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＜東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン＞
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Grand-guignol −第一夜−
グラン・ギニョル（最高の人形劇）。
それは、十数年…もしかしたら数百年に一度の人形たちの逆襲…。
人間を操る人形たちのささやかな舞台。
月蝕の夜に起こる美しくも儚く狂った宴。
東京は大きな演劇場。
自ら人形師となった人形達が、今宵目を覚ます。
【０．開幕】
しぶしぶながらも宮田という男から人形を引き取った、碧摩・蓮は、その人形が風の噂で耳にしたあの人形なのではないかという思いに囚われる。箱の中の人形は操り人形糸が付いており、それが一層噂に真実味を帯びさせた。
人形を受け取った夜、いつもならその念を祓う所を、手近な知り合いに再度封印を頼み、なんとか上手くいったのか、たった紙一枚で箱の蓋は張り付いたように開かなくなった。
蓮は自分が柄にもなく安心している事に肩をすくめ、そのまま箱から目を逸らす事が出来ず、気が付けば夜の帳が落ち、今更時間に気が付いたようにはっとすると、あくびをかみ殺して床に付いた。
満月の夜。あまりの明るさに瞳を開けた蓮は、我が目を疑った。
封印したはずのあの人形が、目の前に立っていたのだから…
「あんたは…！」
蓮の叫びに、かの人形は一瞥をくれると、卑しいものでも見たかのような視線で蓮を射抜き、口元を優美に吊り上げると、クスクスと無機質な笑いを漏らした。
『手放したつもり…かしら……』
「どういう…事だい！」
『もうすぐ月蝕…私達は演じる…人間を使って』
その一言を残して、人形は蓮の店の窓から夜の街へと消えてしまった。
（封印が不完全だったとでも言うのかい！）
人形を追う事無く、蓮は人形が封印してあった箱へと走る。
蓋の開いた箱のそばに封印の札が綺麗に落ちていた。
蓮は試しに箱の蓋を閉め、また札を張る。箱は、封印を施してもらった時のようにぴったりと閉じ、びくりともしなかった。
夜中である事も承知で、蓮は電話に走ると、適当な番号に急いで掛ける。
「何も起こらないでおくれよ…」
【１．真夜中の電話】
今日も今日とてオカルト追っかけ夜の街を徘徊―もとい、帰宅していた見た目山男の様な風貌の豪快なオヤジ、現在フリーライターの鷹旗・羽翼は、陽に焼けて愛嬌のある丸顔に尚更人好きがしそうな笑顔を浮かべて、喉を潤す程度に日本酒を口に含む。
ＲｉＲｉＲｉ――……
「はい、こちら鷹旗」
こんな深夜でも、自分の都合で電話に出れるのだから、こういった時携帯電話はつくづく便利だと思う。
「おー蓮か、なにか面白いネタでも提供してくれるのか？」
［ まったく…あんたに電話すると直ぐ記事にしたがる…まぁいいさ、好きにすればいい ］
いつものようなその態度は崩れていなかったが、その切羽詰ったような取り乱した声音に、鷹旗は黒縁眼鏡の下で小さくなっている瞳にすっと光をともす。
今まで陽気な雰囲気を漂わせて道を歩いていた鷹旗だったが、今では真剣そのものの顔で電話から聞こえるレンの声を逐一脳に叩き込む。
「謎が多すぎる。一度そっちに寄らせてもらうぞ」
［ 仕方ないね… ］
携帯電話を切ると、鷹旗は使役しているマルタと名前を付けたデーモン『ヘブンリー・アイズ』に最初の電話で聞きだした人形の特徴を伝え、レンに行っている間に人形を見つけろと指示をだすと、急いでレンに向かって歩を進めた。
【２．アンティークショップ・レン】
夜中という事もあってか、薄明かりしか灯っていないアンティークショップ・レンの扉に手を掛けようとして、鷹旗の手は止まる。
「ん？何だ―…」
言葉を先に続けようとして、鷹旗の声が止まる。夜だというのにサングラスの青年は、あからさまに怪訝そうな顔をして鷹旗を見ている。
「いや、蓮に呼ばれて来たのかい？」
「……と、言う事はあんたもですか」
未だに少々疑いを含んだ口調に、一応年上としてであろう礼儀を含めて、青年は応える。
「俺は、鷹旗。兄ちゃんは？」
「幾島だ」
とりあえずの自己紹介を簡単に済まし、二人はレンの扉を開ける。
「蓮、聞かせてもらうおうか、その人形とやらの事を」
「その人形が入っていた箱は？」
お互いがお互いの要求に蓮はあからさまにため息を漏らすと、近くの椅子に腰掛け、いつものキセルに火を入れる。
「あたしだって詳しい事はしらないさ。ただ、アンティークを扱うものたちに風の噂で流れ着いた程度だからね。箱は、そこにあるよ」
