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<東京怪談・PCゲームノベル>


 気がつけば、異世界

 <1>
 朝からひっきりなしにかかりまくる電話。
 扉の前には依頼を持ちかける人々の列。
 スケジュールは向こう一年埋りっぱなし。
 ……などということはまったくなく、今日も穏やかに草間興信所の一日は始まり、そして平和に終わろうとしている。
「今日はヒマだったなぁ……」
 窓辺で煙草をくわえつつ、茜色の空を見あげた草間はぽつりと呟く。
「今日も」
 シュラインは書類を整理し、ファイルにまとめるその手を止めることなくさらりと言った。
「……たまには、こんな日もあるさ」
 振り向き、草間は肩を竦めてみせた。そう、こんな日もある。
「たまには?」
 即座にそう返し、ぱたんとファイルをとじる。そして、椅子を立った。
「まあ、でも。世間が平和な証だし、それでいいのかもしれないわね」
 結局のところ、この仕事は困っている人がいなければ成り立たないから。仕事がないということは、困っている人がいないということ。それはそれで世間的には平和な証拠といえるのかもしれない。
「そうそう。だから、悲観する必要もない」
「そういって開き直るのはどうかしらねぇ? そうやって構えていると武彦さんの未来は悲観的なものになるかも……」
 少し脅すように言ってみる。仕事が来なければどうなるか。そんなことは考えるまでもなくわかっていることだろう。
「世の中がそれほど平和になるとも思えないけどな。いつの世も怪奇が途絶えたことはなしってな……目指しているものとは方向性は違うが、そっちで生きていくよ」
 草間本人があまり喜ばしく思っていない怪奇探偵の肩書を積極的に受け入れ、利用するということだろうか。シュラインはそんなことを考えながらファイルを棚へ戻す。
「さて、と。これで一応、今日のお仕事はおしまいっと。……武彦さん、珈琲でも飲む?」
「ああ、よろしく頼む」
 草間はシュラインに背を向け、再び窓辺から空を見あげる。手をあげ、軽く振った。それを受け、シュラインは珈琲をいれるべく用意をはじめる。
「ん……?」
 何かが目の端で揺れた。
「?」
 蛍のような小さな淡い光。最初はひとつだったそれは次第に数を増して行く。ぽわりと浮かぶそれは綺麗ではあるものの、やはり得体は知れない。恐る恐る手を伸ばし、軽く指先で触れてみる。暖かくも冷たくもなく、確かにそこにあるのに質感を感じない。怪訝に思いながら草間を呼ぼうとすると淡い光は強い光へと変わり、その眩しさに一瞬、瞼を閉じた。
「……」
 光が消えたあと、ゆっくりと瞼を開く。夕刻の空はどこへやら、そこは見知らぬ建物のなか。冷厳な空気が漂うそこには、自分を取り囲むように十数人の人間がいる。その顔はどこか知っているような、知らないような……。
 それは、いいとして(本当はよくないが)。
 自分は草間興信所にいて、珈琲をいれようとしていたはず。それなのに、一瞬にして見知らぬ建物のなかにいる。
「……」
 沈黙しているシュラインの前へ、集団のなかからひとりの男が進み出た。どこか清廉な印象を与える礼服を身に着けているから、神聖な職についているものなのかもしれない。その男は怪訝そうなシュラインの視線を受けとめ、小さく息をついた。
 そして。
「ようこそ、伝説の勇者さま。今度こそ、滅びに瀕したこの世界を救ってくださいませ」
 恭しく、しかし、はっきりとした口調でそう言った。
  ◇  ◇  ◇
「伝説の……勇者……?」
 シュラインは眉間にしわを寄せ、小首を傾げる。そして、男が口にしたなかで、最も気になる言葉を繰り返した。
「はい。我々はこの世界を救うことができる勇者を異世界より召喚する儀式を行いました。大成功です」
 いや、よかった、本当に……と男はにこやかに答え、続けた。
「そして、あなたがその勇者さまというわけなのです」
「……私が?」
 僅かに傾げた首はさらに横に傾げられていく。シュラインは戸惑うというより困ったような顔で男を見つめてみるが、男に動じた様子は見られない。それどころか。
「はい!」
 自信たっぷりに頷いてくれた。あからさま怪しげな妙な光がぽわんぽわん浮かんでいたし、光が強まった瞬間、周囲の光景が変わったから、言っていることは頷けなくもなかったが、なんとも奇妙すぎて戸惑いを隠しきれない。だが、男はそんなシュラインの戸惑いなど気にした様子もなく、むしろそれがわかっているのか、やたらとさらりと場を流すように続ける。
「では、詳しいおはなしは召喚の間ではなく、円卓の間でさせていただきますので」
 ついて来てくださいと男は部屋をあとにする。こうなってはなるようにしかならないし、状況把握のためにも素直に話を聞くことに決めたのは、自力で興信所へ戻ることはほぼ不可能と判断したからだ。シュラインは素直に男のあとに続く。荘厳な印象を与える回廊を歩き、やがてある扉の前までやってきた。
「こちらです、どうぞ」
 通された部屋には円卓があり、そこには見覚えのある顔ぶれも着席していた。アンティークショップの女主人である蓮をはじめとして、草間興信所の草間、そして、零、アトラスの碇や三下、雫の姿もある。ただ、その服装はシュラインが知っている彼らのものではなく、現代でならば演劇か仮装を名目にしていなければ身に着けないような中世時代を思わせるものだった。草間や三下、碇は鎧を身に着けているし、雫や蓮は魔法使いを思わせるようなローブを羽織っている。総じて洋風であり、和風ではない。
