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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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『絵画は呼ぶ』
■オープニング
その日、アンティークショップ・レンには一人の初老の男性がいた。
お得意様と言ってしまえばそうなのかも知れない。よく来店するこの男性は、値札も見ないで高いアンティークをちょくちょく買っていく。
「これは素晴らしい。」
そう漏らす視線の先には、壁にかけられた大きな絵があった。
豪華な椅子に座り、レースの沢山ついた洋服を身にまとい、柔らかく微笑んでいる少女とその隣に立つ杖を持った紳士。
全体的に柔らかな色彩で書かれたこの絵は、高そうな金の額縁に飾られていた。
「本当に素晴らしい。」
彼は再びそう漏らすと、蓮の方を振り返った。
店主の碧摩蓮は、座っていた椅子からゆっくりと立ち上がると不敵な笑みをたたえた。
「それかい?なかなか目が高いね。」
「これはお褒めいただいて。それで、いくらなんだね?」
「それなりに・・・」
「そうか、金ならいくらでも払おう。」
彼は持っていた革の鞄からそれなりに厚みのある封筒を数枚取り出した。
「それは前金だ。この絵画も・・何かあるのだろう?」
蓮はゆっくりと視線を絵の方に向けた。
絵の中の少女と一瞬だけ目が合う。少女はゆっくりとした動作で笑む・・・。
「分かったよ。なんとかしよう。」
蓮はそう言うと、くるりと彼に背を向けた。
「それでは、解決した折にまた来店させて頂くよ。」
彼はそう言って蓮に軽く会釈をすると、ドアの鈴を鳴らして出て行った。
蓮は小さくため息をつくと、受話器を手に取った。
知り合いで、こんな事を頼めそうな人達に片っ端から電話をかけていく・・・。
「あたしだけど・・・ちょっと割りの良い仕事、してみないかい?」
□海原 みその
その日、みそのは散歩を楽しんでいた。
黒いゴシック調のアンティークドレスに身を包んだ彼女は、町行く人々の視線を釘付けにしていた。
黒くしなやかに伸びた黒髪は長く、白い肌は黒に良く映え、整った顔立ちは妖艶さを漂わせている。
・・・と、しばらく歩いた所でみそのはふと足を止めた。
アンティークショップ・レン。
この店の中から、みそのは確かに面白そうなものが“みえた”。
ゆっくりと、口の端を少しばかり上げるとみそのは扉に手をかけた・・・。
■アンティークショップ・レン
店の中には、店長である蓮ともう一人男の人がいた。
「おや、みその。どうしたんだい。」
「なんだかとても面白そうなものが“みえた”ので立ち寄らせて頂きましたわ。」
「その、面白そうなものって言うのはコレの事かい?」
蓮が壁にかかっている絵画を叩く。
絵画の中の少女は、なおも微笑んでいる。
「えぇ、これです。蓮様、これをどこで見つけられたのでしょうか?」
「それは、企業秘密だね。」
蓮はそう言うと、側にあった椅子に座った。
ゆっくりと煙管をふかす・・・。
「それでは、これはいつ描かれたものなのでしょうか?」
不意に、絵画の前に立っていた男が声を上げた。
みそのは知っていた。彼の名を・・。
「セレスティ様もいらしてたのですか?」
「えぇ、呼ばれましてね・・。」
セレスティはそう言って僅かに微笑むと、蓮の方に向き直った。
「これがいつ描かれたのか、正確には知らないよ。ただ・・・中世ヨーロッパって言うことだけは絵を見れば分かるね。」
確かに、少女のまとっている服も、座っている椅子も現代のそれとは違う。
黒髪の少女の顔は東洋風だ。しかし瞳だけが青く輝いている。
その隣に立つ紳士は白髪の髪と琥珀の瞳だ。こちらは少女と違って西洋風の印象を受ける顔立ちだ。
「お二方・・・いらっしゃるのが見えます・・・。お嬢様とお爺様でしょうか・・・?」
「そうですね・・・一人の方はとても繊細なお心の持ち主で、もう一人の方は・・・。」
その時、セレスティとみそのは同時にあるものを感じていた。
それは・・・何処かに引き込まれるという感覚・・・。
一瞬の出来事だった。
ぐるぐると回る空間に投げ出された二人は、なす術もなくその流れに乗るしかなかった・・。
「ま、二人で頑張ってきて・・・。」
蓮はそう言って微笑むと、先ほどまで二人がいた場所を眺めた。
別に、危ない仕事ではない。ただ少しだけ『彼女』の話に耳を傾けたげれば良いだけ。
蓮は絵画の少女が誰なのか知っていた。
そう、誰なのか・・・。
□絵の中の少女
そう、それは洗濯機の中のような感覚だった。
グルリグルリと回される中で、遠くなって行く世界を“みていた”。
さて、どこに行くのかしら?
