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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Grand-guignol −第一幕−

【0.開幕】

 早朝から一枚の写真に目を通し、珍しくデスクの椅子に座ってうねる草間興信所所長こと草間・武彦。
 かねてから怪奇探偵として名高い草間だか、今回はなんと嬉しい事にまともな仕事なのである。そのせいであろうか、草間はいつもはソファに上にだらけているであろう時間に仕事机などに向かって仕事をしてみたりしている。
 依頼主はここから少し離れた所にあるアンティークショップ・レンの店長―碧摩・蓮。
 依頼内容は人探し。正確には、血筋を探して欲しいと言うものだった。
 蓮からもたらされた情報は、一体の人形の写真と、製作者らしき人形師の名前。
 人探しなどと言うまともな仕事のはずなのに、なぜか嬉しいどころか口から発せられるのは唸りのみ。
 なぜならば、この写真の人形は草間には到底人形には見えず、人間が―それもとっときの美少女が―そこに横たわっている写真に見えてしまったから。
 こんな人形を作れる人形師なら、わざわざ家に依頼を持ち込まなくても探せそうなものである。
 その矛盾が、嬉しいながらも草間を複雑な気分にさせていた。

 フェリオ・フランベリーニ……

 乱雑に散らかされた机の一番上に置かれた紙に書かれた名前。
 人形になど興味のない草間が知らないのは当たり前だが、その筋には少し詳しそうなあの蓮でさえ、思いあぐねている。
(まさかな…俺の考えすごしだろう)
 今回は普通の人探し『普通の人探し』と自分に念を入れて、今日も草間興信所に顔を出している面々に写真を渡す。
「誰か、人形に興味のあるやつ、調べてみてくれないか?」

【1.女の戦い?】

 草間から渡された写真を見て、一瞬言葉が詰まるシュライン・エマ。今まで沢山のビスクドールや人形をデパートや展覧会で見てきたが、これは作り物の域を超えている。
「蓮さんが、アンティーク関連でてこずるなんて、本当に珍しいわね」
 うな垂れて机に突っ伏した草間に苦笑して肩を竦ませるシュライン。
「ヘイ・ユー!ミーにもその写真見せてくれまセンカァ?」
 写真をひらひらさせていたシュラインの背後から覗き込む様に顔を出したのは、ジュジュ・ミュージー。胸をシュラインの背中に押し付けるようにして手を伸ばし、パシっと写真を奪い取る。
「あ…!もぅ……」
 強引なジュジュにため息をもらしつつも、あいたソファーにどっかり腰を下ろして写真を凝視しているジュジュに口がへの字に曲がる。
「あなたはここの調査員でもなんでもないでしょう?ほら、写真を返しなさい」
「決めたヨ!ミーがこの人形の事調べマ〜ス。お先ネ、シュライン」
 立ち尽くすシュラインに挑戦的な笑顔を浮かべ、草間に投げキッスを飛ばすと、足早に興信所から姿を消す。
 ――もちろん、写真は拝借することは抜かりなく。
 勢いをつけて開けた扉がガツンと音がして止まる。視線を向けてみれば一段小さな位置から、自分を見上げている男性。
「Oh,ごめんなサイネ」
 ジュジュは早口に謝ると、その男性の車椅子の横をすり抜けた。
 興信所から出て数分後、はて、どこかで見たような?と、思い返してみれば、何の事はない彼こそリンスター財閥総帥、セレスティ・カーニンガムその人であったのだから。

