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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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『お姉ちゃんのオルゴール』
□オープニング
軽快な鈴の音と共に、ドアの開く音がする。
アンティークショップ・レン。
碧摩蓮を店主とするこの店は、一風変わった品物を置いてある店でもあった。
だからおのずと客の範囲が決まってくる。
そう・・・しかしその日、蓮の店に現れた客は変わっていた。
「貴方が・・・碧摩・・蓮・・様なのですか?」
腰まである艶やかな漆黒の髪。陶器のように白くすべらかな肌。大きな二重の瞳、長い睫毛は目の下にうっすら影をつくっている。
はっと息を呑むほどの美少女に、蓮は一瞬だけ口ごもった。
「そうだけど・・・お嬢ちゃんはどうしたんだい。こんな所に・・。」
年の頃は9か10だろうか・・・アンティーク調のフワフワしたドレスを着ている。
少女は少しだけ視線を宙に彷徨わせた後、提げ持ったファーの白いバッグから慎重な手つきで何かを取り出した。
・・・オルゴールだ。
「私は、桜坂 姫菜(おうさか ひめな)と申します。」
姫菜が蓮の手に、そっとオルゴールを置いた。
ふたを開ける。
中にいた人形が踊りだす・・・クルクルと、円形の台の上を回る。
紡ぎだされるメロディーは、美しくそれでいて物悲しい響だった。
「私のお姉ちゃんは、そのお人形様なんです・・。」
搾り出すように言った姫菜の言葉に、蓮は困惑の色を隠せなかった。
円形の台の上で踊る人形。真っ白なウエディングドレスを身に纏いながら、クルクルと回る。
「お姉ちゃんは“死のオルゴール作り師”様の作るオルゴールに魂を込められてしまったのです。」
蓮はそっとオルゴールのフタを閉めた。
メロディーの旋律が途切れ、店内はまたもとの静寂を取り戻す。
「“死のオルゴール作り師”・・ねぇ。それは一体何なんだい?」
「・・・最初から・・・お話いたします。」
薄紅色の唇からつむぎ出される言葉は、どれも悲しみと苦しみを背負っている声だった・・。
「お姉ちゃんは去年亡くなったんです。事故で・・。18歳でした。凄く優しいお姉ちゃんで・・。」
膝に置いた手に、力がこもる。
「そうしたら、次の日に“死のオルゴール作り師”と名乗る方から小包が届いたのです。・・その、オルゴールが入っていました。」
蓮は目の前のテーブルに置かれたオルゴールを見つめた。
オルゴールは沈黙を守っている。
「オルゴールを開けた時・・お姉ちゃんがいたんです。私はこの世のものでない者が見える体質なんです・・だからお姉ちゃんも・・。」
姫菜が俯く。
パタリと、膝の上で握られている手の上に雫が落ちた。
また一つ、パタリ・・パタリ・・・。
「お姉ちゃん、凄く苦しそうな顔をして言っていたんです。天に逝く事が出来ないんだって・・。」
姫菜は声を震わせながら泣いていた。
9か10の小さな子供・・なのにこの子は感情を押し殺すのだ。感情を爆発させても許される年ごろの少女なのに・・・。
「蓮様、どうかお姉ちゃんを天に逝かせてあげていただけませんか?お姉ちゃんは言っていたんです。」
『死のオルゴール作り師様から“魂の欠片”を頂いてオルゴールに入れれば天に逝けるんだって・・・。』
姫菜はそう言うと、顔を上げた。
涙の筋のついた頬は痛ましかったが、何よりも痛ましかったのは、泣くまいとして必死にこらえている琥珀色の瞳だった。
「・・・仕方ないねぇ。」
蓮はそう言うと、受話器を手に持った。
思いつく限りの場所に電話をかける・・。
『あたしだけれど・・・ちょっと可愛い女の子を助けてみないかい?』
■海原 みその
その日、買い物に出かけていたみそのはふとアンティークショップ・レンの前で立ち止まった。
“みえた”のは、面白そうなもの・・。
本日の衣装は漆黒のピエロ衣装でメイクで迫っている。
なにか面白そうなものがおきている・・そう思ったみそのは御方へのお土産にするべくアンティークショップ・レンの扉に手をかけた。
鈴の音と共に、みそのの予定が決まった。
□死のオルゴール作り師
アンティークショップ・レンの店内には7人の人物がいた。
碧摩蓮、桜坂姫菜はもちろんの事、今回の依頼に協力してくれる人々が5人集まっていた。
姫菜と蓮を前にして、大きなソファーに一列に並ぶ。
