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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


[ 弱者の強さ(後編) ]


 それは一ヶ月前――
 一つの事件を幕切れに更なる事件が広がっていく。
 半径五十kmの範囲で異能力者連続通り魔事件発生。多数の軽傷者、四人の重症者を出した事件は、遂に月刊アトラス編集部社員桂をも巻き込む。
 その調査を月刊アトラス編集部編集長・碇麗香から任された草間興信所所長・草間武彦は、協力者と共に事件解決へと踏み出した。結果桂は無事救出、だが肝心の武彦は通り魔らしき者を追いかけ行方不明。
 しかし捜査の結果、犯人は漆黒のマントを身に纏い能力者の血を吸うことにより、その能力者の能力をコピー可能。同時、能力者に毒のような物を混入、重症を負わせることが判明。その話は後日瞬く間に各地へと広がった。
 しかし事件は未だ謎に満ちたまま未解決。グループは解散。
 それから数日後…‥広がる異能力者への被害。それは遂に全国区へと発展した。

「大変……だ」
 とある病院の一角。個室から相部屋へと移動され、退院も間近である桂がそんな新聞記事を見、そっと呟いた。
「やっぱりあいつが……ボクの時計を――」
 そっと新聞を握り締める手に力が篭る。
 前回の事件の後、軽傷で済んだものの怪我を負った彼はこうして病院に居る。しかしやはり見つからない。

 大切な時計が。


 ――同時刻
「ったく……厄介なことになったな」
 此処数日寝ずに先行く背を追い続ける草間武彦は、火の点いていない煙草を銜えながら流れる汗を拭うと、間も無く充電の切れる携帯電話を片手に舌打ちする。
「一体あいつはどう言う神経してんだ」
 悪態を吐きながらメールモードでアドレス帳にあるだけの連絡先を全てBCCで選択。時折画面から目を離しては、追っている者が姿を晦まさないかも確認する。今、さほどスピードは出していない。勿論走る速度だ。ただし時折飛びもする……。
 此処数日、武彦は犯人らしき背を追うものの犯行回数は何故だか減っている。否、それはまるで見定めしているようにも思えた。それとも武彦の尾行は気づかれており、犯人はしつこい武彦を撒くまでは犯行には及ばないとでもいうのか……?
「……んなの考えてられるか!! 届け、でもってお前らもどうにかしてくれ!」
 メール送信画面。少しの間を置き送信完了の文字。それと同時、ピーと高らかな音と共に電池切れのメッセージが辺りに響き渡る。

 そして、短い着信音に顔を上げた男は無言で携帯電話のメール画面を開いた。

○月○日 11:25
From:草間武彦
Sub :応援頼む
本文:通り魔追ってる、応援頼む。奴は桂から時計奪ったらしい。俺が追いかけてるのは愛知、青森、秋田、石川、今茨城。電池切れ、買えたら買うから連絡はメール。集合は興信所で。宜しくな

 それは草間興信所所長である、草間武彦からの一斉メールと見られる。
「へぇ……これならば、あいつもきっと行くんだろうな」
 言うや否や、叩かれるドアに男は返事を返す。もっとも、ドアの向こうの相手は既にその叩き方で何となく判断はつくが……。返事と同時入ってきた女性的外見の、しかしぶっきら棒に発した声は明らかに青年なその人物に、男は携帯電話の画面を突きつけた。
「これ、だろ?」
 彼はこくんと頷くだけの返事をし、二人は揃って部屋を出る。
 その装備はNIGHTMARE DOLL部隊所属と言う肩書きゆえに重い。それは重量の問題でもあるがそれ以外の意味もあり、しかしそれが彼らにとっては当たり前の荷物でもある。
 外へ出ると厚い雲が空を覆っていた。二人は先ずは東京、草間興信所を目指す。

