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<東京怪談・PCゲームノベル>


秋篠神社奇譚 〜参拝日誌〜

天薙撫子編

●再会
 師走も半ばも過ぎ、空も随分遠くなった頃のとある休日の秋篠神社の境内の階段の下に、深緋色の落ち着いた和服を着た女性が落ち着いた、いかにも大和美人といった面持ちでのんびりと歩いてくる。
 祖父の代理で、秋篠神社にお歳暮を持ってくることになった天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)であった。
「この神社に来るのもずいぶん久しぶりになりますわね……。私の事をあの人は憶えてるのかしら?」
 まだ子供だった頃、祖父に連れられてやってきていたこの神社には自分とそう歳の変わらない女の子がいたはず、そんな事ををついつい懐かしく思い出しながらゆっくりと階段を撫子は登っていった。
 階段を上りきり鳥居を抜けると、境内を箒で掃除をしていた一人の巫女装束を着た少女が撫子の目に映ってきた。
 その境内の掃除をしていたのは綺麗な銀色の髪をした少女で、撫子にとっては懐かしい髪の色であった。
「ひょっとして静奈ちゃん?」
 不意にかけられた声に驚いたように声のした方を巫女の少女、秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)は見る。
 撫子の顔を見てわからないといった様子で箒を動かす手を止めてじっと見つめている静奈の元にゆっくりと歩いていく。
「やっぱり静奈ちゃんだ、覚えてない?わたくしの事。」
 きょとんとした様子で静奈の事を見る撫子を見て、静奈は思わず聞き返してしまう。
「あの……、ボクを知ってるみたいだけど……どなたでしょうか?」
「覚えてらっしゃらないのですか?わたくしは撫子ですよ?」
 撫子の言葉に何か引っかかりを覚えたのか静奈はその引っ掛かりを掴もうと考え込む。
「撫子……撫子……。」
 呟くように名前を連呼して考え込んでゆっくり撫子の顔を見直す。
「……ひょっとして……あの撫子ちゃん?」
 恐る恐る静奈が撫子に問いかける。
 最後に会ってからもう十年近い時が経っている為にすぐには思い出せなかったのだ。
「ええ、その撫子です。静奈ちゃんもお元気そうでよかったですわ。」
 二人の脳裏に小さい頃、撫子が祖父に連れられて何度か来た時に一緒に遊んだ記憶がよぎり思わず見詰め合ってしまう。

●二人の時間
「それにしても急にやってくるから驚いたよ。今日はどうしたの?まさかボクに会いに来たって訳でもないと思うけど。」
「静奈ちゃんに会いたかった、というのは確かですけど、今日は祖父から秋篠神社にこのお歳暮を届けるように言付かりまして……。」
 撫子はそう言って持ってきた小包を静奈に見せる。
「そうだったんだってもう『ちゃん』はやめて欲しいな、ボクももうそういう風に言われる歳じゃないんだし。」
 静奈は撫子が持ってきた小包を見ながら思わず苦笑しながらそう言ってしまう。
「そうですね、お互い『ちゃん』という歳でもないですわね。お互いに。」
「そうして貰えるとうれしいよ。積もる話もあるし、社務所の方に行こうか?」
 撫子の事をそう促し、ゆっくりと静奈は歩き始める。
「ではわたくしは先に今日の用件を済ませてまいりますわ。その後に社務所の方には寄らせていただきますね。」
 撫子はそう言って静奈が歩き出したのに続いて撫子も歩き出す。
「ここは昔と全然変わりませんね。」
「そうだね、この神社を囲む森も、静けさも昔のままかな?変わったのはボクとか撫子さんの方だよね。」
「ええ、本当に……、それじゃまたあとでゆっくりお話しましょう。」
 そこまで二人は話すとゆっくりと二人は別れていった。

