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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


舞い散る雪に〜クリスマス夜話〜

「くりすますという異国の儀式がもうじき始まりますね」
「………まあな」
 応接用のソファにちょこん、と腰を降ろして、優雅な手つきで緑茶を注がれた湯のみに手を付ける――少女。その、見た目の年に見合わない大人びた仕草と口調に無理をしている感じは無く、緑茶を口に含んで目を細める姿にもう1人、大人の女性の姿が垣間見える事がある。
 その向こうでは、自分の椅子にだらしなく身を投げ出して煙草をくゆらせる草間武彦の姿。
「というか、何で来ているんだ?子供は子供同士で遊べばいいだろうに」
「遊んでいますよ、子供同士で。本日は息抜きです」
 にこりと赤い唇で笑んだ少女、雨宮翠がそれと、と小さく口を開き、
「少々依頼を致したく思いまして…儲けにはならないので、申し訳ないのですけれど」

 そう言って語り始めたのは、彼女の持つ心配事。
 イブの夜からクリスマス当日にかけて、特別パレードが行われる会場…東京で最大の大きさを誇るテーマパーク。クリスマス特集を組んでいた夕方の情報番組を見ていた所、気になるものが見えたのだと言う。
 それは、イルミネーションに輝く木々の隙間からじぃっとこちらを覗き見ていた顔、顔、顔。それは大きさも姿もまちまちだったが、共通しているのはそこに見えるある種の『飢えた』視線。
「あれは、『よくない』ものです。ひとつふたつなら、私でも対応出来ますが、ああ多いとなると手に負えません。…問題は、そこに友人が行くと言う事なのです」
「友人って、同じ子供だろ?1人でなのか?」
 いえ、と翠がゆるりと首を振る。
「招待券が当たった、と聞きました。ですから、行くのは親御様とです。私も、夜間でしたら自由に動けますのでこっそり見に行くつもりですが……そう言う訳なので、1人では不安で。どなたか、一緒に来ていただけませんでしょうか?」
「いや、そうは言ってもな。第一クリスマスなんて言えば、事前にチケットが完売されるような場所なんだろう?それでも酷く混むと聞いたが」
「あら。警備員も入って来れないような空間を少しの間作ってしまえば大丈夫ですわ」
 にこりと穏やかに微笑みつつ、言うのは無断侵入の誘い。ますます渋い顔をしつつも、根負けしたか武彦がふうっと息を吐いて首を振る。
「それにしても」
 一応、と依頼書を書かせた武彦がその達筆さに驚きつつも、新たに注がれたお茶を美味しそうに口にする翠に皮肉な目を向け、
「前も思っていたんだが、お前は友人の事となると動き出すんだな」
 その言葉に一瞬だけきょとんとした翠が、次の瞬間くすくすとおかしそうに笑い、
「おかしな事を言いますね――私は翠の世界を、これ以上壊したくないだけです。その邪魔をするなら、それが誰であれ許しません。…それだけですよ」
 時々自分の名を一人称にして告げるときの翠の顔は、穏やかではあったが目は正に真摯なもので、それが本心からのものだと言う事が分かる。
「分かった分かった。その辺で時間が空いていそうな連中を探してみるから、あまり期待しないで待ってろ」
「ええ。お茶ありがとうございました。またお邪魔いたしますね」
 にこりと。
 穏やかな笑みをその場に残したまま、そう言って翠は立ち去って行った。