なんてのん気に言っていられる余裕はあまり無かった。なにしろ、こうも音速で回されるのだ。何も考えないようにする以外に出来ることはなかった。
これが光速になったらきっと終わりだわ・・・。
なんて、思う余裕なんて無いはずだったが、みそのは確かにそう思った。
グルリグルリグルリ・・・。
クルクルクル・・・。
それが急に止まったのは、ほんの数十秒後の事だった。
止まったと思った瞬間には、みそのは地面に投げ出されていた。
と言っても、衝撃はほぼ無かった。音速の回転のわりに地面に落ちたときの感触はふわりとしていた。
「あっれぇ〜!?お客さん!?めっずらすぃ〜!!」
穏やかで、温かな波動・・・。
みそのは声する方を見ると、声の主をゆっくりと“見た”。
「貴方は・・・。」
「あ、あたしの名前はペパーミント・キャロレイン・ディークヮーサー・ヘレナ・オズベルト・カンガロウエル・プリンよ。」
・・・・やけに長い。
普通はそう思うはずのところを、二人はそうは思わなかった。
「貴方達は?見たところ・・・普通の人ではないようだけど。」
「はい。わたくしの名前は海原 みそのと申しますわ。ペパーミント・キャロレイン・ディークヮーサー・ヘレナ・オズベルト・カンガロウエル・プリン様。」
「え・・・あの、ちょ・・・」
「私の名前はセレスティ・カーニンガムと申します。ペパーミント・キャロレイン・ディークヮーサー・ヘレナ・オズベルト・カンガロウエル・プリンさん。」
邪気のない笑顔で微笑まれ、ペパーミント・キャロレイン(以下略)は困ったようにため息をついた。
「あの、その名前長いから・・・ペパーミントって呼んでくれないかな?」
「分かりましたわ。ペパーミント様。」
「うん、それで貴方達は、ここに何しに来たの?こんな辺ぴな所に。」
「実は、ある依頼からここに来たんです。この絵画を今度購入したいと言う人が現れて・・。」
「あぁ、気味が悪いから退治してほしいって言ってきたのね?」
セレスティの言葉を遮ったペパーミントは、キャラキャラと笑いながら言った。
セレスティとみそのは困ったように顔を見合わせた。
「そう言った、追い出すというような事はしませんよ。ただ、どうして君がここにいるのかを知りたくて・・・。」
ペパーミントは困ったように微笑むと、空を仰いだ。
「あたしも、それは知りたい。なんで・・・。」
その瞬間みそのは確かに“みた”。
ペパーミント以外の人を・・・そう、多分あの肖像画の紳士を・・・。
『なんでお爺様があたしをここに閉じ込めているのか・・・』
みそのは周りを見渡した。
広い緑の庭園、白いテーブルと椅子、そして・・・大きなお屋敷・・。
その全てから“流れて”来るものは深い悲しみ。
「セレスティ様・・・これは・・・。」
「この場所全体が深い悲しみに包まれているようですね。これはどうやら・・・。」
「ペパーミント様、お爺様がどこにいらっしゃるのか、ご存知でしょうか?」
「え・・・お爺様?屋敷の中にいたと思うけど・・・。」
「一度、お爺様と話されてはいかがですか?なぜここに留まり続けるのかを・・・。」
みそのが優しく言うと、ペパーミントが軽く頷いた。
「そうね、いい加減このノロノロした生活にも飽きてきたし!みそのちゃんと、セレスティさん、一緒に行ってくれませんか?」
セレスティとみそのは頷くと、ペパーミントと共に屋敷の中に入っていった。
屋敷の中はそれなりに綺麗だった。
年代ものらしき骨董品の数々があり、その全てに手入れが行き届いていた。けれど、その全てから“みえる”は深い悲しみだった。
なんて、美しい悲しみをまとった屋敷なのだろうとみそのは思った。
深い悲しみ・・・けれども、それは美しく輝く悲しみの色だった。
全てが悲しみに染まる中、ぺパーミントだけが凛として異彩を放っている。
彼女からは明るい色しか感じられない。
まさに、この屋敷の中に咲く1本の鮮やかな華だった。
「ここがお爺様の部屋よ。どうぞ中に・・・。」
ペパーミントがドアノブに手をかけ、ゆっくりと内側に押す。
中に広がる光景は、あの絵画の光景と同じだった。
全体的に茶色っぽい色彩の中で、椅子の脚だけが金色に輝いている。
「お爺様・・・」
「ペパーミント、そちらの方は?」
「えっと、海原みなもさんとセレスティ・カーニンガムさんです。」
「ほう、深淵の巫女と水霊使いか・・・。」
その言葉に、みそのとセレスティは固まった。
ただの絵に住んでいるお爺さんという訳ではない様だった。
