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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


吊るされた人




 瀬名・雫が根城にしているネットカフェは、その日もいつもと変わらぬ盛況ぶりを見せていた。いつも使う席に腰を落ち着かせ、いつものように彼女自身が運営しているオカルトサイトを眺めている。いつもならばその表情は明るく晴れやかなものであるはずが、その日はひどく曇ったものになっていた。
時折、低く唸り声さえあげてみせる。その様相から察するに、どうも奇妙な書きこみがあったらしい。
「……イヤだなあ、こういうの」
 呟き、傍らに置いてあった缶ジュースを口にする。
ネットカフェに来る途中のコンビニで買った温かいミルクティは、もうすっかり冷えていた。
 と、その時、一人の中年男性がネットカフェにやってきた。
片手にはコンビニのビニール袋を下げ持ち、もう片方の手には口のついた缶ジュースが握られている。
男はなれた足取りで店内を進み、迷うことなく雫の傍らで足を止めた。
「いや、どうもどうも。すっかり冷えこんでしまいましたなァ」
 そう声をかけられて、雫はくるりと振り向いた。
「あ、中田さん! 久しぶりー、忙しかったのー?」
 満面の笑みを浮かべてそう返す雫に、中田という名前の男はビニール袋を手渡して「いやはや」と笑う。
「いやいや、いつも通りですとも」
 そう返し、飲みかけの缶ジュース――見れば、それは”しるこ”であるようだ――の残りを一口に飲み干した。
「それよりもですねェ、雫さん。ちょっとお願いしたい事がありましてねェ」
 ビニール袋の中身が数本の”しるこ”であるのを確かめてから、雫は中田の言葉に興味深く相槌をうってみせる。
その目の輝きを見つめながら、中田は少しズレかけていた頭髪を片手で直しながら話を始めた。

 ここ数日、立て続けに二件、殺人事件が起きている。
共通した点は、どちらも遺体状況がいたましいものであるということと、そこに犯人が残していったものと思われる遺留品があったこと。
それは一枚のタロットカード。

「ええと、殺されていたのは十代の男性と二十代の女性でして、目が抉り取られて口を上下に縫い付けられた遺体の傍には『愚者』のカードが」
 そして、体を見事に分断された遺体の傍には、『塔』を示すカードが残されていたという。
 中田は言葉を曇らせることなくそう告げて、雫が眺めていたパソコン画面に目を向けた。
映し出されている画面は、見慣れたゴーストネットOFFの掲示板。
だがいつもと少し違うのは、そこに画像添付がなされた書きこみがあるという事か。
 中田はわずかに首を傾げたが、構うことなく言葉を続けた。
「ええとですね、それが今回あたし共の事務所に話が舞いこんできたっていうのは、事件がオカルトを匂わせているからって事なんですがね」
「……全身の血液を抜かれて……首筋に二つの傷跡……それが牙によるものだとみなされたから」
 その言葉を、雫の沈んだ声がさえぎった。
雫の顔色は蒼白で、表情はいつもになく曇っている。
彼女は自分も掲示板に目を向けると、重たげな口を開けて告げた。
「何日か前から、変な書きこみが続いてるんだよ。……一行だけ残されたコメントと、はり付けられたカードの画像」
 言って、画面に指を向ける。
引き寄せられるように中田をそてを確かめた。
そこに表示されていた画像は、