    ■□■

 メール受信から数時間後の草間興信所、そこに集まったのは総計七名もの人物。その内数名は、この事件の頭から関わっているようで、興信所に入るなり「あぁ、また」という会話を交わしている。
 ソファーに座るには限界があるとも思ったが、実際そこに座ったのはたったの四人で、先ずは自己紹介と話が進んでいった。
「ミーはジュジュ ミュージー、もうスッカリ乗りかかった船だからネェ。ミーは犯人撲滅に頑張りマァス」
 そう言うは今回も幾らかの手荷物を持ったジュジュ・ミュージー。彼女はソファーに座っており、その後ろには二人の男が居た。そのうちの一人、黒縁の眼鏡を掛けた熊のような男――彼の名を鷹旗・羽翼(たかはた・うよく)と言う――が豪快に後へと続く。
「俺は鷹旗羽翼だ。ジュジュの付き合いもあるが、俺のライター魂にも火がついてなぁ。一緒にやらせてもらうぞ」
「俺もこの友人の頼みということと、それよりも前……他からの頼みということで付き合います。名は蜂須賀大六…と」
 それに続いたのは、言葉遣いはそれなりに丁寧なもののその見た目、そして声色に"堅気"はあまり近づきたくないような色を含んだ男――彼の名を蜂須賀・大六(はちすか・だいろく)と言う。その身なりは人目で"その道"に関わっていると表すようなものだが、今一品が無い。
「一応名前? 我宝ヶ峰沙霧。なんか前回よりやたら増えて……まぁ構わないのだけど、こうも多いと移動が大変そうね」
 そしてジュジュの隣、ソファーで寛ぐは我宝ヶ峰・沙霧(がほうがみね・さぎり)、彼女も前回この事件に関わった者。
「……俺は翆南雲と言う。宜しく頼む」
「俺はニグレド ジュデッカ。あっちの南雲と同じところから来てる、よろしくな」
 そう、ぶっきら棒な……そして一見して女性にも見える青年――彼の名を翆・南雲(すい・なぐも)と言う――と、それとは対照的な明るい青年――名をニグレド・ジュデッカと言う――の挨拶が続く。そして南雲は部屋の隅に一人立っているが、ニグレドはちゃっかりソファーに座っていた。
「俺が最後、か……幾島だ。前回も関わってこうして此処に来たが、今回は単独行動させてもらう。但し、此方の情報と他の誰かが掴んだ情報を時折交換してもらいたい」
 そして最後に口を開いたのは、ニグレドの隣に座っていた幾島・壮司(いくしま・そうし)、前回関わった者である。彼は掛けたサングラスを押し上げ、そのまま僅かに俯いた。しかし反対意見は出ないことから、それを拒む者はいないということだろう。
 皆の一声を確認すると沙霧がソファーから身を乗り出す。
「ところで今茨城って言っていたけど、やっぱりそこまで行くってこと?」
 此処東京から茨城までは行けない距離ではないが、桂の時計を手に入れているということも有れば、此方の移動中相手が動く可能性もあるのではないかと、誰もが内心思うことだった。
「でも相手は五十音順に移動している。そこを上手く突ければ何とかできるんじゃないか?」
 壮司の目が泳いだ後、正面のジュジュとバッチリ合い、彼女が笑みを浮かべたのを彼は見た。それを見たニグレドは、わざと茶化すように口笛を吹く。
「ん、ユーはオモシロイ人デスね。……とは言え、確かに五十音順で次は岩手県と、同じくミーも推測しましたからネェ」
 最初は笑いながらニグレドを見て言ったジュジュだが、やがてその声色が真剣みを帯びると携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛け、後ろに立つ羽翼を見た。そして電話を切ると素早く指示を出す。
「今バスをチャーターしました。先に岩手方面へ、やり方は……ユーにお任せネ」
「了解よぉ。他に俺と一緒に先行く奴はいるか?」
 やがてジュジュから目を逸らした羽翼が、ついでとばかり皆に声をかけた。
「……俺も良いだろうか?」
 声に出したのは隅に居た南雲だ。その声に正面のニグレドが頷く。
「おうよ、それじゃあ兄ちゃん…翠って言ったなぁ、行くぞ」
「――了解」
 羽翼の声に南雲が続き、先ずは興信所から二人の姿が消えた。
「後に残ったメンバーは……みんな戦うようにしか見えないけれど、これからどうするの?」
「俺は調べたいことも有るからそろそろ出ようと思うが、さっきも言ったとおり情報は欲しい。だから前回俺だけが掴んでる情報を渡そうと思う。その代わり何か掴んだら……わりぃがさっきの二人分も含めこっちに流してくれるか?」
「OK! ミーからユーへ、ネ」
 互いに確認しあうと壮司は数枚の用紙を出し、今いる全員に配ると「んじゃ」と、興信所を後にした。彼のいなくなった興信所、そこで残りの四人はそれぞれ思考を巡らす。
 用紙の内容は以下の通りだ。それは壮司が神の左眼より解析した相手のほぼ全てともいえる情報でもあった。

**********左眼の記録情報**********
 年齢15〜18歳、犬歯の異様発達、長い爪を持つ。本来持つべく能力は吸血による自己の貧血回避。いわゆる吸血鬼に似たもの。しかしその際何かしらを体に取り込んでしまったことにより能力の変化。
 現在の能力は僅かな血の匂いからその能力者の能力を判別、吸血によりその能力者の能力をコピー。吸血と同時、血液中に毒(自己による治癒能力を持ち合わせていない場合高熱を発症する場合有り、数日後やがて昏睡状態にまで陥る)を混入(蚊の性質に似る)毒は口内と爪に有り。
 血液中より能力のコピーを行うため、掠り傷程度の血からもコピー可能。コピーはどんなものも可能だが、多くのコピーは本来の力を発揮しない(はったり)
 現在幾島を含め五人の能力者の能力を持つが、どれも不安定の模様。
*************ここまで*************

「――ヤッパリミーの推測どおり……でも毒に関しての具体的解析はナシ」
「――あなたに出来ないなら俺が最後は犯人を殺る……それが今回の条件。でも此処まで判ったなら、あなた一人でもどうにかなるものでは?」
 悩むジュジュに背後の大六がひょこっと、彼女を覗き込むように言う。その行動にジュジュは「判ってマス、でも油断大敵デス」と短く返答し、考える姿勢へ入った。
「――相手がこれなら、無理矢理にでも時間稼ぎをして、晴れたところで戦いを挑んだ方がもしかして私達に有利なんじゃない?」
「――でも現場へ向かうことを今は優先させるべきだろ? あっちにはもう南雲も向かってるし、今この時季下手すれば移動中に陽も落ちる。そうすれば少し不利になるんじゃ?」
 沙霧の声にニグレドが続いたとき、四人の携帯電話が一斉に音を奏でた。それが意味するのは武彦からのメールということだ。

