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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


衝撃のリアルオバケ屋敷



■ オープニング

「株式会社イージー・ゴーイング広報部部長藤森カナメ……事業内容はテーマパーク運営?」
「はい、広報部部長とありますが、代表取締役でもあり、人事部部長でもあります。……あの、今笑いませんでしたか?」
 眼前の女性、藤森カナメが冷たい瞳を草間に注いだ。聞くところによると彼女、死んだ父親の後を継いで会社をしょって立ちテーマパークを運営しているらしい。
「テーマパークといえば聞こえはいいですし、おそらく立派な施設をご想像する事と思いますが、私の運営するテーマパークは……似非ジェットコースターだとか似非観覧車だとかいったような、いわゆる遊園地もどき。いえ……むしろパクリだらけ……というか、ぶっちゃけ今時の子供が喜びそうな代物はほとんどありません。名ばかりのテーマパークというわけです」
「……それは大変ですね」
 コメントに窮した草間は適当に返事をしておいた。この藤森という女、卑屈というか……陰気臭いなと草間は思った。美人なのに。
「あとは聞かなくても分かりますよね。そうです、借金まみれです。両親はいませんし、兄弟もいません。こんな借金まみれで幸の薄い私と結婚するような奇特な男性も皆無です。というか、私、まだ21なんですよ? 普通にやってれば大学生かOLです。もう、何度自殺しかけたことか。むしろ今すぐ死にたいです」
「……そうですか」
 前フリ長いなあと思いながらうつむく草間。そこへ零がやって来て「どうぞ」と呟き、お茶を差し出した。それでも藤森カナメは表情が暗い。
「あの……それで、どういったご用件なのでしょうか?」
 必要以上に丁寧語を使用してしまう草間。下手に刺激すれば今にもリストカットしそうな感じだった。
「実は、うちのテーマパークにも人気アトラクションがあるんです。それがあるからこそ最低限のお客を確保できているのですが、最近、問題が発生しまして……」
「どんなアトラクションなんですか?」
 零が好奇心からか会話の中に飛び込んできた。
「フフフ……よくぞ、聞いてくれました」
 急に藤森カナメの目が輝き出した。ちょっと不気味だ。
「我がテーマパークの人気アトラクション……それは『リアルオバケ屋敷』です!」
 ――りあるおばけやしき?
 草間も零も言葉を失った。ていうかなにそれ?
「本物のオバケが出てくるオバケ屋敷です。だからリアルオバケ屋敷なんですが……あのぉ……変ですか? あはは、やっぱり変ですよね。ていうか心の中では大爆笑してますよね! こいつ、バッカじゃねーのとか思ってますよね! ……もう死のうかな」
「だああっ! 笑ってない。笑ってないから! 分かった、協力する! 何でも協力するから! この通りだ!」
 逆に頭を下げることになった草間。こういう女性は幽霊よりも恐ろしい。
「あ、そうですか? じゃあ、御願いします」
「……変わり身早いな。で、具体的にどうすればいい?」
「うちで雇っている幽霊の方々がやる気を失っているのです。あ、別に悪い幽霊ではありませんよ、これまでは仕事熱心で、ちょっと暗い人たちですけど私の相談にも乗ってくれていましたから。しかし、最近はどうも幽霊としての自信とやる気を失っているようで……そこで心霊のプロが多数控えているという噂を聞いてここへ相談に来たというわけです」
「……なるほど。つまり、その幽霊たちが自信とやる気を取り戻すようにすればいいんだな。仕方ない引き受けよう」
 間違って成仏させてしまったら大変なことになりそうだ、と草間は思った。