*****

「クリスマス?イブの夜から朝まで…そ、それは、空いてるけど」
 我知らずほんの少し声が上ずってしまったのに気付かれなかっただろうか。シュライン・エマはそんな事を考えつつ、自宅にある綺麗にラッピングした品を思い浮かべる。
「急な仕事だから、悪いんだがな」
 返って来る言葉には、内心でがっかりしつつも、プレゼントを渡す機会が消えた訳じゃないと言い訳し。
 …普段でも会えるんだもの、いいわよね、別にイベントにしなくたって。
「それで、依頼者と依頼内容は?」
 ふぅっと息をひとつ吐いて、気持ちを切り替えると真っ直ぐ武彦へ向き直った。
 依頼者は、この事務所へ何度も訪れている少女――翠。そして、依頼内容は、翠の友人がイブから遊びに行くテーマパークにいるらしい『良く無いもの』から友人を守って欲しいと言うもの。
 ほんと、お友達思いね。
 ――その話を聞いて、テーマパークへ下調べをしに行かなければと思う一方で、せっかくだからと家に居る間に翠へもプレゼントを用意しようと思いついた。
 武彦へは、これからの寒さに風邪を引かないよう、ゆったりとした大きさの膝掛け、零にはカーディガンを編んでいたから、それ以外のものが良いかもしれない。尤も作るにはそれなりの時間も必要だから、あまり大物は出来ないが…。
 結局、テーマパークに着いた頃に帽子を作る事を決め、一旦その考えを振り払って、まだ冬休みに入る直前だからか、比較的空いている中へと入って行った。
「ええ。当日も見に来ますよ。その場所を教えていただけません?当日は酷く混むでしょうから、いい位置を今から調べておきたいんです」
 それはどうもありがとうございます、そう言いながら、スタッフの1人がパンフレットにある地図を指でなぞって行く。それによると、中央通りからぐるりと一周する形でパレードが移動する事が分かり、そのルートに添ってあちこちに目を光らせながら歩き、途中のベンチなどで休憩を取りつつ、周囲にさり気なく聖水や聖油を塗布して行く。
 気休めでしょうけれどね…内心で呟きながら。

 ――シュラインが去った後、特にパレードの見物客が集まりやすそうだと見当を付けた位置へ塗布された聖油が、見えない手で拭い去られるように消えて行ったのには、もちろん誰も気付かなかった。

*****

 ――入るのは、思っていたよりもずっと簡単だった。
 シュラインと成功、それに綱の3人が約束の時間に入り口近くに訪れると、そこにはにこにこと微笑みかけてくる翠の姿があり、ふわりと髪が揺れたかと思うと4人はもう中に入っていた。
「おや、早いですね?」
 そう言いながらふらりと現れたのは、一足先に事務所から直接テーマパークの中へ移動していたマリオン。
「…あら?もう1人の…南雲さんは?」
「それが良く分からないんですよ。私と一緒に来たわけではありませんし。事務所から出て行く所は見ているのですけれどね」
 それでも、特に事務所の方から連絡が無い所を見ると問題なく中に入って来ているのだろう。
「パレードはまだだよな?ちょ、ちょっと見回ってきていいか?」
 親子連れの子供と同じく、楽しそうに目をきらきら輝かせている成功が、見回りと称してアトラクション巡りをするつもりだと言うのはすぐ分かる。が、
「そうね。気を付けて行ってらっしゃい」
 何か異常が見つかれば、流石にその時点で連絡を入れるなり戻って来るなりする筈だ、と微苦笑を浮かべながらシュラインがこくりと頷いて送り出した。
「――この間来た時とは随分違うんだな」
「本当ですねえ」
 顔をしかめる綱に、のんびりと答えるマリオン。
「お友達はどこにいるの?」
「…あちらですね。此処に私が来ている事は彼女にも内緒ですから、顔を合わせる事はありませんが…」
 クリスマスを楽しむための人々でごった返すテーマパーク内は、深夜に至ってもどのアトラクションも大勢の人々が立ち並んでほんの数分の興奮を楽しんでいた。
 その中に、翠の友人がいるらしい。――そして、映像に映っていたと言う沢山の顔も。

 突如、ざわめきが大きくなった。
「パレードが始まったようですね。ほら、あの辺りからあんなに賑やかに」
「人の波が、予定外の流れになりそうで怖いな。――成功はまだ戻って来ないんだな」
 ひと目につかないよう、そっと携えて来た刀を構えながら、遊びに行ったきり戻って来る様子の無い成功に綱がちらと苦い顔をする。
「…始まったみたいですね」
 そっと、手に持つカメラに目を落とすマリオン。
 パレードに、人垣を作るくらい集まって、熱心にその様子を眺める人々。
 クリスマスらしく、大仰に飾りつけ、きらきらとライトアップされた木々。
 ――その、隙間から、いくつもの顔が見えた気がした。
 祭りに興奮している人々のほとんどが、じわりと変化していく雰囲気に気付いていなかったけれど。

 うふふ。あそぼう、あたしといっしょに――

 ――おまえたちばかり幸せそうにしていやがって、許せない

 あああぁ、あ、熱い、熱いいぃぃぃ―――

 許せない許せない許せない――羨ましい――俺よりも幸せになんて、させないからな――

*****

 電飾できらきらと輝いている木々の隙間から、ほの白い『何か』が覗いている。それが全て、嬉しそうに、悲しそうに、恨めしげにぱぁっと散りつつ、その場でパレードに見入っている人々にすぅ…っと入り込んで行こうとして、

