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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


最後はやっぱり・・・?

1.
「・・・湯船が壊れた?」

草間武彦は呆然とそう呟いた。
時、あたかも雪舞い散らんとするほどの冬である。
湯船が壊れたということは、それすなわち風呂に入れないということである。
「この寒いのに、俺にシャワーで体を洗えと?」
だが、その呟きににこやかに草間零は答えた。

「いえ。お湯がそもそも出なくなってしまいましたから、シャワーも使えません」

そのときの草間の顔は、まさにこの世の全ての不幸を背負ったような顔だった。
「・・・ち。どうしろっていうんだ?」

「銭湯に行ってください。そうすればお風呂に入れます♪」

天使の微笑で零は、草間にシャンプー・リンス・石けん・手ぬぐい、そしてアヒル隊長の入った手桶を渡したのであった・・・。


2.
「こんちゃー! 何かおもろいことない? ボク、退屈で退屈で・・・」
門屋将紀(かどやまさき)はいつになく暇をもてあまし、ここ草間興信所に訪れた。
そして彼は遭遇した。
普段の草間からは全く想像し得なかった庶民派・草間武彦のその姿に。

「・・・アヒル隊長ってことは、もしかしてお風呂屋さんに行くん?」

草間の引きつっていく顔と反比例に、将紀の顔はそれはそれは強い輝きを放っていく。
「ボクも行くー!」
「ちょっと待て。俺はただ風呂に行くだけなんだぞ? なんでそんなに目を輝かせてるんだ!?」
それは確かにそうなのだが、将紀にとってその質問は愚問なのだ。
「お金やったら持っとるで。こん中に。お金はらうんやからええやろ? な?」
ブタの形の貯金箱をさっと取り出し、小銭をジャラジャラとならし将紀はアピールした。
困り顔の草間だが、自分の金で行くといっているいたいけな子供を来るなと言う権利はどこを捜しても見当たらないようだ。
「ち。わかったよ。さっさと支度して来い」
「わかった! すぐに戻ってくるから待っててや〜!」
元気にそういうと、将紀は心躍らせてお風呂セットを取りに行く。

楽しい暇つぶしになりそうや!

心ウキウキ。こうして、将紀は草間と銭湯へと行くことになったのだった・・・。


3.
「今戻ったー・・・ってあれ? なんや人数増えてへんか??」
将紀がお風呂セットを抱え草間興信所へと戻ると、お風呂セットを抱えた人が増えていた。
「あ〜! 来たなの〜♪ 僕、藤井蘭(ふじいらん)なの。一緒にお風呂行くの〜!」
緑色の髪の少年はニコニコとそう言うと、草間の腕と将紀の手にそれぞれ手を絡ませて歩き出す。
「わわ! 引っ張らんでも自分で行けるって!」
蘭に引っ張られる形で、興信所を後にした将紀と草間。

見た目ボクより年上っぽいのに、何でこないに無邪気なんやろ?

それは子供ながらに現実的な将紀だからそう感じたのか、それとも単に蘭が無邪気だからなのか。
将紀にはよくわからなかった。

「奇遇ですね〜。おや、今日は草間さんは保護者役ですか?」
辿り着いた銭湯前で一行はとある人物に遭遇した。
「おまえも銭湯か? 奇遇だな、シオン」
草間にそう呼ばれたシオン・レ・ハイは目を輝かせた。
「ということは、草間さんも銭湯ですか!? ここ、私の行きつけの銭湯なんです! 是非一度草間さんをお連れしたいと思ってましたが、こんなに早く夢がかなうなんて・・・」
神様ありがとう・・・と言わんばかりの祈りのポーズでシオンが呟く姿を見て、将紀は草間の耳を引っ張った。
「なぁ、このおっちゃん大丈夫か?」
「・・・大丈夫かと訊かれれば大丈夫だ」
微妙な言い回しに、将紀は色々察した。
大人の世界も大変なのだ。
「草間さーん、早く中に来るの〜! とぉっても広いなの〜!!」
いつの間にか居なくなっていた蘭が銭湯の中から顔を出し、手招きしている。
「・・・俺らも行くか」
そういうと、草間はぽんと将紀の頭を軽く叩いた。
「あぁ!? 待ってください! できれば銭湯代を奢って頂けたら嬉しいですが!」
「わかったから、早く来いって!」

