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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


怖いサンタさん

 ほう、という深いため息と共に煙草の煙を吐き出した草間は、面倒くさそうに頭をかきむしった。その拍子に草間の手にしていた煙草の先から灰が零れ、それを見咎めた零の冷たい視線が草間を容赦なく貫く。
 世の中は徐々にクリスマス色に染まりつつあった。
 かく言う草間興信所にも零の手によって小さなツリーが運び込まれ、色とりどりのオーナメントで飾りが施されていた。この殺伐とした興信所の敷地内にあって妙にファンシーなツリーの立つ一郭に目をやるにつけ、草間はため息を漏らさずにはいられなかった。
「ここは…どこだ…?」
 ハードボイルドに憧れる男、草間武彦。
 だが、目の前にあるのは重要な機密書類でもなければ黒光りする拳銃でもない。しょぼしょぼした興信所内の蛍光灯の光を受けてキラキラと安っぽく輝くクリスマスツリー。
 そんな現実から逃れるように、事務所の窓から外に目をやった、その時。
「!!?」
 草間はその目を大きく見開いた。瞬きして、一度腕で乱暴に目を擦る。
 だが、「それ」は消えることはなかった。
 都会の冬の灰じみた空を悠々と駆ける雪車。シャンシャンと鈴の音も高らかに空を往くそれはまさしく「サンタさんのソリ」。
 だが、それだけではなかった。
 本来サンタさんのソリを牽くべきトナカイたち。しかし、そのソリを牽くのはトナカイではなかった。…いや「トナカイだったもの」と言うべきか?からからに乾涸らび黄ばんだトナカイの骨格。それが軽やかに空を駆け、ソリを牽いているのだ。そのソリも奇妙だった。「サンタさんのソリ」にしてはどす黒い色をしている。まるで染みついた血の色だ。
 草間はそのソリが東京の猥雑なビルの谷間に隠れてしまうまで、呆気にとられて見つめていた。視界からソレが消えて、はっと我に還る。
「何っ、今の何っ!?」



・怖いサンタさん(本物)

「ええー!?何で俺がそんなことしなきゃなんないのさー!?」
 馴鹿・ルドルフ(となかい・るどるふ)は思わず大きな声を出して抗議した。そうしてしまってから、ここが渋谷駅前の大スクランブル交差点であることを思い出し、慌てて辺りを見回す。
 近くにいたスタイルのいい二人組の若い女性がクスクスと笑い合ってルドルフを見ていた。どうやら聞かれていたらしい。ルドルフはその恥ずかしさからか、それとも相手が綺麗な女性だったからか、ポッと赤くなってへらっと曖昧な微笑みを浮かべた。
 女性二人はなおも笑いながらも、人の流れに従って遠ざかる。それを笑みを引きつらせながら見送ってしまうと、ルドルフは手に持った携帯を忌々しそうに見つめつつ人の通りの少ない場所に移動した。
 その携帯電話の向こうは、勿論『あの人』。
「もしもし?とにかく、何で俺なんだよ。大体今はオフで、俺はフリーのハズだろ?」
 一息ついて、今度は拗ねたような口振りでの抗議。だがこんな主張で、『あの人』に勝てるはずがない。案の定、電話の向こうではからからと笑う声がする。
『何故って、君が日本にいるからだよ。奴は今、日本…特に東京に出没しているらしいじゃないか。丁度良い、もうすぐ仕事始めの時期だし、肩慣らしにくらいはなるだろう?』
「肩慣らしって…」
『しかし、今は便利になったものだね。遠く離れていてもこんなに簡単に連絡が取れるんだから。ああ、そうだ東京土産は「銘菓ぴよ子」がいいな。君の東京での武勇伝を聞きながら食べるに丁度良い。私はどうしてもお尻から食べるのが癖なんだが…』
「あのー、俺に拒否権は?」
『ん?無いよ?』
 あっさりと言い放つ『あの人』。
 ルドルフは何か言おうと口を開閉させたが、言葉が出てこない。
『これは命令だ。東京に出没した「怖いサンタさん」を何とかしたまえ。あんな偽物をのさばらせておいては私、「本物のサンタクロース」の名折れだからね』
 最期通告のようなその台詞に、ルドルフはガックリと肩を落とした。