「なぜ、その事を・・・?」
「気だよ。あなた方二人も視力が弱いように思うが・・・違うかね?」
「それでは、お爺様も視力が?」
「あぁ、そう。随分と前に視力をなくしてしまってね。今では人の放つ気だけが全てだ。」
紳士はそう言うと、ゆっくりと椅子から立ち上がりみなもとセレスティの前に手を差し出した。
「私の名前はグランディー・オズベルト。ペパーミントの祖父だ。」
みそのはごつごつとしたグランディーの手をとると、軽く握手を交わした。
その手に体温は無かった。
「グランディー様、一つ聴きたい事があるのですけれども・・・どうしてペパーミント様をこの絵画の中に閉じ込めておくのでしょうか?」
「そうです、自身までも絵画の中に入り・・・。何か心に残っている事でもあるのですか?」
セレスティの言葉に、グランディーは小さなため息を漏らした。
深く、深く・・・。
「少し、お話したい事があります。ペパーミントは外で待っていてくれないか。」
「・・・分かりました。」
ペパーミントが出て行く。その後姿を見つめるグランディーの瞳は何処か寂しそうだった。
「それで、話とは?」
「実は、お二方にお願いしたいことがあるのです。」
「お願い・・・ですか?」
「はい。あの子、ペパーミントは産まれた時から心臓の弱い子でした。けれど・・・なんと申しますか、あの調子で・・・。」
外の方からは、ペパーミントの甲高い笑い声が聞こえてくる。
とても心臓が悪そうには思えない・・・。
「あの子には友達がいなかったのです。13年間、ずっと家の中で窓越しに眺める景色だけが唯一の世界でした。」
その時、みそのの胸に『あの世界』が蘇った。
暗い暗い・・・ほの暗い底。
御方の事・・・。
「ペパーミントは亡くなる一週間ほど前にこう言っていたのです。」
『私が元気ならお茶会でも開いて友達と一緒に青空の下で笑いあっていたのに・・・』
「と、そう言っていたのです。」
私が元気なら・・・。その仮定は、悲しいまでに切実な願いだった。
誰しも何らかの形で『もっと』を求める。
もっと幸せに、もっと楽に・・・。
けれど一番純粋で当たり前の願いほど、強く願う。
『みんなと一緒なら・・・』
誰しもが思う、切ない願い・・・。
「私は、ペパーミントの願いを叶えてやりたかった。もし、別の人に生まれ変わって今度こそは元気な身体を手に入れたとしても、その時にペパーミントとしての生涯を悔いて欲しくは無いんです・・・。」
グランディーの頬に一筋、雫がこぼれた。
あまりに切実な願い。
この絵画の中で過ごしてきた長い時の中で、グランディーはペパーミントの最期の願いだけを胸に抱いていた。
外から、みそのやセレスティーのような者達が来る事を祈りながら、ずっとずっと・・・。
「これは、素敵なお茶会を開かなければなりませんね。」
ややあってから話し始めたセレスティの表情は柔らかだった。
その言葉に、みそのも力強く頷く。
「そうですわ。ペパーミント様の最初のお茶会ですもの、とっても素敵なものにしないといけませんわね。」
外はまだまだお茶会日和・・・。
■白いテーブルクロスとダージリン
晴天の中、グランディーがどこかから持ち出してきたクッキーとダージリンディーを白いレースの付いたテーブルクロスの上に置く。
丸い小さなテーブルに四つ椅子を並べて、みその、ペパーミント、セレスティ、グランディーの順で時計回りに席に着く。
ほのかに香るダージリンの香りと、甘いクッキーの香り、そして綺麗な空気。
その全てが絶妙に混じり合い、その場の空気を柔らかいものにしている。
「ねぇ、みそのちゃんは兄弟は?」
「おりますわ。下に・・・ペパーミント様はいらっしゃるのですか?」
「あたしはね、お姉ちゃんが一人だけいるんだ。」
「お姉さんですか・・・どんな方なんですか?」
「そうだなぁ、セレスティさんに少し似てるかな?瞳の色がそっくり。」
ペパーミントがセレスティの瞳を覗き込む。
「でもね、話し方はみそのちゃんに似てるかな?」
「わたくしの・・・ですか?」
「そうそう、その話し方。お姉ちゃんも自分の事『わたくし』って言うのよ。まぁ・・・あたしは『あたし』だけどね?」
「・・・ペパーミントが間違っているんだよ。普通は『わたくし』を使うものなんだ・・・。」
グランディーのため息交じりの声に、ペパーミントが笑う。
「だって、あたしはあたしだもの。」
キラキラと笑う彼女を見ながら、みそのは柔らかい波動の中で可愛らしい妹の事を思い出していた。