■ 事務所にて

 テーマパークのすぐ近くにイージー・ゴーイングの事務所はあった。草間興信所の調査員は草間を含めて七名。一方、イージー・ゴーイングが運営するテーマパーク『オープス』のアトラクション――リアルオバケ屋敷のオバケ役の従業員(というかオバケそのものだが)は十数名を超えた。
 一同は顔合わせということで事務所の一室(超狭い)に集まっていた。目の前には顔色の悪い幽霊たちが所在なげに立っている。一番、左にいるカナメがもっとも顔色が悪いように見えた草間はのっけから溜息をついていた。
「今回は成仏もそうだけど、武彦さんは彼女が一番、心配なんじゃないの?」
 シュライン・エマ(しゅらいん・えま)が苦笑しながら草間の背中をポンポンと叩いた。草間は苦笑いで応える。その右隣にいた真名神・慶悟(まながみ・けいご)が、
「見るからに生気が感じられないな」
 そうコメントするも本人は今回の依頼にノリ気のようであった。
「生気を感じないって実際、彼等は幽霊なわけだし」と、シュラインが一応、ツッコミを入れる。
「でも、必要以上にやる気を失ってるんだよね?」
 ひょっこり姿を見せた海原・みあお(うなばら・みあお)が三人の会話の隙間に飛び込んできた。みあおも慶悟同様かなり気合が入っているようである。
「きっと何か理由があるですよ〜」
 先ほどからきょろきょろと忙しなく室内を見回しているのは神宮路・馨麗(じんぐうじ・きょうり)である。子供特有のはしゃぎようだ。実際、六歳児なのだから仕方ない。
「ん? 修善寺、その幽霊たちは?」
 草間がテーマパーク側の幽霊ではない幽霊の存在に気がついた。
「僕のコレクションですよ。彼等が弱音を吐くようなら、僕の優秀な幽霊たちを使ってもらった方がマシですからね」
 修善寺・美童(しゅぜんじ・びどう)が腕組みをしたまま不敵に笑った。美童は大財閥、修善寺家の長男で幽霊をコレクションしているのだ。
「へえ、プロの幽霊ってリアリティあるんだな」
 感心したように呟いたのは――草摩・色(そうま・しき)である。実は彼、このテーマパークにたまたま遊びに来ていたところを草間に誘われて今回の調査に参加していて――というかきちんと事情を把握していない。つまり、目の前の幽霊たちを本物の幽霊だとは認識していないのだ。彼はコンタクトを装着している間は普通の中学生でしかない。
「――えーと、そんなわけで草間興信所の皆さんが……なんというか、精神的なケアというか、カウンセリングというか、とにかく皆さんの悩みを解消してくれます。……私の悩みも一緒に解消してくれませんかね(ボソッ)」
 カナメの説明(?)が終わったところで、みあおが次のような提案をした。
「研究材料にと思ってホラービデオ持ってきたの。まずはこれで幽霊の研究をしよう!」
 幽霊を知るためには作り物の幽霊を見るのが一番である。
 そんなわけで、ビデオ鑑賞会を開くこととなった――事務所にプロジェクターとスクリーンがあったのでそれを拝借させてもらった。


 ギィギィギィ(床の軋む音)――
『――うっ、血、血、血があああああ! 血が血が血が血が血が、うわあああああぁぁ!』
 主人公が血の海を横断する。しかし、その先には恐ろしい形相をしたゾンビたちが――
「いやあああああああああああああああ!」
 上映中――あまりの恐怖にカナメが椅子から転げ落ち、失神した。慌てて幽霊たちが彼女を支える。
「心臓に悪いシーンの連続だ……なんでこんな残酷なことができるんだろう。ありえないよ」
 幽霊の一人が肩を震わせながらそんなことを言った。幽霊のくせに。
「あのタイミングで出てくるなんて……私には真似できないだろうなぁ」
 見事に頭の禿げ上がった中年の幽霊がポツリと呟いた。
 どうやら消極的で気の弱い幽霊たちばかり集まっているらしい。

「つまり現実の幽霊と作り物の幽霊との間には大きなギャップがあって、お客にとって幽霊というのは作り物のイメージが強いということだな。当然、後者の方が迫力はある」
 ビデオ鑑賞の後、慶悟が全般的な問題を唱えた。
 たしかに幽霊には個体差があるし、人を恨んでいたり、人間を恐怖に陥れようと考えていたりする幽霊ばかりではない。特にここのメンツは悪意がないため、人を怖がらせるのには向いていないのかもしれない。
「じゃあ、ここからは個別に行きましょう」
 シュラインがそう言うとカナメを除く全員が頷いた(カナメは未だソファーで横になっている)。



