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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


〜血の潤い〜


□オープニング


 『ヴァンパイア』 投稿者 美久野

 東京の下町に、ヴァンパイアが出たって知ってる!?
 なんでも、すっごい美女とすっごい美男子らしくって夜中にバーに誘ってお酒飲ませて酔わせた後に血を吸うんだって!
 だから被害者の首には二つの歯の跡があるらしいよ!
 で、女の人も男の人も被害が出てるんだけど・・・その被害者たちがまた綺麗な人ばっかりなの!
 でもまだ誰も死んでいはいないらしいよ〜。意識不明の重態の人は何人かいるけど、他の人は別にドーデもないみたい。ちょっと貧血気味?みたいな。
 あたしのリサーチによると、夜中の11時から3時までの間が多いらしいよ!
 被害者はこれと言って接点はないんだけど、みんな綺麗な人ばっかり!下は10代からいるって聞いた!
 なんか、段々被害者の数が多くなってきてるんだって〜。
 誰かこれ見てる人で被害にあった人とかいない〜?

 レス1 『友達が・・』

 私の友達が被害にあったよ。女の子だったんだけど、すっごく綺麗な人に誘われてバーに入って、そっから先のことは覚えてないんだって。
 なんか、そのバーの名前も思い出せないみたい。

 レス2 『バーの名前』

 そうそう、被害者の人達ってみんなバーの名前思い出せないんだよな〜。なんか、すっごい派手なバーだったってだけで場所も思い出せないらしいぜ?

 レス3 『速報!』

 被害者で、昨日の夜に被害にあったと思われる女の子が今朝搬送先の病院で亡くなったんだって!
 新聞で見たんだけど、すっごい可愛い女の子だった〜。高校生だったみたいだよ。
 なんかさ、一昨日に被害にあった男の子も意識不明の重態で危ないって言ってたし・・・なんか怖いよね〜。


 雫はその事件の事を知っていた。今、巷で噂のヴァンパイヤ。
 そっか・・・被害者が出ちゃったんだ・・。
 雫はそっと心の中でため息をつくと、ポケットから携帯電話を取り出した。
 思いつく限りの人物に、メールを送る・・・。

 『件名:ヴァンパイア
  本文:巷で噂のヴァンパイア、最近亡くなった人が出たんだって。掲示板もその話で持ちきり。・・・ねぇ、ヴァンパイアをどうにかしてくれないかな?』


 水上 操は雫から届いたメールを読んだ後で、そっと携帯を閉まった。
 ヴァンパイア・・先日操が所属する退魔組織からの指令が入っていた・・それと、同じ・・。
 操は机の上に放り出したままの書類を取ると、椅子に座った。
 確かに・・犠牲者が出ている。
 名前は刑部 志保(おさかべ しほ)。17歳の高校2年生だ。
 確かに可愛らしい顔をしている。まだ幼さを含んだあどけない表情・・もう2度と見る事の出来ない笑顔・・。
 「・・可哀想に・・。」
 「こんなに可愛らしいのになぁ・・?」
 ブレスレッドから、操の頭に声が響く。
 操愛用の長刀“前鬼”と短刀“後鬼”だ。
 普段はブレスレッドに擬態させて両手首につけている・・。
 「そうね・・。」
 操は頷くと、そっと書類から手を放した。
 パサリと床に滑り落ちる書類・・その中で微笑んでいる彼女の瞳と合う・・。
 「ほな、操はどおするんや?」
 「どうするって、何を?」
 「依頼や。一人で解決するんか?」
 「・・どうしようか・・。」
 操は宙を仰いだ。
 長い髪の毛が背中を滑る、サラサラと細かい音。
 「悠姫さんに、頼んでみようかな・・。」
 ポツリと呟いた一言に、前鬼と後鬼が押し黙る。
 「・・なによ・・。」
 「オレはまた一人で行って無茶するんかと思ったわ。」
 「操も少しは大人になったっちゅーことやな。」
 ケラケラと笑う前鬼と後鬼の声に、操は唇を尖らせた。
 「・・うるさいっ・・。」
 それでもケラケラと聞こえる笑い声に、操は思わず耳を塞いだ。
 ・・・そんな事をしても聞こえてくるのに・・。


