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〜血の潤い〜
□オープニング
『ヴァンパイア』 投稿者 美久野
東京の下町に、ヴァンパイアが出たって知ってる！？
なんでも、すっごい美女とすっごい美男子らしくって夜中にバーに誘ってお酒飲ませて酔わせた後に血を吸うんだって！
だから被害者の首には二つの歯の跡があるらしいよ！
で、女の人も男の人も被害が出てるんだけど・・・その被害者たちがまた綺麗な人ばっかりなの！
でもまだ誰も死んでいはいないらしいよ〜。意識不明の重態の人は何人かいるけど、他の人は別にドーデもないみたい。ちょっと貧血気味？みたいな。
あたしのリサーチによると、夜中の11時から3時までの間が多いらしいよ！
被害者はこれと言って接点はないんだけど、みんな綺麗な人ばっかり！下は10代からいるって聞いた！
なんか、段々被害者の数が多くなってきてるんだって〜。
誰かこれ見てる人で被害にあった人とかいない〜？
レス１ 『友達が・・』
私の友達が被害にあったよ。女の子だったんだけど、すっごく綺麗な人に誘われてバーに入って、そっから先のことは覚えてないんだって。
なんか、そのバーの名前も思い出せないみたい。
レス２ 『バーの名前』
そうそう、被害者の人達ってみんなバーの名前思い出せないんだよな〜。なんか、すっごい派手なバーだったってだけで場所も思い出せないらしいぜ？
レス３ 『速報！』
被害者で、昨日の夜に被害にあったと思われる女の子が今朝搬送先の病院で亡くなったんだって！
新聞で見たんだけど、すっごい可愛い女の子だった〜。高校生だったみたいだよ。
なんかさ、一昨日に被害にあった男の子も意識不明の重態で危ないって言ってたし・・・なんか怖いよね〜。
暗い部屋の中、蒼王 翼はテーブルの上に置かれた新聞を食い入るように見つめていた。
“巷のヴァンパイア、ついに犠牲者が”
大きく見出しのついたその下には、白黒の写真が載っている。
写真の下には、刑部 志保（おさかべ しほ）と名前が記載されている。
17歳・・可愛らしく、まだあどけない笑顔。
新聞記事に目をを通す・・犠牲者はまだいる。
危篤の男の子の名前まで載っていた・・・。
「可哀想に・・。」
ポツリと、言葉が零れた。
ゆっくりと新聞を撫ぜる視線が・・少女の写真の瞳とぶつかった。
無垢な笑顔。本当に嬉しそうな・・。
「ごめん・・ね・・。」
翼はは絞り出すような声でそう言うと、そっと少女の写真を撫ぜた。
そして、意を決したように新聞から目を上げるとキッと虚空を睨んだ。
■情報収集は感情を含む
次の日、翼は事件現場に足を運んでいた。
そこそこ人通りの多い普通の町並み。
ここにヴァンパイアが出現するとは・・。
翼は1本だけ道を外れると、小さな公園まで歩いた。
子供の姿のない、いたって静かな公園だ。
翼の周りに風が絡まる。そっと、風に髪の毛をなびかせる・・。
「おや・・あなたも雫さんの依頼できた方ですか？」
ふと、翼の耳に声が響いた。声のした方・・公園の入り口付近に目を留める。
黒い髪に、銀色の瞳・・身長は高い。
それなりに整った顔立ちをしている・・。
「いや・・違うけど・・雫さん・・？？」
「あぁ、違いましたか。それはすみません。最近この辺りで多発しているヴァンパイアについて調べているのですが・・。」
人のよさそうな笑顔を浮かべながら言った言葉に、ピクリと反応する。
ヴァンパイア・・この人も追っているのか・・？
「キミは一体・・。」
「申し遅れました。私は水上 巧と申します。」
丁寧に頭を下げる。
「あ、僕は蒼王 翼・・。それで、巧さんはどうしてヴァンパイアを・・？」
「依頼ですよ。雫さんと言う人からの・・これです。」
巧はポケットから携帯を取り出すと、翼に手渡した。
『件名：ヴァンパイア
本文：巷で噂のヴァンパイア、最近亡くなった人が出たんだって。掲示板もその話で持ちきり。・・・ねぇ、ヴァンパイアをどうにかしてくれないかな？』
「掲示板・・？」
「えぇ、ゴーストネットOFFと言う・・それで、翼さんはここで何を？」
「僕は・・。」
翼が少しだけ言いよどんだ。
巧もヴァンパイアを追っている・・ここは手を結んだ方が良いのか・・？
じっと見つめる。
悪い人ではないのは明白だった。瞳が優しい・・。