「おや、まあ、本当に……なるほど、儀式は成功したようだ。とりあえず、自己紹介はしておくとしようかね。あたしらはあんたを知っていても、あんたはあたしらを知らないだろうから。占い師のレンだよ」
 というレンの挨拶をかわきりに次々と挨拶をされてわかったことは、どうやら服装や職業は違うものの、雰囲気的には自分がもとにいた世界の彼らと同じであるということだった。召喚された世界に自分の知っている顔があるというのは、なんとも奇妙な感覚を受ける。シュラインは複雑な表情で草間をはじめとする知っている、しかし、知らない面々を見やった。
「さて、それじゃあ、あたしから説明させてもらおうかね。この神殿の奥には強大な力を秘めた水晶が安置されていてね、その強大な魔力と聖なる輝きで魔物の活動を抑制していたのさ。ところが、それをある魔道士に奪われちまってね……」
 そう言ってレンはちらりとサンシタに視線をやる。白銀の胸鎧を装備したサンシタは見習い騎士であり、自己紹介によるとミノシタであるらしいが、この世界でもやはりサンシタと呼ばれ、それが定着してしまっているらしい。レンの口ぶり、態度からすると奪われた原因はサンシタにあるようだ。
「ぼ、僕だって、その……」
 頑張りました……という言葉はもごもごと小さくなっていき、最後には消えた。
「襲撃にあったとき、さっさと気絶したのはどこの誰だったかしら。まったく、不甲斐ないわ……」
 そう言ったのはレイカだった。この世界での碇は、やはり三下の上司であるらしい。自己紹介によれば、女性ながらアトラス聖騎士団の団長を務めているということだ。
「ここにいる僕です……」
 しゅん。サンシタは俯き、それ以上の反論はしなかった。ある意味見なれた、馴染んだ光景だと思ってしまうのはどうしてだろうと思いつつ、シュラインは訊ねた。
「それで、私はどうすればいいわけかしら?」
 話の流れによると魔道士に水晶を奪われて困っているということだから、魔道士を倒し、水晶を取り戻してくれというところだろうか。
「魔道士に奪われました水晶を取り戻し、神殿の台座に戻していただきたいのです。そうすることで、魔物の力は弱められ、勇者さまをもとにいた世界に戻すことも……ああ、大切なことを伝え忘れていましたね。実は、勇者さまをお呼びするために力を使い果たしてしまいまして……再び、異世界と異世界を繋ぐ扉を開くには、水晶の力が必要不可欠であり、平たく申し上げますと、水晶なくして勇者さまをもとの世界に送り返すことはできないというわけでして……」
「……なるほどね。わかったわ」
 自分がもとの世界、草間興信所へ戻る手段とこの世界の平和はイコールで結ばれているようだ。ならば、やることは決まった。シュラインはうんと頷き、思考を切り替える。 
「それで、奪われた水晶がどこにあるのかはわかっているのかしら? それとも、そこから調べるべきなのかしらね」
 まあ、調べることに関してはプロ(?)だから、それに関するノウハウは身につけているわけで、それほどに問題ではない。だが、この世界は自分が本来いるべき世界とは形態が違うようなので、それが少し心配だ。少なくとも、シュラインが本来いるべき世界では魔物という存在が大っぴらに街を襲ったり、暴れたりはしていない。そういった存在がいないとは言わないが、社会的問題になるほど取り上げられたりはしていない。
「それに関しては俺が」
 タケヒコが軽く手をあげた。この世界での草間はクサマ戦士団と名乗る冒険者一行のリーダーであるということだ。傭兵でもあり、それなりに名の知れた戦士であるらしい。
「魔道士はとある場所に水晶を隠し、配下の魔物に守らせているという情報を手に入れた。石像がやたらと多い滅ぼされた学院都市、もしくは迷宮のように入りくんだもののけが住まう城、さもなくば眠りを妨げられた死者がさまよう王家墳墓……すまないな、どうにか三つまでは絞り込んだが、それ以上は無理だった」
 その言葉どおり、すまなそうな顔でタケヒコは言った。
「現時点での情報では三つというわけね。さらに情報を集めて、吟味すれば正しい場所がおのずと見えてくるかもね」
 それに関しては問題はない。素直に情報収集をして答えを導きだそうと思う。それはいいとして、話を聞いていて少し気になることがある。それを問いかけようかどうしようか考えていると、男が声をかけてきた。
「勇者さま、その姿ではなんですから……こちらに武器と防具をご用意させていただきました。どれでもお好きなものをお持ちください」
 男が示す場所にはとにかくいろいろ集めるだけ集めてみましたという具合に武器や防具が山積みになっている。そのとなりには薬瓶や古びた本といった道具がある。
「あら……」
 現代においては骨董品であり、飾られることが主な目的となっている剣や楯、甲冑といった防具を一通り眺めたあと、シュラインは小さくため息をついた。強そうな武器や防具だが、生憎と使い方がわからない。剣などは基本的には振りまわせばいいのだろうから、使い方がわからないということはないのだが、上手く扱える自信はない。
 ならば、どうするか?
