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<東京怪談・PCゲームノベル>


■Assassination Play■

「ねえ、おじさん」
 夜、コンビニから夜食を買った帰り道、声をかけられて草間・武彦は思わず立ち止まった。
 相手は店の陰に丁度隠れていて顔は見えないが、まだ開いている店の明かりから、服はパーカーだと分かった。
(この寒いのにパーカー)
 と思いながら、
「なんだ?」
 と返事をする。
「面白い遊びがあるんだ。『勇者』も『魔術師』も『剣士』も『読心術者』もいる……来ない?」
 声からして、まだ10代か20代の前半といったところだろう。武彦は思わず呆気に取られ、
「興味ないね」
 と片手を振って去った。
「残念……スカウト失敗。次、いこ……」
 男の声が、遠ざかっていく。

 興信所に帰ると、零が血相を変えて飛びついてきた。
 なんでも、零の知り合いの女の子が、「A.P.」と名乗る集団に殺されたと、たった今両親から電話が入ったというのだ。
「A.P.? なんだ、それは」
 武彦は夜食をテーブルの上に置き、泣きじゃくる零の背中を撫でながらネット検索してみる。
 検索数は思ったほどヒットした。今話題急上昇中のサイトのことらしい。
 アクセスしてみると、武彦は背筋が寒くなるのを感じた。
 そこには、「Assassination Play」と書かれており、その「遊び」の概要も書かれている。
『勇者』と『魔術師』、『剣士』に『読心術者』をバックに、このサイトでは、所謂「なりきりチャット」というものをしているのだ。自分自身であるキャラを作り、ダイスを振り、幾度か繰り返し───勝てば望む「憎み恨む人間」に制裁を「バックの4人」に頼むことが出来る。負ければ、自分自身が「暗殺される」。
 このサイトは誰もを歓迎しているわけではなく、街中で突然スカウトされるのだ、という。滅多に大人はおらず、参加メンバーやスカウトされる者は「10代〜20代前半」の若者が多いらしい。
「零の友達は、これに『負けて』───殺されたってわけか」
「制裁」又は「敗者」の死体の傍には必ず、トランプ大のダイス模様の黒い紙に、「A.P.」と赤文字で書かれているのだという。
(さっき俺に声かけてきた奴……あれが、そうか)
 泣いている零を見ると、無性に腹が立ってくる。「Assassination Play───暗殺ごっこ、暗殺遊び」。ふざけている。
 武彦は夜食を食べるのも忘れ、まずはバックを引き出すべく、協力者達を募ることにした。



■Session 1■

 初っ端から、草間興信所は殺気立っていた。
 休日を使って朝イチで来た坂原・和真(さかはら・かずま)と武彦が、いきなり口論になったのである。
「明らかに危険だって分かってるんなら、そんな馬鹿な事は二度と言うな!」
「危険を承知で依頼を受けたんですよ、俺は。貴方とは元から仕事を請け負いする仲ですし、仕事があればやる、っていう俺の方式は変わっていませんけど、浅はかでもなく、ちゃんと考えて来たつもりです」
「お前なあ、分かってるのか。『負けたら』殺されるんだぞ!」
 武彦が和馬のカジュアル服の胸元を掴み上げた時、ソファで珍しく静かにしていた羽角・悠宇(はすみ・ゆう)が立ち上がり、その武彦の腕を掴んだ。
「落ち着けって、草間さん。皆遊びで来てんじゃないのは皆分かってんだから。一言『お前が心配だ』って言えば済むことだろ?」
「……っ!」
 武彦は図星をさされ、いつになくカリカリした頭を冷やすべく、和馬の胸倉を離し、自分でお茶を淹れ始めた。
「みんな、静かにして。零さん、さっき眠れたばかりなんだから」
 扉からそっと出てきて、悠宇と一緒にやってきた初瀬・日和(はつせ・ひより)が言う。
 零はあの日からなかなか眠れないらしく、今日も皆が来てようやく少しホッとしたといった風に寝たところなのである。
 だからこそ、武彦がカリカリするのも無理はないとも分かるのだが、ここで全員キレても問題は解決しない。
「和馬さん、本当にスカウトされに行くんですか?」
 武彦の淹れた、どう見ても濃いお茶を和馬の前に置きながら、日和。悠宇の前とその隣にも置いて、自分もソファに座った。
 武彦とは知り合いという和馬は、服の胸元を正しながら、「そのつもりです」と変わらず静かな口調で応える。
「お二人は?」
 聞かれて、まず悠宇が応える。
「草間さん以外にもスカウトされて断った人がいる筈だから、そいつを探して声をかけられた状況……時間、場所、一人の時か否か……とか、共通する情報がないか調べてみようと思います」
「『負けた』人からは糸の手繰りようがありませんが、『勝った』人も必ずいる筈ですから。可能なら……零さんのお友達のPCのログを見たいんです」
 続いて、日和。
 ログというのはいい考えかもしれない、と三人は暫く相談した。武彦に頼み込み、零のその「殺された」女友達の両親に電話をかけて交渉してもらい、三人はまず、その女の子が住んでいた家に行って調査が出来ることになった。
「気をつけていけよ!」
 相手が所構わずの「暗殺人」ならば、朝だろうが昼だろうが危険度は無関係と考えていいだろう。武彦のその言葉を背に受け止めた三人は、改めてこの事件の重さを感じた。