■ 現場指導

 今日はテーマパーク、『オープス』が休みということで一行は現場にやって来た。そこでさっそく調査員たちは指導を開始した。
「この前、お客に笑われてしまったんです……」
 ちょっと痩せ型の若い幽霊がそう言明した。話によると彼、高校生の団体客にこぞってバカにされたらしい。
「顔は千差万別だし、個性を出していけばいいと思うのよ。親しみやすい顔でも、工夫次第でどうにかなるわ。たとえば――」
 シュラインが草間をお客に見立てて説明し始めた。
 無言で視線を合わせニッコリ微笑んだり、瞬きの間に反対側に回ったり――とにかく技術的な面を強調しているようである。たしかに幽霊の顔を整形するわけにもいかない。演出などで魅せるしかない、ということだろう。
「――発声にも気を配った方がいい。あとは身なりにもな。外見が崩れているのならば、出現ポイントを工夫しろ」
 慶悟も主に演出・技術的なことを強調して指導していた。
「幽霊なんだからそれを生かさないとね。消えたり、逆さで登場したり、頭部を手毬に利用するとか、趣向を変えることも大事よ。あとは音よね。発声もそうだけど、人間に不安感を煽るような音とか、そういう部分も注意してみるといいかもしれないわね」
 シュラインがそう付け加えた。
「やはり、そういうことは練習しないといけませんよね……」
 幽霊の一人がいきなり弱音を吐いた。
「やる気がないのなら、ボクのコレクションの幽霊とトレードしようか? フフフ――もちろん、キミがボクのコレクションの一員に加わる、という意味だけど」
 美童が幽霊たちを一瞥し冷酷な言葉を浴びせた――というか、冗談ではなく美童ならば本当にやりかねない。
「プロとしての意識が足りないようだな。俺もこうして来たからには任務を完遂しなければ身の名折れだ。悪意無き幽霊といえど……怠けていては我が符が走り臨まぬ成仏を促すやも知れん。気合いを入れろ。本物のお化け屋敷、日本に二つとない代物だ。自信を持て!」
 慶悟が懐から呪符を取り出し、脅しに近い台詞を吐いた。と、慶悟が言いながらよろけた。よく見ると彼、右手にビールの缶を握っていた。
「何だかお酒臭いと思ったら……」
 シュラインが呆れたように感嘆した。隣の草間は暢気にタバコを吹かしている。
「――とはいえ、やりすぎると客の心臓が止まりかねん。そこは広報部部長の腕の見せ所だ」
 ちょっと悦に入っている慶悟がおもむろにカナメの肩を叩いた。
「代表取締役兼広報部部長兼人事部部長です。お間違えのないように」
「分かった。ところで代表取締ひゃふ兼広報部部長兼人事部ぶひょう――」
 実にろれつの怪しい慶悟であった。

「やっぱりオリジナリティは大事だよ!」
 すぐ近くでは、みあおが中年親父の幽霊を指導していた。傍から見れば、子供から独創性を求められる親父の図である。奇妙な風景だ。
「オリジナリティと言われても……」
 中年幽霊は困惑気味である。
「ほら、さっきビデオで見たよね? 定番やお約束を押さえておくのは当たり前。で、幽霊なんだから独特の存在感を生かせば、きっと雰囲気が出ると思うの」
「な、なるほど――」
 中年親父は納得していた。わりと素直である。
「ところで、おじさんはどうしてこのオバケ屋敷で働いているの?」
 みあおがそう聞いたのは、幽霊たちの存在意義を確認するためであった。幽霊になってまで働いているのだからそれ相応の理由があるのだろうが、そういった理由が薄れると成仏しかねない。
「理由ですか……」
 次の瞬間、中年幽霊が信じられない事をのたまった。
「私は――カナメの父でして」