 シュラインは武器と防具の前を通り過ぎ、薬瓶や古びた本、ランタンやロープといった普段の生活でもそれなりに目にし、使う機会もある道具の前で立ち止まった。そして、それらのなかから、さらに使えそうなものを吟味し、選びだす。
「じゃあ、このあたりを持っていくことにするわ」
 ランタン、油瓶、ロープ、鏡、羊皮紙にペン。そして、それらをいれておく皮の背負い袋。それから……。
「勇者さま、そのようなもので良いのですか? 武器や防具は……」
 シュラインに武器や防具を選ぶ気配が見られないとわかると男は心配そうにそう声をかけてきた。
「剣だけが武器というわけではないはずよ」
 使い方によってこれらの道具はこれ以上はない武器となるはず。すべては使い方次第だろう……たぶん。
「それから閃光弾とか……怪我をしたときのために薬草の類が欲しいかしら。それと、外での移動手段として速さのあるものがあればそれも用意していただけると嬉しいわね」
 シュラインは頬に手を添え、必要そうなものを考えては口にする。男はこくこくと頷き、そばにいた女に声をかける。
「そういえば、水晶の形状を聞いていなかったっけ。色、形、艶、味、その他特徴を教えてもらえる? ああ、もちろん、味は冗談よ」
「無色透明、大きさは手のひらに乗る程度、神秘的な波動を放っていますので、見ればおそらくそれだとわかると思います」
「水晶のそばへ行くと反応するようなものがあると嬉しいんだけど……」
 そんな便利なものはさすがにないかしらねと言いながらもシュラインは僅かな期待を寄せる。
「本来、そういう使い方をするものではないのですが、それに近い働きをするものがあります。……かけらをここへ」
 男は再び、女に声をかける。女は部屋を出て行き、しばらくして戻って来た。その手には折りたたんだ絹の布があり、それを男へと差し出す。受け取った男は布を広げながらその中身をシュラインへと差し出す。それは小指の長さほどの水晶のかけらだった。加工をしてあるわけでもなく、かけらの状態であるためそれほどの輝きは見られない。だが、ほんのりとした淡い光をたたえている。
「今は頼りない輝きではありますが、水晶が近くにあればその力に呼応し、強い輝きを放ちます。近ければ近いほどに強い輝きを放ちますので、ある程度、目安にはなるかと思います」
「言ってみるものね。ああ、こっちの話」
 では確かに預かります……シュラインは水晶のかけらを受け取った。
「それからこちらが薬草になります。それと閃光弾……というものは存在しないのですが、言葉からすると閃光を放つもの……と受け取ってよろしいでしょうか?」
「ええ、そうなんだけど。いいのよ、ないなら」
「かわりになるのかどうかわかりませんが、こちらをお持ちくださいませ」
 男は小さな袋を差し出した。袋は透明ではないため、中身がなんであるかはわからない。触ってみると、やや平べったく硬いものが三、四つ入っているらしいことがわかった。
「……石?」
「光虫です。光虫は光に向かって飛び立つ性質があります。光を感じない場所では、そのとおり、眠りについていて活動をしていませんが、少しでも光を受けようものなら、さらなる光を求めて飛び立ちます。……勇者さまが仰っているものとは趣旨が違ってしまいますかね……」
 言いながらシュラインが要求しているものとは違うと思いはじめたのか、男は難しい顔をする。
「ああ、いいのよ。ありがとう」
「袋を開けると光虫たちは目を醒まします。そして、強い光のある方向へと飛んでいきます。かなり硬い身体を持っていますので、ランタン程度の硬さのものは簡単に壊してしまいます。人の身体をも貫通する威力ですので……扱いにはご注意を」
 神妙な顔で告げられ、シュラインはなんともいえない表情で、しかし、それでも笑みを浮かべてみせる。そんなシュラインの足に何かが触れた。なんだろうと視線をやると、そこには、小さくてふわふわなクマがいた。その顔を見ていると何かを思い出しそうになる。なんだったかなと考えながら、ああと頷く。『ねこきち』にそれとなく似ているのだ。とある船で出会った少女が持っていたクマのぬいぐるみ……船での思い出にひたりかけそうになるところで、クマは突如、言った。
「くまー!」
 そして、こんにちはー!といわんばかりに片手をあげる。
「く、くまー?」
 クマって、くまーって鳴いたかしら……シュラインは難しい表情でしきりに小首を傾げる。