 翌日、それほど早くない時間に操は悠姫の元を訪れた。
 風間探偵事務所の扉をゆっくりと開ける・・。
 中からは獣の鳴き声。それも、喧嘩でもしているかのような鳴き声。
 「お邪魔し・・。」
 「あ〜っ!!!!」
 中からは絶叫と共に、茶色い毛玉が操の胸に飛び込んできた。
 思わずそれを抱きとめる。
 「あぁっ!ちょっとそのまま抱いてて!!」
 操は指示に従い手の中の毛玉をぎゅっと抱いた。
 ・・猫だ。それも子犬くらいある・・。
 猫は大した抵抗をする様子もなく、操の胸に大人しく抱かれている。
 「・・って、操じゃない。あ〜、なんだ良かった・・。」
 中から現れたのはちょっとそこらにいないくらいの美人な女性だ。
 長い銀色の髪、赤く揺れる瞳・・。
 「悠姫さん。」
 そう、彼女の名前は風間 悠姫。
 ここ、風間探偵事務所の所長だ。
 悠姫は操の手の中にいる猫を手早くつかむと、赤いゲージの中に入れた。
 猫が抗議の声を上げ、ガジガジとゲージを噛みまくる。
 「あ〜良かった。あの猫、なかなか大人しくならなくって・・おかげで事務所がめちゃめちゃ。」
 悠姫の指す先、確かに事務所の中は強盗にでもあったかのような様子になっている。
 机の上のものは床に落ち、棚の中のものは雪崩のようになりながら何とか床に落ちないギリギリのバランスを取っている。
 植木鉢はひっくり返り、グラスは割れているものもある。
 「・・もしかして・・もしかしなくても、忙しい・・?」
 「いや、今ので一応来てた依頼は終わったけど・・なにかあるの?」
 悠姫の目が色を変える。
 操はそれを確認すると、持っていたバッグから一枚の紙を差し出した。
 昨日の夜に作った操手製の資料だ。
 「ヴァンパイアね・・。いいわ、あそこに・・・。」
 悠姫の動きが止まる。
 “あそこに座って話しましょう”と続くはずの言葉は飲み込まれた。
 なにせこの現状だ。
 “あそこに”と言われた所で、一体“どこに”座ったら良いのか分からない。
 「・・外に行って話しましょうか・・。」
 悠姫が苦笑いをしながら操にきく。
 「・・そうね・・。」
 操もそれに頷くと、2人はそっと風間探偵事務所から姿を消した。
 そう・・次にここに入る時は綺麗になっている事を祈って・・。


■情報収集は感情を含む

 操と悠姫は近くのファミレスで腰を落ち着かせた。
 少々声の高いウェイトレスが持ってきた紅茶を飲む。
 「ヴァンパイアね・・。私も新聞読んでたから知ってたけど、犠牲者が出てるのまでは知らなかったわ・・。」
 「今朝の新聞と・・昨日の夕刊にも小さく載ってたわよ?」
 「・・あの猫のせいで忙しかったのよ。色々と・・。」
 悠姫の顔が苦々しく歪む。
 それほどあの猫は厄介な依頼だったのだろう・・。
 「そうね・・まずは被害者の所に行って聞き込み・・情報収集をしましょうか。」
 「刑部志保さんの所に・・?」
 「そうね、それが良いでしょうね。確か新聞に搬送された病院の名前が載ってたわよね。」
 「えぇ。」
 「それじゃ、まずは病院から行きましょう。」
 悠姫はそう言うと、紅茶をくっと飲み干した。
 操も慌てて紅茶を飲み干す・・。


