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■クリスマス・ドロップス■
イヴの日、草間興信所は静かだった。
零と、クリスマスパーティーの招待状を出した面子とでクリスマスケーキを囲み、部屋を暗くして、クリスマスキャンドルだけが興信所内を照らす。
なんと和むひと時だろう。
零が「きよしこの夜」を唄い終わると、代表で武彦がクリスマスキャンドルの火を吹き消した。
───途端。
クラッカーが弾けるような音がして、以前のように───そう、以前のように何か小さなものをごくんと飲み込んだ武彦はそれにも気付かず、銃声かと思わず伏せた。
「わあ、キレイ!」
零が声を上げる。
見上げると、クリスマスキャンドルが爆ぜ、さながら粉雪のようなものになって興信所内に降り始めていた。なんだ、火を消すと爆ぜる仕掛けのクリスマスキャンドルだったのか───そこまで考えて安心して体勢を戻し───ハタと気付く。
流石の武彦も学習能力はある。「彼」に関してはいつも出し抜かれているので一部の人間からは皆無ではないのかと思われているかもしれないが、人間だから、ある。
「この……クリスマスキャンドル、バーゲンで買ったつってたか……? 零」
「はい、兄さん。あ、何か紙が一枚落ちてます。爆ぜた時にキャンドルの中に入ってたのかな?」
零が、小さなクリスマスカードと思われる紙片を取り上げ、読み上げる。
「『この度はクリスマスキャンドル、クリスマス・ドロップスのお買い上げ誠に有り難うございます。このキャンドルは火を吹き消すとクラッカーがわりに爆ぜますので、決して人に向けて火を吹き消さないように。なお、爆ぜた後、一粒の砂糖菓子、そう、あの口に入れるとすぐに溶けちゃう奴ですね、それが一番近くにいた人間の口に入る仕掛けとなっております。そうすると、その人の周りには驚く無かれ、雪が降り続けます。更に、頭の上にはクリスマスキャンドルが生えますのでクリスマスパーティーの余興にはピッタリかと思われます。注:頭の上に生えるクリスマスキャンドルは普通のものです。ご安心くださいませ。なお、解毒剤はいつも通り開発中です。By.謎の薬剤師:生野・英治郎(しょうの・えいじろう)より愛を込めて』……」
「やっぱり生野かーっ!!」
怒りに震える武彦の頭に、ぽむという音がして可愛らしいハート型のピンクのキャンドルが生えた。
「に、兄さん……効果が切れるまでは外、出歩かないでくださいね、興信所の評判がこれ以上落ちたら生活できなくなります」
「零、お前も学習能力というものをつけろ!」
「あっ」
聞いているのか聞いていないのか、零は更にその紙片の裏の文字を見つけた。
「兄さんこの雪とか降り続けるのとめるには、方法、『自らがパーティーの余興となり和む雰囲気』を作らなければならない、と……書いてあります」
「俺はクリスマスの余興道具じゃないぞ」
拗ねたように、武彦はケーキを食べ始める。それにしても、寒い。ケーキにも雪が降り積もり、アイスケーキではないのに冷たかった。
「零、暖房頼む……」
見れば電気をつけた興信所内は、既に雪が降り積もり、雪国と化している。
悔しがっている暇もないようだった。
■除雪開始■
興信所内では、シュライン・エマがまず武彦が風邪を引かないようにと毛糸を着せて上着も着せ、何かメモしているところだった。
「頭に蝋燭→髪に火でも付いたら危険。それに室内使用前提のものなのに、雪も冷たいまま→かなり改良の余地があるとご進達……シュライン、お前なー……」
隣からメモを覗きこんでいた武彦が、「英治郎の捕手のようなことをするな」と言う。
「いやあでも、確かにこれは問題だよな」
羽角・悠宇(はすみ・ゆう)が、目尻の涙を拭きながら言う。隣に座っていた初瀬・日和(はつせ・ひより)に、
「あら、悠宇。笑い終わったの?」
と聞かれ、また吹き出す始末だったが。
悠宇は最初渋っていたが、よく考えてみればここのところの武彦の受難を考えるときっと今度も何かありそうだ、と考え直して来たのだが───ある意味正解だったと考えていいだろう。