「ああ、紹介が遅れておりました。そのクマは勇者さまにつき従う守護聖獣と呼ばれるものです。腕につけている環がその証でございます。数日前より、突如、この神殿に姿を現しまして」
 男が言うとおり、クマはその小さな腕にこれまた小さな腕輪のようなものをつけている。
「勇者を導くといわれていますので、是非、お連れください。それから、こちらから一名ほどお選びください。勇者さまの旅に同行し、補佐をさせていただきますので」
 本当ならば、一名などとケチなことは言わずに全員どうぞと言いたいのですが、町を魔物から守らなければならないので……と心苦しそうな顔で男は付け足した。
「勇者さまにはいろいろと苦労をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
 
 <2>
「では、行こうか」
 呼び出された神殿をあとにする。見送りはなく、そこにはこの世界での草間、タケヒコがいる。シュラインが旅の補佐にと選んだためである。選んだ理由は戦士ということも丈夫そうということもあったが、決定的だったのはいろいろと意見しやすそうな顔だったから、だろうか。他の人材に比べて遠慮なくものを言えそうな気がする。その顔が同じというだけで。
「ええ。で、これは……?」
 所謂、乗り物として用意されていたのは、馬だった。シュラインが知っている馬よりも少しばかり大柄なことはともかくとして、足が六本あるというのは驚愕に値する。
「これに乗って行く。べつに驚くほどのことでもないだろう?」
「驚くことのほどなんだけど……まあ、そういうものなのかしらね……」
 ふたりで乗っても余裕があるその馬に荷物やら守護聖獣やらを積み、そして、旅立つ。
「向かう先は城でよかったよな?」
「ええ、お願い。クマさんもそこに行きたいみたいだし」
 どこへ行こうかと情報収集を開始しようとすると、クマが騒ぎ出した。くまー、くまーとしきりに訴える。何を言っているのかはまったくわからないのだが、どうやら城という言葉に反応しているらしいことがわかってきた。そこで、城へ行くことを口にしてみると、クマはこくこくと頷いた。
「くまくまー!」
「……」
 タケヒコは胡散臭いものを見る眼差しをクマへと向ける。
「どうしたの?」
「いや、クマがくまーって」
 なんともいえない表情でタケヒコは呟く。だが、シュラインからしてみれば馬の足が六本ある世界だ、クマがくまーとないたところでべつに不思議でもなんでもない。
「? べつにいいんじゃないの?」
「……出発だ」
 街をあとにすると、草原に出た。そのなかに通ったレンガの街道は、普段はそれなりに行き交う人も多いのだろう。敷き詰められたレンガは擦り減っている。だが、今はすれ違う者もいない。そんな街道をシュラインとタケヒコ、そしてクマを乗せた馬が行く。
 馬の背で揺られながら、シュラインはここまでの経緯を振り返ってみる。
 まず、気になることは魔道士が何故に水晶を奪ったのかということ。強大な力を秘めるらしいそれを欲しがる気持ちはなんとなくだが、わかる。しかし、そういったものを手にしたら、それこそ自慢するというわけではないが、自分の手元に置いておくものではないだろうか。それなのに、自分の手元には置かずに配下の魔物に守らせているという。
 それに、奪った張本人たる魔道士はどこにいるのか。彼らはそれについてまったく触れようとしない。何故なのか。
 最後に、ここへ呼ばれたときに男が口にした言葉。そう、男は『今度こそ』と言った。滅びに瀕した世界を救うために呼び出したのは、まあいいとして(本当はよくないというかそれに関しても言いたいことはあるが)その言葉は気にかかる。こちらには話して聞かせていない『何か』があるような気がしてならない。
「見えてきたぞ。あれだ」
 西へと向かううちに、やがて城が見えてきた。西洋風の城は美しくはあったが、どこかかたちがいびつに思える。景観のバランスが悪いとでもいおうか。どこかが、何かがおかしい。
「あれが、もののけが住まう城……ああ、そういえば、迷宮のようにいりくんでいるんだっけ」
 なるほど、だから見た目にも左右対称ということもなく、景観が悪いのかと納得した。馬を走らせ、城の城門付近へとやってくる。すると、そこにはホウキを手に掃除をしているメイド服の娘の姿があった。その顔はよくよく見るとあやかし荘の因幡恵美と同じである。この世界の恵美なのだろうと見た途端に納得をする。
「こんにちは、いらっしゃいませ。お泊りですか? ……あ、あなたは!」