【2.情報】

 上手い具合に依頼を横取りできた事に意気揚々と興信所を出たジュジュは何をするでもなく、真っ先に行きつけの情報屋へと足を運ぶ。
「この人形と、フェリオ・フランベリーニについて知ってること全部言いなサーイ」
 タバコを加え新聞を広げようとしていた情報屋に詰め寄る。
 写真を押し付けられた情報屋は、一回ふむっと言葉を漏らすと、ジュジュを見上げ指を3本立てる。
「高いデスネ〜。本当に役に立つ情報デスカ〜?」
 情報を鐘にしている情報屋が仕入れる情報は、その内容がピンキリではあれど嘘は無い。その情報に価値をつけるのは、お客ではなく情報屋。
 ジュジュは指を1本立て一応値切ってみるが、案の定情報屋は首を振り、しぶしぶ情報の対価を支払ったのだった。
「……フゥン」
 ジュジュは情報屋から買った情報に口元を吊り上げる。眠そうな眼だけに、その顔は傍から見ると少し怪しく見えた。
「後、そのオフェーリア・フランベリーニのコト、詳しく調べて連絡ちょうダイネ」
 情報屋が売った情報の一つに、フェリオの直系の子孫らしい女性『オフェーリア・フランベリーニ』の名があった。フランベリーニなどというちょっと珍しいファミリーネームがそうそうあるとは思えない。
 そんなジュジュの言葉に情報屋は見えるように手を広げている。その手が語るその情報の料金と調査料にジュジュはむすっと頬を膨らませるのだった。
「ジュジュ」
 ふと情報屋に呼び止められ、ジュジュは訝しげに振り返る。
「一つ、不思議な事がある」
 これ以上取られるのかと、また不機嫌を露にして腰に手を当てると、
「幾らデスカァ?」
 そんなジュジュの様子に情報屋は肩をすくめ、自嘲気味に答えた。
「消えた情報に金を取れって?」
 情報屋が口にしたその内容は、例のオフェーリアの来日が決まった期日を境目にして、今までインターネット上を世界規模で探せば多少は見つけることが出来た『人形師』としての『フェリオ・フランベリーニ』の情報が消えてしまったという事だった。
 その事と、今回の事が関連があるかどうかはまだ分からないが、草間興信所から持ち出した写真を見せた時に買った情報である、人形とオフェーリアの顔がそっくりだという事だけは事実。
 この情報だけは他の誰も知らないだろうとジュジュは満足げに微笑んだ。
 そして、このフランベリーニの直系らしいオフェーリアという女性が日本に人形師として来日しており、その人形の展示会への来場イベントがあるという事を知る。
 とりあえずこれだけの情報を手に入れれば、後は彼女に接触する方法を考えればいいだけだ。
 一番簡単な接触方法といえば、マスコミ関係者。
 ジュジュは携帯電話を取り出すと、自分が知り合いのマスコミ関係者―系統は違うと思われるが―であるアトラス編集部へと早速電話をかけた。
 アトラス編集部からオフェーリア・フランベリーニへ自分を記者として取材を取り次いで欲しいと頼みこむ。
 作ってもらった名刺を取りにアトラス編集部へと赴くと、編集長である碇・麗香に服装を正して取材に行くようにとこってり絞られ、ジュジュはその眉間に皺を寄せつつも、了承した。
 アトラス編集部がセッティングしてくれた取材の日は明日の夕方。まだ、時間はある。
 そして、オフェーリアが人形師だと知るや、次に取る道は一つ。
 ジュジュが向かった先は『高峰研究所』。超常現象をサンプリングしている彼女ならば、この人形という範囲を異様なまでに逸脱した造りの人形の事を知ることが出来るかもしれない。
 高峰研究所所長の高峰・沙耶はその閉じられた瞳からどうやって見ているのか分からなかったが、沙耶の代わりに腕に抱いている黒猫がジュジュからもたらされた写真を見るなり、薄っすらと微笑んだ。
「…先日起きた事件覚えているかしら」
 特定のどれかを指定してくれなければ、毎日数件は起きている事件のどれかが分からない。首を傾げるジュジュに、高峰はまた微笑んで抱いている猫を撫でると、
「……もうすぐ月蝕なのね」
 と、呟きジュジュに背を向け、それ以上のことは言ってくれなかった。
 今なら誰でも知っているニュースの内容を、わざわざ呟く理由がジュジュには分からなかったが、その言葉が迂遠的であったとしても、彼女がまったく関係のない事は口にはしない。
 なんとなくの記憶に彼女の言葉を記録して、ジュジュは翌日取材へ赴くための服装を用意するために洋服店を何店かはしごする羽目になったのだった。