○月○日 14:35
From:草間武彦
Sub :言い忘れ
本文:移動は一日一都道府県。毎日昼過ぎに移動、今日はこれからまたどこかに移動して留まるだろう。後前回俺と行動共にした奴ら、今回もいるのか?最初に言っておくが殺すな、とにかく静止させろ。殺しは……俺の感が正しければ嫌な予感がするんだ。

「嫌な予感? とは言え、相手も十分過ぎるほど被害者を出してるじゃない? それを静止って……」
 腑に落ちないといった様子で沙霧がポツリと呟くが、ジュジュは相変わらず唸ったまま、ニグレドは早々に携帯電話を閉じると皆の様子をきょろきょろと見、大六は窓際に寄るとそこから外を眺め始めた。
「デモ……メール見る限り、明日の昼頃マデは岩手に居るハズ。ならばミー達は夜の間に移動準備して、明朝に賭けますカァ?」
「明日の天気は…っと、朝から晴れね」
 ジュジュの提案に沙霧が携帯電話を片手に天気予報を調べたのかポツリと言う。
 しかしそうなると、今度は移動手段が話題となった。此処東京から岩手は遠い。おまけに夜間の移動ともなれば動きに制限も出てくるものだ。
「ミーがもう一台、なんとかチャーターしマァス。まだ暗い内に着くとしてぇ……二十二時、東京駅バス停前集合にしマスね」
「それならそうと南雲に連絡入れないとなぁ……」
 言いながらニグレドは携帯電話を取り出した。
「さて、それじゃあミーは幾島サンに連絡、と。――後一応アッチにも連絡入れるべきカナァ……」
「俺は自分の車で行きますからよろしく」
 言いながら大六は興信所を出て行く。しかしながら時間と場所は確認したので、恐らく共には行くのだろう。
「さてと、私もそれまでは時間潰しに外にでも出るわ。時間が有るならもう少し準備も整えたいしね」
「俺は……前回のことを少し聞いておきたいから誰か――ってもどちらか、だけどいいかな?」
 結局最後に呟かれたニグレドの言葉により、振り向いたジュジュと沙霧は暫しお茶しながら前回のおさらいを……と言うことになった。勿論お茶は草間興信所で、草間・零の出す美味しく暖かい物。