 ぱちぱちっ、と小さな火花を上げつつそこから弾かれた。

「へへ。残念でした」
 少し離れた位置から、たった今駆けつけたばかりのように赤い顔をしていた成功が、にっこりと会心の笑みを浮かべる。
 良く見れば、パレードと『彼ら』の間には、非常に薄い鏡が張り巡らされており、それは一種の結界のような力を持ってパレードに見入る人々へ近寄る事が出来ないようになっていた。それが無ければ、実際どうなっていたのか…それはあまり考えたくない事で。
 そして――『彼ら』は、園内のそこかしこで自分達に網を張っている者達の存在にようやく気付いたのだった。
『邪魔、するなぁぁぁぁぁ!!』
 空を漂っている彼らのうちでも、余程想いが残っているのか、ぐわっとあり得ない大きさに口を開き、犬のように尖った歯を見せた1人が、比較的無防備そうに見えるシュラインの喉元目がけ飛び込み、
「お前こそ」
 すっ、といつの間にかシュラインの目の前に移動していた綱が、流れるような動作で霊刀を振り下ろした。
「楽しんでる人の邪魔するんじゃない」

 ぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!?!

 このテーマパークに集まって来た霊すらも喰らいながら力を蓄えてきたのだろう、その男は声にならない叫び声を上げると、ぎっと綱を睨み付け、綱へ向かって一斉に自らの力を吐き出して行く。
 それは、負の中でも妬み、嫉みに部類する想い。他人が自分よりもほんの僅かでも優れていれば、それを許さず相手が無力化するまで攻撃の手を緩める事が無い…そんな者達の持つ力は、当然の事ながら綱の能力を喰らい尽くそうと大きく口を開け、

 ――ずどん!

 透明度の高い槍が、その口を地面へと縫い付けた。
「たかが死霊…だが、侮りはしない、本気で行かせて貰うぞ」
 とどめを刺すまでもなく、水晶の槍が持つ理不尽なまでの破壊力――『彼』が持つ力が逆に吸われていく様をじたばたと足掻きつつ、槍で自らを貫いた者を目でぎょろりと探し回るものの、

 ずどどどどどど!!!!

 まるで、流星のようなきらめきを見せつつ次々と降ってくる槍に一片残さず破壊し尽くされ、ぱあぁっ、と一瞬だけ輝いたものの、辺りの空気に溶けて消えていってしまう。
「まま、あっちにも花火があったよ」
「あら?そっちじゃないでしょ?ほら、あのお城の向こうに花火が上がっているわよ」
 幾人かは気付いたらしいが、それもまた特別パレードのイベントのひとつと見て、それ以上騒ぎ立てる者は誰1人としていなかった。

 ――あそんでくれないの?

 ぺちぺちと鏡の向こうに何とかして行けないものか、と楽しそうな人々を眺める子供達、きらきらと輝く世界に同じように目を輝かせている子供達は、自分達の置かれている状況に最後まで気づく事は無かった。
 綱の手によって、鬼払いが行われても、尚。
 生きている間に手に入らなかった沢山の光に導かれつつ。

 そしてまた――

「いつまでこの地に留まるつもりだ、お前達の居場所は此処に無い!」
 ひと目に付かないような位置からの的確な射撃により、魔弾を額に、腕に、足に撃ち込まれた未成仏霊達が1人1人その身体を維持できずに消えていく。
 この地に縛られ、心が擦り切れるまで留まった結果、自分が誰であったかも、何のためにこの地に来ていたのかすら忘れていった『元』人達。
 彼らは彼らで、この地にぞくぞくと集まって来る明るい気を放つ人々に対し何か惹かれるものでもあるのか、機会があれば取り付いてしまおうと園内を徘徊し…南雲に破壊され、またはマリオンに自分がとうに死んでしまっている事を気付かされ…そして、次第に園内からはそう言った存在達は消えて行った。