・情報提供者求ム

 サンタクロースの一方的な命令に負けて「怖いサンタさん」を探し始めたルドルフ。だが、早くも行き詰まりつつあった。
「なんとかしろって言われてもなぁ…」
 唇を尖らせて鼻の下に挟んだシャープペンをひくひくさせながら、ルドルフは愚痴る。
 ねぐらにしているアパートの一室に戻り、「怖いサンタさん」捜索の開始をしたのはいいが、肝心の情報が少なすぎるのだ。人相風体が解っていれば、インターネット等使って目撃情報を集めることもできるが、その手の情報はサンタクロースからは得られなかった。
 試しに「怖いサンタさん」というキーワードでインターネット検索をしてみる。数十件がヒットしたが、一通り見ても関係ないものばかりだった。
 マウスを半分放り出すように放して、ルドルフは机の上に突っ伏す。
 丁度、その時だった。
 ピロリロリー♪
 肩の力が抜けるような電子音が響き渡る。
 のっそりと顔を上げてみると、机の隅に置いておいた携帯電話の着信音だった。
 ルドルフは面倒くさそうに腕を動かすと、やる気のない籠もった声で応対に出た。
「もしもしぃ…?」



・気の長い話

 それから一時間後の草間興信所には一人の来訪者があった。
「草間さんが『怖いサンタさん』を見たってのは本当なんですね!?」
 そういってデスクに座った草間を追い詰めるようにしている少年は馴鹿・ルドルフ(となかい・るどるふ)。今は中学生くらいの少年の姿をとっているが、本性はサンタクロースのソリを引くトナカイだ。以前彼と依頼を共に遂行したことのある草間興信所の事務員、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)が草間の見たモノの謎を解くために呼んだ助っ人…のはずだったのだが…。
 シュラインは、そのまま草間に頭突きでもかましそうな勢いのルドルフの肩を引いて少し落ち着かせる。やっとルドルフから解放された草間は銜えっぱなしだった煙草をやっと灰皿に押しつけ、頷いた。
「ああ、多分、お前が探してる奴だと思うが…」
「でも、ルドルフ君もアレのことを探してたなんて…」
「好きで探してるんじゃないですよ。サンタクロースがなんとかしろっていうんです。これで見つからなかったら、今度会った時になんて言われるか!」
 シュラインの言葉に口を尖らせるルドルフ。そして、胃の辺りに手をやり、はふぅと大きなため息をつく。そんなルドルフに、シュラインは苦笑いを禁じ得なかった。
「とにかく、その人相風体で一度、インターネット検索してみよう!何かの手がかりが得られるかもしれない!」
 ルドルフはそう言ってずんずんと興信所の隅に位置している旧式のパソコンに向かうが…。
「…あれ?」
 すぐに気づいたようだった。
「もしかして、ここ、インターネット接続してない?」
 そう、興信所と名の付く場所としては異例なことに、この興信所のパソコンはインターネットなどというものには接続されていない。何と言っても、今時黒電話のある場所なのだ、ここは。
 草間は図星をつかれたように視線を漂わせると、ごほんと一度咳払いする。
「あー、インターネットならシュラインのノートパソコンだな…」
 成る程、そんなところまでシュライン任せらしい。草間らしいと言えば草間らしい。
「そうね、これ、使って?」
「あ、すいません、使わせて貰います」
 草間の言葉を受けて、シュラインは自分のデスクに置いてあるノートパソコンを取ると、ルドルフに差し出した。ルドルフは軽く礼をしてノートパソコンを受け取る。
 それからルドルフは真面目な顔でノートパソコンと睨み合い始めた。しばらくはマウスのカチカチというクリック音だけがその場に響いた。
 しかし、そう時間も経たないうちに、ルドルフはがっくりと項垂れる。
「…ろくな情報がない…」
 骸骨、サンタ、トナカイ、血塗れのソリ…いくつか選んだセンテンスで検索をしてみたものの、引っかかるのは「怖いサンタさん」に関係のない情報ばかりだ。
 しばらくぼんやりとパソコンに映し出される検索結果の報告ページを見ていたルドルフだが、今度は諦めたようなため息をつきながら、立ち上がった。
「しょーがない。こうなったら最後の手段!」
「…最後の手段?」
「待つ!興信所から見えるところを一度通ったのは間違いないんだから、もう一度同じようなところを通ることを期待してここで待つ!」
 なんとも気の長い話だった。