●思い出
 社務所でお茶を入れて撫子を待っていた静奈は懐かしそうに昔の事を思い出していた。
「まさかあの撫子さんが、また来るなんてね……。本当驚いたよ。」
 そんな事を呟いていると撫子が社務所にゆったりとした足取りで入ってくる。
「遅くなってしまいましたね。公明様と少し話が長引いてしまいまして。」
「ううん、ちょうどお茶も煎れ終わったところだしいいタイミングだったよ。」
 そう言って二人は席につく。
「でも撫子さんが来るなんて本当に驚いたよ。」
「わたくしも急に祖父が代参して来いと仰ったときは驚きましたよ。」
「撫子さんは元気そうで良かったよ。最近は何をしているんですか?」
「わたくしは大学で民俗学を学んでおります。主に神話伝承などを中心に、静奈さんは高校かしら?」
「うん、ボクは今は神聖都学園の高等部に通ってるよ。」
「神聖都学園ですか、ここからだと遠いけど、大丈夫なのですか?」
「ちょっと朝がきついけど、何とかなってるよ。ボク自身は地元の高校でも良かったんだけど、お父さんがあそこに行けって言うもんだから、ね。」
「あら公明様のお薦めだったのですか。」
「うん、その時は『普段から様々な心霊現象などの不思議な事の多い学園ならば今後の役に立つだろうと思っての事だ。』とか言ってたよ。」
 思わずその時の事を思い出して静奈は苦笑しながら撫子にその時の経緯を話す。
 撫子もその時の二人の様子をつい思い浮かべてしまい苦笑してしまう。
 しばらく思い出話に耽っていた二人であったが、静奈が思い出したように撫子に聞く。
「でも……、撫子さんも色々大変なんじゃない?天薙家って言えばかなりな名門だし……。」
「そうですわね。でも大変ではありますが何とかなっていますよ。大変なのは静奈さんの方も同じでしょう?」
「僕も似たような感じかな?どうにかこうにか何とかなっているというか……。」
 静奈も撫子もそこで言葉が途切れる。
 お互い自らの生まれた出生の為に思う事が多々あるのを知っているだけにその後の言葉を継ぐ事が出来なかった。

……
………
…………

 しばらくして静奈がその沈黙を破るように話を切り出す。
「そうだ。確かお饅頭が戸棚にあった似合ったはずだからちょっと持ってくるね。」
 静奈はそう言って立ち上がり戸棚の方に向かおうとする。
「いえ……、随分長いもしてしまった事ですし、そろそろお暇させていただきますわ。今日は静奈さんと話せてとても楽しかったですわ。」
「ボクも撫子さんと話せて楽しかったよ。今度会う時はもっと色々と話せるといいね。」
「そうですわね、わたくしもそう願いますわ。静奈さんの煎れたお茶美味しかったですわ。ありがとう。」
 撫子はやんわりと微笑みながらそう言うとゆっくり立ち上がる。
「あ、そこまでおくるよ。」
 撫子に続いて静奈も立ち上がり社務所の扉を開ける。
「そうですか?それでは一緒に行きましょうか。」
 静奈が開けた扉をゆっくりとした足取りで抜け、静奈もそれに続いていく。
 そして二人は社務所から参道を抜けるまでの本当に短い間ではあったが、自分達の生まれや立場ではなくそれぞれ自身として、時間を共有する。
 そして参道を抜け、静奈と判れた撫子はゆっくりと帰途へ付く。
「でも……こんな穏やかな日々がいつまでも続くと良いですわね。」
 後ろをついて来る影もかなり伸び日もかなり暮れかけた中、夕日を浴びながら撫子はそんな事を呟く。
 果たしてそれは静奈に対しての事なのか、それとも自身に対してなのか、それともその両方なのかそれは撫子にしか判らない……。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 天薙・撫子
整理番号:0328 性別:女 年齢:18
職業:大学生(巫女):天位覚醒者

≪NPC≫
■ 秋篠宮・静奈
職業:高校生兼巫女

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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして、ライターの藤杜錬です。
 今回は秋篠神社のゲームノベル「秋篠神社奇譚 〜参拝日誌〜」へのご参加ありがとうございます。
 今回撫子さんの依頼がこのゲームノベルの最初の依頼だったので、まだ自分のペースが掴めていない部分があったので、ご満足頂けるかどうか実はかなりどきどきしています。
 撫子さんもかなり様々な「さだめ」を背負っているようですので、その一端でも書き出す事が出来ていたら、と思います。
 今回は楽しんでいただけたら幸いです。
 それではまたご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。

2004.12.10.
Written by Ren Fujimori