「履歴でも随分このサイト頻繁に使ってますね」
 椅子に座った日和が、女の子───名前は、結崎・美紀(ゆうざき・みき)といった───が生前使用していたパソコンの画面を神妙な面持ちで見ている。悠宇は左隣から覗き込み、和馬は椅子の真後ろに立って見ていた。
 ネットというのも不思議なもので、「現実世界」とはまた別の雰囲気を持っている。ネットをたくさん使用している人間や、敏感な人間は、「自分に危険・近寄りたくない」と感じることもネットを通して本当にある。三人は今、それを正に三様に感じ取っていた。
「サーバーの運営先やサイトの管理者は?」
 悠宇の問いに、日和はマウスを動かす。
「美紀さんて」
 ふと、和馬がパソコンの画面を見つめつつ、唇を開く。
「どうやってスカウトされたんでしょうね。ご両親は何かご存知ないでしょうか」
 気配を感じ取っていたのか偶然なのか、振り向いた和馬と紅茶を持ってきていた美紀の母親の視線がぶつかる。
「どうやって、かは分かりませんが……」
 三人に紅茶を渡し終えた母親は美紀のベッドに座りながら、やつれた表情で言った。
「一ヶ月程前、美紀は『新しいゲームに誘われた』って……はしゃいで学校から帰ってきたんです。でもそれから学校と食事以外は部屋に篭りっきりになって、段々疲れた顔になっていって……」
 泣きそうになった母親の肩を、日和が抱く。
「あの」
 今思いついたといった感じで、悠宇が尋ねる。
「失礼ですけど、美紀さんて苛められてたりしました? 学校で」
 すると母親は言いにくそうに、
「どちらかといえば……美紀は勝ち気で。小学校までは、苛めっ子のほうだったんですよ。それで先生に注意されていたりして」
 なるほど、と和馬は思う。
 人に恨みや憎しみを抱きやすい者は、苛められっ子に多いものかもしれない。それと、コンプレックスを抱えた者。
 聞くと美紀は、前から新しもの好きで、流行にも敏感だったという。零の友達、というのも不思議なくらいだ。まああの零のことだから、どんな人間とも友達になれてしまうのだろうが───。
「それなら、草間さんがスカウトされたのも納得いくな。あの人もなんだかんだで新しもの好きじゃん?」
 悠宇が紅茶を飲みつつ、二人に同意を求める。
「新しもの好き、というか……どっちかと言えば、巻き込まれてる側のほうかもしれないけど、言い方や見方を変えればそうかも」
 と、日和。
 和馬は逸早く紅茶を飲み終え、パソコンの画面を見ていたが、振り返らずに日和と悠宇に確認を取るように尋ねる。
「サーバーの運営先は『Requiem』……これも何か胡散臭いな。管理者も偽造してると思う。大体こういうサイトってそんなもんでしょう。草間さんが『スカウト』されたって場所は、バーでしたっけ?」
「はい。そう言ってましたよね」
「確か───ブルーメンソールって名前の、小さなバーの右の小道とか言ってたよな?」
 よし、と小さく和馬が身体を起こす。
「とりあえず、そこに行って来ます」
「……本当に、気をつけてください。暗殺遊びなんて……確かに世の中には腹が立ったり煩わしい人もいる。でもいなくていい人はいないんです。勝った者にも後悔を残させるようなこんな不毛な行いは終わらせないと……」
 気丈な口調の日和の手が微かに震えていることに気がついた悠宇は、その手を自分の大きな手で優しく包み込んだ。今回悠宇は、何があっても彼女から離れないと固く決めていた。
「終わるさ」
「A.P.」に向けて挑戦的に呟いた悠宇の言葉を激励と受け取り、和馬は一番早く行動を起こす為に、美紀の家を出て行った。



