星のアナウンスが屋上に響く。
「夜も深まってまいりましたので、これにてお開きにさせて頂きます。お疲れ様でした。お気をつけてお帰り下さい」
「賑やかで楽しかったわ。おおきになー!」
 一礼した山星からマイクを奪い、椿が舞台上から手を振った。
 夜空の星は、輝きを増している。
 鳥居に、リースに、社に、クリスマスツリー。奇妙な祭もあったものだが、参加者各位のおかげをもって、無事に閉会のくだりとなったのだった。


                                 END

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1560/羽雄東・彩芽(はゆさき・あやめ)/29歳/女性 /売れない小説家兼モグリの占い師】
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/13歳/女性/中学生】
【3070/菱・賢(ひし・まさる)/16歳/男性/高校生兼僧兵】
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/16歳/女性/高校生】
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/16歳/男性/高校生】
【3356/シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)/42歳/男性/びんぼーにん(食住)+α】
【2163/藤井・蘭(ふじい・らん)/1歳/男性/藤井家の居候】


+NPC
【稲荷ノ・椿(いなりの・つばき)/500歳/男性/稲荷のお使い白狐】
【八束・山星(はちづか・やまぼし)/350歳/男性/会社重役・妖狐】
【伊吹・孝子(いぶき・たかこ)/17歳/女性/邪法使い】
【シロウ/350歳/男性/邪法使いの下僕】
(全て   http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1080  より。)


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          ライター通信         
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 初めまして、もしくはいつもお世話になっております。お届けさせていただきました、階アトリです。
 期日ギリギリの納品、申し訳ありません。
 作中にも書いておりますように、本当に、場所は奇妙ながら賑やかなパーティーになりまして、ありがたい限りです。
 八名様ものPC様に参加いただけるとは!
 今回は、全ての方に同一の文章で納品させていただきました。個別部分はありません。
 その分、一人一人のPCさんが、目的どおりにパーティーを楽しめるように力を尽くさせていただいたつもりですが、キャラのイメージにそぐわないことなどがありましたら申し訳ありません(特に、プレイング以外の行動をさせられているPC様…)。


 いつの間にか十二月も末になってしまいますね。
 今年は暖かいと思っていたらやっと寒くなったり、空気が乾いてきたり……いよいよ風邪をひきやすい時期になりました。
 年末年始のお仕事や楽しいことにむけて、皆様ご自愛くださいますよう。
 では。
 メリークリスマス&ハッピーニューイヤーです。