・ルドルフ VS 怖いサンタさん

 窓際の草間の席を乗っ取ったルドルフが、空の監視を始めて数時間が過ぎた。すでに時計は夜の八時を回っている。草間は今日の夕飯となるカップラーメンを啜りながら、じっと空を睨み付けているルドルフをジト目で見ていた。
 シュラインは零を連れて買い物に行った。男二人この薄暗い事務所に残されてしまえば、交わす言葉も少なく、気が滅入ること甚だである。
 草間がカップの底に沈んだ麺の切れ端を探しているうちに早くも冷めてきたラーメンのツユをずるずると啜る。空になったカップ。ラーメンを啜る音もしなくなってしんと静まり返ってしまったその場に、少しの気まずさがはしる。
 ゴホン、草間はその気まずさに耐えかねて、咳払いを一つ。
 その瞬間、ガタンと音をたててルドルフが跳ね上がるようにして立ち上がった。
「おわっ!?」
 急なことに、草間は間抜けな叫び声を上げる。
「ななな、何だってんだ!?」
 今の状況に心が追いついていない様子の草間を後目に、ルドルフは事務所の窓に張り付く。
「…来た!!」
 その台詞に、草間もやっと状況を把握して窓から外をのぞき見る。
 それはまるで人の目に触れるのを楽しんでいるかのごとく低空飛行で空を駆けていた。
 今度はよく見える。骸骨トナカイたちと同様に、カタカタと顎を不気味に鳴らしてソリの手綱を持つのは、骸骨サンタ。ソリと同様にサンタの服も、赤というよりは葡萄茶色で嫌でも血染めにされたものだと解る。
 間違いない、「怖いサンタさん」だ。
 それを確認した瞬間、ルドルフはガラリと窓を大きく開け放ち、自身の能力を解放していた。瞬間的に草間興信所の中からルドルフの身体は消え、怖いサンタさんのソリの後方、大きなプレゼント袋の上にふわりと現れ、着地する。
 骸骨サンタはそのルドルフに気付かないのか、手綱を握って楽しそうに顎を鳴らしている。
 ルドルフは一度表情を引き締めると、すうと大きく息を吸い込んだ。
「やいやいやいっ!この偽物サンタめ、覚悟しろっ!!」
 急な大声に、骸骨サンタはあからさまにビクリとした。そして、そのぽっかりと落ち窪んだ目を後ろに向ける。そこには胸をぐんと張って仁王立ちになるルドルフ。
「…な、何だってんだィ」
 もう表情を出す顔の筋肉もない癖に、いかにも動揺しているのを伺わせるしゃがれ声でそう呟いた骸骨サンタ。ルドルフはもう一度息を吸うと、大見得をきってみせた。
「本家本元『赤鼻のルドルフ』参上!クリスマスを楽しみに待つ子供達を怖がらせる、その罪、許し難い!!怠慢サンタクロースに代わって、お仕置きだ!!」
「げっ、坊ちゃん、サンタクロースの使いですかィ!?」
「問答無用!くらえっ、稲妻キィーック!!」
 瞬間、ルドルフの足が骸骨サンタの側頭に決まる。人間の姿をとっているとはいえ、トナカイの脚力をもって蹴り飛ばされた骸骨サンタの頭部は、勢いで首からはずれてソリの隅の方にカラカラと落ちる。
「あああーっ…!」
 骸骨サンタは慌ててその落ちた頭を引き寄せようとするが、ルドルフは更なる追撃をするため、たすき掛けにかけていたバッグからごそごそと何かを取り出した。
 …かなり古いタイプのハンディカラオケだ。今時、音源はカセットテープという代物。
 だが、ルドルフはにまりと笑うと、同じくバッグから出した、これまた古いカセットテープをジャコンとカラオケにセットする。
 ハンディカラオケから流れてくるのは、厳かで暖かな音色…キャロルだ。
 ルドルフはその音色に合わせて息を吸うと、粛々と歌い始めた。



  There's a song in the air! There's a star in the sky!

  There's a mother's deep prayer and a baby's low cry!

  And the star rains its fire while the beautiful sing,

  For the manger of Bethlehem cradles a King!



 ルドルフの歌声は冬の空に高々と響く。
 決して歌が上手いわけではないが、心にほっと炎が灯ったように、暖かい気持ちになる歌声だ。
 だが、悪しき者には、その限りでない。
「わーっ、勘弁してくだせェ、坊ちゃん!頭が割れちまいやすよ!!」
 骸骨サンタは無い頭を抱えるようにして苦しむ。神聖なるサンタクロースのトナカイたるルドルフの歌声は、悪しき者にとっては聞くのに苦痛を伴うものなのだ。
「も…もう、降参でさァ!後生だからその歌を止めてくだせェ!」
 あまりの苦しさに、骸骨サンタは思わず両手を上げる。
 それを受けて、ルドルフは歌を止めて、初めてはたと気付く。
 さっきまで骸骨サンタの手にあった骸骨トナカイたちの手綱は…ソリの横からだらしなくベロンと垂れている。どうやら骸骨サンタが苦しみに負けて放り出したようだ。
 つまり、今、このソリは操縦者がいないわけで…。
「…わわわわわわわ!!!」
 顔を上げたルドルフと骸骨サンタが見たものは、迫ってくる草間興信所の入っているビルと、窓から凍り付いた恐怖の表情でこちらを見ている草間の姿だった。

 ガシャーン!!!