 馬が近づいて来ることに気がつくと、恵美はその手を止め、にこやかに挨拶をしてきた。が、タケヒコ、いや、自分を見た途端に顔色を変える。どちらを見て顔色を変えたのかは正直、わからない。
「くまー!」
「あら、クマさん!」
 ……実は、クマを見て顔色を変えたのかもしれない。シュラインは苦笑いを浮かべる。
「えーと、もののけが住まう城ってここでいいのよね?」
「はい。もののけが住まうあやかしの城……あやかし城と人は呼びます」
 洋風のあやかし荘ねとシュラインは笑みを浮かべたくもないのに浮かべたくなった。
「あ、申し遅れましたが、私はこの城の管理人、メグミです。……」
「私の顔に何かついてる?」
 メグミがじーっと見つめるので、シュラインは軽く小首を傾げてみせた。メグミはふるふると横に首を振る。
「いえ、あの……お客様、ここは初めてです……よね?」
「? ええ、そうよ。お客様って、ここは入場料でも取るの?」
 某遊園地のようにミステリーツアーでもあるのだろうかと思ってしまう。あやかし城ミステリーツアー……行きたいような、行きたくないような……とはいえ、これからこの城を探索しなければならないわけだから、それを実行するといっても過言ではない。
「入場料というか、宿泊料はいただきます」
「ホテルなの?」
 こくりとメグミは頷いた。が、シュラインは難しい顔をしてしまう。確か、もののけが住まい、さらには迷宮のごとくいりくんでいるはずなのだが……。さらに、もしかしたら水晶が隠されていて、魔道士の手下がいるかもしれないはずなわけだが……。
「はい。お部屋はいっぱいあるので長期も大歓迎ですよ。どこの部屋でも自由にご利用いただいて構いませんが、あまり奥に行かれるともののけが出ますので。好奇心にかられて城内の奥へ進み、そのまま行方不明になる人も多いですから、探索もほどほどに……」
「とりあえず、宿泊ということにしておけばいいんじゃないか? ……客は城内を自由に歩いて構わないんだろう?」
 タケヒコに問われ、メグミはハイと頷いた。タケヒコは懐から袋を取り出すとそこから金貨を取りだし、メグミへと手渡す。
「ありがとうございます。二名様、ご案内です。お食事はお部屋へ運びませんから、食堂へ食べに来てくださいね。それから、何故かはわからないんですが、最近、もののけが狂暴化しているようなんです。あまり奥の方へは行かない方がいいですよ」
「ありがとう。もののけが狂暴化する前に怪しげな客が宿泊したとかいうことはないかしら。魔道士風の人とか」
「さあ……いろいろな人が宿泊するのでちょっとわかりません。魔道士風な人も多いですからね」
「そう、ありがとう。じゃあ、失礼するわね」
 シュラインはタケヒコとクマと共にあやかしの城へと足を踏み入れる。木製の扉をくぐり、広がるホールは城にしてはやや質素な印象を受けるが、それでも綺麗に掃除がしてある。
「見たところは普通の城ね」
「くまくま。くまー」
 クマはホールを見まわしたあと、とある方向を指差した。
「……何を言っているかさっぱりわからんな。……痛っ。引っ掻くな!」
「くまー!」
「はいはい、それくらいにして。クマさん的にはあっちがアヤシイってことかしら」
 シュラインはクマが示した方向へと歩き出す。ホールからいくつもの扉が並ぶ廊下へと移動する。やはり、そこも普通の城といった雰囲気で怪しい気配を感じることはない。
「たくさん客室があるのね。……あら?」
 扉が並ぶ廊下の奥にある扉には張り紙がしてあった。張り紙には『ここから先、もののけ注意』と書いてある。
 シュラインは水晶のかけらを取り出してみた。淡い光はほんの少し増しているように思える。それをしまい、扉に手をかける。軋んだ音とともに扉は開き、その奥には闇が広がる。どうやら、窓がないらしい。頬に触れる空気も妙に冷たい。
「暗いのね……」
「ここからが本番ということだな……」
 タケヒコは剣の柄に手をかけた。
  ◇  ◇  ◇
 建築というものの基礎を無視していきなり現れる扉、回廊、階段に翻弄されながら、それでも入念にマッピングをしながら進む。基本的には戦闘は回避する方向で、怪しげな物音を耳にしたら身を隠してやり過ごし、それが無理ならタケヒコの出番、剣で叩き切り、道を切り開く。
「ひとつ、いいか?」
 回避できなかった三回目の戦闘を終えたところで、タケヒコは不意にそう切り出した。
「なぁに?」
「敵が強くなってきている。ここまでは余裕だったが、この先はわからないぞ……」