一人でヴァンパイアを消す事は・・孤独の連続だった。
それが翼の義務だとしても、孤独までは払拭できなかった。
「僕も、諸事情でそのヴァンパイアを追っているんだ。」
「そうなのですか・・それなら、ご一緒願えませんか？」
巧が邪気のない微笑を浮かべる。
「うん。・・それで、巧さんは一人なの・・？」
「いいえ、先ほどまで翆 南雲さんと言う方が一緒だったのですが・・南雲さんには病院関係をあたって貰う事になりまして・・。」
「そうか。それじゃぁ僕達は場所の特定を急ごうか。」
「えぇ。でも一体どうやって・・？」
「僕が聞いてみるよ。」
翼はそう言うと、そっと目を閉じた。
風が翼の周りをヴェールのように包み込む・・。
『若き風の王・・本日は如何いたしまして・・？』
か細い声が翼の脳に直接語りかけてくる。
・・風の声だ。
「教えて欲しい事があるんだ。」
『どうぞ何なりと。』
「ここら辺で最近出没すると言うヴァンパイアの事なんだけど・・。」
『あのヴァンパイアですか。・・えぇ、存じておりますわ。ついこの間もそこの路地で女の子を襲ったばかりですわ。』
「そこの路地で・・？」
翼は目を開けると、巧を振り返った。
巧が不思議そうな視線を投げかけてくる。・・そうだ、風の声は聞こえていないのだ・・。
「あっと・・風と会話が出来るから、今事件の事を聞いてるんだけど・・。」
「あぁ、そうですか。えぇ、私の事は後で良いですからどうぞ風さんから情報をお聞きしてください。」
「うん・・ありがとう。」
再び視界を闇に閉ざす。
こうした方が良く聞こえるのだ。
「それで、その時の様子とか・・思い出せる・・？」
『あれはお可哀想でしたわ・・まだほんの少女でしたのに・・。路地の角に建つ店の前で、少女が一人ヴァンパイアに連れさらわれましたの。それから先は、わたくしではないわたくしが存じておりますわ。』
「そう・・話せるかな？」
『えぇ。直ぐにでも・・・。』
風の雰囲気が変化する。
・・風と一概に言っても、場所によって吹く風が違う場合がある。
例えば、ここで吹いている風と数十キロ行った先に吹く風が決して同じだと言うわけではない。
だから・・風によっては分らない事もある。その場合は分る風に聞くのだ。
“風”ではない“風”に・・。
『ハァイ、若き風の王。なにか聞きたい事があるんですって？』
「そう。ヴァンパイアの事なんだけれど・・知っている事があるなら教えてくれないか？」
『ヴァンパイアはこの世界から少しだけ空間の違う場所に住んでいるんです。Bar Heavenそこがヴァンパイア達の住処ですわ。』
「Bae Heaven・・？そこにはどうやったら行けるの？」
『そこへの扉は決められたヴァンパイアしか開けないのです。ですから・・ヴァンパイアを待つしかないですわね。』
「・・そうか・・。」
再び風が変わる・・。一番最初の風だ・・。
『若き風の王、本日ヴァンパイアが出現するかも知れませんわ・・。くれぐれも、御武運を・・。』
「今日・・か・・。ありがとう。」
翼は風達に礼を言うと、目を開けた。
「どうやら、Bar Heavenと言う所がヴァンパイア達の住処みたいなんだけど・・どうやらそこは決められたヴァンパイア達しか行けないらしいんだ。」
多分・・そこに入るには何かしらの“力”がいるのだ。
「そうですか・・それでは私達は夜になるまで待ちましょうか。」
巧がゆっくりと言うと、空を仰いだ。
段々とオレンジ色になっていく空が、夜の始まりを告げる。
「そう言えば、ヴァンパイアは綺麗な人しか狙わないようなんです。」
「綺麗な人・・？」
巧の言葉に、翼がキョトンとした顔で聞き返した。
「はい。」
「・・・そっか、それじゃぁ僕が囮になる・・。」
言いかけた言葉がピタリと止まった。
翼が口を薄く開けたまま、罰の悪そうな顔で巧を見つめた。
「でも別に、僕が綺麗だって思ってるからとかじゃなく・・えぇっと・・。」
しどろもどろになりながら弁解する翼を見て、巧は微笑むとポケットからネックレスを取り出して差し出した。
黒水晶とシルバーで出来た小さなネックレスだ。
「黒水晶は身につけた人を守ると同時に、魔物を退魔の力で攻撃します。」
ですから、お守りにと小さく巧は付け加えると翼に手渡した。
「ありがとう・・。」
翼がネックレスを首から提げる。
「黒水晶の力が発動すれば、私にも分りますから。」