■Game−Yuu VS Swordsman−■

 ダイスを使う事、ゲームがファンタジー仕立てになっている所から、ゲーム系のサークル関連で情報を集められるかもしれないと思った日和だが、和真が出て行って暫く悠宇と共に美紀のパソコンから調べていて、疲れたように小さく息をつき椅子の背もたれに背中をくっつけた。
「少し休んでろよ、日和。今度俺が探すから」
「うん、ありがとう」
 日和がどいた椅子に、今度は悠宇が座る。日和は床に、ぺたんと座った。
「和真さん、大丈夫かな」
 ぽつりと日和が言う。いつもなら嫉妬しているかもしれないが、今はそんな時ではない。悠宇も、
「俺も気がかりなんだ」
 と、同意した。
 そして、ふと美紀のパソコンの画面に顔を近づける。
「……なんだ、これ?」
 日和も立ち上がり、横から覗く。画面は「A.P.」のサイトに戻っていたのだが、色々弄っているうちに隠しページに飛んでしまったらしい。前面チャットのように、ちょこちょことあちこちからの「報告」が一行ずつ入ってきている。
 12月13日AM5:00 西横町 一人制裁シュウリョウ 今回ハ『読心術者』ノミデ実行可能済
 12月13日AM5:32 『敗者』2人決定 例ニヨリ後ホド『勇者』ノ元ニ集結サレタシ
「……プリントアウトしよう」
 決定的な証拠になるかは分からないが、しておいて損はない。日和は頷き、プリンターを起動する。次々と入る「報告」が、2枚目の紙におさめられた時。
「悠宇、これ!」
 日和が、ログを流し読みしていて、一番最後に今入ってきた情報を指差した。指先が、小刻みに震えている。
『12月14日PM2:41 祭木デパートノ屋上ニテ 『読心術者』ガ無事スパイト接触』
『12月14日PM2:46 スパイノ命ノ残リ時間 2時間ト推測』
「和真さんのことか」
 悠宇は急いで立ち上がり、日和と共に部屋を出る。擦れ違いざま、日和が美紀の母親に「お邪魔しました」と言っておく。
「祭木デパートって? 日和知ってるか?」
「確か、バー『ブルーメンソール』の向かいのほうにあったはずだけど」
 タクシーを捕まえ、急いでそこに向かう。今回の経費は全て興信所から落ちるから、問題はない。
 デパートにつくと、エレベーターで屋上へ向かう。が、屋上は少し前から立ち入り禁止で、5Fから階段で行かなければならなかった。
 扉を開けた途端、視界に白いコートの男と、そのすぐ近くに倒れている和真とが入ってきた。
「か……」
 和真の名前を呼んで近付こうとした時、悠宇は日和の悲鳴を背後に聞いた。
「!」
 振り返ると、日和が頭を抑えてうずくまり、見る間に「消えて」しまった。
「日和っ!?」
 消えた部分を探るが、何もない。心臓の鼓動が早くなる。危険な仕事だから、傍にいようと心に決めていたのに。いや、傍にいてもこんなことになってしまった。