    □■□

 ジュジュと沙霧は片側のソファーに腰掛け、ニグレドが向かいのソファーに座るという、男女に分かれつつも前回のことを知っている知らないの形で分かれた三人は一息吐く。
「サテ、何から話すべきですかネェ?」
「取りあえずさっきの資料見ながらでいいんじゃないの? 私達が初めて知ることも十分あったけどね」
 言いながら三人は先ほど壮司から手渡された資料に目を通す。
「通り魔って話だったけど、被害者は主に能力者で結構出てるって話で……」
 確かに世間で報道されている面では能力者を襲っているということ。そして能力者の間で広まっているのは能力をコピーされ、毒を混入されると言うこと。ニグレドが知るのはその程度、基本の情報のみだ。
「直接見た者の意見として、相手は黒いマントなんて羽織って正体は全く判らなかったわ。それにあの速さは尋常じゃなかった」
「確かに。それにミーのとっておきも効かなかったデス。一体どんな攻撃が有効ナノか……」
「とは言え、今の状況だと敵に見つからぬよう距離を取って攻撃すれば良いんじゃ?」
 ニグレドの意見にジュジュと沙霧は顔を見合わせた。それが出来れば……苦労はないのだが。
「まぁ今は人数も多いし、やろうと思えば出来なくは無いと思うけど――面倒でも虱潰しに行くしかないんじゃない? 先ずは奪われた桂の時計を取るのが優先よね。移動され、万が一にでも見失えば元も子もないじゃない?」
「狙撃なら任せてくれよ。南雲も勿論だけどな」
「ウーン、もしかしてと思いマスが皆サンの主な武器って――?」
 言うや否やジュジュは持ち物の中から拳銃と銀の弾丸を出した。それに続いて沙霧が愛用の拳銃を出し、ニグレドもリボルバー――マテバ2006M――を出す。そして一同顔を見合わせ、沙霧とニグレドが同時に声に出した。
「拳銃ね」
「拳銃だね」
「大六サンもそうデシタしネ……翠サンも入れると全員で五人。難しいカナァ?」
 しかしジュジュが一人浮かべた苦笑に沙霧は拳銃をしまいながら言う。
「でもそれぞれ役割分担すれば心配もないでしょ?」
「確かに。人数が多いのは固より連携が大切だけど、事前にある程度話し合えば何とかなると俺も思うし」
「ソウなのだけど……ン?」
 しかしジュジュは唸ると同時、携帯電話を取り出した。マナーモードに切り替えていた長い震えは着信を知らせいたようで、ジュジュは二人に目を向け頭を下げると電話に出た。
「モシモシ?――ミーがソウだけど、もしかして結果……デスか?」
 電話の向こうの声にジュジュは笑みを浮かべた。結果というのはもしかしたら今回の事件について何か調べた結果なのかもしれない。
「それで、ナニか判ったことは……――……ソウ、デスか。それでも十分助かりマス、調査有難うございマシタ」
 一頻りの話を終えた後、ジュジュは電源を押し通話を切った。同時に出るのは溜息だ。
「何か判ったの?」
 沙霧の声にジュジュは彼女を見、頷いた。
「実は桂氏に関して気になっている点があって、その体に抵抗でもあるのかと思ってマシタが、体内に毒が入っていないことが判明しマシタ。つまり前回の桂の怪我は慌てて転んだとかそんなものダッタらしいデス……」
 ニグレドにとっては今一理解しがたかったが、要するにジュジュは桂という人物が敵の毒を受けても尚平気で居る所に目をつけたらしい。しかし結局怪我は自分でしたもので、敵からのものではない……毒など端から受けていないというオチだ。
 そしてジュジュは一旦言葉を切り僅かに俯く。
「デモ、その毒らしきものは皮膚に付着したままであったので検査した結果、血液中に溶け込むと有害を引き起こすことが判りマシタ」
 苦笑交じりに言うと、ジュジュが舌打ちしたようにも思えた。確かに頼りにしていたものが、新たな情報も掴めたとは言えほぼ無駄になった、それは悔しいと思う。しかしニグレドはポツリと、思っていた疑問を呟いた。
「つまりそれって、この資料にある爪ってので深く引っかかれた場合でも、掠り程度なら大丈夫ってこと?」
「イエス――後は敵自身の弱点でも判ればすぐ終わらせられるとは思いマスガァ……被害者を救える道はドコにあるか」
 するとジュジュは顔を上げるものの、言いながら右手の親指の爪を噛み資料にもう一度目を通す。
「あんまり考え込むと煮詰まっちゃうわよ。いざとなったら、私の知を飲ませてもいいと思うから」
 その提案にジュジュは疑問符を浮かべ沙霧を見た。
「私の血は死そのものだから。もし相手に飲ませることが出来れば、多分コピー能力なんかを消滅させることが出来るはずよ。もっとも、これは入れ知恵……だけどね。それにそれが必要なければ、私は端から後方支援に回る予定だから」
「俺はそうだな……これだけ人数が居ることだし、どうにかして敵を引き付けようと思うよ。誰の元へ行くか判らないよりは、俺の元へ来させて後はみんながどうにかする、それが一番手っ取り早いだろうし、多分それは俺が一番適役だからさ」
「ミーも一応接近戦を目論んでマスが、囮役が居るのはいいかもしれませんネ」
 そう、これからの戦いに備えた話が徐々にまとまっていくと、ジュジュは携帯電話を開く。今の話をまとめたものを壮司に送るのかもしれない。
「これでよしとっ……とにかく相手は厄介デスよ、くれぐれも気をつけてクダサイ」
 携帯電話を閉じたジュジュは、そのままニグレドを見、念を押してきた。まぁ、経験者の忠告はありがたく頂くものだと、ニグレドは素直にそれを受け止める。
「了解! それじゃあ後は個々で時間を潰すか。手間取らせて悪かったね」
「気にしなくていいわよ。じゃあ、又後でね」
「バァーイ」
 そしてニグレド、沙霧、ジュジュは興信所を出、それぞれはビルの下で別れる。それはまだ――陽の落ちきらない時間だった。

    ■□■

 軍人として現場へ向かうその時間にルーズなのは問題外だ。
「ぁ゛……早すぎたか?」
 集合時間一時間前、流石にそれらしきバスはこの東京駅近辺に無く、ニグレドは思わず苦笑いを浮かべた。
 しかしそれから十数分、文字やカラフルな色使いなど全く無いバスがニグレドの前で止まり、前ドアを開けた。
「……乗る客があらかじめ判ってるのかな?」
 呟きながらニグレドはバスに乗り込むと、真っ先に後部座席を目指しそこに落ち着いた。
「とは言え、時間が有りすぎるんだよな」
 言うなり読書灯を点け、徐にマテバ2006Mを取り出す。珍銃等とも言われる物だが、常に整備にしているニグレドの武器の一つだ。
「――ん?」
 どれ程の時間そうしていたのか、前のドアに気配を感じ、それと共に声が響く。
「もう誰か来てんですか?」
 顔を上げると、薄暗い車内の前に壮司の姿を見つけニグレドは通路側に顔を出す。
「ん? あぁ俺一番で、まだ他はいないよー」
 時計を見ればまだ集合時間三十分前、どう考えても集まりなどそんなものだろう。壮司は入るなりバスの中間席辺りに腰を下ろす。
 結局集合時間十分前に沙霧が現れ、既に乗り込んでいた男二人に驚くと、集合時間五分前にジュジュが既に集まっている三人を見て笑いながら乗り込み、バスは集合時間である二十二時、東京を離れた。
 その後ろ、二台の車がぴったりと後を追う。それは大六とその連れの車である。
 バスの中での会話は殆どといっていいほど無く、ただ出発から少し経ったところで、ジュジュの携帯電話がメールを受信していた。
「――皆サン、今羽翼から連絡入りました」
 そしてそれを読み終えたのか、一番前の方に座るジュジュはわざわざ椅子から立ち上がり、車内に居る全員を見渡し言う。
「相手は体内に蚊を飼っているソウデス。そして、黒いマントが多分邪魔だと。弾はどうかわかりませんけど……そのマントのせいで様々な能力が無効化されてる可能性が高いデス」
「蚊を飼うマント野郎…か。どうするか、な」
 ジュジュの言葉にニグレドは一人呟き窓の外を見た。その先には時折流れていく小さな灯り。
 岩手まではまだ長い長い道のり。やがて車内は元々人数も居ないこともあり、静まり返り、ただニグレドの上で読書灯だけが灯っていた。