「薬草があるから大丈夫よ」
 シュラインとタケヒコは顔を見合わせ、にこりと笑う。そのあと、タケヒコは深いため息をついた。
「冗談よ。いよいよ本格的に注意しなくちゃいけないみたいね」
 時々、水晶を取り出してその輝きを確認する。それを利用することである程度の方向は決めることができたし、確実に水晶に近づいてはいるはず。それに、だからこそ、立ちはだかる敵が強くなってもいるというものだ。
「そうだな。……なぁ、勇者さま」
 呼ばれ、シュラインはタケヒコを見つめる。
「なんで、俺を選んだわけだ?」
「……どうして、こんなところでそれを訊ねてくるの?」
「くまー?」
 シュラインは小首を傾げ、訊ねる。同じようにクマも小首を傾げる。
「……なんか、このクマ……雰囲気ぶち壊しというか……まあ、いいか。べつに深い理由なんてないが……なんとなく、気になってさ」
「そうねぇ……」
 言っていいのだろうか、素直に。いろいろと言いやすそうな顔をしていたとか、楯にしても大丈夫そうだったからとか。
「まあ、何があってもおまえのことは守るよ……今度こそ」
 シュラインが素直に答えるかどうかを考えているうちに、タケヒコはそう言った。
 今度こそ。
 小さく付け足されたその言葉が気になった。また、その言葉だ。
「……。ねぇ……」
 どうして自分はここに呼ばれたのか。それに、周囲には自分がよく知る、知らない人々。その言葉。それらを考えるとひとつの仮説に辿り着く。
「……行こう」
 シュラインの呼びかけには答えず、タケヒコは暗い廊下を歩き出す。
「くまくまー……」
「どうしたの、クマさん? しょぼくれちゃっているわよ」
 クマは廊下を歩くタケヒコの背中を見つめていた。シュラインはどこか元気のないクマを励ますように声をかける。考えてみればこのクマも不思議だ。人の言葉を話すことはできないが、それを理解することができる。守護聖獣だからといってしまえばそれだけかもしれないが。
「くまくま、くまくまくまー」
「……。言葉がわかればよかったんだけどね……」
 シュラインとクマはため息をつく。そうしていると、タケヒコの声が響いた。魔物が出たかと顔を向けるが、どうやらそういうわけではないらしい。
「どうしたの? ……あら、これは……」
 タケヒコは黙って床を見つめている。同じように床を見つめると、そこには空の瓶が散乱していた。それだけではなく、ランタンや羊皮紙、背負い袋、小型の剣といったものもある。羊皮紙を拾い上げてみると、そこには丁寧な城内内部地図が書いてあった。
「?」
 シュラインは自分がマッピングしてきたものと拾い上げたものとを比べてみる。……そっくりだ。書き方、字のクセ、何かあったときの印まで同じ。まるで自分が書いたかのようだが、自分が書いたものは手にしている一枚のみであって、こんなところに落ちているはずがない。そうなると……シュラインは先ほどの仮説を思い出しながら羊皮紙をなんとはなしに裏返してみた。すると、そこにはつらつらと文章が書いてある。
「何かあったときのためにここに記しておきます。水晶を探してここまで辿り着きましたが、どうやらこのあたりが限界のようです。魔物から受けた傷はひどく、かといって薬草は使い果たしてしまいました。このうえは望みを託してこの城で見つけたいかんとも判別しがたいいくつかの薬瓶に賭けるしかありません。体力回復薬かもしれないし、毒薬かもしれない。それでも何もせずにこのまま朽ち果てるよりはマシというものです。ですが、これを今、あなたが読んでいるということは、残念ながら私は賭けに敗れたということです。ここでこれを手にしたあなたの縁にすがって、ひとつお願いしたいがあります。クサマ戦士団のタケヒコという人に、私、シュライン=エマが亡くなったことを知らせてほしいのです。そして、ごめんなさいと言っていた、と。心をある人よ、どうかお願いします。シュライン=エマ……」
 シュラインが文章を読み終えると、いや読んでいる途中からタケヒコは肩を震わせていた。自分が残した最後の手紙が、シュラインの疑問に答えてくれた。そう、この世界にも自分はいたのだ、草間らと同じように。そして、その自分はこの世界において勇者であり、水晶を探して旅立った。が、ここで力尽きた……。
「謝るのは俺の方だよ……俺が悪かったんだ……」
 タケヒコは呟き、がくりと膝を折る。シュラインは言葉もなくそんなタケヒコを見つめた。自分が死んだときも……草間はこうやって悲しんでくれるのだろうか?