 …合掌。



・あったかいプレゼント

「…だから、こんなになったのね…?」
 買い物から帰ってきたシュラインは、そう言って困ったようなため息をつく。
 その背後にはめちゃくちゃに割れた草間興信所の窓。そろそろ本格的な寒さを迎えた東京。吹きっさらしになった興信所内の温度は急低下だ。草間とルドルフは防寒具を着込んで寒さに耐えていた。
 そして、シュラインが部屋の隅を見ると、そこには何処からか持ってこられたロープによってぐるぐる巻きに拘束されている骸骨サンタの姿。外れた頭は直してもらったものの、ぐるぐる巻きにされてしょんぼりとしている姿は情けないものだ。
 ちなみにソリと骸骨トナカイたちは一時屋上に行って貰っている。言うことを聞くかどうか不安だったが、骸骨トナカイたちは大人しく利口だった。
「でも、こんな怖い恰好しているのに、あんまり禍々しい感じはしないんですね。どっちかというと、なんだか可愛いです」
 にこにこと笑いながら、零。
 確かに部屋の隅でしょぼくれる骸骨サンタの姿は、どこかコミカルで微笑ましい。
「おいらは確かに悪霊だィ。でも、子供を傷付けたりはしねェ、善良な悪霊(?)だァ」
 零の言葉を受けて、骸骨サンタは縛られながらも胸を張った。どうやら彼なりのポリシーがあるようだ。だが、ルドルフはその言葉に顔をしかめる。
「傷付けないからって、クリスマスを心待ちにしてる子供を怖がらせるなんて、していいことじゃないだろ?これからはもう子供達を脅かすようなことはするんじゃないぞ!?」
「………………」
 ルドルフが念を押すように言うと、骸骨サンタはふと俯いた。多分、彼に肉がついていたら、眉根を寄せて考え込んでいるのだろう。だが、すぐに顔を上げ、神妙な雰囲気で頷いた。
「…子供を脅かすのはおいらの存在意義だァ。でも、負けた以上、坊ちゃんの言葉に逆らうわけにもいかねぇ。金輪際、子供を脅かすのはやめまさァ…」
「よし、本当だな?」
「おいらも男だァ。一度した約束は破りやせんぜ」
 骸骨サンタは多分真面目な顔で、そう言った。表情は相変わらず読めないけど。
 ルドルフは骸骨サンタのロープを解いて解放してやった。すると、骸骨サンタはその場でぴょいと飛び上がるようにして立ち上がると、くるりと一回ターンをしてみせる。
「ああ、やっと自由になったァ。これでようやく我が家に帰れまさァ」
 そして、今度は深々とルドルフ、シュライン、草間兄妹にボロボロのサンタ帽子を脱いで一つずつ礼をしてみせた。
「坊ちゃん、姐さん、兄さん、お嬢ちゃん。お騒がせしやした。おいらはこれで帰らせてもらいやす。よいクリスマスを…」
 きゅ、と再度帽子を被って、カタカタと顎を鳴らす。どうやら笑っているのを伝えたいらしい。
 その彼がみんなに背中を向けようとした時だった。シュラインが、思い出したようにぽんと手をうつ。
「あ、待って頂戴。忘れるところだったわ」
「「「へ?」」」
 急なことに、男三人の間抜け面と声がハモった。
 その男衆を後目に、シュラインと零はにこにこと微笑み合うと、一つのプレゼント箱を取り出して、骸骨サンタに差し出した。骸骨サンタは呆気にとられてその箱を見ていたが、恐る恐るのようにシュラインの顔を見る。
「…これ、おいらにですかィ?」
「ええ、さっき零ちゃんと一緒に買いに行ってたの。私と零ちゃんからのプレゼントよ。いつもは上げるばっかりでしょう?たまには貰うっていうのもいいものよ?」
 放心している骸骨サンタに、はい、と半分押しつけるようにして贈られたプレゼント。骸骨サンタは戸惑いを露わにしながらも、ゆっくりとプレゼント箱のリボンを解き、蓋を開けた。
 その時─。