 ――わああっっっ………

 ふと目を向ければ、電飾で色とりどりに飾り立てられたパレードが、満面の笑みを浮かべつつ見守る人々の間をゆっくりと進んで行く。
 その中で、テーマパークのキャラクター達が手を降る度に、楽しそうなざわめきが辺りを支配した。
「明暗くっきり分かれてるわね。仕方ない事なんでしょうけど、何だか少し切ない気がするわ」
「仕方ありませんよ。生きている人の方に比重が行ってしまうのは良くある話ですし…特にあの人は危険でしたから」
 マリオンが、悪霊と呼んでも差し支えが無いあの霊の事を思い出しながら呟き、
「…そうですね。あの方々は此処に居てはいけない存在にまでなってしまっていましたから…あまり、ひとの事は言えないのかもしれませんが」
 シュラインと手を繋ぎ、その様子を見守っていた翠が、それでも友人に害は無かった事を知ってほっとした顔をする。
「ねえ、ひとつ聞いていい?…お友達思いなのは良い事だけど、翠ちゃんは、クリスマスにイベントは無いの?お父さんに会いに行く、とか」
 ふわりと目の前に急に現れた白い靄へ、しゅっ、と聖水を吹き付けて消し去ると、改めて下を見る。
「ささやかながら、友人達とぱーてぃなるものをやりました。父君は年末年始を我が家で過ごすそうですので…気遣いはいりませんよ。翠は、いえ、私の日常に特に問題はありませんから」
 さらりと答えながらも、パレードをどこか遠い目で見つめる翠。
「……そう。ああ、そうだわ。これ、プレゼントよ」
「――え?」
 バッグから取り出した包みを手渡されて、年相応のきょとんとした様子を見せる翠が、次の瞬間頬を染めて顔を上げた。
「宜しいのですか…?私が、このようなものをいただいて」
「おまけ、と言うと聞こえは悪いけど。どうぞ、開けてみて」
 中から出て来たのは、零とお揃いの白基調の毛糸を使った帽子。ふんわりとしたベレー帽のような形のそれを、嬉しそうに被ってにっこりと微笑んだ。
「おお、似合いますよ。まるで立派なレディのように」
 失礼ね、と軽く嗜めつつ、他の3人が戻って来るのを待つ。
「おう、ちょっと休ませて。…駄目だ、ほとんど無害なのしか居ないのは幸いだけど、この敷地内に居る連中多すぎて話にならないよ」
 やがて一番に戻って来た成功は、そう言いつつベンチにどさりと腰を降ろした。
「…同感。まあ、『こちら側』の者が下手にコンタクトを取ろうとしない限りは大丈夫だろうけどね。大物は退治たし」
 能力を使うことよりも、目立たないようにしつつ刀を振るうのに疲れ切ってしまったらしい綱が、問題の相手だけは確実に屠った事を伝え、成功の隣にどかりと座る。
 それから待つこと暫し。
 警備員の格好をした南雲の姿を見つけた皆が、南雲を呼び寄せてこれからの事を話し合った。
「…あれだけのものがいながら、このテーマパークが潰れていない理由が分かった気がしたわ」
 シュラインがちょっと溜息を付きながら、そんな事を言う。
「遊び場所も、遊んでくれる人も…取り分け自分達と同じ子供が多く来る理想の場所なんてそうそうないもの」
 しかも皆幸せそうに、自分達とは違って十分な栄養を受けた子供ばかり。親や友達に囲まれて。
「おまけに食べ物も多いしなぁ」
 成功がふうと息を吐いて、少し切なそうにテーマパークの中央を見やる。
「そう言うマイナスの思念を浴びるんですから、気分が悪くなったり、絆にヒビが入ってもおかしくはないですね。…普通のテーマパークでも霊が集まりやすいと言いますけれど、ここは特にそうですし」
 何しろ昔墓場…いや、それよりも遥かに酷い場所だったのだから。
 留まった者もいただろうし、呼び寄せられた者もいただろう。そして時代と共に忘れられ、開発の波に思い出したように工場やホテルなどを建てたのだろうが…長続きする筈が無い。
 結局、数年足らずで退散してしまった後に、『嫌な噂』を気にもとめなかったこのテーマパークのオーナーが激安のこの地を買い叩き――オーナーにとっては幸いな事に、この場所は生者、死者を問わず大人気となった。
 かなりの数噂される怖い話も、テーマパーク特有のものと思えば気にする事は無い。何よりもこの地に度々訪れて金を落としてくれる客があれば、それで良いのだから…。
「これだけ広い土地だから、ここに集まって来るもの達を全て祓うのは容易な事じゃない。何より、集まる事自体を止めるのはほとんど不可能だし」
 疲れたか、ベンチに座ったままの姿勢で成功が言い、その隣にいる綱が同意して頷き、
「尤もな話だ。――まあ…人命に関わるような凶悪な敵はもういないが」
 客に園内を案内するような仕草を続けつつ南雲が言い切った。