「余所見してると、俺に斬られるぜ。いいの? スパイ君」
 声をかけられて、悠宇は再び振り返る。どこから来たのか、いつからいたのか。赤髪を短く刈った白シャツの二十歳前後の少年が、日本刀を肩に担いでニヤニヤ笑っている。顔が整っているだけに、恐ろしさを増大させた。悠宇の背後で、強風のため屋上と階段とを繋ぐ扉が閉まる。
「日和をどこにやった」
「さァ……『魔術師』は気紛れだからな。どこで戦っているのかね」
 日和は『魔術師』の元にいるのか。存在自体が消滅したわけではないと分かり、少しは安心したが、怒りは止まらない。
「お前ら、日和の髪の毛一筋でも傷つけてみろ」
 それほども傷つけさせないと、固く決めていた、のに。自分の不甲斐なさにも腹が立ってくる。少年は悠宇を見つめ、日本刀をスイッと悠宇の喉に突きつけた。
「傷つけたら?」
「赦さない」
「ふゥん……」
 再び日本刀を自分の肩に担いで少年は悠宇をじっと見つめていたが、やがて唇を開いた。
「珍しいモンだ。お前みたいな若者がまだいるってのは。今の世の中、恨みつらみだけで人に制裁与えようってンだから───ああ、俺は見たとおり『剣士』。身内じゃ『囚われのイチ』って呼ばれてる。
 で───残念だけど、俺は『勇者』の言う通り、お前を殺さなけりゃならねェんだけど、お前は?」
「黙って殺されると思うか」
 そんな奴の顔が見てみたい、と言うと、『剣士』は笑った。早くこいつを倒して日和を助けに行かなければならない。今の悠宇は、日和の心配のみだった。和真が『読心術者』にやられてしまっているのだ。日和だって怪我くらい今頃負っているかもしれない。我知らず、悠宇の気は研ぎ澄まされ、高まってきていた。
「!」
 何かに気付いた『剣士』が、一瞬目を細めて悠宇を見つめ、次には気合の声と共に鞘を放り投げ、間合いに入っていた。
 シュッと頬を風が掠めただけで、悠宇は逸早く退いていた。背中が熱い。まだ他人には殆ど見せたことがない黒い石の翼が、服を突き破って出てきたのを感じた。『剣士』は短く口笛を吹く。敵ながら天晴れ、といった風に。
「日和を俺から離しておいて、」
 恐ろしく、静かな声で、
「吠え面かくなよ」
 悠宇は言い、『剣士』に向けて迷いなく「隠していた力」を発揮した。
「───!?」
 重力波。見えない「それ」に気付いて後退しようとした『剣士』もすごいものだっただろう。だが、何故か『剣士』は背を向けず退こうとしたため、対応が遅れたのもあったのだろう、真正面から「悠宇の能力」を浴び、ぐらっと身体が揺れた。
 そこに、思い切りよく悠宇が突進してきた。
 避けられる筈もなく、『剣士』は鳩尾に悠宇の拳を喰らい、ドサッと倒れた。




