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<東京怪談ノベル(シングル)>


■草、侮らざるべし■

 犬を愛する人間達が来やすいという山をバックにしたこの神社に、謎の発明ばかりして特に草間武彦にいい迷惑をかけている人物が住んでいることを知る者は、果たしてどのくらいいるだろう。

(案外いるかもしれない)

 と、サクッと土と雑草とを踏みながらやってきたシュライン・エマは思う。
 郵便受けのところまできて、じっと手の中の、今自分が書いてきたばかりの手紙を見つめた。
(本当に、今までの発明品て……改良するべき点が多すぎるのよね)
 問題点はそこではないような気もしないでもないが、彼女は、今までただ災難に巻き込まれていたわけではない。今までの薬や発明品で武彦に起きた「現象」を観察した結果、せっせと改良するべきである点を手紙にしたためて来たのだった。
 一応声をかけてはみたが、また山に篭っているのだろうか。返答はない。
 まあ、不在であることは半ば予想していた。だから今、郵便受けの前にいるのだ。
 したためてきた手紙を、郵便受けに入れようとする。
 が、分厚すぎたのか、なかなか入らない。それでも封筒が破れないように注意して、無理にぎゅむぎゅむと突っ込んだ。
 カコン、と手紙が中に入る、手紙にしては少し重い音を確認し、ひとり小さく頷いて、さあ帰ろう、と元来た道を歩く。
「───」
 しかし、よくもこうのびのびと、雑草が生い茂ったものだ。
 犬連れの人達も、飼っていなくても犬が好きな人達も、よく来るとは聞いていたのだが、これでは犬も人間も歩きにくいのは、こうして体験してみるとよく分かる。この前はそれ程気にならなかったが───。
「うーん……」
 腕組みをして考え、シュラインはしゃがみこみ、雑草取りを始めた。
(やっぱり、せめてここくらいは綺麗にしておかないと)
 と、境内入り口から建物へ続く地面を見つつ、手を動かす。
 ぽかぽかと、今日は珍しく暖かい。おまけに、いい天気だ。
 冬でも、雑草取りをしていると、汗が出る。
「あっ、こんにちはーっ」
 若い青年が、美女発見と明らかに目を輝かせながら、犬連れでやってきた。その後ろからも、犬連れの女の子がやってくる。こんにちは、とシュラインに向けて挨拶してから、どすんと若い青年の足を踏んでいった。
「まったく、美人と見れば、すぐ鼻の下伸ばすんだから」
「ご、誤解だよ〜……」
 挨拶を返すタイミングを失ってしまったが、あの二人が帰る時でいいだろう、と、微笑ましく見ながらまた手を動かす。
 少し経って、機嫌が少し良くなった女の子と若い青年が、戻ってくる。
「こんにちは、今日はいいお天気ですね」
 顔を上げ、二人に向けて挨拶すると、二人同時ににこっと笑った。するりと、女の子が持っていた綱が滑り、小犬がシュラインのところに、とことことやってきた。
「可愛いですね」
 ポメラニアンの子供だ。じゃれてくるので、シュラインは頭を撫でてやった。女の子は慌てて、「ご、ごめんなさい」と抱っこしていく。
「そうだ」
 境内の入り口を出ようとしたところで女の子は足を立ち止め、先に行ってて、と青年に言い置き、どこかに走っていく。
「?」
 シュラインは、なんだろうと思ったが、せっせと雑草を取っていく。だいぶ取った草もたまってきた時、女の子が戻ってきた。
「これ、持ってないみたいですから、使ってください」
 笑顔で差し出されたのは、指定のゴミ袋と草刈り鎌だった。これは助かる。
「ありがとう。助かります」
 好意を素直に受け取ったシュラインに、女の子は罪のない笑顔で、言った。
「いいえ、こちらこそ。でも、いい奥さんですね」
 ガクンと思わずシュラインは身体の重心を失いそうになった。
「いえ、私はただの」
「じゃ、またお会いしましょうね」
 マイペースな性格のようで、シュラインの訂正しようとする声が聴こえなかったらしい。女の子は手を挙げて走っていった。
 苦笑して、まあいいかなとシュラインは思い、雑草を取っていく。いつも会う人ならともかく、行きずりの人なのだから。
 とはいっても、その行きずりの犬連れの人達がこの後も一人、二人と入れ替わり立ち代わりやってきて挨拶を交わしていく。
 身体だけではなく、心も暖まってくる気がして、シュラインは気分よく除草作業を行った。
 ちょうど夕方頃に、目標の「境内入り口から建物まで」が、道が現れる程、その道もピカピカに綺麗になる位になった。
「あ、よかった。まだいらっしゃった」
 ゴミ袋をさげて、さっき一人の参拝客に教えてもらった、ここら辺のゴミ置き場に置いてこようとした時、こちらも先程ここで挨拶を交わした品のよさそうな主婦が、何か折り詰めのようなものを持ってやってきた。
「すごい、道なんてあったのね」
 と、一通り感激してから、「よろしかったら」と、折り詰めを差し出してきた。
「え、そんな。申し訳ないです」
「草取りもひとりでやると大変なのに、いつもここに来ている私や皆も助かりましたから。ね、受け取ってください。ただのたこ焼きですから」
 聞くと、実家は元はたこ焼き屋だったと言う。有難く頂いてお礼を言い、シュラインは、草取りをやり終えた充実感と暖かさを胸に、帰宅した。



 ───翌日。
「あ、それ違うわよ武彦さん。その件の書類はこっちに───痛ッ」
 いつも通り興信所で事務の仕事をしていたシュラインは、立ち上がろうとして腰を抑えた。
 武彦が、心配そうに尋ねてくる。
「お前、さっきからあちこち痛がってるが───そういえば昨日、あの神社でお前を見かけたって奴がいたぞ。まさか、『奴』に何か妙な新薬でも試されたんじゃないだろうなっ!?」
「い、いえ違うの……大丈夫」
 まさか、たかだか草取りで、日頃酷使しない筋肉を使ったため、全身筋肉痛になったとは言えない。
「あ、武彦さん。そろそろお茶でも淹れるわね。おいしいたこ焼き、持ってきてあるの。……っ」
 今度は腹筋を抑える。これは、かなりの重傷だ。
「シュライン、本当に大丈夫か? って、たこ焼き? そうか、それが妙な薬だな」
「違うの、本当に普通のおいしいたこ焼きよ」
「いいや、そうに違いない。お前騙されたんだ。あいつ、零と同じようにシュラインまで陥れるとは」
 武彦の思い違いを正そうにも、シュラインはなんとなく吹き出してしまい、また腹筋を抑える羽目になった。
「あいつ、今度顔を見たらただじゃおかん」
 あの謎の発明家のことになると、武彦はどうしても「こうなってしまう」ようで───確かにこれは「彼」にしてみたら、楽しい反応なのかもしれない、と思いながら、シュラインは暫くの間、酷い筋肉痛に悩まされることになるのだった。




《END》
**********************ライターより**********************
こんにちは、いつも有り難うございますv 今回「草、侮らざるべし」を書かせて頂きました、ライターの東圭真喜愛です。
もう少しタイトルをひねりたかったのですが、中々思いつきませんで、こんなタイトルになりました。某依頼では本当に申し訳なく; 今回初めてシュラインさんのシチュノベを書かせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。
ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで、書かせて頂きました。本当に有難うございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2004/12/15 Makito Touko