■ 

「吊るし人だろ? ……ったく、悪趣味だよなぁ、こういうのってよ」
 不意に割って入った男が、漆黒然とした目を細めて舌打ちをした。
驚いたのは中田だ。中田は突然現れた男の声に驚愕すると、せっかく正したご自慢の頭髪が再びズレたのを感じて慌てて両手を持ち上げた。
「和馬ちゃん、来てくれたんだー」
 青ざめた顔色ながら、雫は男の姿を確かめて安堵の表情をみせる。
藍原和馬は「おう」と返して軽く片手を挙げ、再び目線を掲示板のそれへと戻す。
「こういうのはよぉ、残ったホストとか確かめりゃいいんだって。そうすりゃあ、悪戯とか判断出来るしな」
 そう告げて日焼けした腕をぬっと突き出し、キーボードの上に指をのせる。
「時期が時期だしな。……その辺の小僧共の悪戯だったら、ちっと行って叱ってやんなくちゃいけねえしな、こういうのはよ」
 カチャカチャをキーを叩く。
「ありがとう、和馬ちゃん。……来てくれて良かった」
 雫がそう呟いて笑った。
中田は二人のやり取りを後ろから見やりつつ、雫がデスクの上に置いたビニールに片手を突っ込んで、缶ジュースを一本取り出した。
「外は冷えましたでしょう? ささ、どうぞ、これを」
 手に取った”しるこ”を和馬に差し伸べる。
和馬はそれを受け取ると、やや冷えたそれを一口すすって、甘ったるさに眉をしかめてみせた。
「甘酒の方が良かったですかね」
 のんきな口調でそう告げる中田に一瞥をくわえ、それから中田の背後に立っていた一人の少年を見やる。
「俺の他にも加勢が来たみたいだぜ」
 そう言って破顔してみせる和馬に、雫と中田がほぼ同時に振り向いた。
「七重ちゃん!」
「おや、これはこれは、尾神さん」
 雫と中田が同時に名前を口にする。
呼ばれた尾神七重本人は、表情こそ緩めることはなかったが、ひどく丁寧な挙動で頭を下げた。
「先日から妙な書きこみが続いていたので、気になって来てみました。……中田さんがいらっしゃるという事は、やはり通常の事件ではないのでしょうか?」
 淡々とした声音でそう告げれば、同意したように和馬も頷いた。
「そういえば、あんた。ええっと、中田っていったっけか? あんた、どういう流れでここにいるわけ?」
「ああ、申し遅れました。あたし、こういう者です」
 和馬の問いに、中田はいそいそとポケットから名刺を取り出して差し伸べる。
「……はぁん、なるほど。ようはオカルトに関わる人ってわけだ。俺は藍原和馬。よろしくな」
 相手にニの句を告げさせない口調でそう続け、中田の頭をぽんぽんと叩く。
慌てふためく中田を尻目に、和馬と七重は二人揃って掲示板に目を向けた。
「見た限りじゃあ、書きこみは自宅じゃなくて、ネットカフェかどこか……ってところか」
「ええ、それなんですが。こちらに来る前、僕も少し調べてみたんです。この書きこみに残されているホストから見るに、相手は店を転々と変えているようなんです」
 七重の丁寧な言葉に、和馬は深く頷いてその先を促した。
「……被害にあった二人には、実は一つだけ、共通点があります。……そうですよね、中田さん」
 暗紅色の目を中田に向ける。中田はこくこくと何度か頷き、手元にあったメモ帳を取り出してぱらぱらとめくった。
「この二人、実は同じ小学校の出身だったんですよ。もっとも男性の方は途中で転校なさってるんで、卒業名簿だけ見ただけでは、ちょっと判らない点なんですがね」
 中田の言葉に、雫が眉を寄せる。
「……それじゃあ、もしかしてその小学校に何かが……」
「そう思って調べてみました。ですがその学校は特に問題のない優秀な学校で、オカルトに関わるようなものは見出せませんでした」
 雫の不安を七重の言葉が一蹴する。
「それじゃあよ、これ。この書きこみ、これって学校名だよな。ご丁寧に所在地まであるわけだけど」
 和馬が問うと、中田が答えた。
「ええ、それは件の学校の旧所在地でして、二十年ほど前に廃校になったんですね。建物自体はそのまま残ってるようですが」
 メモ帳に視線を落としたままでそう告げる中田に、七重も同意を示す。
和馬は低く「なるほどな」と頷いて、ぼりぼりと頭を掻いた。
「とにかく、こんな書きこみ見て話し合いしてたところで、どうもこうもねェだろ。行ってみようぜ、この場所へよ」
 ニヤリと笑って、書きこみをぽんと指で示す。
「そうですね。僕もその方が早いと思います。……それに、その内容だと、」
「つーかこれって、来てくれって言ってるようなモンだぜ」
 七重の言葉を受けて和馬がそう告げ、笑った。