右から・・海原みその、相模紫弦、我宝ヶ峰沙霧、ジュジュ・ミュージー、鹿沼デルフェスの5人だ。
向かいに座る姫菜の瞳は潤んでいた。ついさっきまで、涙が流れていた証拠・・。
けれど、その瞳は何かに耐えるように凍っていた。
冷たく・・硬く・・決して見せまいとする悲しみが逆に辛かった。
デルフェスが席を立つと、奥に消える・・しばらくして持ってきたお盆の上には7つのティーカップが載せられていた。
順々に、柔らかな物腰でテーブルの上に置く・・紅茶だ。
そして・・・姫菜の中身はココアだった。
「さぁ、どうぞ。」
デルフェスが姫菜と視線を合わせるよう、屈みながらココアを手渡す。
「ありがとう・・ございます。」
姫菜が小さな手で大きなティーカップをそっと取る。その手つきの慎重さには、子供らしいいじらしさがある。
「でも・・なんで死のオルゴール作り師は、姫菜ちゃんのお姉さんの魂を込めたんだろうな・・?」
紫弦がそう言った時、姫菜が始めて顔を上げて紫弦の顔を見た。
ずっと下げたままだった視線が上がる・・その瞳が紫弦の視線を交わった時、姫菜の瞳が大きく見開かれた。
少しだけあいた口から、驚嘆を含んだ言葉を漏らす・・。
「お兄ちゃん・・。」
「え?」
聞き返す紫弦の声に、姫菜ははっと我に返ると恥ずかしそうに視線を下げた。白い頬に朱がさし、それが全体に広がる・・。
「俺、姫菜ちゃんのお兄さんに似てるの?」
「・・・はい・・。」
「そっか、お兄さんは俺と同じ歳くらいなの?」
優しく響く紫弦の声に、一瞬だけ表情を緩めたが・・すぐにまた硬くなる。
きゅっと唇を引き締め、少しだけ下唇を噛んだ後でゆるゆると言葉を紡ぐ。
「お兄ちゃんは・・亡くなりました。お姉ちゃんが死ぬ・・1年前に・・。」
室内が沈黙する。
兄の次に姉・・なんて不幸の続く・・。
姫菜は膝に持ったティーカップをぎゅっと握り締めると、ココアを見つめた。
「それにしても、こんなに可愛い子泣かすなんてね。絶対に死のオルゴール作り師とやらを捕まえないとね!」
沙霧の言葉に、場の雰囲気が“死のオルゴール作り師捜し”に向かおうとした時、みそのが口を開いた。
「お待ちください。一つ、わたくし個人の質問なのですが桜坂様におききしたい事がございます。」
視線がみそのに集まる。
姫菜も顔を上げ、言葉の続きを待った。
「なぜ“死のオルゴール作り師”様に“様”をつけて呼称されるのでしょうか。」
ビクリと、姫菜の肩が上下する。
「人間なら・・いえ、家族や姉妹などの親しい間柄ならこの状況・・お姉様の事故もこの方が関わっている可能性があると考え、恨むのが筋だと学んでおりますが。」
みそのの意見はまったくもって的を得ていた。
そう・・姫菜は何故恨むべき“死のオルゴール作り師”に“様”をつけているのだろうか?
確かに、姫菜が人を呼ぶ時に“様”をつけているのは蓮との会話で分かっていた。しかし、相手はこの原因の張本人。死のオルゴール作り師だ。
愛すべき姉を今でも苦しめ、閉じ込めている存在・・。
それなのに、何故“様”をつけて呼称しているのだろうか?
「ヘイ、ユー。なにかあるんデスかぁ?」
「そうですわ、姫菜様。お話になってください。」
ジュジュとデルフェスの優しい声に、姫菜は一度大きく頷いてから話し始めた。
「死のオルゴール作り師様が誰なのか、知っているんです。」
「誰なのですか・・?」
「お姉ちゃんの・・お姉ちゃんの婚約者の方です。鷺村 利樹(さぎむら としき)様。」
姉の婚約者が・・死のオルゴール作り師・・?
「けれど、利樹様はだれかに憑かれてるんです。・・・私には見えて・・。それは・・。」
語尾が震える。
言いたくないのではない。“言えない”のだ。
その事実の恐ろしさに、無常さに・・。
そして、その場にいる全員がその先をなんとなくだったが予想していた。
「私のお兄ちゃんなんです。」
はっきりと、淀みなく響く言葉。
口元には笑みが宿る。視線は、寂しげに宙を漂う。
見る人の心を締め付けさせるほど、悲しい笑顔・・。
紫弦は思わず席を立っていた。
姫菜の前にしゃがみ、顔を覗き込む。
「姫菜ちゃん、お兄さんの事、好きだった?」
姫菜が、小さくコクリと首を振る。
「お兄さんが、姫菜ちゃんのお姉さんを苦しめるような事、すると思う?」
イヤイヤをするように、首を横に激しく振る。
紫弦は満足そうに頷くと、しゃがんだまま姫菜の頭を優しく撫ぜた。
「お兄ちゃん・・お姉ちゃんと一緒で優しくって・・。でも、見間違いなんかじゃないんです。だけど・・。お兄ちゃんの顔、怖くて・・。」
その言葉に、姫菜以外の視線が交わる。
事の真相が見えてきた・・。