シオンの言葉に草間が苦笑いをした。


4.
シオン・オススメの銭湯は悪く言えばボロ。
よく言えば昔の風情を残した銭湯で、服を脱ぎ浴場への扉を開いた将紀は思わず感嘆の声をあげた。
そこには、昔の漫画でしか見たことの無いような立派な富士山の絵が描かれていた。
それでも、幾度かは改装したのだろう。
浴槽はジェットバスや足湯、ヒノキ風呂と3種類の風呂が配置されていた。
「うわ〜! 入り口とはえらい違ごて豪華やな〜・・・」
「すごい、すごい、すごいなの〜! おっきいの〜!!」
「こら、騒ぐな! 他の客に迷惑だろ」
そう諭す保護者・草間だったが、持参の桶の中のアヒル隊長がその威厳を半減させる。
「・・・草間さんのアヒル隊長は、私のより大きいですね・・・」
シオンが同じく持参したアヒル隊長をジーッと眺めた後、草間のアヒル隊長をうらやましそうに見つめた。
「僕もあひるさん持ってきたの〜! 持ち主さんが持たせてくれたの〜♪」
蘭がきゃっきゃと笑うのを見て、将紀は草間に声をかけた。
「な〜、おっちゃん? ええ歳したおっちゃんがこないなもん持っとるのおかしいで」
「まぁな。俺もそう思う。零のヤツ、いったい何考えてんだか・・」
その言葉に、将紀はにやりと内心ほくそえんだ。

「そのアヒル隊長、ボクにくれへん? くれへんかったら泣くで」

「・・・こんなトコで泣いたら、声が反響しておまえも自分の声で耳痛くなるぞ?」
にやりと草間が笑ってそう言った。
「ん〜・・・そこまで考えてへんかった」
困った顔をした将紀に、草間は「ほらよ」とアヒル隊長を差し出した。
「こんなもんでよければ、やるよ」
「ホンマ!? うわ〜、おっちゃん太っ腹やな♪」
ニカッと笑い、将紀は草間からアヒル隊長を受け取った。
某ケーキ屋のマスコット人形のようにクリクリとした丸い目のアヒル隊長は、やっぱり草間が持つには可愛すぎる代物だ。
「お礼にさ、背中流したろか? ボク、結構上手やねん。おっちゃん、ええ身体しとるから洗い甲斐ありそうやな」
将紀がそういうと、草間が「そうか?」という顔をして自分の体を眺め始めた。
「そんなに鍛えてないけどなぁ」
「わざわざ鍛えんでも知らん間にお仕事で動き回っとるからやな。うちのおっちゃんとえらい違いや」
将紀は持参したボディ用タオルを取り出し、草間を椅子に座らせた。

と、そんな将紀に『ちょっとまったぁ!』の声が掛かった・・・。


5.
声の方を見ると、蘭とシオンが同時に将紀に訴えていた。

「草間さんの背中は私が洗うのです!」
「草間さんの背中は僕が洗うの〜!」

2人とも真剣そのものの目で将紀に懇願している。
別に将紀は草間の背中をそこまで強く洗いたいと思っているわけじゃないから、その役を譲るのには全く支障はない。
だが、草間の背中は1つ。
そして譲って欲しい者は2人。

どっちに譲ったらいいんやろ??

幼心に最善の方法を探す将紀は、1つの妙案を思いついた。
「おっちゃん真ん中にして、1列になって変わりばんこに洗ったらええんねん!」
「なるほど。それなら2人とも背中を洗えるわけですね!」
「洗いっこなの〜! うわ〜い♪」
将紀の案に、大乗り気な蘭とシオン。
「ちょ、ちょっと待て。俺の意見は・・・?」
そして、背中を現れる張本人はないがしろのまま、背中洗いっこは開始されたのだった。

その中に、なぜか将紀も組み込まれていたが・・・。


6.
背中も洗い、さっぱりしたあと湯船に浸かった。
草間はひげを剃るというので先に風呂に入っていることにした。
じんわりとした温かさが体の芯に届くようでとても気持ちがいい。
将紀は湯船の縁にひじを付くと、先ほど草間からもらったアヒル隊長を眺めた。
「名前何にしようかな?」
「ボクのあひるさんは『アヒルさん』って名前なの〜」
蘭が将紀の隣で肩を並べ、アヒルをぷかぷかと浮かべて楽しそうにしている。
「ちょっと待ってください!」
その湯船の奥の方からシオンが泳いで将紀たちのほうへと突進してきた。
「私にも・・・私にもこのチビアヒル隊長がいるのです! ぜひ、是非名前を聞いてください!!」
ウルウルとした瞳でそう懇願され、将紀は非常に困った。