 操と悠姫は、少女が搬送されたと言う病院まで来ていた。
 不思議と報道陣などは来ていない。・・きっと、病院側から追い払われたのだろう。
 2人はツカツカと病院内を歩くと、ナースステーションの前で足を止めた。
 「すみません、昨夜亡くなった刑部志保さんについて調べているのですが・・。」
 「・・貴方達、なんですか?」
 「私、こう言う者です。」
 悠姫が、すっと名刺を取り出した。
 そこには“OO保険会社調査員”と書かれている。
 ・・いつの間にそんなものを用意したのだろうか・・?
 「あぁ、保険会社の人ね。さ、こちらへどうぞ。」
 看護婦はそう言うと、すっと奥の部屋に案内した。
 胸元で光っているネームプレートには“郷田”と書かれていた。
 奥の部屋には革張りのソファーが置いてあり、壁には数点の絵がかけられている。
 30代半ばかそのくらいの看護婦は、2人の前に湯気の立ったティーカップを置くと目の前のソファーにドサリと腰を下ろした。
 ソファーが軋み、軽い抗議の声を上げる・・・。
 「それで、志保ちゃんの何を聞きたいんです?」
 「失礼ですが・・刑部さんとの面識がおありなのですか?」
 「志保ちゃんは、小さい頃からうちの病院に入院してたのよ。」
 「刑部さんは、なにか持病を持っていたのですか?」
 「志保ちゃんはねぇ、心臓が悪かったのよ。産まれた時から20までは持たないって言われてたのよね。頻繁に発作を繰り返して何度もうちの病院に急患で搬送されてきたわ。」
 郷田の視線がどこか遠くを見つめる。
 それほど昔ではない過去を思い出しているのだ・・。
 「凄く可愛い子でね、いつもニコニコ笑ってて。看護婦達からも先生達からも好かれていたわ。明るくって・・。それがこんな事になるなんて・・。」
 自嘲気味な笑い声を漏らす。
 2人はそっと目をあわすと小さく頷いた。
 「志保ちゃんね、やっと心臓移植の受け入れ先が決まったのよ。アメリカで・・移植手術をしてくれる所が見つかって、型が合う心臓が見つかって・・。」
 手術をすれば、命のリミットを延ばせるかもしれなかった。
 拒否反応さえ出なければ・・20と言われた寿命がその倍以上になるかも知れなかった。
 けれど現実は残酷だった。
 20までと言わず・・たった17の若さでこの世から連れて行かれた・・。
 他人の手によって・・。
 「そうだ・・今日、志保ちゃんのご両親がここに来るの。良かったら会って行きません?」
 郷田の誘いに、2人はは少しだけ躊躇した後にその首を縦に振った。
 「えぇ、ぜひ・・。」