 そして数時間後、止まることの無いバスは岩手県突入。羽翼が今居るという市街地から僅か外れた場所まで推定時間一時間。そこでニグレドは南雲に最後の連絡を電話でいれる。
「あと一時間ほどで着くってよ。これよりミッションスタート、携帯電話は不要、んじゃな」
『了解』
 そして電話を切り終わると同時、ニグレドの表情が変わった。その変化は今を機に、完全に気持ちが切り替わったという合図。勿論今まで真面目に参加していなかったわけではないのだが……。
「さて、ナグモ……準備は十分整ったか?」
 そしてまだ遠い彼に、聞こえもしない言葉を呟き笑みを浮かべた。

    □■□

 ジュジュたちが現場へ到着する少し前、再び羽翼と南雲から相手の移動が報告された。
 廃墟を出て向かうのは市街地を軸に間逆の方向へと移動しただけではあるが、後から車で向かっている五人が先に現場へ向かい、最初に到着していた二人はバスのある場所まで一旦戻り、後を追うことにした。
「それにしても、今のところは時計を使うことはないみたいね?」
 ぽつりと沙霧が呟きジュジュが頷いた。羽翼の連絡によれば、相手は桂の時計を使うことなく、飛行移動をしているらしい。
「飛べるっつうのは吸血鬼からきてるのか、蚊からきているのか……」
「とにかくこの辺にいるんですね……とっとと出てこないんですかね、そいつは。俺が見事なまでの蜂の巣にしてあげますよ!」
「ウーン、確か連絡によるとこの辺りで……!? っ、隠れてクダサイ、正面デェス!!」
 壮司と大六の声を聞きながら辺りを見渡すジュジュは、正面のやはり廃墟といえる場所に立つ影を見つけ、小さいながらも声を荒げ、一斉にバスの陰や近くに立つアパートの影に身を隠す。
「――幸い、こちらには気づいていないようだな……それにしてもナグモはまだか!?」
 はやる気持ちを抑えながらニグレドは時計に目を向けた。計算上ではそろそろ他の二人も到着するはず。南雲から現場到着と同時、入るはずの無線機を横にニグレドは廃墟を横目で見た。
「あれは正面から乗り込んでくしかねぇか……?」
 その近くに佇む壮司がああだこうだとぼやいている。
「幾島サン、取りあえず全員揃ってからの方がいいデスよ。ユーのミッションも尊重しマァス、だからもう少しダケ……」
「結局順番的にはどうなんですか? 向こうの二人も気になりますが、俺的には早く終わらせたくてですね?」
 そして苛つく大六を横目で見た沙霧が、苦笑交じりに言う。
「今更これを相談ってのも遅いと思うけど……私は前に出る予定は無いから」
 言うならば移動中にすることでもあったが、見事にばらけた状況でその点に関しての話題が最終的に挙がらなかったのが悔やまれる。
「ダイジョーブ、アイコンタクトデェス!」
 そう、ジュジュが言ったところでザーッと、何かノイズのような音が響く。
「――ナグモからの連絡のようだな」
 そういうニグレドの口調は、昼間に会ったちゃらんぽらんそうな彼とは打って変わっていた。
『――待たせたなニグレド。今現在現場に到着した所だ。今そちらとは反対側に居る、バスの陰だけは伺えるがその辺りに居るんだな?』
「そうだ……もっとも今はアパートの陰に隠れているが。……さて、今回のミッションをもう一度確認する」
 南雲の言葉にニグレドは頷くと、一旦言葉を切り俯きがちだった顔を上げた。
「君に依頼する任務は一つ、異能力者連続通り魔事件の犯人を抑止する事。武器は何でも構わない」
 そう言うと、向こう側では一瞬の沈黙が訪れた。通信が途切れたわけではなく、南雲自身がニグレドの言葉の意味に疑問を持ち、すぐさまの返答が出なかったようだ。そんな南雲にニグレドは先手といわんばかりに言葉を続ける。
「暗殺とは計画を練って人の不意を突いて殺す事さ。君と私のミッションにその言葉は不適切だ」
『――……了解。では予定を変更して狙撃態勢に修正、これよりミッションに入る』
 その南雲の返答と同時、通信は彼から切られた。
「悪いが最初は私とナグモが行かせて貰う。状況によっては足止め程度にしかならないかもしれないが……仕留める方向ではいる」
 言いながら無線機をしまうと、ニグレドはマテバ2006Mを出し、銃口は上向きに構えてみせる。
「とは言え皆それぞれの考えを持っているようだからな……間を見て幾島やミュージーも飛び込んでくるといい。ナグモも私も無関係な者を撃つようなヘマはしない」
 そして最後に笑みを浮かべると、隠れていたアパートの陰から飛び出し、一気に相手の下へと掛けていく。
 相手のいる場所は元は二階建て一軒家だったのだろう。しかしその大きさと外観は西洋屋敷を思わせるものだった。そんな屋敷の半分落ちた屋根に向かうべき相手はいた。そして相変わらず黒いマントを羽織ったまま、ただ夜空を見上げているようにも見える相手にニグレドは声を上げる。その言葉に意味は無く、ただ相手を引き寄せるもの。