蓮の言葉に、幾島は蓮の手によって元に戻されている中身の無い封印の箱を見ると、そっとサングラスをずらした。彼の金色の左目は『神の左目』と呼ばれ、事象や物質だけでなく、霊子等の解析能力を持っていた。
そんな幾島の様子を蓮は横目で見ながらキセルからふーっと煙を吐き出して、その切れ長の瞳で鷹旗を一瞥すると、ゆっくりと口を開いた。
「まるで人間のような操り人形―通称『月蝕人形』。人形師界に発表した人形師はフェリオ・フランベリーニ。だが、あまりに美しいその人形は人形師界を震撼させ、同時に畏怖させた」
鷹旗は蓮の言葉を聞き逃さないように携帯の録音機能をオンにする。
「誰かが箱を開けた可能性は？」
「ない…ね」
もっともな鷹旗の質問に、今度こそ蓮は真正面からその瞳を見据え、キセルから口を離した。
「…！？」
ガタンと音がし、鷹旗と蓮がそちらに顔を向けると、箱を『神の左目』でスキャニングした幾島が困惑した表情で立ち尽くしていた。
「何を、見たんだい？」
紫煙を口から吐きながら、腕を組んで幾島を見上げる。鷹旗は蓮から幾島の能力を簡単に説明されると、うむっと唸った。
「月蝕だ。飲み込まれそうな、ブラックホールみたいな…月蝕」
幾島の言葉に鷹旗は、ふんっと息を吐くと、
「だから、月蝕人形か」
その言葉に肩をすくませて笑う蓮に、鷹旗は苦笑をもらし自慢の顎鬚を撫でる。
「ものすごい美少女だったんだな、この中に入っていた人形。それにその封印とやらも、人形の力に耐えられなかったみたいだな。内側から外れたようだし」
幾島は外したサングラスを元に戻し、蓮の隣まで戻ってくると徐に話し出す。
「宮田の家に、父親が鍵を持っていて開かずの部屋が一つあったらしい、宮田はその部屋でこの箱を見つけたみたいだな。封印を解いた時に、その宮田は人形に何かを言われている。それは――」
『ありがとう、今の宮田の当主はあなたなのね。封印を解いたという事は、月蝕が近いのかしら？でも、少し早すぎだわ』
「宮田が自分で封印を解いたんじゃないのかい！？」
蓮は一気に顔色を変えると、ガタンと椅子から立ち上がると、幾島に詰め寄る。
「俺だって、見える範囲には制限があるんだよ」
いつもでは絶対見る事の出来ない蓮の剣幕に、幾島は両手で蓮を押し返すように構えると、だが…と付け加える。
鷹旗は蓮の肩に手を置いて、支えるように椅子に座らせると、真正面から幾島を見据えた。
「箱から辿れる霊子の記憶に、人形が２体見えた」
「月蝕人形はまだ２体あるって事か…他に、何か見えたか？」
「人形の糸は、人形を操るためのものじゃなさそうだ」
操り人形じゃなかったのか？と口元まで出掛かった言葉を鷹旗は飲み込み、まだ先を続けそうな幾島の言葉を待つ。
「人形が、人間を操るために使う糸だ」
「壮司の答えであたしの予想はまるっきり的中だよ」
鷹旗に椅子に座らされたレンはそっぽを向いて、紫煙を吐き出すと、
「本当だったら、呼んだのは壮司だけで、鷹旗サンにはマルタを使って人形を探してもらおうと思ってたんだけどねぇ。あ、そう言えば梅・黒龍っていう子にも応援頼んだんだっけ」
嫌味も半分含みつつ事も無げにそう呟いた蓮に、二人の顔色がさっと変わる。
レンから飛び出した鷹旗と幾島は、鷹旗の使役しているデーモン・マルタからの情報を元に、ただ一箇所に向かって走っていた。
「……大通り、だったよな」
静かだが再確認するように鷹旗に確認する幾島。
マルタからの情報によれば、あの人形が居るのはその大通りのビルの上。
「先に行く！」
そう言うが早いか、姿が消えるのが早いか、一般よりは多少早いと思っていた鷹旗の走力をはるかに上回る走力で幾島は鷹旗の視界から消え去る。
大通りはレンからそう遠い場所でもなかったが、本気でタクシーを使うおうかと迷った瞬間だった。
こういった時にこそ運が悪いもので、走りながら道を横目でちらちら見てもタクシーは一向に通らない。鷹旗は、こんな日もあると思い、目的地まで全速力で走った。
途中、幾島から電話が入り、大通りのビルの下で潰れている男をどうにかしておいてほしいと言われた時には流石に首をひねるしかなかったが。
【３．操り人形―宮田】
大通りに出た鷹旗は、何かのビルの屋上で飛んでいるマルタを発見し、幾島が言っていた男を探す。
鷹旗は苦労するでもなく、何かの玉が形を造りその下に潰れている男を発見した。
「ふむ…」
完全に玉の下敷きになって身動きが取れなくなっている男よりも、鷹旗は男を下敷きにしている玉に興味が引かれ、その周りを一周歩いてみた。
「この玉の配置、牛飼座の形に似ているな」
地面がめり込んでいる所を見ると、この玉は重力を発生させているらしい。面白いネタになりそうだ。
マルタの目を通じてビルの上を視ている鷹旗は、何をするでもなくその場に座り込んだ。
その時になって、初めて玉の力の下敷きになっている男に視線向ける。
「こいつが、宮田か」