■ 

 都心からほど近い場所にあるその廃校は、肝試しといった冷やかし客さえ訪れそうにない、古びたものだった。窓ガラスは当然のように割られ、覗いてみれば、中の床板など、強く踏みつければ容易く割れてしまいそうだ。
「さァてと、どうする」
 ガラスのなくなった窓から校内を眺めながら、和馬が七重にそう訊ねた。
七重はその横でふと思慮にふけっていたが、まもなく顔を持ち上げて和馬を見やり、口を開けた。
「……犯人はタロットの絵柄等をそのままモチーフにしています。少なくても、犯人はプロの占者ではないでしょう」
「うーん、まあ、そうなんだろうなァ」
 七重の言葉に頷きつつも、和馬はふと眉根を寄せて言葉を返す。
「確か、タロットってのァ、正位置と逆位置ってのがあって、意味が違ってくるんじゃなかったっけか」
 七重は小さく首を傾げ、
「僕は、カードの解釈は、それを手にした人によりけりだと考えます」
「なるほどなァ」
 和馬は曖昧に笑って肩をすくめてみせると、手近に立っていた木を見やって目を細めた。
「俺は、殺され方がカードの意味に近いように思うぜ。例えば『愚者』は無垢とかいう意味もあるが、責任回避っていう意味もある。目玉くりぬかれて口ふさがれたっていうのァ、何かしらの責任から目をそらすとか、そういう意味合いだったりするんじゃねェのかな」
「『塔』は神の怒りを示すといいます。バベルの塔なのだと。だから真っ二つに折られたのだという説があったはずです」
 七重が静かな声音でそう返す。
「……そして『吊るし人』は、自己犠牲といった意味もありますし、処刑という意味も……」
 言いかけた七重のその言葉は、和馬の手によって遮断された。
「二つの事件の例を見る限り、次はどこかから吊るされるっていうのがストレートなところか。疑わしきは罰せよじゃねェけど、こういうのも片付けておくにこした事はねェよな」
 笑いながら木の傍に歩み寄ると、和馬は片腕に気をこめて、それを振るった。
木は大きな音を立てて根元から割れ、倒れた。
「そうですね。それは僕も賛成です」
 小さく頷くと、七重はちらと離れた場所に立っていた木に目を向ける。
そして片手をゆっくりと持ち上げ、その木に向けて指を指した。
七重が腕を振るったのと同時に、木は一人でに宙に浮き、引き倒された。
「……犯人がすでにここにいるかもしれません。その場合、次の被害者となる方もここにいる可能性が濃いでしょうから、まずはその方の保護を優先するべきです」
 二本目の木を引き倒しながらそう静かに言い放つ七重に、和馬は喉の奥を鳴らすように笑ってみせる。
「確かにその通りだ」
「ここからは、別々に行動しましょう。その方が広い範囲を短時間で確認出来るでしょうし。……危険は増すでしょうが」
「危険? はなからンなモン、承知の上さ」
 ニヤリと笑ってネクタイをしめなおすと、和馬は踵を返して窓枠に足をかけた。
「俺は中を見て回る。おまえは外を見て回れ」
 ひらひらと片手を振って、和馬は薄暗い校舎の中へと消えていった。
それを見送ると、七重は切り揃えられた銀髪を手櫛で整え、口を結び、自分も歩き出した。   




 校舎の内は思っていたよりも薄暗く、そして静かだった。
吹きぬける風の声さえも届かない、静寂ばかりの薄闇。漆黒でもなく真白な光でもないそれを見据えながら、和馬はゆっくりと足を進めた。
なるべく足音を立てないように歩き、五感は常に周りに向けて放つ。
 和馬はどんな些細な音や変化でさえも見とめ、聞きとめ、嗅ぎ取ることが出来る。
つまりは、どの方角から、どれほど突然に何者かが現れても、事前にそれを察知できるという事だ。
――――あのガキがどんな力を持ってンのかは知らねェが、ここは俺向きの場所だ。いくらでも隠れる場所のあるここはな。
 低く笑い、それからふと目を閉じる。
周りに張り巡らせた五感が、目に映らない何者かの存在を、いちはやく知らしめるために。


■ 

 校舎を囲むのは、グラウンドと中庭。その他にも、おそらく生徒達が使っていたのだろう、花壇や畑の跡地のような場所も見うけられる。
 七重はそういった場所を歩き進めながら、途中目についた木は根元から引き倒しておいた。
「すいません。後できちんと埋め直しますから」
 そう睫毛を伏せつつ呟き、派手な音をたてて横になっていく木に謝罪の念を向ける。
それからグラウンドや中庭といった広い範囲に結界術の印をつけていき、いざ何者かが現れた時に素早い反応が出来るようにとため息をつく。
覚えたばかりの魔術だが、七重にそれを教えた男は、七重の才能をひどく絶賛していたのだった。
――――犯人が人間ではないという可能性は、充分にある。
そう思い、瞳をゆるりと細ませる。
そもそも、あのカード自身に、何かしらの力が在るという事も充分考えうる事なのだから。
 しかし七重はその考えを否定するかのように、頭を振って一人呟く。
「人の運命は、カードでは決まらない。……そんなものでは決まらないんです」