大切な、大切な妹・・・。
「それにしてもみそのちゃんの髪の毛綺麗ね〜。黒くてしなやかな黒髪。良いなぁ〜。」
「そうですか?わたくしはペパーミント様の柔らかな金の巻き毛の方が素敵だと思いますわ。」
みそのが美しく微笑む。
あまりに美麗な微笑みに、ペパーミントは少々顔を赤くしながらダージリンの入ったカップを持った。
「本当、セレスティさんも美麗な顔立ちですよね〜。なんだか、すっごく豪華なお茶会だなぁ〜。」
「ペパーミントさんも、十分お綺麗ですよ。」
さらりと言ってのけるセレスティの顔をまじまじと見つめたペパーミントは、ダージリンを一口口に含んだ。
柔らかく、温かく微笑む・・・。
お茶会の終わりはあっと言う間だった。
楽しかった時間は早い。
後片付けも済んだ頃、グランディーがみなもとセレスティを呼んだ。
庭の隅、外でなおもはしゃいでいるペパーミントからは死角になっている場所に3人は集まった。
「この度は、私とペパーミントのためにありがとうございました。これで、心置きなく行くことが出来ます・・・。」
「この絵画に留まると言う事はなさらないのですか?ペパーミント様とグランディー様がいてこその“絵”なのではないでしょうか・・・。」
「・・・そうですね。けれども、きっとカレはそれを望んではいないでしょうから・・・。」
「カレと申しますと?」
セレスティの問いには答えずに、グランディーは微笑んだ。
様々な謎を含む笑いを感じながら、二人はグランディーの気がかき消されようとしている事を感じ取っていた。
「貴方方には、お礼を尽くしても言い足りないくらいです。本当に、本当に・・・。」
「グランディー様・・。」
「グランディーさん・・・。」
二人が“見つめる”中、グランディーは優しい光を残したまま淡く消えた。
押し黙ったまま動かない二人の後ろから、ペパーミントの声が切なく響く。
「お爺様は行ったのね・・・。」
「ペパーミント様も、行かれるのですか?」
「うん、あたしはお爺様が望む事を叶えるまで一緒にいるつもりだったから。」
その応えに、みなもは全てを真相を見た。
グランディーはペパーミントのためにこの絵画の中にとどまり続けた。
ペパーミントはグランディーのためにこの絵画の中にとどまり続けた。
どちらもが相手のためを思って作り上げた空間。
だからこの場所は悲しいようで温かな場所だったのだ・・・。
「ううん。本当はお爺様じゃない事も分かってた。カレは優しいから、ずっとお爺様でいてくれたって事も・・・。」
「それは、どう言う・・・。」
セレスティが問いかけるが、すでにペパーミントの“気”はまわりの気と交じり合っていた。
微かにペパーミントの声が聞こえてくる・・・。
『二人ともありがとう。そして、ありがとうってカレにも伝えて・・・』
□全ての点は一本の線に
ペパーミントが消えたと感じた瞬間には、みそのとセレスティはアンティークショップ・レンの店内にいた。
何処かしっとりとした落ち着く雰囲気の店内には、蓮いがいにもう一人誰かいた。
「おや、お帰り。どうだったかい?お茶会は楽しかったかい?」
その一言で全てを知った二人は小さく微笑んだ。
蓮は、全てを知って二人を絵画の中に行かせたのだ。
「ところで蓮様、お隣の方は・・・。」
「あぁ、この絵を買いたいって言ってきた人だよ。」
蓮が何かを含んでいそうな口調で囁く。
みそのはその男性を“みた”。
「あっ・・・。」
「その男性は、絵画の中の男性とそっくりですね・・・。」
みそのの小さく漏らす声と、セレスティが呟く声が重なって交じり合う。
「ま、同じ人ってわけじゃないけどね。」
「私は、この絵画の少女の姉の息子です。若くして亡くなった叔母の事を、母は生前よく話してくれていたのですよ。ペパーミント叔母様を描いた絵画が1枚だけこの世に存在すると聞いて私は探していたのですが・・。」
その絵の中には、未だにペパーミントが住まっていたのだ。
「ですから、私はこちらに絵を買っていただいたのです。遠回りな手段を使って。」
母親が手に入れたがっていた絵画を見つけた男性は、その中に未だに『生きている』叔母の姿を見つけ何とか安らかにしてあげたいと思った。
そこで聞いたのがこの店の情報だった。
彼は事前調査のためも兼ねて何度も店に足を運んだ・・・叔母の絵を預けられる店なのかどうかを調べるために。
そして、この絵を売った後で直ぐに買いに来たのだ。
この中の少女をどうにかしてくれと言いながら。
「蓮様は、最初からお分かりになっていたのですか?」