こ、このおっちゃん・・・ボクより子供や。
よく見たら、おっちゃん手袋したままお風呂はいっとるし・・・。

将紀が困っている間に蘭がシオンに名前を聞いてキャッキャとはしゃいでいる。
と、草間が見知らぬ男と湯船に入ってきた。
「あんたとこんなところで会うとは思わなかったよ」
「たまに気分転換を兼ねてね。草間こそ珍しいな。一度もこんなところで会ったことなかったが・・・」
肩までゆっくりと浸かる2人。
だが、将紀にはその片割れの男に見覚えはない。
「あ、梅海鷹(めいはいいん)さんじゃないですか〜。奇遇ですね〜!」
シオンが、チビアヒル隊長を抱きしめニコニコとそう言った。
「やぁ。シオン君じゃないか」
海鷹はそう言うと、なにやら草間とシオンに話し出した。

・・・なんや、話が長引きそうやな。

将紀はそんな嫌な予感がした。
そして、それは的中した・・・。


7.
海鷹の話はとにかく長かった。
将紀と蘭は早々に湯船から上がったから良かったものの、海鷹の話を直接聞いていた草間とシオンは茹っていた。
いや。むしろシオンの方が先に入っていた分さらに茹り具合も激しい。
だが当の話をしていた本人・海鷹はケロリとしていた。
ふやけた肌、真っ赤な顔、そして湯あたりして朦朧としている意識。

「そういえば持ち主さんに銭湯にはコーヒー牛乳があるって聞いたの」

パタパタと草間とシオンをうちわで仰いでいた蘭が、突然そう言った。
「そうや。やっぱ銭湯の風呂あがりっちゅうたら、アレ飲まんとな!」
将紀もそれに乗じ、草間にそれとなく火をつける。

そして2人は同時に言った。

「アレ、ボクも欲しいんやけどなぁ〜?」

「・・・わかったよ。俺の分も忘れずに買って来いよ?」
ボーっとしたままの草間はそう呟くと、ため息をついた。
「あ、あの、私の分もお願いします〜・・・」
と弱々しくシオンが言ったので、将紀は「わかった」と元気に返事をすると番台の隣においてある冷蔵庫へと駆けて行った。
そして、コーヒー牛乳を5本。
それぞれの手元へと置くと、将紀はえへんと咳払いをした。
「えぇか? コーヒー牛乳はこう飲むのが正しいんやで」

足は肩幅に広げ、上半身をそらしても倒れないようにしっかりと大地を踏みしめる!
左腕のひじは直角に曲げる! そしてその左手はしっかりと腰で上半身を支える!
右腕もやはり90度で、手はしっかりとコーヒー牛乳の瓶を掴む!
そして上半身を逸らしつつ、一気に体内へとその液体を流し込む!!

ぷはーーっ! と顔を上気させた将紀は満足していた。
「どや? これが風呂屋の正しいコーヒー牛乳の飲み方や」
そういって笑った将紀の姿に、蘭はいたく感動したようだ。
「うわーい! 僕もやるの〜!!」
そういって、みようみまねで将紀のまねをしてゴクゴクとコーヒー牛乳を飲み干した。
「では、私も」
シオンがキランと瞳を輝かせ、グイッとコーヒー牛乳を飲み下す。
「これは・・・私にも飲めと?」
「まぁ、子供のたわごとと思って付き合ってやってくれよ」
海鷹が目の前に置かれたコーヒー牛乳を眺めつつ、草間に疑問を投げかけた。
すると、草間は苦笑いして将紀の言うとおりにコーヒー牛乳を一気に飲み込んだ。

銭湯ってええなぁ〜。
こうやってみんなでお風呂入るんは楽しいなぁ〜。
今度はうちのおっちゃんも連れてきたらええかもな。
疲れたときは、心も体もあっためるんが一番や。

この銭湯だけ、なんだかちょっとゆっくりとした時間が流れている気がした。
将紀は空瓶を持つと、番台へとそれを返しに行った・・・。


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

2371 / 門屋・将紀 / 男 / 8 / 小学生

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α

2163 / 藤井・蘭 / 男 / 1 / 藤井家の居候

3935 / 梅・海鷹 / 男 / 44 / 獣医



■□     ライター通信      □■
門屋将紀様

この度は『最後はやっぱり・・・?』へのご参加ありがとうございました。
甘え上手な将紀様を上手く表現できているか心配ですが、書いていてとても可愛かったです。
将紀様はアヒル隊長にどんな名前をつけるのでしょうね?
それでは、またお会いできるを楽しみにしております。
とーいでした。