「あははははっ、草間間抜けすぎーっ。でも、可愛いぢゃん? ハートのキャンドル! もー、次の作曲のネタにさせてもらうから! 絶対! 意外とロマンチックじゃない? 雪も降るしさ」
もう一人笑っているのは、山口・さな(やまぐち・さな)である。武彦とは学生時代の先輩後輩にあたり、さなのほうが当時から武彦を振り回す立場だったのだが、今回は自分が振り回さずともこういう事態になって実に楽しそうだった。
サッサッサッ。
「先輩も、招待状出してないのにどこから嗅ぎ付けてきたんですか?」
寒さに震えながら、横目でさなを見る、武彦。だが、さなはまだ悠宇と共に笑っていて応えるどころではないらしい。
「雪の中に灯るキャンドル……言葉にするとロマンティックですが、草間さんの頭の上にあるとギャグですね」
サッサッサッ。
こちらも心底楽しそうな瞳で言う、セレスティ・カーニンガム。
「ミーはチョット雪出しにいってくるネ」
ジュジュ・ミュージーが、寒さに耐えられなくなったのか分からないが、そそくさと外に出て行く。シュラインは女のカンか何かで「ん……?」と思ったが、とりあえずこの雪をどうにかしないと、と改めて興信所内を見る。
サッサッサッ。ザバーッ。
「そういえば、さっきからするこの音、なんでしょう?」
日和がきょろきょろすると、皆も「そういえば」と音の根源を探す。そして、そこにせっせと雪を掃除しているマシンドール・セヴンの姿を見つけ、一斉にガクンと身体の重心を失った。
「せ、セヴン! 窓から雪を落としたら、下の人に当たったら危ないだろう!」
武彦が言うとセヴンは、まだ深く積もっているところを塵取で取りながら、無表情で言う。
「気にしちゃいけません。除雪最優先です」
そしてまた、ダバーッ!と窓から雪を捨てる。
「一気に雪を溶かしてしまうと水浸しになるので、ビニール袋に雪を詰め込んで外に撒いてこようと思ったのですが、それはジュジュさんがしてくると仰って下さったので、頼みました」
「ああ、それで出て行ったんですか。というか、私もお手伝いしますよ。草間さんや零さんも、濡れたままでは寒いですし、無論私達もね」
セレスティは座ったままちょっと手を動かし、能力で雪を水にして操り、ひとかたまりにした。
「でも、降り続けるんじゃなあ」
悠宇が極力武彦の頭のハートのキャンドルを見ないようにしながら、言う。日和が持ってきたせっかくの差し入れの料理やツリーも台無しになってしまう。
「これ以上は、根性で降らせません」
と言うセヴンだが、しんしんと降り続ける武彦の周囲の雪。
「というか、熱くないですか?」
日和が、まじまじと武彦の頭のキャンドルを見つめ、尋ねる。さなが、大きく頷いて賛同する。
「これ、蝋が溶けて頭に垂れたりしないのかな? まあ、元に戻す方法考えろってんなら、見かけ的には生え際でポキンと折っちゃうとか? 普通の蝋燭なんでしょ、これ? このまま短くなっていったら草間の髪に引火して髪がド○フになりかねないしさ。その前にいっそのこと! ……そうすれば雪はともかくキャンドルはどうにかなりそうじゃない?」
「私もそこら辺が」
セレスティも、降る雪を片っ端から水に戻して同じ場所にひとかたまりにしながら、言う。
「頭の上に生えているクリスマスキャンドルは、灯しているのが消えたら、元に戻るのかそれとも新しい、ハートではない違ったキャンドルが生えてくるのでしょうか。気になるので、草間さん風を当てて消耗を早めてもいいですか?」
「な!?」
武彦が目をむくと、考えていたシュラインが、小さくため息をつく。
「このまま火が下がっていって……と考えると、それよりはさなさんの生え際で折ってしまう、という案のほうがいいかもしれないわね。あ、それとセレスティさん、セヴンさん、雪は出来ればそのままの状態でどこか邪魔にならない場所に集めといてもらえる?」
「分かりました」
「了解です」
セレスティが頷き、セヴンも窓から捨てるのをやめ、興信所の隅っこに雪を集め始める。シュラインに何か考えがあるのだろう。
「じゃ、折るよー」
さなが楽しそうに言い、こちらも何故か楽しそうに「カメラを構える」悠宇。
ポキッ。
音がして、同時にシャッターを切る音が二回した。───二回?