「いや、この絵を買うって言った時からだね。」
蓮はそう言うと、絵画を眺めた。
それにつられて二人も絵画の方に視線を流す・・・。
「まぁ・・・。」
「なんと・・・。」
二人は驚きのあまり感嘆を漏らした。
少女の側に付き添う老紳士の絵画・・・それが、いつの間にか少女の側に付き添う若い青年の姿になっていたのだ・・・。
「これは、一体・・・。」
「この絵画は、私の叔母と伯父を描いたものなのです。母の一番上の兄、グランディーと妹のペパーミントを。」
そう言うと、男はゆっくりと話し出した。
母の素敵な兄弟達の話を。
母は五人兄弟の真ん中だった。兄が二人に妹と弟が一人ずつ。
兄弟達は病弱なペパーミントの事を可愛がっていた。病気に負けず、キラキラと毎日を楽しそうに過ごすペパーミントの姿は『生きる』と言う一つの目的を楽しんでいるようにさえ見えた。
ペパーミントは病弱な身体を恨むことは無かった。
『あたし』は『あたし』だから幸せだと言って。
そんな中、病状が重くなり始めた時ペパーミントは一つだけ小さく漏らしたのだ。
自分がこの身体じゃなければ出来た事・・・。
「それで、お茶会ってワケですか・・・。」
セレスティはそう呟くと、絵画を見上げた。
みそのもまた、ゆっくりと絵画を眺める。
「グランディーはかなりそれを気にしていたようでした。ペパーミントの最期の願いを叶えてやりたいと晩年はそれだけを言っていました。」
なんて、温かな家族愛なのだでしょう。
みそのはそう思った。
これは、御方のお土産話にしなくてはなりませんわね。
そして・・・。
愛らしい妹にも・・・。
■プロローグ
アンティークショップ・レンを静かに後にしたみそのは、後方からの呼びかけに足を止めた。
先ほどの男だ。
「どうか、いたしましたか?」
「貴方に、一度お礼を言っておかないといけないと思って。ペパーミントは生きている時に同い年くらいの友達がいなかったのです。ですから、貴方の事をきっと友達だと思って接していたと思います。」
みそのはゆっくりと絵画の中でのお茶会の事を思い出していた。
キラキラと笑うペパーミントはみそのの事を“ちゃん”付けて呼んでいた。
「あ、そうですわ。ペパーミント様から伝言を頼まれていたのですけれども・・・きっと貴方様にですわね。『ありがとう』と、ペパーミント様はおっしゃっておりましたわ。」
男は嬉しそうに微笑むと、もう一度小さな声でみそのに礼を告げた。
そして、去り際に含みのある言い方でそっと囁いた。
「母の話し方そっくりだ・・・。」
男が再び店内に舞い戻る。
みそのはしばしその後姿を“みた”後で可愛らしい妹と御方への土産話の内容を整理し始めた・・・。
〈END〉
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥、占い師、水霊使い
1388/海原・みその/女性/13歳/深淵の巫女
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■ ライター通信 ■
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この度はご依頼ありがとう御座いました。ライターの宮瀬です。
『絵画は呼ぶ』はかなり苦心した作品です。
なんと言いますか、相互関係の辺りで悩みました・・(叔母とか伯父とか息子とかの辺りです)
お二方とも、絵画の中の少女を助けると選択なされたので、今回このような作品に仕上がりました。
重視したテーマは『家族愛』と『互いを思う愛』の二種類です。
“なにか”が伝わればとても嬉しく思います。
海原 みその様
初めまして、ご参加まことにありがとう御座います。
みその様からはしっとりとした艶な雰囲気を感じました。大人びていて、綺麗な感じで書こうと思い書き始めたのですが・・・。
なんだか至らない点ばかりが目に付く感じがいたします。
もっと、“艶”なる雰囲気を出したかったのですが・・・。
これからもっともっと精進したいと思います。
今回、みその様のご推測どおり絵画の中には少女以外に紳士もおりました。
穏やかな絵画での時間の中で、様々な思いを含んだ“愛”を少しでも感じていただけたなら嬉しく思います。
また、どこかでお逢いする事があった折にはよろしくお願いいたします。
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