「――能力、者……?」
 ニグレドの声に相手はゆっくり振り返る。
「さぁ、それはどうだか」
 相手の声にニグレドは冷静沈着に答えた。今此処で易々と正体を明かすような真似はしない。
しかし対面した相手は小さく、そしてその声は幼く聞こえた。確かに壮司の資料どおり少年なのだろう。暫しそのままでいると、相手は屋根からふわりと降り、この地に足を着けニグレドと対面した。
「お兄さんは……お兄さんの血は美味しい?」
「……さぁ、私はその手の事に興味が無く知ったことじゃないね」
 楽しそうに言い近づいてくる相手に、ニグレドは怯むことなくその場に静止を続ける。しかし勿論その右手にはマテバ2006Mが握られている。
「……なら俺お兄さんの血が欲しいよ、頂戴? でもね、その前に名前を教えてよ。名前位は覚えておいてあげるよ――この世の最後に俺が覚えてあげるからさ」
 じりじりと、二人の間が詰まる。
 ニグレドの視線が僅かにずれ、その目がマンションの屋上へ登った南雲を捉えた。刹那、相手はニグレドとの距離を一気に詰める。確かにその速さは聞いていたが、予想以上のもの。
「っ、私の名か……」
 ただ真っ直ぐに突っ込んできた相手をかわし、その背にニグレドは言った。
「Special operations NIGHTMARE DOLL……」
 言いながら右手のマテバ2006Mを、西部劇で見るかのように素早く回す。
「ち……血」
 そして自分の横を通り過ぎて行った相手の振り返り様、ニグレドの表情は冷たくも、口の端に僅かな笑みを浮かべ言った。
「――ニグレド・ジュデッカ」
 言い終わると同時、引き金に掛かっていた指は素早く発砲体勢に入る。銃の構造ゆえ発砲後銃口が跳ね上がるという反動は少なく、ニグレドは素早く銃を左手へ持ち帰ると右手を前に出し、その掌は宙を泳ぐように――そしてその動きに合わせ銃弾の軌道が変わる。
 ニグレドが持つ能力の一つであるが、回避運動計算を無視する効果があるため、それは回避不可能とされていた。
 銃弾は上下左右と、ニグレドの手の動きに合わせ相手を掠めたり目の前を通過したりと、すぐさま相手の脚を止めさせた。
「ダンスパーティーは……この辺で終わりにしようか?」
 ふっと、ニグレドが表情から笑みを完全に消したとき、その手が相手を捉える。それが意味することはただ一つ。
「ニグレドさん、血を…俺に――っ!?」
 マントの下から伸ばされるか細い少年の手。しかし、それはニグレドに届く前、地に向かい落ちていく。
「ワオ!!」
 今の瞬間を丁度目撃したらしいジュジュが思わず声を上げる。それもそのはず、なのかもしれない。目まぐるしく軌道を変えていた銃弾は、今この瞬間相手の背から致命傷は避けたものの、暫く動けないであろう場所に命中した。
「私達を相手に勝算など無いだろう……大人しく諦め――っな!?」
 しかし、ニグレドの冷静沈着な声が唐突に驚きの色を含む。
「血……又、足りなくなっちゃったじゃないですか……ニグレドさん」
 相手はそのマントの下からぽたぽたと血を流しながらも、倒れることなくその場に立っている。
「折角此処まで補給するのにどれほど掛かったか――一人じゃ足りず、二人でもダメで」
「ちっ……」
 小さな舌打ちと同時、ニグレドの視線は南雲へと向く。彼と目が合うと同時、今度は連続した銃撃音がこの普段は平和であろう穏やかな町に響いた。狙撃というだけに、銃弾の全ては脚を狙ったものであり、一気に相手はバランスを崩す。
 その様子に壮司がアパートの影から姿を現した。彼は素早く相手の横へと移動すると、僅かにサングラスをずらし、そこから金色の眼が垣間見える。
「――……あぁ、こないだの。あの傷程度ならやっぱり生きてたんですね」
 少年の声がそう言うなり、その体からはカランカラン…と弾丸は零れ落ち、滴り落ちる血さえあっという間に止まり――不敵に笑った、ように見えた。相手の話によると、壮司は前回傷を負わされていたらしい。
「おっと、面白すぎる回復能力じゃねぇかよ……俺よりも有能で早い。もっともその能力は、本来の物みてぇだけどな」
 対抗するのかどうか、壮司も笑みを浮かべながら左眼を光らせる。
「そうか……この能力はそう使うものか。とは言え、俺にこんなものは必要ない――いや、能力なんて……あってもしょうがない」
 声は悲しく、しかし低く。
 吹く風が、散々の銃弾により穴の開いたマントを揺らす。
「あってもしょうがない? っても、あんたが散々能力をコピーしてんるのは事実だろ」
「――こんな能力……あなたは好き好んで手に入れたとでも思うの、ですか?」
 唐突に、それは唐突に。少年の声色が悲しみを帯びた。
「……どういう、ことだ」
 壮司の言葉と同じ意味をニグレドも心の中で反芻する。