*****

 パレードはまだ続いていたが、彼らが出来る事は済んでいる。最後に園内の確認だけして戻ろうとする時に、
「――あ…雪だ」
 成功が、ちらちらと降って来る白いものに目を止めて嬉しそうににっと笑った。
 雪だ
 雪だ
 雪だ――
 さわさわと、波のように呟きが人々へ広がって行く。
 パレードに見とれていた者も、
 仲間達との会話に興じていた者も、
 アトラクションの前で並んでいた者も、等しく空を見上げ、柔らかく降りてくる雪をじっと眺める。
 それらは電飾で飾られた木々に降り、地面をほんのりと白く染め上げた。
「…綺麗ですね、とても綺麗です」
 ――光の輝きが増す。
 マリオンの言葉は、その場に居る人々の気持ちをほぼ代弁したものだっただろう。
 それはまさにクライマックスに相応しい光景だった。

*****

「寒かったろう。お茶でも飲んで暖まるといい」
 ほぼ徹夜の6人に、いそいそと熱いお茶を振舞う零に、口々に礼を言いつつ、「あ、そうだ」と成功が事務所に訊ねて来た際に持って来ていた箱を思い出したように取り出して、武彦へと持って行く。
「えーと、今日はまだ当日だからオッケーだよな。はい、クリスマスプレゼントだ」
「……プレゼント?」
 あっ、と小さな声が聞こえたが、その声の主が誰かを詮議する前に、真四角の飾り気の無い箱を訝しげに見た武彦が、
「ありが……ぶっ」
 礼を言いながら蓋を開け、そこから飛び出して来た柔らかい人形の顔が勢い良く武彦の顔へクリーンヒットする。
「わはは。駄目だな、そんなの避けられないんじゃ」
「………」
 無言でぐいと人形の頭を押しのけた武彦が、ん?と箱の底にある何かに気付いたようでがさごそと取り上げる。
 それは、鈍い銀色に輝くジッポライター。どこかの古物屋ででも見つけたのか、いい感じに使い古されたライターだった。
「なんだ、あっさり見つかったな。そだよ、そっちが本物のプレゼント。いくらなんでもビックリ箱だけがプレゼントってのはありえないだろ?」
 その言葉には多くは語らなかったが、かちん、かちん、と開いたり閉じたりしている様子を見れば、そのプレゼントが気に入ったのは良く分かった。
「あー…じゃあ、私もついでに。翠ちゃんにはさっき渡したんだけど」
 照れくさそうに、事務机の下から2つの包みを出して武彦と、「私もですか?」と驚いている零へ手渡す。
 ざっくりと編んだ暖かそうな膝掛けは武彦に。
 淡い白基調で作り上げたカーディガンは零へと、「ついでよ、ついで」と言いつつ照れくさそうにシュラインが微笑んだ。
「わあ…素敵です、こんなプレゼントをいただけるなんて」
 うるっ、と目を潤ませた零に、
「なるほど、プレゼントですか…持って来ていませんでした。残念です。という訳で、この最後の一枚をあなたに」
 ぱりぱりさくさくとお茶うけのクッキーを1人で食べていたマリオンが、にこりと笑顔を浮かべると恭しく差出し、
「そんなのがプレゼントになるわけないだろ」
「全くだ」
 綱と南雲2人にほとんど同時に突っ込まれた。

*****

 …そして、この日から、雪と輝きに包まれるように、空へといくつもの白いモノが消えて行った、と言う噂が流れるようになった。それはきっと、あのテーマパークに巣食っていた霊達に違いないと。クリスマスのイベントで浄化され空へ上がって行ったのだと――流石に武彦も、その噂を聞いては苦笑いするしかなかった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ   /女性/ 26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1761/渡辺・綱       /男性/ 16/高校二年生(渡辺家当主)     】
【3507/梅・成功       /男性/ 15/お馬鹿な中学生          】
【4164/マリオン・バーガンディ/男性/275/元キュレーター・研究者・研究所所長】
【4279/翆・南雲       /男性/ 25/NIGHTMARE DOLL隊員 】

NPC
草間武彦
草間零
雨宮翠

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました、「舞い散る雪に」をお届けします。
ようやく暖冬と言う雰囲気から、例年並の気温に下がりましたが、流石に関東でクリスマスに雪は降りませんでしたね(笑)ホワイトクリスマスは北の特権みたいなものでしょうか。
何にしても冬本番、急激な気温の変化に身体を壊さないよう、お気を付け下さい。

それでは、良いお年をお過ごし下さい。
間垣久実