つまり、その兄も何者かに操られているのだ。
「お姉ちゃんがそんな悪戯されちゃったら悲しいよな。」
「わたくしも死のオルゴール作り師からお姉様の魂を取り返すお手伝いをしますわ。」
デルフェスが優しく言うと、姫菜をフワリと抱き上げた。
姫菜のスカートが大きく揺れ、腰の後に付けられた可愛らしいリボンがヒラリと舞う。
「ミーも死のオルゴール作り師から魂を取り返す手伝いするヨ。」
「わたくしも、微力ながら協力させていただきますわ。」
「私も!絶対許さないんだから!」
次々と、力のこもった言葉で姫菜を勇気付ける。
デルフェスのに抱かれながら、姫菜は少しだけ恥ずかしそうに笑むと小さく言った。
「ありがとうございます・・。」
■姫菜の家族と黒幕と
ひとまず姫菜を蓮に預け、一同はアンティークショップ・レンの奥の部屋で作戦会議なるものを開いていた。
その話の一番の議題は“黒幕”の事だった。
姫菜の姉の婚約者であると言う“鷺村 利樹”という人物の背後にいる“姫菜の兄”・・けれど、その裏にも更にあるのだ。
“何者かの影”が・・・。
「とりあえず、今は情報を手に入れることが先決ですわ。」
「そうだな・・。知り合いとかをあたって聞くしかないかな?」
「まずは蓮様にお話をお伺いするのが先かも知れませんわ。」
「死のオルゴール作り師の居場所でしたら、マイマスターか姫菜さんが知っているかと思いますが・・。」
「それは、姫菜がモ少し落ち着いてからじゃなきゃダメね。」
「今はまだ、話せるような状態じゃないしね。あんな小さい子に無理はさせられないもんね。」
沙霧の言葉に、頷く。
姫菜にきくのは最終手段の方が良い。
それよりも、本物の黒幕が誰なのか・・いや、何者なのかを探るのが先決だ。
「俺はバイト先に来るアンティークとかオカルトとかに詳しい客とか、調達屋でバイトしてる幼馴染のヤツにきいてみる。」
「ミーも、ちょっとした知り合いをあたってミルよ。オルゴールを送ってきた小包の発送会社なんかもあたってミルね。」
「わたくしは蓮様にお話を伺ってみますわ。」
紫弦、ジュジュ、みなもがそれぞれの役目を果たすべく席を立った。
あるものはそのまま外へ出て行き、またあるものは電話口に何かを囁いている。
沙霧とデルフェスは少しだけ視線を交わした後で、姫菜の元へと歩んだ。
それぞれが手にした情報を持って姫菜達の元に現れたのはそれから2時間後・・かなりのスピードだった。
closeになった店の中で、輪を描くようにして椅子が配置される。
各々の思いの席に座る・・時刻は7時過ぎ。
「蓮様・・そろそろ桜坂様のご自宅に電話を入れたほうが良いのではありませんか・・?」
「あ、そうだよ!両親が心配してるかも・・。」
みそのと沙霧の言葉に、蓮が眉根を寄せて小さく首を振る。
「それって・・。」
「今日は、ここに泊めてくれってさ。」
言葉少なにそう告げる蓮の口調は苦々しさを含んでいた。
空気が重く沈黙する。無表情な姫菜の顔は、人形のようだ・・。
今日、それぞれに入手した情報をこの場で出すのは酷な話だった。
色々と・・姫菜の耳に入れたくない話もある。
「姫菜、こっちにおいで。お茶を入れる手伝いをしてくれないかねぇ?」
「・・はい。」
その空気を読み、気を利かせた蓮が姫菜を連れ出す。
蓮の服の裾を少しだけ掴み、フワフワとおぼつかない足取りでその後を追う・・。
「それにしても、今日はここに泊めてくれってどういうことだろう・・。」
「なにか、事情がおありなのかも知れませんわ。姫菜様、お気を落とされてなければよいですが・・。」
「きっとなにか複雑な事情がアル。きっとそう・・OK?」
ジュジュが場を取り直す。
「それじゃぁ俺から報告。大分昔の話なんだけど“魂のオルゴール作り師”って言うのがいたらしいんだ。」
「魂のオルゴール作り師・・」
「魂を半分に割って、片方をオルゴールへ、もう片方を自分の手元へ・・そして、オルゴールを親族に送るってところが、今回とそっくりだろ?」
「そうね。それで、その“魂のオルゴール作り師”って、まだ生きてるの?」
「いや、数年前に・・でも、その男には息子がいたらしく・・。」
「その息子様が死のオルゴール作り師様なのですか?」
「そう考えるのが妥当だと思ったんだけど・・。」
紫弦が言葉を濁す。
「その息子って言うのが・・魂のオルゴール作り師よりも先に亡くなってるんだ。」
小さくため息を吐きながら紫弦はそう告げた。
魂のオルゴール作り師よりも先に亡くなっていた・・その息子。
それでは一体“死のオルゴール作り師”は誰・・?