巧が微笑み、つられて翼も笑う。
「それじゃぁ、夜までの間何をしてようか・・。」
「どうせですから食事をしませんか・・？ヴァンパイアにあってしまっては食事どころではないでしょうから・・。」
「そうだね！」
時刻はまだまだ夕方。
2人は小さな公園から出ると、近くにあったファミレスに足を運んだ・・・。
□渇きと永遠
時刻は夜の10時過ぎ。
翼と巧は別方面を調査していた南雲と落ち合った。
「刑部 志保の母親と会ったが、コレといった情報はなかった。ただ・・刑部志保は心臓が悪かったらしい。」
「・・そうですか・・。」
心臓が悪かったと言う少女。なんて薄幸の人生なのだろうか・・。
頭の中に、美人薄命と言う言葉が浮かんでは消えた。
「とりあえず僕が囮になるから・・。」
「適役だな。」
南雲が頷く。
「翼さんになにかあれば私がわかりますから。」
巧の一言に南雲が頷く。
3人は一度だけ緯線をあわせた後で、2手に分れた。
翼は2人とは別の方向に歩き始めた。
人影のまばらなこの場所は、昼間来た時とは表情を変えていた。
孤独な町並み。
冷たい空気が町を凛と孤立させる。
・・寒い。
翼は一つだけ息を吐いた。その息が白い。
身体を切り裂くように冷たい風を受け、目を瞑った時・・翼の脳裏に赤い瞳が輝いた。
ヴァンパイアの瞳だ。
人々を魅了する、赤の瞳・・。
しかし翼にそんなものは通じなかった。生憎普通の人間とは違う・・。
瞳を跳ね返す・・そして、視界の端に路地を曲がるヴァンパイアの姿が映った。
「・・対面ってわけだ・。」
翼はそう呟くと、ヴァンパイアの後を追った。
胸に下げたネックレスがほのかに温かい光を放つ・・。
いくつもの路地を曲がり、走る・・途中で翼は風が変わった事を感じた。
ヴァンパイアの気配が濃くなる・・。
いくつめかの路地を曲がった時、ソレは翼の前に姿を現した。
「あ・・。」
小さく驚きの声が漏れる。
突如目の前に現れたのは七色に輝くネオン・・。
“Bar Heaven”の文字。
ここが、被害者達が連れてこられたと言うバー・・？
翼はすっと神剣を実体化させた。柄をぎゅっと握る・・。
ヴァンパイアは2体・・。
ピクリと、ヴァンパイアが動く・・その時翼の耳に乾いた銃声が響いた。
背後で南雲が銃を構えている。
・・銃の名前は知らないが、それなりに威力のあるものらしい。ヴァンパイアが後方に飛ばされる。
「殺す真似さえしなければ、俺とてこんな真似はしなかったものを・・。」
南雲の小さな呟きを最後まで聞く事無く、翼は神剣を真横に引いた。
目の前にいたヴァンパイアが絶叫に近い声を上げて後方に飛ぶ。
それでも直ぐに起き上がり、再び翼に牙をむく。
・・翼は迫り来るヴァンパイアを再び真横に切った。
後方に飛ばされるヴァンパイア・・そしてまた直ぐに起き上がる。
おかしい・・確かに、ヴァンパイアの身体に傷はついているものの、致命傷と言うほどのものではない。
神剣で切っているにもかかわらず・・・なぜ・・！？
翼は考えをめぐらせた。
ヴァンパイアが宙に浮かぶ。それを右に避け、振り向きざまにわき腹を切る。
「行きます・・！」
翼の耳に巧の声が響く・・そして、巧が持っていた何かから明るい光が辺りを包んだかと思うと、この空間を覆っていた薄い膜がはじけたような感じがした。
なにかが解けたのだ・・。
翼はヴァンパイアに神剣をつき立てた。
ヴァンパイアが、先ほどとは違う叫びをあげる。
断末魔に近い声・・いや、断末魔なのかも知れない・・。
南雲が銃で応戦していたヴァンパイアも同様の声を上げている。
地に倒れるヴァンパイア・・それでもまだ生きている。
翼はすっと神剣をしまうと、祈った。
ヴァンパイアが塵になり・・・風達がどこか遠くへ運んでいく。
浄化・・。
消滅よりはきっと・・。
ザァっと音がして、あの七色に輝いていたバーも崩れ、風と共に舞い去る・・。
「ゴクロー様★」
明るい声と共に、路地から一人のヴァンパイアが姿を現した。
その顔は晴れやかだ。
翼・・もとい、ＡＭＡＲＡは知っていた。彼女が誰なのか・・。
「ティアラ・・。」
「アイツラさ、元は人だったんだよ。ヴァンパイアにされて・・血の味を覚えて・・。もう、ああなっちゃうと手遅れなんだよね。」
ティアラは翼に気付かないのか、スラスラと巧と南雲に話しかけている。
「ティアラ・・！」
「・・ＡＭＡＲＡ・・。」