 2人が連れてこられたのは小さな小部屋だった。
 中では一人の女性が俯き加減に座っている・・。
 「刑部志保さんの・・親族の方ですか?」
 悠姫は優しい声で、なるべく問いかけるように聞いた。
 「志保の・・母です。」
 俯きながら名乗った女性は、新聞で見た少女の顔と似ていた。
 目がはれている・・。
 悠姫は先ほどの看護婦が出て行ったのを確認した後で、そっと胸元から名刺を取り出した。
 「私、こう言う者です。」
 そこには“風間探偵事務所 所長”の文字・・。
 先ほどの看護婦が案内しただけで何も言わなかったのが幸いした。
 もし志保が保険に入っていなかったとしたら・・。
 「探偵の方ですか・・。志保の母の、静香と申します。それで、どうして探偵の方が・・?」
 「警察に頼まれたのです。こう言う特殊な捜査は我々の方が得意ですから。」
 悠姫がニコッと穏やかな笑みを浮かべる。
 操もソレに続いて少しだけ微笑む。
 「そうなんですか・・。どうか志保を襲った犯人を捕まえてください。あの子、やっと心臓が・・。」
 静香の瞳から、ポロリと涙が零れ落ちた。
 やっと長年娘の体を蝕み続けていた病魔から・・娘を解放できると思った矢先の残酷なヴァンパイア。
 どれほどまでに彼女はヴァンパイアを憎むのだろう。
 搾り出すような、小さな嗚咽が漏れ聞こえる。
 操が何かを言いかけようとした時、開いたままだったドアから一人の少女が走ってくると、2人の前に立ちふさがった。
 「ママをいじめないで!メっ!!」
 通せんぼをするように、両手を広げて母親を守るように立つ。
 6歳か7歳か・・そのくらいだろう。
 頭の高い位置で髪を2つに縛っている。
 「汐(しお)ちゃん・・違うのよ、お姉さん達はね・・お姉ちゃんを連れて行っちゃった悪い人を捕まえてくれる人よ。」
 静香の言葉に、汐の顔が輝いた。
 今までの攻撃的な表情とは違い、晴れやかな・・キラキラと輝く瞳で2人を見上げる。
 「お姉ちゃん達、お姉ちゃんのカタキを取ってくれるの?」
 その言葉に、2人は困惑したような笑顔を浮かべてしゃがんだ。
 汐と視線を合わせる。
 「お姉ちゃんね、遠い所に連れて行かれちゃったんだって言うの。それでね、正義の見方がお姉ちゃんを助け出してくれるんだって!だから・・お姉ちゃん達は正義の味方なの?」
 この子は・・お姉ちゃんの死を理解していないのだ・・。
 お姉ちゃんは悪い人にどこかに連れて行かれてしまい・・正義の味方がお姉ちゃんを助け出してくれるのを待っている・・。
 少女の“夢”を壊さないためにも頷こうかと思った。
 正義の味方と言ってしまえば、少女は2人を賛美し、慕い、きっと帰ってくるであろうお姉ちゃんを待って過ごすのだろう。
 “死”を理解するその時まで・・。
 けれど、ソレを理解した時・・少女には一体何が残るのだ・・?
 「私達は・・正義の味方じゃないわ。でも、お姉ちゃんを連れて行った人は必ず見つけるから・・。」
 その言葉以外に、かけられるモノが見つからずに・・操は言った。
 汐は少しだけ首をひねって考え込んでいたが、直ぐに明るい笑顔を取り戻すと言った。
 「それでも、お姉ちゃん達は良い人なんでしょう!?だからね、汐・・コレあげる!」
 肩から斜めに提げた赤いポシェットを開くと、中から小さな飴玉を取り出した。
 小さな手に2つだけ掴むと、2人の手に握らせた。
 淡いブルーをした丸い飴玉・・ソーダ味のものだろうか・・?
 「いつもね、汐が良い子にしてるとお姉ちゃんがソレくれるの!これはね、お姉ちゃんが帰ってこなくても汐、泣かなかったからって、ママがくれたの。」
 「そう・・。」
 手に握った飴玉を見つめた。
 蛍光灯の光を反射して、キラキラと七色に光る・・。
 「だからね、お姉ちゃん達は良い人だから、汐があげるの!絶対、お姉ちゃんを連れて帰ってきてね!」
 汐が邪気のない表情で笑う。
 純粋すぎる子供は綺麗で、可愛らしく・・そして残酷だ。
 悠姫は汐の頭を撫ぜると、立ち上がった。
 「汐、パパの所に行ってなさい。ママ、少しお姉さん達と話があるから。」
 「は〜い!お姉ちゃん達、頑張ってね!」
 大きく手を振りながら、汐は病院の奥に駆け出して行った・・。
 その後姿を見送った後、静香がゆっくりと2人と向かい合った。
 「志保は、亡くなった時薄いブルーのワンピースにコートと言ういでたちでした。心臓の発作が段々と和らいできていた時で・・。」
 静香がひとりでに話し出す。
 それは、幾度となく警察の取り調べて聞かれた事なのだろう。
 まるで暗唱するかのように声は抑揚に欠き、視線は宙を行ったり来たりしている。
 「志保は昔から友達の家でお泊り会をしたいと言っていたんです。友達と一日中一緒にいて、わいわい騒ぐ・・けれど志保の身体では無理で・・。最近は調子も良かったし、移植手術をする前にここで思い出を作らせてあげたいと思い・・。」
 友達とのパジャマパーティーを承諾した。
 渡米してしまえば、いつ帰ってこられるか分らない。
 新しい心臓が拒否反応を起こさないとも限らない・・だから・・。
 「夜中、友達と一緒にお菓子を買いに外に出たんです。11時少し過ぎ・・コンビニで買い物をして、志保が外で待ってると言った後・・外に出てみると誰もいなく・・。」
 翌朝、志保は極度の貧血状態で見つかり・・手術途中に発作を起こして帰らぬ人となった。
 ・・いくらでも止める要素はあった。
 静香は友達の家に行く志保を止められた。
 夜中にお菓子を買いに行くのを止めれば、事件は起きなかった。
 先に志保一人で外に出ていなければ・・。
 全てが、遅い事。
 こうなってしまわなければ気がつかない、過去の些細な出来事の一端に過ぎないのだ。
 少しだけ唇を噛むと、真っ直ぐに静香を見た。
 「ありがとうございました。」
 そう言って、深々と頭を下げた。
 踵を返して去って行こうとする2人の背中に、静香が声をかけた。
 「探偵さん、これを・・。」
 持っていた小さい黒のバッグから手帳を取り出すと何かを書き付けて破った。
 それを悠姫に手渡す。
 そこには電話番号と住所が書かれていた。
 “新北 有紀(あらきた ゆき)”
 「あの日、志保と一緒にいた子のうちの一人です。その子の家で・・パジャマパーティーを・・。」
 「そうですか・・ご協力感謝します。」
 それを受け取ると、病院から出た。
 「次はこの子の所・・かな・・?」
 「そうね、そこで場所を聞いてみましょう。」
 2人は静香から受け取ったメモを頼りに、新北 有紀のもとを訪れた。