「その、息子様にお子様ですとか・・なにか・・そう、親族のような方はおられなかったのですか?」
「あぁ。息子が亡くなった時まだ16だった。母親はもっと前に亡くなっていたし・・他の親族なんかはいないと思う。これは、信用できる情報。」
紫弦が断言する。
ならばそうなのだろう・・しかし、そうしたならば“死のオルゴール作り師”は一体誰になるのだろう。
もしかして・・この世の者ではなくなっている“魂のオルゴール作り師”か。
またはその息子か・・。
「多分、どっちかが正解。デショ?」
ジュジュはそう言うと、そばにあった大きな黒いカバンから数枚の紙を取り出した・・それを、一人一人に手渡す。
「これは?」
「ミーが調べた情報。多分、ユーの情報と足せばかなり良いセンいく。キット真相大体見えてくる。」
パラリとめくったそこには、繊細な文字でなにやらつらつらと書かれている。
「ソレは小包の発送会社からの情報ネ。発送元は都内のあるお屋敷・・昔住んでたのは・・。」
『 アガレス・スペリア 』
紫弦が一番最初に反応する。
「これ、魂のオルゴール作り師の本名だ・・。」
「きっとそうだと思ったネ。そしてムスコの名前・・。」
『 マシュラ・スペリア 』
「そして、次のページも見て欲しいネ。」
パラリ、次のページをめくる。
「それは筆跡鑑定の結果。マシュラと小包に書かれていた筆跡とは別物・・その筆跡は・・。」
『 鷺村 利樹 』
「さて、問題ネ・・。鷺村とマシュラ・・二人の面識は?接点は?」
「面識はない。接点は姫菜ちゃんとそのお姉さんだ・・けど、鷺村さんがマシュラの家にいけるはずがない。だって・・。」
『マシュラが亡くなったのは大分前・・それこそ、鷺村さんが産まれる前の話なんだから・・。』
スーっと、空気が冷えた気がした。
複雑に絡まる事件。そして、たどり着いたのは魂のオルゴール作り師、そしてその息子。
「ですが・・その、アガレス様がこの事件を起こした・・とも考えられませんか?」
「そうだよ!手口が似てるって言ってたじゃない。」
「だけど・・。」
「アガレス様ではありませんわ。そう、きっとこの事件はマシュラ様が原因。鷺村様に憑いているのですわ、桜坂様のお兄様と、マシュラ様が・・。」
「そう、アガレスと手口は同じだけれどもねぇ。アガレスはそんなむごい事はしないよ。」
いつの間にか、蓮がティーカップをお盆に載せて持ってきた。
中身はココアだった・・多分、いやきっと、姫菜のチョイスなのだろう。
甘い香りが冷え切っていた室内を温かく染め上げる。
「蓮様は、アガレス様をご存知なのですね?」
「あぁ、たまにこの店にも来ていたからねぇ。アイツは・・ただ優しいからね。だから“魂のオルゴール作り師”と呼ばれていたんだよ。」
「それはどう言う事ですか?マイマスター・・。」
「死者の最期の言葉をオルゴールに乗せて届ける。死者が望んだ事をしてあげているだけさ。つまり・・。」
「別名“天使のオルゴール作り師”・・ですよね、蓮さん。」
「あぁ。」
「それで蓮様・・その息子様と言うのは・・。」
「さぁね・・あたしがこの店を始めた頃にはとっくにこの世の人じゃなかったしねぇ。」
蓮はそう言うと、ふっと息を吐き出した。
渦巻く思考の迷路の中、どこか出口に出られない気がしていた。
道標はきちんと立っているのに・・それがどうしても読み解けない。そんな感じだった。
「蓮さん、姫菜ちゃんは?」
「奥の部屋で紅茶を飲んでるよ。あたしが行くかい?ってきいたんだけれど・・大事なお話してるからイイです。って言ってね。」
「それで、姫菜の両親、なんでココ泊めろって?」
「あのうちは、毎日のように誰かがいるわけじゃないからねぇ・・。」
浮かんできた光景は、広く冷たい部屋、小さな灯り、ポツンと一人でココアを飲む姫菜・・。
その先には、オルゴール・・。
・・・・・・・。
「話を整理しよう。」
沙霧の提案に、頷く。
一刻も早く、姫菜の姉の魂の欠片を手に入れることが・・今できる唯一の事だ。
「まず、鷺村さんは何者かによって操られている。それは、姫菜ちゃんはお兄さんかも知れないと言っていたけれども・・。」
「実際はマシュらが“死のオルゴール作り師”で、一番の黒幕かも知れない。」
「でも・・マシュラ様がどうしてそんな事をなさるのか・・分かりませんわ。」
暗く沈黙する。そこだけが、どうしても分からないことだった。
何故、マシュラは鷺村に憑き、姫菜の姉の魂をオルゴールの中に閉じ込め、送りつけたのか。
そこに何の意味があるのか・・。
「行けば・・分かるんじゃないのか?」
「わたくしも、そう思いますわ。」
紫弦の呟きに、みそのが頷く。
□全ての真相
次の日・・一同はマシュラの家の前にやってきていた。
丁度昼過ぎ。
閑静な住宅街からは、時折生活音がする以外はほとんど無音の状態だった。
・・・風の音が、やけに大きく聞こえる。
目の前にそびえているのは大きなお屋敷・・蔦は絡まり、荒れ果て・・。
煌びやかだった時が見え隠れする立派な構え・・けれど、全てが無常にも崩れている。