「「「「「「「えええええええええええっ!?」」」」」」」

 と、不特定多数の人間の声がタイミングよく重なった。
「――か、カナメさんのお父さんだったですかぁ〜」
 しばらく間があってから馨麗が確認するように言った。
「……まさか関係者が多い、とか?」
 美童がカナメ父に訊くと、代わりにカナメが答えた。
「はい……その通りです。このテーマパークを立ち上げたのは父なんですが、バブルが崩壊し、しばらく経営不振が続きまして……そのうち銀行からの融資もストップし、借金が膨れ上がり、ついには父を始めとする従業員たちが――」
「ちょっと待て! そ、そういう込み合った事情はいいから……」
 おどろおどろしい展開を瞬時に想像した草間は慌ててカナメを制止した。
「――そうですか? まあ……たしかに明るい話題ではありませんしね」
 ある意味、先刻のビデオよりもホラーである。
「いろいろ、大変なんだな」
 上手く事情を飲み込めていない色は適当に相槌を打っていた。未だに色は幽霊たちをただの従業員だと思っているようである。無邪気だ。
「そっかぁ、それならこのテーマパークに思い入れがあるってことだよね」
 みあおの分析は的を射ていたらしくカナメ父は神妙に頷いた。
「……娘一人に押し付けるような形になってしまいましたからね。しかし、幽霊役としての演技や技術が追いつかない自分が情けないんですよ」
 カナメ父は暗澹たる顔つきで天を仰いだ。この親にして子ありといったところだろうか。
「そういうことならきょーりに任せるです〜」
 馨麗がカナメ父のもとへ近づき鳥型の式神・『緋皇』を呼び寄せた。緋皇は主に補助系等の能力を扱うことが出来る――その中に催眠暗示があった。
「自信を持つですよ〜」
 そんなわけで馨麗は緋皇を操りカナメ父に暗示をかけた。
 すると――
「――フフフ、この藤森コウスケに不可能などないわ! リアルオバケ幽霊? いいだろう、やってやる! おい、貴様ら! 俺に続け!」
 ちょっと変になった。
「あわわわ……」
 馨麗が慌てて暗示をかけなおす。
「……父さん、素敵です」
 何故だかカナメはウットリしていた。この親子、単に躁鬱の切り替わりが極端なだけなのかもしれない。もっとも、こういうタイプが一番、手に負えないのだが。
「弱気になっちゃダメだ。気合と努力と根性だ!」
 色が子供特有の無邪気さで幽霊たちを励ます。
「リアルオバケ屋敷ってけっこう評判いいんだぜ。俺も噂を聞いて来たんだ、今日は」
「え、そうなんですか?」
 色の言葉に反応する幽霊たち。特に女性の幽霊たちが多く反応していた。
「そうそう。だから――もっと自信、持っていいんだよ」
 そう色が励ますと、中年のオバサン幽霊が、
「残した息子にそっくりだ」と言いつつ泣き出してしまった。
「お、おい、どうして泣くんだよ?」
 色はよく意味が分かっていない(幽霊だとは思っていないので)。
 とにかく色の働きかけがプラスに転じたのは事実のようである――結果オーライだ。たぶん。