【3.取材】

 展示会来場の後、同じビルの1室で取材が行えると編集部から連絡が入り、ジュジュはビルの奥へと足を進めた。
「ハイ、ミー…ワタシ、アトラス編集部からの取材で来たまシタ。これ、名刺ヨ」
 この先に、オフェーリアがいるのである。部外者が立ち入らないように立っている担当者に自分の名刺を渡すと、通行証を付け取った。
 麗香に言われたとおり、ジュジュはいつもの紫のタンクトップではなく、胸の辺りは大きく開いてはいるが一応スーツのようなものを着込み、ミニスカートである事に代わりは無くとも、それなりに身なりを整えた。
 あからさまに重々しそうな黒いスーツを着た男性が、ジュジュを部屋に通すと、部屋の中に一礼し外へ出る。
「今日は、よろしくおねがいします」
 声の主に顔を向ければ、中性的な顔つきの男性が椅子に座っている金髪の女性の傍らで、こちらにニッコリと微笑んでいた。
「私がオフェーリア・フランベリーニです。こちらは、私の付き人のディアと言います」
 顔を上げて微笑んだオフェーリアは、情報屋が言っていた通り、あの草間興信所で手に入れた写真の人形にそっくりだった。
「まず雑誌に載せる写真を取らせてもらってもいいデスカァ?」
 首を縦に振るった二人に、笑顔で一応のお礼の言葉を述べると、ディジタルカメラで数枚、写真を撮る。ディアがぴったりとオフェーリアに付き添っているせいで、単体の写真を取る事ができなかったが、それはあまり問題ではないだろう。
 当たり障りの無い取材を繰り返し、ジュジュは二人に見えないように、口元に薄っすらと笑みを浮かべる。
「一応、ワタシの取材はここまでデス。後でもう少し伺いたい事があるかもしれませんカラ、その時は電話シマス」
 今の取材で使用した録音機の情報は、どうでもいい。写真は、草間興信所へ持っていく必要があるだろう。
 今の所の本番は、追加取材として掛ける電話にオフェーリアが出た後から。
 二人がホテルに帰った時間を見計らい、ジュジュは電話をかける。昼間の取材の追加とフロントから客室へと電話を通してもらい、オフェーリアが電話口に出るのを待つ。
[ はい? ]
 昼間聞いたオフェーリアの声に、ジュジュは口元を笑みの形に吊り上げる。
 彼女が電話口にでた瞬間、ジュジュが使役しているデーモン『テレホン・セックス』が、電話回線を通じて彼女へと憑依する。
「ミーの質問に何でも答えてネ、オフェーリア?」
[ はい… ]
 電話の向こう側がどうなっているかまでは分からないが、旨い具合にオフェーリアに『テレホン・セックス』の憑依は上手くいったようだ。
「フェリオ・フランベリーニの事、全て教えてちょうダイ」
 憑依された人間はジュジュの言う事を全てきくようになる。それは電話の向こうのオフェーリアも同じ。
[ フェリオ・フランベリーニは、私の曾祖父。大おばあ様を捨てた人。月蝕の夜に生まれた悪魔 ]
「ユーはどうして日本へ?」
[ フェリオが死んだ国だから。そして私は、フェリオを止める。それが、フランベリーニに生まれ人形師の道を選んだ私の使命だから ]
 死んだ人間を止める?いまいち的を得ない回答に、ジュジュは眉根を寄せる。
「なぜユーが死んだフェリオを止められるんデスカ?」
[ 見つけたから… ]
「何を?」
[ 月蝕人形の存在理由と作り方の記録を ]
 月蝕人形?フェリオが月蝕の夜に生まれた悪魔で、次は人形?そういえば、沙耶も月蝕がどうのと言っていた気がする。とりあえず、分からない事は聞けばいい。
[ 月蝕人形は、フェリオが作った唯一の人形。月蝕の夜に人を操り人を殺す人形 ]
 そんな非科学的な事あるはずがない。一人で動く人形はあれど、ましてや人を操る人形など、あってはならない。
 結局の所、もっと簡潔に簡単に話を進めて欲しかったのだが、事実オフェーリアはジュジュが聞いた質問に嘘は答えてないのだ。それでも、話しの核心に至るには自分で謎解きをしなければいけないような感覚に方眉を吊り上げ、ふっと息を吐く。
とりあえず、フェリオという人間は死んでいるらしいということは推測できた。だが、どうしてオフェーリアはフェリオがまるで今も生きているような言い方をしているのだろうか。それが謎で仕方がない。
「フェリオは生きているんデスカァ?」
[ 生きています ]
 ますます訳が分からない。さっき死んだと言ったではないか。
「どうやって?」
[ 魂を、新しい器に移し変えて ]
 それは、つまり、フェリオは黒魔術師か何かだったと言うことだろうか。
「そのフェリオの居場所、分かりマスカァ?」
 答えはNO。だが、言葉はそこで止まらず一呼吸置いて、でも…と続いた。
[ フェリオはディアに似ているはず… ]
 ディアといえば、中世的な顔立ちをした、オフェーリアに負けず劣らずの容姿の付き人の男性。
 これはディアにも話しを聞いてみるとよさそうだ。
「ディアに変わってちょうダイ」
 デーモンをディアに憑依させようとオフェーリアから引き上げさせると、電話口の向こうでドサっと何かが倒れたような音がして、急に電話口が煩くなった。
[ オフェーリア!? ]
 ディアの声が、受話器を通して遠く聞こえる。
「ディア?」
[ 貴女、オフェーリアに何かしたんですか!? ]
 自分の持っている携帯から音が響くような怒声で、ディアの狼狽っぷりが聞き取れる。
 だが正直こっちにはどうでもいい事で、お構いなしに『テレホン・セックス』を憑依させようとしたが、デーモンは動く気配を見せなかった。
(…ん?)
 人間であるならば、必ずあるはずの脳が、彼にはない?
[ すいません、お電話お切りします!! ]
 律儀に謝りながらも、その声は苛立っている。
「お大事にネ。オフェーリア」
 自分で引き押した事態でありつつも、労わりの言葉を投げかけて、電話を切る。
 たぶん、デーモンが憑依した影響が大きかったのだろう。
 ジュジュは早々に電話を切ると、頭がこんがらがる様な情報を整理するために自宅へと引き上げた。
 