まるで華やいでいた時代なんてなかったかのように・・今では無人の館。
「マシュラ様が“みえます”・・。その側には鷺村様も・・。そして・・。」
みそのがじっと集中するように“め”を凝らす。
一瞬だけ、紫弦の腕の中を見た後で・・小さく呟いた。
「桜坂様のお兄様も・・“みえます”わ・・。」
紫弦の腕の中で、姫菜が俯く。
紫弦のシャツをギュっと掴んで、顔を押し付ける。
どうして姫菜をこんなに危ない所に連れてきてしまったのか・・そもそもの原因は今朝の蓮の言葉だった。
『姫菜を連れて行きな。相手は姫菜にオルゴールを送りつけてきたんだ。姫菜が来るのを待ってるんだよ。』
もちろん反対した。けれど・・最終的に来ると決めたのは姫菜だった・・。
「姫菜様、きっとお兄様と鷺村様を助けてまいりますわ。」
「そうだよ!私たちに任せてれば大丈夫!そうだ!ねぇ、これが終わったら一緒に遊園地に行かない?ジェットコースター乗って、観覧車に乗って・・。あ、もしかしてジェットコースター嫌い?」
「ううん。大丈夫、だって私もうお姉さんですもの・・。」
頷く姫菜の頭を、沙霧が優しく撫でると“指きりげんまん”をした。
「それじゃぁ、私は姫菜のお兄さんを助けて、鷺村も助ける。約束。」
絡まっていた、小指が解ける。
紫弦は姫菜をデルフェスの方に渡すと、すっとマシュラの家を見た。
「さて、どんなりゆうであれ、姫菜ちゃんを泣かせた罪は重いな。」
「そうだね!女の子を泣かせるなんて許せない!」
「それじゃ、ミーの出番ネ。」
ジュジュはそう言うと、携帯電話を取り出した。
他の人達に少しだけ離れるように言うと、何処かに電話をかけ始めた。
すぐに、館の電話が鳴り始める。
ワンコール、ツーコール、スリーコー・・。
ベルが鳴り止んだ。
ジュジュが小さく何事かを電話口に話す・・・と、突然館から禍々しい“何かの気配”が爆発した。
「な・・なにこれ・・。」
「さぁな。けど、友好的じゃないって事だけは確かだ・・。デルフェスさん、みそのさん、姫菜ちゃんをよろしくお願いします!」
「えぇ、確かに・・。」
デルフェスはそう言うと、しっかりと姫菜を抱きしめた。
それを確かめると、紫弦と沙霧は駆け出した。
その背後から、みそのの声が響く。
「これは悪霊ですわ!なんて・・なんて膨大な・・。」
館から、溢れんばかりに漂ってくる・・黒い気配。
「ジュジュさん、これは・・?」
「ミーのテレホン・セックスでマシュラの脳の中枢を押さえた・・。そしたらコレね・・。」
「マシュラの脳内に、悪霊がいたって事ですか・・?」
「違いますわ!これは・・。」
背後でみそのがじっと見つめる。
段々と、膨張してくる気配が・・すぐそこまで迫ってくる。今にも館の扉を開けてこの東京にあふれ出てきそうなほどに・・!
「“みえました”わ・・。マシュラ様ではなく、これは桜坂様のお兄様に・・・お兄様にとり憑いていた者達・・。」
「ミーのテレホン・セックスは確かにマシュラに憑いたはず・・。Whay・・?」
「それはね・・お兄ちゃんが守ってたからなのよ・・。」
困惑する耳に届いてきたのは、やけに悟った様子の姫菜の声・・。
「姫菜様?それはどう言う事なのですか・・?」
「お兄ちゃんは、私を守ってくれてた。お姉ちゃんも・・。だから・・だからなんだよ・・。」
姫菜はそう言うと、デルフェスの腕を振り解いた。
そして・・あっと言う間に館のなかへ駆けて行く・・。
口々にその背中に向かって呼ぶが、姫菜は止まらなかった。
重たい扉を押し開け・・黒い気配が蠢く中に入っていった・・。
すぐに後追おう・・。
「気配が・・!!」
みそのの呟きが聞こえる。
みその以外の誰もに感じられていた・・気配が段々と薄くなっていっている事を・・。
「なに、これ・・?」
「わかんないけど・・姫菜ちゃんが入っていってから急に気配が弱まった・・。」
姫菜が通った後は、まるで何事もなかったかのように気配がない。
可愛らしいピンクのスカートの裾が、右の部屋に入り込む。
後を追い、その中に入る・・・。
入った部屋の中は可愛らしかった。
フワフワのドレスを着たお人形、ニコニコと微笑みながら踊る柱時計の妖精、流れてくるのは・・オルゴールの微かな音色。
「ここは・・?」
「ここは俺の親父の部屋だよ、みなさん。」
声のする方を振り向く。
金髪碧眼・・そして、服はきちんとした正装。
まるで物語の中から抜け出してきたかのような・・。
けれどその腕の中にはぐったりと力なく抱かれる姫菜の姿があった。
そして、その隣にはどこも見ていない鷺村の姿・・。
「あんたがマシュラね!」
「そうだよ、我宝ヶ峰沙霧さん。せっかくの美人がそんなに怖い顔じゃ台無しだよ。」
マシュラが小さく笑いながら、皮肉気にそう言う。
沙霧はそんな事は気にせずに、マシュラをきっと睨みつけた。
「姫菜に何したのよ!」
「少し眠ってもらっただけだよ。まだ何もしていない。」
“まだ”・・ではこれから何かをするつもりなのだろうか・・?