 「・・それで、あたしに話って何ですか・・?」
 茶髪で、右の耳にだけ小さなピアスをしている。今時の女子高生らしい女の子。
 その瞳は警戒心を含んでいた。
 「私達、こう言う者ですけれども・・。」
 悠姫がニッコリと微笑みながら有紀に名刺を差し出す。
 「探偵さん・・??それが志保の事件とどう関係があるんですか?」
 「少しね、その時の場所とか様子とかを教えて欲しいな・・と思って。」
 「・・別に、良いですけど。」
 有紀はそう言うと、立ち上がり机の上から大きな地図を持って来た。
 東京都の地図だ・・。
 「あたしの家がココです。コンビにはココです・・それで・・ココが志保が見つかった場所。」
 次々と指す場所は、それほど遠くない。
 本当にこの近辺で起こった事なのだ・・。
 「あの、他の事件が何処で起こったとかって、分ります?」
 「・・全部は覚えてないけど・・確か、ココとココと・・。」
 点々と指差す場所は、小さな円内で起こっている。
 その円の真ん中にあるものは・・小さな空き地だ。
 「ココの空き地って、何かあるんですか?」
 「何もないですよ。あたしが産まれる前から空き地でしたし。」
 「そうですか・・。」
 でも、もっと昔に何かあった場所なのかもしれない・・。
 「ありがとう。それで、事件の時の事なんだけど・・。」
 「警察にも言いましたけど、あたし達は見てないんです。コンビニの外に出たら志保の姿もなくって・・。」
 2人は視線を合わせた。
 この子は、なにか知っている・・。
 「そう、ゴメンナサイね、事件の事を穿り返しているようで・・。」
 悠姫はニッコリと微笑むと、有紀の瞳をじっと見つめた。
 次第に有紀の瞳がボンヤリと色を滲ます・・。
 催眠術の一種だ。悠姫は操と視線を合わせると、小さく頷いた。
 彼女は“志保の姿も”と言った。
 『も』と言う事は、他にも誰かの姿があったと言う事になる・・。
 「有紀さん、話してもらえるかな?」
 悠姫の柔らかに響く声に、有紀は頷くとゆっくりとした口調で話し始めた。
 「あの日、外で待ってた志保の隣に、男の人がいたんです・・。硝子越しに見るその人はカッコ良くって、志保の友達かと思って声をかけようと外に出たら・・いなかったんです。」
 それがヴァンパイアなのだろうか・・??
 悠姫がパチリと指を鳴らす。
 有紀の瞳に色が宿り、さも不思議そうに2人を見つめた。
 「あれ・・あたし・・。」
 「どうも、ご協力ありがとう御座いました。」
 操と悠姫は丁寧にお辞儀をすると、その場を後にして有紀と志保が向かったと言うコンビニに足を運んだ。

 
 コンビニが近づいて来た時、操がピタリと止まった。
 眉根を寄せてじっくりとその場を観察する。
 「ここ・・ね・・。」
 「何か感じるの?」
 「えぇ。」
 操はそれっきり口を閉ざした。
 夕方近くになった町並みが、オレンジに染まる。
 町の雑踏も、夜になれば和らいでくるのだろうか・・?
 「今日、ココに・・。」
 操がポツリと漏らす。
 それが思わず零れた言葉なのか、わざと小さく言った言葉なのかは分らなかった。
 「分ったわ・・。」
 操は頷くと、すっと視線を上げた・・・。