 後日、なんとか整理できないものかと多少思ったものの、結局全部話せばいいかと納得して草間興信所へと向かった。
 オフェーリアから聞くことが出来た情報を草間に話すと、
「やっぱり、ただの人探しじゃなかったか…」
 と、あからさまに落胆する草間が居た。

【4.調査報告】

 ジュジュが草間に今回の依頼の結果を話していると、シュラインとセレスティが二人そろって興信所に顔を出した。
「あらシュライン。ユーの方は、何か分かりマシタカァ?」
 興信所へと入ってきた二人に気が付いたジュジュが、シュラインへと声をかける。
 当のシュラインはカツカツカツとヒールの音を響かせてジュジュに近づくと、
「いくら依頼とは言え手段を選ばない方法はプロとは言えないわね」
「何の事デスカァ?」
 電話回線を通じて憑依させるデーモンを使役している事を、シュラインが知らないはずはない。
 あくまでも白を切るジュジュに、シュラインはあからさまに分かるようなため息をつき、ジュジュの腕を掴む。
「オフェーリアさんとディアさんに、謝りましょうね。貴女のおかげで、私もセレスティさんも彼に誤解されちゃったのだから」
「そんなのミーの責任じゃナイでショ」
「貴女のデーモンのせいです」
 ジュジュの言葉をぴしゃりと遮って、掴んだ腕を引いて振興所を後にする二人。
 その一連をただ呆然と眺めていた草間は、興信所に一人残ったセレスティに視線を移動させると、
「お前は、行かないのか?」
「いえ、私はシュラインさんから調査結果を草間さんに報告をと頼まれたので」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 穏やかな口調で語られたセレスティからの報告と、ジュジュから手に入れた二人の写真を蓮へと渡すと、草間にとっては怪奇探偵の本領発揮とも言うべき言葉が返ってきた。

 目的は同じだし、こっちはこっちで手一杯だから、オフェーリアとディアを手伝ってやって欲しい、と……



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0585 / ジュジュ・ミュージー (ジュジュ・ミュージー) / 女性 / 21歳 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)】
【1883 / セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ) / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、Grand-guignol −第一幕−にご参加いただきありがとうございます。ライターの紺碧です。まず最初に、オフェーリア等の名前に突っ込まないで下さいね、本当に申し訳ない事に思いつきなので…。あまり他人と協力して行動する事や、調べる事をしなさそうな方だったので、ほぼ単独行動を取る形にさせていただきました。シュライン様とは何気に草間氏を巡ってなにやらひと悶着ありそうでしたので、独断と偏見でライバル(?)っぽく書かせていただきました。それではまた、ジュジュ様に出会える事を願いつつ……