「タケヒコさん……」
「くまー、くまくまー!」
 クマはふるふると横に首を振ったあと、タケヒコの足に抱きついた。シュラインにはその様が、違う、私が悪かったのよ……と言っているように思えてならなかった。
「なんだよ、クマ。慰めてくれるのか? クマのくせに……」
 などと言いながらもタケヒコはクマを抱きあげ、そのふわふわな身体をぎゅっと抱きしめる。しばらくそうしたあと、落ちついたのかタケヒコはクマを解放し、改めてシュラインを見つめた。
「おまえはあいつと似ている……いや、似ているなんてものじゃない、そのものだから、この状態を見ればだいたいの察しはついていることと思う」
「ええ……」
 シュラインは曖昧に頷いた。
「俺たちは傭兵というか、便利屋というか、冒険者でな。依頼を受けて仕事をしてきた。あいつが勇者に選ばれて魔道士から水晶を奪い返す使命を帯びた。俺たちは魔道士を倒したよ。だが、あいつは最後の力を振り絞り、水晶をどこかに飛ばした。どうしても俺たちに渡したくなかったんだろうな……」
 タケヒコは小さく息をつく。そして、視線を伏せた。
「で、水晶探しの旅に出た俺とあいつはささいなことから口論になったんだ。俺がいたから魔道士を倒せたんだろう、おまえひとりじゃ無理だった、いや、そんなことはない……冗談みたいなものだったが、お互いに熱が入ってきて、終いには喧嘩だ。あいつはひとりでやり遂げてみせると言って出て行った。俺は俺で、やれるものならやってみろとそのまま見送った。……それがあいつを見た最後になったよ……」
 そう言ってタケヒコは瞼を閉じた。後悔していることはその横顔を見ればわかる。
「辛気臭い話をして悪かったな、勇者さま」
「……いいのよ。この世界の私はタケヒコさんの今の言葉を聞いて喜んでいると思う」
 シュラインはタケヒコの足元で感動しているクマをちらりと見やる。おそらく、自分の考えが間違っていなければ。
「ねぇ、そうよね?」
「くま? くまくま? くまー!」
 クマは驚いて目をぱちくりさせる。それはタケヒコも同様だった。
「え? あ? これ?!」
「どういうことかはわからないけれど……おそらく、効用不明の薬がいけなかったんじゃないかしら? それを飲んで、何故かクマに……」
 シュラインが言うと、クマはこくこくと頷いた。
「え、マジか……やっぱり、俺がいないとダメだな、おまえ」
「くまー!」
 クマは少し怒ったように腕を振り上げた。タケヒコはそんなクマをもう一度抱きあげ、やんわりと抱きしめる。
「……けど、俺もおまえがいないとダメみたいだ」
 そして、小さくそう呟いた。
 
 <3>
 いくつもの回廊と扉をくぐり抜け、ある扉の前までやってきたところでシュラインは足を止めた。
「もはや、ここがどこであるのか俺にはさっぱりだ。水晶を取り戻しても、ここから出られる気がしない……」
 タケヒコは深いため息をつく。が、その気持ちはわかる。かなり奥深くまでやってきたことは確かだ。マッピングしていなければ無事には戻れないかもしれない。
「大丈夫よ」
 シュラインはひらひらとマッピングしている羊皮紙を振ってみせる。すると、タケヒコはほんの少し目を細めた。感心しているような、あきれているような複雑な表情だ。
「なによ、その顔は」
「いや、なんというか、おまえだなと思って。褒めてるんだよ」
「褒めているだけとは思えなかったけど……まあ、いいわ。この扉の向こうが怪しいわね」
 シュラインは水晶の輝きを見つめながら言った。タケヒコはその言葉を聞き、表情を引き締める。
「わかった。配下の魔物がいるだろうからな……後ろにいてくれ」
 タケヒコは注意深く扉を開ける。部屋のなかは暗いが、真っ暗というわけでもない。何かが光を放っている。
「!」
 これといった物が置いていない広い部屋のなかには、輝きを放つ水晶があった。その輝きのせいで光源のないはずの部屋が仄かに明るくなっているらしい。
「水晶、宙に浮いているみたいだけど……?」
 タケヒコの背後から部屋を覗き見たシュラインは何に支えられているわけでもないのに、宙にほわりと浮いている水晶に小首を傾げる。魔力を秘めたすごいものらしいから、単独で浮いていてもおかしくはないのかもしれないが……。
「それに、なんだか歪んで見えるというか……変……よねぇ? 水……ううん、氷?」
 よくよく見ると何か透明な氷のようなものの中心部に水晶があることがわかった。透明だから、浮いているように見えたわけだ。
 タケヒコはゆっくりと注意深く水晶へと近づく。すると、水晶を取り囲んでいた氷のようなものがぷるるんと動いた。その動きはゼリーやババロアを揺らしたときのそれに似ている。
「魔物が取りこんでしまっているらしいな……」
 タケヒコは剣を抜き、斬りかかる。相手の動きは素早いものではないので簡単にその一撃は決まる。しかし、その身体に触れた途端、刃はしゅうしゅうと音をたてて溶け始めた。タケヒコははっとして剣を戻すが、そのときにはすでに刃は半分以上溶けてなくなっていた。
「参ったな……」
「鉄を溶かしてしまう性質なの?」
「あれにはいくつか種類があって、それによって性質が違う。あれは鉄や人間は溶かすが石は溶かさない種類のようだな。とはいえ、石の剣なんて用意してきていないしな……」