「どうして、姫菜様のお姉様の魂をオルゴールに閉じ込めたりなさったのですか?」
「姫菜ちゃんに来てもらうためだよ。鹿沼デルフェスさん。俺は綺麗なモノが大好きでね・・あぁ、デルフェスさんも綺麗だけどね。」
クスクスと笑うマシュラの瞳は、どこも見ていないようだった。
なにかが憑いているのかと、感覚を研ぎ澄ませてみるものの・・やはりなにもいない。これが、マシュラの素顔なのだ・・。
「俺は綺麗なものが大好きなんだ。そう、親父が作るオルゴールも綺麗だった。この部屋のもの、全部親父が作ったんだぜ?」
可愛らしいフワフワのお人形達・・その顔は全て晴れやかで、優しげで・・作った人の心があらわれているかのようだった。
「ねぇ、こうやって魂を閉じ込めていれば永遠なんだ・・。人間は綺麗なのに脆く儚い。すぐに壊れてしまう。それに・・綺麗でいる時期も短い。花が落ちるのと同じ・・人間は年老いればその美しさが半減してしまう。」
とても愛しそうに腕の中の姫菜を見つめる。その瞳は、狂気めいた色が宿っていた。
「だから一番綺麗な時に永遠をあげるんだよ。親父の作るオルゴールは全て美しかった・・けれど、込めた魂を開いた途端に解放してあげるって言うのが駄目だ。それじゃぁ永遠でなくなってしまう!せっかく一番綺麗な時に閉じ込めてあげたのに・・そんな事をしてしまえば、その美しさは永遠に暗闇の中に突き落とされてしまう!!」
マシュラの背後に、沢山のオルゴールがある。
そのどれがマシュラの作ったもので、どれがアガレスの作ったものなのかはわからない。
綺麗に整理され、並べられているオルゴールは遠目には全て美しかった。
「俺は大分前に死んだけど・・親父が俺の魂をオルゴールに込めたんだ。開けても決して失われない魂を・・。」
ゾクリと、背筋に何かが這いずり回った。
全てが優しい色に包まれている部屋の中“何か”が酷く冷たく輝いているのだ。
そして・・その何かがなんなのか分からない。だからこそ、コレほどまでに嫌な恐怖を感じるのだ。
「だから俺も親父と同じように開けても失われない“美の魂”をオルゴールに込める事にしたんだ。そう・・丁度美しい魂が手に入ったからね。」
マシュラが姫菜の提げ持っていた白いファーのバッグからオルゴールを取り出す。
ふたを開けると流れるのは物悲しくも美しいメロディーそして・・姫菜の姉の姿・・。
「央菜(おうな)はとても綺麗だった・・。だからすぐにオルゴールの中に魂を込めてあげたんだ。妹の姫菜の存在を調べ上げた後でね・・。」
央菜の魂を手に入れたのは偶然だったのだ・・けれど、姫菜をここにおびき出したのは必然・・。
「さっきのは何なんだったんだよ。」
「先ほどのは俺のせいじゃないよ。相模紫弦君。アレはあの忌々しい男のせい・・。あぁ、それにしても君も綺麗な顔立ちをしているね。本当、男なのに綺麗だ・・。あの忌々しい男もこれくらい綺麗ならオルゴールにしてやったのに・・。」
紫弦は苦々しく顔をゆがめた。
「マシュラ様・・“あの男”とは一体誰なのです?」
「姫菜と央菜の兄だよ。海原みそのさん。ああ、君も美人だねぇ。ぜひオルゴールの中で永遠に輝いていて欲しいよ。」
「それで、姫菜の兄はどうしたネ?」
「あぁ、そうそう。さっきの・・“テレホン・セックス”?はどうもありがとう。ジュジュ・ミュージーさん。」
「どういう事ネ・・?」
「貴方のおかげであの忌々しい・・俺の脳に寄生していた男を追い出すことが出来たんだよ!それにしても・・君も綺麗だねぇ・・。」
マシュラが顔をゆがめる・・ゾッとするほど美しく、それでいて禍々しい笑顔はその場の雰囲気とはあっていなかった。
全てが優しい中、酷く冷たく光っている何か・・それは、マシュラの心・・??
「君達は本当に美しいね。ゼヒ・・オルゴールの中で永遠に・・!!」
マシュラがそう言った途端、瞳が紫に輝いた。
神秘的で・・どこか絶対的な光。
身体から魂が抜けてしまいそうなほどに引き込まれる・・・。
「気をしっかり持って!」
ぼんやりとなりそうになる頭の中で、誰かの声が響いた。
目の前が紫色に染まりそうになるのを、白い光が遮る。
白い光・・・。
はっと、目を開けたそこはもとの部屋だった。目の前にはマシュラがいる。その腕の中には姫菜・・そして、その隣に立っているのは。
「お兄さん・・?」
誰がそう言ったのかはわからない。もしかしたら、自分だったのかもしれない・・。
「みなさん、一瞬だけ目を瞑っていてくれませんか?・・失明する恐れがあるので・・。」
その言葉に頷くと、瞳を閉じた。
全ての光景が瞼の外側に押し出される・・一瞬だけの強い光。
「もう、結構です。」
そう言われて開いた先に、マシュラの姿はなかった。
床にぐったりと蹲る姫菜の姿と、その隣で眠る鷺村の姿。そして・・笑顔で振り返る男の姿以外は何もない・・。
「マシュラは?」
「ご自分の部屋に帰っていただきました。」
そう言いながら、手に持っていたオルゴールを見せた。
まるで海を思わせるかのように、深い深い青の色・・その上では楽しげに人魚たちが座っている。
「これが、マシュラ様のオルゴールなのですか?」
「えぇ・・。アガレスが最も時間をかけて作った最高傑作・・とでも言いましょうか?」
それをカタンとデスクの上に置くと、代わりに央菜のオルゴールを手に取った。
蓋を開ける・・・。
片手に持っていた小さな欠片をその中にすべり込ませる・・。