□渇きと永遠
  
 夜の10時過ぎ・・。
 2人はコンビに近くの路地に立っていた。
 辺りは漆黒の闇に落ち、人影もまばらだ。
 風が鋭い刃のように身体を通り抜ける。
 「それじゃぁ、私が囮になるから。」
 悠姫はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
 「気をつけて・・。」
 操はそう言うと、ポケットの中に入れた護符に少し触れた。
 悠姫が路地の向こうに歩いて行く。
 ヴァンパイアが何かをすれば、操にも分る。
 悠姫さんは美人だから、きっとヴァンパイアが来る・・。
 そう思って操は冷えてきた身体を震わせた・・。
 と、その瞬間肩にポンと柔らかな手の感触を感じた。
 操はそちらを瞬時に振り返った。気配がなかった・・。
 手を肩に置かれるまで、気がつかなかったのだ。
 「はぁい、カァーノジョ。」
 そう言って片手を上げて挨拶をする。
 昔からの知り合いのように・・・。
 振り向いた先にいたのは目を見張るほどの美女・・。
 「・・ヴァ・・ン・・パイア・・。」
 しまった・・。
 操が慌ててブレスレッドに手をかけようとした時、ヴァンパイアがすっとその手を取った。
 「そ。アタシには一応ヴァンパイアの血も混じってる。・・でも・・アンタが思ってるようなヴァンパイアでは残念ながらないのよね〜。」
 「どう言う事・・?」
 「アタシは血なんて飲まないって事!大体、考えてもみなさいよ!生暖かいものが口の中にバーって入ってくるのよ!?しかも鉄臭い!最低!最悪!」
 「・・・え・・・?」
 操があっけに取られたような顔で見つめる。
 いかにも嫌そうな表情で、最低!と言う彼女からは確かに人の血の匂いはしない。
 「ここで人を襲ったヴァンパイアとは別のヴァンパイア・・?」
 「そ。だぁかぁらぁ、血なんて飲まないって!最悪よ!!アンタ、血、飲んだ事ないの!?」
 ・・・飲んだ事はない。しかし逆に問いたい。
 飲んだ事があるのかと・・。
 「あ〜・・アタシは、何百年も前に諸事情でね・・。あー、そうだ、アタシの名前はティアラ。ティアラ・S・スペクター・・なんて、今では誰も呼ばないけど・・。」
 「私は、水上 操・・。」
 そう言った操にすっと感じるものがあった。
 魔力的違和感・・。操の直ぐ近くで、何か魔力を発動した者がいる・・!
 「ねぇ、操。アンタ、ヴァンパイアを追っているのよね・・?今、巷で噂のヴァンパイア。」
 「そうだけど・・。」
 「なら話は早いわ。連れて行ってあげる」
 ティアラはそう言うと、すっと操の手を取った。
 「アタシは同族を殺しちゃいけないから、少し手助けをするくらいしか出来ないけど・・。」
 「いいえ・・大丈夫。」
 「いい、よく聞いて。ヴァンパイアは2人組よ。女と男。アンタの友達を引き入れたのは男の方。・・・どっちも、手遅れよ。」
 ティアラが操の手をつかむ。
 そして、走り出す・・その途中で操は空気が変わった事を感じた。
 先ほどの路地とはまた違った空間・・ヴァンパイアの気配がする・・。
 ティアラの先導で、いくつめかの路地を曲がった時・・それは操の前に姿を現した。
 「なっ・・。」
 小さく驚きの声が漏れる。
 突如目の前に現れたのは七色に輝くネオン・・。
 “Bar Heaven”の文字。
 ここが、被害者達が連れてこられたと言うバー・・?
 そう考えをめぐらせた操の目に、ヴァンパイアと対峙する悠姫の姿が映った。
 ヴァンパイアは2人いる・・。
 乾いた音が響き渡り、ヴァンパイアに向かって銀の球が打ち据えられる。
 操は身軽に走り出すと、前鬼・後鬼を手に持った。
 「操、気をつけて行きや。」
 「分ってる。」
 「ヴァンパイアは2人や。こっちも2人で数合うてるからって、油断したらあかん・・。」
 「大丈夫、分ってる。」
 操は頷くと、前鬼と後鬼を構えた。
 スピードを落とさずに、ヴァンパイアに突っ込む。
 斜めに前鬼を引き、すかさず後鬼を突き刺す。
 「悠姫さん、大丈夫・・?」
 「全然平気よ。それよりも・・。」