 シュラインはタケヒコの言葉を聞きながら考える。そう、こんなときこそ、用意してきた道具だ。何か使えそうなもの……シュラインは背負い袋を探り、そして、油瓶を取り出した。それを投げつけ、さらにランタンの火を投げつける。油が付着していることもあり、勢いよく炎があがる。
「あれだけの火では燃やし尽くせないな……もっと油瓶はないのか?」
 燃えあがるも徐々に炎は弱まっていく。いよいよ消えそうになるが、その動きを止めるほどに傷を与えてはいない。
「もうないわ。だけど……」
 シュラインは小さな袋を取り出した。薄い石のような手触り。それの口を開いた。途端、勢いよく何かが飛び出した。それらは迷わず、強い光へと向かう。ゼラチン質のようなその身体を破り、中心にあった水晶へと達する。
「あ……」
 水晶が砕けた。それに呼応するように正方体を作っていたその身体がどろりと溶け出す。液体と化した身体は気化し、やがて消え、砕けた水晶だけが残された。
「……砕けた……みたいだな……」
「砕けた……みたいね……」
「くまー……」
  ◇  ◇  ◇
「ありがとうございます、勇者さま。これでこの世界は平和を取り戻しました」
 砕けた水晶を手に神殿へと戻ると感謝の言葉で出迎えられた。
「ちょっと手違いというか、間違いというか、砕けてしまったんだけど……」
「気になさらないでください。砕けたところで力を失うことはありません。かけらの大小により力が分散されるかもしれませんが……同じ場所にかけらごと置いておけば問題はありません。今までどおり、神殿の聖なる力を高め、魔物を抑制してくれることでしょう」
 男はにこやかにそう答えた。シュラインはほっと胸を撫でおろす。
 これで勇者としての役目はおしまい、ようやく帰ることができる。だが、シュラインにはひとつだけ引っかかっていることがあった。
 クマのことだ。
「このクマのことなんだけど……」
「守護聖獣がどうかしましたか?」
「それが……」
 シュラインはクマのことを話して聞かせた。どうやら薬を飲んで動物に変身しまっているらしい、と。
「そうでしたか……。と、いうことは勇者さまは事情のすべてをご存知なのですね。実は、勇者さまは魔道士を倒すための旅に出たのです。そう、その勇者こそが、この世界でのあなたです。伝説では勇者が現れると守護聖獣も姿を現すことになっているのですが、何故か守護聖獣は現れませんでした。だからといって現れるのを待っているわけにもいかず、旅の途中で出会うかもしれないからと守護聖獣の環を手に勇者さまは旅立たれました。そして、魔道士は現れなくなったものの、勇者さまは帰らず……かわりに、このクマが現れ、私たちは最後の手段、異世界の勇者さまをお呼びすることにしたのです」
 そして、伝説にあるとおり、守護聖獣に導かれたあなたは世界を救いましたと男は続ける。
「もとに戻る手段はあるのかしら?」
「それは、今の時点ではなんとも……しかし、我々がなんとしても探し出しましょう。それが我々が勇者さまにできるせめてものことです。では、名残は惜しいですが、勇者さまを本来在るべき世界へとお送りしましょう。勇者さまの手を必要としている人々がいるでしょうし」
 男の言葉に反応し、背後に控えいた者たちが頷き、小さく言葉を呟きはじめる。その言葉が進むに連れ、シュラインの周囲に淡く小さな光がぽわりぽわりと浮かびだす。
「元気でな。なに、こいつは俺がもとに戻してみせるよ」
 クマを抱きながらタケヒコは言う。
「くまー」
「……最後まで何を言っているのかわからなかったけど、でも……なんとなくわかるわ。こういう場面で私が言いそうなことを言ったのよね。あなたも元気でね」
 そして、周囲の光景が一転し、気づけば草間興信所にいる。何事もなかったかのように静かで穏やかな流れを感じる。
「……」
 シュラインは何度か瞬きをしたあと、窓辺を見やった。そこには草間がいて茜色の空を見あげている。
 今のは……夢?
 本当に何事もなかったかのようだから、そのとおり、何もなかったかのように、それこそ夢だったようにも思えてくる。
 ふと、ポケットに違和感を感じた。何かと思って取り出してみると水晶のかけらだった。シュラインはそれを見つめ、小さく息をつく。そして、珈琲をいれ、草間のもとへと運ぶ。
「どうぞ、武彦さん」
「ああ、ありがとう。……どうかしたのか?」
「……ううん、なんでもないわ」
 やんわりと微笑み、シュラインは軽く横に首を振った。
 
 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】


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■         ライター通信          ■
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依頼を受けてくださってありがとうございます。
そして、お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、エマさま。
納品が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。なんだかいつもこんな挨拶であることが心苦しいです。
短い旅ですが楽しんでいただけたら是幸いです。

願わくば、この事件が思い出の1ページとなりますように。