■『勇者』、現る■

 和真が目を閉じ、悠宇が翼をしまい、日和が『魔術師』と共に浮上してきた───その時。
 パンパンパン、と拍手の音がどこからか、した。
 和真に襲いかかろうとしていた有刺鉄線が消え、『剣士』が瞳を開け、日和を振りほどいて『魔術師』が「何か」に縋るように手を伸ばす。
「楽しいショーを有り難うございます。私の仲間───『剣士』と『魔術師』を追い詰めるとは、まったく恐れ入りました」
 悠宇は、しっかりと日和を抱きしめていたが、声の主は見つからない。今の内に一呼吸でもと、ごろりと仰向けになった和真が、「彼」を発見した。
「……あそこ」
 喉までやられてしまい、うまく声が出なかったが、震える指で示したのが幸いして、悠宇と日和も見ることが出来た───空に浮いている、白いジャケットに紫色のズボンの男を。
 年の頃は20代前半といったところだろう、紫の長髪を後ろで一つにくくり、この世のものとも思えぬ美貌に笑みを浮かべ、恐ろしいほど冷たい視線で悠宇と日和、和真を順々に見下ろしている。
『勇者』だ、と三人同時に理解した───身体のどこかで、本能で……「叶わない」と悟りながら。
「あまり事を大きくしたくないので、ここは引き分けということで如何ですか?」
 言いながら『勇者』は両手を少しだけ上げる。すると、それが当然のことのように、『読心術者』と『剣士』、それに『魔術師』の身体がふわりと浮き、彼の傍に落ち着いた。
 日和が和真に駆け寄り、悠宇が『勇者』を睨みつける。
「お前─── 一体、」
「お察しの通り、私は『勇者』です。身内での呼ばれ方は特にないですが───そう、『総べる者』としておきましょうか。私は能力という能力はないのですが、強いて言えば、『対峙した者全ての能力を吸収すること』です。あなた達のリーダーさんを呼んでおきましたから、ここは一つ、引かせて頂けませんか?」
 ハッタリを言っている口調と視線ではない。引かせてもらいたいのは、こっちのほうだった。
 三人の顔色を見て、『勇者』は満足そうに頷き、
「ご了承頂けたようで、有り難うございます。こちらも『剣士』がしばらく使い物になりませんし、ゲームには報酬がつきものですからね。私達の総称をお教えして差し上げましょう」
 そして『勇者』は短く、言った。
「Assassination Phantom」───と。
 やがて『勇者』は空中にそのまま消え、殆ど同時に屋上に、息を切らせた武彦がやってきたのだった。




■「A.P.」についての報告書■

 その後、和真はすぐに武彦の旧知の病院に送られ、悠宇と日和もついていった。よく見ると日和も前髪が凍りかけていたし、両手は氷をずっと掴んでいたため、かじかんでしまっていた。何よりも手を大事に思っている日和には、ショックだったろう。怒りの遣りどころがないといった風の悠宇に、小さなノートパソコンを持ち込んで、三人其々から事の次第を詳しく聞いて報告書を作っていた武彦が、画面から目を離さずに言った。
「病室で破壊行為はなしな、羽角」
「分かってるよ」
 自然、応える声も尖ってしまう。そんな悠宇に、和真の様子を見ていた日和も声をかけた。
「大丈夫よ、悠宇。ちゃんと治療してもらったし、ちゃんと治るまでは手は使わないから」
 気を遣わなきゃいけない大事な相手から気を遣わせられては意味がない。悠宇は小さくため息をつくと、ベッドに横になっている和真の脇の丸椅子に座った。
「和真さんは、大丈夫ですか」
 しばらく今までのことを回想していた和真だが、悠宇に向かって小さく頷いておき、反対側の丸椅子に座ってキーボードをカタカタと打っていた武彦のほうを向いた。
「草間さん、俺、あいつら相手に勝ち目が全くないわけじゃないと思うんです」
 カタ、と音が止まり、武彦の視線が和真へ向けられる。
「弱みでも見つけたか?」
「いえ、弱みというんじゃないんですが。まず、『まともに相手』をしちゃ勝ち目はないと思います。能力じゃ、まず勝ち目はない……あの『勇者』がいる限り。あいつら、『まともな能力者』じゃありませんよ」
「私もそう思います」
「平気で人を害している所からももっと大きなバックの末端の様な気がしないでもなかったんだけど、俺は」
 日和も頷き、悠宇も呟くように言い、改めて『剣士』とやりあった時のことを思い返してみる。
 和真は続けた。
「『勇者』が言っていた、『対峙した相手』というのが、実際向き合った『対峙』かそれとも自分達が敵とみなして『対峙』とするかによっても、かなり違うとは思いますが……後者だとすると、頭脳戦で周囲から固めて追い詰めていく方法なら、あるいは、と思うんです」
「なるほど」
 武彦は試しに「Assassination Phantom」と検索してみたが、こちらは思っているものは全くヒットしなかった。
「『A.P.』ってのは本当は『Assassination Phantom』のことだったんだな、サイトのことじゃなくて」
 悠宇が、「制裁」された人間や「負けた」人間の傍にいつも置かれるという「A.P.」の赤文字のトランプ大のカードを想像しながら、言う。
「そんなにたくさん能力を『持って』いるのなら、そのログだって消せるはずなのに───残しておいてくれるなんて、随分余裕を感じます」
 少し腹立たしくも哀しくも感じていた日和が、武彦に渡した、美紀の家でプリントアウトした「ログ」の紙を見やりながら、言う。日和は日和で、悠宇が滅多に他人に見せない能力を出させた「A.P.」に対して腹を立ててもいたし、何故か哀しくなってもいたのだ。悠宇はそれに気付いただろうか?
「事実余裕、なんでしょうね。彼らは」
 疲れたように、和真は目を閉じる。
 ともかくも全員無事だったことは救いだと、武彦は言う。零がやがて和真の見舞いに来て、全員の命が無事だったことに、改めて命の尊さを知ったと、また泣いていた。



