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<東京怪談ノベル(シングル)>


貴方の横顔。

 ――『依頼経過報告書在中』。

 …過日頂いた御依頼の経過報告をお送り致します。
 なお、リサーチの対象の方々は匿名になっておりますので、御了承の程を。

 リサーチ対象:草間興信所、ネットカフェ…他に集う方々、六名。
 依頼内容:綾和泉汐耶の身辺調査(主に人柄について)

 1.
「綾和泉さん? 職業柄って言っちゃって良いのか…とにかく本について詳しい人だよね。そこに関係する事でもしない事でも色々とお世話になったりご迷惑かけてます。迷惑の率が高いかもしれないな。司書さんだって事を頼っちゃってる時もあるし怪奇絡みでいろいろあったし。それから、ちょっと言う事キツいかなーって思う時もあるけど…それもまた結構助けになってたりするから最終的には有難い事になるし。って僕が頼りにならないから余計かも。つい先日もさくっと突っ込み入れられちゃったしね」

 2.
「ええ。いつもお世話になってます。そうですね、綾和泉さんには…色眼鏡使わないで普通に接してもらえるだけでも有難いですね。あ、でもそんな風にこっちが思っている事自体を怒られそうにも思えますけど。有難い事じゃなくってそれが普通の事でしょう、って。司書さんのお仕事も――と言うより曰く付きの本の封印の方も大変そうですけど、無理しない程度に頑張って下さい。…って別に貴方に言っても御本人には伝わらないって言ってましたっけ。…じゃ、折角ですから今度機会を窺って言っておく事にしますね」

 3.
「彼女、若いのに確りしてると思うわよ? 言う事はきっちり言うしね。むしろ草間興信所の探偵さんの方が七歳も年上だけど駄目かも。見習って欲しい時とかあるかもね。…ってこれ探偵さんには秘密ね? こんな事言ってたって草間さんの方に知れたら御馳走になりに行く時に色々困るから。ああ、草間さんと言えば汐耶さんも珈琲好きよね。色々こだわりもあるみたいだし。ま、何だかんだ言っても誰かさんの淹れたのならそれで良いんだろうけどね♪ 誰の事かって? それは秘密。知りたきゃ自分で調べなさいな♪」

 4.
「綾和泉さんっつったらまずは例の件。…え? いやいやいやこっちの話。奴にゃ勿体無い相手だとは思うがね。つーか本当にあいつで良い訳? って別にこの答えが直接彼女に伝わる訳じゃないんだよな。んじゃ改めて綾和泉さんについて…となるとな…。案外抜け目無い人だとは思うがね。司書さんにしては並じゃない修羅場潜ってるでしょ? でもそればっかりでもなくて可愛いところも確りある。それと一応一般の人なのに知らなくて良いような事もそれなりに詳しいよな。…本読む人だからかね?」

 5.
「そーねぇ。彼女の事となるとやっぱりアレよねぇ…。って、え? これまでにも思わせ振りな事言ってた人が居たけどなんだって? そんなの私の口から言える訳無いでしょー。それはやっぱり本人から聞くべきよねえ…じゃなくって。綾和泉さんって私たち並に呑むのよね。確かに強そうには思えたけど…それにしても予想以上。ザルと言うか通り越してワクと言うか。男のコじゃ無かったのがちょっと残念…やん、冗談よ☆ …と、それはともかく。司書さんだけあって色んな教養あるし、お酒の席での話題にも事欠かないし。イイ子よー☆」

 6.
「…はい? 御近所の皆さんが汐耶さんに関して何か思わせ振りな事を言いたくなるような事があるのかって? ………………いや、気にしなくて良いですよ。大した話じゃありませんから。野次馬な方が多いだけでしょう。心配されていると言いますか遊ばれていると言いますか…。それはそれでひとまず置いておきまして、汐耶さんについてでしたよね? 素敵な方ですよ。少なくとも俺にとっては。それと度胸のある方だとも思ってます。いや、いつも敵いませんからね。ただ…あまり無茶をなさらないで欲しいとは思っていますが」

 以上。
 …これ以上の依頼結果は、出次第お送り致します。



 …ある日の草間興信所。
「そうだなあ…」
 考え込んでいるのは興信所所長。その場に居るのは綾和泉汐耶。では果たして武彦が何を考え込んでいるのかと言えば話の成り行き。いつもの如く本当の意味での客の居ない興信所の応接間で和んでいた訳だが、色々と話しているところでふとお互い――と言うか近場に居る各人の印象の話になり、だったら私って草間さんにとってどんな風な印象持たれてます? と汐耶が武彦に問うていたところ。
「…俺には結構厳しいよな」
 ぽろりと武彦。
「そうですか?」
 意外そうに、汐耶。
 そんな姿をちらと見、考えながら武彦は指折り挙げ始める。
「…堅そうに見えるが案外柔軟」
 ひとつの事に拘らず正しいと思う方に素直に意見を変えられたり、物事を切り換えるのが早かったり。
「…『特に好きなもの』がわかり易い」
 例えば本に関してとか、酒に関してとか、何処ぞのバーテンに関してとか…。
 …と、そこまで言って、武彦は、ああ、と何か思い付いたような声を上げる。
「…俺だと、聞く相手が違ってやしないか?」
「…そーきますか」
 がくりと汐耶。
 そう言われて、心当たりが無い訳でも無いような。



 …暫し後。
 自宅マンションに帰宅し、ポストを探ったところ。
 ふと困っている姿の汐耶が居た。

 ………………なに、これ。

 彼女の手には『依頼経過報告書在中』と書かれた封書。配達間違いかと思い宛名を確かめたらどうやら間違い無く自分宛て。送り主の名義は無し。
 汐耶としては該当するような依頼は何処にもした記憶は無い。そもそもこの手の事を頼む相手――探偵なら草間武彦で間に合っている。
 中身を見たら更に困惑。
 …内容からして新手の架空請求等ではなさそうなのは良かったのだが――どう言う訳か、つい先程草間興信所で話題になった事柄と内容がまったく同じである。
 文面からしてテープか何かから起こしたのか、何となくこんな話し方をしそうだと記憶にある人々の証言が、調査の経過として数件書き連ねてある。心当たりが無ければ勿論全然わからないが、あれば何となく誰が誰かは判るような気がするようなしないような。…それは確証は持てないが。
 暫し興味深げに見てから、汐耶はふとレポート用紙を折り畳み、封書へと放り込む。

 ………………誰の仕業か知らないけど、取り敢えず頂いておく事にするわね。

【了】