■ 

 校舎内を進む和馬は、ふと何かの気配を感じ取った。
物音さえもしなかったはずだが、確かにそこに何かが”いる”。
 辿りついたその場所は、長い渡り廊下を歩き進んできた奥にあった。
(体育館か)
 声にはせずに頭の中で呟き、閉ざされたままの扉に手をかけた。




 結界術の用意をしながら、七重はふと頭をよぎる違和感を覚えて周りを見やった。
七重がいるその場所は、位置的には体育館の裏手になるのだろうか。
ぐるぐると周りを見まわした後、七重は静かに瞼を閉じて、さっき分かれた数馬の事を思い描いた。
そしてそれからすぐに目を開けて、急ぎ体育館へと足を向ける。
「この気配は――――」





 もう生徒達の歓声を聞くこともなくなった古びた体育館の中には、一人の男が立っていた。
バスケットボールのゴール下に下げられたロープを片手に、男は乱入してきた客人――すなわち、和馬と七重を笑顔で迎え入れた。
「やぁやぁ、やっと来たね、ようこそ、わたしが主催する儀式へ」
 男はそう言って人懐こい笑みをたたえ、手にしていたロープをぐいと引いた。
「……悪趣味だな、おい」
 舌打ちと共に和馬が言い放つ。
七重は静かに片手を持ち上げ、男が手にしているロープの先を指差した。
「……そのロープを放してください」
 責めるような視線を男に向ける。
男はヒィヒィと笑ってみせると、ロープをさらに強く引く。
ロープの先には少年がさかさまにぶら下がっていて、もう血の気がひいたのか、あるいはもう絶命しているのか、びくりともしない。
さらに目を向ければ、男が立っている位置を中心に、大きな魔法陣が描かれている。
「もしやと思ったけどよ、やっぱり胡散臭ぇ儀式だったってオチかよ」
 吐き捨てるように和馬がそう述べれば、それと同時に七重が持ち上げていた手を揮いあげた。吊り下げられている少年を、引き倒す形で降ろそうと考えたのだ。
しかしそれはロープを手にしている男によってさえぎられ、七重はついと目を細めた。
「わぁたしはねぇ、王になるのだよ、ひぃ、ひぃ、ひぃひ」
 男は笑い、動かない少年をぶら下げたロープにしがみつくような体勢でバンバンと跳ねまわる。
「おまえ達をここに招いたのは、わたしという存在を知らしめたかったからだよ、ひ、ひひ」
 跳ねまわりながらそう言う男に目を向けたまま、和馬が七重に合図を送る。
(同時にいこう)
言葉もない合図だったが、七重はそれを受けとって小さく頷くと、再び片手を持ち上げた。
元々、七重は重力を操るという異能を持っていた。
そして最近になって七重に魔術を指導始めた男は、まるで指揮者のように腕を揮って魔術を行使している。
それを習い、七重は密かに師のそれを真似てもいるのだ。
まだ年若い指揮者として腕を揮うと、男は再びそれを受け流すような体勢をとった。
が、七重が狙ったのは吊り下がっている少年ではなく、ロープを握っている男だったのだ。
男は不様にも膝をつき、その拍子に握り締めていたロープを手放した。
その隙を狙って和馬が走り出す。
疾走するその様は、まるで一匹の黒い獣のようだ。
獣は咆哮をあげて男に飛びかかり、怒気をこめた鉄槌を男の顔に打ちこんだ。




 ニュース番組で、三人目の犠牲者の報道がなされることはなかった。
ロープに吊り下げられていた少年は、気を失ってはいたものの、大きな外傷もなく、むしろ警察の取り調べやらマスコミの取材やらで迷惑そうな顔をしていた。

