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<東京怪談ノベル(シングル)>


■愛し合うって難しい■

「寒っ」
 ひゅるる、と風が吹いて、渡辺・綱は学ランの前を合わせ、思わず身を縮めた。
 学校からの、帰り道である。
「わあ、人間ホッカイロ! あったかーい」
「だろー」
 すぐ傍を、男女の二人連れがくっつきあって通り過ぎていく。
(あれは確か……)
 じーっと目を凝らす。
 間違いない、同級生の二人だ。

 はあ、と小さくため息をついた。
 いつも元気な綱らしくない。最近、思うところがあるのだ。
 別に恋煩い、というわけではない。
(あ、でも近い)
 自分で自分の思考に突っ込んでみる。
 そう、綱は恋愛のことについて近頃考えるようになった。
 愛し合うということ。
 これが、とても難しいものだ、と綱は思うのだ。
 彼も、そう、彼だってもう一人前の男である。今までも何人か好意を持った女性だっている。
 けれど、その誰からも、綱が思うようなものと同じ気持ちを返してもらったことはなかった。
 その逆もあった。
 綱は決して不細工ではない。いや、ハッキリ言って、派手ではないがすっきりした目鼻立ちをした、かなりの好青年である。自然と女子の視線も、学校にいれば集まった。
 一度ならず愛の告白、なんていうものもされたこともあったが、残念ながら、その誰一人として、綱の「特別」にはなり得なかった。

「なんでかなぁ……」
 ぽつり、声に出すと、本当に何故だろう、とますます疑問が大きくなる。
 よく考えると、冬には特にカップルが増える気がする。
「鳥みたいに、あっためあえるからかな」
 今時の高校生にしては実に珍しい、純真な考え方である。
 自分には今まで、誰一人としてそんな相手はいなかった。だが、同級生達は、さっきのようにこぞって対になり、傍目にも恋愛を楽しんでいるのだ。

(恋愛ってなんだろう……?)
 ただいまーっと家に入ってからも、考える。
 そういえば、父も母も結婚しているからには、というよりも大人なのだから、過去に「恋愛」を通り抜けてきたのだろう。
 学ランから普段着に着替え、なんとなく机に向かい椅子に座る。
 自分が誰かに想いを寄せていた時のことを思い出すと、そういえばあの時自分の心は暖かかった、いや熱いとも言えた。恋するのは簡単だ。簡単ではない例もあるが、まず今それは置いておこう。今、綱が考えている点は、その先にあるのだ。
(恋する前は友達で……友達じゃなくても、どっかで知り合った人で……)
 いつの間にか好意が恋になり、自分でそれと気付き───それからどうするのかで、運命は変わるのだと思う。

 気付くと、日が傾いて暗くなってきていた。
「そっか、もう冬だもんな」
 夕食の前に風呂に入っておこう、すっかり身体が冷えてしまっている。
 着替えも持って風呂場に向かう途中、台所からいい香りが漂ってきて、綱の鼻孔をくすぐった。内心やった、と思う。間違いない、今日は綱の好物のひとつ、鶏のから揚げだ。
 少しお湯を熱めにして、風呂に入る。湯船につかると、綱は冷えた身体を包み込んでくれるお湯に感謝した。
 そして、ふと何かを思いつき、じっとお湯を見つめた。
(例えば俺がこのお湯に恋したとして───お湯が心を持つものだったとして)
 純真がゆえ、たまに、一般人が考えない方向に頭がいくタイプという者がいる。今の綱が、そうなのかもしれない。だが、彼本人は至って真剣なのである。
(お湯は俺を包み込んでくれてるわけだから───それって両思い万歳、ってコトなのかな?)
 答えを一瞬出したと喜びかけるが、やはりどこか、何かが違うような気がする。
 その時、母から、電話が来ていると、風呂場の外から声がかかった。どうやら、同級生の女の子かららしい。
 湯船から出ようとすると、母が子機を戸の隙間から渡してきた。
 子機が濡れないうちにと、急いで「はい、綱です」と電話に出る。向こうも名乗ってきた。聞いたことがある苗字と声、やはり同級生のあの子だ、と思った。
「なに? 連絡網か何か?」
 すると、電話の向こう側の女の子は暫く黙り込み、意を決したように、
『綱くん、好きです』
 と、言ってきた。

 ─── 一瞬、思考が止まる。

 これなのだ。
 これについて、今考えている最中だったのだ。
 何か、答えが導き出せるかもしれない。これはチャンスだ。
 突然の告白によりどくんどくんと早くなり始めた心臓の鼓動を抑えようとしながら、綱は考えた。
 だが、やはり当然、まともに思考が働かない。
「あ、あのね俺、今そのことについて考えてて」
 告白されたからといって、やっぱり、それが原因で自分も相手を好きになるわけではない。例えそれが一時的なものにすぎなくても、互いに互いを愛する瞬間があるということ───それはもはや綱にとっては、奇蹟ともいうべき業だと思った。
 ちゃぷん、と片手でお湯を軽く弾きながら、ため息をつく。
(俺がおかしいのかな───)
 そして、子機を持ったままだと気付き、電話中だったことを思い出す。
「あ、ごめん。だからね俺、まだ恋愛について考えなくちゃいけないから」
(あれ?)
 なんだか日本語が変だ、と気付いたときは、綱はぶくぶくと湯船に沈んでいた。


 幸い、随分長い風呂場での電話だと心配に思った母が、すっかりのぼせた綱を発見・救出し、座布団を並べた上に寝かされていた。
 考えすぎたせいもあったのだろう、のぼせるなんて。いや、告白されたこともプラスしている、と思う。
(やっぱり───)
 そして綱は、ぼんやりした頭で、とりあえず今の自分の結論を出したのだった。
(やっぱり、愛し合うことって、とても難しい)





《END》
**********************ライターより**********************
こんにちは、初めましてv 今回「愛し合うって難しい」を書かせて頂きました、ライターの東圭真喜愛です。
ひねりの全くないタイトルですみません; 綱さんという方は、書いていてもとても楽しいなと思いました。純真無垢でカッコ可愛い高校生って、本当に今時珍しいなと思いつつ、今回書いていました。オチはやはり、あんな感じで終わらせて頂きましたが、あの電話の女の子にとっては「綱くんの新しい一面を見た」と喜んでいるのかもしれません(笑)。
ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで、書かせて頂きました。本当に有難うございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2004/12/15 Makito Touko