 ビョヨヨヨヨヨヨヨヨ〜ン。

「ぎゃっ!?」
 プレゼントの箱から飛び出したのはバネの先にくくりつけられたピエロのお面。それが凄い勢いで飛び出してきて、骸骨サンタを驚かせた。驚いた反動で叫び、もう一度地面に尻餅をついた骸骨サンタ。シュラインと零はその姿にプッと吹きだした。
「うふふ、驚きました?」
「…あ、姐さん、お嬢ちゃん、これは…?」
「これで驚かされる方の気持ちも解ったでしょう?」
 小首を傾げてそういうシュラインのに、骸骨サンタは「ははは…」と乾いた声を出す。確かに驚かされるのは初めての経験だ。
 しかし、シュラインはそれだけで口を閉ざさなかった。
「…それに、それだけじゃないのよ?」
「はィ?」
「プレゼントの中身をよく見て」
 シュラインの言葉に、骸骨サンタはピエロのお面とバネの下、プレゼント箱の底をのぞき見る。その様子が少々恐々だったのはご愛敬。
 だが、その骸骨サンタの目に飛び込んできたのは様々な色、色、色。
 骸骨サンタがその中身をそっと引き上げる。出てきたのはふわふわの毛糸で編まれたマフラーたちだった。それもきちんと、骸骨サンタと骸骨トナカイの数だけ。
 シュラインはそのマフラーを手に呆然と立ちつくす骸骨サンタに、その手の中から白いマフラーを取り上げて首に巻いてやった。
「あなた達の風貌を聞いてみたら、骨ばかりでしょ?何だか寒そうな気がしたのよ。だから、これ。私たちからのプレゼントよ」
 シュラインの説明を聞いて、骸骨サンタはなぞるようにそっとそのマフラーに触れた。そしてそのまま暫く動かなくなる。だが、すぐにカタカタと震えだした。
 怖いのじゃない、寒いのでもない。骸骨サンタは泣いていた。
 もう肉体を失っていて流せないはずの涙が、そのぽっかり空いた乾いた眼窩からこぼれた気がした。
「…っ、姐さん、お嬢ちゃん、ありがとうございやすっ!こんなおいらたちの為にプレゼント…しかもこんなあったかいものを!!」
 あったかいもの、とはマフラーのことだろうか。いや、それだけではない。突飛な発想で骸骨サンタを驚かせてこの場に微笑みをもたらしたこと、それにその手で優しくマフラーを巻いてくれたこと…。全て骸骨サンタには驚きで、初めての出来事だったのだ。
「こんなあったかい驚かし方もあるんでやすねェ。初めて知りやした…」
 しみじみと語り、感激する骸骨サンタ。一度、(意味はないのだが)涙を拭くような動作をすると、くるりとみんなに背を向けて、ばっと事務所の扉を開く。空気の通り道が出来て、興信所の中を冷たい風が吹き抜けた。
「…よぉーっし、決めたァ!おいら、これからこんなあったかい驚かしをクリスマスを待つ子供たちに配りまさァ!!この驚きと感動を、子供たちに伝えるんだァ!!これからのおいらは子供を怖がらせるんじゃねェ!子供達に驚きと感動を届ける、もう一人のサンタクロースになるんでさァ!!」



・怖いサンタさん(本物)再び…

『…で、「怖いサンタさん」…その骸骨サンタは来年から、もう一人のサンタクロースになると言って消えたわけか』
「ああ、多分今までみたいに子供を驚かすだけのことはしないよ。シュラインさんと零さんのプレゼントに本当に感動したみたいだったからな」
 ルドルフは携帯電話でサンタクロースに結果報告をしていた。怖いサンタさんの正体、そして彼は改心して子供たちを怖がらせることを止めると誓ったこと。
 だが、その報告をうけたサンタクロースの口調は爽やかだった。
 …胡散臭いくらいに。
『君はいつも詰めが甘いなぁ。私がどうして「怖いサンタさん」をどうにかしろと言ったのか、聞いていなかったのかい?』
「え、だって。子供たちを怖がらせる『怖いサンタさん』を止めろって…」
『君はサンタクロースを唯一無二の存在だと思わないかね?私はこういったはずだよ。偽物をのさばらせてはおけない、とね…』
「…っ!!!」
『…そろそろクリスマスが近い。君も早く他のみんなと合流したまえ。私からも、色々と話があるし。そう、色々とね…』



<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2783/馴鹿・ルドルフ/男/15/トナカイ】

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■         ライター通信          ■
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あけましておめでとうございます。担当ライター尾崎ゆずりはです。
クリスマス以前のお話なのに、納品は新年になってしまいました。
いつものこととは言え、遅筆で申し訳ないです。

> 馴鹿・ルドルフ 様
初めてのご参加ありがとうございます。
今回は能力フル活用で頑張っていただきました。
元気な男の子は書いている身としてもとても楽しかったです。
私の趣味でサンタクロースの性格がアレですが、
目を瞑ってやってくださいね。