ティアラの視線が翼を捉える。驚いたような表情・・それもほんの一瞬の事で、すぐにティアラは笑顔になった。
「ティアラさんも、ヴァンパイアなんですよね・・？」
「そう。だげど、アタシはハーフだし。それに・・もう血の潤いはいらないから。渇きはないから。」
言い切ったティアラの表情はどこか晴れやかだった。
冷たい風が吹きすさぶ。
ティアラの髪を揺らし、通り過ぎていく。
「アタシは気が遠くなるくらい昔に、同族の血を飲んで・・殺した。以来アタシに渇きはないの。あるのは、罪と言う名の永遠の命。」
「それは・・。」
翼は言いかけた言葉を押しとどめた。
もう、過去の話・・。
目の前でティアラは切なそうに微笑むと、小さく手を振った。
一瞬の、突風・・目を開けた。
そこはあの路地だった。
バーもヴァンパイアもいない・・人影のまばらな路地・・。
風も・・違う。
「これで・・終わったのか・・？」
「そうだと良いですね・・。」
南雲の呟きに、巧が頷く。
多分・・明日からはヴァンパイアの噂は流れない。
ヴァンパイアは塵に返したから・・。
人影のまばらな路地をじっと見つめる・・。
そこにもうヴァンパイアの気配はなかった。
■エピローグ
あれ以来、巷で噂のヴァンパイアは姿を消したようだった。
あの後すぐに日本をたった翼だったが・・そのような話は聞かない。
あれで終わったのか・・？
翼はふっと、あの日会ったヴァンパイアの事を思い出していた。
ティアラ・・。
未だに安息が訪れない彼女・・。
翼はふっと息を吐き出すと、パソコン画面に向かった。
あの日巧が言っていた掲示板を少し覗いてみる。
『フランケンシュタイン』 投稿者 美久野
東京の下町にフランケンシュタインが出たって知ってる！？
なんでも、すっごい大男らしくって、夜中に人を追い掛け回すらしいよ！
だから目撃者はみんな凄い青ざめちゃって！
で、女の人も男の人も目撃証言が出てるんだけど・・・その目撃者たちがまた大きい人達ばかりなの！
被害らしい被害はないらしいんだけど・・。みんなちょっと息が切れて夜中外を出歩くのが怖くなるくらいみたい。
あたしのリサーチによると、夜中の9時から1時までの間が多いらしいよ！
目撃者はこれと言って接点はないんだけど、みんな大きい人ばっかり！185〜192の人までいるって聞いた！
なんか、段々目撃者の数が多くなってきてるんだって〜。
誰かこれ見てる人で目撃した人とかいない〜？
「・・・今度はフランケンシュタインか・・。」
翼はそう呟くと、小さく微笑んだ。
本当に、あの町は面白い・・。
翼はパソコンの電源を落とすと、テーブルの上に置かれたままの新聞に手を伸ばした・・・。
〈END〉
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1501/水上 巧/男性/32歳/ジュエリーデザイナー
2863/蒼王 翼/女性/16歳/F1レーサー兼闇の狩人
4279/翆 南雲/男性/25歳/NIGHTMARE DOLL部隊所属隊員
*受注順になっております。
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■ ライター通信 ■
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この度は“血の潤い”にご参加いただきありがとう御座いました。
ライターの宮瀬です。
この作品自体は全部で6名様がご参加なさっていますが・・その全てがちょこちょこ違っております。
流れは皆様同じ、オープニング→情報収集は感情を含む→渇きと永遠→エピローグです。
大まかに分けて病院に行くグループと行かないグループがあり、そのため全て文章の長さが変わっております。
ご了承くださいませ。
蒼王 翼様
初めまして、この度はご参加ありがとう御座います。
プレイングに、浄化か消滅と書いてあったので・・浄化の方を選ばせていただきました。
亡くなった少女の事を気にしておられるようでしたので、オープニングを少し湿っぽくいたしました。
お気に召されれば嬉しく思います。
それでは、またどこかでお逢いした時はよろしくお願いいたします。
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