「俺はただ血が欲しいだけで…例え許されないことだとしても――っ!?」
 しかしその瞬間、相手の体は跳ね、目が大きく見開かれるとがっくりと膝を突く。
「幾島サン! 悪いけど今のうちに少し弱らせマァス!!」
 声に出すはジュジュで、素早く二発目を発砲する。攻撃法は単純ながらも使っているものが違うらしい。一発目を背に受け膝を追ったままの相手に、二発目の弾は呆気なく命中し、その身はただゆっくりと地へ落ち、それでも尚止まぬ発砲音。ジュジュに続いたのは沙霧で、その銃口の向かう先は勿論相手だが、撃った物は意外なものだった。
「誰かその、桂の時計拾ってっ!!」
 そう、皆の視線が向かうは相手の手を離れ今は宙を舞う懐中時計だが、それはすぐさまキャッチされ、羽翼が不敵な笑みを浮かべていた。宙を舞うそれを取ったのは彼のデーモンヘブンリー・アイズだ。今まで調査を行ってきた羽翼の相棒であり、素早さと分析力を誇る。
「これでもう逃げられんだろぉ」
 ガハハと、いつの間にか上がったのか、羽翼はアパートの屋上に登った南雲の隣に仁王立ちで居た。
「おいおい……どうでもいいんだか悪いんだか、こっちもどうにかしろってんだ」
 壮司の声に前を見ると、相手の足元はおぼつかないながらもまだ立ち上がる。
「……誰も…誰も俺を判ってなどくれない……だから…一人で生きてきたと言うのに」
「その場を離れろ!!」
 そんな少年の声と南雲の声が重なった。
 最も相手の側に居た壮司、そして次に近いニグレドは南雲のほうを振り返り、彼が構える物騒なものを見ると同時、反射的に身を飛ばすが、それと同時に巻き起こった爆風に飛ばされる。
「――っ、ナグモ…FIM92スティンガーを使ってきたか……あんなものでは最早狙撃ではなく」
 それでも、その言葉を言い終わる前、ニグレドは目の前の光景に目を見開く。
「馬鹿な……FIM92スティンガーでは足止めにすらならないというのか!?」
 しかし一番驚いたのは撃った本人だろう。FIM92スティンガーは赤外線探知を装備している為、ロックした相手は逃がさない。おまけにヘリコプターを平気で打ち落とすものが効かないとなると、何がそれを防いだと言うのか?
「ったく、面白い能力をコピーしたものだな」
 言いながら壮司は服についた埃を叩き立ち上がる。どうやら彼は今の謎に気づいたらしい。
「ようやく判った……毒はあんたが持ってるんじゃない。そのコピーした能力に潜む蚊が持っていた」
「今更それが判ってどうする!?」
「少なくとも色々参考には、な」
 サングラスを押し上げ、口の端を上げる。
「オラァ! もう俺は我慢できませんよ!!」
「あ゛!?」
 しかしそこに乱入するは大六と、今この瞬間何処からか出てきた殺し屋集団十人。彼らは一直線に相手へと向かい、殺し屋集団は連続で発砲、大六にいたってはデーモン『ホーニィ・ホーネット』を使役した。大きさ5Mともいえる巨大な女王蜂型デーモンは、小型の蜂型戦闘機の戦闘端末を無数に繰り出し、その全てが相手へと向かっていく。
「お、おい!! もうこれ以上は相手を刺激しない方が!?」
 壮司が静止させるよう声を発するが、全ては爆音と発狂する大六の声にかき消され、ニグレドに至っては爆風ついでに距離を取り、今の状況をオモシロ半分観察する。
 だが、激しい銃声の続く中、唐突に強い風が吹き荒れた。砂煙が巻き上がりニグレドは思わず腕を前にかざし方目を瞑った。先ほど南雲が撃った以上の何か強い力が働いている。
「っ、ふざけるな! 誰も俺を理解しないし、俺に何か願うことなんてないんだ、父さんも母さんも……みんなそうだ!!」
 気がついたとき、相手は壮司に強く束縛されながら、もがき足掻いていた。一体どういうことなのか……壮司の腕だけが人ならざるものに見える。しかしそんな壮司が相手の耳元で何か話し始めると、徐々にその動きが止まりやがて静止した。
「……?」
 まさかとは思うが話で解決できる相手だったのか? ニグレドが思考を巡らせていると、壮司は沙霧の名を呼び、彼女も交え三人での話を始めた。するとバスの陰に居たジュジュがゆっくりと此方へと向かってくる。
 目の前の三人はなにやら話を終えたようで、沙霧の差し出した手首に相手が喰い付き、その喉を鳴らし始めたようだ。血を飲ませるのはそれをコピーすると言うこと、加えて体に毒が周ることを意味していたはずだが、相手は沙霧の手首からそっと口を離し、顔を上げる。
 その時、捕縛を続けていた壮司がゆっくりと黒いマントを後ろから剥がし、今回の犯人とも言える人物が露にされた。そこから現れるは小柄で、確かに十五歳ほど、金髪の少年。その目鼻立ちは良く整い、ハーフのように見える。
「――……ありが、とう」
 彼は最後に、それはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。