「結局のところ、犯人は精神の異常をきたしていたっていうだけで、オカルト性はなかったっていうことだよね」
 雫はそう言って頬づえをつき、いつも通りの掲示板をスクロールして眺めていた。
「いや、それが、」
 雫の安堵を否定するかのように、和馬が思案気味にそう告げる。
「俺は確かに、あの時、あの場所に何か得体のしれないモノがいると思ったんだよな」
 整った眉をひそめてそう述べると、七重も同様に頷いた。
「僕は魔術の知識をかじり持っている程度ですが、それでも、あの場所にあったあの陣は、素人が作り出したものではないと思うんです」
 赤い瞳に光を宿し、それをふるふると揺らしてそう呟く七重を、雫は頬づえのままでちらりと見やった。
「うーん……これは、なんていうのかなぁ、あたしの勘なんだけど」
 くるくるとよく動く大きな瞳で、七重と和馬を順に眺める。
「あの書きこみを見た時ね、すっごいイヤな感じがしたんだよね。……なんていうか、割りとヤバい記事がある時っていつもあんな風になるんだけど、今回は特にイヤな感じだったっていうのかな」
「……日本語がなってねぇぜ」
 和馬が口を挟んだ。
「とにかく、ここにいる三人が三人とも、今回の事件の結末には、納得がいかねぇと、こういう訳だな」
「……そういう事ですね」
 七重がそう返した。
頷きつつも、七重はちらりと目を横に向ける。
そこには一冊の雑誌が置かれてあり、ちょうど開かれたページには、あの時無事で助かった少年の顔写真が小さく載っていた。

 どこかヒヤリとするような笑顔で写っている少年。

「そういえば、あの小僧の身元ってのは割れてんのかイ」
 思い出したようにそう和馬が述べる。
「それに関しては中田さんが調べてってくれたのがあるよ。はい、これ」
 雫が差し出した紙を受け取り、和馬はそれを目で追った。
そして「やれやれ」と呟き、頭を掻いてから、それを七重に差し伸べる。
「どうやら今回の一件は、とんだ挨拶劇だったようだぜ」
 眉根を寄せてそう告げる和馬を見やり、七重もわずかに表情を曇らせた。

 そこには、助かった少年の年齢や誕生日、名前などが記されていた。
両親共にすでに他界している事や、両親が残した大きな屋敷に一人で住んでいるという事。
そういった基本的な事が記されている。
そしてその両親の死因が、殺人によるものであるという事も。
「……胸に杭を打ちこまれて首を切断される、っていうのは……これはもしかしたら」
 七重がそう呟くと、和馬が同意するように頷いた。
「あの時俺達が感じた違和感は、あの男に対してのものじゃねェ。してやられたぜ」

「…………ねえ、見て」
 二人のやり取りを流し見ていた雫が、青ざめた顔でパソコン画面を指差した。
和馬と七重がそれを確かめる。そこに表示されていたのは、


「essere continua」 ――――続く、という意味の言葉であった。 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1533 / 藍原・和馬 / 男性 / 920歳 / フリーター(何でも屋)】

【2557 / 尾神・七重 / 男性 / 14歳 / 中学生】


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■         ライター通信          ■
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この度は「吊るされた人」に参加くださいまして、まことにありがとうございました。
ご覧のように、どうもシリーズもの(?)になってしまいそうなオチになりました。
……すいません。

タロットというものの説は様々ですが、ノベル中ではその説に関してはあえて触れず、
意味する言葉なども有名どころを使用しております。

>藍原・和馬様
はじめまして! へっぽこライター高遠と申します。
実は以前から藍原様の全身図などで惚れ惚れとさせていただいていまして、
今回発注を確認しました折りには、非常に嬉々とした歓声をあげてしまいました(照
そういった部分を充分に反映できたノベルになっていればいいのですけれども……

>尾神・七重様
いつもお世話様でございます。ちょっと久しぶりにシリアスな(?)尾神様を書かせていただきました。
いかがでしたでしょうか?
今回は能力を随所で使わせていただいていますし、魔術に関する部分も使わせていただきました。
結界術というのは私の勝手な妄想によるもので、尾神様は攻撃よりもこういった
補助や結界といったイメージがあります。

このノベルが、少しでもお気に召していただければと思います。
なお今回のノベルは、アンティークショップ・レン「THE HANGED MAN」をあわせて
目を通していただければ、もう少し場面も見えてくるかと思います。
設定等に問題等ございましたら、どうぞなんなりとお申しつけくださいませ。
それでは、また機会がありましたら、ぜひお声などいただければと願いつつ。