流れるメロディー、そこから現れたのは姫菜の姉の姿。
「慶那(けいな)兄様・・?わたくし・・。」
央菜の視線が床でぐったりと倒れこんでいる姫菜に注がれる。
「姫菜!!お兄様!?姫菜がっ!」
「大丈夫、ただ眠っているだけだ。スミマセンが、どなたか姫菜を起こしてやってくれませんか?」
慶那は人の良い笑顔でそういうと、少しだけ付け加えた。
『私たちでは姫菜に触れることが出来ませんので・・。』
■さよならのメロディー
起きた姫菜が最初に見たものは、大好きな姉の姿と兄の姿・・そして、聞こえてくるのは物悲しいメロディーだった。
「うちは一家全員霊感のようなものが強く、悪霊なんかに取り付かれやすかったんです。特に姫菜が・・。」
慶那の視線を浴びながら、姫菜が嬉しそうに微笑む。
始めてみた心からの笑顔に、ほっと一息をつく・・。
「私は些細な事故で死にました。けれど、二人の妹達の身を案じるあまり、この世に縛られてしまったのです。けれど・・良かったのかも知れません。央菜も私と同じく些細な事故でこの世を離れましたが・・危うく姫菜まで・・。」
慶那と央菜は偶然におきた不幸な事故だった。
けれど、姫菜の場合は・・。
「マシュラの思惑は分かっていました。だから、央菜がマシュラに囚われた時私はマシュラの頭の中に寄生した。姫菜がここに来た時、せめて姫菜だけでも守れるように・・けれど・・。」
慶那はそこで言葉を切ると、少し俯いてポソリと呟いた。
「自分で出られなくなっちゃいまして・・。」
・・・つまりは、マシュラの中に閉じ込められてしまったと言うことだ。
これでは姫菜を助ける事は出来ないではないか・・。
「マシュラも、いわば魂だけの存在ですから弱いのです。ですからそこを補おうと人にとり憑きました。それが鷺村さんです。」
視線が、ぐったりと床に寝くたばっている鷺村に注がれる。
マシュラの思惑を知った慶那がマシュラにとり憑き・・魂だけで弱かったマシュラがそこを補おうと鷺村に憑いた。
「姫菜は、あまりにも“陰”の気配が強いものは見えないんです。存在が“陽”なだけあって・・。」
だから、姫菜の目には鷺村と慶那が映った。
・・慶那の表情にだけマシュラが映って。
「マシュラの魂は、オルゴールに入れたまま私達が持って逝きます。もう、二度とこの世で“死のオルゴール”を作らないように。」
慶那はそう言うと、ギュっとマシュラのオルゴールを抱えた。
「あの後にある大量のオルゴールは全部アガレスのものなの?」
「えぇ。あのオルゴールの中にはもう誰もいません。すべてアガレスが“魂のオルゴール”として作り上げたものですから。」
央菜が微笑む。その手には、央菜のオルゴールが握られていた。
二人が立ち上がる。
「姫菜ちゃん、ちゃんとお別れして来いよ。」
紫弦はそう言うと、姫菜の手を握った。
温かい勇気をそこから注ぐ・・。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!・・あ・・。」
姫菜が言葉につまり、俯く。それを優しく見守る兄と姉。
マシュラがもし、見ているのならば言いたかった。
『儚いけれど、この一瞬の光景達が美しいのではないか・・』
「お兄ちゃん、お姉ちゃん・・」
『さようなら』
ゆっくりと、大切なもののように紡ぎだされた言葉。
そして、涙をこぼすまいと力を入れる瞳は潤んでいる。
口元は震えながらも笑い、そして・・握られた手はいじらしいほどに小さかった。
「姫菜、これ、あげるわ・・ずっと、ずっと大事に持っていてね。」
央菜が胸に抱いていたオルゴールを手渡す。
姫菜は大事そうにそれを受け取ると、ギュっと胸に抱いた。
央菜が、優しく姫菜の頭を撫でる・・。
けれどそれは触れ合う事の出来ない優しさ。
空中で動かされる手のぬくもりは、姫菜の頭まで届かない。
「みそのさん、これ、どうぞ。」
慶那が、みそのの手に白い紙を渡した。
「まぁ、ありがとうございます。大切に使わせていただきますわ。」
みそのはそれを受け取ると、深々と頭を下げた。
淡い光が二人を包み込む。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!ずっと・・ずっと大好きだよ!」
二人の表情が、柔らかく微笑む。
柔らかで、温かな光が包み込む・・すっと光に溶け込んでいく二人が残した言葉。
『ずっと、見守ってるからね』
光が消えうせ、また元の部屋に戻る。
違う・・いつの間にか可愛らしい部屋ではなくなっていた。人形もない、柱時計もない・・ただの廃屋・・。
「あれは、マシュラ様が作り出したものだったのかもしれませんわ・・。」
みそのの呟きを背に、姫菜は下を向いたままその場に固まっていた。
震える肩と、足元に落とされる涙。
「姫菜ちゃん・・。」
紫弦が言いながら、姫菜を軽々と抱き上げた。
「相模・・様・・。」
「よく頑張ったな。」
「姫菜様、泣きたい時は思いっきり泣いても構わないのですよ?」
デルフェスが笑顔で姫菜の頭を撫ぜる。
「お兄ちゃん・・お姉ちゃん・・。」
泣きじゃくる姫菜を、黙って受け止める。
沙霧が、落ちていたオルゴールを拾い上げると・・そっとフタを開いた。
流れ出るメロディーは柔らかい。
「まぁ・・なんて優しい音色・・。」
「モウ、悲しい音じゃないネ・・。」
姫菜の泣き声と、オルゴールの音が混じりあいメロディーを作り出す。
瞳を閉じる・・。