見渡した日和は確かに見た、セレスティがさり気なくカメラをスーツのポケットにしまうのを。
(セレスティさんまで……)
こうして、色々なアルバムが出来上がっていくのも楽しいかもしれない、などと考えてしまう。
「ジュジュさん、帰ってこないわね」
ちょっと心配になったシュラインが、時計を見て言った───その時。
「くっ草間!?」
蝋燭を折ったさなが、急に倒れこんだ武彦を支え、慌てる声がした。振り向くと、武彦の顔が真っ青になっている。
「まさか……蝋燭は命の火、みたいな感じだったりして」
と、流石に真剣な顔になる、悠宇。
「武彦様……こんなところで寝ると、死にますよ」
セヴンが揺さぶるが、台詞は洒落にならない。
「……おや?」
日和も青くなったその時、脈をはかっていたセレスティが、何か異変の前兆に気付いた。武彦の中に流れる血液の「音」が「二つ」に増えた気がしたのだ。
「「ああっ苦しかった! さな、お前、心臓が痛くなったぞ!」」
起き上がった武彦が二重にブレたかと思うと、ぱかっという音と共に二人に増え、同時にさなに文句を言った。
「た、武彦さん」
思わずシャッターを切ってしまう悠宇をよそに、シュラインは鏡を取り出す。
「ん?」
と振り向く武彦に鏡を向けた。二人に増えている自分を見た二人の武彦は、W(ダブル)絶叫を上げた。
■二人の武彦、余興に入る■
さて、外に出ていたジュジュは、内心ラッキーだと思っていた。
これを機に武彦とラブラブしたいと考えていた彼女は、興信所の大家を使って能力の「テレホン・セックス」で武彦に憑依させようと思っていたのだが、調べたところによると大家はいないようだった。
どうやって怪しまれず外に出ようか考えていたところへ、セヴンが、ビニール袋で雪を外に撒いてくるところを捕まえ、「自分がやってくる」とうまい口実が出来たのだった。
勿論、雪もちゃんと撒き終え、さて興信所に電話をかけたジュジュなのだ、が───。
トゥルルルルルル……
「あ、電話」
悠宇のすぐ後ろにあったデスクの電話が鳴り響き、反射的に二人の武彦が「同時に」受話器を取っていた。
「「はい草間興信所」」
二人とも、一挙一動、息をつくタイミングも全く同時である。その武彦が、急に虚ろな瞳になった。そこへ、「ハァ、こんな夜に雪撒きもカンタンじゃないネ」とジュジュが戻ってきた。武彦の声が二重に聞こえたのはおかしいなと思ったのだが、うまく憑依した感覚はあったので、ご機嫌である。
そして、二人に増えている武彦を見て、目をぱちくりさせた。
「……武彦、双子だったとは聞いてないネ」
「いや、双子ってより本人が二人に増えたというか……」
「やっぱ僕のせいかなあ?」
「違いますよ、多分このキャンドルの効果でしょう」
「それより武彦さんの様子がおかしいのだけれど」
悠宇にさな、セレスティとシュライン、そしてプレゼント交換のためのプレゼントを死守している日和と、武彦を見守っていたセヴンは、次の瞬間本気で武彦がおかしくなったのかと思った。
「「一番! 草間武彦『幸せの王子』をやります!」」
二人同時に手を挙げ、武彦は服を脱ぎ始めた。目を覆う日和を急いで自分の身体で隠す悠宇、「成る程」と小さく呟いてジュジュを見るセレスティ、ぽかんと口を開けるさな、無表情で見守るセヴン、「イイネイイネ」と拍手を送るジュジュ、「やめなさい武彦さん、子供もいるのよ!」と力ずくでもやめさせようとするシュライン。
一枚脱ぎ、二枚脱ぎ。
ズボンのベルトに手をかけたところへ、シュラインが二人の武彦の頭を思いっきり雑誌の束を丸めたものでひっぱたいた。
見事に同じタイミングでのびる、武彦’s。
「チチィ。二人トモ同一人物だから、憑依も半々になったノネ。ミーは物凄く残念」
ジュジュの言葉に、真相が分かったシュラインは冷気のこもった瞳で一瞬彼女を見たが、ここで怒っても大人げがない。
「日和さん、大丈夫? ごめんなさいね」
憑依される武彦も武彦だ、とシュラインは、一番「被害」に遭ったであろう日和を心配げに見るが、なんとか悠宇の身体が邪魔で見えなかったらしい。
「でも、幸せの王子っていいお話ですよね」
分かっているのか分かっていないのか、のほほんと言う日和に、「日和っ!」と慌てる悠宇。