 この後、暫く「Assassination Play」というサイトは放置状態となる。世間では、「皆飽きて廃れたんだろう」等と話題が飛び交っているが、草間興信所では。
 武彦の手によって作られた「A.P.」───「Assassination Phantom」についての報告書が、重要書類として保管されたのだった。

 





《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4012/坂原・和真 (さかはら・かずま)/男性/18歳/フリーター兼鍵請負人
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、ちょっとシリアスな話を、そして、ちょっとわたしのいつもの作品とは趣向が違うと思われた方もいらっしゃるかと思いますが、「暗殺」を目的とする集団の話を書いてみようと思い、皆さんにご協力して頂きました。最初から「これは一話では終わらないな」と思いつつOPを書いていたのですが、やはり終わりませんでした。とはいえ、皆様によって引き出された「Assassination Phantom」という4人組は、シリーズ化予定ということで、異界に書かせて頂きますので、お暇な方がいらっしゃいましたら、後日にでも異界を覗いてやってください。
ダイスですが、これは別に紙にあみだくじのように作っておいてありまして、1回だけ振った人用と2回振って来た人用とにも別れておりまして、皆さんの其々のダイス目も参考にさせて頂き、『読心術者』、『剣士』、『魔術師』の戦況&結果とさせて頂きました(他は秘密ですが、ここだけの話、『剣士』のモデルは口調もかなり違うのですが、性格や志の一部などは、今回はあまり書けませんでしたが実のところ某海賊漫画の剣士さんだったりします(笑))。
また、今回は御三方が其々に「違う相手」を選んでおられましたので、その部分だけ個別にしてあります。見ないと分からない部分もあるかと思いますので、他の方のその部分も是非、どうぞお暇なときにでも。

■坂原・和真様:初のご参加、有り難うございますv 今回一番、結果的にやられてしまった和真さんですが、上記しましたとおりダイス目と照らし合わせたものとなっておりますので、ご了承ください。とはいえ、和真さんという方は初めて扱わせて頂いたのですが、頭のいいお方だと判断しまして、最後、病室で武彦に「今後の対応の仕方」を助言する大役もさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv こんな危険な依頼なのに日和さんが、どうしよう、といった感じだったのですが(笑)、日和さんは日和さんなりに、こういう行動や言動をするだろうなと判断しまして、戦闘はダイス目と照らし合わせましてあのような感じになりました。手を大事になさっているとのことで、両手だけが心配ですが、一週間後には完治しているはずですので、ご了承くださいませ。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 今回「片時も傍を離れない」と固く決心されていたので、正直本当に申し訳ないですと心の中で謝りつつ、日和さんと離させて頂きました。なんとなく、初めて悠宇さんの能力を書いた気がするのですが、これがなければちょっと危険なダイス目でした。全部今回で「解決」出来ていたら、『剣士』さんと実はいいお友達になれる、かな……?とも思っていたのですが、そこが書けなくてそれが少し残念なところではあります。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は今までとは「裏の面」からそれを入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にあり

がとうございます。とはいえ、これで「A.P.」の「活動」が終わったわけではありません。またネタが上がりましたら、ご参加なさらなくても、出来上がっていく(であろう)これからのノベルを拝見して頂けたら、と思います。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2004/12/14 Makito Touko