 やがて朝日が雲の切れ間から顔を出す。気づけば今朝は雲が多く、太陽は既に昇っていた。

    ■□■

「おっ、あの記事が載ってんだ……しかもこれ書いたの鷹旗って――あの人か?」
 事件解決から数日後、ニグレドは呟きながら熊のような男を思い出す。
「……これ、見せ行くか」
 そう、月刊アトラス最新号を手に取り部屋を移動。

「あれで任務終了――か」
「ん、なんか俺の指示が気に入らなかった?」
 食堂でぼうっとしていた南雲にニグレドは持ってきた本を渡し、その反応が今のものだった。その声色は喜びというより、複雑な色を帯びている。
「いや、別にそうじゃない。ただ……今一実感が無い」
「あの時も少し言ったけど、普段からさ?シミュレーションなんかで止めを刺すのが実戦での全てじゃない……んなもんでしょ?」
「――なのか?」
「うんうん…、多分な」
 言いながらニグレドはテーブルに突っ伏し、そのまま眠ろうとした。
「弱者――強さ、結局あいつは弱者だったのかどうか……俺には良く判らないな」
 南雲が声に出すと突っ伏したままのニグレドは「俺にもわかんないからさ、別にいいじゃん」、そう言いながら南雲に垂直にした掌を横に振って見せた。
「……そうか」
 半ば呆れたような、笑いを含むような声で南雲はその本を机に置き、椅子から立ち上がる。
「何処行くんだ?」
 ニグレドの声に南雲は顔だけ振り返る。
「手入れをな。次の任務が何時だ何て予想もつかないけれど、何時如何なるときでも……ってな」
「そっか。じゃ、な」
 そう、ひらひらと掌を此方へ向け手を振ると南雲は食堂を出て行った。
「……キミは時に恐ろしいことを考えながらも、優しく…強い意志を持ってんだね」
 机に突っ伏したまま、ニグレドは小さく呟く。
 それは憧れのような、それでいて危なっかしいような。しかし確かに兵士としての完成度は高いと言うしかない。
「次の任務が楽しみだよ」
 フッと、目を閉じその口には笑みを浮かべた。
 窓から差し込む太陽は暖かく、そこでの昼寝はミッションや銃声、叫び声……そんな慌しく時に激しい戦闘風景の全てを忘れさせる、至福の一時の気がした――…‥


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [0585/ジュジュ・ミュージー/女性/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)]
 [0602/   鷹旗・羽翼  /男性/38歳/フリーライター兼デーモン使いの情報屋]
 [0630/  蜂須賀・大六  /男性/28歳/街のチンピラでデーモン使いの殺し屋]
 [3994/  我宝ヶ峰・沙霧 /女性/22歳/摂理の一部]
 [4279/   翆・南雲   /男性/25歳/NIGHTMARE DOLL隊員]
 [4240/ニグレド・ジュデッカ/男性/23歳/NIGHTMARE DOLL隊員]
 [3950/  幾島・壮司   /男性/21歳/浪人生兼観定屋]

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■         ライター通信          ■
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 という事でお疲れ様でした! ポンコツライター李月です。
 遅くなりまして大変申し訳ありませんでした!! 今回は様々な初めてづくしに、様々な不調が重なり一部納品がずれ込んでしまいました。本当にすみませんでした。
 何度か途中途中の見直しはしているのですが、前部隊も色々やってしまってますので、此方でも何かありましたらどうかご連絡、若しくはリテイクくださいませ。
 ほぼ全てが皆様の視点となっていますので、共通であるはずの戦闘部分もそれぞれ大幅に違う状況となっています。他の六名様を見るのは不可能に近いですが、相手に近いほど情報を得ている…と言う状況ですので、そちらだけ確認していただければ真相が見えてくると思います。
 尚、前部隊とはやや展開が違っています。此方はとにかく色々ぶっ放した状況ですね……。
 なかなかにまとまりがなくなってしまいましたが、何処かしらお楽しみいただけていれば幸いです。
【ニグレド・ジュデッカさま】
 はじめまして、このたびはご参加有難うございました。
 ニグレドさんの方は普段のちゃらんぽらんな感じと、任務時の口調の違いが楽しかったです。一応話し合いの時点ではまだ任務(作戦時)ではなく、任務で無い以上は南雲さんへの連絡も携帯電話で。どこから任務なのか、あやふやにしてしまいましたが、気持ちの切り替え→口調変化に伴い通信手段を無線機に変更しました。解釈が間違っていましたらすみません。ご指摘いただければと思います。
 個人的に好きな男性でしたので、もっと書きたい気持ちが有りましたが叶わず……ともあれ、南雲さんとの変化をお楽しみいただけていればと思います。

 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