「本人が気絶してても雪、降るんだなー」
さなが、天井の近くから降り続ける雪を掌に乗せてみる。
「そういえば日和さんと悠宇さんの案でプレゼント交換、ということになっていましたね。今のうちに、してしまいましょうか」
セレスティがにっこりと微笑むと、ジュジュも頷く。
「ミーも持ってきたネ。日和、ワルカッタヨ」
そして、各々持ってきたプレゼントを交換しあっているうちに、次第に和やかな雰囲気が戻ってきた。くじ引きでプレゼント交換をしたのだが、日和の手作りケーキはセレスティに、悠宇が用意したマグカップと紅茶の葉はジュジュに行った。さなにはうまい具合にブランド物のピック、シュラインにはマニキュア、セヴンには藍色の手袋、悠宇にはスポーツタオル、日和にはクリスマスキャンドルが。
「え……? 人数、武彦さんはのびてるから7人よね?」
確認する、シュライン。日和に確認を取って彼女の手作りケーキを皆にもと切り分けていたセレスティは、小首を傾げる。
「それにしては、プレゼントが草間さんが用意した分、ひとりだけ余るはずなのですが」
「待てよ」
悠宇が、慎重に、自分から見て、自分を抜かし、左側から「起きている」人間を数える。
「ひい(日和)、ふう(ジュジュさん)、みい(さなさん)、よう(シュラインさん)、いつ(セレスティさん)、むう(セヴンさん)、な……ぁあっ!!」
セレスティの左側でいつの間にか乱入して笑顔で手を振っている生野・英治郎の姿をそこに見つけた。
捕まえようとしたさなの手をするりとすり抜け、英治郎はデスクの上に音もなく降り立つ。
「オー、ニンジャみたいネ」
ピューッと口笛をひとつ吹くジュジュだが、シュラインは油断しない。
「丁度よかったわ生野さん、この二人になった武彦さん、どうすれば元に戻るの?」
「ご安心ください、時が過ぎれば喉元涼し。要するに時間が経てば、一人に戻りますよ。それよりほら、もっと場を和ませないとと思って私も参加しに来たのですが」
「まさかこの日和に渡ったクリスマスキャンドル、あんたからのプレゼント交換の!?」
悠宇が尋ねると、張り切ったように大きく頷く英治郎。
「かっ、返します!」
日和が投げると、英治郎は「レシーブ!エンドアターック!」と妙な掛け声をかけ、スーツの内側からモデルガンを取り出して空中のキャンドルを撃った。
「うわっ、キャンドルの粉が降ってくる!」
慌てるさなは頭を抱えたが、「大丈夫みたい」とシュラインにぽんぽんと肩を叩かれ、上を見た。
セレスティが見事に、全員の頭上に、ひとかたまりにしてあった水を氷状にして屋根のように、キャンドルの粉がかからないようにしていた。ジュジュはこういう派手なことが楽しいらしく、小躍りしている。
「ふっ……やりますね、セレスティさん。ですが、ようく御覧なさい」
ふっと銃口からの煙(本物かは分からないが)を吹いて、英治郎は微笑む。
シュラインが気付いた。
「ああっ、武彦さんに全部キャンドルの粉がかかってるわ!」
「ミンナにかかればモット面白かったノニネー」
ジュジュが言い、「ねー」と英治郎も相槌を打つ。
「シュラインさん、さっき、そのままの状態で一塊にしておいてと言われましたが、この雪はどうするのですか?」
何事もなかったことにしたいのか、除雪以外何も考えていないのか、セヴン。
「え、ええ、それは、余興なら、いっそ興信所内でカマクラでも作ろうかと思って……でも人手が足りないかなって思ってたんだけれど……」
見る間に、武彦が何重にもブれ、十人を軽くこえる武彦が一斉に起き上がった。
「「「「「「「「「「あれ、俺は何をしていたんだ?」」」」」」」」」」(あまりに多すぎるため、上限として「」は10個にしてあります)
「うわあ草間キモッ!」
さなが思わず引いた。気付くと、英治郎の姿は既にない。セヴンが、恐らく英治郎が出て行ったのであろう窓から風が入ってくるので、カラリと閉めた。
■武彦がいっぱい■
「ふるい〜アルバムのなかぁに〜かくれて〜おもいで〜がいっぱぁ〜い♪」
「武彦、イッパーイ♪」
さなとジュジュは、盛り上がっている。
確かに人手は足りた。ものの数分とかからず、カマクラは幾つか出来たのだが───。