 数時間後――


「だいぶ演技力がついてきたんじゃないの?」
 シュラインが幽霊たちの演技の上達ぶりを評価していた。
「そうだな、この調子だと客のリアクションにも期待できそうだ」
 ほくそえみながら慶悟がタバコをくわえる。
「ね、オバケ屋敷の入口で藤森さんの『死のうかな』っていう音声を流したらお客が怖がってくれるんじゃないかしら。相乗効果で中でも怖がってくれるかもしれないわ。そうすれば幽霊さんたちも自信がつくかも」
 と、シュラインが草間に語りかけると、
「……まあ、彼女の場合は別の意味で怖いからな」
 どうやらカナメの『死のうかなボイス』を想像してしまったらしく草間は身震いをしていた。
「やはり我々に足りなかったのは技術だったのかもしれませんね」
 草間のもとにやって来たカナメ父がしんみりとした口調で言った。
 なんでも、このリアルオバケ屋敷を発案したのはカナメの父親だったらしい。どうやら、娘を一人残して成仏することができずにこの世に留まり――というか娘に憑いたらしい。
「素人同然で始めたから、その手の知識がなかったということですね?」
 美童がカナメ父に訊いた。
「その通りです。私の単なる思いつきから始まりました。死んだことでしがらみから解放され、だから大胆な発想を実行に移すことができたのです。実際、始めは評判も上々で、固定客もついてました。ですが、お客は常に変化を求めていますから」
「じゃあ、新規採用も考えて同時にスカウトの方も進めたらいいんじゃないのかな? 幽霊だったら人件費もかからないもんね」
 みあおがそう提案すると美童が、
「ボクのコレクションから無害な幽霊を寄与してあげてもいいですよ。いや――それよりもこのリアルオバケ屋敷を拡張してテーマパークごと『リアル・ゴースト・テーマパーク』としてしまったらどうですか?」
「――え、でも、拡張するとなると資金の問題が」
 カナメがそう返すが美童は構わず続けた。
「ボクの父が融資してくれますよ。それに従業員を全て幽霊にしてしまえば、他の施設に費やしていた人件費を大幅に削減することができる。流行らなければ、それまでだけど――ま、その場合のフォローも何とかなりますよ」
 この美童の提案には様々なメリットがありそうだったが、ただ単に面白がって言っているようなフシもあった。しかし、おそらくは実現可能な範囲での発言だろう。そして、美童ならばそれが当たり前の事であるかのように実行してしまうだろう。
「本当にいいのでしょうか……なんだか、夢のような話です。いえ、これはきっと夢ですね。そうです、夢に違いありません! そうだ、このナイフで手首を斬ってみれば夢から覚めるのかも――」
「――っと、待てててぇぇぇぇ!」
 すんでのところで草間がカナメのナイフを奪った。
「ははは、カナメ。自傷癖を治さないとお父さんみたいになっちゃうぞ」
 カナメ父が笑えない冗談を口にした――が、幽霊たちはみんな笑っている。不気味だ。
「でも、そのテーマパークが実現したら、きょーりも遊んでみたいです♪」
 馨麗が万遍の笑みを浮かべ何やら想像をめぐらせているようだった。
「経営の方も手助けさせてもらいますよ」
 と、美童。なんだかそのまま乗っ取りそうだが。
「さて、そうと決まったらなおさら気合を入れないといけないな」
 慶悟がアルミ缶を片手で潰しながらその場から立ち上がった。一体、何本飲んだのやら――慶悟の周囲にはビールの缶が散乱していた。
「だったら他のアトラクションのことも考えないとね! よーし、とりあえず――」
 みあおがさっそく計画を練り始めた。
「忙しくなるわね、武彦さん」
「ああ……」
 シュラインの言葉に草間が苦笑いを浮べた。おそらく、もうこれ以上関わりたくないという気持ちが半分――結局、最後まで面倒を見ることになるだろうなぁ、という気持ちがもう半分で、正解だろう。
「うわ、しまった。コンタクトが――」
 ちょうどそのとき――コンタクトを落としてしまった色が眼前に立っている幽霊たちを目の当たりにして声にならない声を上げた。人間、真の恐怖を体験するとこうなるのか、という典型例であった。
 コンタクトを落とした→幽霊が見える→実は幽霊があまり得意ではない→というか幽霊だとは知らなかった→青ざめる――という寸法である。
 しかし現実を受け入れた色は、平静を取り戻しつつあった。それでも先ほどまでの恐怖感が災いして喉がカラカラに渇いてしまっていた。
「ん、こんなところにジュースが……う、これ」
 それは慶悟の飲みかけのビールであった。もちろん、色は気づかずに飲んでしまった。
「――これ、美味しいなあ」
 新たな才能が開花したようである。


「みなさん、本当にありがとうございました。これで安心して眠れそうです。リストカットも三日に一回ぐらいの頻度に減りそうです」
 三日に一回で減った方なんだ、とは誰も言わない。カナメは続ける。
「これからもみなさんにはご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
 というわけで、一件落着――のはずだ。
 株式会社イージー・ゴーイング、代表取締役兼広報部部長兼人事部部長、藤森カナメは今日も不屈(卑屈)の精神で邁進するのであった。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0635/修善寺・美童/男/16歳/魂収集家のデーモン使い(高校生)】
【1415/海原・みあお/女/13歳/小学生】
【4575/神宮路・馨麗/女/6歳/次期巫女長】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2675/草摩・色/男/15歳/中学生】
【0389/真名神・慶悟/男/20歳/陰陽師】

(――受注順)

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■         ライター通信          ■
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この度は『衝撃のリアルオバケ屋敷』にご参加くださいましてありがとうございます。担当ライターの周防ツカサです。
長らくお待たせいたしました、今年最初の納品となります。
なにやらごちゃごちゃな雰囲気になってしまいましたが、脱力感を感じ取っていただければ幸いです。

そういえば、カナメが「父と従業員が――」と発言したところで草間の待ったが入りましたが、最初は「社員旅行に行ったらバスが崖から転落――」とか、考えていました。で、その線で書いていたらギャグではなくブラックユーモアになってしまったわけです(泣)。
カナメに自傷癖があって、それがギャグネタに繋がっている時点で十分ブラックな気もするんですけどね……。
また、ギャグに挑戦したいなあと思いつつ、今回はこの辺で。
またの機会にお会い致しましょう。

ご意見、ご要望等などありましたら、どんどんお申し付けくださいませ。

Writer name:Tsukasa suoh
Personal room:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0141