“さよならのメロディー”はきっといつか“思い出のメロディー”に・・。
□笑顔
次の日、沙霧の提案で一行は遊園地に来ていた。
姫菜の笑顔が未だにぎこちない・・。
最初は姫菜の意見で次々と乗り物を乗っていたのだが・・いつの間にか沙霧の意見で動くようになっていた。
「よ〜っし!次はジェットーコースター!姫菜!行こう!」
「はい。」
・・まぁ、それでも姫菜が楽しそうだから良いのだが・・。
先頭をジュジュと沙霧が歩き、次を紫弦が歩く。姫菜の様子を気にかけながら、疲れたようなら抱いて歩いた。
そして最後をゆっくりと歩いてくるのはデルフェスとみそのだった。
天気が良い・・。澄んだ空には鳥が楽しそうに飛び交っている。
「姫菜!のど渇かない!?私が何か買ってきてあげる!」
「えっと・・じゃぁイチゴミルクで・・。」
沙霧が凄いスピードで駆け出していく。
その後姿を見つめる姫菜の顔には、徐々に柔らかな笑顔が取り戻されつつあった・・・。
楽しい時間は立つのが早い。
ゆったりとした動作で遊園地を出た6人の耳に、蓮の声が響く。
「楽しかったかい?」
「蓮さん?どうしてここに?」
「姫菜の両親を叩き起こしたのさ。まったく、コイツラときたら姫菜が大変だったのにも気付かずに・・。」
そう言う蓮の背後から、綺麗な女生と男性が姿を現す
ぱっと見ても分かる・・姫菜の両親。
「お父さん、お母さん・・。」
「姫菜・・。ゴメンネ・・。」
紫弦が姫菜を地面に下ろすと、姫菜は真っ直ぐに両親の元に駆け出した。
「レン、姫菜の両親に全部話した?」
「あぁ、詳細には話さなかったけどねぇ。ま、アイツラもなかなかそういうのに免疫はあるからねぇ。」
夕暮れの下、三人になってしまった家族はどこか淋しかった。
けれど、それも・・。
姫菜がこちらに走り寄ってくる。
「これ・・今回のお礼に・・。」
そう言う姫菜の手元には、綺麗にラッピングされた箱があった。
「海原様・・ううん。みそのお姉ちゃん。ありがとう・・。」
そう言いながら、みそのの手に箱を手渡す。
「ありがとうございます・・。」
姫菜は満足そうに頷くと、他のメンバーにも次々に箱を手渡して行った。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん・・ありがとう。ずっとずっと・・大好き・・。」
姫菜の笑顔がキラキラと輝いた・・。
■プロローグ〜心地良いメロディー〜
みそのは、他のメンバーと別れた後で姫菜から貰った箱のリボンを解いた。
赤いリボンをそっと手の中に入れ、箱を開く・・。
中に入っていたものはクッキーだった。
バニラ味のクッキーと、チョコレート味のクッキー・・。
とても美味しそうなクッキー・・これは妹と一緒に食べましょう。
そっとリボンを元に戻す。
耳に流れてくるのは、あのオルゴールの音色・・。
みそのは手に持っていた白い紙を広げた。
慶那から貰った“オルゴール”の作り方。
それを“魂の”にするか“死の” にするかはみその次第。
・・さて、あまり難しくなさそうね。これは可愛いあの子にも試してみなくては・・。
みそのはクスリと小さく笑うと、紙をそっとたたんだ・・。
〈END〉
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1388/海原 みその/女性/13歳/深淵の巫女
2973/相模 紫弦/男性/16歳/高校生
3994/我宝ヶ峰 沙霧/女性/22歳/“滅ぼす者”
0585/ジュジュ ミュージー/女性/21歳/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)
2181/鹿沼 デルフェス/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員
*受注順になっております。
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■ ライター通信 ■
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今回は『お姉ちゃんのオルゴール』にご参加ありがとう御座いました!
ライターの宮瀬です。
如何でしたでしょうか?最初はもっと短かったのですが、なんだか長くなってしまいました・・。
マシュラさん。ある意味カレも被害者なのでしょう。だって、カレもオルゴールの中に閉じ込められてしまったのですから・・。
と、そこまで思っていただければ嬉しく思います。
凄く余談なのですが・・“死のオルゴール作り師”が毎回“師のオルゴール作り師”になってしまって・・。
“師”って・・。と思いつつ書き上げました・・(凄くくだらない事ですが・・)
海原 みその様
連続のご参加ありがとう御座います!
今回はお手伝いの方で能力を発揮させていただきました。如何でしょうか?
それと慶那から無事“オルゴールの作り方”を書いた紙を手に入れました!
補足ですが・・慶那とは言わなくても通じ合っていた(妹が好きと言う所で)ので、無言で作り方の紙を渡してます。
二人の姉妹愛を願って・・。
では、また何処かでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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