「これじゃさ、アルバムの中に思い出じゃなくて草間さんが一杯だよな」
うまく日和と同じカマクラに入れた悠宇が、カマクラの外で「俺も入れてくれ!」と叫ぶ武彦’s5〜6人を足蹴にしながら、セレスティが切り分けていた日和の手作りケーキを食べながら言う。
「本当に雪見草間さんですね、冗談が現実になりました」
セヴンと一緒のカマクラになったセレスティが、持参していたワインとチーズでカマクラの外の武彦’sを楽しそうに見ている。
「悠宇、結構草間さんの写真で最近お小遣い稼ぎしてない?」
日和が、ケーキを一口食べ、うんいい出来、と呟いてから言うと、悠宇は「そんなことない……いや、秘密秘密」と誤魔化し笑いをする。そしてカマクラから顔を出し、
「なあ皆、俺、今までの草間さんに遭った受難の数々で体験した楽しかったコトっての言い合ってみたいんだけど、どう?」
俺はあの小さくなった時に草間さんと入った風呂の時のこと話したくて仕方がないんだけど、と言う。
「武彦とフロ? ウラヤマシイネ、是非キキタイ」
ジュジュが、さなの唄に合わせて踊りながら笑う。
「……皆、楽しそう」
ぽつりと言ったセヴンに、セレスティがワインをかかげる。
「あなたも如何ですか、形だけでも」
ちょっと機嫌が良くなったセヴンである。
離れたカマクラでは、恐らく「オリジナル(元の武彦)」と思われる一人を引っ張り出したシュラインが、彼の下には贈物に用意してた手作りの武彦への椅子用の座布団をこっそり設置し膝掛けもかけて暖かくしてある。死守して持ってきた料理とシャンパンも、ちゃんと置いてあるところが彼女らしい。
「武彦さんが『一人』に戻ったとき、この雪もやむんでしょうけれど」
シュラインは、電灯を消し、其々のカマクラに普通の蝋燭に火が灯してあるのを見て、なんとなく心が暖かくなるのだった。
「もう少し、このままでいたいような……」
普通なら頭の痛い事態なのだが、皆結構楽しそうだし、と苦笑するしかない。
武彦を見ると、うとうとしているようだった。そっと頭を撫で、「メリークリスマス、武彦さん」と呟くと、いつの間に集まっていたのか悠宇のフラッシュが光り、日和やセヴン、セレスティが、ジュジュとさなのBGMを背にグーサインを出していた。
無論、セレスティが隠し持つカメラのことも忘れてはいない。
「も、もう何してるの皆、カマクラに戻りなさい」
「あー、シュラインさん赤くなってる」
「悠宇、駄目よ後でコワいわよ」
「武彦様は幸せ者です」
「如何ですか、シュラインさん達もワインでも?」
「武彦ー、ミーと一緒に踊るネ!」
「おとなのかいだんの〜ぼるぅ〜♪ 山口さな、今日も絶好調!」
こんな事態も楽しみにしてしまう面子が、結構貴重かもしれないと其々に思うのだった。
後日、ではあるが。
「2004年草間武彦受難アルバム」と題したアルバムが何冊か、悠宇とセレスティの共同制作により発刊されたのは、ここだけの話である。
《完》
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■ 登場人物(この物語
に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2640/山口・さな (やまぐち・さな)/男性/32歳/ベーシストSana
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
0585/ジュジュ・ミュージー (ジュジュ・ミュージー)/女性/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
4410/マシンドール・セヴン (ましんどーる・せぶん)/女性/28歳/スタンダート機構体(マスターグレード)
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■ ライター通
信 ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv
さて今回ですが、草間武彦受難シリーズ(?)の5回目になりました、イヴネタと称してクリスマスキャンドルです。今回はシチュエーションが浮かびすぎて、まとまりがつきそうになかったので、色々削除しました。例えば「分離した武彦が其々煩悩や童心に分かれていく」とか、「全員が二人ずつになって色々する」等々。いつか、何かのネタで使うかもしれません(笑)。今回は個別にする部分がありませんでしたので、統一ノベルとなりました。ご了承ください。皆様のプレイングを見ていて、結構弾けたノベルになるかなとも思ったのですが、意外とそういうことはなかったです(笑)。因みにプレゼント交換は一部PC様によるプレイングにありましたので使わせて頂きましたが、其々にどのプレゼントを誰が用意したんだろうというのは、ご想像にお任せします(笑)。
■シュライン・エマ様:連続のご参加、有難うございますv カマクラ、というのがいい案だなと思いまして、最後に使わせて頂きました。本当は、武彦’sがいなければ、もっとロマンティックな雰囲気になれたのでしょうけれど……(笑)。
■山口・さな様:初のご参加、有り難うございますv 武彦の先輩ならば生野氏のことも知っているかなと思ったのですが、今回そのシチュエーションが書けませんでした。でも、さなさんの設定というのが楽しくて、もう少し動かさせて頂けたらよかったなと心残りです(笑)。
■セレスティ・カーニンガム様:連続のご参加、有り難うございますv 「雪見草間」、というのは流石(?)セレスティさんらしいなと思いまして、また、写真に収めるというのが楽しい意外性があり、使わせて頂きました(笑)。キャンドルに注目して頂けたのは幸いでした。
■初瀬・日和様:連続のご参加、有難うございますv 差し入れの料理とツリーを死守した場面をもう少し書きたかったのですが、勢いに流されてしまったというか……(わたしが(爆))それでも、「幸せの王子」を見ても日和さんならある意味、あまり動揺しないかなと思いまして、そんなに騒いで頂きませんでした。手作りケーキのご持参も使わせて頂きました♪
■羽角・悠宇様:連続のご参加、有難うございますv 「幸せの王子」の余興を見て一番慌てたのは、実は悠宇さんかなと思いましたが、如何なものでしょう。しかし、本当に楽しんでプレイングを書いて頂いているようで、わたしも嬉しいです(笑)。結構、悠宇さんは実際小金を稼いでいると踏んでいるのは、わたしだけでしょうか(笑)。
■ジュジュ・ミュージー様:初のご参加、有り難うございますv プレイングを見て密かに「ど、どうしよう」と思っていたのはここだけの秘密です(笑)。「幸せの王子」はうまく使わせて頂きましたが、最後までいっていたら誰が止めたんだろう……とか考えてしまいました。あれは武彦氏が「分離」していなければ、どうなっていたんでしょう……真剣に(爆)。初めて手がけるPCさんでしたが、なんとなく、こんな雰囲気かなというのが固まっていたのですが、如何でしたでしょうか。
■マシンドール・セヴン様:初のご参加、有り難うございますv こちらも初めて扱わせて頂くPC様でしたので、どういう風に掴んで動いてもらおうとか色々楽しく考えさせて頂きました♪ プレイングの除雪の部分は密かに笑わせて頂きました(笑)。そういえば、セヴンさんと呼ばせて頂いていましたが、実際はどちらでお呼びするのが正しいのでしょう? それと、やはり飲食はなさらないのでしょうか?
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回も主に「夢」というか、ひとときの「和み」を草間武彦氏に提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。無事に武彦’sが消えて元の「一人の武彦氏」に戻ったことを祈ります。次回ネタは既に用意してありますので、今からどんな風になるのか、書き手としても楽しみです。
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
2004/12/09 Makito Touko
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