 悠姫がもう1人のヴァンパイアに向かって引き金を引く。
 乾いた音と共に、ヴァンパイアが後方に吹き飛ばされる・・。
 「大変な事になったわ・・。」
 悠姫の言葉を聞き返す事無く、操にも感じた・・。
 「あかん!ここはヴァンパイアの巣やったんや・・!」
 「巣っていうのもおかしな表現だけど・・。」
 「そんな冷静に突っ込んでる場合かっ!」
 「そんな事言われたって・・。」
 操と悠姫の背中がぶつかり合う。
 バーの中からはもちろんの事、四方八方の路地からゆっくりとヴァンパイアが姿を現す・・。
 「でも、逆を言えばココを抑えておけば当分ヴァンパイアの話は出ないかもよ・・?」
 「そうは言うてもなぁ・・。」
 「悠姫さん。」
 「・・行くわよ。」
 悠姫の合図で、2人は反対方向に飛び出した。
 操が踊るようにヴァンパイアの中に飛び込み、前鬼後鬼を振る。
 右から襲い掛かるヴァンパイアを跳んで避け、地面に着地すると同時にその背中に前鬼を振り下ろす。
 「これ、何体いるんや・・?」
 「そんな数えられないほどの数じゃないでしょう?」
 「ざっと見た所・・10前後か・・?!」
 「12よ。」
 言った瞬間、右から巨大な魔力を感じた。
 すぐに呪符を取り出し防壁を展開する。
 「・・っかー、反則やないか。」
 「なにが・・?」
 迫り来るヴァンパイアを左に避け、そのわき腹に後鬼を差し込む。
 「女2人を相手に12も!一体何倍や!」
 「6倍よ。」
 「あほか!そないなこときいてるんとちゃう!」
 つと、操の視界の端に上空へ飛び立とうとするヴァンパイアの影が映った。
 操は目を閉じ、直ぐに開いた。
 暗い夜空から、ヴァンパイアの上に光り輝く稲妻が落ちる。
 「それじゃぁ、何が言いたいのよ。」
 「この状況、絶体絶命大ピンチやないか!」
 「・・そう・・?」
 「“そう?”って、あのなぁ操・・。」
 背後に気配を感じ、操は振り向きざまに前鬼と後鬼を交差させて大きく真横に切り裂いた。
 「だって・・もう終わったわ。」
 操はそう言うと、一つだけ大きく息を吐き出した。
 地面に横たわり、それでも生きているヴァンパイア達・・。
 「・・これをどうするかが問題ね・・。」
 「私に任せて。」
 操の呟きに、悠姫が微笑む。
 悠姫が目を閉じ、開いた時・・地に倒れたヴァンパイア達が長く尾を引く断末魔の声と共に塵へと変わり・・風に吹かれ去った。
 そしてあの七色に輝いていたバーも崩れ、風と共に舞い去った。
 「ゴクロー様★」
 明るい声と共に、路地からティアラが姿を現した。
 その顔は晴れやかだ。
 「あなた・・。」
 「アイツラさ、元は人だったんだよ。ヴァンパイアにされて・・血の味を覚えて・・。もう、ああなっちゃうと手遅れなんだよね。」
 「あなたも・・ヴァンパイアなんでしょう?」
 「そう。だげど、アタシはハーフだし。それに・・もう血の潤いはいらないから。渇きはないから。」
 言い切ったティアラの表情はどこか晴れやかだった。
 冷たい風が吹きすさぶ。
 ティアラの髪を揺らし、通り過ぎていく。
 「アタシは気が遠くなるくらい昔に、同族の血を飲んで・・殺した。以来アタシに渇きはないの。あるのは、罪と言う名の永遠の命。」
 「それは・・。」
 言いかけた言葉を押しとどめるかの用に、目の前でティアラは切なそうに微笑むと、小さく手を振った。
 一瞬の、突風・・目を開けた。
 そこはあの路地だった。
 バーもヴァンパイアもいない・・人影のまばらな路地・・。
 「これで・・終わったのかな・・?」
 「そうね・・。」
 悠姫の呟きに、操が頷く。
 多分・・明日からはヴァンパイアの噂は流れない。
 この辺りのヴァンパイアは全て塵に返したから・・。
 「さぁて、明日も仕事があるのよね〜。」
 「あの事務所、綺麗になってると良いですね。」
 「そーね。誰か綺麗にしてくれてれば良いけど。」
 「もし綺麗じゃなかったら・・。」
 「帰って直ぐに掃除ね。依頼人が明日は来るし。」
 悠姫が深いため息をつく。
 操は人影のまばらな路地をじっと見つめた・・。
 そこにもう違和感はなかった。 
 