愛用のノートパソコンを取り出し、無線LANをPCスロットに取り付けると、徐にキーボードを叩く。
「月蝕人形…フェリオ・フランベリーニ、か」
とりあえず正規の大手検索サイトにキーワードを引っ掛けてみる。アクセス数が多いものから順に表示されるサイトの中にはまったく関係の無いものもあったが、人形師の名前をフルネームで検索に掛けなおすと、全世界単位で１００以内に収まった。
だが、そのサイト全てが英語やフランス語などの外国語サイトばかりで、鷹旗は低く唸る。ここから目星の付きそうなサイトを見つけるだけで骨が折れそうだ。
とりあえずサイト翻訳を使って日本語に変えると、今度は自然な日本語に頭で読み替える。
どうしたものかと、顎鬚を撫でながら思案をめぐらすと、宮田を押させつけていた玉がふっと消える。
「大丈夫か？」
ゆっくりと上腿を起こした宮田に、鷹旗は立ち上がって声を掛ける。
「…？」
重力波に押しつぶされて、尚立ち上がった時点でおかしいと気が付くべきだった。
起き上がった宮田は、その年齢から想像される身体能力を超えナイフを振り上げると、一気に鷹旗に走りこむ。
「…くっ！マルタ！！」
屋上の状況を視ていたマルタは、鷹旗の呼び声に急滑降から宮田と鷹旗の間を翔け抜けると、宮田の手に握られたナイフを叩き落とす。
「よくやったマルタ！」
その言葉に、マルタはまた空へと大きく飛び上がる。
宮田は手からナイフがなくなったにも関らず、その勢いは治まらない。
真正面から見据えた宮田の顔に、鷹旗の背筋に嫌な汗が流れたのを感じた。
感情がまるで無い表情。
人を襲おうとしているのに、ここまで無表情だと逆に襲う気満々の人間よりも恐ろしい。
返り討ちにしてやろうと構えた鷹旗であったが、後数センチで拳が届くという所で、宮田の動きが止まる。
カクンと糸を切られた操り人形のごとくその場に崩れた宮田は、濁った瞳を見開き動かない。
駆け寄ると、息はもうしていなかった。
【４．終わりの始まり】
地上で、事が終わるのを待っていた鷹旗は、マルタの瞳を通じて蓮が言っていた梅・黒龍と思われる少年が地上に降りてきているのを知る。
「ご苦労さん」
今あったばかりの自分に労いの言葉を掛けられても、嬉しくないかもしれないが、そう言ってやりたかった。
言葉を返してくるような事は無かったが、顔つきの性格からして素直に「ありがとう」とは言わなさそうだなとは思った。
駆け寄るような足音が背後に聞こえる。この結果は、歳若い黒龍には傷を残すかもしれない。
操っていた人形が壊れたというのに宮田は一向に微動だにしない。鷹旗は不思議そうな顔で差し出した黒龍の手をゆっくりと制した。
「どうした？」
心配そうに覗き込む黒龍に、鷹旗はそっと首を振り宮田の瞳に手を当て瞼を閉じる。
「死んでる」
「まさか、ボクが殺してしまったのか…！？」
数分とはいえ重力波に潰されてしまっていたのだ、確かに圧迫死していても不思議ではない。
「いいや。宮田は糸が切れた人形みたいにパタリと倒れて、亡くなっちまった…」
淡々と告げる鷹旗に、黒龍の握り締めた拳が白くなっていく。
「人形は…」
振り返らなくとも表情が分かるくらいに声が震えている。
「生死さえも、操っていたのか…！」
言い表せない後味の悪さに、黒龍はきつく唇をかみ締める。
怒りに震える黒龍の肩を、鷹旗はポンポンと叩くと、
「もしかしたら、これが始まりかもしれないぞ」
弾かれたように一瞬瞳を大きくした黒龍は、やりきれない思いで瞳を伏せた。
月蝕は、まだ来ない―――
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【３５０６ ／ 梅・黒龍（めい・へいろん） ／ 男性 ／ １５歳 ／ 中学生】
【０６０２ ／ 鷹旗・羽翼（たかはた・うよく） ／ 男性 ／ ３８歳 ／ フリーライター兼デーモン使いの情報屋】
【３９５０ ／ 幾島・壮司（いくしま・そうし） ／ 男性 ／ ２１歳 ／ 浪人生兼観定屋】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、紺碧初のウェブゲームにご参加くださりありがとうございました。鷹旗様のプレイングがかなり話の先に行くような内容ばかりで、内心「やばい、ネタバレしてる！！？」とびくびくしてしまいました。その為プレイングがあまり反映できず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。鷹旗様自身の身体能力が不明だったため、勝手に肉体戦が出来るようにも書いてしまいました。いやぁがたいがよさそうだったものですから。それではまた、鷹旗様にお会いできる事を願いつつ……
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