 
■エピローグ

 あれ以来、巷で噂のヴァンパイアは姿を消した。
 あれで終わったのだろうか・・?
 操の脳裏にふと、汐の顔が浮かんだ。
 あの子はまだ、姉の帰宅を心待ちにしているのだろうか・・?
 考えても・・分かりはしない事・・。
 操はふっと息を吐き出すと、点滅している携帯電話を取り上げた。
 メールだ・・。
 雫さんから・・?

 件名『フランケンシュタイン』

 東京の下町にフランケンシュタインが出たんだって。
 なんでも、すっごい大男らしくって、夜中に人を追い掛け回すって噂。
 目撃者はみんな凄い青ざめてるらしいよ。
 女の人も男の人も目撃証言が出てるんだけど・・・その目撃者たちがまた大きい人達ばかりなんだって。
 被害らしい被害はないらしいんだけど・・。みんなちょっと息が切れて夜中外を出歩くのが怖くなるくらいみたい。
 あたしのリサーチによると、夜中の9時から1時までの間が多いらしいよ。
 目撃者はこれと言って接点はないんだけど、みんな大きい人ばっかりで185〜192の人までいるって話。
 段々目撃者の数が多くなってきてるんだって。
 大きな事件にならないうちに調査して欲しいんだけど・・。


 「・・・今度はフランケンシュタインか・・。」
 操はそう呟くと、小さく微笑んだ。
 「害はあまりなさそうだけど・・少し調べてみようかしら・・。」
 携帯をたたむ。
 「今度はフランケンかい!」
 「まぁたヴァンパイアみたいにウヨウヨいるんとちゃうやろなぁ・・。」
 フランケンシュタインがウヨウヨ・・。
 操は少しだけ顔をしかめた。
 あの時はヴァンパイアだったから何とか平気だったが・・フランケンシュタインがいっぱい・・考えたくもない。
 「12体のフランケン。悪夢やな。」
 「そうね・・。」
 「その場合、直ぐに逃げろや。あんま見てておもろいもんでもないし。」
 「・・そうね。」
 操はふっと笑った。
 窓越しに見える空・・すっと一つ、星が落ちた。

     〈END〉




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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  3461/水上 操/女性/18歳/神社の巫女さん兼退魔師

  3243/風間 悠姫/女性/25歳/ヴァンパイアハーフの私立探偵

 *受注順になっております。

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 ■         ライター通信          ■
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 この度は“血の潤い”にご参加いただきありがとう御座いました。
 ライターの宮瀬です。
 この作品自体は全部で6名様がご参加なさっていますが・・その全てがちょこちょこ違っております。
 流れは皆様同じ、オープニング→情報収集は感情を含む→渇きと永遠→エピローグです。
 大まかに分けて病院に行くグループと行かないグループがあり、そのため全て文章の長さが変わっております。
 ご了承くださいませ。


 水上 操様

 再びのご依頼ありがとう御座います。
 悠姫様とペア・・と言うことでしたので、プレイングも含め、このような内容にさせていただきましたが如何でしょうか?
 前回書けなかった前鬼後鬼の関西弁を書きたいと思い、話に組み込んだのですが・・・。
 何故だか関西弁ではなくなってしまったような気が・・。


 それでは、またどこかでお逢いした時はよろしくお願いいたします。